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その60 はじまりの場所へ

遂に謎が解けたと思われる“聖者の戦衣”。

繋がったそれらは地図らしきものになり、その地図に残る血痕は…港町フィズンの西にある山を指していた。その場所はかつてフェリア達が“異世界転生”の策を始めた場所であり、つまり漣次郎がこの世界にやってきた最初の場所で…。

 日の出前のギゼロ河を横目に、数台の馬車が並んで進む。


 荷馬車を含むそれは一見商人のもので…商人の馬車が1台、護衛の用心棒の馬車が1台、あとは荷物を載せた大き荷馬車が1台という編成だ。

 しかしそれらは商人の物などでは無く、商人に扮した特務隊と王都騎士の一団だった。これから行う勇者像調査に関して真祖『月の民』に悟られる訳にはいかないので、特務隊はこうして密かに王都からフィズンを目指しているのだった。




「すごい景色だねぇ、箱庭で一生を過ごしたらこんなの見ることが出来なかったわ!」

 外から中が見えない荷馬車の中…そこには特務隊とヅェニワラが中に居た。漣次郎は一番奥に居て、その横にテルルが居る。その少し前にココロンとミューノが座りながら眠っており、出入口付近でヅェニワラが外の景色を眺めている。

「これがギゼロ河…古老から代々伝わる話では、この大河の流れを魔族が変えたらしいよ?」

「そんな馬鹿な…」

 飽きる事無くギゼロ河を見つめ続けるヅェニワラの口から出た言葉に、漣次郎は半信半疑でぼやく。

「こんな大きい河、いくら魔族だってどうこうできるものじゃないのでは?」

「あはは。流石に自分だって、それを素直に信じちゃいないよ」

 ヅェニワラは純白の尻尾を揺らしながら、楽しそうに漣次郎に振り返る。

「きっと昔の大人達がそういう話を子供にして、“異能はこんなに凄いんだ”って思い込ませたんじゃないかな?そうした方が、いい異能を発現する可能性も高くなるとか」

「…それなら最初から、子供に“異能は願いを叶えるもの”だって教えればいいじゃないですか。それならきっと皆、思い思いの異能を手に入れられそうですけど」

 これは漣次郎の、以前からの疑問。

 どうも魔族や半魔族は、異能がどういうものかを知っているように思えるのだ。しかし彼等はだいたい“異能は強い意志で発現する”としか言わず…誰もそれをはっきりと口にせず、特に子供達には言わないようにしているらしいのだ。

 しかし漣次郎の問いに、ヅェニワラはにやりと笑う。


「例えばさ…叶う可能性があると知っている願いに、心の底から真剣になれると思うかい?」


 ヅェニワラは視線を外から漣次郎に戻し…その後ちらりとテルルを見る。

「きっと本当に強い異能っていうのはね、叶わないと知っていても尚諦められないような…本当に切実な願いから生まれるものなんだよ。だから箱庭でもそれを口にする者は居なかったし、たぶん半魔族もそうなんだろうね」

「切実な願い…」

 漣次郎はヅェニワラの言葉に、思わず黙り込む。

(フェリアの『アストラル』、ラージェの『ソウルスワップ』、テルルの『スターダスト』、そして魔王の“スレイヴを生み出す異能”…これらは全部異様な力だ。ワールの『リペア』やマリィルの『ムーンフォース』は出所がまだ想像できるけど、あれらは想像もつかないよ)

 漣次郎は無意識に…隣に居るテルルの頭を撫でる。

 テルルもそれに応え、嬉しそうに尻尾を振る。

(テルルの異能は…亡くなったお母さんの幻影を追って、その日と同じ“流星群の夜”を再現する力だ。ラージェの異能も、あいつがあまり“使命”とやらに前向きじゃなかったらしい当たり…想像はできるな)

 漣次郎はこんな時だというのに、魔族の異能について思いを馳せる。


 そんな漣次郎の考えを読んだように、テルルが呟く。

「えへへ…レン、変なこと考えてるでしょ?」

「えっ?」

「テルルもこれから行く初めての街が楽しみだけど…皆でそこで何かやらなきゃいけないことがあるんだよね?」

「あ、そうだね…」

「レンもしっかり。テルルも頑張るからね」

(テルル…すごいしっかりしてきたなぁ)

