その50 告白
テルルの説得で、遂に折れたラージェ。
彼女の自供もあったので、漣次郎はついに自分の正体についても話す決意をして…。
澄んだ月の夜空を、漣次郎は見上げている。
ここは王都にある、憲兵隊本部の一室。
先程ラージェが遂に折れ、“話せるだけ話す”と言ったのであの場はお開きとなっていた。彼女は拘留部屋に戻っており、カイン王やビスロも王宮へと帰っていた。
(やれやれ…結局、テルルのお陰だったな。それだけラージェにとってあの娘が大切だったって事なんだろうけど…)
もう深夜なので、王都は一様に寝静まっている。
この憲兵隊本部の別の部屋で、ミューノとココロンも休んでいる筈だ。フェリア達の事を最後まで信じようとしていたココロンが、ラージェの告白でかなり辛そうにしていたが…きっとミューノが彼女を支えているだろうと信じておく。
(でも…これで“記憶喪失のフェリア”の正体が僕だったという事も分かってもらえると思う。反応は色々だろうけど、まあ何とかなるだろう)
不安も入り混じるものの、漣次郎はワクワクとしていた。そのせいで目が冴えて、こんな夜中なのに寝付けないのだ。
「レン…?」
不意に背後から、テルルの声。
「あれテルル、まだ寝て無かったんだ」
「レンを待ってたの…」
彼女は眠そうに眼を擦りながら、ベランダに居た漣次郎の所へとフラフラ歩み寄る。そのまま彼女が漣次郎に体を預けて来たので、テルルの頭をそっと撫でる。
テルルが、不安そうに漣次郎の顔を見上げる。
「ねえレン」
「どうしたのテルル?」
「ラージェ様…大丈夫かな?」
「…テルルはラージェが大好きだから、心配なんだね」
「うん」
…結局ラージェの心を動かしたのは、彼女との間に深い絆があるというテルルだった。卑怯な事をしたような若干複雑な心境ながら、漣次郎に後悔は無い。
「テルル、大丈夫だよ。今回ラージェの口を割るのに協力する条件として、“ラージェの身の安全を保障する事”をビスロ様にお願いしてあるんだ。ビスロ様は信頼できるし、もしラージェが危なそうだったら僕が異能で“箱庭”まで連れて行くよ」
「んー…なら安心、かな?」
小首を傾げるテルル。
半分目を閉じている。
もう今にも寝そうな雰囲気だ。
だけど“漣次郎と一緒に寝る”という強い意志も感じる。
「やれやれ…」
まだまだ寝られる気のしない漣次郎だが、これ以上テルルに夜更かしさせるのも悪い気がする。
「じゃあもう遅いし寝ようか、テルル」
「わふー…」
漣次郎はテルルの手を引き、部屋の中へと戻って行く。
翌日、シュレンディア全土が大いに揺れた。
カイン王の長男である宰相ビスロ・アルデリアスが、今回のワルハラン騒乱に関する王政の公式見解を公表したのだ。
その中にこうあった。
“魔の再来”の英雄であるフェリアが、シュレンディアに仇為す存在だと。
この情報は、様々な憶測を呼んだようだ。
信じる者も疑う者もいて反応は様々だったが…フェリアを重用していたカイン王が擁護もせず沈黙を貫いていたので、“これは真実なのでは?”という意見が民衆の半数以上に広まっているようだ。
その中にこっそり“ビスロが『月の民』に襲撃されたが、ある男の助けで事なきを得た”とだけあり、テルルのことについては公にはならなかった。しかし憲兵隊からテルルの事が漏れているらしく…“魔族がビスロ様を助けたらしい”と噂が立っている。
