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その58 箱庭からの使者

黄金祭で真祖の襲撃を退けた特務隊は、遂に本命だった“聖者の戦衣”収集に乗り出す。シュレンディア中の神殿に祀られているものと、“朧の箱庭”に置かれている分…それらを集めればきっと何かが見えてくると漣次郎は考えているが…。

「姉様に会った…?」




 夜通し行われた黄金祭、その翌朝。

 漣次郎は憲兵隊本部に居るラージェの元を訪れていた。

「昨日の夜、フェリアが王都の路地裏に1人で来ていたんだ。だけどなんか…僕とお喋りしに来ただけみたいで、何もせずに帰って行ったよ」

「ふーん、まあ姉様らしいけど」

 ラージェの待遇は、“独房”から“憲兵隊本部の一室”に変わっていた。

 それはラージェの扱いを悲しんでいたテルルの望んだ事で、その思いを汲んだ漣次郎がビスロにそれを頼み込んでこういう形になっていた。

 当のラージェは、どんな扱いでも全く気にしていなかったのだが。


 ラージェはもう真祖との関わりも無く、ここで穏やかに過ごしている。なのでラージェを慕うテルルを連れて、漣次郎は彼女の元を時々訪れていた。

「実は昨夜…王都に侵入していた真祖『月の民』に、ミューノとココロンが襲われたんだ。フェリアはそれに関わって無いとは言っていたけど、本当の所どうなんだか…」

「ミューノとココロンが襲われた?2人は大丈夫なの?」

「うーん…ミューノが矢を受けて怪我をしたけど、大事には至らなかったよ。あとミューノの血の匂いに気付いたテルルを頼りに援護に向かったんだけど、結局真祖には逃げられちゃった」

 そこまで広くない、見張りの付いているその部屋。

 ラージェは窓際に置いた椅子にゆったりと座り、いつもポニーテールにしていた銀髪を下ろして本を読んでいた。寒がりなのか結構な厚着をしており、その背後から爬虫類の長い尻尾が垂れている。

「おかしいな、真祖にはワルハランでの作戦後は大人しくして貰う予定だったんだけど。姉様は直接真祖に指示を出さないだろうから、彼等が勝手にやったんだろうね」

「フェリアもそうは言っていたけど…」

「アタシ達の計画がバレてシュレンディアはもうフィズンの強化を始めてしまったからね、今更真祖が内側を乱したところであまり関係無いよ。真祖は十分な働きをしてくれたから、きっと魔王様だって喜んでいる」

 ラージェは本を読みながら淡々と語る。

 彼女は“フェリア達について多くを語る気がない”と言ったものの…この程度の情報なら話してくれるので、漣次郎はそういう探りを入れるのに重宝している。


 ひとしきり話を終えると、ラージェは本を閉じて立ち上がる。

「…そろそろ時間だね?」

「うん、一緒に来て貰うね。王城で君に見てほしいものがあるから」

「貴方に聞いた通りの物であれば、それは恐らくアタシも見たかったものだろう。ちょっと楽しみだな」

「憲兵隊が馬車を用意してくれているから、それに乗って行くよ」

「…というか、行くなら貴方の異能じゃ駄目なのか?」

「えー…僕黄金祭の前から異能を使いまくって疲れてて。勘弁してよ」

「ふーん。そういえば今日テルルは?」

「怪我したミューノのお見舞いにね」

「ふふ、優しい娘だ」

 そうして漣次郎とラージェは、憲兵に付き添われて彼らの馬車で王城へと向かう。











「ミューごめん、あたしを庇ってこんな…」

「いいよいいよ。むしろわたしが油断し過ぎていたのが拙かったから」

 王都城壁外にある、この国最大の病院。

 その一角…個室の病室にミューノとココロン、テルルがいる。昨夜の“真祖襲撃”の件で受けた怪我の処置をされたミューノがベッドに横たわり、その脇で半泣きのココロンが椅子に座っていた。


 憲兵に変装した真祖『月の民』に襲われた2人だったが…王都地下水道をよく知り夜目が利くミューノの案内とココロンの中級土術『アクセル・オーラ』を合わせ、暗い地下水道を爆走するという離れ業で難を逃れていたのだ。


 幸いミューノの傷は急所を外れており、数日の治療で治るという。しかし片腿をやられてしまった為、歩くのには暫く支障が出そうだ。

 しかし…ココロンは泣きじゃくっている。

「あたしがもっと早くおかしいことに気付けば…」

「そんなこと無いよ、わたしもお祭りで浮かれちゃっていたから。その…今年の黄金祭もココと一緒に居られて嬉しかったの」

「ミュー…」

 病床に居るミューノは動くほうの腕で、ココロンをそっと抱き寄せる。沈むココロンは体をそのままミューノに預ける。

「でもココ、今回の作戦は王都の真祖『月の民』全員が関わっていたみたいだよ?わたしとココが逃げ回った地下水路に大勢居たみたいでね、失敗したと分かって全員が王都から逃げ去ったようなの」

