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その48 消えたフェリア

ワルハランの騒乱から一夜。

ビスロの命を救った漣次郎達の立場はかなり変わっており、そしてフェリア達も作戦失敗を受けて次の動きを始めているようだった。

しかし漣次郎にすれば事態は好転しており、フェリアへの追撃を試みる。 

 『月の民』と一部の半魔族が起こした“ワルハラン騒乱”から一夜。


 翌日の未明には、特区総督のテンジャ・アルデリアスが王都からとんぼ返りして来ていた。一部始終の状況を聞いたというテンジャは大門に陣取る半魔族を迅速に説得し、既に特区内で『月の民』の身柄を押さえているという。

 やはり“半魔嫌い”の噂が有名な長兄ビスロと違い…半魔族に寄り添って来たテンジャの人気は段違いだった。加えて『月の民』にフェリアを害されたのが特に影響を与えているらしく、半魔族は既に『月の民』排斥に向かって大きく動いている。


 この一件で…ワルハランにおけるビスロ・アルデリアスの評判がやや下がったという。元来堅い性格で知られるビスロは国民からもやや恐れられているきらいがあり、情に厚いテンジャの人気が一層高まったというのだ。

 …とは言っても、この2人はカイン王の息子であっても王位継承に直接影響は無い妾腹。嗣子は第一王妃の子である末弟マシェフと公言されており、この2人の評価がどうあれそれを気にする者は多数派では無い。


 何しろ、本人達がそれを全く気にしてもいないのだ。

 “我等がシュレンディア王国の為であれば、そんなものは些事”。

 そう言い切ったビスロに、漣次郎は尊敬の念を抱いていた。











「…こういうのは慣れないなぁ」

 “ワルハラン騒乱”の翌朝。

 漣次郎は…思わぬ場所に居た。


 ここはワルハラン港に浮かぶ、一隻の船の上。

 昨夜テンジャが親衛部隊と共にワルハランへやってきた際に乗っていた、王族専用の船…その上だった。




「レン、おはよ」

「テルルおはよう、今日もいい天気だ」

「そうだね」

「昨夜は眠れたかい?ここ船の上だからずっと揺れてたけど」

「テルル平気だよ?だって島に居た頃はいつも海で魚をとってたから…船の上で寝ることもあったもん」

「ああそっか、テルルは漁民だったって言ってたねぇ…」

 そんな他愛のない話をする2人。


 テルルは今、顔を隠していない。

 周りに他の人間が居るのに…である。

 海を見て故郷を思い出しているらしいテルルは…厭な記憶を思い出さないよう努めているようだ。海風に長い灰色の髪を靡かせ、微妙な表情で遥かな水平線を眺めている。


 そんな2人の後方。

 紅の隊服を纏う男…ビスロの親衛部隊の戦士が、声を掛けてくる。

「レンジロウ殿にテルル殿、ビスロ様がお呼びです。朝食の準備も整っておりますので本船最上部の部屋にお越し下さい」

「わざわざご丁寧にどうもありがとうございます」

「…」

 親衛部隊の長らしいその男は…部外者である筈の漣次郎はおろか、魔族のテルルにも全く動じていない。しかしテルルは見知らぬ人間をかなり警戒しており、去っていくその男の後ろ姿をじっと見つめていた。

「テルル、怖い?何なら君だけでもサルガンさんの所に送ろうか?」

 漣次郎はテルルの顔を覗き込むが…彼女は首を振り、漣次郎を見つめ返す。

「…大丈夫、テルルはレンといっしょに居る」

「そっか、ありがとう。でも辛くなったら言ってね?」

「わかった」

 落ち着いたテルルの手を引き、漣次郎はビスロの元へと急ぐ。


 そもそも2人がここに居る理由。

 それは…昨晩の“暗殺未遂”の件でビスロから感謝され、彼の保護下に入るよう勧められたからだった。






「昨晩は助かったぞ。感謝する」


 漣次郎とテルルは、ビスロの招待を受けて朝食を御馳走になっていた。

「もぐもぐ…」

「テルル、おいしい?」

「もいひー」

「いや、食べながら返事しなくていいから」

「むー」

 さっきまで人間を警戒していたというのに…テルルはすっかり料理に集中している。王族の船だが料理は意外にも庶民的で、今は卵料理っぽいものをテルルが黙々と食べている。

「魔族か、亡骸なら見た事もあるが生きている者は初めてだ」

「そう…ですよね。このシュレンディア王国で魔族を見る機会があるのは、フィズンの騎士か、ラミ教団の関係者位でしょうから」

「その通りだ、詳しいなレンジロウ殿。その風貌…恐らく其方はシュレンディアの民では無かろうに」

「…」

 ビスロはほぼ真顔だが、険しい雰囲気は一切感じない。

 それに、そういうのに敏感なテルルが全くの無警戒という事は…“ビスロという男は漣次郎にとって無害”と彼女は感じているのだろう。

(ビスロ様を信じても良い…そうなんだねテルル?ならば僕もちゃんと話さないと…その為に僕はここへ来たんだから)