まあどの道テルルの事は“追って公表する”とビスロが考えてるというので、漣次郎はあまり気にしていないが。いずれにせよ…漣次郎はビスロの気遣いに感謝しつつ、テルルと共にシュレンディアの為に出来ることをすると決意したのだ。
「其方が…この前までの“記憶喪失のフェリア”の正体とはな」
翌朝…漣次郎はビスロに頼んで関係する者を集めて貰い、今までの全てを打ち明けた。どの道ラージェが昨日喋ってしまったのもあり、隠していても仕方が無いので話すことに決めたのだった。
憲兵隊本部の、とある一室。
この場に居るのは漣次郎とテルル…昨日居たビスロ、ミューノ、ココロン…あとはアイラ姫とワール、何故か居るルゥイの8名だった。昨夜の件でカイン王は特に衝撃を受けたらしく、今は休養中だという。
「信じ難いが、それがラージェの異能だというのか」
「そんな…異世界!?あたし、信じられません…」
「何て事、フェリアがこの妾を騙していたなんて!」
ビスロもアイラ姫も…そしてココロンも、流石に酷く驚いているようだ。
しかし…ワールとルゥイは意外な反応を示した。
「まあオレは前に会った時に気付いていたから今更驚かねぇが。しかし異世界とやらは…すげーな」
「うーん…俺もフェリアの事をワールに聞いていたから“もしや”とは思っていたけれど、実際にそうだと告げられると辛いものがあるね。俺とフェリアは運命ともいうべき固い絆で繋がれていると信じていたんだけど…どうやらそれは空虚な幻だったようだ」
「…というか、ルゥイは何故ここに?」
「む?それはねレンジロウ、ワールが1人で“ワルハランに行きたい”って言ったから、何かあった時の為に王都へ滞在していたのさ。どうせ秋季の迎撃戦は済んだし、王都からならワルハランへ運河ですぐ向かえるしね」
「なるほどね」
様々な受け止められ方をするのは、漣次郎にとって想定内。しかし…漣次郎しか知り得ない情報をシュレンディアに伝えねばならないのだ。
「恐らくフェリアは僕の居た世界から、大量の黒曜石を持ち帰って来ています!そして恐らくデルゲオ島にも“賢者の魔法陣”は伝わっていて、シュレンディアで失伝したという超級火術もあるのだと思います」
結局行方の掴めなかった“異世界の黒曜石”…恐らくそれらは既にデルゲオ島へ持ち去られているというのが漣次郎の読みだった。そしてその事実は同時に、無視できない凶兆でもあるのだ。
漣次郎の言葉に…ミューノが神妙に頷いた。
「火術は上級術の中でも非常に攻撃的で強力…恐らく魔族はそれを武器に、冬の“流星群の日”にフィズンを襲撃する計画なのでしょうね。いずれにしても、フィズンの防衛強化が急務だと思われます」
昨夜、テルルの説得で遂に折れたラージェ。
彼女は“明日ちゃんと話す”とだけ言った。
憲兵隊曰く“精神的に参っている”というラージェの事を考慮して、彼女への再度の審問会は午後という予定になっていた。
そしてそれまでの間、漣次郎はテルルと共に皆と交流をしている。
「へぇ…不思議な姿ね!妾、魔族は初めて見るの!」
「わ、わふ…」
「ねえテルル、貴女の尻尾を触らせて頂戴!」
「い、良いけど…」
ビスロが政務の為に一時去った途端、すぐさまアイラ姫がテルルに詰め寄った。やはり姫様はテルルの姿に興味津々で、尻尾や耳を撫で回している。
テルルにじゃれつくアイラ姫の姿は、さながら妹のようだ。
(しっかしテルル、いつの間にかアイラ姫より背が大きくなってるんだけど。僕が見つけた当時はアイラ姫より小さかった筈だけどなぁ?)
