表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/80

その9  王都への招集

濡れ衣騒動によって、敵対的な騎士団長を逆に失脚させたフェリア。

彼女はようやく正式な小隊長へと昇進したのだが、それに伴ってシュレンディア王都のカイン王から招集を受けることになり…。

 花が咲き誇る春のフィズンを、フェリアは馬車で進む。




 例の騒動から、10日と数日。

 フェリア追放の為に騒動を起こした騎士団長ネイオレス・ポルックは、カイン王の命で罷免されていた。そして彼が勝手に設立した騎士団長直属部隊も解体され…その多くはネイオレスに付き従って、彼と共にフィズンを去った。

 ワレン商会については、実際にネイオレスに加担している証拠があった商人バリオン・ゲックが商会を追放され事無きとなった。商会長はバリオンが倉庫を勝手に使っていた事に気付かなかった不手際を平謝りし、今後は騎士団への協力を約束するとした。


 そして空になった“フィズン騎士団長”の椅子…ネイオレスの後任の騎士団長になったのがマシェフ・アルデリアス…カイン王の三男で、王位継承第一位という少年だった。











 陽気な春の昼下がり、フェリアは馬車に揺られていた。

 騎士団の基本職務は“鍛錬”と“警邏”と“駐屯”に分けられるという。騎士団基地で腕を磨くか、フィズンの町を馬車で警邏するか、海岸付近の駐屯所で魔族の襲来に備えるか…。

 そして今のフェリア小隊の持ち回りはそのどれでも無かった。




「今日は素敵な日ですわね、フェリア様♪」

「そうだねマリィル」

 フェリアの傍ら…馬車内にはマリィルも座っていた。そして御者はミューノが務め、御者の横で帯剣するのはココロンが、馬車の後部を見張るのはラージェが務めていた。これが騎士団の馬車の基本的な構造で、警邏を想定しての設計とフェリアは聞いていた。


 しかし、警邏など無用なほどに今のフィズンは平和だった。

 フィズンの町では…街路樹に美しい薄黄色の花が咲き乱れ、町全体を彩っていた。そしてフィズンの民衆も浮かれたように、木々の下で杯を交わしている。


(春…ようやく春か。僕はてっきり、もう春かと思っていたけど)

 フェリアは“シュレンディアはもう春だ”と思っていたのだが…先の騒動はシュレンディア暦ではまだ冬の末だったらしい。そして今日は遂に冬が終わった『春ノ1日』だという。慣れないシュレンディアの暦に、フェリアはまだ馴染めていない。

 それに、ようやく先日の騒動が一段落したばかりで…フェリアはいろいろと疲れが溜まっていたのだ。




 急遽マシェフが新しいフィズン騎士団長に就任することになり、その式典等で騎士はみなてんてこ舞いだった。その上マシェフはあらぬ疑いを掛けられたフェリアのイメージ回復の為に…彼女を連れ回しては各所に挨拶回りをしていたのだ。

 フェリアもこれを断る理由も無く、慌ただしく過ごすうちに…まともな職務を行うことなく10日以上が経ってしまったのだ。

 また、この騒動で先送りになっていた“フェリアの小隊長任命式”も数日前に行われていた。隙間時間で敢行されたその式典は簡略化されたものだったようで、フィズン基地の幹部のみで行われた小規模なものだった。

 とにかく…ようやくフェリア小隊が正式に発足したのだった。




 今日は小隊としての、初めてのまともな仕事だ。


 しかし馬車の前方に座すココロンは、さっきから不満の声を上げている。

「ねーねー隊長!なんかあたし達ぜんぜん騎士っぽいことしてないんですけどー!なんか思ってたのと違いますぅー!!」

「だめだよココ、そんな捻くれちゃ」

「だってミューもそう思うでしょー!?」

「フェリア隊長は特別だからね…」

 足をバタバタさせながら抗議するココロンをミューノがあやしている。

 ただ彼女の言葉通り、フェリア小隊はマシェフに連れられてフェリアと行動を共にしていた為…結成以来まともな仕事をしていない。せいぜい練兵場で腕を鈍らせないように少し動いたくらいだ。

