表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/80

その25 旭日祭

旭日祭でネイオレスの企みを軽くあしらったフェリア。

小隊の皆と祭を楽しもうとした矢先、彼女はフィズンのラミ教神殿で祭事を執り行っているというカイン王に呼び出され…。

 フィズンの旭日祭の最中、フェリアはある場所に呼び出されていた。




 そこはフィズン郊外にあるラミ教神殿。

 普段は礼拝に来る市民や神殿関係者が出入りし、穏やかな場所だ。しかし今は…わざわざ王都から来た憲兵が近辺の警備を固めており、ピリピリとした雰囲気が漂っている。


 本来なら部外者立入禁止のこの場所にフェリアは居た。そしてフェリアを呼び出した人物こそが、ラミ神殿のこの状況の原因なのだった。

「悪いのうフェリア、祭の最中だというのに急に呼び出してしまってな!」

「陛下の呼び出しとあらば、何を措いても来ますよ」

 フェリアをここへ呼び出したのはカイン王だった。急な事態にフェリアは緊張しつつ…神殿の様子を伺う。

「…何故陛下がここへ?もしや旭日祭では何か重要な祭事があるんですか?」

「その通りだとも!この祭りはシュレンディアを救った英雄を称えるものでもあるからのう…我々王家が、ラミ神と三英傑に感謝を捧げる儀式があるのだ!」

 今フェリアとカイン王が居るのは、神殿の大聖堂脇にある小部屋だった。フェリアはその部屋から大聖堂の様子を伺うが…そこには見知った王族の姿があった。

(マシェフ様にアイラ様、それにテンジャ様も来ているな。あと…見たこと無い人が1人…あれが噂の長兄ビスロ様か?)

 大聖堂の中は、厳粛な空気が重く溜まり込んでいた。


 今日まだアイラに絡まれていない理由が分かってホッとしているフェリアに、カイン王が呼び出した要件を切り出した。

「聞いたぞフェリア」

「え、何をですか?」

「ネイオレスの事に決まっておろう!」

 カイン王は満面の笑みだ。

 王は既にどこかから、ネイオレスの企みの件を聞いていたようだ。既にそれをフェリアが撃退したことについて、カイン王はご満悦といった様だ。

「マシェフから聞いたぞ…『三英傑の英雄譚』の舞台で、ネイオレスが其方の邪魔をしようと画策していたようだな!」

「ええ…ネイオレスは劇団員に金を握らせてあの舞台を滅茶苦茶にし、その責を僕に被せるという企みだったそうです。まあパルサレジアの情報が先に入っていましたので、マシェフ団長の協力も仰いで事無きとなりましたが」

「ふふふ、大儀であったぞ!」

 フェリアの報告に満足したらしいカイン王は、踵を返して大聖堂の方へと向かって行く。そしてその去り際に、悪戯っぽい笑顔で振り返る。


「フィズン騎士団長の不正を暴いた先の一件と、旭日前夜祭を穏便に終わらせたこの度の一件…儂は高く評価しておるぞ!秋には“四騎士団対抗武術大会”も控えておるし、何より騎士の異動があるからのう!フェリア小隊にも新団員を入れてやろう、楽しみにするがいい!」

 そう言い残したカイン王は、祭事へ向けて去って行った。











「お帰りなさいフェリア様♪」

「ただいま皆。それで…ここで何をしているんだい?」


 カイン王の用件を済ませ、フェリアが隊の皆の所に戻ると…4人はフィズン港付近に仮設されたイベント用らしい舞台の所に居た。そしてその広い舞台の周辺には…かなり大勢の人が集まっていた。

「…ここで、これから何かあんの?」

 後から来たフェリアには、ここで何が行われるかさっぱりだった。

 舞台上には何やら太い綱が置かれており…一目には綱引きでもやろうとしているように見える。そしてそれを大勢の観客が見ているという状況のようだが…。

「フェリア様、ここで行われるのはフィズン騎士団の小隊対抗綱引き大会ですわ。毎年恒例の事で、フィズンを守る騎士がその屈強な肉体をフィズンの皆様に見て頂くという催しですの♪」

「へぇ…そんなのがあるんだね。でも僕そんなの聞いてないけど?」

「それはそうでしょうよ…」

 呆れ気味のミューノが、黙って遠くを指差した。


 舞台の脇には、参加するらしい騎士達が大勢居た。

 しかし彼等は…一様に上半身裸で、その強靭な肉体を披露していた。


「…参加者は上裸なんですよね。わたし達には厳しいかと」

 興味の無さそうなミューノが、冷めた表情でそれを見ている。

 まあ確かにフェリアも、ここまで聞いた限りでは何故こんなイベントに人が集まっているのか理解できなかった。

(男の筋肉を見るイベントかぁ…そんなに楽しいのかね?)