 テルルはそう言いながら、体を漣次郎に預けてくる。

 漣次郎はテルルの成長に感嘆しつつ、気を引き締める。


 もうすぐ冬ノ月は、半分を迎える。

 冬の“流星群の日”は、冬季後節の後半だ。

 あまり時間がない以上、今回の勇者像調査はかなり重要なのだった。











「お久しぶりだね。こういう形での再会になるとは思わなかったけれど…」


 今日の早朝…特務隊はこっそりとフィズン基地入りをしており、フィズン騎士団と合流をする関係でとある人物と会っていた。

「お久しぶりです、マシェフ様…以前会ったときの僕はフェリアの姿でしたね。僕の本当の名前は漣次郎です、改めてよろしくお願いします」

「まさか男性だったとは…まあ、改めてよろしくね」

 その人はフィズン騎士団団長であり、現シュレンディア王の三男であり、次期王位継承者の若き王子マシェフ・アルデリアスだった。




「昨日の夜、僕の所に王都から密使が来たんだ。事情は聞いているけど…」


 久しぶりに会った団長マシェフは、目の下に隈を作ってやつれている。しかし父親譲りの眼力は十分にあり、彼が初めて見るであろう魔族に興味津々だった。

「は、はじめましてテルルです…。いちおう特務隊の仲間です」

「自分はヅェニワラ、銀嶺山に隠れ住んでいる魔族だよ。よろしくね王子様!」

 魔族の2人は、思い思いに騎士団長への挨拶を済ませる。

 …マシェフは王子といってもまだ年若い。テルルとは年も近く、好奇心旺盛に2人の魔族の姿をまじまじと見ている。

「魔王のスレイヴによる襲撃受けるこのフィズンにいると、必然的に魔族を“悪”と考えてしまう…それは僕だけじゃなく、フィズン騎士団やフィズンの住民もそうなんだ。だけど貴女達を見ると、魔族に対する認識が変わりそうだよ」

 そう言いながら、マシェフは執務室の窓からフィズン港の方を見つめる。


 フィズン港には今、小規模の簡易砦が複数建設されていた。魔族が超級以上の火術を使ってくる事は想定されているが…それの規模がよくわからない為、可能な限りの備えを行っているのが現状だった。


 マシェフは窓から視線を室内に戻し、漣次郎に微笑みかける。

「真祖『月の民』がフィズンに潜伏していると仮定した場合、あまり大規模な調査をすると感付かれてしまう。フィズン騎士団からはルゥイ小隊を特務隊の増援として出すから、一緒に西の山を調査してね」

「ルゥイ小隊ですか、顔見知りなのはありがたいですね」

「ふふ、彼等から申し出てきたんだよ?君達の力になりたいんだってさ」

「そうですか…」

 実は漣次郎は内心、とても感慨深かった。

 何だかんだ半年過ごしたフィズンは、彼にとってこの世界で一番馴染みのある地だった。その場所に帰ってきて、かつての友人達と一緒に任務に就く…それは漣次郎にとって、何とも言えない事だった。











「久しぶりだねレンジロウ!俺は待っていたよ!」

 魔族を除く特務隊の面々は私服に着替え、こっそりと馬車でフィズン西の小高い山に登っていた。その山頂、勇者アルヴァナの石像の下で待っていたのは…ルゥイとワールを始めとするルゥイ小隊の面々だった。


 そもそもフィズンは雪が少ないらしく、この山も寒いだけで調査に支障はなさそうだ。今は冬なので葉も完全に落ちており、お誂え向きの状況だった。

 そしてこの場所は、漣次郎にとってかなり感慨深い場所。

(戻ってきちゃった…この場所に。交通事故に遭った僕が、フェリアの魔法とラージェの異能で“異世界転生”する事になった所。何というか、スタート地点に戻った謎の懐かしさがあるなぁ)

 始まりの場所…ここに戻って来て改めて、彼はいろんな出来事を思い返す。




 調査に協力してくれるルゥイ達も地味な服装で、一目には騎士に見えない出で立ちをしている。しかし美形で背も高いルゥイは、こんな中でも存在感がなかなかだった。

「マシェフ様から聞いているけど…なんでも聖者の遺物を集めたらそれが地図になって、その地図がここを示していたんだって?」

「そうなんだよ。そしてその遺物の一部が…このヅェニワラさんの住む魔族の集落にあったんだ。だから調査には魔族の協力が必須なんだと僕は思っている」

 ここは街中からずいぶん離れた場所ではあるが、流石に万が一を考えて魔族2人は顔を隠している。ちなみに…足の負傷が癒えないミューノは基地に残っており、今日はここに居る全員を2つのグループに分けて山を調査する予定だった。


