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その51 ヴァンガード

ラージェは漣次郎達の要求に応え、フェリア達3人が進めていた計画について語った。それは同時に、なぜ漣次郎がこの世界に来ることになったかの理由でもあり…。

 窓から見える満月。

 それに照らし出される、異郷の風景。

 フェリアは椅子に腰掛け、窓からその光景を見渡している。


 立ち並ぶ、似たような形の建物。

 活気を感じない夜の町。

 そして遠くには、町をぐるりと取り囲む巨大な壁が見えた。




 窓から外を眺めるフェリアの瞳は、爛々と輝いている。

 初めて見る異郷の町が楽しくて仕方が無い…という様子だ。

「姉さま…?」

 そんなフェリアの背後から不意に声が。

 フェリアは振り返る。

「どうしたの、ラージェ?」

 フェリア達3人に宛がわれた小部屋の中、ベッドの上。

 その狭く暗い部屋には、マリィルとラージェも居た。

 リラックスしているマリィルと、不安そうなラージェ。

 3人の間には…緊迫した空気が漂っている。


 窓際に張り付いて外を眺めていたフェリアが、椅子から飛び降りる。

 そして突然、ラージェに思いっきり抱き着いた。

「えいっ!!」

「わっ!な、なんだよ姉さま!?」

「心配いらないよラージェ!僕が付いてるからね!!」

「ちょ、声大きいよ姉さま…」

「そうかな!?」

 フェリアに抱き着かれ、あたふたするラージェ。

 その様子を、微笑ましそうに見守るマリィル。


 一旦フェリアがラージェを放す。

「いいかい2人とも。今日から僕らはこの“ワルハラン特区”の一員さ。僕らは魔族と人間の血を引く半魔族で、半魔族はワルハラン特区で暮らせっていうのがシュレンディア王国の決まりだから」

「…うん」

「そうですね、フェリア様」

 頷く2人。

 フェリアは腰に手を当てる。

「でも大丈夫さ!騎士に…騎士になりさえすれば、この町から出られるんだ。だから僕は騎士になる。2人もがんばろう!」

「やっぱり…アタシには無理かも、姉さま…」

 しかし尚も不安そうなラージェ。

 そんな彼女に、マリィルが寄り添う。

「…ラージェ様、私も頑張りますから。3人一緒に頑張ればきっとぜんぶ上手く行きますよ♪」

「マリィル…」

 マリィルに励まされ、やっと肩の力を抜くラージェ。

 そんな2人に、フェリアが再び抱き着いた。


「2人とも、僕についておいで!僕が何とかするから!」

「わかりました♪私はフェリア様を信じていますから♫」

「…ちなみに姉さま、考えはあるのか?」

「きっと何とかなるから大丈夫さ!!」

「…もう、勢いで何とかしようとするなよ?そういうの考えるのはアタシがするから、姉さまはあまり変なことするなよな」

「うふふ…頼もしいですわラージェ様♪」

「その様付けは止めようよ、アタシ達は“友達”って事にしているんだから。せめてアタシの事まで様付けはやめて」




 これは…神無月漣次郎がフェリアに転生する数年前の話。

 ワルハランへ収容されたこの日から、『ヴァンガード』としての3人の任務が始まったのだった。











 ヴァンガード。

 それは、魔王による大陸侵攻の尖兵。


 ヴァンガードの使命。

 それは…シュレンディア王政が管理しているという超級以上の魔法陣の奪取、もしくは魔族にとって非常に有益な黒曜石の収集だった。




 その夏の流星群の夜、フェリアの上級白術『アーク・ウィング』をマリィルの異能『ムーンフォース』で強化し、3人はデルゲオ島から海を渡ってシュレンディアの地へと降り立った。

 そこで3人は手筈通りに真祖『月の民』…デルゲオ島から渡って来た人間の末裔と合流し、そのままレーヴェット南方の村チャロデン付近まで移動した。そうして上手い具合にレーヴェット騎士団に保護される形でシュレンディアの社会へと入り込んだのだ。


 3種の魔法適性と異能『アストラル』を持ち、ワルハラン収容当初からカイン王の注目を引いていたフェリアは、カイン王の進める半魔族の地位向上政策の象徴として登用されることになった。

 幼い時から故郷デルゲオ島で訓練を受けていたフェリア達は、魔族の血も相俟って非常に優れた力を騎士団学校で発揮した。しかしラージェだけは敢えてその力を誇示せず…異能と黒術適性を隠して密かに活動していた。

