その47 ワルハラン騒乱
ワルハランで『月の民』が騒動を起こした夜…何故か半魔族を説得しに現れたフェリアが、辻斬りに遭って負傷した。
王政の刺客か、それともフェリアの策か…状況が読めない漣次郎だが、彼にできる最善を積み重ねることにして…。
ワルハラン特区大門外、宵の口。
民間人に王都騎士、『月の民』が大勢入り混じるその場所は、悲鳴混じりの喧騒が渦巻いている…。
「フェリアが刺されたぞ!」
「王政の刺客なのか!?」
「ええい、犯人はどこに行きやがった!」
「まさか…騎士団の差し金か!?」
少し前に“カイン王の許可を得た”と言ってここに現れたフェリア。
さっきまで彼女は特区大門を封鎖した半魔族達を説得しており、フェエリア本人の説得という事もあって反乱を起こした彼等もほぼ絆されている様子だった。あのまま行けば、夜明けを待たず騒動は収まっていただろう。
しかしそんな最中、フェリアが何者かに刺されたのだ。
それを物陰から見ていた漣次郎は、困惑している。
(ど、どういう事だ…?)
先程フェリアが、騎士団の担架でどこかへと運ばれていった。元々フェリアの周囲には大勢の人が居り、犯人は人混みに紛れて逃走してしまったようだ。
(フェリアの奴…脇腹から血を流していたな。まぁあんな程度じゃあいつが死ぬ訳無いけどさ、でもマジで王政か誰かがフェリアに刺客を放ったのか?)
状況が読めなかった。
漣次郎も、犯人の行方が分からなかった。
「レン、どうする?」
焦る漣次郎をよそに、テルルは落ち着いて遠くを見つめている。
「どうするって…どうしよう?」
「ミューノさんが追って行ったよ」
「え!?!?」
「刺した人を追ってどっか行っちゃった。テルル達も行く?」
(ミューノ、あの騒動の中に君も居たのか…ありがとう、そっちは任せよう!)
どうやらミューノは“フェリアが来る”という情報をどこかから得て、予めあの場所に混じっていたようだ。彼女に感謝しつつ…漣次郎はフェリアの方を追う事にする。
「テルル、僕達はフェリアを追うんだ。刺客の方も気になるけど、ミューノが何とかしてくれると信じよう」
フェリアが刺されたのがフェリア達の計画内か計画外か…それは漣次郎には分からない。しかし今は出来ることをしようと決める。
そんな最中、騒動に数人の男達が突っ込んでくる。
「大変だ大変だ!」
「な、何だお前ら!?」
「王都から王族が来るらしいぞ!」
「何だとぉー!?」
「ビスロ様が別件で偶然ワルハラン港へ来るらしい!親衛部隊を連れてな!」
(え、ビスロ様?!何で半魔嫌いのあの人が…!)
特区半魔族を説得しに現れたフェリア。
フェリアを刺した謎の刺客。
急に現れた、半魔を嫌うカイン王の長男ビスロ。
(今ワルハラン特区の半魔族は、たぶん王政の刺客がフェリアを消しに来たと思っているだろう。そこに半魔嫌いで有名なビスロ様が現れた…これは下手すると、衝突が激しくなるんじゃ!?)
漣次郎は考え、悔しそうに呻く。
「…テルル、やっぱりもう少しここに居よう。フェリアの事は気になるけど、ビスロ様がここに来たら荒れそうだ」
「うん、わかった」
(フェリアが刺され、半魔族が殺気立ち、そこにビスロ様が現れる…ここまでが計画だって言うのかフェリア!?)
