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その72 昔日の摩天楼

フェリアに利用された一件を手打ちとした漣次郎。

そんな漣次郎を急にフェリアが旅に誘ってきたのだが、その行先は漣次郎にとって非常に懐かしい場所で…。

 冬の早朝の山中を、若い男女が歩いている。

 脇に小さな沢が流れる、澄んだ空気の山道…冬の空気が漂うそこはかなり気温が低く、その2人は冬支度をしているとはいえ寒そうだ。特に男の方が、白い息を吐きながらついでに愚痴も吐く。


「なあフェリア…ここどこ?」

「えーとね、ここは古い時代の街道だったらしいよ。昔の旅人はこんな山道を歩いていたみたいだけど、凄い事だと思わないかい?」

「じゃなくて、何なのここ?どんだけ標高が高いか知らないけど…僕の全く知らない場所だよ!?それに凄い寒いし!!」

「まあそうだろう。ここは僕が作戦の為にわざわざ見つけた場所だからね」

 その道を歩いているのはフェリアと漣次郎だった。

 彼等の周囲には誰も居らず、それどころか人の気配すら全く感じられない。枯れた木立の間を、2人は砂利を踏み締めながら歩いている。

 当のフェリアは実に楽しそうに、足元の石を1つ拾う。

「ふふふ…」

「え、何それ?」

 漣次郎の問いに対し、答える代わりにフェリアはその石を投げて漣次郎に寄越す。

「よく見てごらんよ漣次郎!君の足元、あれだけ魔族が望んで欲して止まなかったものが…こんな無造作に転がっているよ!」

「ん…?あ、本当だ。こんな場所があったなんて…」

 漣次郎もフェリアの言葉を受け、ようやくそこがどんな場所かを知る。


 2人が歩く街道には、無数の黒曜石が散らばっていたのだ。

 細かい物から掌大のものまでただの石ころのように落ちており、それらがキラキラと僅かな光を反射している。




 ここはシュレンディア王国でも、ましてやデルゲオ島でも無い。

 ここは…かつて神無月漣次郎が住んでいた世界だ。

 漣次郎とフェリアは異能と魔法を駆使し、再びこの場所にやって来ていたのだ。











 そもそも、これを言い出したのはフェリアだ。

 デルゲオ島からソドリオ王がやって来て『親交大使』復活を提言した直後、フェリアが漣次郎にこう提案したのだ。

 “君の故郷に遊びに行くつもりだけど、君も来ない?”…と。

 漣次郎はその誘いに乗り…テルルにも頼み込んで『スターダスト』と『アストラル』、そしてフェリアの超級火術『ディメンション・ホール』まで併せて異世界行きを実現していたのだ。

 今はシュレンディアの“夏の流星群の日”の直前。

 2人は帰りをその日に定め、こちらで旅行をしに来ていたのだ。




 早朝のとある駅の片隅。

 ちょっとした喫茶店に入った2人は、そこで朝食にしていた。

 2人は注文した料理を待ちながらのんびりと語り合う。

「いやはや…僕も半年間この世界で暮らしていた筈なんだけど、曜日という感覚をすっかり忘れてしまったよ。あっちの世界には無い物だからね」

「そっか、言われてみれば僕もさっぱりだよ。今日は何曜なんだろう?」

 漣次郎もこの世界で20年近くは暮らした筈なのに、シュレンディアでの1年が濃厚過ぎて色々と感覚が薄くなっていた。

 漣次郎の疑問に…フェリアは懐から手帳を取り出す。

「えーとね、どうも日曜みたいだよ」

「…何その手帳?」

「一年間分の予定を書き込める手帳だよ。便利だよねこれ」

「何でそんなものを…というかフェリアさ、君なんか準備が良すぎない?」

 訝し気な漣次郎に、フェリアはしたり顔だ。

「ああ…元々僕は自由になった後、こっちにも遊びに来る気満々だったからね。その為に必要そうな物は一通り揃えていたつもりだよ」

「僕の体で好き勝手やってたんだね、君」

「ふふふ、悪いね!超楽しませてもらっていたよ。でも君だって僕の身体でお楽しみだったんじゃないのかい?」

 フェリアは、サングラス越しに楽しげな視線を漣次郎に寄越す。

「…というか、何その恰好?」

「む?予め準備しておいたんだ、似合っているだろう?」

「いや、似合ってはいるけどさ…」

 漣次郎の言う通り、今日のフェリアは珍しい装いだ。

 彼女はつば広の帽子にサングラスで、目立つ紅髪と金の眼を隠している。しかしスタイルの良い美形の彼女はどうしても悪目立ちしており、周囲の視線を漣次郎も感じている。

 ちなみに漣次郎の方はというと、フェリアが漣次郎の体でシュレンディアに帰って来た時の服装だ。ラージェに斬られた所を上手く繕ってあり、一応はあまり目立たない風体だ。


 何とフェリアは、この世界から黒曜石を持ち帰った際に、ちゃっかり女性服や現金等まで一緒にシュレンディアに持ち込んでいたのだ。彼女はそれらと僅かな黒曜石を銀嶺山某所に隠してあったようで、今回それを使って世界を渡ったのだった。