 昨夜漣次郎は、ビスロを助けたテルルを連れ、そのまま異能で去る事も出来た。

 しかし彼は今、テルルを伴ってここに居る。それは…漣次郎にとってビスロが“フェリアへの反撃”の助けになるという下心があったからだった。











 昨晩『月の民』によるビスロ襲撃を防いだ際。

 ビスロはテルルに驚いたものの、身を挺して守った彼女に彼は深く感謝したのだ。また昨晩は疲れていて事情をまともに伝えられていなかった為、漣次郎はこの場で多くを語るつもりだった。


「ビスロ様、お話があります…」

 朝食を終え、給仕の者が食器などを下げた後。

 漣次郎は意を決して、ビスロに秘密を語る事にする。

「そうか、待っていたぞ」

 疲れていた漣次郎を気遣ってか、昨晩は何も聞かなかったビスロ。

 彼は給仕どころか、部屋の入口に居た警護の者まで下がらせて…3人だけ静かに話せるよう場を整える。

 そうして椅子にゆっくりと座り…カイン王によく似た赤眼で漣次郎を見据える。

「聞かせてもらおう…其方達が何故あの場に居て、何故あの襲撃を未然に防げたのかを。そして魔族であるその娘を連れて居る理由もな。何、其方達は私の恩人だ…悪いようにはせんよ」

(全部話しても、あまりに非現実的過ぎて信じて貰えないかもしれない。僕とフェリアの事は伏せて…フェリア達と真祖『月の民』について伝えよう)


 偶然とはいえ、王族であるビスロと繋がりが出来たのだ。

 このチャンスを生かしたい…それが漣次郎の想いだった。






 静かな船の一室。

 穏やかな海の波に揺られるそこで…ビスロは黙って目を瞑っている。


「そうか…テルルは先日レーヴェットで騒ぎになったあの魔族だったのか。何者かに連れ去られて騎士団の元から消えたと聞いていたが、それがレンジロウだったのだな?」

「ええそうです。僕は夏季前節までフィズンに居て、嵐の日に流れ着いたテルルを保護し…レーヴェットの片隅に移住したんです」

「…テルルが発見されたのは、レーヴェット北部に住む前フィズン騎士団長の宅だと聞いているが?」

「えーとですね…僕はテルルと一緒に、そこに居候しているんです」

「…良くサルガン殿は魔族を…いや、あの人は昔から情に厚いからな…」

「そうですね、良くして貰っています」

 ビスロは難しい顔で、テルルをじっと見る。

「君は魔族だろう?何故人間に与する」

「だってレンはテルルを助けてくれたから」

「…魔族は人間を憎んでいると思っていたが」

「テルル、良く分かんない。みんな“大陸の人間はわるい奴”って言ってたよ」

「しかしデルゲオ島の人間は、そうでは無いと」

「うん。でもテルルは、島で人間を見たことないよ。半魔なら知ってるけど」

「そうか…」

 ビスロは蟀谷に指を当て…考え込む。

「“デルゲオ島に人間が居る”…これは由々しき事態だ。我々は今までそんな事態を想定して来なかったが、デルゲオ島から人間若しくは半魔族がシュレンディアに入り込む可能性があったとはな」

「そうなんです!そしてそれこそがフェリアと、フェリア小隊の半魔族2人です!あいつらは島から来たんだ、だって内1人がこのテルルの知り合いなんですから!」

「…さらに“夢遊病事件”も連中の仕業で、その濡れ衣をレンジロウに被せたと」

「その通りです!」

 漣次郎は力説する。

 悔しいが、今のシュレンディアでの力は未だフェリアが上だ。

 捕まえた真祖は決して口を割らないだろうし、フェリア本人も表面上は“暴漢に刺された被害者”だ。しかしそれでも…これを信じてもらう必要があった。

 ビスロは漣次郎の言葉を黙って聞き…呟く。


「フェリアが消えた」


「…何と?」

 漣次郎は息が止まる。

 意味が分からなかった。

「昨夜の遅く、騎士団の治療を受けていた筈のフェリアが消えたのだ。部外者の出入りは無かったという事だからな、恐らく異能『アストラル』を使用したのだろうが」

「消え…えっ!?じゃあラージェとマリィルは!?」

「モードン領に遣いの者を出している。昼には戻るだろう」

(フェリアが消えた…?真祖が捕まって“分が悪い”と判断したのか?)

