その37 騒乱の影
秘密を打ち明け、ミューノの協力が得られた漣次郎。
彼はフェリアの企みを阻止すべく…彼女の協力者だという『月の民』に探りを入れるため、ネイオレスから得た情報を頼りにデルメーという町へ向かう事にして…。
もうすぐ夏季も終わるシュレンディア王国。
漣次郎が居候するサルガン宅のあるレーヴェット地方も朝晩は涼しくなっているものの…まだまだ強い日光が差している。
漣次郎はサルガン宅の地下室で、日課となったテルルの傷の確認をしている。
「うん、傷もだいぶ良くなってきたね。痕が残ったりしたら可哀想だと思ったけど、綺麗に治りそうで安心したよ」
「んー…」
「それにしても治りが速いというか…やっぱり魔族は自然治癒能力も高いのかな?人間だったらこうは行かないんだろうけど」
「うー」
救出当時のテルルは…鞭打ちを受けた際の裂傷や殴られて腫れた顔など、それは酷い有様だったが…もう顔も傷もほぼ綺麗に治りかけだ。
だが彼女は、未だに言葉を発さない。
傷を確認する為に薄着になっているテルルが、弱々しく漣次郎に縋る。レーヴェットの騎士から受けた尋問の傷は、彼女の身体では無く心の方に深く残ってしまったようだ…。
「ごめんねテルル、このシュレンディアで魔族の君が平和に暮らせる場所があればいいんだけど。それか僕がデルゲオ島まで上級白術で飛んで…それは厳しいかな?北にどれだけ飛べばいいかも分かんないしねぇ…」
「おー…」
(…仮に君がデルゲオ島に帰れたとしても、虐待されていたらしい君にとってそれは良い事じゃないのかもね…。それにカイン王の“デルゲオ征伐”まで含めたら、ここの方が安全なのかもしれない)
テルルは唸り声を上げながら、漣次郎の胡坐の上に頭を置いてくる。こうなって以来彼女は今まで以上に漣次郎にべったりとなってしまい、四六時中彼に付いて回っていた。
そしてそれは、漣次郎のちょっとした困りごとになっていた。
(ミューノと“デルメー調査”する約束の日はもうすぐだ…それに僕は、できればデルメーで『月の民』についてもっと探りを入れたい。だけどこの状態のテルルを放っておく訳にも行かないし、ましてや“月神”について聞くわけにもなぁ…)
恩人であるテルルを第一に考えたい。
しかしフェリア達の企みを放っては置けない。
その2つのせめぎ合いが、漣次郎を悩ませていた。
「パルサレジアの騎士が協力してくれる…だと?」
その日の夜、漣次郎はサルガンにミューノとの件を一通り話した。
元々フェリアの部下であり、パルサレジアの諜報員でありながらフェリアに協力的だったミューノを信用する漣次郎だったが…サルガンはあくまで懐疑的だ。
「あの娘は信用できますって。どうやら彼女も、流星群の日に記憶が消えたり戻ったりしたフェリアのことを疑っているようです」
「だが、そいつはパルサレジアなのだろう?」
サルガンは難しい顔で、白い顎鬚を撫でている。
「ノルガル・パルサレジア…パルサレジア現当主は、カイン王の第二王妃の弟、ビスロ王子とテンジャ王子の叔父に当たる男だ。あの一族は昔からアルデリアス王家を信奉しているが、やや行き過ぎているきらいがあるからな」
「でもミューノはあくまで末端ですし、そこまで疑わなくても…」
「甘いな…パルサレジア孤児院は、表向きはパルサレジアの慈善活動だが…実際は孤児に愛国教育と諜報技術を叩きこむ場所だ。そこを出た者がまともとは思えんが…」
「…そこは僕が上手くやりますよ。僕と彼女は、一応半年は同じ小隊で過ごしてきたんですからね」
いつに無く真剣な漣次郎。
サルガンもその表情を静かに見据え、納得したかのように頷く。
「…お前さんがそこまで言うなら、もう何も言うまい。テルルの事は儂に任せろ」
「ありがとうございます、あの娘の事も心配なんですが…フェリアを放っておくのも良くないと思うので」
そうして漣次郎は…ミューノと落ち合う日に向けて準備を進める。
「おはようございます、レンさん」
「おはようミューノ、こんな早くに悪いね」