 顔に疑問符が浮かんでいるフェリアを、ラージェが楽しそうに尻尾で小突く。

「だって金を賭けるからね!」

「は!?」

「これ賭博だから!」

「ええっ!?」

 ラージェは楽しそうに、手に持つ符をフェリアに見せつける。


「勝つと思う小隊に皆で金を賭けているのさ!そうして優勝した小隊の隊員とそこに賭けた人達で、賭金を山分けするってね!」


 それを聞いたフェリアは眉を顰める。

「…騎士団がそんなことして、公序良俗的にどうなのさ?」

「固い事言うなって!どうせ一人一口しか買えないし、その一口だって子供でも買えるくらいの小金だしね!それに胴元の騎士団には一切入らないから…まあまあ健全なもんさ!」

 そこまで聞いたフェリアが少し考え、

「…それなら、優勝した騎士は丸儲けって訳?」

「うーん、でも参加費は取られるからねぇ…」

「成程ね」

 しかしフェリアは正直賭博に興味無かったので、気の無い相槌を打つ。それを見たラージェはフェリアを気遣ってか、手をひらひらと振るう。

「アタシとココは賭けているからこれ見るけど、皆は他所を見て回ると良いよ!」

 フェリアはそのラージェの言葉に二つ返事だった。

「そう?じゃあ僕はそうしようかな」

「じゃあ私もご一緒しますわ♪」

「…わたしもそうします」

 マリィルとミューノもフェリアに続く。


 そうして4人は集合場所を確認して、別行動を開始した。






 ラージェはココロンを伴い、舞台袖に居るルゥイを見つけていた。


「ルゥイみっけー!」

「ルゥイさん、こんにちはー!」

「…あれラージェくんにココロンちゃん?どしたのさ?」

 上半身裸でポーズを決めていたルゥイは、思わぬその来客に驚いている。そしてルゥイと一緒に出場するらしいワールも寄って来る。

「何だよラージェ、お前暇かよ?」

「何言ってんの、アタシ達がルゥイ小隊に賭けたからさ!」

「マジで!?」

 ラージェの思わぬ言葉に、ルゥイは目を丸くして驚いていた。

「いやいや…俺達は記念参加みたいな物だからね!?なんか先輩達が“新設の小隊はこれに参加するのが伝統”とか言ってきたから仕方なく出ているけどさぁ…」

 どうやらルゥイは出場しただけで勝つ気が無いらしく、自分の美貌を見せびらかす以上の目的は無さそうだ。


 しかしルゥイ小隊の面々は盛り上がっている。

「何をおっしゃいますだ若様!ここまで来たら勝つしかあるめぇって訳ですよ!」

「若様の才能は凄いんべ!それにワールが居てくれれば十人力でんすぞ!」

「えぇー…なんで皆やる気なんだよー?しょうがないなぁ…」

 農夫上りの隊員達に煽られ、ルゥイも少しだけやる気を出す。

 そんなルゥイ小隊を見て、ココロンが一言。

「賭けたあたしが言うのも何ですけど…ワールさんって力持ちなんです?」

 ココロンの言う通り、確かにワールは小柄で細身だった。

 彼は筋肉質ではあるが、どうしても体格的に強く見えない。それに猫耳尻尾と童顔のせいで、騎士というよりむしろ可愛い美少年と言った方が違和感無い容姿だ。だがルゥイ小隊は、明らかにワールを頼りにしているのだ。


 しかしワール本人は、不敵な笑みを浮かべている。

「ふん、オレは半魔族だ。見た目通りの筋力だと思うなよ?」

 そして彼はルゥイの手をグッと握る。

「オレに任せろルゥイ!オレ達がお前を勝たせて…お前を“ただのボンボン”だって言うふざけた連中に吠え面かかせてやるからな!」




 そして初戦から出番らしいルゥイ達が、ラージェとココロンに見送られながら舞台の上へと上がっていく。

「ああ、俺どうせならフェリアに見て欲しかったなぁー…」

「おいラージェ、ちゃんと見てろよな!?」

「あはは!頑張ってねワール!」

「ルゥイさん頑張って下さーい!」


 そして遂に、フィズンの騎士達の夏の熱い戦いが始まった。











 フェリアはラージェ達と別れ、漁港で行われているとある催しを目指しているマリィルとミューノに着いて行くことにしていた。


 祭りはフィズン中央広場を起点にして、フィズン漁港まで一帯に屋台が連なる異様な盛り上がりを見せていた。時折大道芸団や楽団が道の端でその芸を惜しげもなく披露し、それに子供達が群がったりしていた。

