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その33 夢遊病事件

流星群の日から、数日後。

斬られた傷がほぼ癒えた漣次郎は、『月の民』に詳しいというサルガンの知人を訪ねるため王都へと赴く。半魔が白眼視される王都だが、もうフェリアでは無い漣次郎にとっては悪く無い町だった。しかしそんな中、漣次郎を呼び止める者が居り…。

 騎士フェリアの記憶が戻ってから、数日が経った。




 ここ数日…新人騎士ココロン・ベルンはすっかり落ち込んでいた。

 いつも元気が取柄な彼女だというのに、今はボーっと窓の外に視線を向けている。心此処に在らずという彼女の後姿を、同じく新人騎士ミューノ・パルサレジアは心配そうに伺う。

(ココ…大丈夫かな?でも落ち込むのも仕方ないよね)

 何とか彼女を笑顔にしようと、ミューノは投げ掛けるべき言葉を考える。

「ココ、心配する事は無いよ。フェリア隊長は凄いんだから」

「…」

「フェリア小隊は大丈夫、だってフェリア隊長は“紅百合部隊”を作るっていうのが夢なんだから。わたしたちも、きっとすぐ元通りになれるから!」

「う、うん…そうだよね」

 少しだけ表情が明るくなったココロンが、薄い微笑みを見せた。

(きっと大丈夫…きっと大丈夫だけど…でも、何か起きるかもしれない。パルサレジア孤児院からも妙な情報が入ってきているし…)

 不安に駆られるミューノも、ココロンと共に窓の外に目を向ける。

(だけどわたしは…ココには悪いけど、“わたしの知っているフェリア隊長”に戻って来て欲しい。危険ではあるけど、できる限り探ってみよう)


 窓の外…遥か遠くには、広大なギゼロ大河が悠々と流れている。
















 流星群の日から数日後。

 やっと動いても支障が無いくらいに怪我が治った漣次郎は、前にサルガンに言っていた通り王都へ行くことに決めていた。そして今は王都に向かう乗合の馬車に揺られている所だ。


 ただ漣次郎はサルガンに迷惑を掛けたくない思いがあったため…あえて直近のカシナ村を避け、別の村から王都を目指していた。懐にはサルガンが書いた“王都ラミ教神殿に居る知人宛の手紙”があり、これを手掛かりに『月の民』について探ろうという決意だった。

(待ってろよフェリア…あんたの企みを暴いて、騎士団に居られなくしてやる)

 ようやくの反撃…漣次郎は静かな怒りを燃やす。


 しかし漣次郎には…僅かな“恐怖”も。

(…ただ、向こうが殺る気で来たら拙いんだよな。いくら魔法と異能があっても…僕じゃあとても半魔族の身体能力には敵わない。人気のない所で遭遇っていうのだけは避けたいな)

 あの夜…ラージェは明確な殺意を持って漣次郎に襲い掛かって来た。フェリアもマリィルも同様だが、向こうが漣次郎を消すつもりである以上は気を付けなければならない。


 漣次郎は難しい顔をしながら、遥か遠くの王都を臨む。






 夏の暑い昼下がりに、漣次郎は久方振りのシュレンディア王都にようやく到着した。


 漣次郎は王都城壁外の馬車停留所に降り立つ。

 漣次郎がこんな目に遭っていても、相変わらず王都は賑やかだった。ただ1つ言えるのは…今はもう半魔族では無いのだから、表を堂々と歩けるという事だ。

(“フェリア”だった時はいつも騎士団の馬車に潜んで王都入りしていたなぁ…王都の人は半魔族に良い顔をしなかったから)

 どうせ目的のラミ教神殿までは、城壁を越えたりとそれなりに遠い。

(ラミ教神殿は城壁内…だけど城門って出入りは意外と緩んだよね)

 という事で、漣次郎は初めて王都の町を自由に歩いてみる。


 漣次郎はあっさりと城門を抜け、穏やかな王都城壁内をぶらぶらと歩く。

 そしてまず、1つ目の目的地にやって来る。

「あ、魔法店みっけ」

 漣次郎の目当ては、魔法媒体と魔法教本。

 漣次郎が持っている魔法媒体は…何故かフェリアが入手していた黒曜石のペンダントのみ。せっかく3種の魔法適性を持っているのだから、一通りは揃えておきたかった。ついでにテルルにも魔法媒体を持たせてあげたかった。




「やあ、いらっしゃい兄ちゃん!」

 漣次郎が魔法店に入ると、店員らしき恰幅の良い男が彼に気さくな挨拶をして来る。魔法媒体は貴石が多いので…この店は一見宝石店にも見える。しかし魔法教本らしいものは見当たらない。

