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その7  雨の港町を往く

身に覚えのない物資横領のいちゃもんで謹慎する事になったフェリア。

しかし逆に探りを入れ返した結果、騎士団長ネイオレスの策略の全容がほぼ判明。フェリアも黙って嵌められる気はさらさら無く、反撃の為に行動を開始する。


 フィズンの町が夕闇に呑まれていく。


 今日のフィズンは結局、一日中雨だった。シュレンディア王国はまだ春先なので、雨で気温は下がり肌寒いほどだ。それに加えて曇天ということもあり、まだ夕方だというのに辺りはとても暗くなっていた。

 そしてそれは、フェリアにとっては好都合だった。




 先程の事。

 調査から帰ったフェリア達は、集めた証拠を並べていた。

 最初に口火を切ったのは、ココロン。

「隊長やりましたよ!なんか最近ヤバめな怪しさの馬車が、夜だっていうのにしょっちゅう基地を出入りしていたんですって!何人かの騎士が目撃していました!どうやらどっかの商会らしいです!!」

 興奮気味なココロンは、フェリアに迫り密着しかねない距離で報告をしていた。あまりの勢いに、フェリアは気圧されている…。

「わ、分かったよ。それで、その商会については分かったかい?」

「それが…」

 ココロンがシュンとなる。

 それを見て、代わりにミューノが代弁する。

「残念ながら、そこまでは…。しかし団長の話から考えれば、相当量の“消えた物資”を隠し持てるだけの倉庫を持つ…それこそフィズンでも最大規模の商会でしか不可能でしょう。そしてフィズンの商会は三つ巴…どうも3つの大きな勢力があるようですね」

 そこまで言ってミューノが小さく息を吐き、横目でフェリアに視線を送る。

「…どうしますか、隊長?3つを全部しらみつぶしに調査、という訳にもいかないと思いますが。隊長の方で何か情報があったのなら話は別ですけど…」

「あったよ、もちろんね!」

 ここまでのココロンとミューノの聞き込み結果は、フェリアが見つけた情報の裏付けとしては十分だった。だからフェリアは自信満々に、入手した“証拠”を皆に見せる。


「これ…“ワレン商会”とやらが主催する舞踏会の招待状だってさ。ネイオレスの部屋で見つけたんだ」


 それを見たマリィルが、怪訝そうに首を傾げる。

「舞踏会の招待状…ですか。確か騎士団長という立場は本来、どこかの商会や組合に深く肩入れしてはならないというのが原則ではあります。しかしそれだけでワレン商会という所を疑うのは…」

「それだけじゃないのさ!」

 フェリアはさらに“招待状”の中身を皆に見せる。


 招待状の中身は、意味不明な文字の羅列だった。


 それを見たラージェが驚く。

「ナニコレ、暗号?」

「多分ね」

 証拠を疑っていたマリィルも、中身を見て納得の様子だ。

「確かにこれはおかしいですわね。この“招待状”が隠されていたというのも、ネイオレス様とワレン商会とやらの間になにか特別な関係があるから…そう考えれば納得ですわ♪」

「よし決まったな、姉様…そのナントカ商会に殴り込みだ!」

「ラジィさんの言う通り!行きましょうよ隊長!!!」

 血気盛んなラージェとココロンは、今すぐその“ワレン商会”とやらにカチコミをする勢いだ。今すぐにでも基地を飛び出したそうにしている…。それをフェリアとミューノが何とか宥める。

「待って待って2人とも、今まだ夕方だから!せめて夜…深夜にしよう!」

「そうですよ。それにワレン商会の位置や順路も確認しておくべきです」

「そ、そっかぁー…」

 出鼻を挫かれ、意気消沈するココロン

 しかしひとまず、今夜のフェリア達の行動は決定した。




 そこでミューノは半眼で、ちらりと窓の外に視線を送る。

「…先程から、団長直属の騎士がこの兵舎を見張っていますが…彼等が交替する周期は今のところ一定です。なので夜の交替時を狙って、彼等を“寝かせた”上でここを出るというのはどうでしょうか?交替1回分の時間は自由に動けますよ」

「はぇー…良く見ているねミューノ。頼りになるよ」

 フェリアは素直に感心してしまった。新入りのミューノはこんな騒動だというのに、常に冷静で理知的だった。マリィルもラージェも、そんなミューノに感心していた。

「あらら…頼もしいですわね…♪」

「いいぞミュー!やっぱ君アタシとよく似てるねぇ!」

「ちょ、やめて下さいって!あと似てないですし!」

 無遠慮にベタベタ触るラージェが、ミューノにすごい嫌がられている…。それを見たフェリアは少しだけほっとする。


(よし、この5人も意外とチームワークは悪くなるかもしれない。じゃあ…いっちょやってやろうじゃないか!)

