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その12 漸くの平穏な日

記憶喪失、騎士団長の因縁、王様の特務…。

フェリア小隊は結成以来、まともな任務を行えていなかった。

今日はようやくの普通な日。フェリアは皆と共に初の巡回任務に繰り出す。

 早朝の騎士団基地の練兵場。

 その一角に、マントを羽織った騎士が数人集まっている。

 その中の一人…フェリアの姿もあった。


「春季前節での我々中隊の任務は市中警邏だ。担当は…フェリア小隊は西区、シイモウ小隊は西南区、マルネオ小隊は東南区、ルゥイ小隊は東区だ。非番はこの表を確信しろ」

 青マントの中隊長が、それぞれ紙を渡す。

「了解です」

 フェリアを含む4人の小隊長がそれを受け取る。

「ただし…フェリア小隊については、騎士団長及び国王陛下から特務が下ることもある。故にその場合には随時対応することになるのでそのつもりで」

 それだけ言うと、中隊長はマントを翻し去っていく。




 朝のミーティングみたいなのを済ませたフェリアは兵舎に向かっている。

 …のだが、何故かそれに昨日の騎士…小隊長ルゥイが付いて来ていた。そして昨日と変わらず、クサい台詞でフェリアを口説いている…。


「ふっふっふ…君と同じ中隊に配属とはね。俺は運命を感じずにはいられないよ。君もそう思うだろうフェリア?」

「いや…別に?」

「つれないねフェリア…氷のようだ。フィズンはもう花が春風にそよぐ季節だというのに、君の心はまだ冬のままかい?」

(やれやれ…)

 別にフェリアは、彼が嫌いじゃない。

 むしろフェリアになった“漣次郎”としては…貴重な“男の友人”になってくれそうなので、ルゥイにそういう関係を望んでいた。

「…いや何もそこまで言わなくても。仲良くしないわけじゃ無いし、むしろ友達になって欲しいと思ってるんだけど」

 フェリアの何気無い台詞に、ルゥイが息を呑んだ。


「な、そ、そこまで関係を進めたいと思っているんだねフェリア!?俺は感激だよ…是非友人となろうではないか!むしろ君がそこまで心を開いてくれたのが夢のようだよ!!遂に君の心に春風が巻き起こったんだねぇ!!」

 そして彼は、奇声を上げながら走り去っていった…。




 フェリアは独り残される。

(いや、まずかったか今の?何か勘違いされてないといいけど…)

 しかしそんな考えを、フェリアは振り払う。

(いいや、とにかく今日は僕等にとって重要な…初の“通常任務”だ。よし気合いを入れて行こう!)

 今まで妙な騒動や王家に振り回されていたフェリア小隊。

 そして今日はそんなフェリア小隊の、初めての通常任務。

 フェリアは気合を入れて、女性兵舎に急ぐ。











 フェリア小隊の、初の通常任務。


 フェリア達は騎士団の馬車に乗り、フィズンの町の西方を廻っていた。

 フィズンは漁師と商人の町だ。町の北海岸いっぱいが港になっていて、漁師が水揚げした海産物が朝市に並んでいる。他にも商船の往来があり、稀に他国の商船も出入りしている…とマリィルは言っていた。

 西区は漁師の縄張りらしく…フェリア達が廻るこの場所からも、遠目に朝市の様子が見て取れる。活気があり過ぎるくらいの港町の朝を、フェリアは興味深く眺めていた。




 ゆっくり進む馬車の中、フェリアが呟く。

「…凄いね、活気があり過ぎる。フィズンっていつもこんな感じなの?」

「ええ、ここは漁港としてもシュレンディア最大ですからね。そして多くの海産物が瓶詰や干物として加工され、王都にも送られています」

「へー。他国との交易ともあるのかな?」

「そうですわね…シュレンディアは魔法媒体である隕鉄や金剛石、あとは金銀などの保有量が多いので、そういうのを輸出もしているようですわね。ですが、地理等の都合でフィズンに外国船が来ることは少ないですの」

「ふーん?」

 今日はマリィルが御者をしている。その横にフェリアが座り、後部にはココロンとミューノだ。そして馬車の中では…ラージェが行儀悪く寝そべっている。

 …そんなラージェが、一言。

「ヒマだね、相変わらず」

「…そうだね」

 これはラージェの言う通り。


 フィズンの町は、そもそも治安が良すぎるのだ。


 “漣次郎”がフェリアに転生してから数日間。

 この町で起きた事件らしい事件と言えば、魔王のスレイヴに対する“迎撃戦”と、前騎士団長ネイオレスが起こした自作自演の騒動だけだ。そしてそれ以外に…フィズンで大きな事件は起きていないのだ。

