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その17 賢者の秘術

先日ミューノが“フェリアを見張っている”と公言し、フェリア小隊の空気は微妙な感じになっていた。フェリアはそんな小隊の雰囲気をほぐす為、そして自身が記憶喪失前に習得していたという最高位の魔法を再習得する為、皆で王都へと向かう事にするが…。

 フェリア達は街道の遥か先に、王都を臨む。




 今日フェリア小隊は、王都のカイン王から招待を受けていた。しかしその内容はいつものカイン王の無茶振りでは無く…サルガンのアドバイスを元に、フェリアがカイン王にある“お願い”をした為だった。

 馬車に揺られるフェリアは上機嫌だ。

「うーん楽しみだ。超級術ってどんな物なんだろうね?」

「習得者は口外禁止で公開禁止という噂らしいんですの。だから私やラージェも、フェリア様の超級術については存じ上げませんわ」

「あははは!これでなんかヤバイ効果だったら笑えるね!ねえ姉様、思い出したらこっそりアタシ達にも見せてよ!」

 フェリアの“お願い”。

 それは、記憶喪失以前に習得していたという『超級術』の再習得だった。


 フェリアがマリィルから『超級術』の噂を聞いた少し後。

 フェリアはカイン王にこっそりその件を聞いていたのだ。カイン王の答えは“フェリアは超級術を習得していたし、思い出せないなら早く思い出してほしい”という事だった為、こうして王都の魔法院に向かっているのだった。


 御者をしながら盛り上がるフェリアに、ミューノが冷めた声をかける。

「フェリア隊長は、何で超級術を習得したんですか?」

「え?いや…それは思い出せないなぁ」

「…じゃあ何で今更思い出そうと?」

「だって面白そうじゃん。超級術なんて…なんか凄そうだし!皆に見せられないってのが残念だよ!」

「…つまり純粋に好奇心と?」

「そうだよ」

 ミューノは納得したのかどうかは分からないものの…とりあえず引き下がった。

 そんなミューノに、ココロンがちょっと寂しそうに呟く。

「…ねえミュー、それも報告するの?」

「そうだね。フェリア隊長の動向ではあるから」

「むー…そこはちょっと誤魔化すとかダメー?」

「駄目だよ」

「そんなぁー…」

 膨れっ面になるココロン。

 マリィルもちょっと複雑そうだ。

 …何しろ一昨日、ミューノが“フェリアの動向を見張っている”と公言したばかりなのだ。フェリア小隊は、まだその微妙な空気が残っていた。


 しかし、フェリア当人は全く気にしていなかった。

「強力な異能に、超級術か。これで僕もだいぶ“記憶喪失”以前に戻れたりするかな?」

「あはは、その調子だ姉様!」

 これまた気にしていないラージェも能天気に笑う。

 そんな2人を、ミューノが微妙そうな表情で見ていた。






(何か思っていたのと違う…全部が)

 馬車に揺られながら、ミューノ・パルサレジアは内心複雑な心境だった。


 ミューノはパルサレジア孤児院で、厳しい訓練を受けて育ってきた。

 孤児の中でも特に優秀だったミューノは騎士団学校でも好成績で、そしてその能力をパルサジア公に買われてこの“フェリア監視”の任を仰せつかったのだ。

(シュレンディアの平和の為に尽力せよ…それがパルサレジア公の思想。それは正しいし、半魔族であるフェリア隊長達を見張るこの任務は重要なもの。それはわたしも重々承知)

「ねえミュー、何で難しい顔してるのー?」

「…なんでもないよ」

 ミューノの監視告白以来、やたら距離の近いココロンにちょっと戸惑いながら…ミューノはフェリアを盗み見る。

(特別な異能、魔法の天才、卓越した武勇…そして、隠し切れない向上志向。ワルハラン特区でも異様な人気を誇る要注意人物、それが半魔の騎士フェリア…の筈なんだけどなぁ…?)