 そしてフェリア小隊は、深夜を待つ。











 深夜の雨の町を、フェリアは進む。


 フェリアは先程『アストラル』で基地の外までワープし、先に外に出ていたミューノとココロンと合流していた。新入りのこの2人はネイオレスの監視対象外なので自由が利き、それがフェリアにとって好都合だった。

「…隊長、ワレン商会はフィズンの南区…もうすぐ着きますよ。あとはどこから侵入するかですが、それは着いてから考えるしかないですね」

「…そうだね」

 雨具で身を覆ったフェリア達は今…ミューノに先導され、フィズンの町の路地裏を使ってワレン商会を目指していた。ミューノ曰く“配属されてから困らないように”という事で、既にフィズンの町の地図を頭に入れてあったらしい。

 深夜の町を往くココロンはご機嫌だ。ランタンを手に、キョロキョロしながら進む彼女は実に楽しそうだ。

「秘密の作戦ってドキドキしますね。それに…やっぱりミューは凄いね!頼りになるなぁー!」

「ちょっとココ、なるべく静かにしないと…」

「ご、ごめん…」

 ミューノに叱られ、ココロンはちょっとしょんぼりしている…。


 そんな2人のやり取りを、フェリアは微笑ましく見ていた。そして彼女は思いの外協力的だったミューノに礼を言う。

「それにしてもミューノ、君が僕達のためにここまでしてくれて嬉しいよ。君は半魔族が好ましくないだろうに…」

「…」

 その言葉を聞いたミューノは、少し黙り込む。

「…別に、これはわたしの為ですから。“英雄フェリア”の部下というのはなかなか悪くない立場ですので、今後騎士として利用価値があると思います。それなのにフェリア隊長がこんな形で騎士団を追われても困りますので」

(お、ツンデレか?)

「そっか、それでもありがとね」

 ミューノの言葉には、フェリアが思ったより棘が無かった。


 そこでココロンがちょっとだけ心配そうな顔になる。

「ねえ隊長、ラジィさんとマリィさんは大丈夫でしょーか?何とかするって言ってましたけど…」

「…まあ、大丈夫だろうとは思う…かな…?」

 今ここに、ラージェとマリィルは居ない。

 先程兵舎で交替したばかりの団長直属騎士に対し、マリィルは催眠魔法だという上級木術を使って眠らせていた。そして彼女とラージェは“別行動でワレン商会を目指す”と言ってフェリアと別れたのだった。

 ミューノの態度は素っ気無い。

「瞬間移動の異能を持つフェリア隊長はともかく…あのお2人は上手く基地を出られないのではないでしょうか。最悪すぐ見つかって追手を送られるのは面倒ですから、兵舎で待って頂いていたほうが良かったのでは?」

「…まあ、マリィルは良い方法があるって言っていたし、僕は信じるよ」

「そうですか。そしてフェリア隊長、もう着きます」

「…え!?」


 そうこうしている内に、3人はワレン商会に着いていた。











 雨夜の闇の中に、大きな建物の影が浮かぶ。


 ミューノの調査によると、『ワレン商会』というのは衣類を中心に扱う組織なのだという。しかしネイオレスが言っていた“消えた物資”は食料品が主だったはずなので、探すのは容易だと思われた。


 フェリア達はワレン商会の敷地に入り込み、できるだけ大きな建物を目指していた。敷地内には見張りなど殆どおらず、ネイオレスの慢心が伺えた。

「さて、しかし倉庫が多いね」

「そうですね…」

 ここで一つ、フェリアの誤算。

 商会の倉庫は全て煉瓦造りで、窓が無かったのだ。さすがのフェリアも、見ず知らずの場所にはワープが出来ない。だからフェリアは元々、窓から中を覗いて『アストラル』で侵入…という手段を考えていたのだ。

