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その44 星屑の煌く夜

魔族の集落で、思いの外穏やかな時間を過ごす漣次郎。

しかしワルハランでは騒動が過熱し、さらにはココロンまでが何やら怪しい動きをし始めてしまい…。

 フェリア隊長が、あたしを頼ってくれた。

 遂に“魔の再来”の時の恩返しができるんだ。

 フェリア小隊復活の為にも、あたしが頑張らないと!




 夜のワルハランは、かつて無い位に騒めいている。

 あたしの心も同様に騒めく。

(えーっと、フェリア隊長から聞いた場所…あっちかな?)

 騎士団の任務中でないあたしは今、『月の民』と落ち合う為にとある場所へ向かっている。彼等はシュレンディアにとっては異教徒だけど…フェリア隊長の仲間なんだ。

(『月の民』はもうすぐ、半魔族と一緒にワルハラン特区と運河を封鎖する。フェリア隊長の謹慎を解かせるために)

 フェリア隊長の為に協力してくれる彼等だけど、フェリア隊長は“どうしても騎士団内にも仲間が必要なんだ”って言ってた。だからあたしがこうして騎士団の眼を避け、『月の民』の協力をしているんだから。


 特区の周辺には、こんな時間だというのに半魔族が屯している。

 彼等は“フェリア復職”と、“フェリアを排斥しようとする王政に対する不満”を道行く人間に訴えかけている。その中には半魔族に同調する人間の姿もあり、あたしはそれが無性に嬉しい。

(あたしみたいに半魔族の味方をする人が居るんだな。やっぱり隊長や『月の民』の皆が言う通り、人間はもっと半魔族と仲良くやるべきだよね!)

 そう考えている内に、やっと目的の路地にやって来た。

 あたしは周囲に騎士が居ない事を確認し、その路地に飛び込む。

(…ホントはミューにも協力して欲しんだけどなぁ。でもミューはパルサレジア…“ミュー自身が協力してくれるつもりでも、ミューに監視が付いている可能性もある”ってマリィさんも言ってた。だから仕方ないけど)

 ミューには悪いけど、隊長がミューじゃ無くてあたしを頼ってくれた…それがとても嬉しいんだ。


 あたしは少し後ろ髪を引かれながらも、前に進む為歩き出す。






(…どうしよう、わたしはどうすれば…)


 夜のワルハラン…大通りの物陰で、ミューノは思い悩む。

 ほんの少し前、見るからに怪しい変装をしたココロンが大通りを歩いており、そして周囲を気にしながらとある路地に入って行った。

 ミューノは、そこを確認する気も起きない。

(あそこの先…パルサレジア孤児院の調査によれば、『月の民』の根城がある場所だ。やっぱりココ、フェリア隊長に唆されているんだ)


 以前ルゥイから“ココロンが夜中、ワルハラン辺境の浜辺に居た”という話を聞いた。そして最近のココロンは、明らかに夜中どこかへ出かける頻度が高くなっていた。行き先を聞いても毎回はぐらかされた辺り…間違い無いという確信がミューノにはあった。


 しかしミューノは、その後を追えない。

(ココの決意、どうやったら変えられるか分かんないよ…あの娘にとってフェリア隊長は“命の恩人”なんだから。それにココの行動は立派な造反…大事にはしたくないよ)

 漣次郎と行動し、フェリアがまっとうな騎士で無い事を知ってしまったミューノは良いが…ココロンにとってフェリアは“尊敬する隊長”のままだ。ミューノとしてはココロンを説得したいのだが…。

(フェリア隊長はデルゲオ島出身…だけどそれの情報元はラージェさんだってレンさんは言った。それにレンさんはまだシュレンディアで指名手配犯だし、これだけじゃココを説得できそうにない)