早朝の田舎道。
まだ日の出前の山沿いの街道で、漣次郎はミューノと一緒に乗合馬車に揺られている。ここはレーヴェット地方南方の村チャロデンで、レーヴェット最大の都市デルメーから少しだけ北に位置する場所だ。
待ち合わせ時間が早過ぎたため、辺りはやや暗い。
「このチャロデン村って所、わたしは初めて来ました。昨日の夕方着いて一晩泊まりましたけど、なんだかわたしの産まれた村に雰囲気が近いですね」
「そうなんだ。僕もここは一回来た事があるだけだよ」
何気なく会話する2人だが、乗合馬車に乗っているのは2人以外に御者のみだ。
ここはカシナ村よりさらに小さく、人口もかなり少なそうだ。乗る人が少ないのも、そんな村の早朝の乗合馬車だからだろう。
ミューノは御者に聞かれないよう声を潜める。
「この前会ってからの数日で、わたしの方もいろいろ調べました。それはまたデルメーに着いてからお伝えしますね」
「そっか、じゃあそれまでに…フェリア達や他の皆の近況を教えて欲しいかな」
「それもそうですね…わかりました」
まだまだデルメーはそれなりに遠い。
2人は長閑で肌寒い晩夏の街道を、馬車に揺られてのんびり進む。
「前に話した通り、フェリア小隊は一時解散しました」
日の出前のまだまだ薄暗い街道を往きながら、ミューノが静かに語り出す。
漣次郎はそれに黙って耳を傾ける。
「記憶に関する不安についてフェリア隊長が王様に訴え、その結果“次の流星群後まで様子を見る”という事でとりあえず解散となりました。わたしとココロンは王都騎士団に異動となり、フェリア隊長とマリィルさん達はモードン公領で王政の監視下に入っています」
「モードン公か…例の山賊騒動で好印象だったからかな?」
「そのようです。謹慎先としてモードン公から申し出があったそうですね」
漣次郎にとって、山賊騒動もすっかり昔の事のように感じる。“自分がフェリアだった”なんて、今ではとても考えられなかった。
「フェリア隊長を慕ってフィズンに滞在していたアイラ姫は王都に帰られました。ルゥイさんの小隊は相変わらずフィズン在籍ですが、フェリア隊長がいなくなってだいぶ落ち込んでいるようです。マシェフ団長も寂しがっていました」
「そっか…」
皆の近況を聞きながらも…漣次郎はどこか他人事のように聞いてしまう。
(もう僕はフェリアじゃないんだ…ミューノはこうして僕を受け入れてくれたけど、他の皆はどうか分からないな)
もし仮にフェリアの企みを阻止したとしても、もう元には戻れない。
ミューノの話を聞いて、漣次郎は一層それを感じていた。
そうして漣次郎からも少し聞き返す。
「…ココロンは元気にしているかい?」
「ココですか…」
漣次郎の何気無い問いに、ミューノは難しい顔で考え込む。
「ココは…元気には振る舞っていますが、もちろん落ち込んでいますよ。何しろココにとってあの人は“憧れのフェリア隊長”ですから、記憶が戻った事も素直に喜んでいました」
「そっか、そうだよね…」
フェリアを監視する為に騎士団上層部から送り込まれたミューノと違い、ココロンは根っからのフェリア信奉者だ。漣次郎としてはココロンの協力も得られればと思っていたが…ココロンがフェリアを疑うとは思えなかった。
ミューノの表情は、いつに無く暗い。
「わたしがフェリア隊長を疑っている事、たぶんココは薄々感付いていると思います。こんな事をしていたらそのうちココに嫌われるんじゃないかと心配で…」
「そっか…」
「それに今日の事だって、出掛ける話をしたらココ『逢引!?ねえ逢引!?!?』って興味津々でしたよ。わたしとしてはココにそう思われるのが既に不本意ですね」
「ふふふ、相変わらず君とココロンは仲良しなんだね。だったら僕も、ミューノにあまり無理を言わない方が良いかな?」
「…いえ、わたしとしては貴方にちゃんと騎士になって欲しいと思っていますから協力は続けますよ。わたしにとっての隊長は、今のフェリア隊長じゃないですから」
“フェリア小隊”にかけるミューノの想いは、漣次郎の想像以上のようだ。
