その53 砂の海に浮かぶ城
秘伝術を探す新たな部隊『特務隊』。
その発足直後、ビスロを介して特務隊はある招待状を受け取っていた。それはシュレンディア王国の南端、砂漠に囲まれる宗教都市パマヤを統べる大司教ナディルからの物で…。
枯草だらけの広大な荒野を、一台の馬車が進む。
何も無い真っ平らな荒地には…薄曇りの中、冬の早朝の乾燥した空気が漂っている。夏季には灼熱の環境になるのが想像に難くないこの土地、今が冬季で良かったと漣次郎は心底思っていた。
「パマヤかぁ…あたし行ったことあるけど、子供の時以来だよ」
「わたしは初めてだから楽しみ…かな?」
「あそこもまた三英傑に関する名所だからね、見所満載だよ!」
「それは正直別に…」
「つれないなぁミュー、一緒に楽しもうよ?」
馬車の御者は、ミューノとココロンが務めている。
ちょっと微妙な表情を浮かべるココロンと、嬉しそうに寄り添っているミューノ…ココロンの微妙な表情の原因は、後部の車内にあった。
「えへへ、ラージェ様と一緒にお出かけだね」
「そうだね…」
「でもなんで呼ばれたんだろーね?」
「さあねぇ…アタシにもさっぱりだ」
馬車の中には漣次郎とテルル…そしてラージェの姿もあった。テルルとラージェは隣合わせに座っており、テルルが嬉しそうにラージェとお喋りしている。ラージェは表情が殆ど無いように見えるが、時折幽かに笑顔を見せる。
漣次郎達“特務隊”は今回、シュレンディア最南端にあるという町パマヤに本拠点を構えるラミ教団の…その頂点である大司教ナディルから招待を受けてそこへ向かっているのだった。
そして、そのナディルから来た手紙。
何故かそこには“ラージェの同伴を求む”という一文があったのだった。
漣次郎自身…実はもうラージェのことを余り恨んでいなかった。
「ねえラージェ、君はパマヤに行った事無いの?」
「ある訳無いじゃん、アタシは半魔族だよ?」
「へー。でも君異能で潜入できるし、パマヤに『月の民』が居れば可能なんじゃない?」
「あのねぇ…パマヤはこの国で最もラミ教団の力が強い町なんだ。国中で一番『月の民』の取り締まりが厳しいんだから到底無理だよ」
「成程ねぇ…ちなみに今真祖が何してるか、ラージェ知ってる?」
「知らない。でもきっと皆レーヴェット山中にある拠点に引っ込んでるだろうね…なにしろデルメーでも、王政が本腰を入れて取り締まりを始めたからね」
(ふーん…でもまぁそっちは大した脅威にはなり得ないだろうな。どのみち本命はデルゲオ島の勢力だし)
あまりに気さくに話す漣次郎に、ラージェは訝しげな視線を送る。
「…貴方、アタシの事をどう思ってるのさ?」
「え、うーん…?」
「それこそ恨むのが筋だろうに」
「まあ、確かにそうだよね」
漣次郎自身も、そうは思っている。
夏の流星群の直後…漣次郎はフェリア達への逆襲を第一に考えていた。
しかしテルルの救出や、ラージェとの再会、銀嶺の魔族との邂逅…漣次郎の心は徐々に変動していた。
漣次郎は今、不確かではあるが答えを一応持っている。
「前にテルルも言ってたんだけど、君達だって好き好んでこんなことしてる訳じゃ無いんでしょ?」
「…まあね」
「なら君等を恨むのもなんか違うのかな…って思うようになったんだ」
「…?」
「それに魔族だって…僕が最初思っていたように“単純で好戦的な敵対種族”って訳でも無さそうだしね」
「だから何なのさ」
「答えを出す為に、ちゃんと自分で知りに行きたいんだ。でもまあフィズンはヤバそうだから先にそれは何とかするけどさ…とにかく僕は、自分で全部見て聞いて、自分の答えを出すよ。王様の言う“デルゲオ征伐”に関してもね」
さっぱりと言い切る漣次郎。
表情の薄いラージェも…これには流石に呆れているようだ。
「…利用したアタシが言うのも何だけどさ、漣次郎は人が良すぎるんじゃないか?」
「あはは、そう見えるよね」