 皆がそれぞれ、班分けの意見を出し合う。

「そっか、じゃあ人をどう分けようか?魔族は1人ずつ居ないと駄目なんだろう?」

「とりあえず特務隊とルゥイ小隊を基本にしよう。僕と来る魔族は…」

「テルルはレンに付いて行くね」

「じゃあ自分がそのルゥイって奴の方に行けばいいのね?」

「あれれ、そういえばミューノ君は?」

「ミューは怪我してるから、基地で待機中でーす」

「レンジロウ側が少ねーな…人数合わせにオレがそっちに行くわ」

 そうして2組に分かれた彼等は、山中の獣道をかき分けて降り始める。


 元より皆、1日でここの調査が終わるなんて考えてもいなかった。






「お前らを待っている間オレも山頂付近をざっと見て回ったが、怪しそうな場所は無かったぞ?まあオレは半魔族だから、魔族のテルルには違って見えるのかもしれねぇが」

「どうなんだろうね?とりあえず見てみるよ」

「テルルが頼りなんだ、よろしくね」

 漣次郎側のメンバーはココロンとテルル、それにワールになっていた。ルゥイ側にも魔族が必要だったのであちらにはヅェニワラがおり、他のルゥイ小隊の面々と共に調査へと向かっていった。

 ミューノが居ない特務隊は少人数の為…人数合わせでこちらにはワールが来ているが、眠そうな彼は大欠伸をしている。

「おめーも分かっていると思うが、この山は過去に何度も調査されてるらしいぞ?何たって英雄であるアルヴァナの像があるからな、勇者の遺産を求めるバカ者共が山中荒らしたんだろ」

「…それでも、何も見つからなかったと」

「そーいう事らしいな。聖者が晩年に建てたらしい“勇者像”だってよぉ、ホントに聖者が作らせたのかも謎だしな」

「…」

 ワールの言葉を上の空で聞きながら、漣次郎は考えを巡らせる。

(人間がどれだけ探しても、何も見つからなかった…ね)

 漣次郎はこの一連の調査で、ある疑問をずっと持っている。


 “魔の侵攻”で犠牲になった魔族すらも丁重に葬ったという聖者。

 銀嶺山の魔族を保護したという聖者。

 聖者マルゲオスがどういう人物なのか…わからくなってきていた。


 匂いを嗅ぎながら、先頭を歩くテルル。

 その様子を興味深そうに見ながら、彼女の後ろにいるワール。

 五感の鈍い漣次郎とココロンはそれに後ろから付いて行く。

 元よりここは何もない山の中…目立つものはそもそも殆ど無い。それに過去の調査についてはマニアのココロンが詳しく、彼女曰く“ホントにそれらしいものは皆無”との事だ。

(やれやれ、わかってはいたけど厳しいね。こうなったらもう魔族の感覚に頼るしかないのかな?)

 もう諦めて“箱庭の魔族を何人か動員する”という案を考えている漣次郎。

 4人は冬山の獣道を、落ち葉を踏みしめながら歩き回る。











「何も見つからなかった?」

「申し訳ありません、マシェフ様…」

「いやいや、流石に一日で見つかるなんて最初から思っていないよ?」




 その日の調査で、漣次郎達は怪しいものを何も見つけることが出来なかった。

 冬の日没は早く…暗くなる前に一行はフィズン西山からフィズン基地へと戻っていた。漣次郎は今日の捜査についてマシェフに報告をしに来たのだが、“成果無し”というのも織り込み済みだったらしい彼はさほど気にかけていないようだ。

