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その16 ミューノの秘密

故郷での任務を無事終え、非番の日を過ごすフェリア小隊。

しかしフェリアが兵舎を空けた隙に何やらもめ事が起こり、しかもそれは…先日フェリアが見かけてしまった“怪しげな動きをするミューノ”の一件と関係があるようで…。

 フィズン騎士団基地の団長執務室に、フェリアは居る。




「お疲れ様、フェリア。久しぶりのワルハラン特区はどうだった?」


 執務室の主である騎士団長マシェフは、フェリアの持ってきた各種報告書に目を通している。まだ少年と言える年齢のマシェフに対して執務机が大きいので、仕事をする彼は何だか可愛らしい見た目になっている。

 マシェフは今回の任務でフェリアの記憶が戻る事を期待していたようだが…。

「…今の僕にとっては新鮮な体験でした。騎士を目指す半魔族の子供達はみんな立派でしたし、区長のテンジャ様も半魔族の事をとても考えてくれていて嬉しいです。しかし僕の記憶は…」

「そっか、記憶は戻らなかったか…仕方ないね」

 フェリアの報告に顔を上げたマシェフは、ちょっと残念そうに微笑む。フェリアもフェリアで、マシェフやカイン王の期待に鍛えられない状況を思い悩む。

(…たまに夢でフェリアの記憶を思い出すけど、それ以上思い出す事は無いんだろうな。だから今の“僕”の力で、期待に応えなくちゃ)

「…考え過ぎちゃダメだよフェリア?今の君でも十分すごいんだから」

「え!?あ、すみません…」

 無意識のままにフェリアは難しい顔をしていたらしく、マシェフがそれを察してくれた。フェリアもこれ以上マシェフに気を遣わせるわけにいかないので、いろいろを胸中に収める。




 そしてフェリアは、マシェフに聞きたい事が1つあった。

 聞きにくい事ではあるのだが…いい機会なのでマシェフに聞いてみることにする。

「…あの、マシェフ様。1つ聞きたい事があるのですが」

「ん、何?」

「僕の隊のミューノ・パルサレジアについてなんですが、彼女が育った『パルサレジア孤児院』とはどういった所なのかなぁ…と。本人には聞きにくいので…」

「ああ、パルサレジア孤児院か…」

 眉を寄せながら言葉を選ぶマシェフ。

「貴族のパルサレジア公が運営する孤児院だね。フェリアは覚えてないかもしれないけど…シュレンディアはギゼロ河や嵐による水害が多くてね、災害で親を亡くしてしまう子が居るんだ」

「ああ、ミューノもそう言っていました…」

「だけどね…」

 そこでマシェフはちょっと困ったように肩を竦める。


「王家の長男に当たるビスロ兄様だけれど、お母上がパルサレジア家の人なんだ。そのビスロ兄様は半魔族を嫌っているし、そしてパルサレジア公はいろいろと噂があるからねぇ…」


(半魔族を嫌う王族か…)

 まだ会ったことの無いビスロの人物像を想像する。

 そしてその問題を乗り越え、ミューノとの距離をどう詰めようかを思い悩む。











 フェリアは考え事をしながら、司令塔をのんびり歩く。

 今日フェリア小隊は非番だった。なので今日の報告も不要ではあったが、ミューノの件を聞きたかったフェリアはわざわざ今日を選んだのだが。

(うーん…ストレートに聞くのは良くないよな。それに僕としても、別にミューノがどういう事をしていても良いんだし。フェリア隊として仲良くできれば問題無いから、あえて聞かないようにするのも手かも?)

