その68 決戦、未明の荒野にて
デルゲオ島にある秘伝火術の魔法陣を破壊するという漣次郎の作戦は、秘伝白術の魔法陣が閲覧できなかったことで変更を余儀無くされていた。
しかし冬の流星群の日までそう時間も無く、彼は遂にフェリアとの決戦を決断し…。
レーヴェット地方南部、チャロデン村郊外。
まだまだ寒い冬の里山。
夜明けと言うにはまだ暗すぎるこの時間帯…まだまだ雪の残るとある小高い山の頂に、石造りの祭壇がある。そしてその祭壇のすぐ傍に、武装した特務隊4人の姿があった。
「今更ですけど…レンさん、本当にやるんですね?」
「もちろんだよ。ここまで来て引く選択肢は無いね」
「いやードキドキするねミュー!」
「ココお姉ちゃん楽しそう…」
ここはチャロデン村の近くにある山の頂上で、以前ラージェが漣次郎をおびき出して始末しようとした場所だった。
現在フィズン配属となっている特務隊だが、昨晩密かにフィズンからこのレーヴェット地方南部まで大移動して来ていたのだ。マシェフどころかビスロにすら詳細を伝えておらず…今回の作戦は漣次郎の独断という事になる。
ちなみに、漣次郎がわざわざ出発地点をこんな所にしたのには意味がある。
「テルル、じゃあ異能を使ってくれるかい?」
「わかったよ」
「…これから初めて見る訳なんですけど、テルルちゃんの異能『スターダスト』ってどれくらいの範囲に影響するんですかね?」
「それがテルル自身でも制御し切れないみたいなんだ。フィズンで使った結果デルゲオ島にまで流星が降ったらそれはそれで拙いし、だからここまで来た訳で」
テルルの異能『スターダスト』は流星群を呼ぶ異能であり、以前“朧の箱庭”で発動させた際はデルメーを中心にして広範囲に影響したらしい。故にこうしてデルゲオ島からなるべく離れた場所を出発地点に選んだという訳だ。
しかし、ミューノは非常に厳しい顔だ。
「でも結局、秘伝白術の閲覧許可は下りなかったんですよね?」
「うーん、一応最後まで粘ったけど無理だったよ。やっぱり作戦変更しなきゃダメだ」
「そうなると予定以上に厳しい作戦になるのは避けられませんね」
漣次郎が考えていた“デルゲオ潜入電撃戦”は、彼とテルルの両方が使える秘伝白術で島の魔法陣を破壊するというのが目的だった。しかしそれが出来ない以上、次善の策を取らざるを得ないのだ。
安定策が取れないのが、漣次郎も皆も不安ではあった。
「いくよ…<スターダスト>」
テルルが両手で胸を押さえながら、異能を発動する。
もうすぐ満ちる月の夜空に…幾筋かの流星が降り始める。
周囲のエーテルが活性化していくのを漣次郎も肌で感じる。
「皆、いよいよだ。フェリアはこれからフィズンで始まる戦いを“魔族の存亡を賭けた大一番”と表現したけど、僕はそうしたくないと思ってる。この作戦が成功すれば、“フィズン壊滅”と“魔族滅亡”…その2つだけじゃない3つ目の未来もあり得ると思うんだ」
漣次郎の言葉に合わせ、皆が彼の腕や服を掴む。
そして彼は深呼吸をし…集中力を高め、その言葉を叫んだ。
「<アストラル>!」
瞬間、4人の姿が山頂から消える。
目指すは絶海の孤島・デルゲオ島だ。
特務隊の4人が、広大な砂浜の一点に現れる。
ここはデルゲオ島西端、以前漣次郎とテルルが降り立った場所だ。
周囲に人影は…無い。
「『アーク・ウィング』!」
まずは手筈通り、テルルが飛行して魔法陣を探す。
このデルゲオ島は岩だらけの島…魔法陣を描くには砂地か土の広い土地が必要な筈で、夜目の利くテルルに“整地されている場所”を探して貰う。
当の漣次郎には…確信めいたものがある。
(秘伝術は大規模なもの、流石に魔族だって居住区の近くでは使わない筈だ。ならば使えないという島西部のどこかを使うのが自然で…それには超級白術で見た光景、この辺りが目的地だろう)
残り3人は小走りでテルルを追いながら、可能な備えを素早く行う。
「えいっ、『アクセル・オーラ』!」
「…『シャドー・アヴァター』」
ココロンが加速の土術を発動し、ミューノが黒術で分身を出す。