 ココが拙い事に首を突っ込んでいるというのに、それを止める方法が思いつかないミューノはもどかしい想いを抱えていた。











 ほぼ同時刻。

 聖地・銀嶺山に隠されている魔族の集落…『朧の箱庭』。

 漣次郎とテルルは、ここで一晩を過ごすことになっていた。


「悪いね、ここは自分が1人で暮らしている家だから狭いのよ」

「いえいえ、置いてくれるだけでも有難いですよ」

 長老フローデンの意向で、漣次郎達は狐獣人の魔族ヅェニワラの家にお邪魔していた。彼女の家は集落の端にあり、ここ『朧の箱庭』への入り口である岩の門の側にあった。

 なんで家が孤立しているか気になった漣次郎は、試しに聞いてみる。

「どうして他の家から離れた場所に住んでいるんです?」

「さっきも言ったけど、自分は人間に興味があるからね。長老は“あまり集落を出るな”って煩いけど、ここなら夜中にこっそり抜け出しても気付かれないの」

「ああ、そういう理由で…」

 そう言うヅェニワラの家は、山肌に張り付いたような場所に建つ丸太小屋で、漣次郎が山登りに持ってきた装備に近いものが置かれている。他の誰かが住んでいるという様子では無い。


「全く、長老も余計なお世話だよ」

 不意にヅェニワラがぼやく。

「え、何がですか?」

「実は自分、もう20歳なのよねー。でもまだ番も決めずに人間に関わろうとしているから、長老が心配しているのよ。それに長老は2人さんが『朧の箱庭』に住むのを決定事項と思っているっぽいから、あわよくば…って事でしょうね」

「え、それってつまり…?」

「ふふふ…」

 ヅェニワラの、妖しい笑み。

 確かに彼女はすらっとしながらも豊満な身体で、異種ながらも魅力的だとは漣次郎も思う。しかし急な話に漣次郎はオロオロする…。

「そ、そんな事言われても…」

「まあまあ冗談よ。長老の戯言だと思っておいて頂戴?それに…」

 漣次郎の横、唸り声。


「ぐるる…」


 テルルが、ヅェニワラを威嚇している…。

「ちょ、テルル…」

「レン…だめ」

「駄目って…別に僕そういう気は無いからね?」

「…ほんと?」

「本当だって」

「…うん」

 珍しく感情を強く出すテルルに内心驚きながらも、漣次郎は何とかテルルを宥めることが出来た。




「うふふ、愛されてるわねレンジロウ」

 ヅェニワラは実に楽しそうだ。

 そして彼女は、睨むテルルにひらひらと手を振る。

「大丈夫よテルルちゃん、取ったりしないから」

「むー…」

「あらあら、ホント可愛いわねぇー」

 ヅェニワラはニヤニヤしながら、漣次郎とテルルを交互に見る。

「ま、まあいいじゃないですか…一旦荷物を置かせてください。あとここ寝るには狭そうですし、登山用に持ってきた天幕を張らせてもらいますね」

「はいはい、自分も手伝うよ」


 そうして漣次郎は、ここで一晩過ごす準備を始める。











 夜、ヅェニワラが手料理を振る舞ってくれることになった。

 この『朧の箱庭』には小さな湖があるらしく、魔族達が魚などを減らさないよう獲っているらしい。秋は山の恵みが多いという事で、茸や木の実をふんだんに使った料理をたくさん作ってくれた。


「どうかしら?シュレンディアの人間はもっと良いものを食べているでしょうから、口に合うか心配なんだけど」

「いやいや、凄い美味しいですよ!?物が手に入りにくそうなここで、よくこんな食材や調味料が手に入りますね!」

「元々この山は岩塩が多いからねぇ、海から遠いここでも塩には困らないの。それにこの山は広範囲が禁足域だから人間に出くわす心配も無いし、自分達も定期的に山に出ては食材を集めているからねー」

「意外とその辺困らないんですね」

「あはは、そうじゃなかったらこんな狭い集落…とてもじゃないけど皆を食わせる程の農地なんて無いの。多少の危険は冒さざるを得ないのよ」

 料理をつつきながら喋る2人をよそに、テルルは食べるのに夢中だった。香草焼の魚に一心不乱にかぶりついており、漣次郎達の話は耳に入っていないようだ…。

「がふがふ…」

「テルル、もっとゆっくり食べたら?」

「んー…」

 漣次郎が声を掛けるとようやくテルルは顔を上げ…汚した口元をぺろりと舐める。彼女はさっきまでヅェニワラを露骨に警戒していたくせに、美味しい晩飯ですっかり懐柔されている。