 しかし、今日のフェリアはいつになく上機嫌だ。

「…まあいいさ、僕は結構楽しみだよ?僕、旅は好きなんだ」

「そうですね、フェリア様は旅がお好きでしたから♪」

「ふーん、そうなのラージェ?」

「…ラジィはもう寝ていますわ、フェリア様…」

「あらら…」


 今日フェリア達がこうやって馬車に乗っているのは…ただの警邏では無い。

 フィズンを離れ、目指すはシュレンディア王都。

 小隊長になった記念として、フェリアは小隊の面々と共に…王都のカイン王から招待を受けていたのだ。











 長閑な春の街道を、馬車がのんびりと進んでいく。


 王都への街道は、フィズンから見て内陸に伸びていた。

 フィズンの町中を離れてから暫くは、街道の周囲は農村といった風景だった。しかしそれから進むにつれて民家は疎らになり、周囲は手付かずの原野のようになっていた。だが人の往来は非常に多く、商人や運び屋などの往来が激しい。

 ちなみに“記憶喪失”のフェリアにとって、フィズンを離れるのはこれが初めて。街道沿いに流れる大河も、遥か彼方の雪を頂く山脈も…フェリアにとっては新鮮で、彼女が退屈する事は無かった。

 しかしフェリア以外の面々にとっては退屈な道中らしい。黙々と御者を務めるミューノと、フェリアの話し相手をしているマリィルはいいが、ココロンとラージェは眠ってしまっていた。

 春の陽気が、皆の眠気を誘っていた。




「フェリア様、折角なのでシュレンディアの事を少しお話ししましょうか。王都に行ってフェリア様が困るといけませんから♪」

「そうだね、お願いマリィル」

 久しぶりに、フェリアはマリィルにいろんな知識を聞く事にした。なにしろネイオレス騒動以来、ようやくゆっくりできる時間なのだから。


「シュレンディア王国は、この大陸最北に位置する国ですわ」

 そう切り出すと、マリィルは周囲の風景を指しながら説明をする。

「私達の住むフィズンは、文字通り大陸北端。そしてフィズンから見てほぼ真南に位置するのが王都ですわ。王都はシュレンディアのほぼ中央に位置している、この国最大の町になります」

「ふむふむ」

 マリィルが馬車の窓から、街道脇の大河を指差す。

「フィズンから王都に向かうにはこの大河…“ギゼロ河”を渡る必要がありますの。このあと大きな橋を渡ることになりますわ」

「へえ、楽しみだね」

「あとは…そうですわね、西の彼方に見えるあの山脈…あれは“銀嶺山脈”ですわ。シュレンディア最高峰であり、ラミ教の聖地“銀嶺山”を頂く神聖な場所ですの♪」

「ラミ教ねぇ…ちなみになんで山が聖地なのさ?」

「ラミ神は太陽の化身…太陽こそがラミの瞳ですの。シュレンディアにおいて、ラミ神に最も近付ける高所が銀嶺山だからですわ」

「なるほどねぇ…やれやれ、宗教の事はさっぱりだよ」

「…なんだかんだ、フェリア様は相変わらずですわ。ラミ教にちっとも興味が無い所なんて、記憶が無くてもお変わりありませんわ♪」

「そ、そうなんだ」

 “フェリア”との意外な共通点を見つけ、フェリアは少し複雑な面持ちになる。


 そこでフェリアは、前々からの疑問を持ちだす。

「ねえマリィル、僕達半魔族が暮らす町がどこかにあるって言ってたよね?それってどの辺にあるんだろう?」

 その問いにマリィルは頬に手を当て、少し考え、

「…シュレンディアの東海岸沿いにあるワルハランという港町の外れに、私達の育った“半魔族が隔離された区画”がありますわ。フィズンから見ると王都より遠いですわ」

「僕達の、故郷…」

「そうとも言えますわね。まあワルハラン特区にはいずれ赴く機会があるでしょうから、詳しい話はその時にでも」

「え、でも…」

「それよりもフェリア様、王都についてお話ししますわ♪」

(はぐらかされた…もしかして“故郷の話”を嫌がったのかな?)