漣次郎は…周囲に気を配りながら最後尾を走る。
風の無い未明の海は凪いでおり、浜辺には妙な静けさがあった。
その時、テルルが急降下してしゃがみ込む。
「見えたよレン」
「あったのかい!?」
「大きな魔法陣が見えた。でも…」
声を潜めるテルル。
漣次郎達もテルルに追いつき、同じく声を潜めて前方を伺う。
「魔法陣の所に誰か居る…2人。たぶんテルルに気が付いた」
特務隊に、緊張が走る。
まだまだ暗い荒野の向こうから、何者かが飛来する。
飛来した2人組が、特務隊の前方に着陸する。
4人の前に立ちはだかったのは、フェリアとマリィル。
金属製の軽鎧を纏う2人は臨戦態勢で特務隊の前に立ち…フェリアは不敵な笑みを浮かべながらも、どうやら4人の姿を見て驚いているようだ。
「あれれ?そろそろ漣次郎が来るとは思っていたけれど、なんか思ったより大人数で来たね。僕だって3人で飛ぶ為にはマリィルの『ムーンフォース』頼みなのに、もしかして君の方が『アストラル』という異能を使いこなしているのかな?」
「さて、どうだろうね」
フェリアは実に楽しそうに目を輝かせながら腰の剣を抜き払う。
「いやはや、君はいつも僕の期待以上だ。流星群の日までに何かをしに来るとは思っていたけど…正直な所、君とミューノが2人で来ると予想していた。まさか小隊全員で来るなんてね!もう何人かここに呼んでおけばよかったなぁ」
しかし、そんなフェリアの眼は冷徹な光を放つ。
「だけどね…僕も魔王トワナグロゥの娘として、魔族の為にフィズン奪還の“焦天の日”を成功させなければならないんだ。君なら分かってくれるよね」
「ああ、知ってるよ。僕達はそれを止めに来たんだから」
漣次郎も、特務隊の皆も怯まない。
フェリアとの衝突は、当然漣次郎も覚悟の上だった。
特務隊の意志を察したフェリアは実に満足そうだ。
「ふふ…君達がそのつもりなら、僕等も本気で行くね。こんな所までやって来た君がどんな答えを出したか、それを僕にも見せてくれよ」
フェリアが黒術で、分身を2体作り出す。
それと同時に、漣次郎とテルルが白術で浮遊する。
「悪いけどフェリア、君と直接やり合う気は無いんだよ。僕らの目的はフィズンを守る事…秘伝火術の魔法陣が破壊できればそれでいいんだ!」
そう言って2人は正面のフェリア達を避け、横に向かって飛行を始める。
フェリアもそれにすぐさま反応し、牙を剥いて楽しそうに笑い声をあげた。
「あははは、つれないじゃないか漣次郎!僕は今日という日をこんなにも楽しみにしていたというのにさぁ!」
フェリアもすぐさま飛行で漣次郎達を追尾し始める。
ミューノと彼女の分身も、二手に分かれて魔法陣に向かって駆け出す。そしてそれを追うように、フェリアが出した2体の分身がそれらを追いかける。
漣次郎の大博打が…遂に始まってしまった。
皆が去った後、会敵場所に残ったのはココロンとマリィル。
背丈近い槍斧を構えるココロンに対し、マリィルは去っていったフェリアの後姿を恍惚と眺めている。
「ああ…フェリア様、ご武運を。私はいつでもフェリア様を信じていますわ」
「マリィさん…」
対峙しているにも関わらずココロンを見もしないマリィル。
フェリアの言葉通りなら、この状況は彼女達にとって想定外の筈…しかし楽しそうに応じるフェリアも全く動じないマリィルもある意味不気味で、ココロンは警戒しながらもまだ仕掛けない。
どちらにせよココロンは撹乱役なので、マリィルを引き付けさえできればそれで問題は無いのだが…。
その時、急にマリィルがココロンに向き直る。
「それにしても久しぶりねココちゃん。まさか貴女とこうして再び会う日が来るとは夢にも思わなかったわ♪」
「そ…そうですね、最後に会ったのはモードン公領で謹慎している時でしたっけ?」
恍惚としているマリィルは、既に真珠の指輪を構えている。
ココロンの後方では…漣次郎達とフェリアが、分身も交えて激しく交戦している。しかしそんな周囲の状況を意にも介さず、マリィルは常時うっとりとしているのだ。
「私ね、ココちゃんの事は結構気に入っていたのよ?」