「やれやれ…参ったね、これじゃ『アストラル』は使えない。どうやって侵入してやろうかなー…」

「もー隊長、何か魔法でぶっ壊しましょうよー」

 なかなか上手く行かず、ココロンは不満気だ。

「ダメダメ…なるべくひっそりと、ね」

 フェリアはココロンを宥めながら、周囲を警戒しながら敷地を調べていく…。




 不意に声を潜めるミューノ。

「誰か来ます」

「え、ミュー何?」

「…!」

 素早く物陰に入り込むミューノの後に続き、驚くココロンを引張ってフェリアも隠れる。そして気配のある方に視線を向ける。

 フェリアの魔族の眼は夜目が利き、暗がりの向こうに人影を見つける。

「誰か居る。小太りの男だ」


 フェリアの視線の先には、商人らしき男の姿。


 その男は灯りを手に、1人で商会の敷地を歩いている。

 ココロンもその姿を視認したらしく、驚いた声を上げる。

「あの男…!フェリア隊長、追いましょう!」

「ええっ!?」

「ちょっとココ…!」

 フェリア達の制止も間に合わず、ココロンが飛び出す。

(…あーもう!こうなりゃ仕方ない!)

 独断先行したココロンを追う形で、フェリア達も男を目指す。






 フェリアがココロンを追って行くと、彼女は物陰から商人の男を見ていた。彼女はフェリア達が追いついたのを確認すると、小声で囁く。

「フェリア隊長、あの男…バリオンって奴です…!」

「…誰?」

「何かヤバげな奴ですっ!」

「ココうるさい」

 ココロンの説明は、全く要領を得ない。それなのに彼女は声も大きめなので、フェリアをひやひやさせている。

 そんなココロンに呆れながら、ミューノが補足する。

「あの男…わたし達が調べた情報からして、ワレン商会のバリオンという男ですね。最近よくフィズン基地に来てはネイオレス団長に会っていたようです。そして夜間に荷物を動かしていたというのも、どうやらこの男のようですね」

「…ほほう、運が良いね」

 “消えた物資”事件の容疑者。

 そいつが今、目の前に居る。

 しめたとばかりに、3人はその男の後を追う。


 バリオンは灯りを手に歩いていたが、不意にその歩みを止めた。そこはやや小さめな倉庫の入り口で、どうやらそこに入ろうとしていた。

 それを見たココロンが、眼を輝かせる。

「…今です…!」

 何とココロンは、バリオンに襲い掛かろうとしたのだ。

「ちょ、待ってココロン…!」

「落ち着いてって…!」

 驚いたフェリアとミューノはそれを止めるが…遅かった。

 2人に引っ張られたココロンが、音を立てて倒れ込んだのだ。


「…何の音だ?」


 3人は慌てて物陰に戻るが、バリオンはこちらに視線を向けている。フェリアは息を殺し、ミューノはココロンの口を塞いで気配を殺す…。

 バリオンは動かない。

 3人も動かない。

 …そのまま10秒。


「…気のせいか」


 フェリアは拍子抜けする。

(えぇー…警戒心無さすぎない…?)