 マリィルは“ワルハラン”の話を区切ったが、その態度は明らかに不自然だった。まるで話したくない、とでも言うような…。

(半魔族の扱いからするに、あんまりいい思い出が無いのかなぁ。“夢”の話も聞いておきたかったけど…まあ仕方が無い、次の機会だ)

 まだまだ分からないことだらけのフェリアは、深く考えない事にする。


フェリアも特段食い下がらず、これから目指す王都について聞く。

「ねえマリィル、王都には何があるの?」

「王様の住む王城はもちろん、魔法を伝授する魔法院や、ラミ教の神殿…あと私達の卒業した騎士団学校も、王都の外れにありますわ。だからフェリア様も私も王都に住んでいたことがありますの」

「ふーん、そっか」

「…フェリア様も、早く記憶が戻れば良いですのに…」

 悲し気なマリィルに、フェリアは声を掛けられなかった。






 そうしているうちに、馬車の前に大きな橋が現れた。

 マリィルの話していた、ギゼロ河に掛かる大橋だった。

 その橋の脇には、これまた大きな石碑があった。

「これがギゼロ河の大橋…ねえマリィル、あの石碑は?」


「それはですねぇ!!!」


 突然、ミューノの横で寝ていたココロンが飛び起きた。

「ひゃ!?」

 御者のミューノがビクッと驚くが、ココロンは全く気にしない。

 そして寝起きの怪しげな表情で車内のフェリアににじり寄り、不気味な笑みを浮かべている…。

「な、何?ココロン…」

 寝起きで半眼だ。

 怖い。

「あれはですねぇ…勇者と聖者の“離別の碑”ですっ!三英傑の魔族征伐の最終盤…王都奪還戦で賢者ロディエルを喪った2人が魔族の根城だったフィズンに向かうんですが、魔族の恐るべき超破壊的異能を察知した勇者アルヴァナがそれを妨害するためにその命を懸けてフィズンに突貫したのがこの場所なのですっ!!聖者マルゲオスも止めるんですが勇者は聞かず、聖者は涙ながらに勇者を見送り、勇者がその命を散らして半壊させたフィズンを聖者が遂に制圧して…」

「わかった!わかったから!!」

「…ココちゃんは、三英傑が好きなのねぇ…」

 寝起きのココロンは、いつも以上に厄介だった…。











 夕刻に到着したシュレンディア王都は、フェリアの想像よりも巨大だった。


 シュレンディア王都は、城壁に囲まれた城下町と城壁外の市民街…という景色だった。だが問題はその広さ。

 なんと城壁の直径だけでも、フィズンの町とほぼ同サイズ。そして市民街は直径で言うと城壁の倍以上はあるように見え、それは王都がフィズンの数倍の規模だという事を意味していた。


 ちなみに王城への向かい方については、カイン王から指定されていた。城壁までは最短ルート、その後城壁の西門を潜り、城壁内沿いに王城へ。そして王城も正門では無く別の入口から…などなど。

 そしてこれが最重要。

 王都に着いたら、フェリアを含む半魔族はあまり馬車の外に出ない事。これは王都において…英雄フェリアですら未だに白眼視されている事が原因だった。




「よく来たなフェリアよ!そしてフェリア小隊の諸君!」


 夕日が差す玉座の間に、フェリア達は居た。

 そこは…フェリアが以前夢で見た風景と同じだった。

 今はフェリアを先頭に、後ろに4人が並び跪いている。

「この度は陛下直々のご招待を賜り、誠に…」

「よいよい!そのような硬い挨拶はいらん!」

 フェリアの慣れない挨拶を、カイン王が豪快に笑い飛ばす。なのでフェリアも顔を上げ、カイン王の好意に応える。

「わかりました。しかし、先日は本当に助かりました。カイン王の計らいでマシェフ様がフィズンに居て下さらなかったら…僕は今どうなっていたことか…」

「何を言っておるフェリア!其方はマシェフの助けなど関係無く、既にネイオレスを論破する証拠を掴んでいたそうではないか!流石は儂が見込んだ騎士だ!!」

「こ、光栄に存じます…」

「元々ネイオレスは独断で勝手な行いが多くてな…確かにあれは儂の親族でもあるのだが、身勝手な振る舞いや商会との汚職の噂については王都まで聞こえておったわ。今回のフェリアの活躍でフィズン騎士団の膿を出すことが出来たのだ」

