その11 破天荒なお姫様
国王の任務で騎士団学校に向かったフェリアを待ち受けていたのは、フェリアを慕う国王の末娘だった。姫はフェリアの任務なんてお構いなしに、フェリアを伴って騎士団学校を去り…。
フェリアは今、絢爛豪華な馬車に揺られている。
そしてフェリアのやや前方には、フェリア小隊の馬車…。外付けの後部座席にいるラージェが、ニヤニヤしながら寝そべっている…。
今は夕刻。
もうすぐ日が沈む。
そしてこの進路は…王都からフィズンへ向かう街道だった。
(な、何なんだ…この状況は…)
フェリアの困惑も当然だった。
彼女は今、カイン王から聞いていた任務とは全く違う状況に陥っていたからだ。予定ならばフェリアは今頃…騎士団学校の少女達を視察している筈なのに、何故かこんな事になってしまっていた。
この馬車の周囲には、騎士が大勢。
フェリアの乗る馬車は純白の車体に馬も純白、そして馬車の中も全体が可愛らしく飾り付けられており、花や菓子やぬいぐるみなんかが敷き詰められていた。
…そしてフェリアの横には、この状況の元凶。
「ふふん、妾の顔を忘れた罰よ。今日こそは観念してもらうわ!」
燃えるような鮮烈な金髪と、ピンクの大きなリボン。そして大きすぎるくらいの愛らしい眼…。一目可愛いこの少女…王女アイラ・アルデリアスが、騎士団分校に行ったフェリアを捕まえていたのだ。
(ま、参ったなぁ…)
当のフェリアは困惑していた。
今フェリアはアイラと一緒に姫の馬車に乗せられ、彼女に腕に抱き着かれていた。放してくれそうにも無く、かといって振り解くわけにもいかないこの状況…。マリィル達も傍には居らず、フェリアはどうすればいいか分からなかった…。
しかし対照的に、アイラはご機嫌だ。
「まずはフェリア、昇進おめでとう!そして昇進したからには…妾との約束を果たしてもらうわよ!」
「や、約束!?」
当然、今のフェリアには身に覚えが無い。
その態度に、アイラは頬を膨らませる。
「…フェリア、まさか妾との約束を忘れたの?」
「約束、ですか…?」
「そーよ!」
「…そもそも、僕と姫様の関係が思い出せません」
「な、なんですってー!!?」
フェリアの答えに半分悲鳴のような叫び声をあげ、アイラはわざとらしい素振りで口元に手を当てて悲しんでいる…。
「ううう…フェリア、記憶喪失とは聞いていたけれど、貴女まるで別人じゃないの!なんなのその覇気の無さはぁ!妾は悲しい…!」
「す、すみませんって…できれば詳しく教えてください、姫様」
そこで王女様が、むすっとした顔を上げる。
「…アイラって呼んで」
「へ?」
「妾をアイラって呼ぶの!前みたいに!」
「ええっ!?」
王族を呼び捨てにしていたらしいという過去の“フェリア”に驚きながらも、そう言われたからにはとフェリアも腹を括る。
「…分かりました、アイラ…。これで良いですか」
「うふふふふふ、満足よっ!」
一転して、悪い笑顔を覗かせるアイラ。
(あれ、嵌められた?まさか“前は呼び捨てだった”って嘘!?)
今のやり取りで察したフェリアは半ば呆れる。どうやらこの姫様は…フェリアの記憶喪失をいいことに、なし崩しに好き勝手をしてやろうと考えているようだ…。
「改めまして…妾の名はアイラ・アルデリアス、現国王カインは妾の父よ。前の冬で11歳になったばかりだけど、お父様にお願いして騎士団学校に入学したの。貴女と一緒に騎士になる為にね!」
「え、お姫様が騎士!?」
ひとまず満足したらしい姫様が自己紹介してくれたのは良いが、その内容はフェリアを大いに驚かせるものだった。
「何、文句があるのかしら?」
「いや、だって、騎士って戦うんですよ!?」
「それは大丈夫。何故なら妾は強いから!」
(嘘でしょ!?こんな細腕で!?)
