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その43 朧の箱庭

銀嶺山を登った漣次郎は、遂に魔族の集落へと辿り着く。

雪に覆われる山中に隠されたその集落…そこは漣次郎の想像とは異なる場所で…。

 聖地・銀嶺山、その中腹。

 デルメーの古物商から得た情報を元に、漣次郎がテルルを連れて目指したここは…銀嶺山のどこかにあるという“魔族の集落”の入口の筈だった。

 古物商の地図を辿って来た2人だったが、地図終点にあったのは謎めいた岩の門のようなものだけ…その周囲には一見何も無く、雪に覆われた急な傾斜と点在する木々がある程度の静かな場所だった。

 だったのだが…。


「お2人さん、ようこそ『朧の箱庭』へ。自分の名はヅェニワラよ、よろしくね」


 何も無い筈の岩の門から…突然誰かが現れたのだ。

 そしてそいつは…明らかに人では無い姿をしていたのだ。






「ちょっと歩くわ。はぐれないように付いてくるのよ?」


 驚く漣次郎とテルルをよそに、ヅェニワラと名乗る魔族は岩の門へと踵を返す。彼女のふわふわな白い長髪と尻尾が柔らかく宙を舞う。切れ長な青の眼と白い毛皮、その顔立ちから…狐獣人という言葉がしっくりくる。

「…僕の名は漣次郎、そしてこの魔族の娘がテルルです。僕はデルメーで“銀嶺山に魔族の集落がある”と言う噂を聞き、ここに辿り着きました」

「そのようね。レンジロウさんからあの商人さんの匂いがするわ」

 そう言って屈託のない笑みを漣次郎に向けるこの狐獣人…しかしあまりにも警戒しない彼女に、漣次郎は違和感を覚える。

「あ、あの…僕は人間ですよ?集落…『朧の箱庭』に入ってもいいんですか?」

「うふふ、構わないわよ。だって貴方、その娘を連れて来てくれたんでしょ?それだけで十分、自分達は貴方を歓迎するわ」

「というか、急に来たのに驚かないんですね。僕が言うのも何ですけど、人間が来たんだから警戒するもんだと…」

「自分は昨日の時点で、貴方達が来ることを知っていたからね」

「え…なんで!?」

「もー、細かい事は後よ。行きましょ」

 気後れする漣次郎を笑い飛ばしたヅェニワラは、岩の門の間で手招きをする。訳の分からない漣次郎とテルルは、一先ずその言葉に従う事にする。

「あのね、この岩の門は通り方があるのよ。合言葉を知らないと入れないように異能で隠されているけど、それさえ知っていれば誰でも入れるわ。だからお2人さんも他言無用よ…良いわね?」

「はい」

「わ、わかりました」

「じゃあ開くわね」

 そういうとヅェニワラは門を睨む。

「“マルゲオスの慈悲、エルーナの愛、ローブルの加護。箱庭への道を示せ”」


 詠唱じみたその言葉を唱えた直後。

 岩の門の間だけが、まるで洞窟の中のような風景へと変わる。


「す、すごい…外からは何も見えないのに、中の風景は洞窟内!?どういう理屈でこうなっているのか全く分かんない!」

「ふしぎだね、レン」

 明るい銀世界から急に暗い洞窟という風景の変化に、漣次郎とテルルは目を丸くして驚く。そんな2人を微笑ましく見守るヅェニワラは、先導して洞窟内に踏み入っていく。

「ふふふ、元々ここには洞窟があるのよ?異能で周囲の風景を引き延ばし、洞窟の入口を覆ってあるのよね。こういった感じの異能を持つ者が何人も居て、それら皆が協力することで“朧の箱庭”は守られているわ」

「ふーん…じゃあ上空からも集落は見えないんですか?」

「ええ。上方からだけ見えなくなる靄を撒く異能を持つ者が居るから、たとえ魔法で飛行されても探し出すのは不可能よ。それに境界を歪める異能を持つ者も居るから、知らずに侵入される事も無いわ」

 そう言って2人を案内するヅェニワラの前方…洞窟の先には、明るい光が微かに見えている。

「ちなみに自分の異能『ヘキサレンズ』は、遠視ができる氷の鏡を創り出すものよ。自分はこの山のそこかしこに鏡を隠しているから、誰かが山に来ればすぐに分かっちゃうの」

(監視カメラ的な異能か…道中にもあったんだろうけど、全く気が付かなかったな)