「呆れた…」
ラージェは大きな溜息と共に、テルルの尻尾をふさふさ撫でる。
「いいかいテルル…良く聞いて」
「何?ラージェ様」
「君にとって漣次郎が大事なら、こいつの事をちゃんと見ているんだよ?なんか思った以上に危なっかしいようだからね」
「大丈夫だよ。テルル、レンのことをいつもちゃんと見てるから」
「えぇ…僕が心配される側なの?」
思った以上に穏やかな馬車は、何も無い荒野をゆっくりと進む。
だだっ広い荒野、前方には何も見えない。
まだまだパマヤは遠いらしい。
そしてココロン以外、パマヤに行ったことがある者が居ない。
という事で…一番詳しいココロンが簡単に説明を始めた。
「パマヤはラミ教団の本拠地であるラミ教大神殿…いわゆる“太陽祈院”がある街で、シュレンディア5大都市の1つでーす」
三英傑絡みという事もあってノリノリなココロン。
こういう話を散々聞かされているだろうミューノは、好きなココロン相手なのに流石に辟易している。
「今いるここ…シュレンディア南部の土地はほぼ一面荒野で、もう少し行くと砂漠地帯になります。それがいわゆる“死の砂漠”…シュレンディアの国土より広いと言われている灼熱の地獄ですね」
「死の砂漠…名前だけは聞いたことあるなぁ…」
「その砂漠の端っこ、本格的に砂漠地帯に入る手前に大きな湖がありまして…そこを中心にできた街がパマヤなんです。ラミ神は太陽そのものとされているので、ここはシュレンディアで最もラミ神が厳しい試練を与えてくる土地なんです」
シュレンディアで信仰される“ラミ神”。
教義によると太陽はラミ神の瞳とされ、試練に立ち向かう人間に祝福を与えるという。確かに灼熱の砂漠は太陽が脅威となる土地とも捉えられるので、漣次郎はそれに納得できた。
「かつての“魔の侵攻”の時…魔族にシュレンディアのほぼ全域を奪われて、人間はパマヤに押し込まれたそうです。当時はまだラミ教が広がっていなかったんですけど、その時大司教だった聖者マルゲオスがイリューザ王に勧めて、シュレンディア軍はラミ神への信仰で結束を深めたと伝えられていますね」
周囲は荒野を過ぎ、徐々に砂漠らしい風景になる。
風はほぼ無く、遥か遠くに町の影が見える。
「パマヤはシュレンディアで最も聖者に縁の深い町ですからね、今でも修行施設である“太陽祈院”で多くの人が修行しています。聖者が行方を知っているかもしれない秘伝術…手掛かりがあるとしたらここですよね!」
(まあね…殆ど手掛かりが無いと言って良い秘伝術を探す為にも、大司教の協力は不可欠だ)
そうしている内に、彼方にパマヤの町が見えてくる。
砂漠の中に突然現れたそれは、石壁に囲まれた城塞都市。
その町はまるで…砂の海に浮かんでいるようだった。
砂漠の中に突然現れたのは、壁に囲われた緑の広がる街だった。
周りは砂ばかりだというのに、町には水路が四方八方に広がっている。町の中心には大きな湖があり、その隣には石造りの巨大な建物…ちなみにこの街は住民の大半が修行者もしくは啓蒙なラミ教信者だという。
一年中気温が高く、灼熱の太陽に炙られるこの町。
太陽の化身であるラミ神が常に厳しい“試練”を与えるこの町パマヤは、聖職者の修行地として栄える宗教都市だった。
「お待ちしておりましたよ、特務隊の皆さん。急な呼び出しに応じて頂いたことに感謝します」
漣次郎達がパマヤに到着したのは、日が昇り切る前。
町の中心にある“太陽祈院”の前で出迎えてくれたのは…浅黒い肌に美しい黒の長髪の若い美女。シュレンディア王国におけるラミ教団の頂点であり、パマヤの長も兼任する大司教ナディル・ヤショウだった。
特務隊が一応ちゃんとした隊とは言え、ラミ教の本拠地であるパマヤで半魔族や魔族は拙い。という事でラージェとテルルは馬車の中に隠れており、下車した漣次郎とミューノとココロンの3人で前に出た。