 フェリアは呆れて脱力する。それだけネイオレスもワレン商会も、こんな侵入は予想していなかったという事だろうか…とフェリアは内心苦笑する。

「…まあいいか」

 バリオンは倉庫の鍵を開けた。

 その時。


 フェリア達とは別の物陰から、雨具を被った誰かが飛び出す。

 そして杖を掲げて、素早くバリオンの背後を取る。

 そしてそいつは、可愛い声で呪文を唱える。

「『ドリーム・ペタル』!」

 杖の先から、桃色の花弁が舞い上がる。














 フェリア達は、ワレン商会の倉庫へ侵入に成功していた。


 倉庫の入り口は閉じられ、その傍らには商人バリオンが眠っている。今はミューノとココロンが、倉庫内を物色している。

 そして、フェリアの横にはバリオンを眠らせた魔法使いが。

「フェリア様、丁度良かったですわね♪」

「ホントだよ。まさかマリィルもここまで来ていたとはね…」

「ええ、私もラジィもフィズンの町は良く知っていますわ。それにラジィが良く騎士団基地を抜け出すので、実はここまで来るのはそう大変ではありませんでしたの♪」

「…それ、褒めていいのかどうか迷うね…」

 バリオンを眠らせたのはマリィルだった。彼女は得意気に、木術の媒体である琥珀が先端に着いた杖を握っている。

「それにしても、昼の『イリュージョン・ミスト』といいさっきの『ドリーム・ペタル』といい…マリィルは凄いね。どっちも上級魔法なんでしょ?」

「ええ、私は魔法が得意ですから♪フェリア様のお役に立てたのであれば、うれしい限りですわ♫」

「そっか、こちらこそありがとうねマリィル。でもあの催眠魔法はヤバイね…あんなすぐ眠らせちゃうなんて」

 マリィルの使った上級木術『ドリーム・ペタル』を受けたバリオンは、振り向くことも無く眠りに落ちたのだ。その効力にフェリアはだいぶ驚いていた。


 褒められたマリィルはとても自慢げだ。

「元々あの魔法にそこまでの効果はありませんので、私の異能『ムーンフォース』で強化していますわ。今日は雨ですけれど、天気は私の異能に影響ありませんの♪」

「なるほど、マリィルだからできたって訳ね」

 確かにマリィルは…雨具で隠れてはいるが…異能『ムーンフォース』を使っているようで体に光を帯びている。

(異能と魔法の併せ技…これが騎士としてのマリィルの強みなのかな)

 薄暗い倉庫で幽かに灯るマリィルの光を、フェリアは興味深く眺めた。




 そこでフェリアは、ちょっとした疑問。


「…で、ラージェは?」


 マリィルと共に行動している筈のラージェの姿が無いのだ。

「ええと…それが…」

 マリィルも困ったように首を傾げる。何と答えたらよいかを迷っているようで、躊躇いながら言葉を続ける。

「…迷子です」

「は?」

「その…ここに来て張り切ったラジィが先行してしまって…」

「それで見失ったと」

「ええ…そういう事になります」

「全くラージェは…」

 溜息を吐くフェリアだが、

「アタシ迷子じゃないよ」

「…え!?」


 いつの間にか、ラージェが倉庫に侵入していた。


 流石にフェリアも驚く。

「いつの間に!?」

「へへへ、アタシはコソコソするのが得意だからな!」

「い、意外だね。あんなに適当で声の大きいラージェがねぇ…」

「酷いね姉様、そもそもアタシ別に迷っちゃいないからね。ホラこれを見てよ!」

 ラージェは何やら、紙の束をフェリアに見せつけてくる。

「さっきここをウロウロ迷って…じゃなかった歩いてたらさ、見つけたんだよ。ネイオレスからワレン商会のバリオンって奴に宛てた手紙が。ご丁寧にネイオレスのサイン付だし、姉様を追い出す為とまで書いちゃってるよ」

「…その書状がこの量か。行けるね」

 それらは…ネイオレスが“消えた物資”事件を起こした証拠の1つになる書状。フェリアにとっては心強い武器だった。


 その時。

「隊長、ありましたよ…!」

「フェリア隊長、やりました」

 ココロンとミューノが手招きをしていた。フェリアはラージェから紙の束を受け取りながら、2人の所に近寄る。




 そこには…ネイオレスが言っていた“消えた物資”の入った木箱が、うず高く積まれていた。

















 深夜のフィズン基地。

 ネイオレスが、フェリア達の基地を訪れていた。


 兵舎の戸を叩くネイオレス。

「誰か…居るか」

 少しの間。

 中からは音もしない。

 ネイオレスがここに居る理由…それは、見張りをしていた部下が交替のために女性兵舎に来たのに、交代すべき前任者が居なかったからだった。その報告を受けた彼は、自らフェリアの様子を確認に来たのだ。

(…まさか、居ないのか?)