「全く…まだ“デルメーの流星群”という大問題も収束していないというのに、次から次へと目まぐるしいな」

 疲れを見せて、ぼやくビスロ。

 漣次郎にも状況が分からなかった。

 ただ…フェリアの何かしらの思惑だけは感じることが出来た。






 3人の居る船室の外が、妙に騒がしくなる。

 ビスロが眉を顰める。

「…何だ?」

 そして親衛部隊が騒ぐ声を掻き分けて、1人の男が船室に飛び込む。


「お兄ちゃん、大変よ!」


 息を切らしながらやってきた侵入者は…まさかの特区総督テンジャ・アルデリアスだった。ビスロに用があったらしいテンジャだが、すぐにテルルの存在に気付く。

「…あら?カワイイ娘ね。もしかして君がお兄ちゃんを助けてくれたっていう例の娘かしら?なら俺様からも礼を言わせて頂戴♪」

「…!」

 特異な雰囲気のテンジャに、テルルは毛を逆立てて警戒する…。

「あら残念、嫌われちゃったかしら?でも俺様は君と仲良くなりたいけどなー?」

「ぐるる…」

「おい、テンジャ」

 急用があったらしいのにテルルに構っているテンジャを、ビスロが睨む。

「あ、そうそう!俺様ったらお兄ちゃんに用事があったから来たんだったわ」

「…お前なぁ」

「ゴメンゴメン!でも大変なの!」

「さっさと言え」

「顔こっわ…お兄ちゃんそんなだから皆に嫌われるのよー?」

 悪態を言い合う2人は、見た目ほど険悪では無さそうだ。

 そして、テンジャが急用の要件を口にする。


「モードン領から報告よ。“カイン王の勅命を受け昨日ワルハランに向かったフェリアが今朝になっても戻らず、さらにマリィルまでもが姿を消した。療養に貸していた別邸にはラージェだけが残っており、上級木術で眠らされているようだった”…だって」











 フェリアが姿を消した。

 この噂は、瞬く間にワルハラン中へ広まった。




 昨晩ワルハラン特区に突然現れ、反乱を起こした半魔族を説得していたフェリア。その最中…彼女は何者かに刺され、駐在していた王都騎士団の部隊の元で治療を受けていた。


 しかしそのフェリアが、急に居なくなったというのだ。


 噂によると…それに気付いたのは、かつて“フェリア小隊”に所属していたという新人騎士の少女。フェリアの負傷に心を痛め、夜だというのに見舞いに行ったという彼女が…治療部屋にフェリアが居ないという事を隊長格に報告したらしい。

 そして今朝、モードン領から“マリィルも消えた”という噂まで流れてきたのだ。

 ワルハラン中で『月の民』捜索を行っている騎士団が並行してフェリアを探しているものの…彼女の行方はまだ誰にも分っていなかった。


 消えたフェリア。

 何故かフェリアを害した『月の民』。

 ワルハラン騒乱は…大きな謎を残して幕を閉じた。








 ワルハラン港の埠頭に、ミューノは居る。

 彼女は静かに、穏やかな海を見つめている。

 そんな彼女の側…船着場に佇むココロンが、暗い眼で揺れる波間に視線を落としていた。

「隊長…どうして…」

 ココロンは先程から、抑揚の無い声で囁いている。

(ココ…大丈夫かな、気分転換に港へ誘ってみたけど。レンさんも昨日から行方が分からないから心配ではあるけど、わたしにはココの方が大事)

 ミューノは心配そうに、ココロンの様子を横目で伺う…。


 昨夜のワルハラン騒乱は、ココロンにとって悲しい結末となってしまった。

 フェリアと『月の民』を信じて計画の協力をしたココロンだが、当のフェリアの行動はミューノが伝えた事を裏付けるものだったのだ。

 “フェリアを助け、『月の民』と共に半魔族の為に活動する”と意気込んでいたココロンだが…その『月の民』がフェリアを刺し、ココロンが見舞いに行った時フェリアは既に姿を消していたのだ。