 考え込むフェリアだが、背後に気配。

 振り返る。


「やあフェリア、今日も美しいね」


 そこに居たのは…フェリアの予想通り、ルゥイだった。

 キメ顔で壁にもたれ掛かっていたルゥイが、フェリアにウィンクをする。

「…ルゥイか、どうしたの?」

「もう、つれないねぇ。まあそこも魅力だけどさ!」

「というかルゥイ、監視塔の駐在任務は?」

「俺の小隊は夜担当さ!だから俺は君の姿を追い求めて基地を彷徨っていたんだよ」

 やっぱり素っ気無いフェリアにショックを受けたように振る舞うルゥイだが…言葉とは裏腹に楽しそうだ。

「でも今日は君が非番なのに逢えたから嬉しいよ!さっき女性兵舎に行ってみたのに君居なかったし」

「…マリィルが怒るよ?マリィルはルゥイの事を警戒しているからね」

「ああ、怒られたよ!彼女は俺を見るといつも怒るからね!…あ、そうだ」

 そこでルゥイは何かを思い出す。


「なんかマリィル君の機嫌がいつも以上に悪かったんだ。それに君の小隊の皆がなんか揉めてたんだよねー」


 ルゥイの思わぬ言葉に、目を丸くするフェリア。

「も、揉めてた!?」

「うん、なんかミューノ君とマリィル君が険悪で…」

「そっか!すぐ戻ろう!ありがとね!」

「え?あ、うん!役に立てて嬉しいよ!」

「<アストラル>!」

 フェリアはルゥイの言葉を聞き終わらず、異能で姿を消す。











 フェリアは異能で兵舎の自室に戻ると、バタバタと階段を下りる。

 何やら一階で、話し声が。

 …和気藹々という感じでは無い。

(ミューノとマリィルか…。まさか『パルサレジア』の件じゃなかろうな)

 嫌な予感がするフェリアは、急いで談話室に飛び込む。




「ミューちゃん、きちんと説明して!フェリア様を陥れようというなら容赦しませんよ!?」

「だから何でも無いですって。これはただの手紙です」

 談話室に、4人は居た。

 何やら手紙のようなものを握ってヒートアップするマリィル。

 問い詰められているようだが、飄々としているミューノ。

「ちょ、マリィ…あんまり大きな声出すなって…」

「みんな平和にしましょうよぉー…」

 そしてそんな2人を心配そうに見守る、ラージェとココロン。

 そして4人の視線は、部屋に入って来たフェリアに集中する。


 フェリアの姿を見るなり、マリィルがフェリアに詰め寄る。

「フェリア様、やっと戻って来て下さったんですね!?これを見て下さいフェリア様…ミューちゃんがこんな手紙を!」

「ま、マリィル…?」

「いいから見て下さい!!」

「はいっ!!」

 マリィルに手紙を押し付けられ、大人しくそれに目を通す。

 内容は難しくも無いので速読する。

「…なにこれ、普通の手紙じゃない?孤児院の皆に宛てた手紙って感じだけど。ていうかこんなの勝手に読んでいいの?」

 ミューノの“手紙”の内容は…孤児院に宛てたらしい、当たり障りのない近況報告だった。問題がある内容には見えなかったが…?

「ただの手紙じゃありません!」

 珍しく怒り顔のミューノが、胸元から手帳を取り出した。


「この手紙…暗号ですの!パルサレジアの諜報員が使うものですわ!」


 それを聞いたミューノは不服そうだ。

「さっきからそう仰っていますけど、証拠はあるんですか?」

「だからそれはフェリア様が…」

 4人の視線は、またフェリアに。

 しかしフェリアには、心当たりなんて当然無い。

「…え?何の事?」

 ポカンとするフェリアを見かねて、ラージェが代弁する。

「えーと、姉様が王様にかわいがられるようになったのは騎士団学校入学前なんだけど…その頃から姉様の周りにパルサレジアって奴が増えたんだよね。ワルハラン特区でも、騎士団学校でも」

「そうなのラージェ?」

「そうさ。で、その頃姉様が単身そいつらに探りを入れて“見張られている”だの“暗号でやり取りしている”だのを見抜いたんだ。その時姉様が集めた暗号をまとめてマリィルに渡してたのさ」

「そっか…」

 それを聞いていたミューノが、静かに呟く。

「…フェリア隊長、わたしを疑っているんですか?」

 ミューノはやはり無感情で、考えが読みにくい。

 しかしフェリアは、ミューノが怪しげな行動をしていたのを知っている…。

(いやはや、ここで切り出すしかないな…)