 そしてフェリアはというと…道行く人達に絡まれたりしては何とかそれに対応していた。何しろフェリアはフィズンでそれなりに有名であり、こういう祭ではどこの誰からも絡まれる可能性があったのだ。




「あーあ、やっと落ち着けそうだね…」

「フェリア隊長お疲れ様です。野次馬に絡まれて大変でしたね…」

「まあまあフェリア様、ここではゆっくりしましょうね?明日の午前中は祭の特別警邏ですので、じっくり回る時間は有りませんもの♪」

 フェリア達は目的地であった、フィズン港埠頭の“浜焼き大会”に辿り着いていた。

 港町フィズンは海産物が有名であり、この祭りでももちろんそれが目玉の1つだった。この日の為に漁業組合が溜め込んだ貝や魚などを生簀からガンガン供給し、そこら中に並べられた焼き場でそれらを焼く食べ放題のイベントなのだ。


 料金を払って入場したフェリア達は隅っこの方にこっそり陣取り、目立たないように貝を焼いていた。今はミューノがいろいろ食材を取って来るのを待ちながら、マリィルと一緒に金網で炙られている貝を眺めていた。

「しかし騎士団の食事もそうだけど…フィズンは海産物ばっかりだねぇ。王都やモードン公領での料理は肉系が多かったけどねぇ」

「まあ当然と言えば当然ですわね。私達からすれば…漁港のあるワルハランもこんな感じだったので、肉より魚の方に馴染みがありますわね♪」

「あ、貝が開いた」

「ふふふ…もうちょっと待ちましょうね、フェリア様♪」

 そうこうしているうちに、色々持ったミューノが帰って来る。

「ただ今戻りました」

「あら、お帰りミューちゃん。もうすぐ最初のが焼けるわよ♪」

「本当ですね、これは丁度良い」

「じゃあ頂こうか!」

 そしてフェリア達も、まだ熱い貝に手を伸ばす。


「そういえばフェリア隊長、カイン王からの呼び出しって結局何だったんですか?」

 炙った巻貝を上手に食べながら、ミューノがフェリアに問う。

「ああ、さっき神殿に呼び出されたアレなら“ネイオレスの企み”について聞かれたよ。あとついでに“秋の異動で新しい隊員を入れてやろう”ってさ」

「新しい隊員ですか。それは喜ばしい事ですわね♪」

 その言葉を聞いたマリィルが目を輝かせた。

「フェリア様と王様の夢も順調ですわね♫」

「夢…?」

 不審そうに首を傾げるミューノ。

(うーん、これは隠した方が…?)