 そうこうしている内に、頼んだメニューがやって来る。

「お待たせしました。ミックスサンドとピザトースト、チキンカレー、ナポリタン大盛です。あとオリジナルブレンドコーヒー2つですね」

「お、来た来た。早速頂こうか漣次郎!」

「マジかぁ…」

 朝食にしてはだいぶ多い料理に、漣次郎はだいぶ驚く。

 彼も最近知ったのだが…どうやらフェリアはだいぶ大食いのようで、今も出てきた料理に目を輝かせている。

 朝はあまり食べられない漣次郎は、いっぱい食べるフェリアを呆れ半分で眺める。




 ちなみに、ここまで2人が辿ってきた道程。

 この世界で2人が最初に降り立ったあの場所は、黒曜石が散在するとある山中。以前漣次郎だった頃のフェリアが、菱ノ森逸太と一緒に行った黒曜石の博物館付近だった。

 そして先程、漣次郎が住んでいた町の近くにある臨海の公園まで『アストラル』で飛んで来たのだ。2人には目指す目的地が一応あり、そのためにこれから電車に乗るつもりだった。


「いやー、やっぱりこっちのご飯はおいしいなぁ。この技術も是非持ち帰りたいよ」

「そっかぁ…ほんと欲張りだよね君」

「ふふ、そう褒めるなよ漣次郎」

「褒めてないんだよなぁ…」

 朝が少食な漣次郎は、早々に食べ終わってしばらくフェリアの食事を観察する。











 漣次郎とフェリアは朝食を済ませた後、目的地に向かうため電車に乗り込んでいた。暖房の利いた暖かい車内で、2人は運良く空いていた座席に座っていた。

 窓の外には、冬の曇天が仰ぎ見える。




 横並びに座る漣次郎の横腹を、フェリアが突つく。

「なあなあ漣次郎」

「フェリア…今度は何?」

「ふふ…」

 終始楽しそうな今日のフェリアは、口角が上がりっぱなしだ。


「本当に今更だけど、何でこんな事になっているんだろうね?」


 フェリアが言う“こんな事”とは…本来敵対し合っていた筈の自分達が、こうして一緒になって暢気に異世界旅行をしているこの現状の事だ。

 しかし漣次郎は、それの答えを持ち合わせていない。

 なので適当に生返事を返す。

「さあ?何でだろうね」

 しかし気の無い漣次郎にも、フェリアは上機嫌だ。

「ふふふ、僕はこれこそが運命というものだと思うよ。君もそう思わないかい?」

「運命ねぇ…曖昧だなー」

「だって、もし僕等がもうちょっと違う性格だったらこうはなっていなかったと思うんだ。例えば僕がもっと真面目だったり、君がもっと執念深かったりしたら、きっと僕等は和解しなかったよ」

 漣次郎にも、心当たりのようなものはあった。

 フェリアに転生した当初、彼は“フェリアの過去に関する夢”を何度か見ていた。今更それをフェリアに言いたくは無かったが、それも運命と言えなくもない…かもしれない。

「言われてみればそんな気もするね」

「あーあ、これで君が可愛い女の子だったら文句無しに最高だったんだけどなー。それだけが実に、実に残念だよ!」

「えぇ…」

 冗談とは思えないフェリアの言葉に、漣次郎は内心げんなりする。




 ちなみに…今2人が向かっている先は、漣次郎が転生前に住んでいた場所の最寄り駅だ。そしてその場所に行きたいとい出したのはフェリアであり、その理由を漣次郎は聞いていなかった。

 しかし駅が近付いて来て、流石に漣次郎も気になってくる。

「あのさフェリア」

「何だい漣次郎?」

「君、これから行く場所に何か用事があるのかい?」

「ああ、一応あるよ」

 フェリアは足を組み、懐かしむように遠くを見つめる。


「“可能なら帰って来てちゃんとしたお礼をする”…そういう約束をした奴がいるんだ。だけどあいつは僕の声を知らないから、漣次郎に呼び出すのをお願いするよ」


 そう言いながらフェリアは、数字の描かれた手帳の頁を漣次郎に見せる。











 雪の降りそうな冬の曇り空の下。

 茶髪で長身の男が、速足で急いでいる。

(まさか…まさかそんな事があるってのか!?とても信じられねーが、確かめない訳にもいかねーよなぁ!?)

