第四次世界大戦(3)
ここまでは米中機動部隊の水上艦艇に対しての戦闘ばかりを主に述べてきたが、水中戦闘艦に対する戦いについても言及しておきたい。
ムリーヤ国海上自衛隊が第三次世界大戦後、潜水艦戦力の養成に力を注ぎ、またその成果を結実させたことは既に述べた通りであるが、では相対する米中海軍の潜水艦部隊はどうだったのかというと、俄には信じ難いが、技術的にはムリーヤ国海上自衛隊に対し、二歩も三歩も劣るものだった。
具体的にどの辺りが劣っていたのかと言えば、彼らの潜水艦とは有り体に言って、
「水中を長時間、高速で移動する、空中からの被発見率が低いミサイル発射機」
であり、往時の日本国海上自衛隊の対潜哨戒能力をそっくりそのまま受け継いだムリーヤ国海上自衛隊の実力を舐め腐った、在り方そのものだったと言えるだろう。
ムリーヤ国海上自衛隊は、第二次世界大戦の敗北原因である、「内海」航路を脅かす潜水艦戦力の撲滅・滅殺を金科玉条に掲げており、従ってその至上命題からすると、この時の米中機動部隊に対する空・海一体になった飽和水雷攻撃も、対潜哨戒戦闘の「片手間」で行われたことになる。
実際、米中機動部隊に殺到した攻撃機の大半は、大小合わせて五発もの空対艦ミサイルを携えて戦闘機動を行える(この時点で何かが間違っているという気がしないでもない)支援戦闘機であり、かつてペトロパブロフスク・カムチャツキーやウラジオストクに奇襲攻撃を敢行した対潜哨戒機の類が、今回は字面の通りに概ね対潜哨戒に徹していた。
そして、対地攻撃のためムリーヤ国沿岸に忍び寄って水面近くまで浮上した米中潜水艦部隊に対し、開戦と同時に空中から襲いかかった。
古今東西、一部の浮上した潜水艦を除いて、潜水艦とは空中からの攻撃に対して反撃能力を持たず、攻撃を受ければ急速潜航して回避行動を取る他にない。
回避行動を取るということは、機関出力を高めるということであり、放射雑音を大きくするということである。
それは潜水艦にとって隠密性を大きく削ぐ行為であり、それこそが、味方にさえ「そこに居るとは予め知らされていなければ分からなかった」と言わしめる程、隠密性に性能を極振りしたムリーヤ国海上自衛隊潜水艦部隊にとっての福音だった。
果たしてそれが空中から投下された雷撃によるものなのか、それとも米中潜水艦を尾行していたムリーヤ国海上自衛隊潜水艦部隊からの雷撃によるものなのか、第四次世界大戦の戦史叢書は黙して語らない。
然し乍ら、米中海軍の主な戦略ミサイル潜水艦の内、過半数が開戦から十二時間以内に撃沈されているというのが、戦史叢書にムリーヤ国が記した公式見解である。
さて、これら一連の戦闘がムリーヤ国東西の両大洋で行われ、米中連合機動部隊が潰滅し、ムリーヤ国自衛隊が航空戦力を消耗しつつも判定勝利という結果がほぼ確定したところで、ムリーヤ国自衛隊に対し政府中央から強く停戦命令が発された。そしてムリーヤ国二代皇帝ムリーヤ・ノ・アレクサンドラ・エリコは、次のような声明を発した。
「東京時間で本日朝八時頃から、同キーウ時間午後二十二時にかけて、アメリカ合衆国、並びに中華人民共和国による極めて大規模で悪質なテロが行われ、これに対し我が国は自衛隊の総力を挙げて反撃を実施し、敵空母機動部隊、並びに潜水艦部隊多数を撃滅いたしました。
これを以て我が国に対する軍事的脅威は十分に除かれたものと判断し、これ以上の武力の行使は、文明国家にあるまじき暴力的破壊行為でしかないものとして、キーウ時間本日二十三時五十九分を以て、正当防衛の自衛を除いた戦闘行動の停止を宣言します。
そしてアメリカ合衆国、並びに中華人民共和国に対し、次の通り通告いたします。
一、我が国の皇位とは、初代皇帝ムリーヤ・ノ・チカコ一世陛下が、第三次世界大戦を終結に導いた功績を以て、我が国の人々に推戴されたものであって、貴国らが主張するような旧日本国天帝の帝位とは、何ら無関係であり、明らかな誤謬である。
二、そもそも我が国にとって九月二日とは、第三次世界大戦の終戦記念日であり、数多くの犠牲者を追悼する重要な祭日であり、また私二代皇帝ムリーヤ・ノ・アレクサンドラ・エリコが即位の儀式を執り行う重要な一日であるところ、貴国らは我が国に正式な宣戦布告なく、斯様に大規模かつ極めて悪質な暴力的テロリズムが行われたことは、極めて遺憾であり、最も強い言葉を以て批難するものである。
三、我が国の陸海空自衛隊は、貴国らの軍隊を完全に撃破し、我が国への軍事的脅威を完全に除いたことは明らかであるから、これ以上の戦闘行為は武力を通り越した暴力であると判断し、以後国際連合に於いて外交的に事態の解決を図るものである。
四、貴国らが軍の部隊を我が国周辺から引き、我が国と交渉の場を持とうとしない場合は、貴国らを悪の枢軸と見做し、我が国はこれから一切の容赦無く全面戦争を闘うので、その旨了解されたい。
米中両国への正式な通告は以上になりますが、加えて全世界の皆さんに対し、残念なお知らせをしなければなりません。
東京時間本日朝八時頃からの米中両国による悪質な暴力的破壊行為により、我が国に多数の死傷者が出ておりましたが、被害を確認しておりましたところ、私の従弟叔父にして、米中両国が主張する「正統な皇朝の皇帝」であるヤスト猊下が、亡くなられたことが、先程判明いたしました。
東京の千代田宮殿に行われた、米中両国からのミサイル攻撃によるもので、御遺体は爆発四散していたと、伺っております。
これについて、米中両国に対し、私と我が国は、最も強い言葉で批難をし、謝罪を求めます」