 カイン王はヤレヤレといった風に肩を竦めているが…態度から見てそれが本心なのは見て取れた。

「とにかくこれも其方の新たな功績だ。これで我等が目指す『紅百合部隊』へまた一歩近付いた。これからも期待しておるぞ!」

「は、はい!」

 フェリアの声は、相変わらず硬くなっていた…。


 カイン王はフェリアの様子に満足した後、背後の面々に視線を移す。

「フェリア小隊の諸君も、よくぞフェリアの為に動いてくれた!騎士フェリアを失う事はフィズン騎士団の大きな損失…其方等の働きはシュレンディアの騎士として誇るべき事だ!」

 そしてカイン王は目を細める。

 そして突然…カイン王は1人を名指しした。

「特にミューノ・パルサレジア隊員、君の正しい行動は称賛に値するぞ。ネイオレスに取り入った姿勢を見せた上で情報を掴み、フェリアを支えたその働き!儂からも感謝しよう!」

「勿体無いお言葉で御座います」

 ミューノは応えるが、その声は相変わらず無感情。

 しかしカイン王は満面の笑みで頷くと、1つ咳払いをする。

「王都に宿を用意している、今日はそこで休むがいい。其方達には明日やってもらう事があるからな、ゆっくり旅の疲れを取りなさい」


 そしてカイン王は、マントを翻し玉座の間を去る。











 夜、フェリアは宿の部屋でゆったりとしている。

 カイン王への謁見を済ませた後、フェリア達は手配された宿に入っていた。そして皆で夕飯を済ませた後、こうして1人で休んでいた。


 ココロンは実家がこの宿と近かったらしい。彼女は夕飯を済ませた後、実家に顔を出してくると言って去って行った。遅くならないうちに帰って来るとは言っていたが…。

 ラージェとマリィルは、夕飯の時に酒が入ってわちゃわちゃとしていた。しかし2人とも眠くなってしまったらしく、今は2人とも宿の自室で眠っているようだ。

 そしてミューノ…。彼女は夕飯を済ませると、さっさと宿の自室に籠ってしまった。ミューノが悪い娘ではないとフェリアも解ってはいたが…彼女との間にまだ壁を感じていた。




「はぁー…疲れた。でもまぁ楽しかったな」

 フェリアは宿の部屋で灯りを消し、ベッドに腰を降ろしていた。そして窓から、仄かに明るい王都の夜景を眺めている。

(しかし、僕の立ち位置は相変わらず難しいなぁ…)

 今日フェリアが王城に遠回りで向かった経路も…王都の衛兵がフェリアにあまりいい顔をしなかった事も…街中でどこかから聞こえてきた野次も…。王都での半魔族の扱いを物語っていた。

(まあこれはマリィルが言った通りだ)

 そしてフェリアは、マリィルから聞いていた話を思い出す。


 王都では、フェリアの『魔の再来』の功績が疑問視されていたのだ。


 マリィル曰く…カイン王が半魔族に寛容な政策を打ち出して10年近くが経っており、その為の露骨な動きも多かったという。カイン王は半魔族が絡みさえしなければ名君と言って差し支えないというが…この一点だけで王政内や王都民から微妙な評価を受けているらしい。

 そしてその中でやたらと重用されているフェリアに…王都では疑惑の目が向いていた。それに『魔の再来』の時の功績も“単騎で魔族の大将を討伐”という信じ難い内容のせいで“カイン王の作り話”という噂が流布されているのだ…。


「…まあ良い、そんなの僕がひっくり返そう。フェリアの為にも…」

 その言葉と裏腹に、フェリアの頭の中はぐるぐるしていた。

 自分では無い名前。

 自分では無い性別。

 自分では無い記憶。

 その通りではあるのだが…まるで自分が自分では無くなっていくような感覚に“漣次郎”の意識は少しの不安を抱えていた…。






 静かな夜半。

 フェリアの個室の戸を、誰かがノックする。

「隊長、起きてます?」

(ココロン…?)

