その13 一人旅
急な任務を振って来る王、自由気ままに襲来する王女、そして隙あらば口説いてくる同僚…。
フィズン基地に厄介な相手が増えたため、フェリアは内心疲れていた。
なのでフェリアは心機一転、休暇を利用しての遠出を決行する。
フェリアは夢を見ている。
フェリアが居る場所は、開かれた大きな門の前。
門の両脇は、果てしないほど続く石積の壁だ。
微睡む“漣次郎”は、この場所に見覚えがなかった。
(ここは…どこだろう?)
大門前に立つフェリア。
そしてフェリアの側には、数人の若者が立っている。
中にはラージェ…マリィル…ワールも居る。
(これは一体…?)
そこで夢の中のフェリアが、門の向こうに目を向ける。
『がんばれみんなー!』
『お前たちは半魔族の誇りだ!』
『立派な騎士になるんだぞー!』
門の向こうには、大勢の民衆。
彼等は…全て半魔族だ。
皆が喜びと期待を込めた声援を、フェリア達にかけている。
(これは…フェリア達の故郷だっていう“ワルハラン特区”かな?そしてこの夢は、フェリアがそこを出発した日か)
カイン王の代に始まったという、半魔族を騎士にしようという動き。優秀な半魔族の子供が選ばれて、騎士団学校に進学できるという…。この夢は、選ばれたフェリア達がワルハラン特区を出立する日のものだった。
民衆の声援に応えて手を振るフェリア。
その時、フェリアの袖を誰かが掴む。
『…フェリア…様…』
弱々しく袖を掴んでいたのは…マリィル。彼女は民衆に手を振りながらも、震えながらフェリアに縋っていた。彼女の顔は笑顔だが…それはとても固いものだった。
そんな彼女に、フェリアは小さく声を掛ける。
『マリィル…大丈夫?』
小さく首を振るマリィル。
彼女は振っていた手を降ろす。
『…フェリア様、私は立派な騎士になれるでしょうか?』
『…どうしたのマリィル?君らしくないね』
『ですが…』
『君は立派な騎士にもちろんなれるよ。自分を信じて、マリィル』
励ますように明るい声を掛けるフェリアだが…マリィルは目を伏せる。
『私は、フェリア様の期待を裏切ってしまう事が怖いんですの。フェリア様の力になる…それだけが私の全てですのに…』
その言葉を聞いたフェリアは、マリィルに掴まれた袖を振り払う。
そしてそのまま、驚くマリィルを強く抱きしめた。
『大丈夫!君はすごいし、その事は僕もラージェも…皆も知っているよ!今“ここ”に立っている時点で君は優秀なんだから、それを恥じる道理はどこにもないさ!』
そこでようやく、自然な笑顔を見せるマリィル。
そして子供達は、ワルハラン特区に背を向けて出立していく。
(フェリアは元々自信家だったみたいだけど、マリィルもラージェも…こんな不安を抱え込んでいるのかもしれない。もしそうであれば、フェリアになってしまった“僕”も、2人を支えて行かないと…)
しかし“漣次郎”は、不思議なことに気付く。
(あれ…今ワールに似た女の人が居たな…たぶんワールの親族、恐らく母親だろう。でも…フェリアやマリィル、ラージェの身内と思えるような人は…1人も居なかった。見送りにも来ないなんて…)
小さな疑問を抱きながら、“漣次郎”の意識は沈んでいく…。
フィズンの町を、さわやかな新緑が満たしている。
フィズンの町では花の盛りが過ぎ、今は街路樹に気持ちの良い黄緑の葉がついている。海風はまだ温かいとは言えないものの、フェリアが記憶喪失になった直後の“迎撃戦”を思えば、気候はかなり温かくなったと言える。
そんな活気に満ちる町の一角。
喫茶店らしき静かな店の窓際の席にフェリアは居た。
今、彼女は1人。
今日は非番。
フェリアはここ数日の、目まぐるしい日々を思い浮かべる。
『おほほほ!御機嫌ようフェリア、今日も妾に付き合いなさい!』
前触れなく現れるアイラ王女に振り回され。
『隊長!非番の日にスミマセン!あたしに稽古をつけて下さい!』
ココロンに隙あらば稽古をせがまれ。
『フェリア…父から書簡が来たんだ、異能で王都に行って欲しい』
カイン王の急な召集で王都にワープし。
とにかく気が休まる暇も無かったのだ。
フェリアはぼーっと、フィズンの町を眺める。
