その23 3人の生立
来たる旭日祭の舞台に向けて稽古を続けるフェリア。
ネイオレスの怪しい動きについても、ミューノの諜報もあってほぼ無問題という状態。そんな中フェリアは、以前から気になっていた“3人の本当の故郷”についてラージェに訊ねる事にし…。
港町フィズンにあるラミ教神殿の大聖堂。
“一ツ目の太陽”という異様なシンボルを掲げるラミ教の厳粛で荘厳な雰囲気の片隅で、場違いな騎士フェリアは縮こまっている。
宗教都市パマヤから大司教を迎えたフィズンのラミ教団は、現在“旭日祭”に向けて色々な準備を行っていた。特に旭日祭の前夜祭ではラミ教団主催で『三英傑の英雄譚』を演じるため、教団が王都から有名な劇団を招待して彼等と打ち合わせを行っていた。
今は劇団座長らしき男性が挨拶をしており、周囲は劇団員とラミ教団員…そして今年“勇者アルヴァナ役”を仰せつかってしまった騎士フェリアの姿が。
「今年もラミ教団から、前夜祭の指名を頂きました。我々一座の地位もこれで盤石ではありますが…決して驕る事無く、三英傑の勇姿をシュレンディアの民に伝えましょう!」
「おー!!」
前夜祭の劇を任されることはかなり名誉な事らしく…劇団員達は一様に気合を漲らせている。複数の劇団が競い合っているというシュレンディア王都で役者が生き残るのは難しいようで、彼等はこの仕事に真剣だった。
続いてラミ教団の幹部が挨拶をする。
「御機嫌よう皆様。今年も平和に旭日祭を迎えることが出来た事を嬉しく思います。なお前夜祭本番では大司教ナディル様が本舞台に参加されますが…当面の稽古には私が参加させて頂きますのでよろしくお願いします。来たる旭日祭までこの聖堂は部外者の立ち入りを禁じておりますので、稽古に励んで頂けたらと思います。なお夜間の使用については…」
そう語っている彼は、フィズンのラミ教団の司教だ。フェリアを除いたこの場に居る全員が…来たる旭日祭を心待ちにしているようだった。
そして不意に。
「では最後に、今年特別に参加されるフェリア小隊長からもご挨拶をお願いします」
「ふぇ!?」
まさかこの場で出番があるとは思っていなかったフェリアは面食らう。
そしてあたふたしながらも…ガチガチで皆の前に立つ。
「…ど、どうも…騎士のフェリアです。僕は半魔族ですが…今年は特例で参加させて頂けることになりました。えーと、こういった場には慣れていませんが…皆様の足を引っ張らないように頑張ります!」
劇団員は皆、王都の人間らしい。
王都には半魔族を嫌う者が多い。
だからフェリアは、彼等に受け入れられるとは思っていない。
「いいぞーフェリアさん!頑張ってねー!」
「魔の再来の英雄が居れば、今年の舞台は盛り上がるわよ!」
「短い劇だしあんまり気負うなよー!?」
しかし劇団員達は…思いの外温かい拍手でフェリアを迎え入れてくれたのだった。
「前夜祭の舞台は、そこまで難しいものではありません。だからあまり心配しなくても平気ですからね」
「は、はい…」
他の劇団員達が稽古をするのを尻目に…素人のフェリアは座長から舞台の概要を聞かされていた。『三英傑の英雄譚』自体がシュレンディアでもポピュラーらしいのだが…記憶の無いフェリアにはそこから説明が必要だった。
「前夜祭の舞台は短いものです。そして台詞は一切ありません」
「台詞が無い…聞いてはいましたが、本当なんですね」
「ええ。基本的にはナディル大司教が『英雄譚』を朗読し、その場面を我々が演じます。ちなみに王族役と三英傑役はそれぞれ仮面を被って演じますので、他の役よりは気楽かと思います」
「…何故仮面を被るんです?」
「流石に英雄や王族を演じるのは畏れ多いですからね。アルデリアス王家もシュレンディア王政もこの舞台を支持してはいますが…」
そう言いながら、座長は台本をフェリアに手渡す。
「フェリア小隊長も騎士の任務があるとは思いますが…旭日祭はもうすぐです。カイン王もマシェフ騎士団長も協力して下さっていますので、明日からしっかり稽古をしましょうね!」