 だからフィズン騎士団は、基本ヒマなのだ。




 あまりにヒマすぎるのか、ラージェがフェリアの背中をツンツンしてくる。

「姉様ヒマー」

「ちょ、やめてラージェ」

「そんな事言ったってヒマなもんはヒマさ!」

「…ラジィ、だからと言って気を緩めてはいけませんの。何かあった時に即座に対応しフィズンの平和を守る…それがフィズン騎士団の使命です♪」

「むー、わかったよマリィ…」

 マリィルに諭され、ラージェも居住まいを正した。

 だがフェリアも、これについてはラージェに同意したかった。フェリア自身もこの平和ボケした騎士団について若干の不安を感じてはいたのだ。

「僕も思ってたんだけどさ、いくらヒマだからって騎士団がこんなんで大丈夫なのかなぁ?シュレンディアには敵国が無いらしいけど、隣国が突然攻め入ってくる…とかさ」

 そのフェリアの言葉に、マリィルがポカンとする。


「…隣国なんてありませんわよ?」


 その答えが意外だったフェリアも驚く。

「あれ、そうなの?だってシュレンディアって大陸の端なんだよね?だったら隣国くらいあるんじゃないの?」

「へへへ、あるけど無いようなもんさ!」

 驚くフェリアの背中を、ニヤニヤしたラージェが指で連打してくる…。

 そんなラージェに半ば呆れながら、マリィルが続ける。

「…シュレンディア王国は確かに大陸の端っこなので、陸続きの隣国が一応あります。しかしシュレンディアの南には…シュレンディア国土より広大な『死の砂漠』があるんですわ。そのせいで陸路はあって無いようなものですの♪」

「え、そうなんだ」

「あそこは非常に厳しい土地…シュレンディアの南端である宗教都市パマヤが人の住める限界なんですわ。なのでシュレンディアと他国の交流は全て海路になります」

「なるほど、難しいねぇ…」

 ここはいわば、広大な“陸の孤島”。

 フェリアはシュレンディアが平和な理由を、何となく理解した。




 そんなこんなでのんびり馬車で往くフェリア小隊。

 その時…マリィルが何かを思い出したようで、突然フェリアに問い詰める。

「…そういえばフェリア様、ルゥイには十分気を付けていますか?」

「え?ああルゥイね…。悪い人じゃないと思うけど…?」

「悪い人ですわ。なにしろあの男は、フェリア様に言い寄る不逞の輩ですのよ?」

 マリィルがちょっとマジな感じにやや怒る…。

 それで何かを察したらしいラージェが、密かにフェリア達に背を向ける…。

「で、でも一応騎士なんだし…立派なんじゃないの?」

 フェリアの何気無いその言葉に、マリィルが珍しく激昂する。

「…あの男はぁ!フェリア様に近付く為だけに騎士団に入ったのですよ!?ルゥイは地方貴族のボンボンのクセしてフェリア様に一目惚れをしやがりまして、地位を利用して裏から騎士団学校に入学したんですわよ!だからルゥイ小隊はワールさん以外皆モードン公の家臣とかいう小隊なのです!!こんな奴が立派な訳無いですわ!!」


 フェリアに近付く悪い虫が気に入らない…というマリィルは、眼が怖い。

「そ、そっかぁ…。まあ言われてみれば、ルゥイの隊員って騎士というより農家の兄ちゃんみたいな雰囲気ではあるけど…?」

「“みたい”じゃ無くて実際そうなんですわ!あの人の実家は広大な農地を支配するモードン家なのですから!」

 マリィルはちょっと膨れて、フェリアにギュッと寄り添う。

(これは参ったなぁ…。ルゥイとは毎朝顔を合わせるわけで、近付くなって言われてもね。それに僕個人としては、ルゥイと仲良くしたいんだけど)

 ご機嫌斜めなマリィルを窘めながら、フェリアの胃痛の種がまた増える…。











 そんな中…馬車の後部座席の方が、何やら騒がしい。

「フィズンのみなさーん!何かお困り事があれば、我々フィズン騎士団まで!不届き者はあたし達がやっつけますからねー!」

「…ココうるさい」

「あ、そこのお嬢さん!御機嫌よーう!フィズン騎士団をよろしくねー!!」

「ちょっとココってば…!」

 …どうやら、ココロンがハイテンションではしゃいでいるらしい。確かにココロンは騎士団の任務を心待ちにしていたようだから、今日が楽しくて仕方が無いのだろう。

「うふふ、ココちゃんとミューちゃんは仲が良いのね♪」

 楽しそうな2人を見るマリィルは、その様子を笑顔で見守っている。

 確かにこの2人はよく一緒に居るようで、非番の日も2人で買い物などに出ているようだ。快活なココロンはともかく、あまり社交的では無いミューノもココロンを快く思っているらしい。