「…テルルもこんなの作ってみたい」

 テルルは意外にも、料理に興味を示す。

「お、いいじゃない。自分はそんな上手い方じゃないけど、それでも良ければいくらでも教えてあげるわ」

「ほんと?」

「ええ」


 人間に追われ、辺境で隠れ住むという悲壮感はここに無い。

 フェリアや『月の民』の事を一時忘れてしまう程、この箱庭には穏やかな空気が流れていた。






「ねえテルルちゃん、デルゲオ島に居た頃の君の事を教えてよ」

 食事も終わり、片付けを終えた所でヅェニワラが切り出した。

 テルルは一瞬、硬くなる。

「…」

「あら、あまり話したくない事なのかしら?じゃあいいけど」

 漣次郎やサルガンにも過去を語りたがらなかったテルル。

 しかし彼女は、意外にもそれに応える。

「…テルルはね、漁をして暮らしていたの」

(お?テルル…まさか話すとは思わなかった。フィズンに流れ着いた時から考えると、ずいぶん明るくなったね)

 そうしてテルルが故郷の話をするのを、漣次郎は黙って聞いている。


「そっか、お母さんを亡くして…苦労したのね」

 テルルの話を聞き終わり、ヅェニワラが呟く。

「異能本位の階級制度か…島の魔族は大変なのね。まあ自分達も“里を守る異能”を重んじているから、それと同じようなものかね」

「しかし島でのテルルは本当に奴隷じみた扱いを受けていたみたいで…」

「うーん、こんな子供に酷い事を」

 そこでヅェニワラが何かを思い出したようだ。

「そう言えばテルルちゃん…君の異能は“流れ星を呼ぶ異能”らしいけど、どうしてそんな異能を発現したの?」

 テルルは渋い表情になる。

「んー…」

「身に覚えは無いかしら?」

「あるけど…」

 躊躇うテルル。

 しかし彼女はゆっくりと…漣次郎も聞いたことが無い“異能を発現した時の話”をし始めた。




「テルルの母様は、異能を使い過ぎて死んじゃったの」

 テルルはか細い声で、厭な記憶を掘り起こしているようだ。

「島に悪い病気が流行ってね、母様はみんなを治すために“病気や怪我を治す異能”をずっと使ってた。そのせいで…」

 異能と魔法は、エーテルを消費する力だ。使い過ぎると疲労するのは漣次郎も身をもって知っているが…使い過ぎが命に関わるというのは初耳だった。

「テルル、母様が死んでしまって、悲しくて…泣きすぎて寝込んじゃったの。熱も出て、動けなくなっちゃった」

 兄弟がおらず、早くに亡くした父の顔も覚えていないというテルルにとって…唯一と言って良い肉親が母だけだったのだろう。その時のテルルの悲しみは…察するに余りある。

 テルルは虚ろな表情で…星空に目を向ける。


「テルルが寝込んだあの夜…星がたくさん降っていた。そしてその星の下を、母様が歩いているのを見たの」


 冬の流星群はまだ先で、それ以外に星が降る事は無いというシュレンディア。しかしテルルはそんな空に目を凝らし、流星を探しているようだ。

「そんなことあり得ないって…テルルだって分かってる。母様は死んでしまって、お墓に埋めたのも見たんだもん。だけど…だけど…!」

 テルルはもう泣きそうだ。

 しかしテルルは、最後の言葉を振り絞る。

「だからテルル…あれ以来、星の降る夜にはいつも母様を探していた。そしたらいつの間にか、そういう異能を使えるようになってたの」

 そのテルルの話を聞いて、漣次郎は決意を固める。

(やっぱりテルルはここへ置いて行こう…もしそれが出来なかったら、最低限フェリアとのイザコザから離れさせるんだ。今まで不幸だったであろうこの子に、これ以上辛い思いをさせる訳にはいかないよ)