いずれにせよ、ミューノの協力に漣次郎は感謝あるのみだった。
地平線から日が昇り、レーヴェットに朝が来る。
ここレーヴェット地方南部では、レーヴェット山脈の最高峰である聖地・銀嶺山の勇姿をどこからでも見ることができ、今居るこの街道からも当然見えている。
「レンさんってこの辺には詳しいんですか?レーヴェットに住んでいるんですよね?」
ミューノの何気無い問いに、返答に困る漣次郎。
漣次郎はまだサルガンやテルルのことをミューノに話しておらず、“レーヴェット在住”と言うだけに留めている。
「うーん、住んでいるけど…この辺じゃないんだよね。デルメーも一回来た事があるだけだし、多分ミューノの方が詳しいから良かったらいろいろ教えて欲しいかも」
「良いですよ、わかりました」
そう言ってミューノは、到着までデルメーについて簡単な説明をしてくれることになった。
「実際こういうのはココの方が詳しいんですけどね」
最初にそう言って、ミューノが馬車の外に見える銀嶺山を指差す。
「あれが銀嶺山…かつての『魔の侵攻』において、聖者マルゲオスがラミ神の啓示を求めて登ったとされる山です。今では山部全体が王政によって聖域…禁足地に指定されていて、レーヴェット騎士団が麓の境界を1日中巡回していますね」
「ほう…聖地なのに、管理はラミ教団じゃないんだ?」
「というかレーヴェット騎士団の仕事がそれぐらいしかないんです。一応デルメーはレーヴェット山脈の南端なので、シュレンディア西海岸に面した港もあるんですが…地理的な事情で外国船も来ませんし、5大都市の中では一番小規模です」
「事情…?」
ミューノの微妙な言い回しに、漣次郎は首を傾げる。
そんな2人の会話に、陽気な御者が割って入って来る。
「おうおう、儂等のデルメーに好き勝手言ってくれるじゃねえかお2人さんよぉ。しかしまぁ確かに西海岸一帯はレーヴェット山脈の際だから平地なんぞ無いし、かといってデルメーより南に行くとそこは“死の砂漠”…僻地なのは確かだが」
自虐気味の冗談を明るく言い放つ恰幅の良い御者のおっさんは、髭もじゃの顔で豪快に笑い飛ばす。
「まあそんなでも、このシュレンディア王国で5番目に大きい町ってのは確かだぜ。見なお2人さん、もうすぐそのデルメーに着くぜ!」
街道の先に、広大な町並みが見えてくる。
デルメーはもうすぐ目の前だ。
デルメーは、長閑な雰囲気の町だった。
流通の要衝という訳でも無く、何かしらの資源が豊富という事も無いデルメーという町は…“聖地・銀嶺山”を巡る旅行客が多く訪れるだけの場所だった。
町の高台…銀嶺山脈の山麓には“レーヴェット騎士団基地”が構えており、銀嶺山麓に点在する小基地を駆使して禁足地である銀嶺山を保護しているという。
町の西側はシュレンディア西海岸で、交易船の出入りも無いその港は漁船がひしめく漁師町だ。内陸部は農地が多いものの、遥か南方には“死の砂漠”があるためか町の南方は何も無い荒野だ。
巡礼者以外には漁師と農民だらけのデルメーは、他の都市と違ってゆったりとした時間が流れている…。
「とりあえず昼食にしましょう」
そう言ってミューノが漣次郎を案内し、2人は町外れにある小さな食堂に入っていた。そこは細い路地の奥にあるような店で、何故ミューノがここを選んだかが漣次郎にはさっぱりだった。
「今年の秋の暮れに、紅い鳥が鳴くと言う噂がよぉ…」
「そうだな…時間も少ない、早めに皆で“収穫祭”の準備をだな…」
店内には農夫らしい若い男が数名と、店主らしき女性が1人…あとは用心棒らしい厳つい男が1人だけ。しかし店内の雰囲気は落ち着いており、漣次郎は意外と居心地が良かった。
「ねえミューノ、君ってここの店来た事あるの?」
料理を待つ間、漣次郎は素朴な疑問をミューノに投げかける。今日は『月の民』を探るという予定だったので、意外とのんびりしているミューノが彼にとって意外だった。
しかしミューノは事も無げに、