ワールとルゥイに絡まれながら、漣次郎は横目でテルルの姿を見ていた。
小柄だったはずのテルルは、並んでみるとアイラ姫より背が高かったのだ。
いつも一緒に居たせいであまり変化を実感できていなかった漣次郎だが、やはりテルルの成長は著しかったようだ。
(まあ11歳のアイラ姫と14歳というテルルの歳を考えれば普通だけどさ…“魔族は感情が成長に影響する”ってヅェニワラさんも言っていたけど、不思議なもんだね)
テルルは“漣次郎の役に立つ”と言ってから、どんどん背が伸びたような気がする。漣次郎は密かに魔族という生き物の不思議さに想いを馳せる。
「なあオメー、フェリアと同じ異能が使えるって本当かよ?」
ワールに問われ、漣次郎はテルルから視線を外す。
「え?ああ、使えるよ。こればっかりは理由も分かんないけど」
「なんで人間が異能を…異世界人ってのは分かんねぇなぁ」
「全くだよね」
背の低いワールが下から覗き込むように漣次郎の顔を見ている。相変わらず目つきが悪いが…漣次郎が“フェリア”だった頃の様に敵意を感じる事は無い。
「見せてみろよ、異能」
「えー…あれ疲れるんだけど」
「何でだよ?フェリアだった時は好き勝手使ってたクセにか?」
「いや今の僕は人間だし。半魔族程体力とかも無いんだよね」
「ふーん?」
一度ワルハランで遭遇していたワールはその時に何かを感じていたらしく、さほど驚くことも無く漣次郎を受け入れていた。
「…フェリアは何故、君を選んだんだろうね?」
ワールの前情報があったとはいえ、やはりルゥイはショックを隠せずにいる。なにしろ想いを寄せていたフェリアがシュレンディアの敵だったなど…ルゥイからすれば信じたくも無いような事実だろう。
漣次郎としても、ルゥイとの付き合い方に困っている。
「僕とフェリアの魔法適性が2つ被っている…それが理由だとラージェが言っていたよ。どこまで本当かは分からないけどさ」
「え、レンジロウ…君魔法適性が2つもあるのかい!?」
「いや、3つだけど」
「えぇっ!?凄いじゃないか君は!きっと元居た異世界でも、さぞ高名な魔法使いだったんだろうね…」
「ええとね…僕の世界にはそもそも魔法が存在しなかったんだよ。フェリアの精神がラージェの異能で憑依したのが原因だと思うけど、多分そのお陰で今の僕には魔法が使えているんだ…と思う」
「えぇ…混乱してきたんだけど」
“記憶喪失のフェリアの中身が男だった”という事が単純にショックだったと思われ、ルゥイの方も接し方を悩んでいるようだ。
(だけど…仲良くしてくれるんだね、嬉しいよ)
漣次郎は正直、ルゥイには拒絶されても仕方が無いと考えていた。しかし“フェリアだった漣次郎”が過去にお願いした“友達になりたい”という言葉を覚えてくれているのか…優しく接してくれる彼が嬉しかった。
「ラジィさん、あたし…」
「…ココロン、アタシが憎いかい?」
「い、いやそういう訳じゃ無いですけどぉ…」
ココロンとミューノは、漣次郎達と別れてラージェが拘留されている牢に来ていた。ラージェは備え付けの寝床に寝そべり、静かに目を閉じている。
「ラジィさん、あの…“魔の再来”は、フェリア隊長を英雄にするための魔族の作戦だったって本当なんですか!?」
新緑の眼に涙をいっぱい浮かべ、ココロンが牢を掴んで激しく揺さぶる。
ラージェは身動き一つしない。
「そうだよ、全部デルゲオ島の魔族と示し合わせた通りだ。雷将ユゥランジェが指揮したあの夜襲も、騎士団長が無能のネイオレスに変わったのを知った上で立案されたんだ」
「じゃあ、あたしが隊長に助けて貰ったのは…」
「偶然さ。むしろココロンは、アタシ達の策に巻き込まれたせいで怖い想いをしたんだよ。だから君の姉様への感謝はとんだ筋違いと言えるね」
「そ、そんな…」
涙を流すココロンにも、ラージェは淡々と対応している。そしてラージェは上体を上げ…ココロンをじっと見据える。
「理解できた?ココロン…君はとんだ道化だったという訳だ」
ラージェの突き放す言葉に、ココロンは両の手で顔を覆う。
そこで、黙っていたミューノがようやく口を開く。