 しかしフェリアが口を挟む間もなく、ミューノにマリィルが説明してしまう。

「フェリア様はこのフィズンに、女性騎士だけの部隊を作ろうとしていますのよ」

「何故に女性だけ…?」

「フェリア様は女の子が大好きですから♪」

「…その噂、まさかとは思いましたが真実だったんですね…」

 それを聞いたミューノは、横目でフェリアをじっとりと見る…。

「いやいや、それ以上の深い理由もあるからね!?カイン王だって僕だって、そんな私欲丸出しの考え無しとかじゃないから!!」

「本当ですかー…?」

 微妙な表情を浮かべるミューノは、ぽつりと漏らした。

「…騎士団学校とかで、実際に手を出したりとかしてないですよね?」

 これには流石にフェリアも焦る。

「いやいやいやいや…無いから!!」

「記憶が無いのに言い切れるんですか?」

「ぐ…いやまあ根拠は無いけど、とにかく大丈夫なんだよ!」

「なら良いですけど…」

 そしてミューノはその流れで、意外な言葉をポロリと漏らした。


「…ココに手を出さないで下さいね?」


「え?何でココちゃん?」

「何でココロン限定さ?」

 同じ疑問が同時に浮かんだらしいフェリアとマリィルが、口を揃えてそれを口にした。そしてミューノはというと…自分でもそれが失言だったと自覚したらしい。

「…今のは忘れて下さい」

「うふふ~…何でかしらミューちゃん、気になるわ?」

「別に良いですから!」

「あららー♪」

「もう…!」

 顔を赤らめて苦い顔をするミューノは、もう諜報員になど見えない。

 今の彼女は、年相応の可愛らしい少女だった。




 そうしている内にラージェとココロンが、ルゥイ隊と共に現れた。

「姉様居たー!いやーヤバいくらい大勝ちできちゃったー!」

「ああフェリア…俺のこの勝利を君に捧げよう!しかし勝利の瞬間を君にも見て欲しかったなぁ!!」

「え、まさかルゥイ隊が勝ったの!?」

「そのまさかだよ!まあオレ様のお陰だがな!!」


 そうして酔っ払いも混じる2つの小隊が、どんちゃん騒ぎを開始した。
















「今日は面白かったけど、疲れたよー…」




 旭日祭1日目の夜。

 夜通しの劇もあった為“くたびれた”と言って1人兵舎に帰ったフェリアは、レーヴェットのサルガン宅にお邪魔していた。前夜祭のせいで今日は夜明け前から起きていた事もあり、フェリアは弱冠ウトウトしていた。

 そして窓際に座り込んで夜風に当たるフェリアに膝には、狼少女が。

「…レン、しっぽもなでて」

「はいはい、わかったよー」

「…レン、貝のにおい」

「そうだねテルル、今日は僕さんざん貝を焼いたからねぇ…」

「テルル、貝好き」

「ふふ…それは良かったよ、お土産に持ってきた甲斐があったね」

「わふー…」

 フェリアは膝にもたれかかって甘えてくるテルルの髪と尻尾を優しく撫でている。彼女はこうされるのが好きらしく、フェリアが時折訪れる度に“なでて”とせがんで来るのだ。


 テルルを拾ってしまった責任もあるフェリアは、こうして偶にサルガン宅を訪れて様子を見に来ていた。しかし彼女は既にフェリアとサルガンに心を開いており、2人に良く懐いていた。


 テルルを撫でるフェリアは、もう片方の手で懐からある物を取り出す。

「ねえテルル、その髪長くて邪魔じゃない?」

「んー…そんなに…」

「そう?でも結った方が可愛いと僕は思うかなー」

 そうしてフェリアは、旭日祭の出店で買った髪留めのリボンをテルルに見せた。

「ねえねえ、これ着けて見ない?」

「…え、くれるの?」

「そうそう!」

「そんな…いいの?」

「遠慮しないで良いから!」

 そうしてフェリアはテルルを座らせ、その髪を結ってあげることにする。テルルの髪は腰まであるので、肩の辺で一纏めにしてみる事にする。そうしてテルルの髪型は、低い位置のポニーテールの様になった。

(むー…何かラージェみたいな髪形になっちゃった。まあラージェのポニーテールはもっと高い位置だから違うけどね)

 髪を結ってもらったテルルは…尻尾を追う犬の様に、自分のポニーテールの端を追ってその場でくるくる回り出した。彼女の表情も声色もほとんど変わらないが…まあまあ嬉しそうには見える。

「…どう?」

「うん、可愛いよ!良い感じになったね」

「…ありがと、レン」


 そして尻尾と髪を躍らせながら、テルルはサルガンの元へと駆け寄って行った。






「今日は悪かったな、わざわざ土産まで持って来させてしまって」

「良いんですよそんなの、むしろ迷惑料にも足りてませんし」

 夜も少し更け、テルルはもう寝ていた。

 そんな彼女を見ながら、サルガンとフェリアはテーブルで寛いでいた。

「一緒に過ごす内にだが…この仔の事がだいぶわかって来たぞ」

 そう言うサルガンは難しい顔だった。

 彼は眠るテルルを一瞥し、少し渋い表情で呟く。

「どうやらデルゲオ島では…異能の無い魔族は下民扱いらしい。そしてこの仔は親無し能無しで、それが理由で漁師にこき使われていたという事のようだ。あと色々と“奉仕”をさせられていた件や、この仔の異能については頑なで…流石に聞き出せなんだわ」

「…いえ、ありがとうございます。それも僕がやるべき事だったのに…」

 フェリアは静かに、サルガンに頭を下げる。


 サルガンはあれ以来、まだレーヴェットの半魔族と接触が出来ていなかった。そしてその間…どうやら虐待じみた扱いを受けていたらしいテルルの事を、2人で出来るだけ気遣ってあげようという方針になっていた。