 その男が目指す先は、彼の住んでいる場所からの最寄り駅だ。


 先程、彼の元にある電話が入っていた。

 公衆電話から掛かって来たその不審な電話の主は…なんと一年前の冬に行方を晦ました彼の友人だったのだ。


 数分後、茶髪の男が駅に到着する。

 そこには…消えた筈の彼の友人・神無月漣次郎が、見知らぬ女性と共に彼を待っていた。






「ありえねーって、マジで漣次郎お前…」

「久しぶりだね逸太。君からしたら1年振りなんだろうけど、僕からしたら1年半振りだよ!こうしてまた会えるなんてね」

「いやいやいや…こうして面を拝んでいるのにまだ信じらんねーわ…」


 漣次郎とフェリアは今、漣次郎のかつての友人・菱ノ森逸太と一緒に、駅の近くにある飲食店に入っていた。今は昼にしてはだいぶ早いが、落ち着いて話すためにこうしていた。

 異世界から来た2人は目的の駅に着いた後、公衆電話で逸太を呼び出していたのだ。


 逸太はすごい顔で正面に座る漣次郎の顔を見続けていたが、不意に視線を横に…漣次郎の横に座る紅毛の女に移す。

「…で、アンタがアレか?例の交通事故後の、“記憶喪失の漣次郎”の中身って事か」

「その通り。確か前にも名乗ったと思うけど、僕の名はフェリアだよ。改めて宜しくね逸太!」

「スゲー美人じゃん、しかも何だよその眼と髪…あんたコスプレイヤーさん?」

「こす…何だって?」

「というか、そもそもお前ら2人はどういう関係なん?」

 逸太はやや赤い顔で、ビールジョッキ片手に2人を質問攻めにしている。

 今日は日曜で休みだったらしい逸太は“素面でこんなんやってられっか!”と言って真昼間から酒を飲んでいる。そんな同い年の友人の姿を見て、漣次郎も自分が20歳になっていたことを改めて思い出す。

 フェリアは逸太の質問に、小首を傾げる。

「僕と漣次郎の関係か、改めて聞かれると難しいな。何て説明しよう?」

「フェリアあんた…“転生したみたい”とか言ってなかったか?」

「そうだね、それは正しいよ。だけどあの時僕は1つ嘘を言った…“漣次郎は成仏してると思う”ってね」

 そこまで言ってフェリアは、漣次郎と目配せする。

(どうする漣次郎?どこまで話そうか?)

(流石にちょっとぼかすかぁ…)

 という事で…2人はちょっとだけ嘘を混ぜながら、逸太に今まで起きた多くを語ることにした。




 漣次郎とフェリアは…血生臭い部分の説明だけを省き、おおよそ全てを逸太に語って聞かせた。彼はずっと黙って聞いてくれており、2人が語り終わるのを待ってようやく口を開く。

「異世界…?なんだそりゃ、そんな漫画みてぇな事があるのかよ…」

「そうそう、つまりこの僕は異世界人という訳だ。だからこの眼もコンタクトとかの類では無く本当にこういう眼なんだよね。試しに触ってみるかい?」

「いやいや、眼玉触らせるとかどういう発想だよ…」

 逸太との再会がかなり嬉しいらしいフェリアが、怪しいテンションで逸太に迫っている。美形ながらも奇行のフェリアに気圧されながら、逸太は漣次郎と彼女を交互に見る。

「…で、お互いがお互いに“転生”して、一緒に色々やってたと」

「そうそう、大まかにはね」

(ほんとにざっくりだったな。こいつ僕を利用したことについて何も言わなかったぞ?)