「うん…」

「今は騎士団が彼等を追ってくれているからね、わたし達は元の任務に集中しよう。レンさんが例の物を順繰りに集めてくれていて、今日それがようやく王城に揃うんだ。わたしはあまり動けないけど、絵合わせ位なら協力できるしね」

「…そうだね」

 仲睦まじくするミューノとココロンの横…暇そうなテルルが大欠伸をしている。最初こそミューノを心配していた彼女だが、ミューノが存外余裕そうだったのでもう帰りたそうにしている。

 実際の所…今回の事件、特務隊の任務にはさほど支障がなかった。




 医者から痛み止め等々を処方されたミューノは、杖を片手に病院の廊下を歩く。心配するココロンをよそにミューノは軽快に歩いており、その姿をテルルが面白そうに見ていた。

「ねえテルルちゃん、レンさんどこに行くって言ってた?」

「ラージェ様の所だよ。その後王様に会いに行くって」

「ねえミュー、王様はなんでラジィさんを王城に呼んだんだろうね?」

「さてねぇ…」

 今日漣次郎と別行動をしているこの3人は、この後王城に向かい彼と合流する予定だった。王城には現在“聖者の戦衣”が全国各地の神殿から収集されており、今日その最後の部分が届く予定だった。


 バラバラにされて、各地の神殿に祀られた“聖者の戦衣”…それらは模様と色彩を組み合わせて復元せねばならないため、集まった後が大変なのだった。











「よく来たわねレンジロウ!お父様が庭園で待っているわ!」




 憲兵に送られて王城へとやってきた漣次郎とラージェ。

 その出迎えはなんとアイラ姫で、彼女に案内されて2人は今王城の奥にある庭園を目指していた。王城警備の兵士に囲まれながら、漣次郎は速足のアイラに付いて行く。


「聞いたんだけど貴方、その…フェリアの姿だった頃に、一度お庭に来ているのよね?」

 道中、アイラ姫は矢継ぎ早に質問を繰り返してくる。

 王族相手なので、漣次郎も言葉に気を付けながらそれに答える。

「ええ、一度だけ。あの時は王様と2人きりでしたね」

「本当はとっても奇麗なお庭なんだけど…生憎この時期はとーってもつまらないの!春季や秋季が一番素敵だから、また来るといいわ!」

「そ、そうですね…でも王族とか貴族でもない僕が来るのは気が引けますが…」

「貴方今更そんなことを気にするの!?レンジロウはビスロお兄様を助けてくれたんだから、そんな遠慮は無用ね!」

 漣次郎が以前“フェリア”だった頃には知らなかったが、どうも王城の庭園は余程の地位の者しか入れないらしい。そこに半魔族が入るのはあり得ない特例という事で…漣次郎はカイン王がフェリアに懸けていた期待を改めて思い知る。

「…」

 しかしラージェはというと…ずっと黙り込んでいる。


 そもそもラージェが“フェリアに関する噓の証言”でシュレンディアを乱していたら、恐らくきっと次の流星群で恐ろしい事になっていただろう。漣次郎がテルルを連れて彼女の嘘を暴いたから良かったものの、そうでなければ大惨事は確実だった。

 故に王政もラージェに対してかなり厳しい立場なのだが、いかんせん暴いた漣次郎とテルルがラージェに対して寛容なのだ。しかも2人は宰相ビスロの命を救っている…なので王政としても強く出られないというのが実情だった。