 しかしフェリアの表情は晴れない。

「何時になるかまだ分かりませんが…僕は今後、カイン王の命でデルゲオ島征伐に向かう可能性があります。まあ僕がその戦いで生き残れるかというのも有りますが…そこで恐らく、魔族を殺すことになるでしょう」

「だろうな」

「…でも僕はテルルと関わってしまって、彼女に同情してしまっています。そしてサルガンさんの話では…デルゲオ島には彼女と同様に、異能を持たず虐げられる魔族が居るという事ですよね?」

「そういう事になるな」

「…」

「つまり、やり辛いという訳か」

「ええ…まあ」

 俯くフェリアは真剣で、じっと机の木目を睨んでいた。




 サルガンはそんなフェリアをじっと見て、言葉を選んで紡ぐ。

「噂では…レンは今年の旭日前夜祭で、勇者役を仰せつかったらしいな」

「良く知ってますね」

「儂がフィズン騎士団に居た頃では考えられん事だった…半魔族が祭の表舞台に出るなんてな。それだけお前さんは特別で、この国を変える可能性があるという事だと儂は思う」

「そうですかね…」

 フェリアがそう言うと、サルガンはフェリアに背を向ける。

「お前は凄いんだろう?そんなお前なら…デルゲオ島の下民まで味方に取り込むくらいの事をやってのけるかもしれんな」

 そうしてサルガンは、優しい仏頂面で振り向いた。


「精進しろ、特別な力と立場のお前にしか出来ん事が有るだろうからな」


 それを聞いたフェリアは少し黙り込み…その言葉をゆっくりと飲み込む。

 そしてぱっと顔を上げる。

「…ありがとうございますサルガンさん。デルゲオ島征伐までに…僕なりの答えを探してみますよ!」

 そうして会釈したフェリアは、少しだけ胸がすっきりとしていた。








 夜も深くなってきたので、フェリアはサルガンに挨拶をして丸太小屋を出る。

 そうして夏の夜風を浴びながら、脳裏に兵舎の自室を思い浮かべる。

 そして息を深く吸い、力を込めて異能を…。


「レン」


「へ!?」

 背後から声を掛けられ、フェリアは驚いて変な声を出す。

 声の主は…。

「…テルルか、起きていたんだね」

「うん」

(狸寝入りだったとは…)

 声の主はテルル。

 彼女はどうやら完全に眠っていた訳では無かったらしく、出て行くフェリアの後を追ってきたようだ。幸い夜中であれば他の人間に見られる恐れも無いので、テルルは外に居ても平気だった。

「どうしたのテルル?何か用かな?」

「えっと、その…」

 もじもじしているテルル。

 フェリアは屈んで彼女視線を合わせ、優しく促す。

「大丈夫だよ、ゆっくり聞くからね」

「う、うん…」

 そうしてテルルは悩み、悩み…遂に決心したように顔を上げる。

「レン、空を見てて」

「え、空?」

 フェリアはテルルの言葉通り…満天の星空を仰ぎ見る。


 その瞬間、一筋の流星が煌いた。


 ほんの一瞬ではあった。

 フェリアはテルルに視線を戻す。

「…流れ星?」

「えへへ」

 ほんのちょっとだけ得意げなテルルを見て…フェリアはテルルが何をして、何を見せようとしたのかに気が付いた。

「…今の、まさか君の異能!?」

「そう」

「なんていう名前の異能?」

「名前はまだないよ、だれにも言った事無いし」

「サルガンさんにもかい?」

「うん、レンとテルルだけの秘密…お願い」

 外は暗かったが、夜目の利くフェリアには嬉しそうなテルルの笑顔が良く見えた。

「うん、いいよ」

「あと、いつかレンが名前を付けて」

「あはは、じゃあ考えておくね」

「えへへ…おやすみレン」

 そういうとテルルは、恥ずかしそうにサルガンの丸太小屋へと走って行った。




(あの娘も、ちゃんと笑うんだね)

 フェリアは内心、狼少女が初めて見せた大きな笑顔が嬉しかった。

 そして改めて…デルゲオ島征伐について決意をする。

(今まで見てきた“異能”って、そういえばなんか実用的な物ばかりだったね。でもこんな“流れ星を呼ぶ異能”なんて可愛らしいじゃないか。きっと魔族とだって、頑張れば分かり合える…そんな気がするよ)


 そしてフェリアは異能を発動し、フィズンへと帰っていった。


読んで下さる皆様に感謝を。

なかなか今後の展開が定まらず、わかめも四苦八苦しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