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その38 レーヴェットの半魔族

ミューのと協力して、フェリアの協力者である『月の民』に迫る決意をした漣次郎。しかし…今まで騎士団や憲兵隊ですら尻尾を掴めていない彼等を追うのは困難の極みだった。

そんな中、サルガン宅付近で漣次郎は謎の男と出会い…。

 秋季を迎えた夕暮のワルハランには、異様な雰囲気が漂っている。




 夏季も過ぎ去り涼しくなってきたワルハランの、特区にほど近い宿の一室に…王都騎士の筈のココロン・ベルンとミューノ・パルサレジアは居た。

「はぁー…あたし達秋季はずっとワルハラン駐屯なんだってー」

「そうだね、ここが落ち着くまでは仕方が無いよ…」

「ねぇねぇミュー、ワルハランからならモードン公領がケッコー近いよね?今度の休みに一緒にフェリア隊長に会いに行こうよ!」

「ふふ、それもいいかも」

 現在2人の所属する王都騎士団の隊が、中隊単位でワルハランへと派遣されていた。元々ワルハランには王都へ繋がる運河があり、加えて他国から来る人間が多いこともあり…警備は王都騎士団の管轄だった。

 しかし…今ココロンとミューノがここに滞在している理由は違った。


 先日の“夏の流星群の日”の後…半魔族の期待を背負う騎士フェリアが、自ら騎士団小隊長の職を辞した。フェリア自身も“自分の記憶不安定が理由であり、復職の確約もある”と公言してはいるのだが…半魔族達がそれに納得しなかったのだ。

 ワルハラン特区では“フェリアが王政の計略で追放され掛かっている”と言う噂が実しやかに囁かれており、それを阻止しようとする半魔族の有志達がなにやら組織を形成し…ワルハラン中で抗議活動を行っているのだ。

 今の所、半魔族の抗議活動はシュレンディアの法に触れない範囲で行われている。しかし仮にこの運動が加速して行けば…いずれワルハランを混乱させかねないというのが王政の判断だ。

 故に王都騎士の中隊が、こうして派遣されたのである。


 数日前にシュレンディアは秋季を迎えており、それを機にココロン達の所属する中隊がワルハランへと派遣された。ワルハランには元々王都騎士団の中規模基地があるものの、足りない兵舎はこうして民間の宿を騎士団がまとめて借り上げたという訳だった。

(全く…だんだんレンさんの言っていた事が現実味を帯びてきちゃったなぁ)

 宿の窓からワルハラン特区を望むミューノは、物思いに耽る。

(“フェリア隊長が『月の民』と何かを企んでいる”…今まではレンさんの証言しか無い状態だったけど、こうなっちゃった以上はもう確定で良いよね。だけどわたしはパルサレジアの末端…パルサレジア中枢を動かすなんて無理だし、下手に動くとフェリア隊長に知られかねない)

 3日に1回は漣次郎と密会し情報交換をしているミューノだが、現在は2人揃って手詰まりに近い状態になっていたのだ。こうしている間にも事態が悪化していると思うと焦りも覚えるミューノではあったが…。

(だけど…やっぱりココには言えない)

 暇すぎて宿の部屋で魔法の練習を始めたココロンを尻目に、ミューノは思う。


 漣次郎とフェリアの事…ミューノはココロンに話していない。

 フェリアを信奉するココロンの協力が得られないのは、元より明白だった。そしてそれ以上の理由がミューノにはあった。

(わたしがフェリア隊長を疑っているなんて知られたら、きっとココに嫌われちゃう…。それだけは絶対に嫌だ)