 そうして漣次郎は今夜…テルルと話をすることに決める。











 集落がもう寝静まった夜更け。

 漣次郎は、テルルを連れて月の下を散歩する。

「ここ、いい所だね」

 こんな夜中なのに、テルルは軽やかな足取りで夜道を歩く。彼女はこの集落で子供達とも打ち解けたらしく、ここをとても気に入っているようだ。

「僕も、銀嶺の魔族がこんなに穏やかに暮らしているとは思わなかったよ。確かにここは寒いけど、食べ物もあるし敵も居ない良い場所だ」

「んー…テルル、島よりここの方が好き」

「それはそうだよね…」

「ヅェニワラさんも料理を教えてくれるって。テルル、料理も上手になりたいな」

「それは良いかもね。サルガンさんも料理上手だけど…どちらかというと“男の手料理”って感じなんだよね」

「えへへー」

 リラックスしているように見えるテルルだが…漣次郎が何を言おうとしているのかを理解しているようだ。妙な緊張感を漂わせている。

 漣次郎も腹を括り、切り出す。


「テルル…やっぱり君はここに住むべきだと思うんだ。君にとってもこの『朧の箱庭』は良い場所だよ」


 テルルは漣次郎がこの話をすると分かっていたようで、ムッとした表情に変わる。

「テルル、レンといっしょに帰るよ?」

「いや…もしまた君がレーヴェット騎士団に捕まったりしたら、今度は助けられる保証が無いよ。ここで安全に居て欲しいんだ」

「テルル怖く無いもん。今度はちゃんと魔法で逃げるよ」

「…じゃあ、せめてサルガンさんの所に居てよね?この前ラージェと会った時みたいに、僕と一緒に行動するっていうのは無しだ。フェリアの事を片付けたらその時は、僕もここに住むからさ」

「テルル、レンの力になりたいよ」

 漣次郎の予想通り、やはり頑ななテルル。

 漣次郎はなんとか説得できる言葉を探すが…。

「だけどねテルル…」

「レン」

 テルルが、漣次郎にずいっと迫る。


「テルル、もう子供じゃない」


 テルルの言葉に、漣次郎は息を呑む。

 今日ヅェニワラがテルルのことを『12歳くらい』と言った時に気付いたのだが…テルルは明らかに、フィズンで保護した当時より背が伸びていた。

 あの頃の彼女は、11歳のアイラ姫よりだいぶ小さかった筈なのに…今では彼女の大きな立耳が、漣次郎の視線の少し下だ。単に背筋が伸びたというのもあるのだろうが、その深い紅の瞳には今までに無い力が漲っている。

「テルルはレンの力になる。もう恩だとかそういうのじゃないの…それがテルルの望みだから」

「…無理だよ、僕はこれからワルハランやデルメーっていう大きな町で動く予定なんだ。魔族の君が同行できる場所じゃないよ」

「夜の中ならテルルも大丈夫」

「だけど、そんな事したら君とラージェが敵対するって事にもなりかねないんだよ?ラージェは君が大事なんだろうけど、あいつ僕には“次に会ったら容赦しない”ってはっきり言った。そんな僕と一緒に行動して、それをラージェに見られたら…」