 そしてフェリアは、腹を括る。






 フェリアは深呼吸して、恐る恐る口に出す。

「実はさ、ちょっと前の夜中に…ミューノがなんか手紙を持って基地の裏手に行くのを見ちゃったんだよね…」

 それを聞いたミューノは眉を顰め、つまらなさそうにぽつりと言う。

「…何だ、見られていたんですね」

「ミュー…?まさかホントに何かやってるの!?」

 ちょっと涙目なココロン。

 フェリア達には無感情なミューノだが…ココロンに対しての罪悪感はあるらしく、ココロンの顔をあまり見ないようにしている。


「わたしの任務はフェリア隊長を見張る事です。それが『パルサレジア』の一員であるわたしの任務ですから」


 そしてミューノが、淡々と秘密を明かす…。

「『パルサレジア孤児院』はパルサレジア公の慈善活動…というのが表向きです。しかしその内情は、パルサレジア公の為の諜報員を育てる機関なんです。だからわたしみたいなパルサレジア孤児院で育った孤児が、いろんな組織に入り込んでいます」

「そういう事だったのか…」

「そしてフェリア隊長は…国王陛下に取り入ろうとしている要注意人物としてパルサレジア公に睨まれています。これも全てはシュレンディアの為なので悪しからず」

「…それ、王政は知ってるの?」

「…恐らく、黙認していると思われます。元々パルサレジア公が格の高い貴族ですから許されるのでしょう。それにその情報はパルサレジアの血縁であるビスロ王子にも伝わっているでしょうから」

 そして“他言無用”と言って、ミューノはその話を締めた。




(…やっぱりか。予想はしていたけどね)

 フェリアは内心、予想通りではあった。

 フェリア自身…以前王都を訪れた時に、自分を疑う者が王政内に居ることを感じてはいたのだ。だからこれは驚く事では無い。

「ああ、やっぱりね」

「…フェリア隊長は気付いていましたか」

「いや、気付いたのはそれこそ“さっきの件”があったからだけどね。でもまぁ…王政内に僕を良く思わない奴が居るとは思っていたし、僕の立場的にも異能的にも…まあ仕方が無いかなあ…って?」