「よ、よろしくお願いします」
そしてフェリアは一礼すると、座長に背を向けて歩き出す。
フェリアはあえて異能を使わず、歩いて稽古場を後にする。
(まあ稽古の間、僕の隊の隊員はルゥイが面倒見てくれているからそこは安心かな。ルゥイ自体はちょっと頼りないけど、マリィルが居れば大丈夫でしょ)
そして、周囲の劇団員達の様子を密かに伺う。
(あとミューノの情報では…この劇団員の誰かがネイオレスの協力者らしいね。そいつが本番で僕の邪魔をして来るっぽいから…それまでに特定して何とかしないとね)
ミューノからもたらされた、前騎士団長ネイオレスの情報。
どうやら奴は…旭日前夜祭でフェリアに復讐を目論んでいるという。
そしてフェリアは、あえてそれを真っ向から粉砕しようとしていた。
フェリアは騎士団長マシェフからの依頼で、数日後に迫る『旭日祭』の前夜祭で行われるという舞台へ出演することになってしまっていた。
「お帰りなさい、フェリア様♪」
ラミ教神殿からフェリアが基地に帰ってくる頃、既に日は傾いていた。
フェリア小隊はもう今日の任務を終えて兵舎に戻っており、帰って来たフェリアをマリィルが笑顔で迎えてくれた。
「フェリア様、舞台の方は如何だったでしょうか?」
「うーん、説明を聞いた感じは簡単そうだけど…」
フェリアの表情は晴れない。
それは舞台に対する不安ばかりでは無かった。フェリアのその微妙な表情を察したミューノがぼそりと呟く。
「…劇団員に怪しい者は居ましたか?」
「そうだねぇ…まだ分からないかなー?」
フェリアは今日、劇団員達に一通り挨拶をして回っては見たが…ネイオレスの回し者と思われる奴はまだ分かっていなかった。
難しい表情の面々とは打って変わって、ラージェは気楽に笑っている。
「へへへ!でもアタシ達にはミューっていう頼れる仲間が居るからね!」
確かにラージェの言葉通り、今回はミューノが“パルサレジア”の得た情報を横流ししてくれたおかげで、こうしてネイオレスの企みを前以て認知できているのだ。その点はフェリアも感謝している。
「…あまり頼りにしないで下さいよ?」
「そんな事言わないでってミュー!あたしも何か協力しよっか!?」
「ココくっつかないで…それに諜報にはココうるさいし」
「えー!酷くない!?」
「事実でしょ」
ミューノが協力的なのが嬉しいらしいココロンは、ミューノに楽しそうに頬擦りする。ミューノも面倒臭そうに振る舞うが、嬉しそうなのが隠せていない。
「まあまあ、ひとまずは晩御飯にしましょうね♪」
「そうだねマリィル」
まだ旭日祭は15日ほど先だ。
フェリア達はまだ焦ることも無く、旭日祭に備えて警戒を続ける事にする。
夜も遅くなり、フェリア小隊の皆がもう眠ろうとする時間。
ミューノは単身、兵舎をこっそり出て行こうとしていた。
「…どこに行くのかしら、ミューちゃん?」
「…マリィルさんですか」
しかしその場をマリィルに目撃されてしまい、ミューノは足を止める。
ミューノは黒の外套で全身を覆う、諜報員としての姿だった。
以前はミューノを警戒していたマリィルだったが、今はもうそんな雰囲気は無い。フェリアの危機に関する情報を自主的に明かしたミューノの事を、マリィルは信頼してくれていた。
「私、貴女を誤解していたみたいだわ」
「そうでしょうか?」
「本当の事を言うと…最初にパルサレジアという姓を聞いた時から、貴女の事をずっと疑っていましたの。ごめんなさい」
「…いえ、マリィルさんは正しいと思います。今までだってわたしの事を良い目で見る人はそんなに居ませんでしたから…」
パルサレジアの名を背負って来た為に嫌な思いをしたこともあったミューノだが、マリィルが弾ける笑顔で彼女の手を取る。
「ミューちゃんはパルサレジアの任務でここに居るのかもしれないけれど、貴女はフェリア様の危機を救ってくれた。私達は本当に感謝しているわ♪」
「ど、どうも…」