「それは…どういう意味で?」
「貴女が私と似ていたからよ。ココちゃんがフェリア様に憧れ、近付こうとする想い…私にも痛いほど理解できたの。フェリア様は本当に素晴らしくて、力の弱いこんな私なんかに価値を見出してくれたわ」
マリィルの眼に、怪しい光が宿る。
「ココちゃんは素晴らしいわ。シュレンディアの愚民は半魔族を軽んじ、フェリア様の偉大さを理解しなかったのに、貴女はちゃんと理解していたわよね」
「同志…とでも言いたげですね、マリィさん」
「ええ。だけど残念」
マリィルの掲げる真珠の指輪に光が灯る。
「『イリュージョン・ミスト』」
突如、2人の周囲に霧が満ちる。
マリィルは先端の尖った琥珀の杖を構える。
霧の中のマリィルの姿が霞み、朧げになる。
「きっとフェリア様は大丈夫、だってあのお方は…私の信じるフェリア様なのだから♪私はフェリア様の為にも、ちゃんとココちゃんを足止めするわね」
「くっ…」
魔法を展開され、一気に不利状況になったココロンは狼狽える。
直後、泡の魔法がココロンに襲い掛かる。
2人のミューノと2人のフェリアが、荒野で剣戟を交える。
ココロンはかなり後方。
魔法陣は…まだ遥か前方。
ミューノと彼女の分身と戦っているのは、フェリアが出した2体の分身。フェリアの本体はまだ前方…逃げ回りながら魔法陣を目指す漣次郎を追っており、それを守ろうとするテルルと交戦中のようだ。
しかし…それを気に掛ける余裕はミューノに無い。
分身フェリアの攻撃に対応するのがやっとなのだ。
『ああはは!流石、パルサレジア孤児院で育てられただけの事はあるねぇ!カイン王が紅百合部隊の最初の隊員に選んだ理由が良く分かるよ!』
「くっ…この!」
ミューノは細剣で鋭い突きを繰り出すが、分身フェリアは凄まじい反応速度で余裕をもって回避する。そんな分身フェリアと、前方上空で戦う本体のフェリア…それを視界の端で捉えてミューノは歯を食いしばる。
(やっぱり…この人は強い。種族的な差なのか才能なのか知らないけど、同じ魔法でここまで差が出るなんて)
ミューノもフェリアも同じ上級黒術『シャドー・アヴァター』を使っているのに、分身の数もその性能も大きな差があるのだ。最大限戦えるようミューノは分身を1体に絞っているというのに、その倍出しているフェリアの分身とその戦闘力はほぼ同等なのだから。
現にミューノ本体ですら、分身に過ぎないフェリアに押されている。
分身フェリアはと言うと、常に熱い視線をミューノに向けている。
『君、騎士団学校でも何度か見掛けたけど…やっぱり可愛いね。いいなぁその綺麗な黒髪、僕にもちょっと弄らせてよ!』
「な、何なんですか貴女!?こっちは本気ですからね!」
『失礼な、僕はいつだって真面目さ。あーあ、計画だったとはいえ…こんなに可愛い君やココロンと一緒に騎士をやれなかったのが実に残念だよ』
「全く…何の話だか分かりませんけど!?」
意味不明な絡み方をしてくるフェリアに辟易しながらも、ミューノは周囲の状況を全体的に見るよう努める。
(ココはマリィルさんの幻術に押されているけど、まだ大丈夫そう。だけど…わたしもレンさん達も魔法陣に近付けていない。一応ここでも第2案である秘伝黒術の射程範囲だけど、この人がそれを許してくれるとは思えない…なんとかしないと)
この場で待ち構えていたのがフェリアとマリィルだけとはいえ、このままでは膠着状態が続く。そうなると流石に騒ぎを聞きつけて魔族が集まってくる可能性もあり、それは非常に拙かった。
予想以上にフェリアが強く…こうなるともう漣次郎とテルルが頼りだった。
「おいおいおいおい、逃げるなって漣次郎!折角だからもっと楽しもうよ!」
漣次郎は黒曜石のネックレスを握りながら、空中を飛行する。
それをフェリアが追い回し、剣で攻撃を繰り出す。
テルルは漣次郎について飛び回り、フェリアの攻撃に応戦する。
この空中戦は、さっきからこれを延々と繰り返している。
(くそ…さっさとフェリアを躱して魔法陣まで辿り着かないと!)
