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その3  王様の野望

怪我から復帰したばかりの女騎士フェリア。

彼女は急に、国王に謁見する事になってしまった。


“転生前のフェリア”が国王カインと企てていた野望とは…。


 紅髪の女騎士が、春先の騎士団基地を硬い表情で進む。




 女騎士フェリアが今居るのは、フィズン騎士団基地の中枢である司令塔だった。先程までは女性騎士の兵舎に居た彼女だったが…今は兵舎に迎えに来た上級騎士達に先導されて、司令塔のとある部屋に向かっている。

 …そしてここには、ラージェもマリィルも居なかった。


 フェリアを先導する上級騎士が、後ろも振り返らずに言い放つ。

「いいかフェリア…たとえ記憶を失っていようと、無礼は決して許されんぞ。陛下はお前を気に入っておられるが…我々フィズン騎士団にも面子というものがある。あまりに目に余る態度なら、ここにお前の居場所は無いと思え」

「は、はい!」

「それに今回の陛下の来訪は非公式…つまり御忍びだ。決してこの件を他言してはならん、良いな?」

「りょ、了解です!」

「む…いやに素直だな。記憶喪失というのも悪くないかもしれんな」

 なにやら嫌味を言われたようだが…当のフェリアはそれどころでは無い。


(や…ヤバイ緊張する!)


 フェリアは表情も動きもガチガチに硬かった。

 なにしろ彼女はこれからシュレンディアの国王に会わねばならないというのに、ここには頼りになるラージェもマリィルも居ないのだ。

(“王様はフェリアを気にかけてくれている”…マリィルの言うとおりであれば、その筈だよね。だけどどんな人なのか、怖い感じだと嫌だなぁ…)




 そして遂に、フェリア達はある部屋の前で止まる。

 上級騎士が脇に避け、フェリアに入るよう促す。

「陛下がお待ちだ。さあ入れ」

「わ、わかりました!」

 震える手で扉に手を伸ばすフェリア。


 そしてへたくそなノックをした彼女は、部屋にゆっくり入っていく。











 フィズン騎士団基地・司令塔の一角、小さな部屋。

 応接目的と思われる造りの、落ち着いた部屋。

 その一室で、壮年の男性がフェリアを待っていた。




「おお、よく来たなフェリア!」

 おおよそ50歳と思われる男が、満面の笑みでフェリアを迎える。

 彼は上背が高く、フェリアから見ても物理的に目上だ。赤みがかった金髪はじつに鮮烈で、癖の強さも相俟って燃える炎のようにも見える。頭髪と同じ色の口髭も蓄えており…さらに彼の深紅の瞳には、ただならぬ気迫を感じる。

 彼こそが、当代シュレンディア国王カイン・アルデリアスだった。


 フェリアはカインに促され、恐る恐る席に着く。

「どうだフェリア、身体の調子の方は。まだ退院してから数日しか経っておらんのだろう?」

「ぼ、ぼちぼちです…」

「ははは、そう謙遜するな。儂もまさか其方が退院して数日で『迎撃戦』に出るとは思わなんだし、そこで活躍するなど考えもしなんだわ。流石は儂が見込んだ戦士だ!」

「それほどでも、ありません」

(な、なんか豪快な人だ…)

 カイン王は“長身痩躯の壮年男性”といった風貌なので、ぱっと見の印象は弱々しそうなのだが…張りのある声とギラギラした強い眼光で、フェリアを圧倒している。

「む、硬いのう。そんなに畏まることも無かろうに」

 “普段のフェリア”との態度の違いに、カイン王が訝しむ。

 フェリアは慌てて取り繕う。

「すみません、実は僕…」

 しかしそれを、カイン王が遮る。

「みなまで言うな。其方が記憶を失ったというのは聞いておる。今のは其方の様子を確認したかっただけだ。しかし、この儂の顔を忘れるとはのぉ…」

「も、申し訳ございません!」

「はっはっは。冗談じゃ!そう畏まるな!」

 豪快に笑い飛ばすカイン王に、フェリアはどう接したらいいのか全然分からず…ただただ困惑するのみだった。




 そして突然、カイン王が真剣な面持ちになる。

「してフェリア、儂と其方の夢…思い出せぬか?」

「ゆ、夢…ですか…?」

 突然トーンが下がったカイン王を前に、フェリアがたじろぐ。

「そうじゃ。まさか忘れたわけではあるまいな?」

 眉を顰めるカイン王。

 焦るフェリア。

「ええと、その…」

「ふふふ、これも冗談じゃ。おおかた忘れておるのだろう?」

 顔色を変えたフェリアの様子を見て、カイン王が満足げだ。

(や、やり辛い…!)