漣次郎は内心焦りながらも、ビスロの到着を待つことに決める。
「許さない許さない…許さないよ!よくも隊長を…!」
「ちょ、オメー落ち着きやがれ…バレるぞ」
「でも…!」
「ココ落ち着いて、あいつ動き出した」
ミューノは今、ワルハラン特区から少し離れた路地に来ている。
そしてそこには…ココロンとワールも一緒に居た
先程ワールから“フェリアが来る”という情報を得たミューノは、ココロンと共に特区大門の外で様子を伺っていたのだ。そして何故か、それにワールも付いて来ていた。
封鎖された特区大門だが…そもそもワルハラン特区にはいくつか秘密の通路があり、それを知る諜報員のミューノは半魔族の眼を盗んでそこから外へと出ていたのだ。ココロンとワールに知られるのは拙いものの、緊急時なので割り切る事にしていた。
そして今、ミューノ達の少し先に“フェリアを刺した男”が居る。
そいつは帽子を目深にかぶっているので、顔はさっぱり分からない。凶器を現場に置いてきたらしいその男は、周囲を気にしながら路地を慎重に進んでいく。
フェリアが刺される現場に居合わせた3人だが…特にココロンが怒っている。
「むー…隊長の敵、あたしが取りますから」
「ココ、こういう時こそ冷静になるの。熱くなっちゃあダメだよ」
「わ、分かってるけどぉ…」
諜報員のミューノは元より、半魔族のワールも身のこなしが軽やかで、殆ど音も立てずに2人を先導している。ミューノは逸るココロンと後方に注意しつつ…犯人を追跡する。
ミューノはというと、ワールの能力に感心していた。
「…しかしワールさん、凄いですね。あの人混みの中で犯人を見失わなかったのって信じられないんですけど」
「あ゛ぁ?オレは猫系の半魔族だからな…人間よりは鼻が利くのさ。あの刺した奴も多少返り血を浴びてるからな、フェリアの血の匂いを追えば余裕だぜ」
「でもでも、ワールさんが隊長を傷付けた奴を一緒に追ってくれるなんて嬉しいです。だってワールさん、隊長の事嫌いみたいだったから…」
「…まあ、色々な」
ワールが手で合図をし、2人はそれに付いて行く。
ココロンは純粋に“フェリアを刺した犯人を捕まえる”気のようだ。
しかし、ミューノは違う。
恐らくワールも違うのだろう、とミューノは思う。
(さっきのあの状況…フェリア隊長が刺されたりしたら特区の半魔族は怒るだろうな。だからきっと刺した犯人はフェリア隊長の協力者で…たぶん『月の民』なんだと思う。だってデルゲオ島から来たフェリア隊長にとって特区なんてどうでもいいから、特区と王政がいがみ合おうが知ったこっちゃ無いんでしょ)
ミューノは既に、この辻斬りを“フェリアの策”と捉えていた。
だから今、犯人を追っている。
犯人が『月の民』だという証拠を掴みたかった。
犯人を追って行き、3人は市街地のとある家に辿り着いた。
二階建てのその家は上の階に見張りが居たのだが…ミューノが慣れた様子でそいつを吹き矢で眠らせ、3人は密かに二階へと侵入した。
「早く捕まえようよ…!」
「ココ、焦っちゃダメ」
「下に居るな…3人だぜ。男が2人と女が1人、男の片方が辻斬り野郎だな。半魔は居ねぇから、異能の心配はねーぞ」
「…ワールさん、ありがとう」
3人は薄い2階の床板に耳を当て、下の会話を盗み聞く。
「やった…!俺は上手くやりましたよ!」
聞こえてくる、若い男の声。興奮冷めやらぬと言った様子で、逸りながら報告をしている。それを聞く年配の男女が、それを労う。
「そうか、ご苦労じゃった!きっと月神様もお喜びだ」
「しかし真祖、何故“紅き救世主”はあのような事を望んだのでしょうか…?」
「あの方のお考えですよ、我等はただ信じましょう…」
「…仰る通りですね」
(やった、当たりだ!)