立ちはだかるフェリアの攻撃が激しく、逃げてばかりの漣次郎は焦りを隠せない。もう空はだいぶ白んできており、ここが魔族の街からだいぶ遠いとはいえ…目立っているのが非常に良くないのだ。
魔族の増援が来てしまったら、この作戦は失敗なのだ。
フェリアが距離を詰め、剣を振るう。
テルルが柄の長い鉄槌でそれを受け、フェリアを追い払う。
「やるねぇテルル!思っていたよりずっと動けるじゃないか!」
「テルルはレンを守るの!」
しかし…思いのほかテルルがしっかりと応戦できているおかげで、なんとか膠着状態にできていた。漣次郎とテルルは飛び回りながら、なんとか前進する機会を伺う。
追ってくるフェリアに対し、漣次郎は黒曜石のネックレスを差し向け…叫ぶ。
「『ボンバー・シュート』!」
黒曜石から、拳大の火球が放たれる。
フェリアはそれを、最小限の動きで回避する。
飛んで行った火球は地面に着弾し…強烈な爆風を起こして破裂した。
「ふふふ…漣次郎、君は魔法なら中々才能があるようだね!」
漣次郎の魔法を見て悪戯っぽい笑みを浮かべるフェリアだが、漣次郎はそれに苛立ちながら毒づく。
「…そんなの、君も良く知っているだろ!」
「まぁねぇ…僕だって君のその体で半年間は暮らしていたから、君の魔法の才能も運動能力も熟知しているよ。僕が乗り移っている間に多少は鍛えたけど、僕と戦える程の体では無いよね」
体を取り換え合った事のあるフェリアと漣次郎は、お互いの多くを知っている。故にフェリアに漣次郎の技量が見切られており、彼女は“漣次郎込みの2人相手なら自身1人で対応可”と判断しているようだ。
実際フェリアは強力で、分身込みで3人を足止めしているのだが。
(真っ当にやり合っても埒が明かない)
このままでは時間だけが無駄に過ぎる。
漣次郎は打って変わって、フェリアに揺さぶりをかけようと試みる。
「…なあフェリア」
「おや、何だい漣次郎?」
「何だって君は、魔族の為にここまでするんだ!?」
「漣次郎、僕は魔王の娘だよ?魔族を救おうとするのは当り前じゃないか」
「いや…」
空中での戦いが、一旦停止した。
漣次郎は、ずっと感じていたフェリアの違和感を指摘する。
「君の異能『アストラル』は魔族を救うための物じゃない…君に“自由をもたらす異能”だろ?君は…誰にも何にも縛られない、君だけの自由を望んでいるんじゃないのか!?」
フェリアの異能『アストラル』。
どこかへと一瞬で瞬間移動する力。
それを発現したフェリアの“願い”を想像すると…遠くへ行きたいとか、好きな所に行きたいとか、どうしてもそういったものが思い浮かぶ。それがフェリアの真の願いだとしたら、こんな使命に振り回されるのは彼女も本意では無い筈なのだ。
漣次郎の問いに、フェリアは珍しく微妙な笑顔を見せた。
「それが僕の本当の願いじゃないと言えば、それは嘘になるね」
「じゃあ何で…」
「僕は皆が大好きだからさ!」
フェリアは満面の笑みだ。
しかしその笑顔の奥に、諦観のようなものも見え隠れする。
「僕は父上も母上も大好きなんだ。それに幼馴染のラージェも、ヴァンガードを目指して一緒に育ったマリィルや他の仲間達もね。僕は特別な生まれで、皆を自由にする才能もある…ならば僕はそれを活かすべきだし、僕もそうしたいと思ってる」
「大切な人達の為に頑張りたい…って訳?」
「そんなの当たり前じゃないか。皆が幸せなら僕も嬉しいからね」
「…でも、それじゃ君の本当の願いは叶わないよ?」
「ふふ…何もかも思い通りになんかならない、それは君だって分かるだろう?ならばせめて、全部を楽しまないとね!」
そう言い放ったフェリアは、再び漣次郎に襲い掛かる。
戦いの中で、漣次郎は気付く。
(なんかフェリアの奴…手を抜いていないか?)