 漣次郎は店内を一通り見回し、店員に聞いてみる。

「あのすみません、魔法の教本ってありますか?あと安いので良いので、琥珀と金剛石の魔法媒体を見せて下さい」

「あいよ、ちょっと待ってねぇ!」

 どうやら店頭には置いていないらしく、店員が店の奥へと引っ込んでいく。

 店員を待つ間、漣次郎は陳列された魔法媒体を見てみる。

(杖と指輪に腕輪…あとは首飾りが主流って感じかな?あとやっぱり金剛石と隕鉄は高いなぁ…。もっと言うと黒曜石なんて並んですらいないし、シュレンディアではどんだけ希少なんだか)

 そう言いながら、漣次郎は首に掛かっている黒曜石のネックレスを弄る。


 そうこうしている内に、店員が戻って来た。

「兄ちゃんコレ、魔法院の出している魔法教本だよ!」

「ああ、ありがとうございます」

「あとそうだねぇ…琥珀は何でも似たような値段だけど、金剛石は指輪とかじゃないと高いのばかりだよ?まあ兄ちゃんはそんな黒曜石を持っているくらいだ、高い魔法媒体も見ますかい?」

(うーん、一応サルガンさんからお金を多めに貰っちゃったし。この分と路銀を考えても余裕はあるけど…)

「いえいえ、やっぱりとりあえず安いので。じゃあこれとこれを…」

 そうして漣次郎は、丁度良い魔法媒体と魔法教本を買って店を出る。











 とりあえずの目的を終えた漣次郎は、今度こそラミ教神殿を目指す。そこにはサルガンの知り合いが居るというので、その司教をとりあえず探すことにする。

(サルガンさんはその人を“そこそこの地位”とか言っていたから、神殿の人に聞けばわかるよね。とにかく神殿に行かなきゃ)

 もしかしたらフェリアが居るかもという懸念はあったが、王都の大通りで白昼堂々と襲い掛かって来るというのは流石に現実的では無い。故にラミ神殿を目指す漣次郎は、僅かながら気の緩みがあった。


 そしてその最中、急に漣次郎は呼び止められる。


「おい、そこのあんた」

「え?」

 誰かに声を掛けられるなど思いもしていなかった漣次郎は、不意に背後から声を掛けられ驚いて振り向く。

 そこに居たのは、青銅色の鎧の男。

 この装備は王都守護の任務を行う特別な騎士…憲兵隊だ。

 しかし漣次郎には当然、呼び止められる心当たりなんて無い。

「あの、僕に何か?」

「顔を良く見せてくれ」

「…?」

 強面の憲兵に至近距離からまじまじと見られ、漣次郎も流石に気圧される。

 そして憲兵の男は深く頷き、漣次郎の肩に手を置く。

「悪いな兄さん、憲兵駐屯所に同行願おうか」

「は!?」

「何、悪いようにはしない。ちょっと色々と聞かせて欲しいだけだ」

「えー!?!?」

 ただ王都を歩いていただけの漣次郎は、何故か憲兵に連行されてしまう…。






「あんた、まずは名前を教えてくれ」

「…ジローです」

「シュレンディア人か?見た目からすると外国人のようだが」

「そうですね、外国人です」

「王都に住んでいるのか?」

「いえ、家はワルハランの外れです」

 漣次郎が今居るこの場所は、王都城壁外にある憲兵駐屯所だ。

 その奥の方の部屋で、漣次郎は取り調べを受けている…。


(なんだこの状況は…?)

 漣次郎にはまだ状況が掴めない。

 仕方なく漣次郎は、サルガンに仕込まれた“何かあった時用”の自己紹介などを利用して憲兵に対応する。

 しかし…何故か憲兵達は明らかに漣次郎に敵対的だ。

「あんた、夏ノ53日はどこで何をしていた?」

「え?うーん…そもそも今日って何日でしたっけ?」

「夏ノ62日だ」

(えーと、流星群の日が夏ノ50日で…翌日は1日中寝込んでて、その次の日にサルガンさんの家にお邪魔したから…夏ノ53日はサルガンさんがフィズンに行ってくれた日か)

 とりあえず漣次郎は、正直に言っておく。

「怪我をしたので家で養生していました」

「怪我…?」

「ええ、ちょっと」

「そうか…ますます怪しいな」

(だから何で!?)