「ラージェ様は、テルルが説得するよ」

 引き下がる気配の無いテルル。

 漣次郎は卑怯と思いつつ…強い言葉を使う。


「これは僕の“願い”なんだ…頼むよテルル」


「…!」

 流石にこの言葉には、テルルも言葉を詰まらせる。

 耳と尻尾が垂れ、俯く。

 漣次郎はそっとテルルの頭を撫でる。

「君の気持ちは嬉しいよテルル。だけど僕は、君が危険に晒されるのは嫌なんだ。大丈夫、ちゃんと様子を見に来るからさ」

「…」

 テルルが震えている。

 顔を上げない。

「やっぱり君にとっても、魔族と一緒に暮らすのが良いと思うんだ」

「…」

 テルルが顔を上げる。


「イヤだ…イヤだ…!」


 テルルは今まで見せたこと無いような、激情を堪える表情だ…。

「おいてかないで…」

「テルル…?」

「イヤ…捨てないで…!!」

 テルルの身体に、異能の光が宿る。




 そして漣次郎が止める間もなく…テルルはまだ名前も無いその異能を、ありったけの力で発動する。
















「やはり僕達は、帰る事にしました」


 ヅェニワラ宅に世話になった翌日。

 漣次郎は『朧の箱庭』の長老であるフローデンの元を訪れてそう告げた。一緒についてきたヅェニワラは少し驚いていたが…フローデンはその回答が予想通りだったようで、特に驚いた素振りも見せなかった。

「そうかそうか、まあ気が変わったらまたおいでなさいな」

「すみません…でももしかしたら、状況によってテルルをここに連れ込むかもしれません。勝手ですみませんが、その時はお願いしたいです」

「構わんよ、いつでも歓迎しよう」

「ありがとうございます!」

 結局テルルを連れ帰る決断をした漣次郎だが、それでも構わず受け入れてくれたフローデンに彼は感謝をする。




 そこでフローデンが、大きな単眼でじっと漣次郎を見据える。

「で、昨夜の事を聞いても良いかのう?」

「う…まあ、そうですよね…」

 今ここには、漣次郎とヅェニワラとフローデンの3人が居る。

 テルルはここに居なかった。

 面倒事になりそうな予感がしたので“あわよくば黙ったまま去ろう”と思っていた漣次郎を、呆れたようにヅェニワラがつんつん突つく。

「いやいやレンジロウ、あれを隠そうったって無理な話よ?それに…きっとここだけじゃ無くて、麓の人間達だって大騒ぎになっていると思うわよ?」

「そ、それは覚悟しています…」

 そうして漣次郎は、昨夜のテルルの事を長老に伝える。


「昨夜の“流星群”…あれ、テルルの仕業なんです」


 昨夜、漣次郎がテルルを箱庭に残す為説得した時。

 テルルは“自分が役立つ”事を示す為か、異能を力の限り発動したのだ。彼女の“流れ星を呼ぶ異能”は暴走し、数多の流星が銀嶺山の夜空に煌いたのだ。

「あの異能…本物の流星群に比べれば僅かな時間でした。しかし本物の流星群同様に、エーテルを活性化する効果があったようです」

 つまりテルルの異能は、“限定的に流星群の日を再現する異能”なのだ。

 本物の“流星群の日”がシュレンディアにとって非常に重要な日であることを考えると、これは大変な力と言える。

「で、力を使い過ぎてテルルちゃんは今寝てるわ。起こしても起きそうにないから先にレンジロウを連れてきたの」

「むむぅ…あの子は大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃない?なんか気持ち良さそうに寝てたわよ」