 中からはまだ音もしない。

 苛立つネイオレス。

 その時。


「…はい、ただ今」


 兵舎の中に灯りがつき、戸が開いた。

 出てきたのは、黒髪の女性騎士。

「…パルサレジア隊員か、遅くにすまんな」

 戸を開けてネイオレスを出迎えたのは、フェリアの部下になるため王都からやって来たミューノ・パルサレジアだった。彼女の“半魔族嫌い”の噂を知っていたネイオレスは、彼女にフェリアの監視を裏で命じていたのだ。

 そしてネイオレスは、現状を問いただす。

「フェリア達はどうしている」

「もう寝ています。夜も遅いので」

「そうか」

 そしてネイオレスはわざとらしく周囲を見回して、

「パルサレジア隊員、この兵舎の見張りをしていた私の部下が居なくなっているのだが…知らんか?」

「ああ、それでしたらこちらに」

 ミューノが視線を女性兵舎の中に向ける。


 兵舎の長椅子に、2人の騎士が寝ていた。


 眉を顰めるネイオレス。

「…何故寝ている」

「兵舎の外でうたた寝をされていました。風邪をひいても気の毒でしたので、中でお休みして頂いています」

「…まさかあの兎耳の仕業では無かろうな?奴は催眠魔法を会得している筈だ」

「いえ、大丈夫です。わたしが見ていましたから」

「うむ、ならばよかろう」

 ミューノの報告を聞き、ネイオレスは満足気だ。

 そんなネイオレスに、ミューノが進言する。

「ネイオレス様、今夜は夜通しわたしが見張りをします。それに半魔族の3人はもう諦めたような素振りでしたし、これ以上何かするとは思えません」

 ミューノの言葉に、ネイオレスがほくそ笑む。

「…うくくく、そうだな。では後を任せたぞ、パルサレジア隊員。これでフェリアを追放できれば、君は晴れて私の直属部隊に栄転だ」

「光栄で御座います」

 勝ち誇っているネイオレスは寝ていた兵士を起こして、そのまま女性兵舎を後にした。






 ネイオレスを見送ったミューノは、灯りを落とす。

 そして暗闇となった兵舎の中を、すいすいと歩く。

 そのままミューノは、暗い談話室へと入って行く。


「…ありがとミューノ」


 暗闇の中に、フェリアの姿。

 それだけでは無い。

 談話室の中には、ミューノを除く4人が息を潜めていたのだ。

「ネイオレスの奴、すっかり油断してたね!」

「もう勝ったも同然ですよ隊長!」

 ラージェとココロンは嬉しそうだ。ネイオレスは今夜のフェリア達の行動に全く気が付いていないようで、すっかり慢心しているようだった。

 …ただ1人、マリィルは少し陰があった。

「…ミューちゃん、貴女はネイオレス団長に言われて私達を見張っていた…これは、本当の事?」

 マリィルにしては強い語気でミューノに問う。

 皆、思わず黙る。

 しかしミューノは悪びれもしない。

「ええ、そうです。ここに来てすぐにネイオレス様にそう命じられましたから。しかし…わたしはネイオレス様では無く、フェリア隊長に付くことにしたので」

 ミューノはそこで言葉を切る、そして何故か髪を弄りながら…そっぽを向いてぼそぼそと小声で呟く。


「…だってココが可哀想で。あんなにフェリア小隊に入るのを楽しみにしていたのに、いきなりそれが頓挫したらきっと悲しむな…なんて…」


「ミュ~…!」

「わわっ!」

 涙声のココロンが、ミューノに飛びついた。暗闇なのでフェリアからは表情がよく見えなかったが、ぐずぐずと鼻をすする音がする。

「ちょ、ココ汚い!」

「ミュー、あたしは嬉しいよぉー…!」

「わ、わかったから…」

 ミューノの思わぬ言葉に、彼女を警戒していたらしいマリィルも胸を撫で下ろしていた。そしてマリィルはフェリアにそっと耳打ちをする。

「フェリア様、私達の小隊…割と良いかもしれませんね♪」

「…うん、そうだね」




 フェリアは自身の追放の危機が去りそうなことと、5人が良い感じの関係を作り始めていることに…心の中で安堵をしていたのだった。


こんな寒い中読んで下さっているどこかの誰かに感謝。

50話+αくらいで終わったらいいなと考えています。

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