 フェリアは“優秀な半魔族の騎士候補生”として表舞台で。

 ラージェは、王政に睨まれる『月の民』には出来ない範囲での諜報活動を。

 マリィルはそんな2人を補佐していた。


 全ては、ヴァンガードとしての使命を果たすために。











 フェリア達がシュレンディア王国にやって来て、数年が経った頃。

 ラージェとマリィルより1歳上のフェリアは騎士団卒業の年齢となり、既に王都騎士団への入団が決まっていた。あとは卒業を待つばかりとなったその夜…3人は騎士団学校の寮でささやかにそれを祝っていた。


「まずはフェリア様、ご卒業おめでとうございます♪」

 春が近付く王都の外れはもう既に雪も無く、初春の可憐な花が咲き始めていた。寮の3人部屋からは美しい月が見えており、フェリアは微笑みながらそれを静かに見上げていた。

「ふふ…一先ずはここまで辿り着いたよ。僕がもっとシュレンディア王政の中央に入り込まない事には何も始まらないからね」

「でも配属は王都騎士団なのですよね?“計画”の為にはフィズン騎士団に入る必要がありますのに…」

「大丈夫大丈夫、僕は2人より1歳年長だから先に騎士になったけど…君達が卒業したら3人一緒にフィズン配属の予定だからね。王様が僕の望みを聞いてそうしてくれたのさ」

 フェリアがワルハラン特区に収容されて以来…フェリアはその才能を発揮して“優秀な騎士候補生”として振る舞ってきた。その甲斐あってフェリアはカイン王に気に入られ、多少の我儘すら許される特別な存在になっていた。

 しかし対照的に、ラージェは“劣等生”を演じていた。

 “異能無し”で“魔法適性は土術のみ、中級まで”と偽の申告をしてやってきたラージェは、騎士団学校でも落ちこぼれ扱いだった。現状でも既に騎士団学校卒業が怪しい程だが…諜報に勤しむラージェとしてはそれも予定通りだった。


 “フェリア昇進計画”は、ほぼ予定通り。

 フェリアもマリィルも上機嫌だった。

 しかし…ラージェは難しい表情をしている。

「計画通りだったら良かったんだけどな、姉様」

 ラージェは眉間にしわを寄せ、視線を床に落としている。

「アタシ達ヴァンガードの使命、果たすのは思った以上に難しそうだ」

 ラージェの諜報活動の結果…あまり良くない事が分かって来ていたのだ。




 3人が探し求める、“黒曜石”と“超級以上の魔法陣”。

 そのどちらも望み薄だという事が分かってきてしまったのだ。


 ラージェは落ち込んだ声色で、肩を落としながら呟く。

「姉様に超級術を習得してもらったけど、魔法院の最奥部には超級術の魔法陣しか無かったんだろ?」

「うん、そうだね。たぶんあそこにはそれ以上何も無いと思うよ?賢者の真骨頂と言われる”秘伝術”…お目にかかりたかったなぁ」

「ちなみにフェリア様、そこの超級術の魔法陣を持ち去ることは可能なのでしょうか?」

「いや、流石に警戒されて最奥の部屋には入れてもらえなかったんだ。王様と一緒だったなら可能性はあったかもね」

「それに…アタシは魔法院の深部に何度も異能で侵入して『禁書』の大半を調べたけど、あそこには秘伝術に関する情報が全くと言って良い程無かったんだ。シュレンディアにとって秘伝術は、三英傑の英雄譚に登場する御伽話という事なんだろう」

 沈むラージェだが、マリィルは首を傾げる。

「そこはフェリア様の出番では無いでしょうか?魔法院に情報が無くても、きっと王様なら…」

「いや、無理だろうね」

 しかし、ラージェはマリィルを遮る。

「『禁書』の中で見つけた唯一と言って良い秘伝術の情報が…“シュレンディアの夜明けの後、秘伝術の魔法陣を聖者マルゲオスが管理していた”って奴だ。たぶん王政も行方を知らなくて…知っているとしたら聖者の末裔であるパマヤの大司教ナディル・ヤショウだけだ」

「あはは、パマヤかぁー…」

 これにはフェリアも苦笑い。

 宗教都市パマヤはシュレンディアにおけるラミ教の本拠地であり、半魔族は足を踏み入れることを許されていない。加えてパマヤは『月の民』の取り締まりがシュレンディアで最も厳しい為、フェリア達にとっては距離以上に遠い場所だった。