(“フェリア”は忙しすぎる。僕はスローライフ希望なのに、慌ただしすぎるんだよな。それに予定外の事ばっかし起きるし、たまったもんじゃないよ…)
“漣次郎”は、フェリアとしての生活が嫌では無かった。女性に囲まれるのも、王族に可愛がられるのも、非現実的な力を振るうのも。しかし基本のんびり屋な“漣次郎”にとって、今の環境はちょっと心労が大きかった。
だからフェリアは今、ある計画を立てていた。
喫茶店に、フェリアが誘ったルゥイが現れた。
「やあフェリア、君からのお誘いなんて珍しいじゃないか。俺は嬉しすぎて今朝からにやけが止まらなかったんだ。お陰でワールにえらい言われようだったけどね」
「ルゥイ、わざわざ悪いね」
彼はフェリアに惚れている上にそれを全開にして絡んでくる…マリィルが“警戒して”と言った理由はこれだった。フェリアも今は女性とは言え、精神的には男のままであり…彼のアプローチには困っていた。
だが…確かにルゥイもフェリアの心労の一要因ではあったが、関わってみれば彼はどこまでも紳士的だった。鬱陶しい言い回しやボディタッチはアレなものの、アイラとは違いフェリアが嫌がれば止めるし、彼女に迷惑を掛けないよう線引きはしてくれていた。
今考えているフェリアの計画。
フェリア小隊の面々には伏せたかった。
王家に頼るのも気が引けた。
だからフェリアは、ルゥイを選んだのだ。
「くふ、くふふふ…!あのフェリアが、自分から俺を誘ってくれるなんてね…俺は嬉しいよ。今日は俺と君の記念日になるね」
「ルゥイは僕にとって良い友人だからね」
「“友人”かぁー…相変わらずつれないねフェリア!でもそこが魅力的さ!それに以前より俺と喋ってくれるし、こっちとしても不満は無いけどね」
「…前の僕って、今より素っ気無かったの?」
「それはそれは淡白だったさ。社交辞令しか言わないし、いっつも作り笑いでね…僕も毎日ちゃんと触れ合うようにはしていたんだけどなぁー?」
「ああ、そりゃ嫌がられるだろうね」
転生前が男なだけあって、友人として接すればルゥイはフェリアと気が合った。ルゥイには悪いと思っているが、マリィル曰く“記憶喪失前のフェリア様は脈無しでした”との事なので、仕方が無いと割り切っている。
そしてフェリアは、今日の本題を打ち出す。
「ねえルゥイ…これから話す事は、僕と君の秘密にして欲しい。誰にも言わないで、僕の為と思って」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないかフェリア。君がそこまで言って裏切るような男では無いよ、俺は」
「ありがとう。じゃあ教えて…」
そしてフェリアは次の非番の日に、早速その計画を実行する。
晴れた非番のある日。
フェリアは馬車に揺られている。
しかしそれは騎士団の馬車では無い。
フェリアも騎士団の服では無い。それどころか…まるで男のような服装をしている。さらに大きな帽子で髪を隠し、色眼鏡を掛けている。もう一目には、あの騎士フェリアとは思えなかった。
その大型の乗合馬車には、5人程の乗客と御者が2名。
馬車は、広いが閑散とした街道を往く。
道の脇にはギゼロ河。
はるか後方には、シュレンディア王都。
そして馬車の進路…前方には、雪を冠する銀嶺山脈が見える。
今日…フェリアは単身、フィズンを離れ小旅行に出ていたのだ。
「ようやく雪解けだねぇ、やっと山に入れるよ。山菜をしっかりと採って来なくちゃねぇ」
「でも気を付けないと危ないぞ?カシナ村では山に入った若者が雪崩に遭ったってさ。命からがら逃げ帰ったって話だけどね」
「いやいや怖いねぇ、アタシはそんな奥まで入らないけど…若い連中は無茶するからねぇ」
フェリアは黙って、同乗している人達の話を聞いている。
フェリアが今向かっているのは…王都の遥か西。
銀嶺山脈の麓一帯に広がる“レーヴェット地方”だった。レーヴェット地方には大きな町が無く、大小様々な村が散在するという。フェリアには行き先に田舎を選びたい理由があった。
同乗するおばちゃんが、フェリアに声を掛ける。
「ねえお兄ちゃん、あんたは旅人かい?」