「…わたしを追い出しますか?」

 ミューノの、試すような問い。

 だが、フェリアの答えは最初から決まっている。


「僕としては別にミューノが何していても気にするつもりは無いよ?あ、でも小隊の一員としてはちゃんと協力して欲しいけどね」


「…は?」

 その答えが予想外だったらしいミューノは半眼になる。

「そうだよミュー!ミューが居なくなったらあたしが悲しいの!お願いだからあたしと一緒に頑張ろうよぉ…!」

 隙が出来たミューノに、ココロンがガバッと抱き着く。

「アタシもアタシもー!」

 そして何故か便乗するラージェも抱き着く…。

「ちょ、重っ!?」

 そしてミューノが、音を立てて仰向けに倒れ込む。






 一悶着が済んだ後。

 皆でちゃんと話をする事にした。


「僕としては、ネイオレスの一件で味方をしてくれたミューノに感謝しているよ。それに小隊の一員としてミューノは優秀だし、居てくれた方がとてもありがたいんだ」

 これがフェリアの結論だった。

 “ネイオレス騒動でのミューノの協力”についてはマリィルも理解しているようで、彼女は済まなさそうにミューノに謝る。

「御免なさいねミューちゃん…取り乱してしまって。私もミューちゃんを悪く思っているわけじゃ無いんだけど、その…フェリア様には敵も多いので」

「そうそう!ココも言ってやれ!」

 妙な煽りをするラージェにココロンが乗っかる。

「そうだよミュー!ミューはあたしと違って優秀なんだから、隊長を見張りながらフィズンを守るのだって簡単でしょ!だからお願い、ここに残って!!」

 ミューノを説得する面々。

 自身の“裏切り”を気にも留めないフェリア小隊の一同に、ミューノは呆れながらもなんだかむず痒そうにしている。


「…そう言って頂けるのであれば、引き続きお世話になりますね」


 ちょっと照れ隠しているミューノは何だか可愛い。

「ありがとーミュー!さすがあたしの大親友!!」

「へへ、カワイイじゃんミュー!!」

「い、言っときますけど…わたしはパルサレジアの任務もちゃんと続行しますからね!?それがわたしの任務なんですから!」

「望むところさ!姉様の凄さをパルサレジア公にちゃんと報告してね!!」

「え、ええええ…!?」

 わちゃわちゃしている3人を、微笑ましく見守るフェリア。




 何だかんだあったが、今後もフェリア小隊は何とかなりそうな予感がしていた。











「…ふむ、部下に監視者が居るのか。それは難儀だな」


 その日の夜、フェリアは久々にレーヴェット地方のサルガン宅にお邪魔していた。

 今日の出来事はフェリアにとってそれなりにキツかったので、気分転換と愚痴を言う為だけにやって来たのだ。幸いサルガンも暇をしているようで、こんな感じで時折訪れるフェリアを邪険にするような事は無かった。


「まあ、僕の立場的に仕方が無いんですけどね。どうせ僕は半魔族…お偉方に良く思われないのは重々承知しています」

 ちなみに…最初“レン”と名乗ったフェリアだったが、2回目に来た時には既に正体をサルガンに知られていた。まあこの老人は、それくらいで態度を変えるような人物では無かったのだが。

 ちなみにサルガンは…気を遣ってか、今でもフェリアを“レン”と呼ぶ。

「儂が騎士だった頃もパルサレジアの噂は聞いたぞ。しかし彼奴等は決して悪巧みをするような連中では無い…ただ王家への忠誠が行き過ぎているだけだ」

「え、そうなんですか?てっきり僕が半魔族だから警戒されているのかと」

「ふん、パルサレジアは半魔族よりも…よっぽど王政内に目を光らせているだろうな。レン、今度王都に行くときには注意してみろ。主要機関には大抵パルサレジアの子飼いが居るだろうからな」

「そうですか、注意してみます。でもまあ政争に巻き込まれるのは御免ですけどね」

「お前の立場では…まあ難しいだろうな」

「あははは…」

 暖炉に当たりながら、サルガンは果実酒を呷っている。フェリアも毎回これを勧められるのだが…“漣次郎”が未成年だったこともあって、未だ酒類には抵抗があった。シュレンディアにおけるフェリアは、19歳にして成人なのだというのだが。




 しかしフェリアには今、ちょっとした悩みが。

「そのパルサレジアの娘、今まで通り任務も監視も続けるって言ってくれたんだけど…小隊の雰囲気がビミョーなんですよね。何ていうか、僕と同じ半魔族の娘が、複雑そうー…な感じで悩んでて…」

「成程な」

 ミューノの一件…ラージェもココロンも受け入れてくれた。

 しかしマリィルは…最初にミューノの秘密に気付いてしまった彼女は、ミューノに謝ってはいたものの彼女とどう接していいかを悩んでいた。


『あんなに取り乱して詰ってしまった手前、私どうすればいいか…。それに私、どうしてもミューちゃんを信用しきれませんの…』


 今日の夕方、フェリアにこっそり相談してきたマリィルの事を思い出す。

 フェリアだって、マリィルの気持ちが分からないわけでも無かった。もしかしたら…“転生前のフェリア”だったらミューノに違った対応をしたのかもしれない。

 浮かない顔をするフェリアを一瞥し、サルガンがまた酒を一口。

「…何か理由を付けて、気分転換をしたらどうだ」

「気分転換…とは?」

「王都でもワルハランでもいいから、小隊で遠出をしてみろ。このままフィズンでグズグズしていても変わらんだろう」

「…うん、有りですね。それに王都には用事がありますから」

 フェリアは今カイン王に“とあるお願い”をしていた。その答え次第では、近々王都に出向く必要があったのだ。


 フェリアはその場を利用し、何とか小隊の結束を強めることに決めた。




 意を決したフェリアは席を立つ。

 そしてサルガンに一礼する。

「助言ありがとうございます。じゃあ僕はこれで」

「帰るのか」

「ええ。あまり空けると隊の皆が心配するので」

 フェリアはサルガンの事を誰にも話していないのだ。なので今フェリア小隊の皆は、フェリアがどこに居るのかを知らない。

「ふん、まあ気が向いたらまた顔を見せろ。あと手土産はいらんぞ」

「そうですか、わかりました」

 フェリアはここにお邪魔するたび、いろいろと土産を持ち込んでいた。今日は先日ワルハランの任務の際に買った瓶詰の保存食を持って来ていた。

(じゃあ今度御王都に行った時に何か買っておこう)