自信満々なアイラだが…彼女の出で立ちは、見るからに幼いお姫様だ。剣を振るう腕には見えないし、魔法を使う道具を持っているようにも見えなかった。
「…ちなみに姫様…」
「アイラって呼んで!」
「…アイラ、貴女は魔法を使うんです?」
「魔法なんて嫌!妾は剣でかっこよく戦うのー!」
さほど広く無い馬車の中、足をバタバタさせながら剣を振るうジェスチャーをするアイラ。しかしフェリアは、そんなお転婆姫になんて言えばいいのか困ってしまう。
そんなフェリアの内心を知ってか知らずか、アイラは楽しそうにフェリアと腕組みをし、笑顔を咲かせている…。
「そうそう、さっきも言ったけれど…今日こそ観念しなさい!」
「観念って、何を?」
「妾を貴女の隊に入れなさい!約束通り!!」
「うえっ!?」
まさかとは思っていたが、嫌な予想が的中して困惑するフェリア。
しかし姫様は止まらない。
「そう約束したじゃない!」
「…本当ですか?」
目を逸らすアイラ。
(でまかせか…厄介な)
呆れるフェリアをよそに、アイラは誤魔化すように熱弁を振るう。
「…貴女と初めて出会った時の、妾の胸のときめき!あれこそが運命…貴女は妾の側に居なければならない存在なのよ!!」
「そ、そんな…!きっと王様が黙っていませんよ!?今日だって僕、王様の任務で騎士団分校に行かなきゃいけなかったのに…!」
「お父様もマシェフ兄様もきっと賛成してくれますわ!ビスロ兄様やテンジャ兄様はたぶん反対でしょうけれど、そんなので妾は止まらない!フェリア小隊の新隊員には妾が最もふさわしいわ!」
「いやでもだってアイラ様まだ11歳で、卒業なんて当分先でしょう!?」
「関係ないわ!何故なら妾は姫だから!!あと様付けは駄目ー!」
(無茶苦茶だ…!)
この姫様はどうやら…規則も道理もなぎ倒してフェリア小隊に入るつもりなのだろう…とフェリアは思う。きっと今日騎士団分校での任務を邪魔したのも、フェリアが次の隊員候補を見つけるのを邪魔する為なのだ。
しかしフェリアには、この姫を止める術もない。
(こうなったら…この姫様の兄であるマシェフ団長に賭けるしかない。きっと彼ならこのハチャメチャな姫様を諭してくれるだろう…!)
フェリアは淡い希望を胸に、姫様と一緒に馬車に揺られていた。
一方、フェリア小隊の馬車も…ラージェを除いて皆が困っていた。
なにしろ今日の昼に騎士団学校・女子分校に向かったはずのフェリア小隊は…アイラ姫の命で急遽王都に戻り、残してきたラージェを拾ってフィズンに帰る羽目になっていたのだから。
「へへへ、なんか面白い事になってるねぇ!」
こんな状況を後部座席でのんきに楽しむラージェに、マリィルが苦言を零す。
「…面白くないですわラジィ。私達は王様の任務を遂行せずに、あの王女様のお供をしているのですよ?これが王様に知れたらどうなるか…」
「“全くアイラは困った娘だ!わっはっは”…どーせ王様はこう言うと思うよ?あの姫様が姉様に無茶振りするときはいつもそうだったしさ」
「ですが…」
しかしこれはラージェの言う通り…。
カイン王は末娘のアイラを溺愛していることで有名だった。
「…でもマジメな話、ホントにお姫様があたし達の仲間になるんでしょーか?」
素朴なココロンの疑問に、マリィルが首を振って応える。