付き合いの長いココロンとは違い、年上のマリィルにミューノは緊張していた。特にマリィルは肉付きの良い身体なのに平気で距離を詰めてくるので、ミューノはドギマギして視線が安定しない。
「じゃ、じゃあ諜報に行ってきますから!」
「ミューちゃん気を付けてね♪」
ちょっと顔を赤らめながら、ミューノはそそくさと兵舎を後にした。
ミューノを見送ったマリィルは、そのまま速足で暗い談話室の扉を開く。
「み、見つかっちゃいましたねぇ…」
「やっぱり居たのね、ココちゃん」
そこには、隠れているココロンの姿があった。
マリィルは別段怒っている訳では無かったが、ココロンがあたふたと捲し立てる。
「あのですね…ミューが今夜どこかに行こうとしているのが分かったので、あたしはそれを追尾しようと思った次第なんです!でもそうしたらマリィさんも来ちゃって、なんか気まずいと良くないかなって思って…」
「ココちゃん…」
マリィルは申し訳なさそうに首を傾ける。
「ごめんなさい…ココちゃんにとってミューちゃんは大事な友達なのよね。でももう私達はミューちゃんを疑ったりしていないから安心してね」
「えへへ、なら安心です!」
そうしてココロンは、我慢していた欠伸をする。
「ふわぁ…やっぱもう眠いのであたし寝ますね。難しい事はきっとミューが何とかしてくれると思うので」
「そうね、ミューちゃんを信じましょうか」
そうして2人は、夜も遅いので兵舎の灯りを消して回る。
「しかし…マリィルさんの胸は凄いですよね。何を食べたらそんな大きくなるんでしょーか?」
「あらら、それは良く分からないわ。皆より背が低い分がそっちに行ったんじゃないかしら?」
「そっかぁ…でもそれって関係あるんですかねぇ?」
そのまま2人は、自室へと帰って行った。
兵舎を後にしたミューノは、他のパルサレジア諜報員と合流すべく基地の外に向かっている。暗がりを密かに進む彼女は、他の騎士達に気付かれないよう注意深く歩く。
(わたしのやっている事…本当に正しいのかな?)
ミューノにはまだ、迷いがあった。
ミューノは先日…パルサレジア孤児院から『騎士フェリアに入れ込み過ぎだ』という忠告を受けていたのだ。
確かに今のミューノは、フェリアに対して好印象を持っている。
それが任務に支障を与えかねないとも理解している。
しかし、ミューノは改めて決意をする。
(フェリア隊長の活躍は…シュレンディアの為になる。そしてきっとそれをココも望んでいる…よね?わたしはココが笑顔ならそれでいいよ)
そしてミューノの姿は、夜の闇に消える。
「ラージェ、それ楽しい?」
「超楽しいー!」
「そっかぁ…」
もう夜も遅く、フェリアが寝ようとした矢先。
何故かラージェがフェリアの部屋にやって来ていたのだ。そうして彼女はフェリアのベッドに勝手に寝そべって、今は『三英傑の英雄譚』の台本を面白そうに読んでいる。
「そんなの面白い?僕にはあまり楽しめなかったよ」
「え、面白いよ?超面白い!」
そういうラージェは満面の笑みで、時折吹き出したりしながら台本を読み込んでいる。しかしその内容は“三英傑の素晴らしさ”や“三英傑に起きた奇跡”など…彼等を神聖視するための内容で、笑って読むような類のものでは無かった。
「…そんなに読みたいなら部屋に持って行っていいよ?」
「いやいや、それは遠慮しよっかな?アタシは寝相がヤバいからこの台本破いちゃうかもだし!」
「えぇ…どんな寝相だよ」
フェリアは呆れながらも、今日の稽古の内容を自主的に復習していた。フェリアが演じる“勇者アルヴァナ”は出番がそれなりにある方らしいので、こうしてどんどん頭に叩き込まないと不安で仕方が無かったのだ。
しかしそんなフェリアに目も向けず、ラージェはにやけながら台本を読み耽っている。
「へっへ!でも可笑しいね姉様!」
「何が?」
「姉様が勇者の役なんてね!」
「まあ確かに、半魔族の僕には畏れ多い役だよね」
「そういう意味じゃないよ!」
そして不意に、ラージェが振り向く。
「姉様と勇者なんて、似ても似つかないのにさ」
ラージェの表情は、穏やかだ。