「今日はどのくらいの範囲を調査したの?」

「山頂の“勇者像”を中心に見て回りました。地図で言うとこの範囲で…」

 漣次郎はルゥイがマーキングをしていたという地図を取り出し、それを広げてマシェフに見せる。

「ふむふむ…全体を歩くだけなら、あと3日で終わるくらいかな?」

「ええ、そうですね。その間に何かを見つけられると良いのですが」

「よろしく頼むよ。フィズンの未来が掛かっているんだからね!」

 そう言うとマシェフは、急に悪戯っぽい笑顔になる。


「今日はもう休むと良いよ。特務隊の為に兵舎の部屋を用意しているからね」


「兵舎の部屋…」

 漣次郎は、マシェフの言わんとすることをなんとなく理解する。






「こういう形でここに戻って来るとはね」

 漣次郎はマシェフへの報告を終えた後、特務隊の皆と一緒に借りた兵舎の場所へと来ていた。そこは以前漣次郎が、何度も出入りしていた場所。

 フィズン騎士団基地の、“元”女性兵舎だ。




 フェリア小隊の解散後、フィズン基地には女性騎士が1人も居なくなっていたのだ。そのためフェリア小隊が使っていたこの兵舎は無人になり、誰も使っていなかったらしい。

 そこでマシェフは特務隊の為に、空いていたここを貸してくれたのだ。


「お帰りなさい、それとお疲れ様です」

 特務隊を出迎えたのは、今日の調査に参加できなかったミューノ。彼女は杖を片手にできる範囲で掃除をしていたようだ。

「ただいまミュー!あれぇー…夏の流星群以来誰も使っていなかった筈なのに、なんか綺麗じゃない?」

「マシェフ様の計らいで掃除とかしてくれたんじゃないかな」

「流石に物とか本は片付けられちゃってるねぇ…」

「当たり前じゃん、ここが無人になって随分経つからね」

 久しぶりにここへと帰ってきたミューノとココロンは、懐かしそうに中をふらふらとしている。机にも窓際にも埃は無く、誰かが掃除してくれたのだと漣次郎にもわかる。

「ふぇー…やっと取れるね」

 テルルは今日の調査でずっとしていた被り物を脱ぎ、気持ちよさそうに頭を振る。ヅェニワラは建物そのものに興味があるようで、速足にさっさと2階へ行ってしまった。

「レン、ここに住んでたの?」

「そうだね、前の姿の時に…」

「レンが使っていた部屋を見たいな」

「えー、たぶん何も無いよ?」

「いいからお願い」

「はいはい、こっちだよ」

 テルルにせがまれ、二階にあったフェリアの部屋に彼女を案内する漣次郎。


 彼にとっても、ここは懐かしい場所だった。

(まさかここに戻ってくる事があるなんてね。流星群の夜、フェリアが戻ってきてラージェに斬られたあの日が…もう遥か昔の事みたい)

 漣次郎は兵舎の二階に上がり、宵のフィズン基地を窓から眺める。






 漣次郎は久方振りに、“フェリアの自室”の扉を開いた。

 そこは…備え付けの寝台と机と椅子が1つずつある、ちょっとした広さの部屋。私物は一切無いが、相変わらず窓から夕陽は差し込んでいる。

 その時、テルルが耳を立てる。

「…かすかにだけど、ラージェ様の匂い!?」

「え?ああ、向かいの部屋をラージェが使っていたね」

「テルル、そっちも見てくる!」

 テルルはくるりと身を翻し、向かいの部屋に駆け込んでいく。




 部屋で1人になった漣次郎は、椅子に座り込む。

 そうして目を閉じ、体の力を抜く。


『なんだなんだ姉様?朝から鏡をじっくり見ちゃってさぁ。ひょっとして…自分に見惚れていたのかな?姉様美人だもんね!』

『さあフェリア様、まだまだ思い出せないことがあるのでしょう?ならば何でも聞いて下さいな。私の事なら、フェリア様に何でも教えて差し上げますわ♪』

『フェリア隊長の下で騎士として仕事ができるなんて、あたし感激です!超がんばるのでよろしくお願いしまーす!!』

『失礼とは思いますが、わたしは半魔族と慣れ合う気はありません。命令には従いますが、それ以上親しくする気はありませんので』


 懐かしい場所に帰ってきて、かつての記憶が蘇る。

(そういえば僕、最初は“フェリアの遺志を継ぐ!”とか言って頑張っていたんだっけ?転生してしまったのはしょうがないって割り切ってさ)

 漣次郎は、今までの出来事を振り返る…。

(フェリア小隊も…何だかんだ楽しかったな。ミューノが諜報員だって分かった時はちょっと驚いたけど、まあそれでもやっていける気はしたのにな)

 ゆっくりと目を空け、もう沈みそうな夕陽を見つめる。

(でも結局全部フェリア達の計画で、僕はラージェに消されそうになったんだけどね。まだ傷跡も残ってるし)