 ミューノの視線の先には…超級術が楽しみ過ぎて能天気にはしゃぐフェリア。

(記憶喪失とはいえ、着任前に聞いていたのとまるで別人だ。マリィルさんはわたしを警戒しているけど、むしろそれは当然だし…ラージェさんはもう訳わからないし。それに監視に気付かれるのは予想していたけど、まさかここまで緩いとは)


 フェリアに対して“苛烈な野心家”という印象を持っていたミューノだが、実は小隊に配属以来…想像と異なるフェリアに困惑続きだったのだ。











「ここが…魔法院か」


 シュレンディア王都・魔法院。

 シュレンディア王国の魔法管理機関の最高峰であり、国で唯一“超級術の伝授”を行っていると噂されるこの場所。

 ここがフェリア達の、今日の目的地だ。




「困ったわ…。ココちゃんどこに行っちゃったのかしら…?」

 つい先程。

 魔法院に馬車を置いた矢先、ココロンが馬車を飛び出して1人で行ってしまったのだ。仕方なくフェリア達は、ココロンが向かったらしい方向に進んでいる。

「ココは魔法院が好きなのかなぁ?ねえミュー、何か知ってる?」

 ラージェはキョロキョロと周囲を歩き回りながら見回している。彼女の動作はいちいち大きく、微妙に目立っているラージェをミューノが抑える。

「ちょっとラージェさん目立ち過ぎです。それにココの行き先は分かり切っています」

「え、どこなの?」

「…もうすぐ見えてきますよ、フェリア隊長」

 ミューノの視線の先。

 魔法院の広大な敷地の一角。


 その開けた場所に、石像が建っている。


 石像のすぐ下にココロンは居た。

 うっとりとして、その像を見上げている。

「…ココロン?」

「ひゃ!?」

 すっかり見入っていたココロンは、フェリアに声を掛けられて飛び上がった。そして自分が先行してしまった件をあたふたしながら謝る。

「ご、ごめんなさい!あたしここに来るとどうも…」

「あはは、ココロンは元気だねぇ」

 そしてフェリアも、視線を上げる。

 その石像は…ローブを被った若い魔術師といった風貌だ。

「ねえ、これ誰の像?」

 フェリアの素朴な疑問。

 その問いに、ココロンは急に明るい表情になってピョンピョン跳ねる。

「これは三英傑の1人…賢者ロディエルの像ですよ!」

「賢者…魔法陣を作ったっていう、あの…」


「その通りだ。いやはやこれを忘れているようではいかんぞ」


 突然、石像の反対側から男性が顔を出す。

 フェリアは息が止まる。

 冗談にしても性質が悪かった。

「へ、陛下!?!?」

「ふふふ、其方ならここへ来ると思ったぞ!」

 石像の後ろ、フェリアを待ち構えていたのは…まさかのカイン王だった。











「ふふふ、驚いたようだなフェリア!」

「そりゃ驚きますよぉ…直々にいらっしゃるなんて聞いてませんでしたし」

 フェリアはカイン王と2人で、魔法院の奥に進む。

 魔法院の術師達や警備の騎士達が、驚きと好奇の目を2人に向けてくる。

 その中を…カイン王は堂々と、フェリアは困惑しながら進む。

「しかし何故カイン王が自ら…?」

「儂だって超級術が見てみたいのだ。そもそも超級術は使える者が殆ど居らんし、複数同時となればそれこそ皆無なのだ。儂には魔法の才能は無いからな!」

「そ、そうですか…」

「加えて、超級術の魔法陣の伝導には“王族の立ち合い”が必要というのが…イリューザ王以来の規則なのだ。これは曲げられん」

 カイン王が足を止める。

 フェリアも足を止める。


 そこは、魔法院の最奥に続く扉の前。


 そこに、魔法院の幹部と思われる者が待っていた。

「陛下、わざわざご足労頂き誠にありがとうございます。そしてフェリア…お久しぶりですね。記憶喪失と伺っていますから、覚えてはいないでしょうけれどね」

「こ、こんにちは。お久しぶりです、が正しんでしょうが…」

「いえいえ、構いませんわ」

 にっこりと笑うその方は、妙齢の女性。

「私はジーン・パルサレジア。この魔法院で『鍵番』を務める者の1人です」






「『アーク・ウィング』!」


 魔法院最奥の扉の前、フェリアが魔法を披露している。

 今は上級白術で、微妙な高さに浮遊している。

「ほうほう、素晴らしいぞフェリア!」

「エーテルも安定し高密度…ここまでの使い手は…いやはや」

(なんだろう、微妙に緊張する…!)