「いえ、それは大丈夫だと思うわココちゃん。マシェフ様はお若いけれど聡明なお方…きちんと父である王様に意見を言える方ですの。きっと王女様の横紙破りを諫めて下さるわ♪」
「だけど…きっとフィズンには居着く気ですよね?」
黙っていたミューノが、ぼそっと呟く。
確かにミューノの考えは当然で…フェリアに異様な執着を見せるアイラが、例えマシェフに怒られたとしても大人しくフィズンを去るとは考えにくかった。
そこでふと、ココロンがミューノに耳打ちする。
「…ねえミュー、なんか分校の近所に用事があるとか言ってなかったっけ?」
「あったけどもういいよ…。あの王女様のせいで近寄れもしなかったし」
各方面を悩ませるお姫様に、フェリア隊もいろいろ困らされていた…。
しかし暢気なラージェは終始ニヤニヤしている。
「あーあ、姉様これから大変だぞ?フィズン基地にあいつらも来るってさ」
その言葉に、マリィルが眉を顰める。
「…あいつら、とは?」
「ルゥイだよルゥイ。あいつも小隊長としてフィズンに着任するんだって。そしてその小隊にワールも居るって話さ。アタシ今日1人でヒマだったから、王都の騎士団基地にあそびに行ってたんだよね。そこで聞いた」
「ルゥイ…ですか…」
いつになく表情が険しくなるマリィル。
それを見て、ココロンとミューノも少し緊張する。
そして少し黙った後、マリィルが固い声で皆に伝えた。
「ワールはともかく、ルゥイはフェリア様にとって非常に危険な人物です…決して2人きりにはしてはなりません。皆も注意して下さいね」
結局、フェリア達が王女と共にフィズンに着いたのは深夜だった。
騎士団基地では何故か…団長のマシェフが直々に待っていた。何でも王都から早馬が来ていたらしく、カイン王からアイラ姫の事を任されたのだという。フェリアはカイン王に感謝しつつ、道中で眠ってしまった姫を託して兵舎に向かっていた。
「お疲れ様でした、隊長!」
「…ありがとね、ココロン」
夜の兵舎で、ようやくフェリア隊は一息を吐いていた。特にくたびれているフェリアの両脇にはマリィルとココロン…その対面の椅子では、ラージェがミューノに対して楽しそうにウザ絡みしている。
しかしフェリア本人は、心労等々で表情が暗い…。
「あーあ…王様怒ってないといいけど。アイラ姫のせいとはいえ、任務すっぽかしたのは流石にヤバイでしょ」
「大丈夫だと思いますわフェリア様。マシェフ様もきっと口添え下さいますわ」
「だといいけど…」
フェリアは先程の、団長マシェフの言葉を思い浮かべる。
『御免ねフェリア、妹のアイラが迷惑を掛けてしまって。父上…陛下には僕から言っておくし、アイラはフィズンの外れにある親族の元に預けておくよ。とにかくフェリアは何も心配しなくていいからね』
(ありがとうございますマシェフ団長。貴方は王家の良心だ…)
常識的だった団長マシェフの応対に、フェリアは心の中で感謝をする。そしてそんなくたびれたフェリアをラージェが笑い飛ばす。
「あははは!確かにあの姫様は姉様が大好きだからね。だけど元々は…姉様が騎士団学校時代に、視察に来たあの姫様を口説いたのが始まりなんだけどね!」
「え…嘘でしょ!?だって騎士団学校時代って…姫様まだ年齢一桁だった筈だよね!?それを僕が!?」
「“フェリアは幼女もイケるんだ”って噂が流れたなぁ。あー懐かしい!」
(ふぇ、フェリアぁ!!確かに僕あんたには感謝しているけれど、それはいくらなんでも正直どうかと思うよ!?)