 何を言っても怪しまれるこの状況…漣次郎はしびれを切らして憲兵に訊ねる。

「あの!そもそも何で僕はここに連れて来られたんですか!?」

 その問いに…憲兵が漣次郎を睨みながら告げる。


「あんた…『月の民』だろう?」


 憲兵のまさかの言葉に、漣次郎は面食らう。

「な、何を根拠に!?」

「夏ノ53日に“夢遊病事件”が起きた。夜中に王都城壁内の街中を歩いていたある商人が背後から眠らされ、気が付いたら自宅に戻っていたのだ。半年振りに起きたこの事件だが…憲兵隊は『月の民』の仕業として以前から捜査している」

「それ、僕と何の関係が?」

「ふん、しらばっくれる気か」

 憲兵は、相変わらず厳しい表情だ。


「この前の事件で、遂に犯人の尻尾を掴んだのだ。被害者の商人は眠る直前に犯人の顔を見ていて…その人相書きがここに在る」

 そうして憲兵が取り出した似顔絵。

 上手に描かれたそれは…間違いなく漣次郎のものだった…。











 結局漣次郎は、憲兵駐屯所の牢屋に入れられてしまった…。


 身に覚えのない“夢遊病事件”の犯人と決め付けられてしまい、漣次郎は途方に暮れていた。しかし幸い漣次郎の荷物は特に怪しくも無かったので“サルガンの手紙”は憲兵に気付かれなかった。何とか彼には迷惑を掛けずに済みそうだ。

 それに、逃げようと思えば『アストラル』でいつでも逃げられる。故に漣次郎はまだ憲兵隊から情報を得ようと考えていた。


 しかし、漣次郎の牢屋に今見張りは居ない。

 情報を得られる相手が居ないのだ。

 仕方が無い漣次郎は、今置かれている状況について考えを巡らせる…。




(“夢遊病事件”…夜道で突然眠らされるっていう、王都で頻発していた事件か。この半年間起きていなかったその事件が最近になって再発し、その被害者が僕の姿を見た…と。何度聞いても妙な話だけど…)

 独房の椅子に腰掛けながら、漣次郎は足と腕を組んでいる。

 今までは全てが意味不明な都市伝説だと思っていた“夢遊病事件”だが…多くを知った今の漣次郎ならその真相が何となく想像できていた。

(この事件…恐らくフェリア達の犯行だな)


 被害者がいきなり眠らされるのは…マリィルの上級木術『ドリーム・ペタル』。そして被害者が起きると家に帰っているというのは…ラージェの異能『ソウルスワップ』なのだろう。


(きっとマリィルの魔法で眠らせた相手の体を、ラージェの異能で乗っ取るんだ。そうしてその相手の家に忍び込む…目的までは分からないが、これは確定だと思う。“夢遊病事件”がこの半年間起きていなかった事も踏まえると、そうとしか思えない)

 “夢遊病事件”の過去の被害者がどういった方々なのかは分からない。しかし何かを企んでいるフェリアの事だ、そうやって何かしらの諜報活動をしていたのだろう…。

(そうしてその疑惑を、僕に向けたって訳か)

 そして憲兵が言っていた“似顔絵”の一件。

 これも漣次郎には予想が出来た。

 春先のネイオレス騒動の際、マリィルが使った上級水術『イリュージョン・ミスト』。あの時は“フェリアの幻影”を出した幻影魔法で、マリィルが“漣次郎の幻影”を出して被害者に見せたのだろう…。




 漣次郎は肩を落とし、大きな溜息を吐く。

(あいつら…僕が怪我で動けなかったこの数日で、燻っていた“夢遊病事件”の容疑を僕に擦り付けたんだな。最悪だ…これじゃあここを逃げられても、似顔絵があるから指名手配されるじゃないか?)

 確かにフェリアは、サルガンがフィズンに向かった日に入れ違いで王都へ行っていた筈。その時にいろいろ動いたのだろうと漣次郎は予測する。フェリア達の用意周到さに腹を立てながら…漣次郎は憲兵達が戻るのをじっと待つ。











 漣次郎が牢屋にぶち込まれてから、約1時間。

 ようやく誰かが、牢屋の前にやって来る。

 そしてそれは…漣次郎にとって予想外の人物だった。


「貴方が“夢遊病事件”の容疑者?」


 そいつは、まだ少女とも言える年齢の女性。

 艶のある長い黒髪に深緑の瞳、白を基調とした騎士団の制服。

 ミューノ・パルサレジアだった。




「み…ミューノ!?」

 この再会を全く予想などしていなかった漣次郎は、彼女の名を思わず口にしてしまった。当然ミューノも、漣次郎のその不審な発言に眉を顰める。

「…何故、わたしの名を?」

「う…!」

 迷う漣次郎。

(根拠も無いのに“僕フェリアだったんだー”なんて言えるわけないよ!ミューノとフェリアの関係が分からない事には何ともできないぞ!仮に協力して貰えたとしても、彼女を危険に晒してしまうし…)