 フェリアは参ったというように乾いた笑いを漏らす。

「ふふふ…困ったね、超級術はともかく秘伝術が遠すぎる。黒曜石すらもかなり厳しいのにさ」

「ラジィ、黒曜石についてもっと王宮の深くまで調べに入る事は出来ませんの?私も出来る限り協力しますから…」

「勘弁してくれ…『ソウルスワップ』で狙う相手を絞る所から大変なんだぞ?そいつに成りすまして活動する為にだって…癖や話し方を覚えたりの下準備が要るし、そもそも王都でのアタシ達の活動が“謎の夢遊病”って噂になってる。暫くは大人しくしよう」

 もう1つの目的である、黒曜石。

 真祖『月の民』が今まで調査してきた結果…シュレンディアには黒曜石がほぼ存在せず、発見された物の大半を王政が管理しているという事が分かっていた。そしてそれがラージェの諜報で裏付けされてしまっていたのだ。


 ラージェはマリィルと協力し、魔法院など重要施設の小間使いを夜道で襲うという事を繰り返していた。マリィルの木術で相手を眠らせ、ラージェの異能で精神を入れ替え、そいつの身体でラージェが侵入…という諜報を行っていたのだ。


「この国の黒曜石は、私達の使命を果たすにはとても足りないようですわね…」

「うーん…残念だよ、僕達は皆の為にも、早く使命を果たさないとならないというのに。まるで出口の無い迷路のようじゃないか」

 残念がるフェリアだが、それを見たラージェは露骨に不機嫌になる。

「…姉様楽しそうだな」

「お、わかるかい?」

「姉様の性分は良く知っているからね」

「ふふ…」

 フェリアはこの状況すらも楽しんでいた。

 彼女は…壁に立ち向かうのが嫌いでは無かったのだ。











 その後のフェリア達の使命は…表向きは予定通りに進んだ。


 ラージェとマリィルが騎士団学校を卒業すると、フェリアを含めた3人が揃ってフィズン騎士団へと配属された。当時のフィズン騎士団長ネイオレスは半魔嫌いであったが、それも使命の妨げにはならなかった。




 フェリア達3人がフィズン基地配属になったその日…フェリアは異能でデルゲオ島へと帰り、その事を魔王トワナグロゥへと伝えた。そうして魔王は、フェリアがシュレンディアでもっと力を振るえるようにする一大計画を発動した。

 それが、“魔の再来”。

 これはヴァンガード計画発足当初からあった策で、魔族の大群でフィズンを襲撃しそれをフェリアに撃退させるというものだった。


 フェリアに大手柄を挙げさせるためにも、フィズン襲撃の総大将はシュレンディアでも名の知れた魔族が有力だった。そうして自ら名乗り出たのが…かつての魔の侵攻でも活躍し、シュレンディアに“魔王の右腕”と恐れられた古老のユゥランジェだった。

 そのユゥランジェは…他でも無いラージェの父だった。




 フェリアのフィズン配属の年の夏季。

 季節外れの夏季前節に、魔王は“魔の再来”を発動した。

 雷将ユゥランジェを総大将に据え、魔族の軍勢を海獣型スレイヴで渡航させてフィズンに夜襲を仕掛けた。“迎撃戦は季後節の日中”というのが慣例化していたフィズン騎士団はその急襲に対応できず、瞬く間にフィズン港一帯を魔族が占拠したのだ。

 “剛鎚の鉄人”の異名を持つ武闘派の前フィズン騎士団長サルガン・ユドと違い、現職のネイオレス・ポルックはそういった経験の無い貴族に過ぎず、感情的な作戦で騎士団を混乱させるのみだった。そしてその混乱の最中…フェリアは単身魔族の軍勢へと突貫した。


 そうして手筈通り…単騎でユゥランジェを討ち果たした。











 “魔の再来”を打ち払ったフェリアは、誰もが認める英雄になった。

 フェリアはカイン王の招致で、半魔族として初めて公式に王城へと足を踏み入れた。そうして莫大な褒美と貴重な“黒曜石の小刀”が下賜され、カイン王公認の特権的な地位を認められたのだ。