フェリアは繰り返し襲い掛かって来るものの、どうも本気では無さそうだ。
それは単に時間稼ぎと言うだけでなく、何かを警戒しているらしい。
そして遂に、フェリアの側から挑発してきた。
「なあ漣次郎、焦らさないでくれよ。君がこの島に来たのは…こんな風に僕と飛び回って遊ぶ為じゃ無い筈だ。君の秘策を僕に見せてくれ」
「…何だって?」
「とぼけるのかい?僕にはお見通しだよ」
フェリアの、不敵な笑み。
「その娘…テルルが君の切り札なのだろう?君等の魔法じゃ『クリムゾン・レイン』の魔法陣を破壊なんてできないだろうから、もっと強力な“何か”を隠し持っている筈。そして君等の中で有り得るのはテルルの異能だけだ」
フェリアは恐らく、漣次郎が“テルルの異能”という切り札を使うのに備えているのだろう。そして漣次郎としても…時間を掛けすぎている以上、もう迷っている時間が無かった。
(もう夜が明けてしまう…いくらここが魔族の街から遠いとはいえ、増援が来てもおかしくはない。もうやるしか…!)
もう空はだいぶ明るい。
ココロンもミューノも、妨害を越えられそうに無い。
時間も無い。
迷ってられない。
それに魔法陣にはある程度近付けている。
漣次郎は…決断する。
ここまで防戦一方だったテルルが、急にフェリアに攻撃を仕掛ける。
「やー!!」
「おぉっ!?やる気あるじゃないか、意外だね!!」
フェリアは当然、大振りなテルルの鉄槌を軽く受ける。
そしてその隙に…飛行する漣次郎が単身で秘伝火術の魔法陣へと先行する。
しかしその瞬間、漣次郎に激痛が走る。
「ぐわっ!!?」
彼の体に、鉄針が4本刺さっている。
フェリアが忍ばせていた暗器を投げて寄越したのだ。
痛みで漣次郎の視界が歪む。
飛行を続けるがバランスを崩してしまう。
そのまま漣次郎はフラフラと斜め前方に降下し…秘伝火術の魔法陣が描かれた砂地の隅あたりに落下した。
「レン、レン!!」
遠く、テルルの声。
漣次郎の視界の端…フェリアがテルルを振り払う。
「迂闊じゃないか漣次郎、この娘無しで僕の攻撃を避けられるとでも思ったかい?」
フェリアが一瞬、テルルから視線を外す。
これが最後のチャンスだった。
状況を察したテルルが急に、フェリアから離れるよう飛行する。
彼女は既に異能の光を纏っている。
フェリアもそれにすぐ気付き、テルルを追う。
「む、遂に君の異能を見せてくれるのかい!?」
フェリアの注意が完全に漣次郎から外れた。
遂に…状況が整った。
「<スターダスト>!」
テルルが異能を開放する。
デルゲオ島の荒野に、幾筋もの流星が降り注ぐ。
その光景でようやく気付いたらしいフェリアが、かつて無いほどに目を輝かせる。
「な…漣次郎、君って奴はぁ…!!」
フェリアが反転し、倒れ伏す漣次郎の元に飛来する。
しかし既に、漣次郎は懐から秘伝術の魔法陣が描かれた布を広げていた。
フェリアの投げた鉄針は急所を外れており、彼は血を流しながらも魔法陣の上に立って複数の魔法媒体…木術媒体の琥珀を構えている。
そして彼はそのまま活性化するエーテルに身を任せ、ありったけの力で“秘伝木術”を発動する。
「『グリーン・インベイド』…!」
布に描かれた魔法陣が発光する。
荒野が揺れ、轟音が響き、新緑の爆発が起きる。
こんな地の果てまで一緒に来てくれた皆様に感謝します。
漣次郎とフェリア、2人の頑張りがどうなっていくかを見守ってください。