 言葉とは裏腹に、次の手土産をもう考え始めるフェリア。


 そしてそのまま、フェリアの姿は一瞬で消え去った。





















「え、お前こんな所で何してんだ漣次郎?」

 夏も終わりの季節。

 菱ノ森逸太は、思わぬ場所で神無月漣次郎に出くわした。




 最近の漣次郎はある程度の一般常識を回復した為、単独で行動することが増えていた。なので逸太は休日に旧友と遊んだりしており、今はその帰りで電車に乗った所だった。

 その電車の座席に何故か…優雅な笑みを浮かべた漣次郎が居たのだ。


 逸太に声を掛けられた漣次郎は、とても驚いた表情だ。

「あれ逸太?君こそ何でこんな所に居るんだい?」

「…高校の同級連中と遊んでたんだよ、文句あるか?」

「ふむ、それでこんな遠くまでか」

「…遠く?ここは俺達の町からそんなに離れてねぇぞ」

 その逸太の言葉に、漣次郎は目を丸くする。

「そんな馬鹿な。逸太…僕を謀っているのかい?」

「んな訳ねーだろ」

「それはおかしいね」

 漣次郎はかなり真剣な表情で考え込む。


「だって僕…かなり長い間この乗物に乗っているんだけど」


 逸太には、その言葉の意味が理解できなかった。

「…なんで?」

「いや逸太…この線路とやらは基本的に同じ道を往復できるんだろう?だから僕…今日はできる限り遠くまで行こうと思って、ずーっとこの電車に乗っているのさ。帰りは往路と同様に戻れば良いだけだろうから、記憶喪失の僕でも迷わないしね」

「いや、そうだけどよぉ…」

「だからこそおかしいんだ、逸太。僕はもう何駅も過ぎてきたというのに、ここが僕達の町からそんなに離れていない所だという君の主張はね」

 自信満々な漣次郎に、逸太は頭を抱える。

 そして…逸太は漣次郎に、事実を告げる。


「あのな漣次郎、この路線は環状だぞ」


 ポカンとする漣次郎。

「環状…?」

「そうだ、同じのに乗っててもグルグル回るだけだぜ?多分お前はかなり大回りをしてきたんだろーが、ここは俺達の家の最寄り駅から2駅しか離れてねーからな」

「そ、そんな馬鹿な!?」

「なあ漣次郎、お前コレにどれぐらい乗ってた?」

「…1時間は経たない筈だ」

「じゃあ良かったな、多分まだ1週はしてないと思うぜ」

「何という事だ…」

 がっくりと肩を落とす漣次郎の隣の席に、逸太が腰を降ろす。

「まあまあ、これからいろいろ思い出していけばいいんじゃね?」

 何故かかなり落ち込んでいる漣次郎を励ましながら、2人は一緒に電車に揺られる。




 外の景色を見ながら、漣次郎が漏らす。

「…危うく同じ場所を永遠に廻り続ける所だったのか。僕はそういうのが嫌いだ」

「大袈裟な…しかも永遠じゃねーし」

 軽口を叩く逸太。

 しかし漣次郎の視線は…いつに無く真剣だ。

「何も変わらない、何も進まない、何も望めない…そういうのは嫌だ。変化を切望しているのに出口が無いというのは、とても残酷な事だとは思わないかい?」

「えぇ…電車1つでそんな話になるかよ?」

「む、確かに大袈裟だったかもしれないね」

 漣次郎が視線を逸太に移す。

 そして、軽く噴き出す。

「…ふふっ」

「何だ失礼な野郎が、人の顔見て噴き出すとはいい度胸だぜ」

「ごめんごめん!」

 いつにも増して不可解な言動の多い漣次郎に呆れながらも、何だかんだ楽しんでいる逸太は…少しだけにやけている。


 そして漣次郎達は目的の駅に着き、電車を出て行った。


読んで下さった方に感謝の念を。

作中の秋季になれば新しい隊員も来そうなので、その為の娘も考えてみたいです。

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