 フェリアの企みを止めたい。

 漣次郎と一緒に居られるのも悪くない。

 だけど…ココロンに嫌われたくない。


 そんなミューノの心境を知らないココロンが、無邪気に彼女にじゃれつく。

「ねぇミュー、ヒマなんだけど!せっかくワルハランに来たんだし今日は非番、一緒に買い物に行こうよ!」

「…うん、そうだね」

「春の終わり頃にフェリア小隊でワルハランに来たじゃん?あたし、あの時に可愛い服屋さんを見つけてたんだー。あれからずっと行きたいって思ってたのー!」

「…あの時ココは船酔いしてたよね?それなのによく見てたね…」

「えへへー!可愛い物は見逃さない…それがあたしの特技だから!」

「それ初めて聞いたんだけど」

 無遠慮に触れ合ってくるココロンにドキドキしながらも、ミューノは罪悪感を完璧に隠し普段通りを演じてみせる。

 ミューノの心が、いろんなしがらみでグルグルする。











「テルル、この赤い木の実を探すんだよ。今はちょうど時期らしいから、たくさん集めてサルガンさんの所に持って行こうね」

「うー…」

「…あれ、そういえばテルルって種族的に赤色が見えにくいって言ってたっけ?それじゃあこの木の実を見た目で判別できないかな…?」

「おー」

「ああそっか、匂いで覚えているなら大丈夫だね」

「ふー」


 今日漣次郎はテルルを連れて、サルガン宅から銀嶺山脈の奥へと来ていた。シュレンディアでも特に標高の高いこの地は、王都やフィズンに先んじて一足先に秋になる。

 この時期の銀嶺山脈山麓一帯には、指先程度の赤い果実が生るという。サルガン宅からも少し山地に分け入ればそれが大量に手に入るので、毎年この時期には大量に集めてジャムみたいな保存食にしているらしい。


 今はまだ日が高い。

 万が一テルルの姿を誰かに見られては拙いので、彼女は外套で耳から尻尾まですっぽりと覆われている。夏季にはとてもできないこの出で立ちも、秋季を迎え涼しくなった今ならテルルもさほど暑くなさそうだ。

「むー…」

 テルルは蔓籠を片手に、せっせと木の実を集めている。

 …しかし、その量が微妙に少ない。

「ねえテルル、つまみ食いしてないよね?」

「…」

 果汁で口元を赤く染めたテルルがそっぽを向く。

 そんな彼女が愛らしく、漣次郎は優しく頭を撫でる。

「ふふふ、ちょっとだけにしておいてよ?サルガンさんに怒られちゃう」

「うー」

 未だにまともに喋れないテルル。

 辛うじてレンとサルガンの名だけは呼ぶようになったが、彼女はまだ会話するまでに至っていない。しかしこうしてたまに笑顔を見せるようになったのが漣次郎としては嬉しかったし、もうすぐテルルも元に戻るだろうという期待も持てていた。

 しかし、漣次郎自身の状況は至って悪かった。

 何しろこうして果実採集に来られるぐらいには暇なのだ。

(分かってはいたけれど…『月の民』もなかなか尻尾を見せなくて困ったよ。まあ憲兵や騎士にも見つからないように巧妙に隠れている連中だ、僕とミューノの2人で手掛かりを得られるっていう考えが甘かったね)




 ミューノとデルメー散策をしたあの日以降、漣次郎はシュレンディア西海岸に的を絞っての捜索を行っていた。

 ミューノの情報通り、デルメーとフィズン間には定期船が出ていた。最初は漣次郎もそれを利用し、西海岸の怪しい場所を脳裏に焼き付けたのだ。そうして以降は『アストラル』で怪しい場所にピンポイントで移動しては探索…を繰り返していた。

 しかし…未だ有力な情報は得られていなかった。

 情報と言えば…“ワルハラン特区の半魔族がフェリアの小隊長辞職を王政の謀略と疑い、情勢が悪化している”という事だけだった。






 漣次郎とテルルはある程度果実を集めると、昼食の為に一旦サルガン宅へと戻る事にした。

 2人揃って一心不乱に採集をしていたせいで、意外と山奥まで来てしまっていた。2人とも道が分からなかったが、鼻の良いテルルは自分達の匂いを追って帰る事が出来るので…漣次郎はテルルに手を引かれながら山道を下っていた。

「テルル、帰ったらサルガンさんに見られる前にちゃんと顔を洗いなよ?そんな真っ赤に汚しちゃってさぁ…」

「ふー」

「そんな顔してもダメだよ、でもサルガンさんもテルルには甘いからなぁ」

「へへ」

(僕だって分かっている…焦っても良い事無いって。ここらで一回落ち着いて、フェリアに迫る手段を考え直してもいいかもね)

 果汁で顔をべったり汚しながら微笑むテルルにほっこりしながら、漣次郎は内心焦る自分を落ち着かせていた。そうして今はただ、昼でも涼しい銀嶺の秋風を静かに感じることにする。