 ヅェニワラが手を翳すと、六角形の氷片が彼女の手の周りに数枚浮かび上がる。それらには全く異なる風景が映っており、彼女が“箱庭”における門番的な立ち位置なのだと漣次郎は理解する。


 そして5分も歩かないうちに、洞窟の出口へと辿り着く。

「さて、到着ね。ここが『朧の箱庭』よ」

 そこには、雪山のただ中とは思えない光景が広がっていた。











 魔族の集落…『朧の箱庭』。

 そこは谷間の僅かな土地に広がる、長閑な農村だった。


 ここは銀嶺山の中腹だというのに、何故か妙に気温が高い。晩秋の農地にも雪が積もった気配は無く、谷川にも氷などの気配すら無い。シュレンディアのどこよりも秋が遅いらしいここはまだ紅葉が色付く時期らしく、集落全体が黄と紅の彩に溢れている。

 集落には様々な種の魔族と数人の半魔族の姿が見え、彼等は集落の中を進む漣次郎達に遠慮なく視線を向けて来る。しかし彼等からは、人間である漣次郎に対する敵意のようなものは感じられなかった。




「ここは『朧の箱庭』。かつて人間との戦いに敗れ、大戦末期に魔王様と共にデルゲオ島へと逃げる事ができなかった一部の魔族…つまり自分達の祖先が大陸に残されたわ。彼等は安息の地を求めてこの広い山脈を彷徨い、ここに集落を築いたの」

 “長老の所へ案内する”と言って漣次郎とテルルを案内するヅェニワラが、ついでにここの説明を始めた。漣次郎は集落の長閑な雰囲気に拍子抜けしながら、テルルは周囲の魔族をキョロキョロと見回しながら…この白毛の狐獣人に付いて行っている。

「でも、ここはラミ教の聖地なんですよね?あの聖者が禁足域に指定して管理していた筈なのに、良く魔族がここに辿り着けましたね」

 漣次郎が知る知識では…ここはかつて“魔の侵攻”の際に聖者マルゲオスがラミの啓示を求めて登頂したという聖地だ。未だにアルデリアス王家ですら立ち入れないここに魔族が居るのが不思議ではあった。

 しかしヅェニワラは、その問いに微笑んで答える。


「ふふ、聖者マルゲオスは全部知っていたそうよ?彼はむしろ魔族を守る為に、この山を禁足域に指定したと伝えられているわ」


 ヅェニワラの答えは、漣次郎にとって驚くべき事だった。

「え!?そんな、聖者は一体何でそんな事を…!?」

「さあ?自分達も良く知らないよ」

 ヅェニワラは尻尾を振って返事をする。

「これからお2人さんに会わせる長老もだいたい100歳なんだ。200年以上前の“魔の侵攻”当時から生きている者なんてもう居ないし、当時の古老は皆何も言わずに墓に入ったらしいわ。だから聖者とどういうやり取りがあったかは誰も知らないのよ」

「もしかして、貴方達が人間の僕にそんなに敵対的じゃないのって…」

「“聖者のお陰でここに居られている”という事だけは伝わっているし、大戦だって自分達にとっては遥か昔の話。今更人間を憎む気も無い自分達は、聖者と月神を信仰しながら静かに暮らしているわ」

「…そういえばここに入る門の合言葉にも“マルゲオス”ってありましたね。ちなみに“エルーナ”と“ローブル”っていうのは?」

「さあねぇ。あの合言葉自体は昔から使われているけど、本来の意味はとうに失われてしまったわ」

 それを聞いたテルルが、ぽつりと呟く。

「…テルル、どっちも聞いたことがある」

「え、テルル本当!?」

「うん、よく知らないけど…」

(今まで考えたことも無かったけど…“魔の侵攻”以前のシュレンディアと魔族ってどういう関係だったんだろう?三英傑の英雄譚では“敵対的だった”とあったけど、エルーナにローブル…何か謎がありそうだ)

