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その19 山賊騒動(後)

田舎に私領を持つ貴族の依頼で、山賊退治に来たフェリア。

捜査が難航する中…僅かな情報のみで山賊を異教徒『月の民』と断じるココロンの提案で、フェリア小隊とルゥイ小隊は月が綺麗に見えるという小高い山に登る事になり…。

 黄昏時の山間部に、フェリアは居る。


 フェリアは今日カイン王の特命で、貴族であるモードン公が所有する領地に来ていた。

 カイン王から今回フェリアに与えられた任務は、“モードン公私領に出た山賊退治”だった。これは本来騎士の仕事でも何でもないのだが…フェリアに手柄を挙げさせたいカイン王の意向だった。

 それにフェリア自身も、手柄とあれば望むところだった。




「さあ皆さん、行きましょうか!」

 そして今フェリア小隊は、ルゥイ小隊と共にココロンの先導で山地に入っていく所だった。

 “山賊は『月の民』かも”というモードン公の言葉を信じたココロンはその『月の民』とやらに詳しく、地図を片手に鼻息を荒げる。

「『月の民』の行う月神信仰の儀式は、月の良く見える山で行われるっていう噂があります!そして借りたこの近隣の地図によれば…かつて木材を切り出していたというこの山の山頂がその条件を満たしているんです!」

