その59 繋がる断片
朧の箱庭から来た魔族ヅェニワラのお陰で、遂に“聖者の戦衣”はその全てが揃った。青と緑と茶の三色と、幾何学的な紋様の布片、そして一点の血痕…その布を組み合わせて完成したものの正体は…。
寒い冬の風が吹き付ける砂浜に、2つの人影。
「漣次郎に会ってきたよ。彼、思ったより元気そうだったね」
「フェリア様ったら、急に居なくなったと思ったら大陸へ行っていたんですね。せめて誰かに一声掛けて下さらないと、皆が心配しますわよ?」
「あはは、ゴメンって。でもおかげで真祖の皆の様子が分かったし、今年の黄金祭も遠巻きに楽しめたよ」
「もう…フェリア様ったら」
砂浜に居るのは、フェリアとマリィル。
その広大な砂浜には他に誰もおらず、彼女達の背後には岩ばかりの荒野が広がっている。遮蔽物の無いその海岸には風が強く吹いており、マリィルの兎耳と柔らかな金髪が靡いている。
フェリアはというと…荒れる冬の海を、満面の笑みで見つめている。
「父上の計画は順調さ。整地も予定通りに完了したし、あとは黒曜石を配置して流星群を待つだけだよ。僕の出る幕は殆ど残っていないし、あとは好きなようにやるさ」
「そうは言ってもフェリア様…フィズン奪還戦の先陣は貴女なのですわよ?」
「それはもちろん分っているさ」
気楽なフェリアにマリィルが苦言を呈すが、彼女は意に介さない。
そうしてフェリアは視線をマリィルに移し…その手を優しく取る。
「計画実行の“焦天の日”は冬の流星群の日。きっとそれまでにシュレンディアは何か手を打つ筈…だから僕はそれに備えるよ。君も心しておいてくれ、マリィル」
思わぬ言葉に驚いた表情を見せるマリィルだったが、彼女はフェリアの手を強く握り返す。
「うふふ…私はフェリア様を信じていますから。正直な所、私はフェリア様のお役に立てさえすれば他の何も要りませんわ♪」
「君は相変わらずだね、マリィル」
2人はそのまま、暫く一緒に海を見つめていた。
「いやー…自分の想像以上だよここは!銀嶺山麓の街も大きかったけど、この王都とやらはその比にならないわね!」
冬季のシュレンディア王都、その城壁の上。
薄く雪の積もる石造りの城壁の上に、狐獣人ヅェニワラが嬉しそうに足跡を残していく。漣次郎より1歳年上だというのに、彼女は子供のような軽やかな足取りでどんどん行ってしまう。
「ちょ、ヅェニワラさん待って下さいよ…」
「あはは!悪いねレンジロウ、年甲斐もなくはしゃいじゃってさ!」
広い王都を見下ろせるこの場所、来たいと言い出したのはヅェニワラだった。
“朧の箱庭”に代々伝わっていた聖者の戦衣…それをシュレンディアに残る戦衣と合わせるため、漣次郎は昨日ヅェニワラを連れて王都へやって来ていた。
漣次郎が予め説明をしていたものの、魔族のヅェニワラが実際に現れると流石に皆驚いていた。しかしミューノやココロン、大司教ナディルは好意的な反応を見せ、それが漣次郎にとって意外だった。
しかしパズルのような戦衣の絵合わせ…それらはミューノとココロン、あとはラミ教団の司祭達にお願いをしており、戦衣を貸して持ち帰るだけが仕事のヅェニワラは早速暇になっていたのだ。
そして今は、彼女の希望である“王都観光”をやっているのだ。
しかしその辺の事情、表立っては公表されていない。
だが漣次郎としては、ヅェニワラには何かお返しをしたかった。
という事で、トラブル防止のため彼女は今特務隊の紺の制服に袖を通している。
「ねえレンジロウ、もっと街中には行けないかい?自分はもっと間近で見て、人間と話もしてみたいよ」
「それはちょっと…」
「持って帰れるものも欲しいわね、本とか手に入ると嬉しいんだけど」
「それは僕が何とかしますよ」
「本は自分で選びたいわねー」
「だからそれは難しいんですって…」
魔族のヅェニワラが街中を歩くわけにもいかず、こうして騎士しか立ち入らない城壁の上を歩いているのだが…やはり彼女はちょっとだけ不満そうだ。