 漣次郎が知らない魔族の姿。

 魔族の集落『朧の箱庭』は、彼にとって興味深い場所だった。




 そうこうしている内に、3人は一際大きな木造の建物に着いた。

「さあ着いたわ、ここに長老が居るよ。別に決まりがある訳じゃあ無いけれど、一応挨拶くらいしておくべきでしょ。これから貴方達もここに住むんだからね」

「いえその、まだそこまで決めた訳じゃ…」

 しかし漣次郎が言い終わらない内に、ヅェニワラが思いの外軽いノリで長老宅らしい場所にどんどん入っていく…。

「フローデン、自分が昨日言っていた2人が来たわ。会ってあげてよ!」

(うーん…まあ良いか。テルルをどうするか、それはもう少し考えよう)

 漣次郎はテルルと手を繋ぎ、ヅェニワラの後を追う。











 長老宅は秋のひんやりした空気が漂い、火鉢のような物からパチパチという薪の爆ぜる音がしている。部屋の奥には机があり、そこで大柄な後姿の何者かが書き物をしているようだ。

 ヅェニワラは無遠慮にそこへ歩み寄り、そいつの肩を揺する。

「フローデン、起きてるー?」

「…起きとるよ。ちょっと待て、ヤレヤレ…」

 フローデンと呼ばれた長老が、のっそりと立ち上がる。

 そいつは立ち上がると、漣次郎と背丈が近いヅェニワラよりはるかに大きかった。声と白髪からするにかなりの高齢らしく、ゆっくりとした動作で振り返る。

「ヅェニワラが昨日言っておった子等だね…。こんな所までよく来たのぉ」

 長老フローデンの異容に、漣次郎は息を呑む。


 長い白髪の間から伸びる一本角と、口からはみ出した2本の牙…そして顔の真ん中、大きな一つの眼が漣次郎をじっと見つめていた…。




「儂が長老のフローデンだよ。この里を異能で見えないようにしている…」

 一通りの簡単な自己紹介をした後、フローデンは穏やかに語り出した。

 大きな単眼の威圧で気圧された漣次郎だったが、喋ってみればフローデンは好々爺と言った雰囲気の優しげな老人だった。またテルルが全く驚いていない当たり、魔族としても珍しい容姿では無いらしい。

「テルルと言ったね…お前さんは何故、大陸に来たんだい…?」

「えっとね、夏の嵐で流されてきたの」

「ほう…それは大変だったねぇ。ここには偶にシュレンディアから逃げてきた半魔がやって来るが、デルゲオ島の魔族が来たのは初めてじゃ」

「そうなの?」

 テルルはというと、まるでサルガンや漣次郎を相手にしている時の様にリラックスしている。先日古物商に会った時は緊張していた筈なので、やはり“魔族同士”という安心感が彼女にもあるらしい。

「人間に見つかれば只では済まなかっただろうに、よく無事だったね」

「レンが助けてくれたの。そうじゃなかったらきっとテルルはもう…」

「そうかそうか…幸運だったんじゃな」

「んー…」

 フローデンが大きな手で、ゆったりとした動きでテルルの頭を撫でる。テルルも嫌がる事無く嬉しそうに尻尾を振っている。

「テルルよ…デルゲオ島がどんな所か、この老いぼれに教えておくれ」

「いいよ。でもあそこ石ばっかりで何もないよ?」

「それでも構わないさね」

「うん、わかった。あそこは森があんまりなくてね、ちょっとだけ畑があって、魚を獲ったりしてね…」

 テルルが島の話を、老人に語っている。

 漣次郎とヅェニワラは、それを黙って耳を傾ける。




 テルルがひとしきり島の話を終えると、話題は漣次郎の事に移る。

「お若いの…お前さんは人間だというのに、魔族のテルルを助けてあげたんだね。儂からも礼を言わせておくれ」

「いえいえそんな、僕は僕が正しいと思った事をしただけです」

「かつて聖者と呼ばれた男も、儂等の祖先に情けを掛けて下さったという…シュレンディアにもまだそんな者が居るとは驚いたよ」

「しかし聖者マルゲオスは、何で魔族を助けたんでしょうか…?」

「さぁなぁ…それらを知っていた儂の爺様も、その世代の者達も…何も言わずに逝ってしまったからねぇ。恐らく儂等に復讐を考えさせないようという配慮だったのだろうがのう…」

 そう言うとフローデンは、彼の背後の壁に視線を向ける。そこには“聖者から賜った”という、不思議な形と模様の布が数枚祀られている。

(うーん、謎だ。しかしまあこれも気になるけど、それ以上に確認するべきことがあるからそっちを聞こうか)