彼等の会話、ミューノにとっては予想通りだった。
「ふーん…成程な。まあ、そういう事だとは思っていたけどよぉ」
ワールも半ば想定していたようで、驚いた様子は無い。
しかしココロンは、見るからに取り乱している…。
「な…え?これってどういう、ねえミュー…なにこれ?」
「聞いた通り、フェリア隊長を刺したのは『月の民』だって事だよ」
「そ、そんな…!だって隊長と『月の民』は仲間で…えぇ?というか真祖って何!?」
ココロンは困惑してオロオロしているが、ミューノとワールはもう戦闘態勢だった。ミューノは黒術の分身を出し、ワールも武器を抜いている。
「とにかく捕らえるぜ」
「ええ、了解です」
「え、ミュー行くの!?!?」
「もちろん」
そうして3人は、『月の民』に奇襲を仕掛ける。
「そうか、助かったよミューノ!」
深夜のワルハラン、特区大門付近の路地裏で漣次郎はミューノと合流していた。
「やはり下手人は『月の民』でした。指示を出していたのが真祖のようで、ワールさんとココが騎士団に引き渡してくれました。わたしは“パルサレジアに報告する”って言って、こっそり抜けて来たんです」
「よし…あとはこの事実を特区に伝えられれば良いんだけどな」
「ワールさんがすぐに特区へ戻ると言っていました。これで半魔族に“『月の民』はフェリアの敵”と言う噂が広がってくれればかなり良い状態になりますね」
「そうだね、それで半魔族と『月の民』が仲違いしてくれるといいんだけど」
フェリアを刺した犯人を確保したというミューノだが…しかし漣次郎が見るに、その顔色はあまり芳しくない。
彼女の懸念…漣次郎には予想が付いた。
「ちなみにだけど…ココロンは大丈夫なの?」
「…いえ、ココはかなり精神的に参っています。ココにとって『月の民』は、一緒にフェリア隊長を支える同志という認識だったでしょうから…」
「そっか…ココロンには辛いよね」
「だからすみません、わたしこの後すぐに騎士団に戻りますので。ココが心配で…」
「いいよ、ミューノはミューノが大事にするものを優先しなきゃ」
(しかし、これはすこぶる順調だな!)
漣次郎は、若干の高揚感を覚える。
恐らくフェリア達の狙いは“王政の刺客がフェリアを消しに来た”という芝居を打ち、王政に対する半魔族の印象を最悪にしてやろう…という事だったのだろう。しかしそれが自作自演だと分かってしまった今、フェリアも状況が悪かろうと漣次郎は思う。
自然とにやけてしまっていた漣次郎の表情を、ミューノがジト目で見る…。
「…なんですかその顔」
「え?いやその別に…」
テルルも漣次郎の表情を覗き込む。
「レン嬉しそう」
「そうだね、不気味だね」
「…ミューノ酷くない?」
しかし気が緩んでいたのは確かだ。
漣次郎は頬を叩き、気合を入れる。
「だけど、あいつらきっとまだ何かやって来るよ。このまま黙って作戦失敗…で終わらせる連中とは思えない。それに今夜急にビスロ様が来るって言うし、そこで何かが起きる気がする」
「確かにその可能性もありますね。だけどわたし、ココの側にいないと…」
「いいよ、任せて。僕も頑張らないとだから!」
騎士団の手当てを受けているフェリアの事も気掛かりではあった。しかし彼女は騎士団の監視下とも言えるので、そちらは一旦無視することにする。
そうして漣次郎は深夜の町で、ビスロの到着を待つことにする。
日も沈んで暫くが経った頃…ワルハラン港に王族の船団がやって来た。
それは噂通り、カイン王の長男である宰相ビスロ・アルデリアスとその親衛部隊だった。東部海岸沿いの視察を行っていたというビスロの元に“ワルハラン騒乱”の情報が入ったらしく、急ぎ向かって来たようだ。
夜更けだというのに未だ喧騒の収まらないワルハランの町を進むビスロと親衛部隊は、物々しい雰囲気で特区大門の傍までやって来る。
「半魔族の民よ!大門を開けるんだ!」
深夜の特区大門前、ビスロが半魔族を説得しようと試みている。
「我が弟テンジャが今、王都で議会の貴族達に働き掛けている!それに父カインもフェリアの復職を約束しているからして、君達が憂うような“フェリア追放”などという事は起きる筈も無いぞ!」