転生前の“フェリア”の見境無さに、“漣次郎”は流石に呆れてしまった…。
もう疲れたし眠いフェリアは、皆に先んじて寝ようと自室に向かう。
そしてそのフェリアの背後に、マリィルがスッと着いて来た。
「…フェリア様、1つお話が」
「どうしたのマリィル?」
難しい顔をするマリィルを、フェリアが訝しむ。
そしてマリィルが、普段とは違うきつい口調でフェリアに伝える。
「フェリア様はもう既に小隊長になられていますが…フィズン基地全体としての任命式が明日行われます。フェリア様はこれに参加できないでしょうけれど…」
「ああ、なんか前聞いたね。“半魔族は一緒にはできない”って奴だっけ」
これはネイオレス騒動の直後に、マシェフから言われていた事だ。
そういった公式の場では、まだ半魔族を人間と同等に扱えないと。
マシェフが心苦しそうに伝えてきたこの件を、フェリアもよく覚えている。
「まあ、仕方ないよね」
「でも、私がお伝えするのはその件ではありませんの」
「…そうなの?」
そしてマリィルは珍しく、怒ったような顔でフェリアに詰め寄る。
「明日の任命式で、とある青髪で長身で美形の若い男がフィズンの小隊長になります。その男は王都騎士団から異動してくるのですが…王都騎士団に居た頃のフェリア様と面識がある者なんですの」
「あれ?僕って王都騎士団に居た事あるの?」
「騎士団学校を卒業した1年目だけですけれどね。私とラジィはフェリア様より1歳年下ですので、その次の年に卒業した私達と一緒にフィズン騎士団へと異動しましたの」
(…なんかそんな夢を、前に見た気がするな)
ボーっと考えるフェリアの肩を揺さぶり、マリィルが語気を強める。
「…その男に、十分気を付けて下さい」
「え?なんで?」
「何でもです!とにかく警戒して下さい!危険人物なんですわ!」
珍しく声を荒げて、マリィルはフェリアに背を向けて去っていく。
(な、何だったんだ?)
そしてフェリアは翌日、その言葉の意味を知ることになる。
翌日のフィズン基地。
フェリアは今回の“アイラ姫の我儘”の一件について始末書をしたためていた。“今回は不要”とマシェフには言われていたが、これが慣例だと聞いたので一応従う事にしたのだ。フェリアは今それを持って、マシェフの元を目指している所だった。
そしてその道中、今まで見たこと無いある少年の姿を見つけた。
彼はフェリアに背を向けて歩いていたが、猫のような黒い耳と尻尾が見て取れた。クセの強い黒の短髪で、身長は小柄なマリィルより少し高く…フェリアから見ても背が低かった。
彼の白を基調とした制服姿からするに、騎士なのは確定だ。
(あ…半魔族だ!僕の隊以外で初めて見た!)
それは記憶喪失のフェリアが、ラージェ達以外で初めて見かけた半魔族だった。ちょっと嬉しくなったフェリアは、折角なので彼に話しかけてみることにした。
「ねえ君、君も騎士?フィズン基地では見ない顔だけど、もしかしてこの春からここに配属になったのかな?」
振り返る少年。
銀の大きなネコ目と、幼い顔立ち。
彼はフェリアを見るなり、
「…ちっ」
無視して速足で去ろうとする。
(え!??!)
動揺するフェリア。
今までフェリアは、人間にだったらこういう態度を取られたこともあった。だがまさか、同じ半魔族からこんな反応が返ってくるとは思わなかった。
「ちょ、ちょっと君!?」
「…あ゛?」
足を止め、振り返る少年の表情は…かなり不機嫌だった。
そしてフェリアは、そこでやっとこの考えに及ぶ。
(し、しまった!お互い半魔族で騎士なんだから…この子“フェリア”の知り合いかもしれないじゃん!)
声を掛けておきながらあたふたするフェリアを半眼で睨む少年に、なんとかフェリアは言葉を捻り出す。
「あ、あのさ…僕、実は記憶が無くなっちゃってて。だからもし君と知り合いだったらごめんね。もしそうじゃ無かったら、お互い半魔族の騎士として仲良くしてくれるとうれしいな!!なんて!!」
記憶喪失…という言葉に、少年の猫耳がぴくっと動いた。そして彼は肩を竦め、ヤレヤレといった風に…やっとまともな返事を返す。
「ああ、なんかそんな噂も聞いた気がするぜ…だからオレの事がわかんねーのか。それにしてもお前なんか腑抜けたな、これがあの英雄サマとはとても思えねー」
(お前!?なんなのこの子!?)