 そうしてフェリア達3人は、今まで以上に諜報活動がしやすい状態になった。




 粉雪が、静かにフィズンへ降り注ぐ。

 “魔の再来”から半年…フィズン基地において3人しか居ない女性騎士であるフェリア達の為、フィズン基地には新たに“女性兵舎”が建てられた。表向きは“女性騎士をもっと登用する為”という理由付けではあったが、フェリアの為の物というのは誰の目にも明らかだった。


 静かな夜の兵舎談話室で、フェリアは窓の外の雪景色を眺めている。

「ふふ…この兵舎が出来たお陰でだいぶ過ごしやすくなったね。今まではこういう内緒話をするのも一苦労だったからね」

「そうですわね。フェリア様も王様との繋がりが強くなり、情報が得られるようになって真祖の皆も動きやすくなったと喜んでいましたわ♪」

「そうか、それは良かった」

 しかし言葉以上に、フェリアの口調は重い。

 その理由は明確だ。

 “魔の再来”以来…ラージェが塞ぎ込んでいたのだ。


「…」

 談話室の長椅子で、ラージェは寝そべっている。

 この半年…今まで以上に諜報に打ち込んでいたラージェは常に寝不足のようで、任務中も眠そうにしている。元々“落ちこぼれ騎士”を演じていたラージェとしては支障無いようだが、それでも最近のラージェは異常だった。

 目を瞑るラージェに、マリィルが声を掛ける。

「ラジィ、あまり無理をしては体を壊しますわよ?」

「ん…」

 ラージェはだるそうに身を捩ると、重い上体をゆっくり起こす。

 フェリアもラージェを心配しており、ラージェの側に歩み寄る。

「ラージェ、君はもう少し休むべきだよ。毎夜毎夜遅くまでそこら中に潜入をしているようだけど…」

 フェリアの心配にも、ラージェは抑揚の無い声で返す。

「…仕方が無いだろ、黒曜石も秘伝術ももう望み薄なんだから。魔王様の最終目標は“フィズン奪還”であって、アタシ達の任務だって…言ってしまえばその手段だろ?」

「まあ…それは確かにラジィの言う通りですけれど…」

「折角姉様が“魔の再来を打ち払った英雄”になったんだ、アタシの異能があればそのうち王城にだって侵入できるようになる。そうすれば王族しか知らない情報が…」

「ラージェ」

 早口で捲し立てるラージェをフェリアが制する。


 “魔の再来”後…つまりラージェの父ユゥランジェの死後、ラージェは明らかに落ち込んでいた。最近はそれを振り切る為のように、明らかに無理をしていた。


 フェリアは時間を掛けて宥め、ラージェを落ち着かせた。

 今はラージェも体の力を抜き、フェリアにその身を預けている。

「…アタシがヴァンガード候補として訓練を始める以前から、確かに父上は体の調子が良く無かった。歳はもう400を優に超えていたし、フェイルさんの異能でそれを無理矢理持たせていたんだ。そのフェイルさんも死んでしまって、父上はもう寿命も僅か…その命を最期にこう使うって決めた父上の覚悟、アタシだって理解はできる」