しかしその言葉には若干の棘がある。
それはフェリアからすれば、ラージェらしからぬ物言いだった。
「…それは、どういう意味?」
フェリアは静かに聞き返す。
しかしラージェは、打って変わっての破顔一笑。
「へへへ!姉様は勇者なんかよりずーっとスゴイんだからね!!」
「ああ、そういう意味ね…」
能天気なラージェに、フェリアも呆れの溜息が漏れた。
しかしフェリアは内心“ラージェが嫌”というアイラ姫の言葉を思い返す。
…正直フェリアも、ラージェの事が掴み切れていなかった。
その時、フェリアは不意にあることを思い出す。
「あ」
「…どしたの姉様?」
「そういえばさ、ラージェ…」
「なーに?」
「僕達がレーヴェットに居た頃の話を聞いていなかったよね。教えてよ」
マリィルもラージェも進んで話そうとしない、フェリア達3人の“本当の故郷”の話。しかしフェリアとしては興味があったので聞いておきたかった。
「うーん、その話かぁ…」
その時ラージェが、あまり芳しく無い表情になった。
これも彼女らしからぬ表情。
明らかに“話したく無い”という雰囲気だ。
(アイラ姫が言っていた通り…やっぱりラージェとマリィルは何かを隠しているのかな?故郷の話をやたら嫌がるし)
フェリアは以前アイラ姫が語った内容を思い浮かべながら、しかし自身にも後ろめたいものを感じている。
(…でも僕だって“本当はフェリアじゃない”って事を隠している。これは僕も語りたくないし、そういう意味ではフェアじゃないよね。なら2人の秘密も暴くべきじゃないかな)
そうしてフェリアは、そっと溜息を吐く。
「…やっぱりいいよ、話さなくて。マリィルに聞いた感じだとあまり良い思い出じゃないんだろう?」
「うん、まあねぇ…」
ラージェは普段見せない困った笑顔だが、そのまま少し考え込む。
「いや、やっぱ話そっか。アタシとマリィ的には…姉様に思い出して欲しく無い事が2つあって、それをわざと黙ってたんだ」
ラージェは台本をパタリと閉じると、ベッドに腰掛け居住まいを正す。
「アタシ達の本当の故郷は、銀嶺山脈の麓であるレーヴェット地方のどこか。実はあそこには半魔族が隠れて暮らしているんだ…そこが何処だったかは覚えてないけど」
どこから話していいやら、と言ったラージェは…昔の事を思い出しているようで、少し俯き加減に喋っている。
「覚えてないって?」
「アタシ達の“仲間”…半魔族の群れは、どこかに定住していた訳じゃ無かったみたいだからねー。しょっちゅう移動しながら暮らしてたよ」
「それは、人間に見つからない為?」
「そうみたい」
ラージェの話は、以前レーヴェットの老人サルガンから聞いた話と一致している。レーヴェットの半魔族は人間を恐れていると聞いたが…。
「それで…何で僕達はワルハランに住むことになったのさ?」
「人間に見つかったからだよ」
「…どういう事?」
「へへへ」
ラージェは乾いた笑いを零し、言葉を選んでいる。
「逃げ出したんだ、故郷から」
「…え?」
「逃げ出したんだよ、あんな奴らと一緒に暮らせないってね」
「逃げ出した…それは、何で?」
ラージェの言葉が予想外だったフェリアは面食らう。
しかしラージェは肩を竦めながら続ける。
「あいつらは…半魔族を迫害する人間を憎んでいた。そうして子供を産んでは優秀な異能を発現するよう“教育”をしていたのさ。レーヴェットに居る半魔族はそういう群ればかりじゃ無いらしいけど…少なくとも、アタシ達の群れはそういう奴等だった」
「まさか、復讐…?」
「そうそう。それで、半魔族が異能を発現するのはだいたい10歳までだから…碌な異能を発現しなかった子は、口減らしで始末されていた」
「え…!?」
ラージェの口から突然出てきた物騒な単語に、フェリアは思わず言葉を詰まらせる。そして何てこと無さそうに語るラージェに詰め寄る。
「…だって、親は!?僕らにだって親が居たんだろう!?」
