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その15 3人の故郷

フェリアが以前王様から受けた「騎士団学校・女子分校視察」の仕事。

アイラ姫のせいで遂行できなかったその任務の埋め合わせとして、フェリアはワルハランという町への出向を命じられる。そこには半魔族を収容する特区が存在し、つまりそこがフェリア達の故郷なのだが…。

 青い海を、中型の帆船が気持ち良く進む。


 フェリアはその船の縁から、遠くに見えるシュレンディア王国の東海岸を眺めている。フィズンを出港してから海岸には大きな町が無く、たまに小さな漁村がある程度だった。それらはどこも平和なようで、シュレンディアがどういう国なのかが良く分かった。

 ボーっとしていたフェリアの横には、マリィルの姿。彼女はフェリアに寄り添うようにして、眼をじっと閉じている。

「大丈夫?マリィル」

「…心配して下さってありがとうございます。どうにも私、船が苦手で…」

「船酔いでもするの?」

「というか、海が苦手なんですの」

「ああ、なるほどね」

 白い兎耳をぺたりと寝かせ、マリィルは小刻みに震えている。


 フェリア隊は今日、カイン王の命を受けてフィズンを離れていた。そして目指すはワルハラン…フィズンからずっと南方にある、シュレンディア東海岸の港町だった。

 フィズンからワルハランは陸路でも行けるのだが、海路の方が速いらしい。という事でフェリア隊は、騎士団長マシェフの手配した船に乗ってワルハランに向かって船旅をしていた。




 マリィルにくっつかれているフェリアの元に、ミューノが来た。

「隊長、ココが大変です。どこかで船を泊められないでしょうか?」

「あらら、ココロンこそ船酔いか…」

「あの娘あまり船に乗ったことが無いみたいで…わたしは別に大丈夫なんですけれど。マリィルさんも大丈夫です?」

「…あらあら、ありがとねミューちゃん。でも時間からすれば、ワルハランはもう近い筈よ、我慢しましょう」

「そうですか…わかりました」

 そういう事なら諦める、とミューノも納得したようだ。そして彼女は、キョロキョロと周囲を見回す。

「…フェリア隊長、ラージェさんはどこに?」

「ああ、さっき船尾の方で見かけたよ。ワールと一緒に居た」

「ワールさん、ですか…」

 今日の任務でワルハランを目指しているのは、フェリア隊だけでは無かった。マシェフの計らいか、ルゥイ小隊所属の半魔族騎士ワールが、単身フェリア隊と行動を共にしていたのだ。











 今日のフェリアの任務は、ワルハラン特区の訪問だった。


 先日の騎士団学校の一件…カイン王の反応は“全くアイラはお転婆が過ぎる、わっはっは!”だったそうだ。だが一応立場的な物もあるので、埋め合わせという事で今回のワルハラン特区の任務を与えられていた。

 ちなみにマシェフがポロっと零したのだが…カイン王はどうやら、フェリアをシュレンディア各地に行かせようと考えているらしい。そしてそれはフェリアの記憶を取り戻す目的だという。

 …しかし、今のフェリアが“元”に戻ることは恐らく無いのだが。




 昼前にワルハランに着いたフェリア隊とワールは、町の外れにあるという“ワルハラン特区”を目指していた。


「ワルハラン…久しぶりですわね。騎士団学校に入ってから、ここに戻ることは滅多にありませんでしたから♪ここワルハランはシュレンディアでフィズンに次ぐ港町で、他国の方も多く寄港されますの。あとは王都まで延びる大運河もありますので、まさに物流の要衝ですわ♫」

「ふーん…ちなみにフィズンにも他国の人って来てるのかな?」

 記憶の無いフェリアには、人相だけで国籍など判別できる筈も無い。しかしマリィルの言葉通りであれば、フィズンにはあまり他国の者が来ないようだが…。

「…他国の方は、シュレンディア以上に魔族を恐れています。ワルハランという港町があるのに、わざわざデルゲオ島に近いフィズンに寄港する方が少ないんですの。それに、珍しい半魔族を見るためにワルハランに来る他国の方も居ますからね♪」

「…珍しい?」

「ええ。世界にはもうデルゲオ島にしか魔族が居ませんし、それに半魔族はシュレンディアを出国できませんしね」

(…ほう、それは知らなかった)