「分校時代の友人から聞いていたんですよ、“デルメーに行くならお勧めの店がある”ってね。何でもこのデルメーでは、知る人ぞ知るっていう店らしいですよ」
「そういう事かぁ、まあ良いんじゃない?」
内心急ぎたい思いが強い漣次郎だったが、協力してくれるミューノの意思は尊重したい。どの道昼食はどこかで食べるので、まあ必要な事だと割り切っておく。
漣次郎は用意してきた地図を広げ、声を潜める。
「下調べの通り…やっぱりデルメーって結構平らだね。そして内陸は農地と荒野、山地は騎士団の管理下…やっぱり僕としては、行くなら西海岸が本命かな?」
「そうですね、そこが一番良いとわたしも思います」
デルメーに潜むという『月の民』。
漣次郎の見立てでは…彼等の根城はシュレンディア西海岸だ。
ミューノも地図を見ながら、静かに考え込む。
「シュレンディア西海岸は…デルメー以北の一帯が全て銀嶺山脈の際です。山からそのまま海みたいな地形なので接岸できるような場所がほぼ無く、その上陸路も無いに等しい…」
「まさに僻地だね。だからこそ可能性はある…と思う」
そんな僻地なら、隠遁するにはうってつけだと漣次郎は思う。
そして…漣次郎が西海岸を調べたいもう1つの理由が。
「実は僕…“フェリア”だった頃に不思議な夢を見ていたんだ」
「夢…ですか?」
「そう」
漣次郎は…夢で見た“フェリアの過去”についてミューノに語った。
流星群直前に見たフェリアの夢…フェリアとラージェがどこかの海岸に立ち、夕日を眺めていた夢だ。その場所は広い砂浜で、内陸は荒野…その場所こそが“フェリアの故郷”だと漣次郎は睨んでいた。
漣次郎の話を聞き終わり、ミューノは首を傾げる。
「広い砂浜に荒野の内陸…西海岸にそんな場所があるとは到底思えませんが」
ミューノの言葉も当然だ。
そんな場所があれば、漣次郎が探すまでも無く発見されるだろう。
しかし…その点を漣次郎は怪しんでいた。
「あいつらの故郷って事は、そこにはきっと半魔族が大勢居る筈だ。ならば…“そういう場所を隠す異能”が有っても不思議じゃない。何なら西の海に…地図に無い島があったりして?」
「成程」
フェリアの故郷に近付いている…その実感が漣次郎にはあった。
昼食を終えた漣次郎は、ミューノと共にデルメーの大通りを西に向かって進んだ。そうしてデルメーの漁港に着くと今度は北上し、行けるところまで行ってみることにした。
デルメー港を北に進むと…じきに海岸は切り立った崖になり、すぐに陸路は無くなってしまった。銀嶺山へと続くという登山道はあったりするが、そこは途中にレーヴェット騎士団の施設があるというので近付かないようにする。
その結果…漣次郎とミューノの進路は海岸の高い崖で行き止まりになった。
遥か下方で荒々しい波が、武骨な岩壁にぶつかって砕けている。
「ここが限界です。これ以上陸路で進むのは無理でしょうね」
ミューノとしては予想通りだったらしく、進める範囲でギリギリ安全な所まで来て彼女は肩を竦める。確かにミューノの言う通り、ただ歩いて行く分ではこれ以上進めそうにない。
「うーん…まあ僕は上級白術で飛べるから、まあ明日にでも行ってみようかな?ここの場所も覚えたし、いつでも『アストラル』でここには来れるようになったしね」
“フェリアの故郷には広い砂浜がある”…フェリアの夢でその光景を見た漣次郎には確信があった。そしてそこを目指せば、どこかで『月の民』と接触できると考えていたのだ。
しかし…意気込む漣次郎を、ミューノが呆れながら見ている。
「レンさん、シュレンディア西海岸がどれだけ広大か分かっています?デルメーはワルハランより南なんですよ?とても飛行して体力が持つとは思えません」
「むう…それもそうか」
種族の違いか…漣次郎はフェリアより魔法の能力で劣る。
悩む漣次郎に、ミューノが微笑む。
「…一応デルメー港からは、フィズンに向けて定期船が出ています。長旅にはなると思いますけど、それで西海岸の怪しい場所に目星を付けたらどうです?」
「お、それはいいね!」