「ヅェニワラさんが街中に行くとしたら、もうちょっと魔族感を隠さないと無理ですって。顔や手足だけじゃなく、その大きな尻尾も隠して…」
「えー!?テルルちゃんはもっと軽装じゃないのさ。自分、あまり窮屈なのは嫌なんだけど」
「わふ…テルルの事は、ビスロ様がちゃんと認めてくれたもん」
漣次郎とヅェニワラの後方、少し距離を取ってテルルも来ている。
彼女は、露骨にムスッとしている…。
昨日ヅェニワラが来て以降、テルルはずっと不機嫌だ。
理由はわかるが…どうすればいいか漣次郎は困っている。
(テルルも別に、ヅェニワラさんの事を嫌っているわけじゃ無いんだろうけど…)
好奇心旺盛で積極的なヅェニワラは、元々距離感が妙に近い。
そして漣次郎としても、あえてそれを指摘したりする事は無い。
それが気に入らないんだろうが…。
「テルルちゃん大丈夫よ。自分はレンジロウを取ったりしないから」
「むー…」
当のヅェニワラも勿論その辺を分かっているので、テルルを心配させないよう軽い感じで言ってくれるのだが…テルルの表情は冴えない。
「それでも、嫌なの」
「困ったわねぇ…レンジロウには箱庭に送って貰わないととだから、最低もう一回は自分の匂いが付くんだけど」
「…」
「それに、今度はラージェちゃんも一緒よ?」
「ラージェ様は良いよ、ラージェ様だもん」
そう言いながらテルルは、漣次郎の腕に飛び付いた。
今回の件、戦衣から何かが判明した暁には…ヅェニワラだけでなくラージェも箱庭に送る予定だった。シュレンディアに居場所が無く、デルゲオ島にも帰りたがらず、だが特務隊にも協力できない…そんな彼女の行き場所として漣次郎が提案したのがそれだったのだ。
「箱庭分も含め、戦衣の布片は全て歪な四角形ですね。元の形状も四角形と見て間違い無いでしょう」
「しかし全ての布片に、それぞれ1カ所以上の直角が存在している。どれが元々の角部かも分らんぞ?」
「色彩は青、緑、茶の3色のみで…模様は細線の円弧だけのようです。どちらかだけ合わせるのか、それとも両方を合わせるのか…」
昨夜“朧の箱庭”から戦衣が持ち込まれ、王城地下室ではその復元作業が夜通し続けられていた。布片は紙に複写され、89枚1組の複製がいくつか作られて…数組の司祭達が絵合わせを続けている。
その中には、ミューノとココロンの姿もあった。
「…ミュー、なんかこれあたしが子供の頃に遊んだおもちゃに似てる」
「そうなの?これ結構面白いよね」
「面白いかなぁ…?難しすぎてあたしの手に負えないよ…」
昨夜の所は司祭達に任せて一度寝た特務隊は、今日それぞれ別行動をしている。戦衣の複製はそんなに数多く作れなかったこともあり、漣次郎はヅェニワラとテルルを連れて外出している。
ミューノとココロンは戦衣合わせの方に居るのだが…開始数分で、ココロンは既に音を上げている。
「あとはミューや司祭さん達に任せちゃおうかな?」
「そんなこと言ってないで、ココも一緒に考えてよ」
「ふーんだ、そもそもあたしに頭脳労働は無理だよ?」
「開き直らないでよ…」
そうは言うものの、ミューノもこれがココロン向きの仕事ではないのが一目瞭然だった。体を動かすのが好きなココロンに机上の仕事は、正直な所相性が悪い。
「…でも、ミューは楽しそうね」
「そうだね」
こういう地味な仕事を好むミューノは、表情に出さないものの…実は内心非常に楽しんでいた。
(夜通しやっていたラミ教団がまとめた資料を見るに…たぶん青色の広い地があるみたい。緑と茶色は斑っぽいけど、その中にどうも太い青い線が一本走っている。書きまくってある細い曲線も、最後は全部合うんだろうな)
もう飽きてしまったココロンに頬をツンツンつつかれながらも、彼女は四角形の布片との戦いに没頭する…。
短い王都観光を済ませて漣次郎達が王城の地下室に戻ると、そこにはアイラ姫やカイン王を含む大勢の人が押しかけていた。漣次郎の戻りに真っ先に気付いたミューノが、真っ先に駆け寄って来る。