 そう言いながら、フェリアはマリィルと一緒に歩く。

 船を降りて落ち着いたマリィルは、さっきまでが嘘のように晴れやかな笑顔だ。フェリアの腕に抱き着き、ぴったりくっついて離れない。

「あと…シュレンディア王国は魔法の聖地でもありますからね。賢者の作った魔法陣を学ぶためにこの国へとやって来る方も多いんですわ♪」

「そういうのもあるんだねぇ…」

 そう言いながらフェリアは、街往く人々を観察している。

 この町には…他の町ではありえない程、半魔族の姿が見られるのだ。

「…そして、一応僕達の“故郷”でもあるんだよね」

「ええ、だた正確に言うなら故郷は特区だけですが。このワルハラン市街は人間の町…半魔族の居住区はあの囲まれた石壁の町ですの。ワルハラン市街で職に就く者も居ますが、多くの半魔族は特区で一生を終えますわね」

「…ワルハラン特区ねぇ…」

 マリィルが指差す先、遠くに城壁の様な壁が見える。まるで王都の城壁のようだが、その中にある建物は低いのか、壁の外からでは中が全く分からなかった。

 そしてその姿は…以前フェリアが夢で見たそのままだった。


 そんなフェリアの前方…すぐ前に、ココロンとミューノが居る。船酔いですっかりやられているココロンに、ミューノが肩を貸して歩いている。

「…ミュ~…やっぱり陸地は最高だねぇ…もう船はこりごりだよ」

「ココ大丈夫?そんな調子で任務になる?」

「だ、大丈夫…じゃないかも。でも隊長に良いとこ見せたいし…」

「帰りも船なんだよ?」

「ちょっとぉ…嫌な事に気付かせないでよ…でも頑張るからね…」

「…あまり無理しちゃダメだよ?」

 ココロンは青い顔でミューノにもたれ掛かりながらも、きちんと任務はこなすつもりのようだ。そんな彼女の根性に、フェリは内心称賛を送る…。




 そしてミューノたちのさらに前方。

 ラージェがワールと並んで歩いていた。

 フェリアから見て遠すぎるので、もう2人が何を話しているかは分からない。少なくともラージェはいつも通りだが…ワールも、フェリアと話していた時に比べて数段機嫌が良さそうだった。


 …一緒に行動してはいるが、フェリアはワールの事を全然知らない。

 なので一応マリィルに訊ねてみる。

「…ねえマリィル、ワールってどんな人?僕どうも彼に嫌われているみたいなんだけど…心当たりというか、記憶無いし」

「ワールさん…ですか。正直に申し上げて、私も嫌われてしまっているので良く分かりませんわ」

「でもラージェとは仲が良いんだね、何でだろう?」

「…それは、ちょっと私から申し上げるのは…」

 結局マリィルはその問いに、困ったような笑顔を返すだけだった。






 そうしているうちに、6人はワルハランの外れにあるワルハラン特区に辿り着いた。そこにはフェリアが夢で見た通りの大門があり、フェリア達の到着を待っていたかのようにゆっくりと開いていった。

「ようこそ半魔族の騎士達よ、待っていたわよ」

 そこにいたのは、フェリアよりいくらか年長の…若い男だった。














 特区外門で待ち構えていた男に連れ従って、フェリアはとある建物に来ていた。マリィル達は騎士団を目指す半魔族の子供達の稽古をつけており、今ここには居なかった。

 そして何故か、フェリアの隣には…ワールが。




 フェリアの前を往く男が、背中を向けたままフェリアに話しかける。

「フェリアさぁ…君、記憶喪失なんだってね。ていう事は俺様の事も忘れちゃったのかしら?ホント悲しいわぁー」

 フェリアを先導する男…彼の口調はなかなか特徴的だった。しかし彼のクセの強い茶髪とその顔立ち…フェリアには見覚えがあった。

「ええ、すみません。でも貴方が陛下の親族だという事はわかります」

「あら本当かしら?俺様感激だわ」

(いやはや…なかなか癖のある人だ…)

 男が立ち止まり、優雅な笑みでフェリアに振り返る。彼は十分に美形と言って良い顔立ちなのだが…他のいろいろで台無しだった。


「改めまして…俺様はテンジャ・アルデリアスよ。現国王のカインは俺様のパパだから、一応王子様って事になるわね。数年前からこのワルハラン特区の総督をやっているから、貴女達の小さくて可愛かった頃も知っているわよん」