 冗談ばかり言うカイン王に、フェリアは翻弄されていた…。






 カイン王は1つ咳払いをし、改まってフェリアに向き直す。

「今回其方を見舞いに来たのは、其方の様子をこの目で見ておきたかったというのが1つだ。そしてもう1つ…それが我等の夢の件だ」

「その夢とは…?」

 カイン王が、悪戯っぽく笑う。


「フィズン基地に女性騎士の大部隊を作り上げることだ!!」


 カイン王の言葉に、フェリアは面食らう。

「女性部隊!?何のために…?」

「よくぞ聞いてくれた!!」

 待ってましたとばかりに、カイン王が饒舌になっていく…。




「常々思っていた事だ、“シュレンディアの騎士団には華が無い”とな。団員の割合は男がほとんどで、女性隊員は1割の半分にも満たない。そしてフィズン基地に至っては、女性隊員が1人も居なかったのだ!」

 カイン王が熱弁を振るう。

「儂は幼き頃より、王になる者の義務としてシュレンディアの歴史を学んできた。そしてそこに登場する三英傑が1人…女勇者アルヴァナに憧れを抱いていたのだ!」

(三英傑の“勇者”って…女性だったのか)

 新たな情報が出てきたので、フェリアはそれを頭の隅に置く。

「美しく強い女騎士…ふふふ、実に良いではないか!儂もそんな者の活躍が見てみたい!だからフィズンに女性部隊を設立し、『迎撃戦』で華麗に戦って貰う…いやー良いのう!」

(そ、それはもはや私欲では…?)

 にやけ顔で語るカイン王の夢は…フェリアには“彼の為だけ”と思えた。

 そこでカイン王が、芳しくないフェリアの表情に気付く。

「む、どうした」

「い…いえ、何でもありません」

「“私欲のためにそんなものを作ってどうする”…そう思っておるな?」

「な、そんな事は…!」

「これは私欲では無く、れっきとした目的もある計画だ。女性が活躍する流れをシュレンディア全体に作る目的と、半魔族の地位向上という目的がな」

「しかし…」

「納得できんか?」

「う…」

「しかし、そもそも…ふふふ、いかんのうフェリア…」

「…何がでしょうか?」


「“女性部隊の設立”を儂に進言したのは其方であろう?」


 フェリアは驚いて、思わず立ち上がる。

「ぼ、僕ですか!?」

「そうじゃ、そうに決まっておる」

「何故そんな…僕は一体何を考えてそんな…?」

「それこそ其方の私欲、だろうな」

「ええっ!?」

 困惑するフェリアに構わず、カイン王が続ける。


「其方…男には興味が無いと言っていただろう。だから自分好みの女性騎士を集めて侍らせたい…とな。そして部隊創設の暁にはその部隊長に任命して欲しいとまで言ったではないか!!」


(そ…そんな、“フェリア”ってそっち系の人だったの!?)

 カイン王から告げられた衝撃の事実に、フェリアはもう何が何だか分からなくなってきていた…。






 司令塔・応接間。

 困惑するフェリアが、頭を抱えている。

 そしてそれを、カイン王が静かに見守る。

 少しの沈黙の後、落ちついたフェリアが顔を上げる。

「…わかりました。女性部隊の件、必ず作り上げましょう」

 悩みながらも、決意を告げるフェリア。

 カイン王も満足そうに頷く。

「良く言ってくれた。頼りにしておるぞ」

(そう…ちゃんとやろう、これは)

 フェリアは心の中で、決意する。


(フェリアの真意は知らない。でも…たとえ私欲の為だったとしても、“フェリア”の夢だったのなら叶えるべきだ。それが“フェリア”に転生してしまった僕の使命だよね)


 理屈半分・下心半分の決意で、彼女は自分自身を納得させたのだった。











 ひとまず“女性部隊”の件は納得したフェリア。

 しかし彼女には、1つ納得できない事があった。

「陛下、僕…とある疑問があるのですが…」

「どうした、申してみよ」

 フェリアは少し躊躇い、それでも口を開く。

「僕は『半魔族』ですよね?そんな僕の進言を、何故陛下は取り入れてくれたのですか?それにたとえ陛下が良いと言っても、周囲が黙っていないのでは…?」


 これは、単純な疑問。

 賤民である筈のフェリアが、何故国王に進言などできるのか?