 アイラ姫も…ラージェにずっと騙されていたので複雑な心境らしかった。

 彼女は漣次郎に話を振るものの…ラージェには一切触れていない。

 しかし彼女も意を決したようで、遂に勢い良く振り返ってラージェに迫る。


「ねえラージェ!」

「…どうなさいました、姫様?」

「もー、なんなのその感じ!?フェリアと一緒だった時の貴女はいつもヘラヘラヘラヘラ笑っていた癖に、すっかり知的になっちゃって!まるで妾の教育係みたいよ!?」

「申し訳ありません、元来こっちが素なので」

「い、違和感がスゴイのよ!前みたいにできないの!?」

「仰せとあらば」

 感情薄めの声で、事も無げに言い放つラージェ。

 アイラ姫は少し戸惑い、むっとして呟く。

「…じゃあ、やってみせてよ」

 王女の命に、ラージェはふっと息を吐く。


「へへへ、姫様にそこまで言われちゃあ仕方ないね!正直アタシとしてはどっちでもいいし、じゃあ暫くはこんな感じにしていましょーか?」


 頭の後ろで手を組み、楽しそうに笑うラージェ。

 それを見たアイラは、露骨に渋い表情になる…。

「…やっぱりやめて頂戴」

「えー!?王女様がアタシにやれって言ったんじゃないですか!」

「急に目の前で豹変されるとやっぱり怖いわよ!どんな気持ちでやってるのそれ!?」

 ラージェは再び深く息を吐き…か細い声で答える。

「…アタシはシュレンディアに潜入した10歳頃からずっとこれをやっていましたけど、頭がおかしくなりそうですよ?こういうの得意ですけど、好きでやっている訳でも無いので」

 裏表のない、正直なラージェの言葉。

 アイラ姫も…ばつが悪そうに返す。

「…貴女の事情は知らないけど、苦労はしたみたいね」

 どうやら一応、アイラ姫は気が済んだようだ。


 そうこうしている内に、3人は庭園の入り口に辿り着く。











 庭園にある大きな池の畔…小さな東屋のような場所にカイン王は居た。

 漣次郎の見立てでは、以前よりやつれているようにも見える。


「よく来た…こうして落ち着いて話すのは久しぶりだな、レンジロウ」

「いえ、僕としても陛下を欺いていたことについて謝罪させて下さい」

「構わん…当のフェリアが、お主よりも余程儂を騙していたのだからな」

 漣次郎に優しげに語りかけてきたカイン王。

 しかし彼は、打って変わって厳しい目をラージェに向ける。

「…貴様とこうして語らうのも久しいのう、ラージェよ。よくもこの儂を、シュレンディアの民を…謀ってくれたな?」

「許しを請う気はありませんよ」

「ふん…」

 もはや憎悪と言っていい感情をまとうカイン王だが、横目でちらりと漣次郎を見る。

「…レンジロウとテルルに感謝するが良い」

 そう吐き捨てると、カイン王はアイラ姫を伴って庭園の奥へと進んでいった。

 漣次郎もラージェも、黙ってそれに追従する。




 庭園の最奥、そこには謎の石像があった。

 勇壮な男性に跪く、巨躯の龍人の像。

 その石像…漣次郎はそれを以前一度だけ見ていた。

「ラージェよ…其方、この像の存在を知っておるか?」

「…一応は」

「これは“英雄王イリューザ・アルデリアス像”と伝わるものじゃ。魔の侵攻を打ち払った英雄を讃えて作られたとされておるが、何故か魔族のテルルは似た物を見た事があるという」

 カイン王は像に歩み寄ると、それをじっと見上げる。

「この像については謎が多い…誰が彫ったのかも分らぬし、なぜ庭園に置かれているかも伝わっておらぬ」

 そういうカイン王は振り返り…ラージェを見据える。

「この像の謎…デルゲオ島から来た其方なら知っているのではないか?」

 今日ラージェが王城に招待された理由。

 それはこの像について、カイン王が話を聞きたいと言い出したからだった。


 ラージェはカイン王の問いに直ぐには答えず、暫く黙って像を見上げていた。

 そして彼女は沈黙の後、ぽつりと呟く。

「…間違いない、“ローブル王像”は本当にあったんだ」

(ローブル王…?前にも何回か聞いた名だ)

 『ローブル王』。

 漣次郎が箱庭でも聞き、ラージェも言及していたその名。

 おそらく王族なのだろうが…カイン王は難しい表情だ。

「ローブル王…?シュレンディア王国の、アルデリアス王家の歴史にそのような名は無いぞ?“魔の侵攻”以前の記録の多くは魔族に破棄されて失われておるから、昔そういう名の王が居たのかもしれんが」

「“魔族が破棄した”…ですか」

 ラージェは眉を顰めて考え込んでいる。

 そして俯いたまま、驚くべきことを言及した。


「父上や魔王様が言っていた…『シュレンディア王都を落とした魔族は、王都中央広場に“ローブル王像”を作った』と。魔族にとっての救世主だという“ローブル王”への大恩を忘れぬ為のものらしいけど」


 漣次郎も、ラージェの言葉に仰天する。

「魔族の救世主!?それはどういう…」

「父曰く『デルゲオ島の魔族は元々“死の砂漠”より南に住んでいた』らしいんだ。どういう事情かは知らないけど、死の砂漠を放浪していた魔族はシュレンディアに辿り着き、ローブル王からフィズンを貰ったんだって」

「何だそれは…信じられぬ」

 カイン王も困惑している。

 しかしラージェ自身もそれを信じていないようで、伏し目がちにしている。

「正直に言って…魔族は魔族に都合の良い話を伝えているだけだと思うので、アタシもそれが全て真実だとは思っていません。しかし魔王様がシュレンディア全土で半魔族を増やしていたのも“ローブル王の遺志”と言っていた…」

 ラージェの話は、漣次郎の理解を超えていた。

 なので彼自身、それを整理する必要があった。

 しかし…彼の中にある1つの意思が湧いて来ている。

(フェリアの言う通り、一度デルゲオ島に行ってみるべきなのかな?)