元々フェリアの説得でだいぶ揺らいでいた反逆の半魔族達だが、既に“フェリアを刺したのが『月の民』だった”と言う噂も特区内に蔓延しているらしく…今までは野次を飛ばしていた大門守衛の半魔族もだいぶ大人しくなっている。
「それに…君達も既に聞いていると思うが、君達の英雄フェリアを襲撃したのは『月の民』だったと報告を受けている!彼等は君達半魔族を利用しようとしているだけだ、速やかに大門を開き、騎士団を受け入れ…『月の民』を追放するのだ!」
しかしビスロは“半魔族嫌い”と言う噂で有名だった。
既に『月の民』を不審に思っているらしい半魔族達も、ビスロの言葉を信じられないようだ。彼等は煮え切らない態度で、引くも戻るも決めあぐねているようだった。
「君達の処遇についても心配無いぞ!私の権限で本件は『月の民』のみを処罰することに決定している!だから一刻も早く大門を開放するんだ!」
漣次郎はその光景を、遠巻きに眺めている。
(困ったなぁ…ビスロ様は別に半魔族を嫌っている訳じゃ無いんだろうけど、広まった噂はどうしようもないよね)
以前“フェリア”としてビスロと関わった漣次郎は、彼が半魔族を嫌っている訳では無いと知っている。しかしそれを広める手立てなど漣次郎にある筈も無く、ただそれを黙って見ているしか無かった。
「レン、あれどうなの?」
テルルは不思議そうに、ビスロの演説に耳を傾けている。
「いや、ダメだろうね…。総督のテンジャ様なら違ったかもしれないけれど」
そう言いながら、漣次郎は頭を回す。
(この状況…フェリア達なら想定している筈だ。まだ何かやって来るぞ…)
そして漣次郎は最悪な状況まで考慮し…近くの民家の屋根に魔法で飛び乗った。
漣次郎は民家の上から、大門付近を俯瞰する。
大門前で演説するビスロと、彼を護衛する親衛部隊。
大門の見張り台に陣取り、微妙な表情を浮かべる半魔族。
その様子を遠巻きに見守る、ワルハランの市民。
特区城壁の上の…。
「…ん!?」
漣次郎は特区城壁の上に、人影を見つける。
1人だ。
遠すぎて様子が良く分からない。
「ねえテルル、あそこ見える…?」
「んー…誰か居るね。何か持ってる」
「何だか分かる…?」
「弓っぽい」
「弓!?」
漣次郎は驚き、その怪しい影を凝視する。
(暗いし遠くて見えないけど…確かに何か持っているよね!?ヤバいあいつまさか、ビスロ様を狙う気なのか!?)
辺りの皆は、誰も気付いていなさそうだ…。
漣次郎は、気合を入れ直す。
「…テルル、少し待ってて。ここで様子をよく見ているんだ」
「レン、行くの?」
「あいつをどうにかする」
「テルルも行く」
「駄目、何があるかわからない」
「じゃあ、気を付けてね…」
「大丈夫」
そして漣次郎は密かに高く飛び、標的の真上から接近する。
漣次郎は怪しい奴の真上から上級白術で密かに接近し、ふわりと背後に降り立つ。相手は今まさに矢筒から矢を抜き、弓につがえようとしている所だ。
(やらせるかよ…!)
漣次郎は琥珀の杖を構え…一気に背後へ接近する。
「『ドリーム・ペタル』!」
「な!?」
薄桃色の花弁が舞い散る。
そいつは振り返る。
歳の行った男だ。
彫りの深い顔に、驚愕の表情を浮かべている。
「な、何だ貴様…!?」
上級木術の催眠効果で朦朧としながらも、男は腰の短剣を抜く。
「…き、貴様かぁ…!我々の邪魔をしていたのは…!」
「お前らの好きにはさせないよ」
「貴様…パルサレジアの回し者だろうが、良くも邪魔してくれたなぁ…!?」
「答える義理は無いね」
千鳥足で短剣を滅茶苦茶に振るう男だが、流石にそんなのは漣次郎でも避けられる。どうせすぐ眠りに落ちるんだからと、漣次郎はあしらいながら後退して行く。
「くそ…」
数秒後、男は瞼を閉じて倒れ込み…寝息を立て始める。
「こいつ…真祖か」
漣次郎は眠った男の姿を観察し、そう結論付ける。
一番の決め手は…所持していた月の首飾りだ。
(これ、レーヴェットで会った真祖も持っていた。他の『月の民』が持っている所を一度も見た事無いし、たぶん真祖だけが持つ印なんだろうね)
しかし、真祖の身柄を確保できたのは漣次郎にとって僥倖だった。
(後はこいつを騎士団に引き渡して、ミューノ経由で情報を聞こうか。これで王政も『月の民』の取り締まりを強化してくれるだろうだから、放っておいても大丈夫かも?)