 普通に考えれば…面会すら不可能だとフェリアには思えた。


 しかし、フェリアの疑問に対するカイン王の回答はシンプルだった。

「何を言っておる。其方は『魔の再来』を退けた英雄であり、儂がその英雄の望みを聞かぬわけが無かろうが」

(…出た、『魔の再来』)

 フェリアは内心喜ぶ。

 転生したフェリアが知りたかったことの1つ…それが、フェリアが既に持っているという“大きな功績”と、それによって得たフェリアの地位に関する情報だった。




「いやはや、これを忘れているようではいかん」

 そう前置きしたカイン王は、フェリアの功績について語り出す。


「かつてシュレンディアと戦った魔族が、敗走して海の彼方の孤島に住み着いている…この事は誰かから聞いたか?」

「はい、仲間から」

「よろしい」

 カイン王は遠い眼をして、懐かしむように語る。

「2年前だ…2年前の夏、魔族がフィズンを襲ったのだ。それも魔王のスレイヴではなく、大勢の魔族がスレイヴを船代わりにして押し寄せたのだ。そのあまりの大群に迎撃部隊は押され、一時はフィズン港を魔族に明け渡してしまった」

 カイン王は目を閉じ、蟀谷を押さえる。

「多くの犠牲者も出た。何しろ魔族の大群を指揮していたのは、200年前の『魔の侵攻』でもシュレンディアを苦しめた魔老将ユゥランジェだったからな。その老獪な戦いぶりにフィズン騎士団は翻弄され、有効な対策が出せずにいたのだ」

 そこでカイン王が、眼をカッと見開く。


「その時突然、其方が単騎で魔族の群れに斬り込んだのだ。ユゥランジェは“雷を落とす異能”で騎士団を苦しめていたが…其方は異能アストラルと上級白術『アーク・ウィング』でそれらを掻い潜り、なんと奴の首を討って来たのだ!!」


 そしてその鋭い眼光で、フェリアを射止める。

「大将を失った魔族の群れは瓦解し、海の彼方へと敗走していった。そしてそれ以来…其方を恐れてか、魔族の大規模な攻撃は行われなくなったのだ」






「理解できたかな?」

 驚くフェリアを前に、カイン王はしたり顔だ。

「“優れた異能”と“上級魔法を操る才”…そして、シュレンディアの為に命を賭して戦った“勇気”。それらを兼ね備えた特別な戦士…それが其方、騎士フェリアなのだ」














 ひとしきり語り終えたカイン王は満足気だった。

 放心気味のフェリアを後に、部屋を去ろうとする。

「へ、陛下。お帰りになられますか?」

 ハッと慌てて立ち上がり、フェリアがカイン王の背中に声を掛ける。

 カイン王は振り返らず、片手を軽く上げて見せる。

「儂にも公務というものがある。本当であればもっと其方と話していたいところだが…実に残念じゃ」

 カイン王が扉に手を掛ける。

 その手が止まる。

「そうそう、もう1つ言い忘れておった」

 カイン王が、改めてフェリアに向き直る。


「其方、小隊長への昇進が決まったぞ」


 フェリアが、今度こそ絶句して固まる。

「…今、何と?」

「小隊長じゃ、其方がな」

「えええええええええ!!?!?!」

 反応に困るフェリアは動けない。

 現状フェリアの地位は…国王に目を掛けられているとはいえ一般の騎士に過ぎなかった。だから当然部下なんていないし、ラージェもマリィルも“後輩”というだけで同じ階級だった。

 驚くフェリアに満足するカイン王。

「良いかフェリア…これは我々の夢への第一歩じゃ。其方が功績を挙げてくれれば、儂は心置きなく其方をさらに昇進させ、お主の部下に女性騎士をどんどん送り込む。そうして其方を中心にして、フィズン騎士団に『紅百合部隊』を作るのだ!」