「ラージェさんは、恨んで欲しいんですか?」
ラージェは…答えない。
ミューノが続ける。
「昨日ラージェさんは、シュレンディアでの諜報活動について“望んだ事じゃ無かった”って言いましたよね?実はラージェさんは…もしかしたらフェリア隊長もマリィルさんも…罪悪感を抱いていたのでは?」
「…」
「雷将ユゥランジェは貴女の父…そうですよね?“魔の再来”で父を亡くし、異能を駆使しての諜報活動…貴女の心労はお察ししますけど」
「ふふっ…」
穏やかな笑みを浮かべるラージェ。
困惑するココロン。
「え、雷将がラジィさんのお父さん…?だってその魔族は“三英傑の英雄譚”にも名前があって、数百年生きているって…えー!?」
「ミューノは物知りだね。もしかして漣次郎に聞いたのかな?」
そう言うとラージェは、ふっと軽く息を吐く。
「やれやれ…ミューノは察しが良いからやり難いな。“無能なラージェ”を演じながら、異能で他人に成りすます諜報をくりかえし、そして父の死を見届けなければならなかった…正直言ってアタシはもう限界だったんだ」
「ラジィさん…?」
「姉様は、使命に真剣だけどどこか他人事だ。マリィルは姉様の役に立てれば何でもいいっていう娘だし、あの2人がどう感じているかは知らない。でもアタシはずっと辛かった、何もかも投げ出してしまいたくなるほどににはね」
「そんな…」
「だから君達にも、いっそ恨んで貰えた方がアタシは楽なんだ。ごめんねココロン、アタシがどこまでも卑怯で狡くて」
ラージェの、少し困ったような笑顔。
「ラジィさん、貴女は…」
ココロンは、さっきとは違う感情の涙を流す…。
そんな中…ふとミューノはある事を思い出し、ラージェに訊ねる。
「そう言えばラージェさん、1つ気になる事が」
「…何だいミューノ?」
「以前ラージェさんが言っていた“ミューとアタシは似ている”っていう言葉…あれはどういう意味だったんですか?」
「ああ、あれか…」
ラージェは肩を竦める。
「フェリア小隊が発足した日…パルサレジアという名を聞いた時点でミューノの素性は察していたし、“この娘もアタシと同じ嘘吐きなんだろうなぁ”って思ったからね」
「…そういう事でしたか。そういう意味なら、確かにわたし達は似た者同士ですね」
「でも、違ったね」
ラージェのまっさらな表情。
「ミューノはアタシと違って…優しくて素直で仲間思いだ。アタシと似ているなんて酷い事を言ってごめんね」
「…」
ラージェのその言葉に、ミューノは上手く答えられなかった。
午後になりビスロが政務から戻ったので、ラージェへの審問が再開された。
「まさかアタシ達の計画を邪魔していたのが、君と漣次郎だったなんてね」
「えへへ」
「…もう、駄目じゃないかテルル。ちゃんと漣次郎が無茶しないように見張っておくよう言ったよね?君だって危険な目にあう可能性があったんだから」
「だってレンはやるって言ったから」
「君もレーヴェットで捕まって酷い事をされたろうに…そうやって自分より他人を思いやる所は、君のお母様そっくりだよ」
昨夜と違い、仮面を捨てたラージェはさっぱりした雰囲気だった。
甘えるテルルを膝に乗せながら、彼女は穏やかな表情だ。
ひとしきりテルルの毛皮を愛でた後、彼女はゆっくりと顔を上げる。
「アタシも姉様や故郷の皆に義理がある、言えない事もあるからそこは勘弁してね。だけど答えられることはちゃんと答えるし、もう嘘は言わないから」
「では答えて貰おうか、フェリア達の活動の…その最終目的を」
ビスロの鋭い視線。
ラージェは全く臆さない。
「アタシ達は“ヴァンガード”…魔王トワナグロゥ様が推し進めるフィズン奪還計画における、半魔族の尖兵だよ。アタシ達の使命はフィズン奪還の為の手段を入手すること…“超級以上の魔法陣奪取”もしくは“黒曜石の収集”だ」
ラージェの告げた言葉にルゥイが首を傾げる。
「超級以上の魔法陣はともかく…黒曜石?何の為に…」
「デルゲオ島には、シュレンディア王国で失伝した超級火術『ディメンション・ホール』の魔法陣があるので。それ以外の理由もあるけど、それまでは言えない」