 突然だった。

「レン」

「え?」

 テルルが立ち止まる。

 彼女はサッと外套のフードをすっぽり被る。

「どうしたのテルル?」

「む」

 テルルは少し離れた大木の根元を指差す。

 …そこには目立つものは何も無い。

「…あそこがどうしたの?」

「あー」

 漣次郎を引張り、大木から離れる動きをするテルル。

 状況が掴めない。

「何、蛇でも居るの?」

 首を横に振るテルル。

「サルガンさんかカシナ村の猟師さんの罠があるとか?」

 首を横に振るテルル。

 漣次郎は…生唾を呑み込む。

「…まさか、誰か居るの?」

 頷くテルル。


「俺に気が付くとは、只者では無いな」


 大木の影が、膨れ上がる。

 その影は漣次郎よりも大きく縦に伸びると…人の姿を取った。

 大男だ。

 30代位に見える。

 落ち着いた雰囲気だ。

 毛皮で作った民族衣装みたいな服を纏っている。

 しかし…。

「俺はこの辺りに住んでいるという、サルガン・ユドという方を探している。もし何か知っていたら教えて頂けないだろうか?」

 その大男の頭には…ヘラジカのような大角が生えていた。











 謎の大男…半魔族らしいその男はサルガンを知っているようであり、特に敵意を感じることも無かったので、漣次郎はその男をサルガン宅へ案内することにした。テルルを見られてしまったので拙い状況の筈だが…漣次郎は直感的に“大丈夫”と感じていた。

 漣次郎達3人がサルガン宅に戻ると、サルガンは別段驚くことも無くその大男を受け入れた。そしてさも当然のように昼食の準備をすると、初対面だというその男にも振る舞ったのだ。

 相変わらずのサルガンの人の好さが、漣次郎は無性に嬉しかった。




「突然の来訪で申し訳無い、しかしどうしてもサルガン殿に直接お礼がしたかった」

「構わん、どうせ儂は暇な爺だ…それに礼を言われるようなことをした覚えも無い」

「貴方にとってはそうでも、我々にとっては感謝すべき事です。一度シュレンディアに捕捉されれば、俺達も奴等に管理されてしまう…貴方のお陰でそれを避けられた」

 その半魔族の大男は、ウゴレと名乗った。

 どうやらこの男は銀嶺山脈に隠れ住んでいる半魔族の里の1つを束ねる里長で、彼の仲間が過去にサルガンの世話になった事があるようだ。今日ウゴレがここを訪ねたのは、その謝礼の為らしかった。


 ウゴレはサルガンと穏やかに語り合いながら、不意にテルルへと視線を移す。

 テルルは漣次郎の影に隠れながら、初対面のウゴレのことを警戒している…。

「もう1年以上前でしょうか…俺達の里の子供が迷子になっている所をサルガン殿に助けて頂いた時に『親切な人間も居るものだ』と思いましたが、まさか魔族も助けるとは。魔族は我々半魔だけでなく、シュレンディアの民にとっても仇敵でしょうに」

「シュレンディアを攻めて来る輩ならいざ知らず、ただ漂流してきただけの魔族の仔を憎む道理は無かろう。それに…そもそもテルルを拾ってきたのはレンだ」

 相変わらず難しい顔のサルガンは、ぶっきらぼうに隣席の漣次郎を肘で付く。

 サルガンの言葉に、ウゴレは驚く。

「む…レンジロウ殿は記憶喪失で行き倒れていた所をサルガン殿に助けられたのだろう?そんな貴方が何故魔族を…」

「まあ、テルルとは偶然出会っちゃって…見捨てることが出来なかったんです」

「そうか…優しいのだな」

 ウゴレは優しく微笑む。

(この人なら、テルルを託せそうにも思える)

 テルルを拾った当初から悩んでいた、テルルの処遇。

 いずれ人間から離れた方が彼女の為であり、レーヴェット地方に隠れ住む半魔族にテルル託そうという当初の予定に沿って、漣次郎はウゴレにその件を相談する。




「レンジロウ殿、申し訳無い…俺の里でその娘を引き取る事はできない」


 “テルルを引き取れないか?”と、漣次郎はウゴレに打診した。

 しかし、ウゴレの答えは芳しいものでは無かった。

「そんな…どうにかなりませんか!?」

 何とか食い下がる漣次郎だが、ウゴレは静かに首を横に振った。

「サルガン殿は俺達の里にとっても恩人だ、頼みに応えたいのは山々だが…流石に魔族の娘となると拙い」

「拙い…というと?」

「…」

 ウゴレは黙り込み…テルルをじっと見据える。

「俺はともかく、里の皆が黙っていないだろう」

 ウゴレのその言葉にサルガンも何も言わず、ただ深く頷いた。


「我々半魔は、かつての“魔の侵攻”で魔族が人間を蹂躙したために産まれてきた…故に半魔は皆、魔族の事を憎んでいる。その娘を引き取ること自体は可能だが…里長の俺が預かったとしても、とても身の安全は保障できそうにない」