「レンさん、帰ってきましたか」
「ただいま。こっちの状況は?」
「ラミ教団が夜中も進めてくれたおかげで“恐らくこれだろう”っていうのが出来ています。ただ…それが何を意味するのかがいまいち分かんないです」
「成程ね…」
漣次郎が現れたのを見て、皆が道を空ける。
そして彼らの間を通り抜け…レンジロウとヅェニワラとテルルが、復元されたと思われる“聖者の戦衣”の置かれた机の前に立つ。
完成したそれの図柄は…青地に描かれた、大きな三角形だった。
「…なにこれ、山?」
漣次郎の第一印象はそれだった。
緑と茶の斑な三角形は、青空を背景にした“山”の絵に見える。
無作為な細線は合わせる為の補助線らしく、特に意味は無さそうだ。
また茶と緑の三角形の中には、微妙に太い青線が引かれている。
「恐らくこれは、布に絵を描いた上で切り分けられています。全面に引かれている細い曲線模様は、きっと復元する事を想定した補助的なものですね。あとこうして完成して確信に至りましたが、これは聖者が実際に纏ったものでは無さそうですわ」
大司教ナディルも興味深そうに、完成した“戦衣”を見つめている。
彼女の言う通り確かにこれはただの布のようで、言い伝えにあるような服では無さそうだ。
「でも、血痕はあるんですね」
「ええ。太陽祈院に残されていたうち一片の、ただ一カ所のみでしたが」
その中、緑に囲まれた1点に…乾ききった血液の染みが残っている。
「やはりこの絵、銀嶺山なのか…?」
「聖者と関連している遺物である以上、その可能性が…」
「まさか、この血痕の位置にも意味が…?」
皆が完成した“戦衣”に異議を唱えなかったので、これが完成形と仮定して考察が開始されていた。大司教ナディルを始めとするラミ教団関係者は、これが聖地・銀嶺山の絵だと考えているようだ。
漣次郎も試しに、ヅェニワラに聞いてみる。
「ねえヅェニワラさん、この絵が銀嶺山だとして…この血痕の位置に何があるかわかる?」
「血痕ねぇ…」
しかしヅェニワラの表情は冴えない。
「そもそもこれが銀嶺山だとしても、どの方角から見た絵なんだか」
「あっ…そうか」
確かに彼女の言う通りで、これが絵だとしたら視点がどこなのか不明なのだ。これではもし仮定が合っていたとしても、捜索すべき場所が全くわからない。
漣次郎は困り、今度は太い青線を指す。
「じゃ、じゃあ山中に大きな川があるとか…?」
「沢ならいっぱいあるけど、特に大きいのとかは無いんだよねー」
「そんな…」
戦衣は完成したものの、これの意味する所が分からない。
皆が考えを巡らせる中…ココロンがぽつりとつぶやく。
「ふーん、絵ですか。あたしはてっきり地図か何かかと…」
その瞬間…漣次郎は閃く。
あとは衝動のままだった。
「一瞬離席します」
「レンさんどうしました?」
「<アストラル>!」
「ちょ、どこ行くんです!?」
その一瞬で、漣次郎の姿は消え失せる。
漣次郎が降り立ったのは…かつて彼が住んでいた町の埠頭。
「な、なんだあんた急に!」
「どっから現れた!?」
周囲の人が驚くが、漣次郎は意に介さない。
指に嵌めた金剛石の指輪に意識を集中する。
「『アーク・ウィング』!」
次の瞬間、漣次郎は上級白術で遥か上空へと一気に飛び立つ。
冬の冷たい空。
上空は特に風が強い。
漣次郎は凍えながらも…曇天を背に真下を見つめる。
そこは、シュレンディア王国の北端の街フィズン。
大陸の北端でもあるここは、切っ先のような形の港町だ。
(あの絵…青地は海で、緑は森林と田園、茶色が町だったんだ。太い青い線は…町のずっと東で海に合流するギゼロ河だね)
聖者の戦衣に描かれていたのは銀嶺山ではなく、恐らくフィズンの地図だったのだ。
そして漣次郎は、地図上で血痕のあった方に目を向ける。
(成程ね…そういう事か!)