 異能を発動した直後…テルルは倒れ込むように眠りに落ちた。

 今朝も彼女は揺すっても叩いても起きる気配が無かったが、表情も呼吸も別段おかしくはなかった。

 きっと大きな力を使った反動だろうと漣次郎は結論付けていた。


 フローデンは、じっと漣次郎を見据えたままだ。

「…あの力は、危険なものじゃ」

「ええ、僕も理解しています」

「きっと麓の人間も大騒ぎじゃろうて…銀嶺山のラミ神に関連付けて納得してくれればいいが、万が一この山に踏み入られたら拙いのう」

「それは僕がすぐ調査をしますよ。それで状況を伝えにまたここへ来ます」

「ほう、そうしてくれると助かる」

 フローデンは眼を半分閉じ、一呼吸置く。

「あの子を頼んだぞ、如何に危険な力を持っているかをしっかり理解させるんじゃ。でなければ不幸を招くだろう」

「もちろんです、任せて下さい」

「…レンジロウ、あの子を利用しようだなどと考えるなよ?」

 フローデンの、鋭い眼光。

 漣次郎は怯まない。


「当り前です、テルルは僕の恩人ですから」


 迷い無い漣次郎の答えに、フローデンは微笑む。

「…ふふふ、良き答えだ」

 そうして漣次郎は、フローデンに別れを告げる。











「テルル、起きられるかい?」

「んー…」

「まだ怠いなら寝てても良いよ」

「…おきる」

 漣次郎達がヅェニワラ宅に着くと、丁度テルルが目覚める所だった。彼女は牙を剥きだしに大欠伸をすると、周りを見回す。

「あれ、テルルいつ寝たんだっけ…?」

「昨夜一緒に夜の散歩をしたよね?あの時にね…」

「んー…」

「夜中にその、話をしたよね?」

「…!」

 寝ぼけているテルルが、昨夜の事を思い出したようだ。

 全身の毛が逆立つ。

 しかしテルルが何か言おうとする前、漣次郎が先んじる。


「テルル、帰ろうか!」


「え、な…えっ!?」

 言おうとした言葉を飲み込み、テルルが混乱する。

 しかしすぐに、満面の笑みを漣次郎に向ける。

「いいの!?」

「もちろん。だけど危ない事はしないでね?約束だよ」

「わかった!テルル、レンのお手伝いはする!」

「うーん、まあその辺は危なく無いように考えるよ」

「やったー!」

 テルルは寝床から飛び起き、漣次郎に飛びついた。

「うわっ!?」

「えへへー!」

 もうすっかり大きくなったテルルは重く…漣次郎はその重みに耐えられず、仰向けに倒れ込む。




「じゃあねお2人さん、また来なよ」

 漣次郎は荷物を纏め、世話になったヅェニワラに別れの挨拶をした。しかし“デルメーの状況報告”をフローデンに約束したので、どうせ数日中にまたここへ来るのだが。

「お世話になりました。またテルルが危なくなったら『朧の箱庭』を頼るので、その時はお願いしますね」

「…なんか危ない事をやっているみたいだし、気を付けなよ?」

「あはは…」

 敢えてフェリアの件を一切口にしなかった漣次郎だが、ヅェニワラの嗅覚は騙せなかったらしい。悪戯っぽい笑みの彼女に、漣次郎は恐れ入る…。


 そしてヅェニワラは、テルルの頭を撫でる。

「元気でねテルルちゃん、頑張ってね」

「…うん」

「君もう14歳なんでしょ?たぶん辛い経験のせいで成長が止まっていたんだろうけど、君が望めばきっと年相応まで成長すると思うわ」

「そうかな?」

「魔族ってそういうもんよ。あと…」

 テルルと話していたヅェニワラが、ニヤリと横目で漣次郎を伺う。

「…レンジロウにちゃんと言うのよ?“異能に名前を付けてくれ”って」

「うん!」

「わ、わかってますって…」

 漣次郎も忘れた訳では無い。

 “テルルの異能に名前を付ける”約束。

 しかし異能の名前はその性能を左右する程だというので、漣次郎もさすがに慎重にならざるを得なかった。

「もうちょっと待ってね、テルル」

「…うん、待つよ」

 テルルは漣次郎の言葉をゆっくりと噛みしめ、満面の笑みを返してくれた。






 そして最後、漣次郎は大事なことに気付く。

「あ、そう言えば言って無かった事があったなぁ…」

「うん?まだ何かあるのかしら?」

 見送るヅェニワラが首を傾げる。

「うーん、まあ見て貰った方が早いか。じゃあ僕らは帰りますんで」

「???」

 意味が分からず、眉を顰めるヅェニワラ。

 それに構わず、漣次郎は荷物を背負いテルルを抱き上げる。

「じゃあまた!<アストラル>」

「は!?人間が異能!??」

 そして驚愕するヅェニワラを残し、漣次郎とテルルは異能で箱庭を去る。


読んで下さる皆様に感謝を。

ちょっと入りそうにない話を、そのうち番外編として置きます。

それは読み飛ばして頂いても大丈夫です。

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