 漣次郎は“聖者と魔族”のことを一旦頭の隅に追いやる。

 そして今日ここを訪れた要件の1つを切り出すことにする。


「あの、すみません。実は今、ある勢力がシュレンディアの半魔族を開放する為に動いているんですが…それについて何か知りませんか?」


「半魔…解放…?」

 フローデンは首を傾げる。

 どうやら心当たりがあるが、思い出せない様子だ

 見かねたらしいヅェニワラが、彼に助け舟を出した。

「…2年位前に来たじゃない、たぶんあの色黒の娘のことよ」

「んんん…ああ、あの子か。しかし何と言っておったか…」

「いいわよ、自分が説明するから」

 しかしどうやらフローデンはうろ覚えらしく、変わってヅェニワラが説明を始めた。

「2年位くらい前だったかしら…半魔の女の子がね、この集落に来たの。レンジロウと同じでデルメーの古物商からここの事を聞いたそうよ?」

「…そいつの名は?」

「ええとね、確か“ラージェ”だった筈よ。結構若かったんだけど妙に落ち着きがあって、たった一人でこの山を登って来たと言っていたね。度胸も体力もあって凄いな、って感心したのを良く覚えているわ」

(ラージェ…良く考えれば、あいつがデルメーの古物商の秘密を知っている以上、ここに来た事があっても不思議じゃないか)

 フェリア達の誰か、もしくは真祖『月の民』がここを訪れた事があるだろう…という予想が漣次郎にはあったが、どうやらラージェがここへと足を運んだようだ。


 しかしフローデンがテルルを“デルゲオ島から来た初めての魔族”と言った以上、ラージェがここで“自分の出自”まで語らなかった可能性が高い。テルルもそれを察してか、変に口を挟まないで黙ってくれている。

「それで、そのラージェが何か?」

「ええとね、確か…今レンジロウが言ったような内容を話していたわよ?でも自分達は今の生活に満足しているから、そういうのはいいってフローデンが断ったわ」

「はて…そうじゃったかのう」

「そうだったわよ、自分は立ち会ったから覚えているけどね」

(良かった…そういう事なら、ここは本当に安全だね。下界の騒動に巻き込まれそうもないここなら、テルルを置いて行っても大丈夫そうだ)


 『朧の箱庭』が敵対的な勢力では無く、テルルにもいい環境らしいという事は…漣次郎にとって非常にありがたい事だった。











 ひとまず漣次郎とテルルは、ヅェニワラの所に身を置くことになった。

 漣次郎は“僕がどうするかはまだ決めていない”とフローデンにもヅェニワラにも伝えたが、“どっちでもいい”という事でこういう形になった。

 そして長老宅を後にした3人は、集落の魔族の歓迎を受けることになる。


「ねーねーキミ、お名前は?」

「て、テルルだよ」

「わーいテルルちゃん!」

「デルゲオ島ってどんな所?」

「マオー様って見た事ある?」

「テルルちゃん遊ぼうよ!」

「え、あ?その…うん!」


 長老宅から出た漣次郎とテルルは、外で様子を伺っていたらしい魔族に絡まれていた。特にテルルは好奇心旺盛な集落の子供達の猛烈な歓迎を受け、どこかに遊びに行ってしまった。




「あらあら、災難だったわねぇ。みんなお2人さんに興味津々のようね」

「まさかこんな歓迎されるとは…魔族相手っていう想定だったから、警戒されるという前提で身構えていましたので」

「確かに人間にとって魔族は“魔の侵攻”で襲ってきた敵なのよね。そりゃあ敵性生物と思うのが自然かしら?」

 ひとしきり魔族達の質問攻めにあった漣次郎は、ようやく解放されて木陰で休んでいる。そんな漣次郎の表情を、ヅェニワラが面白そうに覗き込む。

「ふふふ、やっぱり人間は面白いね。自分はいつか、山を下りて人間の町を見てみたいと思うよ」

「…そんなに面白いもんでも無いですよ?」

「そうかしら?自分は小さい頃から人間を知りたくて、よく里を抜け出してはフローデンに怒られたよ」

 そう言うヅェニワラは再び異能を使い、六角形の氷片を創り出す。


「自分のこの異能『ヘキサレンズ』は、たぶんその好奇心が生んだんだと思う。“人間は怖いけど、隠れて伺う位ならやってみたい”という心がね」


 彼女の言葉は…漣次郎にとって興味深かった。

「魔族の異能が発現するのって、やっぱり何かしらの条件があるんですかね?」

「うーん、どうかしら?この集落に居る魔族が発現する異能はだいたい4つに分類できてね…“里を隠し守る異能”と“普段の暮らしをより良くする異能”、あとは“隠密行動に役立つ異能”と“月に関する異能”が大半よ」