「なるほど…ココロン君は物知りだね」

「へぇー!じゃあとっととこの山登って山賊ぶっ飛ばそうよ!」

 ココロンのぶっ飛んだ持論に、何故かルゥイとラージェが感心している。


 …が、他の面々はあまり乗り気では無さそうだ。

「…あまり得策とは思えませんわね」

「ちっ…今回ばかりは兎耳に同感だな」

 マリィルとワールが、揃ってぼやいている。

 ルゥイ小隊の面々も乗り気では無さそうだ。

「ま、まあどうせ手掛かりないし…行くだけ行ってみようよ。そんなに大した山じゃないみたいだし、きっとすぐ登頂できるでしょ!」

 そしてフェリアの号令で、2小隊の山登りが始まった。


 もうすぐ、日が沈む。











「見ていて下さいね隊長!きっと上手く行きますから!」


 ランタンを手に山道を往くココロンはウッキウキだ。

 自信満々な新緑の瞳が、ランタンの光を受けて煌く。

「そ、そうだね…何でもいいから手掛かりを見つけよう」

「はいっ!!」

 山頂へのルートが2択あるという事で、フェリア小隊はルゥイ小隊と別れて別々に登山していた。もう日は完全に沈み、辺りを不気味な闇が覆う。

 マリィルはちょっと不安そうだ。

「…獣の気配がするわね」

「マリィさん大丈夫ですって!こっちは騎士ですから獣なんかに負けませんよ!」

「そうじゃなくて、何て言うのかしら…」

 小さい身体をさらに丸めて、マリィルはちょっと震えている…。

 そんなマリィルの肩を、ラージェが抱く。

「ココ…マリィは兎の魔族だからかな、昔から肉食獣が苦手なのさ。分かってあげてよね!」

「…ラージェさんは大丈夫なんですか?」

「さあ?でも今は別に怖くないなぁ。アタシが爬虫類だからかな?」

 なんだかんだ、3人は和気藹々としている。

 そしてその3人を、ちょっと後ろでフェリアとミューノが見守っている。




 まだまだ先は長いようだ。

 そんな中、フェリアは小声でミューノに耳打ちする。

「…調査結果はどうだった?」

 ココロン達には聞こえないように話す。

 ミューノも声を落とす。

「…結果は、フェリア隊長の読み通りでしたよ。あと今晩この山に入る事をモードン公の次男にもお伝えしたので…」

「よしよし、仕込みはばっちりだね」

「ついでに…今日の昼間に見に行った倉庫ですが、今晩あそこで…」

「ほうほう…!」


 ミューノの報告は、フェリアの期待以上だった。


 フェリアも満足気味に頷く。

「凄いねミューノ、ちょっとの時間だったのにそれだけ調べてくるとはね」

「…フェリア隊長もご存じでしょうが、わたしは諜報が得意ですから」

 しかし、報告するミューノの表情は芳しくない。

 長い黒髪に引っ掛かる枝に苛々しながら、彼女は顰め面で吐き捨てる。


「…何故わたしを信じるんですか?今の報告だって信用できないでしょう」


 ジト眼のミューノを見て、フェリアが軽く噴き出す。

「…ふふっ、だってここで嘘を言っても君に得は無いでしょ?」

「そ、それはそうですけどぉ…」

 “フェリアを見張っている”と公言したミューノとしては…全く気に留めないフェリアに対して逆に接しにくいのだろう。しかしフェリアはただ楽しそうだ。

「これでカイン王の期待に応えられそうだ、ありがとねミューノ」

「もう、何なんですかぁ…こっちが調子狂うんですけど?」

 ミューノの顔は、ランタンの光を受けて赤くなる。











「フェリアフェリア、大変だー!!」

 フェリア達が山頂に着くと、既にルゥイ小隊が先に到着していた。

 山頂は切り株だらけのなだらかな場所で、綺麗な半月が照らしている。


 そしてそこには…石積みの謎の祭壇があった。


「ヤバいヤバい!ヤバいですよ隊長!!やっぱり山賊は『月の民』で、ここを拠点にしていたんですよ!近くに証拠が無いか探しましょう!!!」

 目を輝かせるココロンが、祭壇の周囲をぐるぐる回る。

 そして他の面々が、一様に感心している。

「…まさか本当にあるとはな」

「信じられませんわ…」

 そして取り乱すルゥイが、ある物をフェリアに突きつける。

「フェリア、これを見てくれ!ここにギリュー兄貴の白手袋が落ちてた…!」

 白い手袋。

 その隅に“ギリュー”という名が刺繍されている。

「…誰それ?」

 フェリアはその名を知らない。

 ルゥイは焦りながら捲し立てる。

「山賊騒動を捜査していた俺の上の兄貴だよ!まさかギリュー兄貴…山賊とつるんでいたのか!?だとしたら捜査が進んでいなかった理由も納得だ!しかしこれをムッグ兄貴が知ったらどうなるか…」

「…ムッグって誰?」

「俺の下の兄貴!家督を狙ってギリュー兄貴とギスギスしてるんだよ!」

(長兄の私物…期待以上の成果だね)

 フェリアは内心、順調すぎて怖くなる。

 しかし思わぬ証拠に、ルゥイは顔面蒼白だ。これが本当であれば…山賊騒動はモードン家の家督争いに発展してしまうのだから。


 ルゥイとココロンがバタバタする中…ふとラージェが呟く。

「…この石の祭壇、なんか超新しくない?」

「は?」

 ラージェの言葉に反応したワールが、よくよく観察する。

「マジだ、暗くてわかり辛いが…積んで間もないぞこれ」

「だよね?」

 確かにその石積みの祭壇は…良く見れば動かしたばかりだというのが見て取れた。それに気付いたココロンがキョトンとしている…。

「…どういう事ですか?」

「誰かが作ったんだろうね、それも昨日今日あたりに」

 そしてフェリアには、もう確信めいた自信があった。


「僕達が今晩こんな山を捜査している事…実はそれを知っているのって、モードン公の次男ムッグ・モードン氏だけなんだ」


 フェリアの話に、混乱しているルゥイ。

「それは何故だい、フェリア…?」

「ミューノに伝えてもらったんだ、昼過ぎにね」

 そしてフェリアは、最後の証拠を掴みに行く。


「恐らく…この山賊騒動そのものが、ムッグ氏の嘘なのさ。ここで僕達にギリュー氏の私物を見つけさせ、ギリューが山賊とつるんでいる事にする為にいろいろ仕込んだ訳だ。そしてミューノの情報によれば…ムッグ氏は今晩、昼間の倉庫で再度騒動を起こす筈だ」

 そう言い終わると、フェリアは異能で姿を晦ます。











「な、君は…フェリア小隊長!?」

 フェリアは異能で、昼間の倉庫に舞い戻った。

 そこには…青髪の吊り目の男。

 容姿からするに…彼がモードン公の次男だ。

「初めまして、ムッグ・モードンさんですね?僕が今回山賊騒動の捜査に来たフィズン騎士団の小隊長フェリアです。そしてこれはどういう事でしょうかね?」

 作り笑顔のフェリアが、周囲を見回す。


 そこには…闇の中で倉庫を壊そうとする農民達の姿。


 黙り込むムッグ。

「…」

「なるほど…やはり山賊なんて、最初から居なかったんですよね?長兄のギリューさんは居もしない山賊を延々と探していたと。貴方は農民に金を握らせ偽の証言をさせたり、こうして山賊の痕跡を作るための工作をしていたと…」