「そうだね…ユゥランジェ殿の死は必ず魔族の為になる。僕がそうする」

「父上の死を無駄にできない…アタシは何としても成果を挙げないと…」

 そう呟くと、疲労からかラージェはそのまま眠りについた。




「ラージェだけにこんな無理をさせられないよ」

 微睡むラージェの瞼の向こう、フェリアはぽつりと漏らす。

 マリィルもそれに倣う。

「確かにラジィは…元々ヴァンガードになる事を望んではいませんでしたからね。ラジィの隠密能力は私達にとって欠かせませんが、ずっと無理をしているのは良く無いですの」

「ならば僕も、別の方法を考えないと」

 そうしてフェリアは、使命を果たすための道を模索し始める。











 “魔の侵攻”の年の冬。

 冬の“流星群の日”。

 フェリア達は夜間巡回の順路で、フィズン西山の勇者像の所へと来ていた。


「…<ムーンフォース>」

 流星群の降り注ぐその夜、勇者像の傍らで…マリィルが異能で月光を魔力に変換している。そうして得た力を、マリィルはフェリアへと流し込む。

「いいぞ…『スター・ウィスパー』」

 フェリアは金剛石の指輪を翳し…超級白術を発動する。

 流星群の夜、マリィルの異能による補佐、フェリアの魔法の才能…考えうる範囲で最も強力に魔法が使える方法がこれだった。


 そんな2人を、ラージェが訝し気に見ている。

「…これは何のつもり?姉様」

 集中するフェリアは返事をしない。

 かわりにマリィルが返答する。

「フェリア様は黒曜石と秘伝術を探す方法として、超級白術『スター・ウィスパー』が使えないかと考えておられましたの♪」

「まあ流星群の月夜なら最高の条件ではある…無理だと思うけどね」

「でもフェリア様は凄いんですから♪」

 マリィルは相変わらずフェリアを盲信していた。

 ラージェも、何だかんだフェリアを信じていた。

 自信満々で後先考えないフェリアは今までもラージェの肝を冷やしてきたが、それでも全て上手くやって来たのだ。“フェリアなら何とかする”という根拠のない信頼が、3人の間にはあったのだ。




 その時、フェリアが突然目を開けた。

 何か、とても驚いた顔をしている。

「…姉様?」

「ラージェ…僕は驚くべき事を知ってしまったかもしれない」

「…?よく意味が分からない」

 フェリアは珍しくソワソワしながら、息を整える。


「探し物を見つけられそうだ」


 その言葉に、ラージェも驚く。

「本当!?まさか秘伝術の在処が…!?」

「いや、黒曜石の方だ。たぶんかなり遠い場所だけど…流星群の力で『ディメンション・ホール』を使えば、場所も掴めるかも!」

「素晴らしいですわフェリア様♪」

 そうしてフェリアは、黒曜石の小刀を掲げる。
















 黄昏の憲兵隊本部、その一室。

 漣次郎とテルルとビスロ、ミューノとココロン、ワールとルゥイ…その面々を相手に過去を語り終えたラージェは、ふっと息を吐く。


 ラージェの話は、今までの3人の行動とも辻褄が合った。

 なので漣次郎も、この話は信用に値すると思えた。


 長く語ったラージェはようやくその橙の眼を開き、漣次郎を見据える。

「…アタシ達は流星群の夜に同じことを何度か繰り返し、黒曜石を手に入れる作戦を立てたんだ。行き先が異世界だと分かった時は驚いたけど、それでもアタシ達の持つ異能と魔法を以てすれば不可能では無かった」

「そうして僕を見つけたのか」

「その通り。姉様に近い魔法適性を持ち、流星群の夜に何かしらの形で意識が希薄になる異世界人…超級白術『スター・ウィスパー』で未来視を繰り返し、ようやく漣次郎に辿り着いた」

「異世界人である僕に、よく干渉できたね」

「デルゲオ島だけに伝わっている超級火術『ディメンション・ホール』は、遠く離れた場所を繋ぐ魔法。それで直接干渉することは叶わないけど、異能や魔法でなら影響を与えられるんだ」

「なるほどね」

「そして前の冬の流星群の日、計画を実行した」

「それが、僕の異世界転生の真実って訳か…」


 語り終えたラージェは悪びれる様子も無い。

「悪いけど…あの時のアタシ達には他に手が無かったし、アタシ自身間違ったことをしたとも思っていないよ。でもあんたがアタシ達を怨むのは自由だ」

「それはもういいって」

 漣次郎はこの件については、水に流すことにする。

 しかしそれ以上に、確かめなければならない事があった。

「ねえラージェ…君達は、魔族は黒曜石を大量に手に入れて何をしようっていうんだ?その超級火術とやらで何かする気なのかい?」


 恐らくもう既に、異世界の黒曜石は魔族の手に渡っている。

 魔王のヴァンガード計画は、次の段階に進んでいる筈なのだ。




 ラージェは少し迷ったが、それでも口を開いた。

「…想像にお任せするよ」

「いやいや、教えてよ」

「これはさすがに言えないなぁ。それに、知った所でシュレンディアがフィズンの防衛強化をするっていう結果は変わらないしね」

「ラージェ様、テルルにこっそり教えてよ」

「ごめんねテルル、君の頼みでもこればっかりは無理なんだ」

「むー…」

 不満気に頬膨らませるテルル。

 そんなテルルの髪を優しく撫で、ラージェは口角を上げる。

「仕方が無いなぁ…じゃあ1つだけ、あえて言わなかった事をね」

「む、まだ何かあるのかい?」

 興味津々な漣次郎に、ラージェは告げる。


「姉様は…半魔族のフェリアは、魔王トワナグロゥの末娘だよ」


ここまで一緒に来て下さった方々に感謝します。

どこが終着点かはまだわかりませんが、それはもうきっとそんな遠くではないと思います。

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