「ええ、そんな所です」
フェリはできるだけ低い声で答える。元々声が低い彼女は体形もスレンダーなので、こうしていると男に見えなくも無いのだ。
「珍しいねぇ。レーヴェットに見どころはそんなに無いよ?」
「いえ、だからこそ良いんですよ」
そんな田舎だとルゥイに聞いたからこそ、フェリアはレーヴェットを旅先に選んだのだ。フェリアの顔があまり知られていない、フェリアがただの人としてのんびり旅できる場所を。
今朝。
「旅行に行く…?」
フェリアはマリィルとラージェにそう伝えた。フェリアが隠していたので、マリィルは困惑気味だった。
「そう。夕方には帰るよ」
「一体どこに?」
「ふふふ、秘密」
「そんな、心配ですわ!私もご一緒します!」
「大丈夫大丈夫、何とかなるよ」
記憶喪失のフェリアを案じるマリィルは同行を言い出したが、フェリアはそれをやんわりと断る。それでも食い下がるマリィルを、ラージェが笑い飛ばす。
「あははは、いいじゃんマリィ。昔から姉様は旅好きだしさ、そんな時だってあるってもんよ。でもちゃんと騎士団証を持ってきなよ?」
「わかった、ありがとね」
そして不満気なマリィルを残し、フェリアは王都にワープした。
その後レーヴェット行の乗合馬車を捕まえて今に至る。
馬車が停まる。
豪気な御者が、デカい声でフェリアに声を掛ける。
「おい兄ちゃん、カシナ村に着いたぜ!」
「ああ、どうもありがとう」
フェリアは運賃を彼に渡し、まだ見ぬ地に足を踏み入れる。
ルゥイの勧めでフェリアが選んだここは…レーヴェット地方のカシナ村というらしい。
この田舎でも比較的大きいという村で、今フェリアが居る村の外れからも、神殿らしい建物が見えている。そして田舎ながらに旅人が比較的多めという事で、村人もそういうのに慣れているという。なのでフェリアが気軽に小旅行する先にはいろいろと良いと思ったのだ。
「うーん、まず空気が良いね。あとカシナ村はなんか有名な郷土料理があるとかルゥイも言ってたし、まずは村の人に聞いてみようかなー」
そしてフェリアは、今居る村の外れの細道から村中心を目指す。
フィズンよりだいぶ標高の高いここは、やはり少し肌寒い。しかし周囲の森は新緑が美しく、フェリアはさわやかな気分になる。鼻歌を歌いながら、しがらみから解き放たれた開放感で足取りも早くなる。
(フェリアの夢も、ミューノの秘密も…まだ謎のままだけど。でも今日はそういうのは良いや、のんびりしよう)
そんなフェリアの前方から、老齢の男性が1人歩いてくる。
(あ、丁度良い。あの人に聞こう)
フェリアは歩を早め、その老人に歩み寄る。
「あの、すみません。貴方はカシナ村の人ですか?」
「む…?」
その老人は、問いになかなか答えてくれなかった。
ただ黙って、フェリアの顔をじっと見ている。
そのまま、数秒の沈黙。
「あ、あのー…?」
「お前さん半魔だろう」
老人の言葉は鋭かった。
「えっ?」
「お前さん、カシナ村には行かん方が良いぞ」
「ええっ!?」
「儂に着いてこい」
「えええっ!?!?!?」
そしてその老人は、有無を言わせぬ様子でカシナ村に背を向け…何故か山間部の方に向かっている。フェリアも迷うが…仕方なくその老人に付いて行くことにする。
老人に付き従って、フェリアは10分ほど山登りをした。
そして辿り着いた所には、なかなか大きいログハウスがあった。他に建物は見当たらず、家の周囲には結構な面積の畑が広がっていた。
そして老人に言われるがまま、フェリアはその家のお邪魔する…。
「その色眼鏡を取ってみろ」
家に案内するなり、老人はぶっきらぼうに言い放つ。
(僕、眼以外はまるっきり人間なんだけどね。よく半魔族だと気が付いたな、このおじいさんは)
フェリアもばれている以上、隠す必要も無いだろうと眼鏡を外す。
老人はフェリアの眼を覗きこみ、質問を続ける。
「お前さんはこの辺りの者では無いだろう」
「ま、まあそうですね」
(しかし困った、話が見えない)
状況が呑み込めないフェリアをよそに、老人は淡々と話を進める。
「どこから来た、南か北か?」
「北です、一応」
(フィズンは大陸北端だから、合ってるよね?)