 ミューノが何故ここに来たのかわからない。

 彼女の立ち位置も分からない。

 漣次郎は仕方なく、瞬時に言い訳を考える。

「えーと、だって君は例の“フェリア小隊”の娘でしょ?半魔族の騎士フェリアは有名人だからさ…」

「そうですか…」

 案の定、その言い訳はミューノにしっかりと疑われる。

 そしてミューノの口から、思わぬ台詞が飛び出した。


「まあ、わたしはもうフェリア小隊の隊員じゃ無いですけどね」


 その言葉は、漣次郎を驚かせるには十分過ぎた。






「わたしは王都騎士団の騎士ミューノ・パルサレジアです。諸事情により“夢遊病事件”について調査していまして、“憲兵隊が容疑者を確保した”という情報を聞いたのでここへ来ました。ちなみに暫く憲兵は来ないですから、どうぞ気楽に」

 改めて自己紹介をしたミューノによる聴収が始まる。

 無表情なミューノに緊張しながら…漣次郎は慎重に言葉を選ぶ。


「先日起きた“夢遊病事件”の被害者が、襲われた際に貴方を見たと言っています。それについて身に覚えは?」

「全く無いよ…」

「詳細な似顔絵が描かれているのに…ですか?それではこの似顔絵、被害者の見間違えだとでも?」

「それは…僕には分かんないかな」

「事件の起きた夏ノ53日、貴方はどこで何を?」

「怪我をしていたので、自宅で療養していたんだ」

「…そうですか、怪しさしか無いですね」

「そんな…!」

 有効な言い訳が捻り出せない漣次郎は、やはりミューノにすっかり疑われてしまった。白い眼で見て来るミューノに、漣次郎は何も言えない…。




 そして不意に、ミューノが漣次郎に謎の質問をする。

「貴方…今回の“夢遊病事件”が起きるまでのこの半年、王都に来たことはありますか?」

「え?一度も無いかな…?」

「ではフィズンに行ったことは?」

「…?うーん、一度だけ…」

 一応フェリアでなく“漣次郎”の立場で正しい返答をしておく。

 ミューノは難しい表情だ。

 そして彼女は遂に、決心したかのように切り出した。


「…貴方は、騎士フェリアと面識はありますか?」


 それは、漣次郎にとって予想外の質問。

「…」

 慎重に考える。

 ミューノは漣次郎の表情を伺っている。

 そして悩んだ末…正直な答えを選ぶ。


「…一度だけ、フィズンで会った事が」


 その答えに、ミューノが目を見開く。

「どこで会いましたか!?」

「うーん、どこだったか…。夜だったのは覚えているけど」

「何とか思い出せませんか!?」

「いや…」

「それこそ、この前の“流星群の日”とかは!?」

「…!」

 急に身を乗り出してきたミューノの圧に怯みながら、漣次郎はここで逆に聞き返してみることにする。

「ちなみにミューノさん、何で僕と騎士フェリアの関係を…?」

「…それを教える義理はありません」

「そもそもミューノさんは何でフェリア小隊から外れたんですか?」

「…それも教える義理はありません」

「そっかぁ…」

 しかしミューノは、漣次郎の問いには素っ気無い。

 しかしこの問答で…漣次郎にはある確信が芽生えていた。


(ミューノ…君は、フェリアの事を疑っているんだね)

 それだけでも、今の漣次郎には十分すぎる収穫だった。











(…やっぱり、フェリア隊長には何かがある)


 今日パルサレジア経由で“夢遊病事件の犯人が見つかった”という情報を得たミューノは、急ぎ憲兵隊の拘留所にやって来ていた。そしてそこには…夢遊病事件の犯人という男が居た。

 彼の名は…ジローというらしい。

 歳はほぼフェリアと同じくらいで、やや中性的な印象の青年だった。しかし顔立ち的にはシュレンディア人には見えず、彼の“外国人”という主張は正しそうだ。どうやら憲兵は彼を犯人と決めて掛かっているが…ミューノにとってそんな事は些事だった。

(そもそもこの“夢遊病事件”は、フェリア隊長が記憶喪失になった途端途切れていたんだ。そしてフェリア隊長の記憶が戻ったら即再発…関係無い訳が無いよ)