 フェリアの魔法に感心するカインとジーン。

 それだけでは無い。

「す、すごい…!『アーク・ウィング』で中空停止とは…!」

「あんな小さな媒体でどうやって安定させているんだ!?」

「や、やっぱり美人だな…」

 近くに居た術師や騎士達も、フェリアの魔法を見物していたのだ。


 超級術の魔法陣を手に入れるための条件は2つある。

 1つは、アルデリアス王家に認められること。

 そしてもう1つは、同系統の上級術を完璧に使いこなす事だ。

 この2つを満たさねば、『鍵番』の許可は得られない。


「ではフェリア、次は上級黒術です」

「はい。じゃあ…『シャドー・アヴァター』!」

 隕鉄の首飾りを握り締め、フェリアが魔法を発動する。

 次の瞬間、フェリアの周囲に…フェリアそっくりの分身が10体現れる。

「10体もですか…この時点で規格外ですが、動かせますか?」

「う、ちょっとやってみますね」

 フェリアは一番遠い分身に意識を集中し、片眼を閉じる。

 そうすると…閉じたフェリアの片目の視界が、分身視点に切り替わる。

『いけますね』

 フェリアは分身で返事をする。

「素晴らしいぞフェリア!あと美形の其方が分身するとなかなか壮観だな!!」

『頑張れば個々で動かせそうですけど…やってみます?』

「いえいえ、十分ですよフェリア。ここまでとは思いませんでした」

 フェリアの魔法を審査していたジーンは満足している。

 そして野次馬を追い払い、最奥の扉に手を掛ける。

「ではお2人とも…参りましょう。この奥に賢者の秘術があります」

「え?でもまだ上級火術が…」

 フェリアは焦る。

 まだ上級火術を見せていないので、これでは超級火術がもらえない。

 しかしジーンはキョトンとして、

「あら、そういえば忘れているんだったわね。まあこれについても再び教えましょうね」


 そして優美な笑みを浮かべながら、彼女は扉を開く。











 魔法院の最奥の部屋は、地下にあった。

 そのさほど広く無い部屋には…丸く巻き取られた大きな布が5枚、厳かに納められていた。


「これらに描かれているのが、賢者の記した超級術の魔法陣です。まずフェリア…貴女は超級術と聞いてどんな力を想像していますか?」

 不意にジーンが問いかけ、フェリアは答えに詰まる。

「え?てっきり大規模で高威力な何かだと思っていましたけど」

 フェリアの想像する超級術。

 それは、強力な突風や火焔といった漠然としたイメージだった。

「いえ、違いますわ」

 ジーンは微笑みながら、布の一枚を広げる。

「超級術とは名ばかりで…これらは賢者の行っていた魔法研究の一途だったと言われているわ。賢者は魔法媒体の可能性を探っていたようで…例えば火術媒体の黒曜石で“火を扱う”以外の力だったり、水術媒体の真珠で“水を扱う”以外の力だったりを探していたそうよ」

「新たな魔法の可能性…という事ですか?」

「そうね。そして貴女が想像したような大規模魔法は“秘伝術”という物よ。これこそ真に秘匿されるべき究極の魔法で…私だって見たことが無いどころか、効力も、在処すら知りません…ねえ陛下?」

「ふふ…」

 笑ってはぐらかすカイン王。

 しかしフェリアの興味は超級術の方だった。

「…ねえ、この布何で5枚なんです?魔法は6属性ですよね?」

「いい質問ね」

 ジーンはもう1枚の布に手を伸ばしながら、困ったように笑う。

「実は…超級火術だけは、三英傑と魔族との戦いの中で失伝してしまったの。同じく秘伝火術も失伝してしまったと言われているわ」

「なるほど」

 その言葉に、フェリアはちょっぴり落胆する。

(黒曜石が希少な上に、極めた所で上級止まり…なんか火術だけ残念だね。つまり6属性の中でもハズレって訳か…そりゃワールも怒るわな)