 そんな2人を観察していたラージェが、ぽつりと一言。

「なんだかココとミューって姉妹みたい」

 その問いに、ココロンが振り返る。

 騎士団の馬車…車内の前方後方左右には窓があり、後部席のココロンがそこからひょっこり顔を覗かせている。一拍遅れて、ミューノも振り返る。

 2人の顔はそんなに似てないが…。

「え、そうかなぁ?僕から見たらそんなに似てないけど」

「似てはいないけど…なんかミューって世話焼きのお姉ちゃんっていうか!で、ココは遊び盛りの妹的な?」

「ちょっとちょっとラジィさん!?」

 妹扱いが不服らしいココロンが抗議するが、ミューノは深く納得している。

「…確かに、ココは明るいけど抜けてるので。男性騎士にしょっちゅう声掛けられて仲良くなっているけど、無防備過ぎて心配です」

「そ、そう!?あたしそんなつもりは…」

 確かにココロンは誰にでも愛想良く懐くので、男性騎士の多くから可愛がられている。しかし明らかにココロンに気のある騎士に対してもそんな感じなので、傍目に見ていると若干危なっかしい時もあるのは確かだ。

 …逆にミューノは、フェリア小隊以外で騎士とつるんでいる姿を見ない。

「妹…妹かぁー、あたしとミューは同い年なのにね。誕生日まで同じだし!」

「そうだね。でもやっぱココは幼い感じするけど」

「え、そうかなぁ?」

「…2人は本当に仲が良いのねぇ♪」

「えへへ、そうですかー?嬉しいです!」

 フェリアも2人を優しい笑顔で見ている。

 そして、ちょっとした疑問が浮かぶ。

(…というか何でこの2人は騎士になったんだろう?)


 どうせヒマな警邏だ。

 折角なので、フェリアは2人に聞いてみる。

「ねえ、ココロンにミューノ。2人は何で騎士になろうと思ったの?」

「あたしですかー?前にも言いましたけど、あたしは勇者アルヴァナとフェリア隊長に憧れて入りました!お2人みたいになるために!もう次の迎撃戦が今から楽しみで仕方ないんですよー!!」

「ああ、そうだったね。じゃあミューノは?」

「…稼ぎが良いので。騎士団は」

(稼ぎ?そういえばどうなんだろう…)

 その辺を良く知らないフェリアは首を傾げる。

 何しろフェリアは記憶喪失以前から、給金管理等々を全部マリィルに任せていたらしい。それに何かと王様が工面してくれていたらしく、フェリアは金銭面がさっぱりだった。

 なので正直に聞いてみる。

「…そうなの?」

「えぇ…その辺も忘れちゃってるんですね」

「だって仕方ないって。ミューも勘弁してあげてよ!」

「…わかりましたよ」

 困り気味のフェリアを、ラージェがカバーしてくれた。


 





 そしてフェリアは、ついでに聞いてみる。

 声のトーンを落とし、マリィルに耳打ちする。

「…ねえマリィル。僕達は何で騎士を目指していたんだっけ?僕達の“夢”が何だったか教えて欲しいな」

「…!?」

 マリィルの表情が、明らかに硬くなる。

(あれ?もしかして聞かれたくないの?)

 目を見開き、固まるマリィル。

 そのマリィルに困惑するフェリア。


 そんな2人の間に、ラージェが割って入った。

「…そりゃアタシ達3人の秘密じゃないか姉様。そのうち3人で改めて話そうよ」

「…そうだね、ラージェ」

 フェリアは一応納得をする。

(『皆を自由にする』…フェリアの夢はこれの筈だ。この国での半魔族の地位を考えると…確かにあまり大っぴらにするべきではないんだろうね…)