 その可能性は分かっていたものの…漣次郎は落胆する。

(やっぱりサルガンさんが前言った通りか…そりゃそうだよね、“魔の侵攻”さえなければ、半魔族っていう存在は産まれなかったんだから)

 レーヴェットに隠れ住む半魔族とようやく出会えたはいいが…当初の目的である“テルルの保護”についてはまだまだ前途多難のようだった。











 ようやくウゴレに慣れてきたテルルが、漣次郎の膝で丸くなる。

 暫く他愛無い話をしていたサルガンとウゴレだったが、ウゴレが遂に今日訪れた本題を切り出した。

「実は…俺はもう半年以上前からサルガン殿がこの近辺に住んでいると知っていた。謝礼に来ようと思えばいつでも来られたのだが、俺達の里は銀嶺山脈の西側…峠を越えて来るにはここから遠いもので」

「道中人間に見つかれば危険だろうに、無理して来なくても良かったのだぞ?」

「それは心配ありません。俺の異能『シェイドパス』は影の中を隠れて移動する力…途中で見つかる事はまずありません。あの魔族の娘には気付かれてしまいましたが…人間相手なら大丈夫です」

 そうしてウゴレは、真剣な口調で告げる。


「サルガン殿、暫くはあまり遠出をせぬ方が宜しいですよ」


 ウゴレの言葉に、サルガンは眉を顰める。

「…それはどういう意味だ」

「この銀嶺山脈北部からあまり離れない方が良いという事です。実は銀嶺山脈南部…『銀嶺山』山麓の辺りで、半魔族が蜂起するという情報が…」

「何だと…!?」

「詳しい事までは知りませんが、シュレンディアに従属する半魔族と協力関係にあるという連中からの情報です。彼等は『月の民』と名乗っていますが」

「『月の民』!?」

 ウゴレの言葉に過剰に反応したのは、漣次郎。

 彼の膝の上で微睡んでいたテルルが、その大声で飛び起きる。

「ウゴレさんの集落に『月の民』が!?」

「もう50年程前に、俺の先代の里長が彼等と接触したらしい。それ以来は里長のみが定期的に密会はしているが…。恐らく銀嶺山脈に隠れ住んでいる他の半魔の里とも繋がりがあるんだろうが、そこまでは俺も知らん」

「だからそんな情報を持っているんですね」

 レーヴェットに隠棲する筈のウゴレが、デルメーの情勢を知っている…人間から隠れる筈の彼等が情報を得られるとすれば、その情報源はそれしか有り得なかった。


 漣次郎はさらに詰め寄る。

「貴方達は、『月の民』とどういう関係ですか?」

「関係とは言っても…季に2回決まった日に決まった場所で会って、シュレンディアの情報を貰う程度だ。彼等から“蜂起に協力して欲しい”とは再三言われているが…所詮俺達の里は30人程の集落、仲間を危険に晒せんから断り続けているぞ」

「…でも『月の民』と半魔族の作戦が上手く行けば、貴方達が暮らしやすい世の中にはなりますよ?」

「俺達は隠れながら細々とだが、それでも穏やかに暮らしている。シュレンディアに侵されることが無ければそれ以上望むものは無いよ」

(…少なくともウゴレさんは、『月の民』の仲間ではないだろう)

 それが分かれば、一旦安心できる。

 漣次郎は、さらに踏み入った質問を放つ。

「『月の民』の企みが始動すれば、人間も半魔族も大勢傷付きます。僕はそんな彼等を何とかしたいと願っています。もしよければ『月の民』の情報が欲しいのですが、教えて貰えないでしょうか!?」


「ふむ、レンジロウ殿は『月の民』と敵対すると」


 ウゴレの眼光が鋭くなる。

 息を呑む漣次郎。

 サルガンは黙っている。

 妙な沈黙が数秒続き、遂にウゴレが大きく息を吐く。

「…動乱が銀嶺僻地の俺達の里まで及ぶのは、望むところでは無い。彼等に恩はあるがそれも大昔の話、俺の知る限りを教えよう」

(やっと『月の民』に関するまともな情報が…!)