(それ以外の理由…ね。大方予想は付くな)
“嘘は言わない”と言ったラージェの言葉を、漣次郎は心に留める。
ビスロは目を細め…ラージェを睨む。
「超級火術…何故魔族だけがその魔法陣を持っている?魔法陣は三英傑が1人、賢者ロディエルが作り出した物の筈だぞ」
「さてね、それはアタシも知らない。アタシが調査した範疇だと…そもそもデルゲオ島とシュレンディアでは歴史の中身が違うんだ」
「魔族の歴史…って?」
ココロンが戸惑いながら呟く。
しかしラージェは素っ気無い。
「いや、敢えて語る価値も無いだろう。シュレンディアは人間にとって、デルゲオ島は魔族にとって都合の良い歴史を語っているだけだろうからね」
そしてラージェは静かに、落ち着いた声で告げる。
「魔王様は、かつて魔族の地だったフィズンの奪還を悲願としていらっしゃる。デルゲオ島は不毛の土地で、魔族にとっても暮らしにくい土地だから」
「計画が始動したのは、たぶん100年以上前。魔王様がデルゲオ島の人間を大陸に送り込み、シュレンディアの内情を調査し始めたんだ」
ラージェは“ヴァンガード”とその計画について、知り得る限り最も古い部分から順番に語り出した。
「…何でデルゲオ島に人間が居るんだい?」
漣次郎もそこは分からないので、問うてみる。
ラージェも漣次郎の質問に、簡潔に答える。
「“魔の侵攻”の末期、魔族と共に大陸を去った人間が居たらしいよ。彼等は魔族と親交があり、魔族の味方をしてくれているんだ」
(うーん、結局それはどういう連中なんだろう?)
漣次郎は微妙に納得しかねている。
ラージェは構わず続ける。
「彼等は魔族と同じ“月神”を信仰していて、それを利用してシュレンディア国内の反乱分子を取り込んでいったんだ。そして自分達を真祖『月の民』、信者を『月の民』と呼んで勢力を徐々に拡大したのさ」
不意にラージェは、どこか懐かしむように遠い眼になる。
「およそ20年前…大陸の真祖『月の民』からデルゲオ島に“好機”だという一報が入った。“当代シュレンディア王が半魔族の地位向上政策を進めている”事と“フィズンの防人が貴族に変わった”という2つが重なり、半魔族の尖兵を送り込むのに良い状況になったんだよ」
…ラージェはさっきから、テルルを抱えて撫で回している。テルルも今のところ口を出す内容でも無いので、リラックスしてされるがままになっている。
そしてラージェは少しだけ口を止め…テルルの毛皮を思いっきり吸う。
「すー…」
「わふ」
「ん…落ち着くな」
まるで姉妹のような2人が、漣次郎には不思議だった。
「…ねえラージェ、僕はずっと気になっている事があるんだけど」
「何かな?」
「君にとって、テルルはそんなに大事なの?それこそフェリア達と遂行してきた使命を放棄する程に…」
「…」
目を閉じるラージェ。
少しの間。
「…父も、母も、兄や姉達も…みんな“使命を全うしろ”ってアタシに言うばかり。アタシが“ただのラージェ”として居られた相手は…テルルと、テルルのお母さんのフェイルさんだけだった」
「そうなんだ…」
「フェリア姉様もマリィルも、幼馴染で大事な友人だ。だけど同時に“ヴァンガードの同志”だから…」
ラージェはテルルの毛皮の感触を楽しんでいるようだ。
「テルルはアタシにとって、本当の家族以上に家族なんだ。漣次郎を夜の山中におびき出した日…この娘がシュレンディアに居ると知ってしまったあの日から、もうアタシにとって使命を全うする理由が無くなっていたんだ」
そうしてラージェは、再びテルルの毛皮に顔を埋める。
テルルの毛皮を堪能したらしいラージェが…安らいだ表情で言った。
「ちょっと長くなるけど、アタシ達がこの国に来てからの事を詳しく話すよ。付き合ってくれるかな?」
「…僕はそれを聞きたかったんだ」
漣次郎は待っていたとばかりに満面の笑み。
ラージェも頷き、昔話を始める。
こんなところまでお付き合い頂けている皆様に感謝を。
この先どうなるんでしょうね?わかめにもわかりません。