 そしてフェリア達は、正午になるまで巡回を続けた。











 フェリア小隊は正午に一度基地へ戻り、昼食を済ませて午後の巡回を再開していた。そして今、フェリア小隊の馬車には6人目が増えていた。


「うふふふ!巡回もなかなか楽しいわ!」


 …その6人目は、王女アイラだった。

 昼に兵舎で待ち構えていたアイラが乱入し、今は馬車の車内でアイラがフェリアの腕に抱き着いている状態だった…。




 フェリア小隊の面々も困惑しつつ、アイラに付き合っている。

 アイラはフェリア隊の面々…特にココロンとミューノに興味津々だ。

「御機嫌よう、妾はアイラよ。じきに貴女達の仲間になるからよろしくね!」

「…よろしくお願いします」

 明らかにアイラを歓迎していないミューノ。

「はいはーい、こちらこそよろしくね王女様!」

 …対照的に、ココロンは凄い楽しそうだ。どうやらアイラと気が合うらしく、既に砕けた口調になってしまっている…。

 マリィルは頭を抱えながら、小声でラージェにぼやいている。

「…全く王女様、我々の立場も考えて欲しいですわ…」

「いいじゃんマリィ。たまにはこういうのもさ」

(たまにっていう頻度じゃないだけどね…)

 フェリアも胃が痛くなりながら、心の中でラージェに突っ込みを入れるのだった…。


 微妙な空気の馬車。

 しかしアイラ姫は…そんなの気にせず警邏任務を楽しんでいた。

 鼻息荒く目を輝かせ、市中の様子を凝視している。

「ねえフェリア、何か事件は無いのかしら?妾も戦いたいわ!」

 今日はちゃんと鎧を身に付けている王女様が、わくわくしながらフェリアに問う。彼女はもう騎士になったつもりのようで、戦いを欲している…。

「いや、無いですよ…フィズンは平和みたいですから」

「じゃあ魔族は?魔族の襲来は来ないのかしら!?」

「…どうでしょうかね?」

 アイラの問いに答えられず、視線でミューノに助けを求める。

 それに気付いたミューノが替わって答えてくれる。

「王女様、今までの記録からするに迎撃戦は季に1回です。次の迎撃戦はだいぶ先になると思われます」

「あら、そうなの?それは残念だわ…」

 暴れる機会が無さそうだと分かると、アイラは溜息を吐く。






 アイラが落ち着いたので、フェリア小隊の面々も安心する。

 そんな姫様はというと、フィズンの平和さに退屈し始めていた。

「あーあ、今日を妾の初陣にしようと思ったのに!それにフェリア…貴女の活躍も見たかったのよー!?」

「え、僕ですか?」

「そーよ!妾も父上も兄上達も、貴女の活躍を心待ちにしているのよ?だけどフィズンは平和過ぎていけないわね!」

(確かにそれはあるなぁ…)

 内心、フェリアはアイラと同意見だった。


 何しろカイン王は“フェリアが手柄を上げればどんどん昇進させる”と言っていたのだ。だからフェリアもその期待に応えたいとは思うのだが、フィズンには手柄のタネがそもそも無いのだ。


「…フェリアも、王都の騎士に転向すればいのに」

「え、そんな無茶苦茶な…」

 あまりの言動に困るフェリアだったが、アイラは自信満々だ。

「そうよフェリア!王都なら今『夢遊病事件』とか『月の民事件』なんかがあるってビスロ兄様が言ってたの!これを解決すればきっと父上も喜ぶわ!」

「いやいや、何ですかその怪しげなのは…?」

「“夜中街を歩いているといつの間にか家に着いている事件”と、“怪しげな新興宗教の犯罪集団の噂”よ。大事にはなっていないけれど、解決したらきっと大手柄よ!」

(胡散臭いなぁ…そんなので手柄になるのかなぁ…?)


 あまりに微妙そうな王都の様子に…フェリアはシュレンディア王国の平和さを痛感したのだった。











「退屈よフェリア、西の山にある“勇者像”を見に行きたいわ」


 アイラ姫の急な思い付きで、今フェリア小隊はフィズン西にある小山に登っている。そこは先日フェリアが事故に遭った山ということで、確かに山のそこかしこが崩れていた。

 今は谷川沿いの山道を登っているが、フェリアが事故に遭ったという場所もその道中にあり、そこには…事故の爪痕がまだ残っていた。


 今日の件…アイラ曰く『爺やが中隊長に伝えているから問題無いわ!』という事らしいが、フェリアは内心穏やかでは無い。なにしろ…つい先日アイラ姫のせいで任務をすっぽかしたばかりだ。こんな連続してはマシェフに合わせる顔が無い。