 漣次郎がまだ“フェリア”だった時から追ってきた『月の民』。

 その尻尾を、漣次郎はようやく掴んだ。






「『月の民』との出会いは俺の先々代の時代…人間に見つかって追われた里の子供を『月の民』が保護してくれたのが契機だったらしい。それ以来は定期的に密会して、シュレンディアの騎士などの動向について聞いている」

 隠れ住む半魔にとって、はぐれ者の『月の民』は共通の敵を持つという意味で近い存在…ここまでは漣次郎にとっても想像の範疇ではあった。

「彼等は俺達に“月神”なる神様を信仰するようしつこく勧めてきたが…俺達は山の民、山の恵みに感謝して生きているが故に、他の何かを信仰する気は無いと断り続けている」

「え、じゃあラミ神を信仰はしていないんですか?」

「ラミ…?そんなものは知らん」

(そうか、シュレンディアのラミ信仰は確か聖者マルゲオスが“魔の侵攻”後に広めた筈…そしてレーヴェットに隠れる半魔族は“魔の侵攻”の際に隠遁した訳だから、そもそもラミ神を知らないんだ)

 感心する漣次郎をよそに、ウゴレは続ける。

「シュレンディアに管理されている半魔の中には、現状を嘆く者達がそれなりの数居るらしい。そして最近、どうも半魔の英雄がシュレンディアで酷い仕打ちを受けたらしく、それを理由に『月の民』が不満を煽っているようだ」

「成程…」

「そうしてこの秋季のうちに、“銀嶺山山麓の町”と“半魔を管理する街”で同時に反乱を起こす…『月の民』はそう言っていた」

「秋季後節ですか…あまり時間が無いですね」

「ああ、だがまだ準備中と言っていたからな…後節のさらに後半が“決行日”だろう、とも言っていた」

「…ありがとうございます、とても重要な情報です」

(ワルハラン特区とデルメーで同時蜂起…すぐにでもミューノに伝えなきゃ)

 ウゴレから得られた情報。

 それは…漣次郎にとって非常に有用なものだった。




 今度は漣次郎から要望を出してみる。

「…僕が『月の民』に直接会う事は出来ないでしょうか!?例えば“入信希望”とか言う事にして!!」

「そうだな…」

 ウゴレは少し悩むが、漣次郎の圧に押されたのか口を開く。

「俺と会う『月の民』は毎回、彼等の集会の日時と場所を教えて来る。俺は行かないだろうが…行くか?」

「それは何時で何処ですか!?」

「銀嶺山山麓にある小さな人間の村…チャロデンという村名を聞いているが、それは俺達には分からない。とにかく銀嶺山山麓の小さな村からずっと山に入った場所にある、比較的大きい木こり小屋で何かすると言っていた」

(チャロデン村…確かミューノも怪しんで“捜査した”と言っていたね)

『月の民』に会える…その手掛かりが、ようやく近付く。

 その時ウゴレから、漣次郎の聞き慣れない単語が飛び出す。


「今後の集会には、真祖の連中も来るらしい。それだけ『月の民』にとっても重要な集会なのだろう」


 聞きなれない単語に、漣次郎は反応する。

「“真祖”…?」

「む、聞いた事無いのか?」

「いや、どこかで聞いた気もしますが…詳しい事は何も」

「『月の民』には、真祖と呼ばれる特別な連中が居るんだ。俺も何度か会ったが、特に他の連中と違いは無いように見えた。しかしどうも生まれが違うらしく、特別な血族をそう呼んでいるようで…真祖が『月の民』を統率しているらしいぞ」

「真祖『月の民』…」

 『月の民』に迫る手掛かりは得られたが…謎も増えた。

 しかし…ようやく切欠を手に入れられたのだ。


 漣次郎は…まだ見ぬ真祖『月の民』に接触する覚悟を決める。


読んで下さる皆様に常々感謝をしております。

シュレンディアには砂漠もあるので、いつかそこにも行きたいと思います。

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