「で、でもしかし」

「もう既に、2人の女性騎士を其方の下に付けるよう動いておる!そうしたらお主は4人の部下を持つ小隊長じゃ!明日にでも騎士団長から辞令が出るだろうから楽しみにしておれ!!!」

「ちょ、陛下!」

「ではまたな!半魔族の未来を切り開く、美しき紅髪の先導者よ!」


 フェリアの答えも待たず、愉快な笑い声と共にカイン王は去って行った。




 一人残されたフェリアは、まだ呆然としている。

(フェリアと王様の夢…小隊長…なんだかどんどんわけわかんない状況に進んでないか…?僕はあくまでスローライフ希望なんだけど)

 しかしフェリアは頭を振るい、決意を新たにする。

(いや…こうなった以上は仕方が無い、“フェリア”がやり残したことは僕がやってあげなきゃ。“フェリア”は強いし、きっと上手く行くよ。でも…じょ、女性部隊かぁ…楽しそうだけど気が重い)

 フェリアは扉に手を触れる。

(いや、フェリアの為にも遺志を継ぐんだ。これは転生した僕の義務だ)


そしてフェリアは勢い良く扉を開けて退出する。


























「漣次郎、退院おめでとうゥ!」




 夏のある日。

 都会の片隅。

 とある小さな雑居ビルの廊下。

 2人の青年が雑談をしている。


「…何だいこれは?」

 片方の青年は、どこにでも居そうな普通の見た目だった。平均的な身長にやや女性的な顔立ちで、地味なスーツを身に纏っているせいなのか余計に個性が薄い。しかし、妙に目力が強い。

 その青年が、何やら大きな箱を持たされている。


「何ってそりゃお前…快気祝いに決まってんだろが!お前が退院したから同期であるこの俺が祝ってやるって言ってんだよ!」

 もう一方の青年は、なかなかの美形だった。こちらは一際背が高く、長い手足も相俟ってすらっとした容貌だ。しかし地毛の茶髪と三白眼のせいか、どこか尖った雰囲気も醸し出している。




「すまないね、君。これは有難く貰っておくよ」

「…お前、怪我はホントにもう完治したのかよ?実はスゲー後遺症があったりとかしてねーの?」

「僕は大丈夫さ。心配要らないね」

「そ、そうかよ…。だけどお前も交通事故とか運がねーな」

「そういう運命だったんだろう、きっとね」

 2人はゆっくりと歩を揃えて、夕焼けの廊下を往く。


 この黒髪の青年…神無月漣次郎は、先日大きな交通事故に遭っていた。

 一時は生死の境を彷徨ったという彼だったが…今の様子を見る限り、そんな事を全く感じさせない。まるで健常者のように見える彼は“退院したのが昨日”というのが嘘のようだった。

 しかし、一点だけ。

 漣次郎に、ある問題が発生していた。


「…ところで、君の名は?」

 茶髪の青年ががっくりと肩を落とす。

「おいおいマジかよ…!?」

「済まないね、僕…事故より前の事をよく覚えていないんだ」

「…俺は菱ノ森逸太、19歳。お前とタメで、この会社の同期だ!全くよぉ…“記憶喪失”なんてのが現実に存在するって事が俺には信じられねーよ!!何かキャラも変わってるし!」

 元々この2人は仲が良かったらしく、茶髪の青年…逸太はこの事態に混乱していた。


 何と漣次郎は、交通事故で記憶を無くしていたのだ。


「…それは仕方ないだろう?僕だってこんなの初めてさ」

「そりゃ…だろーな、俺だってそんなの初めて聞いた」

「だから、これから君を頼ることが多くなると思う。家族や友人とは…その…まだ連絡を取りたくないんだ。記憶が戻るまでは」

「しゃーねぇなぁ!お前、記憶が戻ったら俺になんか奢れよな!!」

「済まないね…何かと宜しく頼むよ、逸太君」

「ハイハイわかったよ漣次郎、存分に俺を頼りやがれ。あと君付けはやめろ寒気がする!」

 何かと人の好い逸太は、漣次郎の頼みを聞いてしまう。




 そしてそのまま、2人はビルを出て帰路に就く。

読んで頂いているどこかの誰かに感謝です。

下手くそながらに頑張ってみます。

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