戦衣の血痕が示す位置は…フィズンの街の西外れ。
勇者アルヴァナの石像が置かれている、小高い山の位置だった。
“聖者の戦衣”完成を受け、特務隊はフィズン行きを命じられた。
戦衣の模様を“フィズンの地図”と考えた漣次郎の意見で、戦衣に残る聖者の血痕が示す場所…勇者像のある山を調べる事に決まったのだ。
しかしフィズンにまだ真祖『月の民』が潜んでいる可能性を考慮し、移動は慎重に行う予定だった。仮に情報が漏れた場合に先を越される可能性もあるし、特務隊の調査を妨害される可能性も考えられるからだ。
故にフィズンへの移動は“商人に扮した王都騎士団”と共に行う予定だ。そして騎士団側の準備を待ち、特務隊はその間勇者像に関する調査を行っていたのだ。
「勇者像ねぇ…妾の知る限り、あの山には何も無い筈よ?」
薄暗い王都ラミ神殿の禁書房には、漣次郎とミューノとココロン、あと何故かアイラ姫がいた。ちなみにテルルはヅェニワラを連れてビスロ邸へと帰っており、今ここには居ない。
「勇者像…三英傑の1人であるアルヴァナの活躍を讃えて作られた物だとは言われていますけど、いつ誰が作ったとかが一切不明なんですよね。それに王都魔法院の賢者像と太陽祈院の聖者像はお墓も一緒にあるのに、勇者のお墓は所在が不明なんです。前にも言いましたけど、これも三英傑の七不思議の1つですよ」
三英傑絡みという事もあって、ココロンが目を輝かせて自慢げに話をしている。アイラ姫も何やら見た事の無いような本を持ち出し、それをミューノと共に読んでいる。
「これは王家の持っている記録の1つでね、三英傑と共に戦ったイリューザ王の日記らしいの。勇者像についてこれ以上に詳しい記録はきっと無いわよ?」
「わたしも昨夜パルサレジア公のお屋敷に直接伺ったんですけど、やっぱりそういう記録はなかなか無いようです。アルヴァナの墓を求め、過去に調査をした者達も大勢居たみたいですが」
信奉者の多い勇者アルヴァナの墓を探した者達は過去にも居たようで、あの山は既に調査し尽くされているらしい。それで何も見つかっていないというのが腑に落ちない漣次郎ではあったが…。
しかし漣次郎には、当てが無いことも無かった。
「たぶん…魔族にしか見つけられないものがあそこにあると思うんだ」
それが漣次郎の読みだった。
「戦衣の一部がわざわざ箱庭に残されていた…つまり戦衣は、箱庭の魔族がシュレンディアと和解しなければ完成しないようになっていたんだよ」
「つまりあの山にあるかもしれない“何か”を発見するには、魔族の協力が必須だと?あの聖者がそう仕向けたと言うんですか?」
「僕はそう思う」
しかしミューノは、その漣次郎の考えに懐疑的だ。
「そんなまさか…フィズンは常に魔族の襲撃を受ける場所ですよ?“魔の再来”の際の主戦場はフィズン港でしたが、もし魔族のフィズン上陸を許したら危険じゃないですか?」
「いや…」
漣次郎は口元に手を当て、迷いながらも考えている。
(聖者は…それでも良いと思っていたとか?)