 ざっくりとした解説ながらも“フェリアが漣次郎を利用した”という点についてフェリアは全く話さなかった。

 それについてジト目で見ていた漣次郎に、酔っぱらいの逸太が目敏く気付く。

「…漣次郎、なんか言いたげだな」

「え?あ、いや別に良いよ」

「もしかして…お前らあまり仲良くないのか?」

 微妙な空気になる3人だが、フェリアは漣次郎の背中をぱしぱし叩く。


「おいおい漣次郎、つれないなぁ。僕等は裸まで見せ合った仲じゃないか」


 フェリアのとんでもない発言に、男2人が慌てふためく。

「おい何だと漣次郎!??お前なんて羨ましい事をしてやがったオラ!?」

「いや違って、見せ合ったというかこいつが一方的に見せつけてきたようなもんだからね!?僕からしたら不可抗力な訳で!」

「ちょっと漣次郎、その言い草は流石にどうかと思うんだけど?まるで僕が痴女みたいじゃないか」

「事実ではあるじゃん!?」

「いいからお前らの話をもっと聞かせろよ!姉ちゃんの言ってた礼ならその土産話で十分だからよぉ!」

 酒の入った3人は、テンション高めにそのまま暫く騒いでいた。











 昼食後、3人はフェリアの希望を聞きながら色々と回って行った。

 そして夕刻頃に、この国で2番目に高い鉄塔へとやって来ていた。いつの間にか空は晴れており、西の空に日が沈んでいくのが見える。


「フェリア、本当にこっちのタワーでよかったの?もっと高いのがほら…あそこに見えてるけど」

 今いるここは、赤い色がトレードマークのタワーだ。

 かつてこの国で最も高い建物だったこれも、10年以上前にその座を他に譲っている。3人はこの鉄塔の展望台まで上がっているのだが…そこからは、現在この国で一番高いタワーの姿も遠くに見えている。

 漣次郎に話しかけられたフェリアは彼の指差す先に顔を向ける。彼女はサングラス越しにそちらを見たが、あまり興味を示さない。

「ああ、あそこか。あれなら僕が“漣次郎”だった時に逸太が連れて行ってくれたよ。実に素晴らしい体験だったね」

「なんだ、行った事あったんだ」

「ちなみにここは初めてだよ。こっちも面白いね」

「君は何でも楽しいんだねぇ…」

「おいおい漣次郎、何でも楽しまないと損だよ?」

 ここに限らず、この世界の全てを楽しんでいそうなフェリア。

 話し込んで足を止めた2人に気付き、先を歩いていた逸太が振り返る。

「へへ…俺はコイツを“記憶喪失の神無月漣次郎”だと思ってたからな、思い出せるようにイロイロと連れ回してたんだよ。まあ中身が別人だった以上それには意味が無かったんだろうけど」

 そう言う逸太は彼らしくない寂しそうな顔をしており、そっぽを向いて呟いた。


「で、お前らはこれからどうすんだよ?」


 逸太の問いに、漣次郎は迷い無く答える。

「今夜はどっか適当に泊まるよ。で、明日僕の地元にちょっと寄って…そのまま帰る予定」

「そうかよ…そう言うとは思ったが」

 返答が予想内だったらしい逸太は微妙な表情になる。

「お前が折角こうして帰って来たのによぉ、これっきりっていうのは何だかなぁ」

「…」

 重い空気の漣次郎と逸太だが、フェリアがそこに茶々を入れる。

「大丈夫だよ。半年に1回は来るつもりだからさ」

「ちょっとフェリア…」

 フェリアの発言を咎めようとする漣次郎だったが、彼の言葉は目を輝かせた逸太によって遮られてしまった。

「お、マジかそーかそーか良いじゃねぇか!で、来れる日とか決まってんのか!?」

「実はだいたい決まっているんだよね。来る分には自由が利くけど、帰れるのが冬と夏に1日ずつしか無いからさー」

「そいつを教えてくれよ!俺も予定を開けとくからよぉ!」

(…こりゃ、止めるのは無理だな)