「初めまして…では無いのですが、お久しぶりですナディル大司教」
「ふふ、ビスロ様から聞いておりますよ。今年の旭日祭の時の“フェリア小隊長”、あれが貴方だったのですね」
「ええ、いろいろありまして…」
フェリアだった頃の漣次郎は今年の夏フィズンで開催された“旭日祭”において、『三英傑の英雄譚』の舞台練習でナディルとも度々顔を合わせていた。なので一応面識はあるのだが…。
「…どうかしましたか?」
「いえ、その…」
漣次郎は面食らっていた。
以前会った時の大司教ナディルは全身聖衣を纏っていたので、まさに“美しき聖職者”という印象だった。しかし今日はかなりの薄着で、だいぶ素肌を出している。
ナディルは…鍛え上げられた腕と割れた腹筋を、惜しげも無く露出していた。
「長旅でお疲れでしょうが、この町で半魔族はあまり良い顔をされません。太陽祈院の中にお部屋を用意してあるので、今夜はそこをご利用下さいね」
ラミ教の町であるパマヤの町中を半魔族がうろつくのは拙い…もちろん魔族もだ。という事で特務隊の一行は町の中心にある“太陽祈院”の裏口からこっそりと中に入っていた。
ココロンもここに入るのが初めてらしく、眼を輝かせてキョロキョロしている。
「へー、中はこんなになってたんだ!ここで厳しい修行を終えた人達が、国中にあるラミ教の神殿に配属されるんですね!」
ミューノは、施設を囲む壁を見回している。
「不思議だね、まるで城塞だ」
(ほんとだよ)
これには漣次郎も、全くの同意見。
ラミ教の大規模な修行場だという太陽祈院…しかしその容貌は、一見まるで砦のようだった。町全体の様相もそうなのだが…何のためにこんな建物が建てられたのか、漣次郎には想像が付かなかった。
先導して案内するナディルが、振り返って答える。
「その印象は正解ですよ。“魔の侵攻”より遥か昔に建てられたというこの太陽祈院は、町周囲の城壁も含めて、南方より来るかもしれない侵略者に備える防衛施設だったと伝わっています」
「あれ、本当に砦なんですね。でもここから南は広大な“死の砂漠”…侵略者が来るとは思えませんけど?」
「その通り…確かに有史以来、死の砂漠を越えてシュレンディアに侵攻してきた勢力の記録は一切ありません。しかしだからと言って、備えないわけには行きませんよね」
ナディルは足を止め、慈愛の表情で漣次郎に微笑みかける。
「この町がいつからこうだったのかは不明です。しかし古い伝説によると…ある日の夜に、闇の中から無数の黒い影の化物が現れてパマヤを包囲したというものがあります。もしかしたらパマヤの城塞化は、それが原因かもしれませんね」
そして彼女は…逞しい腕の筋肉を見せつけて来た。
「だからこそ太陽祈院は、今も軍事機関という側面も持っているのです。この町のラミ教徒は修行で鍛錬を常に行っており、また大司教には有事の際に指揮を執る権限が与えられていますので」
「でも、パマヤにも騎士団がある筈では?」
「パマヤ騎士団は平常時の巡回が主なので、規模としては非常に小さいですね。主戦力はやはり大司教率いるラミ教団で、その際は騎士団も私の指揮下となります」
彼女の言葉通り…確かに周囲に居る修行者たちは皆、筋骨隆々とした屈強な男達だ。その修行風景も妙に筋肉を重視したものが多く、聖職者の修行には見えにくい。
「さあ…お2人にも悪いですから、奥の方へ参りましょう」
「…」
ここに入って以来、顔を隠しているテルルとラージェ。
ナディルは2人を気遣い、修行者の眼のない所へと皆を案内する。
一行は太陽祈院の中へと入り、ナディルの侍従に囲まれていた。
白っぽい石の建物内は外観より明るく、雰囲気は思ったより重苦しくない。
「ビスロ様から聞き及んでおります。特務隊は秘伝術を探しているのでしょう?」
「ええ、よくご存じで」
「それに関して最も情報があるのは恐らく此処ですから、こちらから招待させて頂きました」