 フェリアが思案している間に、ジーンが2枚目の布を広げて床に並べる。

「括目なさい。これがかの賢者ロディエルが創造した…魔法媒体の持つ可能性の一端である“超級術”の魔法陣よ」











 フェリアは魔法院の敷地内を彷徨っている。


「参ったなぁ、みんなどこに行ったんだか?」

 先程フェリアは超級術を無事再習得したのだが…カイン王と別れ賢者像の所に戻ってきたは良いが、小隊の皆が居なかったのだ。仕方なくフェリアは、魔法院で聞き込みをしながら4人を探していた。

「さてさて…敷地の隅に“三英傑に関する遺構”があるらしいから、ココロンが暴走してそっちに行ったかなぁ?」

 有名なせいで目立ってしまうフェリアは、魔法院に出入りする人達の注目を浴びながら…人込みを掻き分けてその場所へ向かう。




 魔法院の敷地の端。

 半分森のようになっている、静かな場所。

 フェリアはその森の中の小道を進んでいく。

 そして…暗い森の中心に一箇所だけ、光の入る開けた場所が。


 木漏れ日の中央には…大きな、石碑。


「…やっと見つけた。こんな所に来てたんだね」

 フェリアはようやく、小隊の皆を見つけた。

 フェリアの読み通り、ココロンが皆をここに連れ込んだようだ。

「あ、お帰り姉様!意外と早かったね!」

「フェリア様、無事に超級術を再習得されたようで何よりです♪」

 ラージェとマリィルが、フェリアを迎える。

 ココロンは…石碑に釘付けだ。気付いていない。

 そんなココロンの脇を、ミューノが軽く突く。

「来たよココ」

「ひぇえ!?」

 脇を突かれて飛び上がったココロンは、やっとフェリアに気付く。

「た、隊長!?お帰りなさい!でもいつの間に!?」

「ココロン、時間掛からないから賢者像の所に待機って言ったよね?」

「す、スミマセン!でもどうしてもここに来たくて!」

「…ココロンは仕方が無いねぇ」

 三英傑の事になると歯止めが利かないココロンに呆れつつ…フェリアもその石碑を見上げる。


「これが…“賢者の墓”か」

 魔法院の片隅には、魔法陣の生みの親である賢者が眠っている…。


 賢者の墓石でもあるこの石碑には、かつての『魔の侵攻』について事細かに書き込まれているという。しかし聖者が記したというその文章量は膨大で、とても一朝一夕で読み切れるものでは無かった。なのでフェリアはそれに目を通さない。

「賢者は王都奪還戦で亡くなったんだったね。だから賢者像もここにあると」

「そうですわね♪」

「じゃあ勇者の墓もフィズンのどこかにあるのかな?」

「お、隊長も気になりますか?」

 ココロンの眼に、妖しい輝き。

(…しまった)

 フェリアは嫌な予感を覚える。

「“三英傑の七不思議”と言って、三英傑にはいろいろ謎があるんです!その1つが“勇者アルヴァナの墓の所在”なんですけど、聖者と賢者のお墓はあるのに勇者の墓はどこにあるのかわからないんですよ!それに勇者像だけなんか目立たない場所にあったりするので…実は勇者と聖者の間に確執があったんじゃないのかなぁ?とか言う奴が居るんですよ!信じられないですよね勇者と聖者は固い絆で結ばれて共に魔王と戦ったっていうのに!私が思うに勇者の墓は…」