 漣次郎はまだ見ぬ海の果て…魔族の住む孤島に思いを馳せる。











「ナディル様、首尾はどうですか?」

「それが、どうやら不足部位が想像以上に多いようですの。これはレンジロウさんの戻りを待つしかなさそうですね」

「そうですか…」

 王城の地下にある一室。

 ただでさえ警備が厳重な王宮の中でも特に厳重なその場所には、ラミ教団の長である大司教ナディルを始めとする神職の者達が大勢居た。そこには特務隊も居たのだが、漣次郎の姿は見えない。


 実は黄金祭の少し前から、漣次郎の提案で“聖者の戦衣”が王城のこの部屋に収集されていたのだ。

 現状まだ真祖『月の民』が国中に潜んでいる可能性もあり…大事な戦衣の一片でも奪われては大変だった。この状況を重く見た宰相ビスロは漣次郎に“異能を使っての戦衣収集”を命じており、彼は全国に50箇所以上ある神殿を異能で往復していたのだ。


「ねえミュー…レンさん遅くなぁい?」

「うーん、わたしも流石にその“箱庭”には行った事無いからね…状況は読めないや。待ち合わせはしているんだろうけどね」

「魔族かぁ、どんな人が来るんだろう?」

「さあね、レンさんは“テルルみたいな感じ”って言っていたけど…」

 そして今日…漣次郎が銀嶺山にあるという魔族の隠れ里“朧の箱庭”に行っており、そこにあるという最後の戦衣を持って帰る予定だった。

「レン…」

 テルルはというと…妙に不機嫌だ。さっきまで王城の庭で漣次郎と一緒に居た彼女だが、今漣次郎は1人で箱庭に行っている。

「テルルちゃん、どうしたの?」

「別に…」

(テルルちゃんがレンさんの事で不機嫌になるとは思えないけどなぁ?何かあるのかな)

 内心不思議なミューノだったが、隣のココロンがその理由に思い至る。

「あ、もしかしてレンさんと一緒に来るっていう魔族って…女の人?」

「…」

 テルルは答えないが、その表情から明白だった。

(ああ、そういう事…。レンさんの異能『アストラル』は他の誰か1人と一緒に飛べるけど、体をくっつけないとダメらしいからね。テルルちゃんは可愛いなぁ)

 漣次郎を慕うテルルの可愛らしい嫉妬に、ミューノは小さく微笑む。




 王城地下の一室…王都ラミ神殿の司祭達が、細かい布片を並べては模様・色の組み合わせを確認している。ミューノ達もそれに加わり協力しているが、いかんせん足りない部分が多いようで、作業はなかなか進まない。

 そんな最中だった。

「…来る」

 作業が進まず飽きていたテルルが、地下室の隣にある小部屋に歩み寄る。

「え、レンさん?」

「うん」

 この地下室には元々収納用の小部屋が隣接されていたが、漣次郎の希望でそこを空けていた。それは…異能で急にやって来る事になる魔族に皆が驚かぬよう、という彼なりの配慮だったのだ。

 その小部屋に、急に何者かの気配が。

「ナディル様、戻りましたよ」

 その声は…間違い無く漣次郎。

 誰かと一緒に居る。

「お待ちしておりましたよ、レンジロウさん」

 ナディルがその声に応えると、小部屋の扉がゆっくりと開く。






「…もう一度聞くけど、本当に大丈夫なのよね?」

「大丈夫ですってヅェニワラさん」


 カイン王の招待を受けて王城庭園に行った漣次郎は、ラージェと別れた後“朧の箱庭”へとやって来ていた。今日行くことをヅェニワラには伝えてあったので、彼女は長老宅で準備をして漣次郎を待っていた。