「へ、へぇー…そうなんですね」

「そうそう、フェリアごめんね。俺様のカワイイ末妹のアイラが迷惑かけてるみたいで。あのコ昔からワガママちゃんなのに、パパがやたら甘やかすのよねぇ…」

「いえいえ、そんな事は…」

 フェリアはというと、キャラの濃いこの王子様に気圧されていた。正直どう接していいか分からず、無難な相槌を打つだけにしていた。

 対してワールは、明らかに不機嫌だった。

「…で、何でオレがここに呼ばれたんですテンジャ様?今回の任務はフェリア小隊だけで事が済んだでしょうに」

 その問いに、待っていましたとばかりにテンジャが頬を染める。


「何言ってるの、俺様の可愛いワールちゃん。貴方に会いたかったからに決まっているじゃなーい。どれだけ貴方を待ち焦がれたか…!」


 その言葉を聞いたワールが、露骨に嫌そうな顔をする…。

「そうっすか…」

「あらあら何そのカワイイ顔!俺様は貴方に会いたくて、わざわざマシェフにそういう指示を出すよう頼んだのよ?せっかくの逢瀬を楽しみましょうよー!」

「イヤです」

「んもー…相変わらず正直なのね、ホント可愛いわー♡」

(ワールも災難だね…)

 そんな気の毒なやり取りを、フェリアは横目で眺めていた…。






 テンジャが案内していたこの建物は、ワルハラン特区の最高機関にあたる“総督府”だった。フェリアとワールはそこの執務室に通され、ひとまず仕事の話を始める。

「まあ一応仕事の話もしましょうね、じゃないと俺様パパに怒られちゃうから。じゃあワール、頼んでいた資料を頂戴?」

「…ここに」

「ありがとね」

 ワールが持っていた荷物の中から紙の束を取り出してそれをテンジャに渡す。フェリアも事前に聞いてはいたが、どうやらそれは王都の騎士団学校に関する物らしい。


 テンジャはワールの資料に、真剣に目を通す。

「ふーん…やっぱり騎士団学校は最近、フィズン基地向けの人材を欲しがっているようね。まあパパはデルゲオ征伐をマジで考えているみたいだし当然ね。であるならワルハラン特区が送り出すのにふさわしい子は…」

「テンジャ様は、半魔族の事を真剣に考えてくれているんですね」

 フェリアは直感的にそう感じ取っていた。

 あのワールが嫌がりながらもこうしてきちんと仕事をこなしているのは“そういう事”なのだと思えたのだ。

「あら、俺様はいつでも半魔族の味方よん?俺様がここの責任者に就いたのは16歳の頃だったけど、今じゃ皆家族みたいに思っているわ」

「いえ、嬉しい限りです。僕達に味方をしてくれるなんて」

 フェリアは既に、アルデリアス王家の面々が好きになっていた。それにこうして賤民である半魔族を王族が助けてくれるという事自体を、純粋に凄いと感じていたのだ。


「まあでも、フェリア達は元々ここ出身じゃないから複雑かしらね?」


(…え!?)

 しかしテンジャの最後のこのセリフで、フェリアの思考は大混乱した。











 フェリアはテンジャへの謁見を終え、ワールと一緒にフェリア小隊の所へ向かっている。フェリアを嫌うワールはツンとしているが、男友達を欲する“漣次郎”としては彼と仲良くなりたかった。

 なので嫌がられながらも、ワールに一生懸命話をする。


「いやー、テンジャ様ってすごい人だね。なんであの人はワールをあんなに気に入っているんだろう?」

「…知らねぇ」

「でも、悪い人じゃないよね。半魔族の事を色々考えてくれているみたいだしね」

「…それは知ってる」

「しかしここの町…やっぱり何も思い出せないや。この故郷に帰ってくれば何か思い出すと思ったんだけどなぁ…刺激が足りないのかなぁ?」

「…」

 やっぱりワールは素っ気無い。

 並んで歩く彼は、一切フェリアの方を見ようとしない。

 しかしマリィルから聞いたい話によると、ワールは以前のフェリアを蛇蝎の如く嫌っていたらしいので、譲歩はしてくれているようだが…。

 ワールと仲良くなりたいフェリアとしては、そこが気になった。

 その理由が分からないと、どうしようも無い。


 なので躊躇いがちに、あえて聞いてみることにする。

「…ねえワール、君は何で僕の事嫌いなの?いや嫌われている僕が聞く事じゃないんだろうけどさぁ…」

「嫌な奴だなお前」

「ごめんって…。でも前の僕がどうだったかはわかんないけど、今の僕はワールと仲良くしたいと思っているんだ…本気だよ?」

「ちっ…あんな高慢だったお前が、こんな下手に出てくるとはな」

 ワールは…やはり複雑そうだ。

 しかしその態度は、マリィルから聞いていたものとは違う気がする。




「オレは才能のある奴が嫌いだ」


 ワールの言葉は簡潔だった。

「才能?」

「…お前や兎耳みたいな連中だよ、便利な異能が使えるヤツは全員ムカつく。何も努力せずに力を手に入れているのが気に入らねぇ。その上お前らは魔法適性まで複数あるなんて…生まれだけでこの差があるのは不公平だよな?」