そして次の言葉で、フェリアは大きな勘違いに気付く。
「オレはワール、お前と一緒に騎士団学校に入学した半魔族だ。この春からルゥイ小隊の一員としてここに配属になった」
“一緒に”という部分を強調して語る黒猫ワールの言葉に、フェリアは自分の失言に気付いてしまう。さっきまでフェリアは、完全に彼を年下扱いしてしまっていた。
「げ、まさか同い年!?」
「…そーだ、お前と同じ19歳だよ!さっきからテメー、オレの事を完全にガキ扱いしやがって!!記憶があってもなくても相変わらずふざけた女だな!!」
「ご、ごめんなさーい!まさか同い年とは思わなくて!!」
「て、テメー大人しく謝んな!こっちが調子狂うだろーが!!」
「なんで謝っちゃダメなの!?」
「ダメじゃねーけどお前はそういう奴じゃねーだろ!お前今まではオレの事を完全に馬鹿にしてただろーが!しおらしくされると何か落ち着かねぇ!もっと傲慢に振る舞いやがれ!」
「理不尽!?」
軽々しく声を掛けた事を、フェリアはしっかり後悔していた…。
「美しいお嬢さん、お困りのようだね」
突然だった。
ワールとわちゃわちゃしていたフェリアの背後に誰か居る。
そしてそいつは、ちゃっかりフェリアの肩に手を置いている。
声からして…男だ。
(今度は誰だよ!?)
昨日から立て続けにこんな事になっているフェリアは、半ばやけっぱちになって背後を振り返る。
そいつは身長がフェリアをだいぶ超えている。そして今まで見たシュレンディアの人間の中でも、最も美形と言って良い顔立ちだ。なめらかな青の髪を、上品な感じでオールバックにしている。歳は…フェリアに近い。
そしてそいつの背には…小隊長の赤マント。
その容姿に、フェリアはハッとする。
ワールのさっきの言葉。
昨日のマリィルの忠告。
「やあフェリア。俺の事を覚えているかい?」
「…いや」
「そうか…フェリアと俺の絆を以てすれば、記憶の有無など障害にもならないと確信していたんだけどね。まだまだ俺達の絆はその領域に達していないようだ」
青髪の男の、甘い笑顔。
熱い視線。
フェリアは嫌な予感に寒気を覚える。
「俺の名はルゥイ・モードン。今日から俺も、君と同じフィズンの小隊長さ。改めて宜しくね、我が愛しのフェリアよ!」
「よ、よろしく…。ゴメンね覚えて無くて…」
「いいよ気にしなくて、改めて2人の絆を深めていけば良い事だからね。騎士団学校や王都騎士団の時は叶わなかったけれど、これからはいつも傍に居てあげよう!」
「そ、そうっすかぁ…」
その男…ルゥイの容姿は、昨晩マリィルが語った要注意人物と一致している。そしてそのマリィルの警告が意味する所を、フェリアはやっと思い知る。
(そ、そうだよね…。僕から見ても“フェリア”は美人だ。それにフェリアの功績や活躍まで考えれば、惚れる奴だって出てくるよね…)
今のフェリアは“漣次郎”の意識なので、こうやって男性に口説かれるという経験は初めての事だった…。
「おいルゥイ、もう良いか?」
ルゥイとのやり取りを呆れながら見ていたワールが、苛立ちげに声を掛ける。何か用事があるらしく、彼はそわそわしている。
「えー…俺はまだフェリアとこうして居たいよ」
「ワガママ言うな。初日から面倒を起こすなって」
「ああ、そうだね…残念だよフェリア。俺はこれから小隊のみんなとマシェフ団長にご挨拶に行かなきゃなんだ。名残惜しいけれど、今はお別れだね…でもきっとまたすぐ逢いに行くからね!」
「そっか、じゃあね!」
(助かった!ありがとうワール!)
心の中でワールに感謝し、フェリアは作り笑顔で2人を見送る。
そして2人の姿が見えなくなると、大きな溜息を吐く。
(アイラ姫だけでも結構ヤバそうなのに、あのルゥイって人はもっとヤバそうだ…。全く、これからは気が休まる暇も無いんじゃないか?)
この先の騎士団での仕事について、気が重くなるフェリアだった。
読んで下さっている見ず知らずの誰かに敬意を。
TSして元同性に迫られるってどんな気分でしょうかね?
わかめには良く分かりませんが、人間は大変そうです。
2023.3.5
誤字というか指摘を頂いたので一部追記しました。
11話・初日のフェリア小隊は騎士団分校→王都の宿→フィズン街道という動きをして途中でラージェを拾っていました。しかしその辺があまりに分かりにくかったのでちょっと追加しております。
どうもありがとうございます。