漣次郎はにやけ顔で、夜のワルハランを静かに眺める。
フェリアと『月の民』の企みを阻止した。
真祖も1人確保できた。
だから漣次郎は、気が緩んでいたのだ。
気付いたのは、放たれた後。
「な!?」
矢が放たれる弦の音。
同時に複数。
叫ぶ親衛隊。
群衆の悲鳴。
漣次郎は、自分の甘さを呪う。
(こいつ以外にまだ居たのかぁ…!)
苦虫を噛み潰した表情で、漣次郎は大門前を恐る恐る覗き込む…。
そして漣次郎は、重ねて驚愕する事になる。
ビスロを庇うように、折り重って倒れた親衛部隊の戦士達。
驚きながらも、大して取り乱してもいないビスロ。
そしてビスロの少し前方。
中空に浮くテルルが…数本の矢を鷲掴みにしていた。
考えている暇は無かった。
漣次郎は特区城壁から飛び降り、途中で飛行に切り替えてテルルの元へと降り立つ。
「あ、レン来た」
「テルル大丈夫!?」
「レンの所以外にも居たみたい。取っておいたよ」
(“取っておいた”って、まさか矢を素手で止められるとはね…)
漣次郎はテルルの身体能力にも驚きつつ…急ぎこの場を去ろうとする。
しかし、ビスロの鋭い声。
「刺客が居たとはな…何者かは知らんが助かったぞ、感謝する」
「…」
逡巡する漣次郎。
(さっさと逃げないと…でも刺客は引き渡したい、どうする…)
迷う漣次郎だが…何故か急に、ビスロが目を見開く。
「な、君は…!?」
(何だ…って、ヤバ!!)
ビスロと親衛部隊からしか見えない距離。
激しく動いたせいか…テルルの仮面がいつの間にかどこかに落ちてしまったらしく、人ならざるテルルの素顔が露出してしまっていたのだ…。
深夜のモードン公別邸。
そこにはフェリアとマリィル、ラージェの3人が居た。
「フェリア様、酷いお怪我を…」
「どうという事は無いよ、もう治りかけているしね」
「ですが、フェリア様のお肌に傷が…」
「大丈夫だって、痕も残らないよ」
長椅子に腰掛けるフェリアの腹部には包帯が巻かれている。それをマリィルが優しく撫でながら、泣きそうな声でフェリアを案じていた。
ラージェは、俯いている。
「ワルハランの計画…丸ごと失敗したというのは本当か?」
掠れたラージェの言葉に、フェリアも残念そうに返す。
「いやはや、計画が漏洩していたんじゃないかと思う程に邪魔されたね。特区大門の封鎖は出来たけど運河の方は失敗、僕を刺した『月の民』もすぐ捕まっちゃったし、急遽立案したビスロ様暗殺も防がれちゃったみたい」
「…流石にそれは悪手だよ、真祖にもっと良く言っておくべきだった。これで半魔族は『月の民』を見限るだろうね、元々特区の皆はそこまで激しい対立を望んでいる訳じゃ無かったから」
ラージェは大きな溜息を吐くと、ファリアをじっと見据える。
「…潮時か。できれば内紛を起こして戦力をデルメーとワルハランに割かせたかったけれど、もう無理だね。いずれにせよ“焦天”の決行自体は準備万端だから、アタシ達の活動もこれまでだ」
フェリアもふっと息を吐いた。
「…帰るかい?僕らの故郷に」
「そうだね」
ラージェの言葉を聞き、マリィルがフェリアの胸に顔を埋める。
「私達は、ヴァンガードとしての勤めを果たせたのでしょうか…?」
「もちろん。黒曜石を持って帰るのが本来の使命だったんだから、もう十分さ」
「…私は、フェリア様のお役に立てたのでしょうか?」
「当り前だよ。ありがとねマリィル!」
「そのお言葉だけで、私は…!」
マリィルが涙ぐみ、フェリアに寄り添う。
ラージェは、穏やかな面持ちだった。
そして静かに2人に告げる。
「まだアタシには、もう少しだけやる事ある」
「え、それは何?」
「まあ聞いてよ…」
静かな秋の夜半、半魔族の3人は…穏やかな時間を過ごす。
これを読んで下さるどこかの誰かに感謝を。
ちょっと入れ場所が無さそうな話を番外編として次回置きます。