修行者の眼が無くなり、ようやくナディルが本題を切り出してくれた。だがその前に…漣次郎には確かめたい事があった。
「…ちなみにですけど、何故ラージェを?」
「それはアタシも聞きたかったよ」
今回のナディルによる招待…その中に何故か“ラージェ同伴希望”と言うのがあった。これだけは今に至るまで理由が全く不明だった。
漣次郎とラージェの問いに、ナディルが微笑む。
「ふふふ…その代わりと言っては何ですが、私個人の為に協力をお願いしたいと思いまして」
ナディルの視線は、ラージェに真直ぐ向いている。
ラージェは訝し気に眉を顰める。
「アタシなんかに、何をさせようと?」
「デルゲオ島の魔族について、お話を聞かせて欲しいのです」
「…?」
納得しかねているラージェだが、ナディルはもう歩を進めている。
「理由は色々ございます…しかしまず貴女に来て欲しい場所がありますので。本来は大司教とその侍従しか入る事が許されない場所ですが、今回は特例です」
漣次郎達にも、理由はさっぱり分からない。
しかしそこまで言われてしまった以上、付いて行くしか無かった。
ナディルが案内した先は、太陽祈院の地下だった。
冬季でも日中なら全然寒くないパマヤにしてはやや涼しいその場所、暗い廊下の奥に大門が静かに鎮座している。
「開けて下さい」
ナディルの言葉を受け、侍従達が厳かにそれを開く。
漣次郎達はもちろん、パルサレジア諜報員のミューノも、パマヤやラミ教に比較的詳しいココロンですら困惑している。
「あの、ここは一体…」
漣次郎には、中の様子が暗くて良く分からない。
先導する侍従達の灯りだけが頼りだ。
「…」
ラージェは顔を顰めている。
その時、テルルが小さく呟く。
「何か石が並んでるよ」
「石…?」
まだ良く分からない漣次郎。
しかしナディルがゆっくりと中に入ったので、とりあえずそれに付いて行く。
侍従が明かりをつけたので、部屋の全貌がようやくわかる。
平らで広大な部屋には、石碑のような物がたくさん並んでいた。
そしてそれらは一様に、同じ意匠をしている。
その1つに、ミューノが近付く。
「これは…」
石碑は…まるで地面に刺さった剣のような形をしている。
その取手部分にはラミ神特有の“目の付いた太陽”のマークが彫られている。そしてその眼は…刺さった根元を凝視している。
漣次郎やテルルには、それが何なのか分からない。
「変な形だね。レンなにこれ?」
「いや、僕はこんなの初めて見るなぁ」
「レンさんはこれの事を知りませんか?」
「知らないよ」
「うーん…まあ、知る機会は無いですからね」
ミューノはちょっと言いにくそうに漣次郎に告げる。
「これらは…“逆臣の碑”と呼ばれるものです。シュレンディアでは大罪を犯した者達をこういう風に葬る風習が昔はあったんですよ」
ナディルも慈愛の微笑みで、その1つに手を置く。
「ご名答。かつて“魔の侵攻”以前は、これらを罪人が処断された場所に作っていたそうです。しかし現代では表向き“憲兵隊が秘密裏に埋葬している”とされていて、太陽祈院に葬られている事実は隠されています」
「何故そんな事を…」
「ラミ神は元来、人を裁く神ではありませんから。古い教義によると“罪が犯した者の魂はラミの元に召され、それらを償う試練を課される”そうです。しかしその風習も廃れ、今ではここでしか行っていません」
「その風習を太陽祈院で守っていると?」
「ええ。しかしこの風習も昔から賛否がありましたから、あえて公表はしておりません」
「そうですか…」
首を傾げる漣次郎。
今の回答では…彼の疑問は全く晴れない。
ラージェが来た意味が何なのかと、これらは全く関係が無い。
しかしナディルは、急に周囲の侍従にこう告げた。
「皆の者は下がりなさい。ここから先は私と特務隊の皆様のみで行きます」
「了解です」
(先…?)