「…隊長、全部嘘だったのかな?」

 消え入るようなココロンの言葉。

 ミューノは…言葉を選ぶ。

「昨夜フェリア隊長が刺されて騎士団の治療を受けていた…でも犯人が捕まって『月の民』と判明した直後にフェリア隊長は消えた。王政はもう“フェリアと『月の民』がワルハラン騒乱を扇動した”という考えで動いている」

「…」

「王政は“フェリアを中心として『月の民』が特区の半魔族を独立させようとした”という考えらしいね。だけどわたしの持つ情報を考慮すれば…ワルハランの政変は“デルゲオ島から来たフェリア”にとって好都合だ」

「…」

「そしてモードン公領で、ラージェさんだけが残ってマリィルさんも姿を消したの。きっとフェリア隊長がマリィルさんを連れて異能でどこかへ行ったんだ。ラージェさんが残った理由は…まだ何か工作をするつもりなんだろうね」

「…信じられない」

 ココロンは、両手で顔を覆う…。

「だってそんな、それが本当なら…優しかったマリィさんが、愉快だったラジィさんが、“魔の再来”であたしを救ってくれた隊長が、全部嘘だったって事だよ…?」

「ココ…」

「隊長はあたしの憧れで、あたしの目標だったのに…」

 涙声のココロン。

 ミューノは唇を噛み締める。

 そして覚悟を決め、ココロンの向き直り、彼女の両肩を掴む。


「ココの望みは…立派な騎士になる事でしょ?」


 ココロンが、暗い顔を上げる。

「ココ、騎士団学校の頃に言っていたよね?“昔は勇者アルヴァナに憧れていたけど、魔の再来で助けてもらったからフェリアさんを目標にするー!”って」

「…でも、もうあたしは…」

「諦めないで、ココ!」

 ミューノは、思わず手に力がこもる。

「ココは凄いの!少なくともわたしにとっては、誰よりも」

「…え?」

「ギゼロ河の水害で家族を亡くして、パルサレジア孤児院で諜報員として育った…そんな環境で笑う事も無くなったわたしだけど、騎士団学校でココに出会って変わったの。ココのお陰でわたし、普通の人間になれたって言って良い」

「ミュー…そうなの?」

「ココは、わたしの一番星」

 ミューノはその手に、一層強く力を籠める。

 ココロンの新緑の瞳に、僅かながら光が戻る。

 ミューノは内心ほっとしながら、もう一押しを掛ける。


「フェリア隊長とマリィルさんが消えた…だけどラージェさんはモードン公の所にまだ居るの。ココ、辛いとは思うけど…会いに行って確かめよう!」


 ココロンは躊躇いながらも、頷く。

 ミューノは微笑み返し、ココロンをそっと抱き締める…。











「ねえレン」

「何だいテルル?」

「あそこ…」

「…何かあるの?」

「ミューノさん」

「え?あ、ホントだ」


 ビスロに一通りの情報提供をした漣次郎は、テルルと一緒に船の甲板でワルハラン港を眺めていた。そしてその遠く…人の少ない場所に、ミューノの姿があったのだ。

「…レン、ミューノさんと一緒に居るあれ誰?」

(あれはたぶん…ココロンかな?)

 確かにミューノは、誰かもう1人と一緒だ。

 漣次郎は少し考え、その2人に会いに行くことにする。

(ミューノが居てくれたら、“僕がフェリアだった”っていうのも言えるかも!あの2人とワールはフェリアを刺した犯人を捕まえた手柄があるし、一緒に王都へ行ってくれないかなぁ…?)

 そうして漣次郎は、テルルに告げる。

「ちょっと僕、あの2人に会って来るよ。テルルは…やめておこうか」

「そうする。テルルここ人が多いし嫌」

 昼間で活発なワルハラン港は人が多く、関係者以外に姿を見られたら拙いテルルは既に仮面とローブで姿を隠している。そんな彼女は当然乗り気では無く、ふるふると首を振る。

「まあそっか、じゃあ行ってくるね」

「行ってらっしゃい」

 漣次郎は親衛部隊の男にその旨を伝え、ビスロの船から下りて行く。




 人込みに紛れて漣次郎が静かに接近すると、ミューノがそれをすぐ察知して振り向く。傍にココロンも居るので少し困った表情を浮かべた後…彼女は漣次郎に向けて小さく手を振った。