 漣次郎は椅子から立ち上がり、扉の取っ手に触れる。

(そして僕は、利用したフェリアへの反撃を試みたんだ。だけどテルルの話を聞いて、箱庭の事を知って、ラージェの話を聞いて…その気持ちが変わってしまっている。今の僕がしたいことは、もう違う気がする)

 そして漣次郎は、フェリアの部屋を後にする。











 その夜、特務隊は元女性兵舎で休んでいた。

 ここは元々カイン王が、フェリアを中心にした部隊の拠点とするべく作った場所。増築する気満々だったらしいここは最初から部屋がやけに多く、フェリア小隊が使っていなかった部屋もいくつかあるのだ。

 元フェリア小隊の3人は各自が元々使っていた部屋を、テルルはラージェの部屋を、ヅェニワラは誰も使っていなかった部屋に入っている。港町のここは微妙に風が強く、窓がガタガタと音を立てている。




 そんな夜中の事。

「レンジロウ、起きているかい?」

 漣次郎のいる部屋の戸を叩く音。

 寝台に寝そべっていた彼は、のそりと起き上がって戸を開ける。

 声の主はわかりきっている。

「こんな遅くに悪いねレンジロウ」

「ヅェニワラさん、どうしたんですか?」

「ちょっとだけね、言っておこうと思ったことがあってさ」

(…まーたテルルの機嫌が悪くなりそう。でもまあいいか、気になるし)

 という事で、漣次郎はヅェニワラを招き入れる。


「本当にありがとね、里の外を自由に歩き回れるなんて夢のようだよ。それにあのビスロって人が本もくれるっていうし、本当に感謝だよ!」

 ヅェニワラは部屋の椅子に座って足を組み、興奮気味に目を輝かせている。箱庭の外に出ることを望んでいた彼女にとって、人間の街を回るのは非常に楽しいのだろう。

「あのルゥイって男もいい奴だよ。自分は魔族な上に殆ど初対面だったのに、あいつ紳士的で優しくて…あれが良い人間って奴なのかね?」

「あー…ルゥイは本当にいい奴だね。半魔族のワールと親友になってるし」

「いやーいい経験になった!できれば定期的に遊びに来たいくらいだよ」

「そうですね、今回の任務で成果を上げられればいけるかも」

「ふぅーん、じゃあ頑張らないといけないわね」

 そう言うとヅェニワラは目を細め…小さく呟く。


「あの山、何かがあるのは間違い無いよ」


 漣次郎は目を丸くする。

「本当ですか!?」

「ええ、確かに異能の気配を感じたわ。たぶんだけど、きっと山の北側だと思う」

「北…ですか。そっちに気配が?」

「いや、これは自分の勘さ」

 勇者像のあるフィズン西山、その北側は広大な海だ。魔族が住むというデルゲオ島も北方にあるとされ、実際に魔王の使い魔“スレイヴ”は北の海からやって来る。

 しかし漣次郎には、ヅェニワラが北と言う理由がわからない。

「なんで北に…だって魔族が攻めて来たら見つけられちゃうかもしれないんですよ?実際に2年前の“魔の再来”だって、フィズンが落とされたらそれこそ…」

「それだよ」

 ヅェニワラは、口角を僅かに上げる。


「たぶん聖者マルゲオスは、あそこにある物を魔族に見つけられても良いと思っていたんじゃないかな?」


 ヅェニワラの視線は、暗い窓の外に向く。

「そもそもフィズンに隠してある時点で不用心さね。ここは元々魔族の地で、彼等が取り戻そうと必死になっている場所…魔族に取られて困るものを、こんな地に隠さないでしょ」

「…」

「それに聖者は、自分達“朧の箱庭”の魔族を救ってくれたんだ。彼は魔族と何かしらの縁があったんだろう」

 なかなか過激な仮説を語るヅェニワラだが、彼女の語るそれは…漣次郎も密かに考えていたのと同じだった。

(うーん、やっぱり聖者は魔族と親しかったのか…?しかしいずれにせよ、ラージェにもう一度詳しく話を聞くべきなのかもしれない。ラージェ曰く“賢者ロディエルは魔王の息子”らしいから)


 もしかしたらあの山には“秘伝術の魔法陣”以上に大変なものが眠っているのではないか…漣次郎の胸は、思いもしていなかった期待に踊っていた。


こんな遠くまで来てくださった皆様に感謝を。

ここまで長くなる筈では無かったのですが。

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