「居たけど…あそこじゃそれが当たり前で。それで異能を発現できていなかったアタシ達は処分寸前まで行ったんだよね。異能の強さは遺伝するってあいつらは信じていたから、能無しのアタシ達には生きる価値も無いってさー!」
「そんな…」
悲痛な表情を浮かべるフェリアの肩を、ラージェが抱き寄せる。
「でもアタシ達は生きている。姉様が異能『アストラル』を発現してくれたからね!」
「僕の…異能…?」
「そうそう、それでアタシ達は3人で逃げだした。ちなみにその道中でマリィルも異能『ムーンフォース』を発現した。まあアタシは結局駄目だったけれど…」
「僕達の異能は、その時に…」
「そうしてアタシ達はレーヴェットの騎士に見つかって、ワルハラン特区に送り込まれた。シュレンディアの監視下にはなっちゃったけど、それでもアタシ達は生きている」
そう語るラージェの眼には、フェリアに対する絶対的な信頼が見て取れた。彼女とマリィルがフェリアを異様に慕う理由が、ようやく“漣次郎”にもわかった。
ちょっとしんみりした雰囲気になってしまったので、フェリアが逆に質問をする。
「前ラージェが言っていた“半魔族を開放する”っていう夢…あれにはレーヴェットの半魔族も含まれているの?」
「え?そんな訳無いじゃん!!」
フェリアの問いに、ラージェが怒りっぽく反論した。
「あいつらは人間と殺り合おうっていうヤベー連中だよ!?アタシ達の親だって居るわけだけどさ…あんな連中もう知らね!それにアタシ達はあいつらに始末される所だったんだぞー?!」
「そっか、そうだよね…」
そうしてご機嫌斜めになったラージェが、フェリアの私室を後にしようとする。しかしまだもう1つの話を聞けていないフェリアは、慌てて彼女の背中に声を掛ける。
「ちょ、ちょっとラージェ!もう1つの話は!?」
「あ、そうだった」
一通り話し終わったつもりになっていたらしいラージェがくるりと向き直り、今度は壁にもたれかかって話し出す。
「こっちは大した話じゃないから安心してね。記憶喪失になる前…姉様はたまに『月の民』とか言う連中に絡まれてたんだって」
「『月の民』…!?それってモードン公も言っていたアレ?」
ラージェが語るその単語、フェリアは今まで何度か聞いていた。確か先日のココロンの説明によれば…それは聖者に反発した一部のシュレンディア人だというが…。
「…なんでそんな異教徒が、僕に?」
「さあ?」
「“さあ?”って…」
いつも通り適当な感じに戻ってしまったラージェに呆れるフェリア。
しかしラージェは気にも留めない。
「だってアタシは姉様がそう言ったのを聞いただけだし、アタシもマリィもその現場を見ちゃいないんだ。まあ昔の姉様はしょっちゅう1人で出かけてたから、アタシ達も姉様の全部を知っている訳じゃ無いしねー」
そうしてラージェは踵を返し、ひらひらと手を振った。
「とにかく姉様、『月の民』なんかに関わっちゃダメだよ?マリィならそいつらの事をもっと知ってるかもしれないけど…なんかヤバい異教徒らしいから、関わったら王様に怒られちゃう!」
「…うん、わかったよ」
「じゃあお休み姉様!」
そうしてラージェは、フェリアの部屋を後にした。
程無くして、フェリアも灯りを落として眠りにつく。
そして翌朝。
フェリアが目を覚ますと、フェリアの私室の机上に何か手紙が置いてあった。フェリアは眠い眼を擦りながら、見覚えの無いそれに手を伸ばす。
(…この感じ、ミューノのかな?)
そしてフェリアはその手紙を開く。
『ネイオレスに与する劇団員氏名と、当日仕掛けてくる策の概要を同封』
堅苦しい文面に、フェリアは顔を綻ばせる。その内容を読む限り…今回のネイオレスの企みは、フェリアにとって脅威となるレベルでは無かった。
(ふーん…流石にネイオレスも、フィズンに伝手が無くなった今じゃこの程度か。それじゃあこの策を叩きつぶした後、あいつの所に挨拶に行ってやろうかな?)
舞台以外の憂いがほぼ無くなったフェリアは、旭日祭を楽しみに待つことにする。
読んで下さった皆様に感謝を。
もうすぐ祭りが始まりそうです。