「ちょ、ちょっと聞いてココロン!」

 凄まじい勢いで語り出したココロンを、フェリアは何とか制する。

 そして次の“用事”を、逃げる口実に使う。


「実は僕…この後お城に行かなきゃならないんだ!宿は前の所を王様が用意してくれたから、皆はそこで待っててね!!」

 そしてフェリアは、ココロンの蘊蓄から体良く逃げ出した。











 王城の中庭。

 美しい春の花が咲き誇る、朗らかな庭園の一角。

 フェリアはカイン王のお茶会にお呼ばれされたのだ。




「さて、超級術はどうだフェリア。迎撃戦で役立ちそうか?」

 カイン王は朗らかな笑みで庭園を眺めている。

 2人が居るここは…“漣次郎”の感覚では東屋のような開放感のある建物だ。フェリアの眼前には庭園の大きな池があり、春風で僅かに波が立つ。

「…王様、あの魔法は戦闘用じゃないですよね…?」

 フェリアはちょっとだけ苦笑い。


 フェリアが再習得した超級術は…とても戦いの役に立つ物では無かった。

 超級黒術『ノイズ・リムーバー』は“周辺に消音の結界を張る魔法”…異能や魔法を封じたり隠密活動するという意味では有用だが、スレイヴ相手では無意味だ。

 超級白術『スター・ウィスパー』は“特定の事象について調べたり占う魔法”で有用そうだが…対象が術者に近い程に結果の信頼性が下がるという本末転倒なものだった。

 いずれにせよ…フェリアはそれらの使い道を思い付かなかった。


「だって…あれはどっちも迎撃戦では使えませんって」

「むう、不服のようだな?」

「いえ、そういう訳ではありませんよ。きっとこれから役立つ時はあるでしょうし…それに迎撃戦は今まで通り全力で行きますので」

「そうか、それは重畳」

 カイン王は微笑み、ティーカップに口を付ける。

 …フェリアは黙っている。

 少しの沈黙。

「…どうしたフェリア、何か言いたげだな」

「ええ、陛下に1つ確認させて頂きたいことが」

「ミューノ・パルサレジアの事か?」

 ニヤリと笑うカイン王。

 その顔に悪意は無く…むしろ子供っぽい感じだ。

 見透かされていたフェリアは、ちょっとムッとする。

「やはりご存じだったのですね」

「無論だ」

 カイン王はティーカップを置く。

「儂の第二王妃がパルサレジアの者でな、パルサレジア家とは親しくやっておるのだ。そしてパルサレジア孤児院はシュレンディアでも指折りの諜報機関…其方を見張るにはこの上ないだろう」

「それは、僕が信用ならないからでしょうか?」

「まさか」

 カイン王が、眼をカッと見開く。


「其方を疎ましく思う者共に見せつける為だ。パルサレジアの監視をものともせずフェリアが活躍する…そんな状況にしたいのだ。パルサレジアの事は、王政や騎士団幹部も皆知っているからのう」


 そしてカイン王が立ち上がる。

 そしてフェリアを誘い、庭園の中を歩き出した。






 広大な庭園をカイン王が歩き、ある場所で足を止めた。

 フェリアも足を止める。

 そこには…奇妙な像。


 勇壮な男性に跪く、巨躯の竜人の像だ。


「これは…三英傑と共に魔族を討ち払った、偉大なるイリューザ王の像だ。魔族征伐の後、勝利を記念して建立されたと言われている」

「…この魔族は?」

「魔王、だと言われているな」

「魔王…」

 フェリアはそれに、じっと見入る。

「儂はこの像を見る度…使命感に駆られるのだ。デルゲオ島の魔族を駆逐せねば、そして半魔族を開放しなければ…とな。その為に其方の力が必要なのだ」

 そしてカイン王が、フェリアに正対する。

 カイン王は…いつに無く真剣だ。

「其方がパルサレジアの監視なぞに屈するようでは、儂の大望は成らんだろう。あ奴らは儂の親族になったとはいえ、シュレンディアの為となれば何でもするからのう」

(試されている…のかな?ミューノとどう向き合うのかを)

 フェリアは答えに迷う。

 それが正しい答えか分からない。

 でも…それは少なくとも“漣次郎”の願いだ。


「僕にとってミューノは大事な仲間です…ネイオレス元団長の一件でも、彼女は僕を助けてくれました。パルサレジアがどうとかは関係無いです、僕はただ…彼女とも信頼関係を作りたいんです。そして彼女や小隊の皆と一丸となって、きっと陛下の夢を実現させて見せましょう!」


 そう言い放ったフェリアの表情は、晴れ晴れとしたものだった。


ここまでお付き合い頂いている皆様に感謝を。

可能な限りほのぼのなお話にしとうございます。

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