 声の主はココロンだ。

 まだ眠れそうにないフェリアは、ベッドから立ち上がる。そして寝間着のままではアレなので、騎士団服の上を羽織って扉を開ける。

「こんばんはココロン」

「こんばんは隊長!」

 そこには、まだまだ元気いっぱいなココロン。

「実家からただ今戻りました!でもなんかみんなもう寝ちゃってるし!寂しいのでちょっとお喋りに付き合って下さいよー!」

 そして、ココロンが有無を言わさず侵攻して来る…。


 フェリアは部屋の灯りをつけて、ココロンを迎える。

 ココロンは部屋の椅子に陣取り、足をぶらぶらする。

「ラジィさんもマリィさんも寝ちゃったし、ミューだってさっさと引き籠っちゃうしー!せっかくみんなで王都に来たんだから夜はみんなで楽しくお喋りしたかったですー!!」

「そ、そうだねぇ…」

 ココロンはなにやら鬱憤が溜まっているようだ…。理由は不明だが、何だかいつもより気が立っているようにも見える。ラージェ達より年下だからまだ酒が飲めない筈の彼女は、素面なのに酔っ払いみたいなテンションだ。

「それにそれに、何なんですか今日の経路ぉ!隊長は英雄ですよ…お城に行くのになんであんなワケわかんない遠回りをしなきゃなんですかぁ!?」

「まあまあ、やっぱ半魔族だからしょうがないね」

「納得できませーん!!」

 椅子をガタガタさせ、腕を振り回すココロン。

「王都の石頭どもはサイアクです!もーこうなったら…何か大きな功績をブチ上げて連中を黙らせましょうよー!!」

「あははあ。頼りになるよココロン」

「そ、そうです…?」

 フェリアの何気無い言葉に、ココロンは照れてちょっと大人しくなる。

 そして心底残念そうに、大きくため息を吐く。

「はぁー…これで隊長があたしの事を覚えていてくれてたらサイコーだったのになぁー…それだけはマジで残念でーす!」

「む、それはゴメンね…」


 これは例の騒動の後、フェリアを驚かせた一件。

 ココロンは“記憶喪失以前のフェリア”に対し、頻繁に着き纏っていたという。そしてそれが、ココロンを余計にガッカリさせていたのだ。


 そこでフェリアはちょっとだけココロンに聞いてみる。

「ねえココロン、記憶喪失前の僕ってどんな感じだった?」

「へ?」

 ポカンとするココロン。

 新緑の瞳が、灯りを受けてより輝いて見える。

「それはラジィさん達に聞いた方が良いんじゃ?」

「いやそれがね…2人に“そこは自分で思い出してほしい”って言われちゃってさ。“教えたら以前の姉様じゃなくなっちゃうかも”とか言ってて…」

「はぇー、なるほど」

 そしてココロンは小首を傾げて、

「“騎士フェリア”といえばカリスマですよカリスマ。女性騎士だけじゃなくて全騎士から一目置かれていましたし。でも半魔族なのに自己主張がすごくて、偉い騎士には嫌われてましたけど…」

 そこでちょっとだけ嬉しそうな声色に変わる。

「…でもあたし、今の隊長も好きですよ?前の隊長はカリスマ過ぎて声なんか掛けにくい雰囲気でしたし」

「そっか、それならよかったよ」

 フェリアは少しだけ、今の自分に安心ができた。




 もう街の灯りも減って来た。

 夜が深まっている。

「じゃあココロン、今日はもう寝ようか。明日も王様からの仕事があるからね、今日は旅の疲れを取る為に早く休まなきゃ」

「そうですね。付き合って頂けて嬉しかったです!」

 そして部屋を去るココロンを見送るフェリア。

「じゃあおやすみなさい、隊長!」

「お休みココロン。ココロンもミューノも、頼りにしているからね」


 突然、真顔になるココロン。


(…!?なんかまずったか!?)

 内心、不安がよぎるフェリア。

 目を見開いて固まるココロン。

 少し視線を逸らす。

「…そうですよね、ミューはやっぱり…」

「ココロン…?」

 恐る恐る声を掛けるフェリア。

 その時、ココロンがハッと我に返る。

「あ、ゴメンナサイ隊長…その、おやすみなさいっ!!」

 そしてココロンは駆け出し、あっという間に自室に飛び込んでしまう。

宿屋の廊下に、フェリアが1人残される。




 少しの不安を抱えながら、フェリアも自室に戻る。

 そして夜の宿屋の廊下は、静寂に包まれる。


これに目を通してくれている皆々様に感謝を。


いつかお姫様が出てくるといいなと思っています。

それまでお付き合い頂けるとわかめも喜んで光合成できます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