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第四次世界大戦(1)

 第四次世界大戦は、西暦二〇四五年九月二日午前八時十五分(東京時間)に勃発し、西暦二〇四五年九月二日午後二十三時五十九分(キーウ時間)に事実上終結した。


 某ジャパニメーションに肖って俗に「一日戦争」とも呼ばれるそれは、ムリーヤ国にとっての建国記念日であり終戦記念日であり初代皇帝の即位記念日であり二代皇帝の即位の日である、極めて重大な意味を持つ九月二日に、アメリカ合衆国と中華人民共和国が共謀し、大西洋・太平洋の両洋から、正式な宣戦布告も無いまま――外交使節を遣わさず、テレビ演説で済ませるという行為を正式なものではない、とするなら、だが――、何なら新帝即位の儀式に正使を参列させて緊張緩和ムードが醸成されている最中に、卑劣な奇襲飽和攻撃を行い、そしてそれが無惨に失敗した。というのが主な事象になる。

 どれぐらい無惨に失敗したのかと言うと、奇襲攻撃に参加した米中の艦隊戦力が正規空母合わせて十六隻、戦略ミサイル潜水艦十八隻、その護衛は数えるのも嫌になるぐらいだったのが、キーウ時間午後二十二時頃には正規空母二隻、戦略ミサイル潜水艦四隻、その護衛の半数は撃沈された僚艦の救助活動に従事することを余儀なくされ、事実上有意な戦闘力を喪失していた、というレベルだった。

 もちろん、迎え撃った側のムリーヤ国自衛隊もただでは済まなかったのだが、大規模な渡洋侵攻を基本戦略としている米中軍と、防空識別圏(味方制空圏)内での沿海域戦闘を基本戦略としているムリーヤ国自衛隊とでは、逸失した戦力の価値が断然に違った。殊に、建造にも戦力化にも手間暇そしてカネのかかる正規空母の喪失数は、米中軍十四隻(残存艦も被弾多数)に対しムリーヤ国海上自衛隊はゼロ(被弾一)であり、どちらが勝ったのかという評価は、言を俟つまでもないだろう。


 話を東京時間で西暦二〇四五年九月二日午前八時頃に戻すと、前述したようにムリーヤ国にとって重大な意味を持つ九月二日という日を、日本列島のムリーヤ国民は粛々と、しかし祝々と迎えようとしていた。特にムリーヤ国国会の東院が置かれ、旧首都にして現副首都の地位にある東京では、第三次世界大戦犠牲者の追悼と、新帝即位に伴う奉祝の儀式が朝から執り行われることになっており、多くの人々が世界平和と新時代の到来に思いを致していた。

 しかし午前八時ちょうど、ムリーヤ国自衛隊東部方面総軍トヨハラ統合防空司令部が、日本列島の四方八方から飛来する無数の未確認飛行物体を検知した。

 ムリーヤ国自衛隊東部方面総軍トヨハラ統合防空司令部は、未確認飛行物体の検知から十秒以内にそれら全てを「(ボギー)」と認定し、即座に稼働全機の緊急発進、並びに全部隊に対し全兵装使用自由を命令し、要人の屋内退避を要請した。

 尤も、それらは凡そ隠密行動には向かない――少なくとも、主要港湾を監視していれば作戦行動中かどうかは容易に識別可能である――航空母艦という戦力単位が、揃いも揃って碇を上げて洋上に繰り出した時点で、ほぼ既定の作戦行動であり、追って五分以内にムリーヤ国自衛隊大本営統合幕僚監部からも部隊行動の追認と、東西各方面総軍の指揮下に無い部隊への全兵装使用自由の下令が行われ、ある意味での破局、または破滅が始まった。

 旧ソ連が行ったオケアン演習や、第三次世界大戦の戦訓で明らかなように、幾ら人類が叡智を結集し軍事技術の最先端を突き詰めた迎撃網を敷いても、一定以上の数を揃えた攻撃は、迎撃側の能力を飽和し麻痺させる。この時もそれが()()()発生した。

 果たして、米中首脳が緊急生中継のテレビ演説で、ムリーヤ国の皇位は「正統な皇朝からの簒奪」であり、我々は「正統な皇朝」の君側の奸を除くため必要な行動を取る旨を宣っている頃、ムリーヤ国自衛隊の苛烈な対空砲火を潜り抜けた巡航ミサイルが、ムリーヤ国関東州東京都千代田区千代田の旧帝城の宮殿を直撃し、終戦追悼と新帝即位に伴う儀式で集まっていた()()()()()()()()()()()()()()

 また、準備万端で邀撃準備を整えており緊急発進したムリーヤ国自衛隊の攻撃機が、飛来するミサイルには目も呉れず、超低空を突進して一機辺り大小五発もの極超音速対艦ミサイルを斉射し、ムリーヤ国近海に寄って攻撃機全機発進(アルファストライク)を敢行した米中空母機動部隊を滅多撃ちにした。

 ある意味で防御を捨てて(肉を斬らせて)攻撃にステ振り(骨を断つ)したことになるムリーヤ国のそれは、後に無理解な国民からの批判を浴びてヴラディミロヴナ・プルティナ政権の総辞職と、東西両院の解散総選挙からの復権に発展するのだが、純軍事的見地から言うと正解な行動だった。

 第三次世界大戦後、長射程・大威力兵器のほぼ全廃という思い切った「軍縮(あるいは粛軍)」を実施したムリーヤ国の誘導弾開発は、短射程・超高速・超精密に特化していった。

 特化し過ぎた結果、敵艦隊を射程に捉えるまでは超低空飛行で攻撃機が運び、発射後は重量僅かに三十キロ余りのタングステン製極超音速徹甲弾頭を、音速の七倍で作戦行動中の敵艦艇に多数命中させて撃沈するという、気違い染みた作戦を基本戦略に定めることになった。


 どう見ても百年前の大日本帝國海軍の再現です。本当にありがとうございました。


 話を元に戻すと、ムリーヤ国の海・空自衛隊機は、情報収集衛星からの概略位置を元に、群青の海を越えて米中空母機動部隊に超低空から肉薄した。勿論、米中空母機動部隊の方も重厚な艦隊防空網を敷いて待ち受けていたのだが、この場合、ムリーヤ国自衛隊の方が一枚上手だった。


 ムリーヤ国自衛隊の大本命は、厳重な対潜哨戒網を掻い潜り米中の空母機動部隊を射程に捉えつつ監視していた、沈黙の艦隊(サイレント・フリート)だったからである。

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