 フェリアと“夢遊病事件”の関係は、彼女の記憶喪失以降パルサレジアが疑っていたのだ。パルサレジア公の読みは“『月の民』がフェリアを出世させるために裏工作している”というものだったが…直近のフェリアの動向から、今パルサレジアはフェリアをあまり疑っていない。

 しかしミューノだけは…フェリア本人を疑っていた。


 ミューノは今日、この男からフェリアについて何か聞き出せないかと思ってここに来ていた。そして案の定、この男はフェリアと面識があるらしい。

(さっきの態度からするに…この人は流星群の日にフェリア隊長と会っているんだ。そして最近怪我をしたとか何とか言っていた…)

 このジローという男は…間違いなくフェリアについて何かを知っている。

 しかし彼は恐らく、ミューノを信用していない。

 だからミューノは敢えて、自分の持つ情報を小出しにして揺さぶってみる。




「ジローさん、貴方はわたしが何故フェリア小隊から外れたか知りたいんですか?」

「そうだね…知りたいな」

「その理由は?」

「え?いやだってフェリア小隊と言えば何かと有名だから…そんな小隊に何かあったんだとしたら気になるものでしょ?」

「…その件については王都中に広がっていると思いますし、何ならワルハランまで噂が届いているのでは?」

「いやその、僕の家はワルハランの郊外だから…」

(ワルハラン在住っていうのは、とりあえず嘘っぽいなぁ)

 焦りながらも頑張って嘘を並べているらしい彼の様子を伺いながら…ミューノは遂にフェリア小隊の近況について告げる。


「フェリア小隊は、一旦解散しました」


 それを聞いた男は、驚愕の表情を浮かべる。

「な…!?」

「フェリア隊長は、直近2回の流星群で記憶が消えたり戻ったりしていました。彼女はその状況が騎士として相応しくないと国王陛下に直訴し…小隊長を辞め休職する事を申し出たんです。次の冬の流星群で何も起きなければフェリア小隊は復活する予定ですが」

「な、何でそんな事を…!?」

「騎士の職を重んじる、フェリア隊長らしい決断ですね」

「…信じられない、何であいつがそんな…!」

(フェリア隊長の事を“あいつ”…か)

 困惑する彼を見て…ミューノも確信を得る。

(この人…わたしの顔と名を知っていた。そしてフェリア隊長とも何か繋がりがあって…そしてそれは友好的な何かでは無い。この人は何かしらの理由で、たぶん以前からフェリア小隊に探りを入れていたんだろうな)

 そしてミューノは遂に、ジローという男に本題を切り出した。


「フェリア隊長が記憶喪失の間“夢遊病事件”は起きなかった…その点からわたしは、この事件にフェリア隊長が関わっていたと考えています。フェリア隊長について貴方が知り得る限りの情報を頂ければ、なんとか貴方を自由の身にできるかもしれません」






 漣次郎にとってこれは…一筋の光。

 意外な協力者が得られるかもしれない。

 しかし同時に、懸念もある。

(もし諜報員であるミューノが仲間になれば有難い。でも彼女はパルサレジアの末端に過ぎないだろうし…下手に巻き込んだら彼女がフェリアに消されかねない。ここは慎重に、だけど上手く協力が得られる方法を選ばないと…)

 そして漣次郎は、腹を括る。


「ミューノさん…その申し出は有難いけど、僕の事は大丈夫だから」

「大丈夫…とは?」

 拘留されているのに自信満々な漣次郎に、ミューノが首を傾げる。

「この件は危険なんだ、あまり深入りしちゃダメだよ」

「…!?貴方やっぱり何か知っていますね!?」

「うん、だけどそれはここでは話せない」

 そして漣次郎は荷物を手に取り、帰り支度を始める。

「僕の本当の名は…漣次郎。僕もフェリアを疑っているんだ、また改めて君に手紙を出すから…協力してくれると嬉しいな」

「手紙…?まあ王都騎士団宛に出してもらえばわたしが受け取れますけど、まさか牢獄から出すつもりですか?」

「そんなまさか。あとこの事は他言無用で頼むよ、お互いの為にね」

 そして漣次郎は異能を発動する為に、集中力を高める。

「フェリアは危険だ…そしてそれ以上に、ラージェって奴がヤバい。気を付けてねミューノさん」

「え?それはどういう…」

「じゃあね、<アストラル>!」

「は!?」


 そうしてミューノの目の前で…牢屋の中の男は姿を晦ました。


読んで下さる皆様にありがとうを。

書きたい事が上手く収まらない可能性もあり、たまに番外として置くと思います。

大筋とは関係ない話になると思いますが、そこまで読んで下さると嬉しいです。

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