『ヅェニワラよ、託したからな』

 長老宅の前で、フローデンが黒く塗られた木箱をヅェニワラに渡した。平たいその箱は紐で綴じられており、蓋にはラミ神の象徴である“一ツ目の太陽”があしらわれている。

『必ず無事に帰ってきておくれ』

『ふふ、それは自分じゃなくてレンジロウ次第だよフローデン』

 前から“人間の街に行きたい”と願っていたヅェニワラだが、いざそれが叶うとなって流石に緊張はしているらしい。真っ黒い服で尻尾以外の毛皮を覆っており、顔も布で隠している。

『頼んだよレンジロウ!』

『任せてくださいよ』

 漣次郎の異能で飛ぶために、ヅェニワラは箱を小脇に抱えて彼にくっつく。女性に寄り添われて小恥ずかしい漣次郎だが…異能のために集中する。

『…行きますよ、<アストラル>!』

 その瞬間、2人の姿が忽然と消えた。




「…このヒトが銀嶺山に住む魔族の一人、ヅェニワラさんです」

「これはこれは、実際に会うと感慨深いですわね」


 漣次郎は王城の地下室へと異能でワープしてきた。

 現れた魔族に…全員の視線が集中する。

 ヅェニワラも緊張してはいるが、それ以上に好奇心が勝っているようだ。彼女は興奮気味に漣次郎の耳元で囁く。

(おいおいレンジロウ、すごいお出迎えじゃないか)

(皆の注目は僕じゃなくて貴女ですよ…)

(そうなのかい?まあそれでもいいけど)

 高揚する声色のヅェニワラは、最も近い位置に居たナディルに歩み寄り、顔に被っていた布を取り払う。

「自分はヅェニワラ、銀嶺山にある集落の住人さ。今日はレンジロウに頼まれて、里にある聖者の遺物を持ってきたわよ」

「私はナディル・ヤショウ、この国のラミ教団の長で聖者マルゲオスの子孫です。ようこそおいで下さいました」

 ナディルは魔族が来るのを心底楽しみにしていたようで、臆することなく紅潮しながら魔族であるヅェニワラの手を取った。











「すごい、ふわふわ…!」

「そういうお嬢さんはスベスベだね」

「ちょ、ココ…あまり触ると失礼じゃ…」

「あはは、自分は構わないわよ?」


 王城に現れた魔族のヅェニワラに、ラミ教団の司祭達は不審な目を向けている。しかしナディルが非常に柔和な態度で接しているので彼等も困っているようだ。

 今はココロンがヅェニワラの腕周りをふわついており、その毛皮の感触に興奮気味だ。ミューノが諫めるもののヅェニワラ本人も楽しそうなので、3人はいい雰囲気だ。

「正直、まさかこんな陽気な方とは思っていませんでした。まあ私としてもやりやすいので大歓迎ですが」

「まあヅェニワラさんも元々人間に興味があったみたいなんで、たぶん彼女楽しんでいますよ」

 漣次郎とナディルとテルル、それに司祭達は…ヅェニワラが持ってきた“聖者の戦衣”の一部を広げて絵合わせを始めている。どうやら箱庭にあった分が全体の3割以上のようで、これが無ければきっと完成しないのだろう。

「…ちなみにナディル様、戦衣を混ぜちゃって大丈夫です?」

「心配には及びません、我々の分には印をしましたから」

 そう言いながらも、ナディルの注意はヅェニワラに向いている。きっと仕事や立場を無視して良いなら、彼女も白毛の狐獣人をふわつきに行くのだろう…。




 司祭達の作業は順調そうだ。

 きっと明日には、絵合わせが終わっている事だろう。

 この“聖者の戦衣”は単純な図柄ばかりで、合わせても何かが現れるとは思えない。しかし完成した暁には何かが見えてくるだろうと漣次郎は信じている。


「…」

 しかし、この中で唯一テルルだけは妙に不機嫌だ。

 さっきから執拗に漣次郎に体を寄り添わせ、全く離れようとしない。

「…どうしたのテルル?さっきから」

「何でもない」

 そう言いながらも、彼女は何故かムスッとしながら漣次郎の右隣から左隣に移動する。その行動の意味が漣次郎にはさっぱりだったが、遠目に見ていたヅェニワラがにやにやしている。

「うふふ、ごめんよテルルちゃん」

「わふ…」

「レンジロウに付いた匂いが気になるんだろう?自分もかなりレンジロウにくっついてここへ来たからね」

「…!」

(ああ、そういう…)

 どうやらテルルは漣次郎に付いたヅェニワラの匂いを気にして、自分の匂いを上書きしているらしい。その様子を見守るヅェニワラの視線は優しげだ。

「レンジロウ、愛されているね」

「あはは…」

 ヅェニワラの言葉を、漣次郎は気恥ずかしさではぐらかす。


いつも読んで下さる方々に感謝申し上げます。

わかめは雪が嫌いです。

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