 という事で、フェリアもアイラに苦言を呈しておく。

「あのですねアイラ、こういうのは予め伝えて下さった方が助かります。マシェフ団長にも迷惑を掛けますし…」

「あら、マシェフ兄様は大丈夫ですわよ?マシェフ兄様は王位継承者なんだから、誰も何も言えないわ!」

「そういう問題じゃありませんって…というか、何でマシェフ団長が王位継承者なんです?確か三男なんですよね?」

 これはフェリアの、前々からの疑問。三男だというマシェフが何故王位継承者なのか、フェリアは知らなかった。

 その問いに、アイラは不思議そうな顔をする。


「え、だってビスロ兄様とテンジャ兄様は…歳は大きいけれどお母様が違うのよ?マシェフ兄様と妾のお母様は第一王妃だから、マシェフ兄様が次の王様になるのは正当だわ」


(うわ、なんか厄介そうだ…)

 アルデリアス王家の厄介そうな事情に、嫌な予感を覚えるフェリア。そしていつか来るであろう後継者問題に巻き込まれる覚悟をしておくことにした。






 馬車は暫く山を登った後、山頂にある広場に着いた。

 そこは多少整備されてはいるようだが…あまり人が近付く場所には見えなかった。後から聞いたところ、それは“勇者像は神聖であるからして無暗に近付くな”という事になっているせいだったのだが。

 その広場には、等身大と思われる石像が1つ。


 細身ながら勇ましい女性の像が、フィズンの町を見守っている。


「わー!見て見てミュー勇者像だよ!?あたし見たかったんだコレ!三英傑の像はそれぞれ亡くなった町に建てられてて、王都の賢者像もパマヤの聖者像も見た事あるけど勇者像は初めてだよ!いやーかっこいいなアルヴァナ様、命懸けで魔族と戦いシュレンディアを護った英雄…!いやアガるねぇ!!」

「ココちょっと、王女様の前だよ…」

 勇者像の周りを凄い勢いでぐるぐる回るココロンだが、王女アイラの御前という事でミューノが止めようと頑張っている…無駄なようだが。

 マリィルとラージェはというと…馬車の側で何か楽しそうに話し込んでいる。


 という事で、相変わらずアイラはフェリアにくっついている。

 彼女は静かに、像に向かって手を組んでいる。

「勇者アルヴァナ…シュレンディアの英雄。三英傑には感謝しろって父上もうるさいの。でも三英傑といっしょに戦ったイリューザ王以来、アルデリアス王家は3人へ感謝し続けているんですの」

(…あれ、王女様って思ったより真面目なのかな?)

 想像より真面目な感じだったアイラに、フェリアは面食らう。しかし王女の眼差しは真剣で、とても冗談を言っているとは思えなかった。

「…どうしたの、フェリア?」

「え?あ、いや…だってアイラ様がそういう事まで考えているとは思わなくて」

「失礼ね…妾は何時でも真剣よ。そして貴女がいつか勇者に並ぶ英雄になることを、父上も妾も望んでいるわ。あと様付けは止めて!」

 まだまだ少女な筈のアイラに、フェリアは貫禄じみたものを感じていた。




 そして何故か急に、アイラがむすっとした表情に変わる。

「…それにしても貴女の隊、きれいな人ばっかりじゃない。貴女にはいつも妾だけを見る義務があるのよ?これじゃ妾が貴女を独り占めしにくいわ!」

「そ、そんな滅茶苦茶な…」

「だって妾はこんなに可愛くて、しかも王女なのよ!?」

 その言葉通りに可愛い王女が、フェリアの眼前で仁王立ちする…。そんな幼い彼女にも、王女という立場故の不満もあるのだろうとフェリアは推測する。

「新隊員の2人…父上とビスロ兄様が1人ずつ選んだとか聞いたけど、やっぱり妾は気に入らないわ!」

「いやいや、騎士団学校を最近卒業した騎士の中では…女性ながらに優秀な人材だって聞いてますよ?」

「それだけじゃないわ!」

 そして王女が、口を滑らす。


「よりにもよって、パルサレジアの回し者なんて…」


 王女は呟くように言った。

 だからこれは、フェリアとアイラにしか聞こえなかった。

 しかしフェリアは、その言葉に…固まる。

「パルサレジア…?」

「あっ…!」

 アイラはハッとなる。

 自分の失言に気付いたらしく、気まずそうにミューノの方をチラチラ見ている…。しかし当のミューノは、ココロンの勇者談義を浴びせられながら半分居眠りをしている。

 それを確認したアイラは、小さく可愛く咳払い。

「…今のは忘れて」

「は、はい…」

(そう言われてもなぁ…)

 一度聞いてしまったのだから、忘れる事なんてできない。




 フェリアは複雑そうに、眠そうにする黒髪の少女に思いを巡らせる…。


読んでくれているどこかの誰かに感謝を。

だいたい1年で完結できればと思っていますが、

こういうのは思った通りに進まないものです。


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