「え、攻撃的な異能とかは無いんですか?」

「無いわよそんなの。あ、でもこの里が出来た当時はそういう異能を持つ者も結構居たらしいわよ?」

 そうしてヅェニワラは少し考え込む。

「ここの魔族は“里を守る事の大事さ”を子供の頃から教え込まれるし、みんな月神様を篤く信仰している。まあ自分みたいに“里の外のことを知りたい”って憧れを持つ子も偶にいるけどね」

「それが…その想いが、異能を生んでいるんですか?」

「詳しい事は自分達自身も良く分かっていないけど…強い心が強い異能を生む、とは昔から言われているわね。異能には多かれ少なかれ“その者の願い”が反映されている…と、自分は思っている」

(確かに…敵の居ないこの『朧の箱庭』では、そもそも戦いに備える必要が無い。そこがワルハランの子供達との差なんだろうね。もしかしたら魔族は、環境次第では穏やかな種族なんだろうか?)


 以前まだ漣次郎が“フェリア”だった頃、カイン王の命でワルハラン特区へ赴いたことがあった。その時漣次郎は特区の子供達に稽古をつけたのだが、彼等の異能は“戦闘向き”の物が多かったのだ。


 魔族と異能について漣次郎が思案していると、不意にヅェニワラに問われる。

「そう言えば聞きそびれていたけど…テルルちゃんの異能って何さ?」

「テルルの異能ですか?うーん、まだ名前も無いんですけど…“流れ星を呼ぶ異能”ですね」

「ふふ、何だいそれ?どういう経験をしたらそんな異能を発現するのかしらね」

(確かにそう言われると…マリィルの『ムーンフォース』は月神信仰由来だとして、ラージェの『ソウルスワップ』とフェリアの『アストラル』は、どういう想いから生まれたんだろうね?)

 『魔族の想いが異能を形作る』。

 もしそうであれば、フェリアやラージェの異能も何かしらの“想い”が形になった物の筈だ。しかし漣次郎には、あの2人の想いを想像するのも難しかった。




「で、テルルちゃんの異能にはいつ名前を付けるのかしら?」

「それはその…まだ未定です」

 正直“テルルの異能に名付ける”という約束を忘れていた漣次郎は、ヅェニワラの問いに口籠る。そしてヅェニワラはそんな漣次郎にもお構いなしに、思いがけない言葉を口にする。


「まああの娘、まだ10歳位よね?あの歳ならそんなもんでしょ」


 その言葉に、漣次郎は思わずキョトンとしてしまう。

「え、確かあの娘もう14歳ですよ?」

「ええー!?」

 漣次郎の返事に、今度はヅェニワラが驚いて声を上げる。

「あの成長具合からして、どう大きく見ても12歳がいい所じゃない!?」

「でもテルル自身が確かにそう言いました」

「そっかぁ…」

 遠くで子供達と遊ぶテルルに優しげな視線を向け、ヅェニワラが呟く。

「…魔族は異能も成長も、精神の影響を色濃く受けると言われているわ。きっとあの娘は、過去に何か辛い経験をしたんでしょうね」

「そうですね、あの娘にとってデルゲオ島での日々は“幸せ”と言えるものでは無かったらしいので」

「…」

 2人は黙り込み、10歳前後の子供達と楽しそうに遊ぶテルルの姿を遠くから見守っていた。




(魔族と聖者、想いと異能…すごい気になるな。今はとにかくテルルの安全を第一、フェリアへの逆襲を第二にしているけど…全部終わったらそういうのにかかわっても面白そう)

 元の身体に戻って以来、ここまで漣次郎の好奇心が高鳴ったのは初めてだった。


ここまで御付き合い頂けている皆様に感謝を。

この旅はどこへ向かっているのやら…わかめにも良く分かっていません。

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