困惑する漣次郎をよそに、侍従達は素早く外へと退出した。
地下の静かな墓所には…特務隊とラージェと大司教のみが残される。
「ここから先は真に他言無用です。本来は大司教の一族…つまり聖者マルゲオスの末裔のみが入れる禁断の地ですので、誰にも話してはなりません」
侍従を去らせた後、ナディルは罪人達の地下墓所をさらに奥へと進んでいった。まだ何も分からない漣次郎は困惑しっぱなしだったが、不意にラージェが乾いた笑い声を漏らした。
「成程…分かったよ。この先に何があるか」
ナディルが足を止め、微笑む。
「聡いですね、流石は雷将ユゥランジェの娘です」
「…それは嫌味かい?」
「まさか。私の純粋な気持ちです」
「ふぅん…」
ラージェの悪態も、ナディルは一切気にしない。
そんな超然とした大司教の態度に、ラージェが吐き捨てるように言い放つ。
「どうせこの先にあるのは、魔族の墓所だろう?」
ナディルはゆっくりとした動作で胸に手を当て、深く頷く。
「仰る通りです」
(そういやそんな話を前に聞いたな…“フィズンに流れ着いた魔族の亡骸はラミ神殿で処分される”って。それらはわざわざ、こんな南の果てまで運ばれていたんだ)
漣次郎は夏季にあった“魔族船の漂着騒動”を思い出していた。あの時流れ着いたテルル以外の魔族の亡骸は、確か騎士団からフィズンの神殿へと渡っていた筈だった。
ラージェは…憮然としたままだ。
「悪趣味な…アタシはともかく、テルルにそういうのを見せるのは嫌なんだけど?」
「いえ、見て頂いて問題無いかと思います」
一行は既に地下墓所の最奥…一見壁と境目が分からない隠し扉の前まで来ていた。テルルを気遣って帰そうとするラージェだが、やはりナディルは意に介さない。
「見て頂ければ…納得できると思いますよ?」
「…」
強引な大司教に、ラージェも半ば呆れている。
そしてナディルはその隠し扉を開け放つ。
地下墓所の最奥に入り、ナディルが明りを灯す。
一行は言葉を失っていた。
ラージェもテルルも、目を丸くして、ただその光景を見回す。
「そんな馬鹿な…」
「わふ…」
漣次郎も、信じられないその光景に見入っていた。
そこにあったのは…あまりに静かな、整然とした墓所。
先程の罪人達とは違い、そこにはごく普通と言える墓が立ち並んでいたのだ。名こそ刻まれていないものの、日付と大まかな種族が分かる刻印が1つ1つに為されていた。
ナディルがそのうちの1つ…一際大きい物に歩み寄る。
「ラージェさん、ここです」
「…?」
「貴方のお父上、雷将ユゥランジェの墓です。“魔の再来”の時にフェリアさんが討ち取り、その後この地に葬られていました」
ラージェは黙って、その墓を見上げる…。
そのまま彼女は、静かにナディルへと向き直る。
「何故…敵である魔族をこんな手厚く葬っているんだ?それも、教義で“魔族は絶対悪”とするラミ教の…その本拠地で?」
ラージェの当然の疑問。
漣次郎だってそう思う。
しかし…ここに来てナディルの答えは意外過ぎた。
「さて、その理由は私も存じ上げません」
「は?」
聞いていた漣次郎は、思わず声に出てしまう。
ココロンもミューノも困惑気味だ。
ラージェも開いた口が塞がっていない。
「…意味が分からない」
置いてけぼりの特務隊…しかしナディルは妙に満足気で、ようやく今回漣次郎達をわざわざ招待した理由を口にした。
「“魔族を太陽祈院で葬る”…これを決めたのはかの聖者マルゲオスです。それどころか、ここには“魔の侵攻”で命を落とした魔族までもが葬られているのですよ」
「何故そんな事を?」
「それを私も調べているのです」
ナディルは強い光を湛えた紺碧の視線で、漣次郎を刺す。
「聖者マルゲオスは謎だらけで、子孫にすら全てを語りませんでした…故に秘伝術の行方も一切不明です。私の頼みはただ1つ…貴方達の秘伝術捜索に手を貸すので、代わりに聖者マルゲオスの謎を暴く手伝いをして下さい。デルゲオ島から来た存在、それも古老ユゥランジェの娘であるラージェさんの話を聞かせて欲しいのです」
今まで読んでくれた皆様、今年もどうか宜しくお願い致します。




