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「玲和」四年、日本国はウクライナにジョブチェンジしました!  作者: 大鏡路地
「玲和」四年、日本国はウクライナにジョブチェンジしました!
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「玲和」四年九月二日

※このお話はガバガバ設定のフィクションです(令和四年六月二日修正)。

 西暦二〇二二年八月十日以降、ロシアでは全土で情報統制と反体制デモが抑止不能に陥りつつあった。

 理由は言うまでもなく、第七次ハルキウの戦いに敗北したことが明らかになったからである。

 ズタボロに汚れて破損した車輌に、泥塗れの暗い表情をした兵士が乗って、国境の向こう側から戻って来れば、誰しも自ずと悟るものである。

 如何にロシア政府が情報の統制に長けた機関であっても、()()()()()()に遭遇しても、適切な措置を講ずれば、全体としては通信の健全性が保たれるように設計されたインフラが、インターネットである。

 どんなに情報を取り繕おうとも、ハルキウから敗残兵が帰って来たことは、水が漏れ出すようにロシア国民の間に広まった。

 元より各種アプリで当局の目を掻い潜って、外国メディアなどから正確な戦況を得ていた者は枚挙に暇が無く、そういう者らから傍証が一つ一つ挙げられていくと、反プッティン政権の機運は一挙に高まった。

 八月十五日にはベラルーシで、プッティン政権に協力的だったリュカチュンコ政権が斃れ、反政府グループが実権を掌握した。

 ロシア政府の強い統制下にあったマスメディアでさえ、ウクライナでの敗北を暗い表情(お通夜モード)で伝え、政権を風刺する姿勢を見せた。

 しかし、それらがウクライナを、世界を危機から救ったかと言えば、むしろそんなことは無かった。

 政権の首魁、ヴラディミール・プッティン大統領が自暴自棄になって、世界を道連れにする恐れが高まったからである。


 そもそもこの戦争の発端は、元を(ただ)せばクリミア半島やウクライナ東部の分離・独立の係争にあり、「皇帝(ツァーリ)」プッティン大統領率いるロシアとしては、NATOやEUの東進に対し、緩衝地帯を確保することが戦略目的だった。

 然し乍ら国際情勢を見誤ったことと、思いの外ウクライナ軍が二〇一四年のクリミア危機に比して精強だったこと、そして何より日本国が突然ウクライナにジョブチェンジし極東に侵攻するばかりか、他国の主権を平然と冒してまでウクライナに出張って来たことにより、当初の戦略目的の達成から戦争が逸脱し、いつしかウクライナ前面に展開する「西側」諸国との、戦域をウクライナとの国境に限定しての全面戦争へと発展した。

 既にその時点でプッティン氏が挑んだ戦争は破綻を(きた)しており、そして実際、敗北に終わりつつあった。

 重要なのはプッティン氏はロシアの大統領であり、西暦二〇二二年時点で配備核弾頭数にして一六〇〇を数える、世界第二位(配備状態にない核兵器の数を含めると世界第一位)の核兵器大国の大統領(国家元首)である、という点だった。

 彼が一縷の望みに懸けてーーまたは自暴自棄になってーー世界を相手に核戦争を挑む可能性は、戦争直前や戦争中の言動の滅裂ぶりを見るに、ゼロでは無かった。

 況してや、反体制デモを体制側が抑止出来ないという状態にあっては、なおのこと彼が、


「追い詰められた」


 と絶望しても不思議では無かった。


 八月十六日、日本国は()()()()()()()()()()()に対し、九月二日正午(モスクワ時間)を回答期限とする最後通牒を実施した。

 吉田総理曰く、


「本日、我が国はウクライナ(我が国)であるロシアによるウクライナでの騒乱、所謂戦争状態の最終解決に向けて、ロシア大統領府に対し最後通牒を実施いたしました。

 一、回答期限はモスクワ時間で九月二日正午とし、全権大使をシェレメーチエヴォ国際空港に向かわせるので、回答はその者に直接されたい。

 二、ロシアは二〇二二年二月二十三日時点のウクライナ国境線を最終的かつ永久的な国境線として承認せよ。

 三、ロシアと我が国は直ちに全保有核兵器の武装解除を行い、国際原子力機関(IAEA)に引き渡すべし。

 四、各々の国内法規に照らして、本戦争の妥当性について、公開にて裁判を行うべし。

 五、さもなくば貴様の首を取るまで我々は戦う。

 以上であります」


 幾らなんでも仮にも一国の元首に対し、余りにも不穏当な発言が目立つ最後通牒だった。

 と言うか、そもそもお前らウクライナになったんだからウクライナがロシアに通牒すべきでは???

 これには、本戦争で第二次新モンロー主義とでも言うべき引き篭もり具合を見せたアメリカ合衆国も仰天し、アメリカ合衆国大統領ジョン・バッテン氏が慌てて


「撃つのはいつでも撃てる。そっちへ行って話を聞こう」


 とロシアとのホットラインに電話し、大統領専用機のフライト準備を命じたという、嘘のような本当の話が存在する。

 流石にこの最後通牒は国内からも不評を買い、それが原因となって後に吉田政権は退陣する羽目になったのだが、本人は、


「やるかやらないか、どちらを取っても後悔すると思った。

 ならばやり切ってから、後悔すべきだと思った」


 などと後に述べ、一切反省していなかったという。


 閑話休題。


 斯様な最後通牒をウクライナである日本国から突き付けられたプッティン氏であったが、その直後から動静が途絶え、世界中がすわ核戦争か!? と右往左往することになった。

 アメリカとロシアの間に敷かれたホットラインも相手の(いら)えが無くなり、世界中の核保有国が臨戦態勢となり、世界終末時計は一〇秒前まで分針が進められた。

 平然としていたのは当のウクライナと日本ぐらいのもので、コメディアン出身の人気俳優からウクライナ大統領に転身したと言う経歴を持つチェレンコフスキー氏は、


「マリウポリ市民が虐殺され、キーウやハルキウ前面にロシア軍が迫るよりは絶望的じゃないじゃないか。何を大袈裟な」


 などと戯けて見せ、ウクライナ政府閣僚を感心させた。


 程なく最後通牒の内容はロシア側でも国民に知れ渡ることになり、「負ける皇帝」と見做されたプッティン氏を大統領の座から降ろさねば、ロシアが焼かれる! と大恐慌が起きた。

 世界中の為替や株価は垂直に限りなく近い勢いで落下し続けたし、ウクライナ救援で株を上げた日本の評価も垂直降下した。

 在日米軍が本気の本気で吉田政権を武力で打倒しようとして返り討ちに遭い、海上自衛隊に拿捕され広大な太平洋の何処かに消えた、二隻の元ロシア軍ミサイル原子力潜水艦を探して、米海軍が総出で海底を浚ったりもした。


 しかしそれでも、世界は回り続け、そして回答期限が来た。


 九月二日午前、日本国政府専用機が通告通り、シェレメーチエヴォ国際空港に飛来した。

 全権大使として東京から派遣されたのは、国連で「我が代表堂々と退場す(八十九年ぶり二回目)」をやった、松尾陸祐だった。


 すわ、日本は交渉する気が最初から無かったのか!?と世界中の緊張が頂天に達した。


 松尾が乗った車はモスクワ市民からの抗議の罵声を浴びながらも、警護の車によって大きく妨害されることなく、群衆が詰めかけて門前がごった返す大統領官邸(クレムリン)に入るかに、見えた。


「お待ちなさい!」


 と、日本語で叫ぶ一人の女性が、車の前に飛び出すまでは。


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