「…」

「そうして長兄の立場を悪くして、家督争いを有利にしようという訳ですか?」

「…そこまで知られているなら…!」

 ムッグが手を上げると、農民達が農具を構える。

「どうする、と?」

 凄むムッグに、フェリアは飄々と返す。

 そして隕鉄の首飾りを握り、魔法陣を発動する。

「『シャドー・アヴァター』!」


 フェリアは上級黒術で、自身の分身を10体ほど出した。


「な!?」

 焦るムッグに、10人のフェリアが口をそろえて宣告する。

『多勢に無勢とお思いかもしれませんが…僕の異能がある時点で無意味です。まあ僕としては相手をしても構いませんが…諦めた方が良いと思いますよ?お互いの為にね』




 敗北を悟ったムッグは、がっくりと膝を落とす。
















 その夜フェリアは、モードン公に今回の顛末を報告した。


 モードン公の次男ムッグが、山賊騒動をでっち上げていた事を。

 ムッグは…今夜山地を捜索すると言ったフェリア達の先回りをし、盗んだ長兄ギリューの私物と『月の民』の痕跡を仕込み、彼に疑いの目を向けさせようとしたのだ。

 そうしてムッグは今夜再び山賊騒動を起こした上で“山賊がモードン領を去った”と農民に証言させるつもりだったようだ。そうなれば確たる証拠は無くとも…『山賊を取り逃がした』事実と『山賊とつるんでいた』疑惑で、長兄の立場は非常に悪くなっただろう。


 …モードン公の反応からして、彼はこういう結末も予想していたらしい。

 元々モードン家では、モードン公の目に余るくらい長兄ギリューが好き勝手やっていたという。しかし世間体も考えて“後継はギリュー”と言う案も一考していたモードン公にムッグが反発し、今回の騒動に繋がったという。


 モードン公はフェリアとルゥイの小隊に個人的な謝礼を出し、“後は当家の問題である”として騎士団への依頼を取り下げる事となった。そうして“モードン公領の山賊騒動”は、一応の終結となったのだ。






「俺からも謝るよ、今回は迷惑を掛けちゃったねフェリア」

「いいよ別に。僕としては王様に良い結果を報告できるし」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 その夜。

 モードン邸に泊めて貰っているフェリアは、庭でルゥイと会っていた。ルゥイには“実家の下らない騒動に巻き込んだ”という事で謝罪されたが、フェリアとしては別に気にならなかった。

「実は、モードン家はかつての『魔の侵攻』で大きな活躍をした一族…シュレンディアでも結構有名で、王様にだって一目置かれているんだ。だからその家督を奪い合う兄貴達の気持ちは分からないでもないけど、先祖の名誉に泥を塗らないで欲しいよねー」