 ワールは不機嫌そうに、猫背になってフェリアを横目で睨んでいる。

「オレなんて体も小さくて異能もあんなもんだ、それに魔法適性はよりにもよって火術だけ。騎士になるためにオレがどれだけ努力したと思ってやがる」

「…そっか」

「まあラージェは良い、あいつは異能も魔法も無しに騎士になったんだからな」

「…ちなみにワールの異能って?」

「ズケズケ無遠慮に聞きやがって…まあいいか」

 不機嫌そうな態度とは裏腹に、異能を見せてくれるというワール。


 そして突然、ワールは自身の腕に爪を立てた。


 腕から血が流れる。

 絶句するフェリア。

 ワールは自身の傷をつまらなさそうに眺め、ぽつりと呟く。

「…<リペア>」

 その言葉を唱えると、傷口の血が止まる。

 そしてゆっくりと、傷口が消えていく…。

「傷が治る異能?すごくない!?」

「バカにしてんのか、自分の傷しか治せねぇんだぞ?しかも小さい傷なら中級木術で事足りるじゃねーか」

(なるほど…)

 自分の傷を治す異能…確かにぱっとしない、とは言える。確かにこれは騎士としての武器にはなりにくいだろう…。

 しかし上級火術の威力を知るフェリアは、ワールを励ます。

「で、でもさ…火術も極めれば武器になるよ。今からでも修行とかできないのかな?」

「…お前なぁ…」

 失言だった。

 ワールが急に不機嫌になる。


「黒曜石なんて半魔族のオレが持てるもんじゃねぇだろーが!お前はいいよな王サマから貰えたんだから!あんな希少な物が簡単に手に入るんだったらオレもそうしてただろうな!!」


 ワールはそう捲し立てると、フェリアを置いてさっさと行ってしまった。

(や、やっちゃったぁ…)

 その場には、気まずいフェリアが1人残される…。











「そうですか、ワールさんがそんな事を…」




 ワールとの一悶着の後。

 フェリアは小隊の皆の所に来ていた。

 ワルハラン特区には学校もあり、半魔の子供達がそこに通っているという。そしてその中の一部…特に身体能力などが優れた子達が、騎士を目指して訓練などを積んでいるのだ。


 今日フェリア達はここで、その子達に鍛錬をしてあげたり騎士としての心構えを教えたりするのが任務だった。そしてフェリアが不在の間マリィル達がそれをしていたようで、いまは丁度休憩時間だ。

 …そこには、ワールの姿は無い。

「確かにワールさんは昔から、異能と魔法の才能が有ったフェリア様と私を嫌っていらっしゃいますわね…」

「あーあ、ワールを怒らせちゃった…。それに僕、まさか黒曜石が希少な物だとは思わなかったよ…」

 これは“漣次郎”の誤解。


 “漣次郎”の知識で言えば黒曜石はそこまで珍しい物ではなく、むしろ金剛石やら隕鉄やらの方がよっぽど希少だという認識だった。


 マリィルがちょっと申し訳無さそうだ。

「先に言っておけば良かったですわね…魔法媒体には入手性に大きな差がありますの。養殖できる真珠なんて安価ですが、金剛石や隕鉄は高価ですし、黒曜石なんて本当に手に入りませんわ。だから火術適正は“ハズレ”とか言われることも…」

「あらら…そりゃワールも怒るね」

 あとでワールに謝罪をせねば、とフェリアはぼんやりと考える。




 そしてフェリアは、さっきのワールとのやり取りの中で…ある疑問が浮かんでいた。

「…半魔族の異能って、どうやって発現するんだろう?」

 そのフェリアの問いに、マリィルは困ったように首を傾げる。

「そうですわね…私たち自身ですら良く分かっていない、というのが現状でしょう」

「え、解明されてないの!?じゃあ僕の“瞬間移動”って何なのさ?」

「さて…何でしょうかね。しかし1つ言われているのは『強い意志を持つ者が、強い異能を発現する』という事ですの♪」

「…何それ、それじゃラージェやワールが可哀想じゃない?」

「仕方ありませんわ」

 マリィルは相変わらず笑顔だ。

 しかし…そのどこかに影を隠している。

「一般的に異能を発現するのは子供の頃で、何かしらの強い決意や意識によって異能の“原型”ができるんですの。そのままでは上手く扱えないし不安定なんですが、異能に名前を付けることで安定させられますわ」