「何故ここに来た、迷ったのか?」
「いや迷ったわけではないんですが…」
「興味本位か?確かにカイン王の代になって半魔狩りはほぼ居らんようになったが…それでも半魔を見つけた者には報奨金が出る。である以上、気軽に人里に近付いてはいかんぞ」
「は…はぁ…?」
「ここからさらに山奥に、カシナ村の連中がもう使っていない山道がある。それを辿れば人目に付かず、北方にも帰ることが出来るだろう」
(何の話なんだ…?)
そしてフェリアは、うっかり忘れていたものを思い出す。
(あ、そうだ騎士団証)
フェリアは荷物の中から、自分が騎士だと示すそれを取り出した。
「悪かったな、儂の勘違いだったようだ」
老人はサルガン・ユドと名乗った。
フェリアが騎士団証を見せると、サルガンは苦い表情で謝って来た。しかしなお、フェリアにはこの状況が理解できていなかった。
「あの、よろしければ…詳しいお話を聞いても良いですか?」
「…お前さんがはぐれ者の半魔だと思った。それだけだ」
「はぐれ者…?」
話が見えてこないフェリアを見て、サルガンは髪との境目が分からない真っ白な顎髭を撫でながら、何かを思案している。
「言いふらすなよ」
「え?あ、もちろんです」
「…レーヴェットには、半魔が隠れ住んでいる」
「…は?」
「“魔の侵攻”の時に産まれた半魔の末裔が、山奥に潜んでいる。シュレンディアに見つかったら迫害されると信じてな」
サルガンの話によれば…かつて“魔の侵攻”の時に産まれた半魔族の一部がワルハラン特区に収容されず、レーヴェットの銀嶺山脈に隠れ住んでいるのだという。彼等はシュレンディアに見つからないように密かに暮らしているとサルガンは語った。
そしてサルガンは、そんな半魔族の存在を知りながら彼等の味方をしているという。なのでフェリアを“集落からはぐれた半魔族”と勘違いして保護しようとしたというのだ。
「レーヴェットの半魔族…王政には知られていないんですか?」
「いや…大規模な調査こそ無いが、薄々感付いてはいるだろう。そしてそういう者を見つけたら、確保してワルハラン特区に収容している…その為にレーヴェット騎士団が居るのだ。まあ数年前に半魔の子供が数人見つかって以来、そういう表立った話は聞かんがな」
「なるほど…でも僕みたいにふらりと現れる半魔族は偶にいるんですよね?」
「ああ…何しろレーヴェット騎士団の本部は銀嶺山に近い山脈南部で、この辺りには滅多に騎士なんぞ来んからな。だからこの辺りでは警戒心の薄い半魔の若いのが、年1回は姿を見せるんだ」
「ほうほう…」
フェリアは出されたお茶を啜りながら頷く。そしてこのシュレンディアという国において、半魔族に関する問題が意外と複雑なのだと理解した。
サルガンはフェリアを睨みつけながら、念を押すように繰り返す。
「いいか、くれぐれも言いふらすなよ?隠棲する彼等は、貧しいながらも穏やかに暮らしているらしいからな。そこにシュレンディアが踏み込むべきでないと儂は考えている」
「そうですね、僕も同感です」
ぶっきらぼうながら半魔族に好意的なサルガン。フェリア…いや“漣次郎”は、彼に亡き祖父の面影を重ねていた。
「もうちょっとだけお邪魔してても良いですか?」
フェリアの話に納得し、カシナ村の案内をすると言ってくれたサルガンに…フェリアはちょっとだけ我儘を言ってみる。
「…何も無いぞ、ここには」
「だからいいんです」
「…そうか、勝手にしろ」
言葉とは裏腹に敵意はないサルガン。安心したフェリアは室内だからと、うっかり帽子も取ってしまう。
「あ」
「む?」
フェリアの特徴的な紅髪を、サルガンに見られてしまった。
「…」
緊張するフェリア。
髪を凝視するサルガン。
そしてぽつりと一言。
「…派手な髪色だな、まさか染めているわけではあるまいな?というかお前さん…女だったのか」
その言葉に、フェリアは内心小躍りする。
(やった!多分この人“フェリア”を知らないぞ!)