 三男のルゥイは欲が無いからか、今回の一件を冷静に見ていた。

 フェリアからすれば、彼こそモードン家の跡継ぎに相応しく見える。

「…もうルゥイが継げば?この家」

「ええっ!?そんな面倒な!」

 フェリアの提案をルゥイが思いの外嫌う。

 が、ふと何かを思いついたようだ。

「いや待てよ、俺がモードン公になれば…英雄である君とも釣り合いが取れるかな?そうすれば俺も心置きなく君に求婚できるね!」

「いやいや…」

「じゃあもう親父に言っておこうか。“フェリアが俺の婚約者”だってね!」

「やめて!僕らはそういう仲じゃないだろ!?」

「そうかな?」

「もー!やめてよね!?」

 冗談を言い合うフェリアとルゥイ。

 2人とも…任務が終わった開放感で少し浮かれていた。




 しかしそんな2人の所に、マリィルが走ってくる。

「フェリア様、フェリア様ぁ!!」

「ど、どうしたの?マリィル」

 息を切らしてフェリアに駆け寄ったマリィルは大慌て。

 フェリアもそれを見て、只事ではないと感じる。

「…何かがあったの?」

「それが…!」

 マリィルは息を整えながら、何とか絞り出す。


「ココちゃんが居なくなってしまったんですの!!」











 モードン邸からココロンが姿を消した。


 フェリア達はモードン公に協力を仰ぎ、邸宅の隅々に至るまで捜索したのだが…結局ココロンを発見する事はできなかった。

 計画を邪魔されたムッグの仕業かと思われたが…彼は父であるモードン公に延々と説教されている最中だったらしく、状況的に不可能だった。

 ただ1つの手掛かり。

 それは、モードン邸の使用人が“誰かが外に走り去るのを見た”という目撃談だけ。


 しかし、フェリア達はそれに賭けて邸宅外への捜査に向かった。






 月明かりの下、フェリア小隊は馬車でモードン領を廻る。

「ココどうしたんだろう…。別にいつも通りだったから何かあったとは思えないんだけど…一体どこへ?」

 いなくなったココロンの身を最も案じているのがミューノだった。彼女は目を閉じて様々な可能性を考えては潰し、考えては潰し…ココロンの居場所を予想している。

「ミューノ…何か思い当たる事は無い?」

「…仮にですが、この騒動に『月の民』とか言う連中が本当に噛んでいたとしたら、彼等に詳しいココロンが襲われたとか…?いや、屋敷では走り去るココロンらしき姿が目撃されているみたいだからそれは無いか…」

 ミューノは必死に考えるが…思い当たる節が無いようだ。

 そしてそれは、フェリア達も同じ。

「どうしちゃったんでしょうココちゃん、心配ですわ…」

「落とし物でも探しに行ったとか?いやそれなら言ってから行くよなぁ…」

 ラージェとマリィルも、お手上げとばかりにぼやく。

 …フェリアも正直困り果てている。

(ココロンは“『月の民』の仕業じゃなくて残念です!”と言っていたけど…。それ以上に何かがあったのかなぁ…思い出せ、些細な事でも思い出せ!)

 フェリアは蟀谷に指を当て、彼女の事を思い返す。


『フェリア隊長の下で騎士として仕事ができるなんて、あたし感激です!がんばるのでよろしくお願いしまーす!!』

 彼女は以前から“フェリア”に憧れていたという。


『…2人は本当に仲が良いのねぇ♪』

『えへへ、そうですかー?嬉しいです!』

 そして彼女は、ミューノととても仲良しだ。


(…“フェリア”に憧れる新米騎士で、誰にでも懐いて、特にミューノと仲良し。三英傑の信奉者で、結構衝動的に動いちゃう…。他にも何かあった筈だろ…!)

 フェリアは必死に、ココロンについての情報を自分の中から掘り返す。




 そしてフェリアは遂に、ココロンが一度だけ見せた微妙な表情を思い出す。

『…そうですね、ミューはやっぱり…』

 フェリアが初めて王都に招集された時。

 ココロンがミューノの話題で、突然真顔になった…あの時。

(まさか…!?)

 フェリアにはある1つの可能性と、ココロンの居場所が閃いた。

「ごめん皆、馬車を止めて!僕ちょっと思い当たることがあるからここで待機してて!!」

「え、どうしたのさ姉様??」

「いいから!<アストラル>!」

 そしてフェリアは、一瞬で姿を晦ませる。











「…隊長?何でここが…!?」

「やっと見つけた。心配したよココロン!」

 フェリアがワープした先に、ココロンは居た。


 そこは今日の夕方に、フェリア達が分け入った山頂の祭壇だった。


 その偽物の祭壇の上に腰掛けるココロンが、雲の無い半月の夜空を見上げている。

 彼女の涙が、月光で僅かに光る…。

「あはは、見つかっちゃいました。でも隊長、よくあたしがここに居るって分かりましたね」

 涙を拭い、振り返るココロン。

「ココロン」

 声が硬くなってしまったフェリア。

 ココロンも、フェリアに怒られるのだと身構える。

(…なんて言おう?)

 しかしフェリアは、どう切り出したらいいかを迷っているだけだ。しかし上手い言い回しを思いつくことが出来ず、彼女は思ったままを口に出した。


「ココロン、焦らなくて大丈夫だよ?」


 その言葉に、ココロンが呆けた顔になる。

「へ…?それはどういう…」

「今回の捜査でココロンの提案はたまたま空振りだったけど、それを気にしているんでしょ。そして裏で動いてくれていたミューノが結果を出してしまったから…」

「え!?そこまでバレてます!?」

 驚くココロン。

「うーん、何となくかなぁ?」

 ココロンに真直ぐ見つめられてしまったフェリアは、恥ずかしくなってそっぽを向く。

「ココロンは僕の役に立とうとしてくれているし、実際に“ネイオレス騒動”では君に助けられているよね。だから僕は君にとても感謝しているし、僕の隊に入ってくれて嬉しいと思っているよ。だから結果を出そうと焦る必要は無いんだよ」

「はい…」


「…まあ確かに、ミューノは優秀だけどね」


「…!!」

 ココロンの表情が、強張る。

(良かった、予想が当たっていた)