 盛り上がるフェリアと逸太は止められそうにも無く、漣次郎はもう介入を諦めることにする。




 3人は赤いタワーを降り、並んで歩く。

 摩天楼の隙間から差す冬の夕日が、三人に長い影を与えている。

「折角だから今夜はうちに泊まってけよ。俺の住んでるマンション無駄に広いし」

「そんな、いいの逸太?」

「勿論だぜ。お前らの話はおもしれーからな!」

「漣次郎、折角だから厚意に甘えようじゃないか」

「…そうだねフェリア」

「しかしよぉ、何で漣次郎まで向こうに帰るんだ?お前は元々こっちの人間じゃん」

「それは…色々あってね」

「へへへ、何だ女か?」

「うげっ!?ま、まぁそういうのもあるけど」

「おおマジか!?その話、詳しく聞かせてくれよな!」

「いやー、その…」

「何だ何だ、妙に歯切れが悪いじゃねえか」

「そうだよ漣次郎、あの娘が14歳だから言い辛いのかい?」

「ちょ、14!?なんか犯罪臭がするぞ漣次郎!?」

「おいフェリアいらん事言わないでよ!?」


 そのまま楽しげな3人の姿は、雑踏の中に消えていく。
















 翌日の夜。

 漣次郎とフェリアは再び、この世界で最初に降り立った山中に戻って来ていた。




「本当にもう良いのかい漣次郎?」

「十分。逸太に会えたし、墓参りもできた」

 昨日は何ともなかったこの場所だが、うっすら雪が積もっている。

 夜目の利くフェリアは平気そうに歩いているが、漣次郎は発電機能付きの懐中電灯を持っている。しかし快晴で満月の今日は、月光が雪に反射して夜なお明るい。


 今日2人は、漣次郎の地元に行っていた。

 しかし彼は実家には寄らず…祖父がやっていた剣道道場の近くを散策して、祖父の墓参りをして満足していた。それがフェリアにとって不思議だったようだ。

「君の家族に会わなくてよかったのかい?」

「良いよ、元々会う気も無かったし。実家を継いだ兄貴とは不仲だったから、喧嘩別れみたいな感じで地元を離れたんだよね」

 漣次郎の実家は、そこそこ大きな酒蔵だった。

 しかし年子の兄と後継の関係で仲が悪く…両親も出来の良い兄を優先し漣次郎にあまり関心を向けなかった。なので彼はよく祖父の道場に入り浸っており、祖父が亡くなったすぐ後に上京していた。

「家族と仲が悪いなんて…悲しいね。僕は家族と仲がいいから余計にそう思うよ」

「そうかな?ルゥイのお兄さん達と同じようなもんだし、異世界でも良くあることだと思ってた」

 しかし…まだフェリアは浮かない顔をしている。

 彼女は珍しく、少しだけ申し訳無さそうだ。

「…なあ漣次郎、他の友人達は良いのかい?もちろん逸太が一番の親友なのは分かっているが、僕が“漣次郎”だった時に付き合いのあった友人はまだまだ居たよ?」

「いいよもう。僕の友人の中で“フェリア”について知っているのは逸太だけ…そうなんだろ?」

「うん、僕の正体を見破ったのは彼1人だけだった」

「なら話をややこしくするのも本意じゃないし、やっぱり僕はこのまま“行方不明”って事にしておこう。その方が楽だ」

「…なら良いよ。君が納得しているなら、僕が口出しする事じゃない」

 静かに頷くフェリア。

 漣次郎も、穏やかな笑顔だった。






 2人は目的の地点…黒曜石が多めにある場所まで来た。

 この世界の流星群はシュレンディアと違って、1時間に1個流れれば多い方だ。しかし…一度フェリアの意識が宿った漣次郎の身体は、周囲で高まるエーテルを感じていた。

「さて…じゃあ帰ろうか。向こうも夏の流星群の日で大忙しの筈さ」

「しかし、こっちと向こうで季節がズレてるとはね。寒暖差で体調がおかしくなるよ」

「漣次郎はヤワだねぇ」

「半魔族の君と一緒にしないでよ」

 悪戯っぽく笑うフェリアに対し、漣次郎は若干げんなりしている。

「はぁー…」

「どうしたんだい漣次郎?テルルが気になるかい?」

「分かってて言うねぇ…」

 漣次郎は、彼の帰りを待つ獣人の少女を思い浮かべる。


 今回のこの2人旅は、テルルの異能による協力込みで可能だった。

 “友人に安否を知らせたい”という漣次郎の頼みだったのでテルルも納得してくれたものの、彼女はあからさまに不機嫌だった。フェリアと行動を共にしたのがたった2日間とはいえ…漣次郎は気が重かった。


 クスクス笑うフェリアの横で、漣次郎はげんなりしている。

「また嚙まれるなぁ…参った参った」

「ふふふ、あの娘は怖いよ?この僕にだって平気で噛みついてくるし」

「それは…例え話?」

「そのままの意味。隙を見て本当に噛んでくるよあの娘」

「ちょ、『親交大使』になる予定の奴になんて事を…」

 色々と気が重くなる漣次郎だが、フェリアは優しく目を細める。

「君は本当に、テルルに愛されているんだね」

「…」

「じゃあ、あの娘の為にもさっさと帰ろうか!」

「そうだね、行こうフェリア」


 そうして2人は、来た時と同じ要領で異世界へと飛び立った。


こんな地の果てまで来てくださった皆様方に感謝致します。

実は黒曜石って簡単に拾える場所があったりするんですよね。


次が最終話となりますが、その間に使い所の無かった番外編を3つ挟みます。

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