デルメーの町の様子が分かった。
フェリアへ迫る手掛かりもあった。
漣次郎としては…今日のデルメー遠征は充分と言えた。
不意にミューノが、声を潜める。
「そう言えばレンさん…気が付きました?」
「え、何が?」
「今日昼食を食べたあの店ですよ」
「あそこが…何か?」
ミューノの言わんとすることが分からない漣次郎。
するとミューノは、珍しく悪戯っぽい笑みを見せる。
「あそこに居たの、全員『月の民』でしたよ」
ミューノの言葉に、漣次郎は仰天する。
「ええっ!?全員!?」
「全員です。客の農夫も、用心棒の男も、店主の女性も…あそこはパルサレジアが掴んでいた“『月の民』の拠点”の1つだったんです。デルメーはあんな感じで、『月の民』が町中で屯しているみたいで…」
「僕にもそう教えてくれればよかったのに…ん?」
そう言い終わってから、漣次郎は気付く。
ミューノもちょっと悪い笑顔だ。
「ふふふ…わたしはともかく、レンさんに教えちゃったら顔に出てバレそうで。でもレンさんが自然体だったお陰で、彼等にあまり警戒されませんでしたよ?」
「な、なら良かった…のかな?」
ようやく漣次郎は、ミューノが妙な場所で昼飯をとった理由が分かった。
「ちなみにあそこに居た連中…『月の民』特有の言葉でやり取りしていました」
どうやらミューノは…旅行客のフリをしてあそこで聞き耳を立てていたらしい。ミューノの手際に漣次郎は感心する。
「そうなんだ、僕には普通の会話にしか聞こえなかったけど…」
「まあそうでしょうね。わたしはパルサレジアなのでそういうのにも詳しいですけど」
ちょっと自慢気なミューノが微笑ましい。
そしてミューノが、思わぬ情報をもたらす。
「“紅い鳥”はフェリア隊長の事で、“収穫祭”が彼等の作戦名のようです。どうやら…モードン公領に居るフェリア隊長が秋季のどこかであそこを脱出し、ワルハラン特区で何かを始めようとしているようです」
(秋はもうすぐだぞ…思ったより急がなきゃまずいのか!?)
現実味を帯びてきた、フェリアの企み。
漣次郎は焦りを覚える。
ミューノも悩ましい表情で海を見つめる。
「…そもそも今回わたしがデルメーに来たのって、実はパルサレジアの指示もあってなんですよね。わたしはフェリア隊長の側に居られなくなったので、任務が変わっているんです」
「そうなんだ?」
「そうです。チャロデン村にあるという大きめな『月の民』の拠点を昨日調査して、それで今日レンさんと合流しました。そして今後は暫く、王都騎士としてココと一緒にワルハランに張り込む予定です」
「ワルハランに…!?」
「ええ、フェリア隊長の今回の処遇に対して一部の半魔族が反発しているようです。『月の民』の関わりはまだ分かっていませんが、恐らく特区の半魔族を扇動していると思われます」
フェリア達と『月の民』の企み。
それは既に、シュレンディアの表面に現れ始めているようだ…。
シュレンディアの状況に、漣次郎は頭を痛める。
しかし…ミューノは思いの外さっぱりとしている。
「今日はわたしにとっても有意義でした。今後はわたしの方があまり自由に動けないので、上手い事ワルハランに来てくれると嬉しいです。できれば定期的に情報交換したいので…」
「そうだね、方法は考えよう」
「ふふ…」
妙に嬉しそうなミューノ。
漣次郎は首を傾げる。
「…大変そうなのに、なんか楽しそうだね?」
「ええ」
満足気なミューノは小さく呟く。
「過去のわたしは、パルサレジアの命だけに従って騎士をやってきました。だけどあなたのフェリア小隊に入ってからは、意外と“悪くない”と思えていたんです。今でもそう思っていますよ?」
そう言う彼女は、ちょっとだけ照れくさそうにそっぽを向く。
「また一緒に騎士をやりましょう、隊長」
そうしてミューノは会釈し、そそくさとその場を後にした。
漣次郎もなんだか恥ずかしくなり、異能で素早くサルガン宅へと帰還する。
読んで下さる皆様に重ねて感謝致します。
わかめも喜んでおります。