 表情が変わったココロンを見て、フェリアは胸を撫で下ろす。

 そしてココロンが諦めたように、ぽつりぽつりと語り出した。






「フェリア隊長はあたしの憧れで、あたしの命の恩人なんです」


 フェリアはココロンと並んで祭壇に座り、ココロンの言葉に耳を傾ける。

 夜の灯りの無いこの山頂は、半月の光でも十分に明るい。

 ココロンは…今までにないくらい静かで、落ち着いている…。

「『魔の再来』のあの日、フィズンで親とはぐれて逃げ遅れたあたしは…ゴミ置き場に隠れていました。町には魔族が上陸していて、周囲には騎士の死体…あたしもうダメだって覚悟してたんです」

「そっか、怖い思いをしたんだね」

「でも…隊長が魔族の大将を討ってくれたので、魔族が撤退してあたしは助かりました。隊長が居なかったら…あたしはあの日に死んでいました」

 ココロンの眼差しは…静かだが、力強い。

「だからあたし、本当は“フェリア隊長に恩返し”がしたいんです。何が何でも隊長の側に立って、きっと役に立って見せるって…」

「もう達成してるじゃん。僕は本当に感謝しているよ」

「ですけどぉ…」

 ココロンは顔を伏せる…。


「ミューは…ミューはあたしと違って本当に美人で優しくて優秀で、あたしよりずっと隊長の役に立っているじゃないですか。あたしなんて滅多に役に立たないのに…。あたしはミューを親友だと思っているのでこんなこと考えたくないんですけど…ミューの才能が羨ましくて…!」


「なるほどね…」

 命の恩人への恩返しが思ったより上手く行かず、才能のある親友がそれを自分より上手にやって見せて…。それでココロンは、溜め込んでいたものが溢れてしまったのだろう。

「でも大丈夫、僕はもうココロンを頼りにしているからね。あ、でも勝手にどっか行ったりはしないでね?三英傑が絡むと君、見境が無いから…」

「…あはは、努力しまーす!」

 やっとココロンが、明るい笑顔を見せてくれた。

 フェリアも自然と、口元が緩む。











 ココロンを見つけたフェリアは無事馬車に合流した。

 今はモードン邸に向かってゆっくり帰っている所だった。

「これでようやく一件落着…かな?」

 そしてフェリアは、馬車の中でぐったりしている。

 御者をラージェとマリィルが務め、後部の席にはミューノとココロン。


「ココ、心配したんだから…!」

「ごめんってミュー…」

「ココが見つからなかったら、わたし…!」


 ガチ目にココロンの身を案じていたミューノは、ココロンが帰るなりすぐに飛びつき、こうして今もずっと離れずに居る。どうやらミューノにとって、ココロンの存在はそれだけ大きいらしい。




 ラージェとマリィルもほっとしている。

「とにかく無事で何よりですわ♪」

「探してくれているルゥイ達にも見つかったって教えてあげなきゃね!」

「そうだねぇ…」

 仮にフェリアが飛行魔法を使えば、すぐにルゥイを見つけられるだろう。

 しかし、今のフェリアにはそれが出来ない理由が。

「…とにかく疲れた」


 今日フェリアは、結構な頻度で異能と魔法を使っていた。

 そして先程山頂から降りる際…試しにと思ってココロンを連れて異能『アストラル』を使ったら、なんと2人でワープが出来てしまったのだ。しかしその反動なのか、今フェリアは非常に体が重く、眠い…。


「僕の異能で、別の人と一緒に飛べるとはね…」

 呟くフェリアに、マリィルが申し訳なさそうにしている。

「すみませんフェリア様、大事な事を伝え忘れていましたわ。フェリア様の異能『アストラル』は、フェリア様以外にもう1人だけなら一緒に瞬間移動が出来ますの。でもそれをやるとエーテルの消費が激しいようで…」

「良く分かんないけど、疲れるって訳ね」

 もうフェリアは身体だけでなく、瞼も重い。

 しかしフェリア自身は、結構満足していた。

(ココロンも吹っ切れたみたいだし、僕の異能について新発見もあった…。巻き込んだルゥイには悪いけど、今回の任務も悪くなかったなぁ)




 そしてフェリアの意識は眠気に呑まれ、沈んでいく…。


読んで下さった方に感謝を。

長くなったので前後編に分かれました。

そろそろ獣人のキャラを出せそうな気がします。

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