ただのフェリアとしていられる、ちょっとした隠れ家。
祖父の家を思わせるこの場所を、フェリアは既にかなり気に入ってしまっていた。
「そういえばお前さん、まだ名を聞いていなかったな」
「…レンです」
フェリアとは名乗らず、“漣次郎”が転生前に良く呼ばれていたあだ名を返す。
「レンか。お前さんは騎士だと言ったが、どこの騎士団だ。レーヴェットか?王都か?まさかフィズンやパマヤではあるまい」
「…王都の騎士です。今日は非番を利用してのお出かけですね」
流石にフィズンの騎士とは言えない。半魔族でフィズンの騎士となれば、流石に噂くらいは知られている可能性があった。
「ちなみにサルガンさんはずっとここに住んでいるんですか?」
「何だお前さん、こんな爺の話を聞いてどうする」
「ちょっと興味が湧きまして。同じ半魔族に親身になってくれている方の事をもうちょっと知りたいと」
「…儂は移住者だ。10年程前にここに来るまではフィズンに居た。退役したからここに隠居しただけで、この地の出身では無い」
「退役…まさか元騎士ですか!?」
「…まあな、大したものじゃないが」
「いやそれであれば僕にとっては偉大な先達です。騎士の先輩としていろいろ教えて下さいよ!」
「他所を当たれ、騎士でも王都とフィズンじゃ別物だ」
「え、そんなもんなんですか?」
「当り前だ。お前も王都の騎士ならわかるだろう、連中はとんだ腑抜けの集まりだ。儂は基本的に王都の騎士が嫌いだ…連中の頭の中には、選ばれし憲兵隊へ出世する事しか無いからな」
「あらら、じゃあ僕も嫌われちゃいます?」
「…いや、儂は半魔が嫌いでは無い」
「そっか、安心しました」
サルガンも面倒そうに振る舞うが、意外と悪くないと思っていそうだった。そしてフェリアは、この老人とすっかり意気投合してしまった。
夕方のフィズン基地、フェリアの自室。
夕日が差すその部屋に、突然フェリアが現れる。
「うん、いい感じにリフレッシュできた!」
フェリア的には、今日はなかなかいい日だった。
あの後すっかりサルガンに懐いてしまったフェリアは、お昼をご馳走になったり畑仕事を手伝ったりしていたのだ。折角勧めてくれたルゥイには悪いが、フェリアは結局カシナ村に足を踏み入れず仕舞だった。
そして、去り際のフェリアの一言。
『サルガンさん、またお邪魔しても良いですか?』
サルガンの返事は“勝手にしろ”だった。
そのやり取りを思い浮かべ、にやけるフェリアはベッドに倒れ込む。
(ああいうのは良いね、王女様やら王様やらに振り回される身としては…ああいう何気無い感じは有難いよ。英雄でも無いただの人として居られる場所…僕はそれを望んでいたんだから)
そしてフェリアは自室を出て、帰りを待つ皆の元に向かう。
読んで下さっている皆さんに感謝を。
いつかフェリアと漣次郎が出会えるといいなって思っています。