これは漣次郎の、過激な仮説。
ラージェの語った『魔族の歴史』がある程度正しかった場合、そういう可能性もあると漣次郎は思っていたのだ。
その夜、憲兵隊本部の片隅にあるラージェの部屋に…妙に人が集まっていた。
「そうか、フィズンの西山…。アタシ達が“フェリア記憶喪失”の策を始めた場所じゃないか、灯台下暗しってやつだね」
ラージェにあてがわれているこの狭い部屋には…テルルとヅェニワラ、それに何故かココロンが居た。これはテルルが今日の結果をラージェに伝えたいと言い出したからだった。
一通りの話を聞き、ラージェは溜息を吐く。しかし彼女はそこまで残念がっているようでは無さそうだった。そんな彼女に、ココロンが興奮気味に捲し立てている。
「そうなんですよ!シュレンディア史でも過去に注目されたことのある場所ではありますけど、過去の調査で何かが見つかったという記録は一切無いんです!カイン王や大司教のナディル様ですら詳しい事を知らない勇者像…あの山にはきっと何か凄い物が隠されていて、もしかしたら秘伝術の魔法陣があるかも!?」
「…それ、アタシに喋っていい内容じゃ無いよ?アタシの所には姉様が来る可能性もあるんだし、もっと慎重になりなよ」
「そうですか?レンさんは別に良いって言ってましたし、あたしも大丈夫だと思ってますけど?」
「あっそう…」
「ねーねーラジィさん、そういえばテルちゃんの異能って何なのか知ってます?レンさんもテルちゃんも教えてくれないけど、もしかしてそういう物を探す向きの異能だったり!?」
「アタシは喋らないよ。テルルが話したくないって言うならアタシはそれを尊重するだけさ」
「えーケチ」
“もうフェリア達に協力しない”と言っているとはいえ、王政はまだラージェを信用していない。しかし漣次郎はラージェとテルルの関係性を考慮し、彼女には色々と大っぴらにしていた。
テルルはもう眠そうで、ヅェニワラの隣で舟を漕いでいる。
ラージェは熱の入るココロンの語りに耳を傾けながら…何とも言えない微妙な表情を浮かべている。
「あのさ、ココロン」
「何ですかラジィさん?」
「何でアタシの事を、以前みたいに呼んでくれるの?」
ココロンは何故か、ずっと彼女の事を“ラジィさん”という愛称で呼んでいた。それがラージェにとっては不思議でならないようだ。
しかしココロンは、さも当然のように言ってのける。
「まあ、もう騙されていた件は良いんです。ラジィさんも辛い思いをしていたんだって事で、あたしは納得していますから!」
「…」
「それにフェリアさんの事も…」
ココロンはまだ、心のどこかでフェリアを慕っている。
ラージェはそんな彼女に、優しい笑みを向ける。
「…姉様はね、ワルハラン特区の半魔族の境遇に心を痛めていた…それは事実なんだ。姉様は使命を全うする為に頑張っていたけど、あの人結構直情的だからね」
「そうなんですか?」
「ちなみに姉様、君の事は本当に気に入っていたようだよココロン?姉様は昔から、可愛い女の子に目が無いからね」
そんな他愛の無い話をしながら、2人はのんびりと語り合う。
「何だかんだ、レンさんの復讐も順調じゃないですか。流石ですね」
「そんな事は無いって。君やテルル、他の皆の協力があったからだよ」
テルル達がラージェの所に行っている時、漣次郎はビスロ邸で借りている自室に戻ってぐったりとしていた。
閃きがあったとはいえ…フィズンに異能で飛んだ上に上級白術まで連続使用、さらにそのまま王都に異能ですぐ帰ってきたのだ。異能と高位魔法を連続使用した疲労で漣次郎は参っており、こうして休んでいたのだった。
今はミューノが、休む漣次郎に付き添ってくれている。
「ココってば、三英傑絡みの話になってきて大はしゃぎなんですよ。もしかしたら歴史的な大発見の瞬間に立ち会えるかもしれないんですから」
「そうだね」
「でも…実はわたしも正直かなり興奮していますよ、柄にもなくね。あの山に何かあるのか、それを見つけられるのか…まだまだ何とも言えませんけど、いい予感はあります」
「へぇ、ミューノはそういうのにあまり興味無さそうだったけど?」
「ココの影響ですかね?まあ色々と衝撃的な事が続いているっていう事もありますけど」
いつもクールなミューノだが、今日はなかなかに興奮気味だ。頬を紅潮させながら、口元には笑みまで浮かんでいる。
しかし…漣次郎は浮かない表情だ。
ミューノは漣次郎の様子を伺いながら…不思議そうに呟く。
「…あまり嬉しそうじゃないですね、レンさん」
「うーん、そう見える?」
「貴方を散々利用したフェリアさんに復讐できそうなのに、なんか浮かない顔してるんで」
図星の漣次郎は苦笑いし…正直に打ち明ける。
「何というか…実は僕、フェリアの企みを阻止できた時点で満足しちゃったんだよね。それに何というか、魔族の事情も気になってきちゃって」
漣次郎の表情を覗き込み、ミューノは呆れたように肩を竦める。
「…まあ、お人好しな貴方らしいといえばそれまでですけど」
「あはは、悪いね。これが僕の性分らしい」
そう言いながらも、漣次郎は勇者像の謎に心を躍らせていた。
あそこで何かを見つけられる予感は…漣次郎も感じていた。
こんなところまでお付き合い頂いている皆様に感謝を。
これからどうしたものか…なかなか筆は進みません。