「名前…」

「ワールさんは小さい頃に、事故で大怪我をされたそうです。きっとその時に異能を発現してしまったんでしょうね、そうなってしまえば他の異能を発現する事はありませんから」

(大怪我をしたから“自己再生の異能”…これはまあ分かる。じゃあ僕の『アストラル』やマリィルの『ムーンフォース』って…?)

 いろいろ考えるフェリアだが、とりあえず思い浮かぶのは…怒ったワールの顔。

「…とにかく、ワールに謝んなきゃ」

 肩を竦めて見せるフェリアを、マリィルが励ます。

「大丈夫ですわフェリア様、ワールさんはすぐ怒りますけどすぐ冷めます。それに今のフェリア様ならそんなに嫌われないと思われますわ」

「そうかなぁ?」

 ぼやきながら、フェリアは皆の様子を伺う。


 マリィルとラージェはぐったりしている。

 特区の元気な子供達の相手をしていたらしい2人はお疲れ気味で、ラージェなんか大の字で地べたに寝そべっている。そんなラージェを、ミューノとココロンが世話をしている。






 そして今日、フェリアを驚かせたもう1つの話。

「あとテンジャ様に言われたんだけど…僕達ってここの出身じゃないの?」

 テンジャは確かにそう言った。

 しかしそれの意味する所が、フェリアには分からなかった。

 そしてその言葉を聞いたマリィルは、


「…!?」


 目を見開いて驚愕する。

「…マリィル?」

「あの、その…確かにそうですわ…」

 目を伏せ、ラージェとフェリアに交互に視線を移すマリィル。

(マリィル…やっぱり言いにくい事なのかな?)

 悪い気もしつつ、フェリアは以前レーヴェット地方に小旅行した時の話を考えていた。老人サルガンの言葉では、あの地に半魔族が隠れ住むというが…?

「もしかして僕達の出身って…レーヴェット?」

「フェリア様、まさか貴女記憶が…!?」

「え?あ、いやごめん…別に思い出したわけじゃ無いんだ」

「そ、そうですか…その、残念ですわ…」

 フェリアの言葉に、マリルは落胆する。

 そしてその表情は、今だに暗い…。

「…ねえマリィル、僕達がまだ小さかった頃の事を覚えてる?できれば教えてほしいな…なんて」

「それは、何と言いますか…私にはどう話したらよいものか…」

 マリィルは思いつめたように俯き、言葉を選んでいる。

「ええそうです、私達3人はこのワルハラン特区に来るまではレーヴェットの僻地に居ました…それは確かに事実です」

 そして思考を巡らせた後、吐き出すようにして言葉を紡ぐ。


「すみませんフェリア様…あの頃の事はその、私にとってあまりいい思い出ではありませんの…御容赦下さい。もし知りたかったらラジィに聞いて下さると助かりますわ」


 それだけ言い残すと、マリィルは足早に去ってしまった。






 残されたフェリアは、もう時間だという事で…ココロン達に手伝ってもらって子供達の相手をする準備を整え始める。そしてその最中、最近の出来事を思い浮かべる。


 夜の兵舎で、思いつめたように佇んでいたラージェ。

 過去の話を思いの外嫌うマリィル。

 そして…記憶も朧げな、自分自身。


(半魔族を開放するっていう“フェリア”の夢…。それを達成する以前に、小隊の皆の抱えている悩みを何とかした方が良い気がする。フェリア小隊として手柄を上げるにはそうするべきだろうな…)

 フェリアは複雑な想いを抱きながら、自分を待つ半魔族の子達の所へと向かって行く。






「わーいわーいフェリア様だー!」

「フェリア様、異能見せてー!」

「ねえフェリア様、どうやったらいい異能を持てるようになるんですかー?」

「フェリア様ってどうしてそんな髪が赤いのー?」

「フェリア様ー!黒曜石を見てみたいですー!」

「あたしの異能を見て下さいフェリア様!」

 その後の小一時間、フェリアは半魔族の子供達にもみくちゃにされて散々な思いをするのであった…。


ここまで読んでくれているあなたに感謝を。

わかめには良く分かりませんが、故郷って言葉の響きは良いですよね。

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