「レンさん、心配しましたよ?」

(そう言えば昨晩はビスロ様の所でお世話になっちゃったから、ミューノに行き先を伝えられずに居たんだった)

 人込みを掻き分けてようやく近くまで歩み寄ると、ミューノは微笑みながらもちょっと不満気だった。

「ごめんね、ちょっとこっちにも事情がね…」

 とりあえず謝る漣次郎。

 しかし落ち込んでいるらしいココロンは、その謎の男に驚く。

「え、ミューこの人は…?」

「うーん…今回の件の協力者だよ」

「…そうなんだ」

(ミューノも流石にココロンには話をしていないか。まあそうだよね…)

 ミューノに心配を掛け、ココロンも驚かせて…悪い事をしたと思いつつ、漣次郎はミューノに現状を手短に伝える。

「昨夜の“ビスロ様襲撃”…あれを防いだのが僕達なんだ」

「ええっ!?」

「…まあそうかとは思いましたが、やっぱりでしたね」

 驚くココロンと、予想通りというミューノ。

 そして漣次郎は、ミューノにある提案をする。

「実は今、僕はビスロ様の元に置いて貰っているんだ。そして明日には運河を遡って王都に戻る予定さ。なんでも事情聴取の為にラージェがモードン領から王都に移送されるらしくて、そこでラージェから話を聞き出そうとしているんだよ」


「あたしも行きたいです!!」


 突然叫んだのはココロン。

 漣次郎は元より、ミューノも驚く。

「ミュー、好機だよ!ラジィさんに会おう!」

「う、うん…そうだね。だけどわたし達は騎士団の隊員なんだから、勝手に抜けるっていうのは無理かなぁ」

「むー…でも、あたしラジィさんと直接話したい!」

 そうして胸の前で両の拳を固く握りしめ、ずいっと漣次郎に迫る。

「お兄さん!」

「な、何!?」

「ココ、その人はレンジロウさん」

「レンジロウさん!あたし達も一緒に行けるようビスロ様にお願いできない!?」

「えー!?ま、まあ君達もフェリア襲撃犯を押さえた手柄があるから…お願をしておこうか?」

「やったー!」

(まあ…どの道ミューノには一緒に来てほしかったし、良いか)

 どこか空元気な勢いに押され、漣次郎は承諾してしまう。

 そんな情けない漣次郎を…ミューノは半笑いで見ていた。




「…ココ、何かしていないと落ち着かないって感じなんです」

「みたいだね」

 漣次郎と約束をした後、ココロンは浮かれてどこかへと走り去ってしまっていた。ミューノはそんなココロンを、心配そうな眼で見送っていた。

「きっとラージェさんに会って、きちんと話を聞き出せれば…ちゃんとこの事態を受け入れられると思います」

「…ラージェが本当のことを言えばね」

 漣次郎には当然、懸念がある。


 あの大嘘吐きのラージェがただ1人残った…それに何も意味が無いとは思えなかった。きっと王政を混乱させるような情報を撒き散らすつもりだろう、というのが漣次郎の読みだった。


 漣次郎は溜息を吐き、肩を竦める。

「ラージェ…まあ、何とかするさ。テルルも居るしね」

「そういえばテルルちゃん…まさかと思いますが、あの娘もレンさんと一緒にビスロ様の所に居るんですか?」

「そうだよ」

「えぇ…」

 ミューノは顔を顰め、信じられないという顔をする。

「半魔族嫌いのビスロ様が、魔族を…?」

「うーん…僕が“フェリア”だった時も会ったけど、あの人別に半魔族を嫌ってはいないよ?シュレンディアの為になればあの人なんでも受け入れるって感じだね」

「へぇ、想像し難いですね」

 ミューノは感心したという風に頷くと、くるりと身を翻す。

「まあとにかく、レンさんはビスロ様の説得をお願いします。わたし達も付いて行って、是非力になれたらと思いますから」

 そうしてミューノは顔だけ振り返り、照れ臭そうな笑みを浮かべる。


「レンさんのお陰で、フェリア隊長と『月の民』の陰謀を阻止できましたね。これでもしレンさんとテルルちゃんが王政に受け入れられたら、わたし達とまた一緒に騎士をやりませんか?」


 そう言ったミューノは…漣次郎の返事を待たず、足早に雑踏へと姿を消す。


ここまで読んで下さった皆様に感謝を。

ここから終盤です。

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