第9話 ドラゴン
さ、さすがにゲームに疎い俺でもマナさんのスキルはハズレって分かるし、俺でもリセマラってのをすると思んだけど……
ゲームやる為にバイト代を貯めてまでしてた人なのに、そんな役に立たなさそうなスキルでもいいんだ……
俺が唖然としていると「なによ! なんか文句あるの? 」そう言ってわざと怒ったような素振りを見せる。
「このゲーム詳しいのにそんなスキルでいいんだと思って……」
「だってかわいいは正義でしょ?」
マナさんはそう言ってニコッと笑った。
休憩を終えるとアバターレベル5推奨のクエストであるレッドゴブリンの討伐のクエストに切り替える。
クエスト依頼書によるとグリーンゴブリンより攻撃力と防御力が強化されているゴブリンらしい。
そのレッドゴブリンの生息地に辿り着くと目の前に数匹の赤いゴブリンが居た。
「赤いだけなんだ……」
俺が呟くとマナさんがこう言った。
「色違いモンスターでコストカットってわけよ。昔のゲームにはよく色違いモンスターよくでてたわよ」
「なるほどー」
「さっさとやっちゃいましょ!」
マナさんは辞書のような大きな本を開いて指でなぞる。
カーくんの口からとてもかわいいとは思えないエクトプラズマみたいな物がでてきてレッドゴブリンに当たる。
それが防御力を低下させるデバフで、俺はそれを見てレッドゴブリンに斬り掛かかって倒す。
グリーンゴブリンの時とやってることは同じ。自分達のレベルも上がっているせいか作業感に違いはなく。緑から赤になっただけという感じ。
その作業を繰り返し規定数のレッドゴブリンを倒すとクエスト終了になるのだがあと1匹か見当たらない。
「最後の1匹はどこかしらねぇ……」
2人でキョロキョロとしながら周囲を探す。
すると少し離れた場所の洞窟の入り口に赤い物が動くのが見えた。よく見るとレッドゴブリンが洞窟の入り口の辺りでマゴマゴとしているようにも見える。
「マナさんあそこ」
そう言って指を差す。
「あんなところに……いたのね」
二人でレッドゴブリンのところに向かう。レッドゴブリンは洞窟の中が気になるのかこちらには気がつく気配がない。
二人でレッドゴブリンの背後に迫る。そしてカーくんが口からエクトプラズムをレッドゴブリンに向けて放つ。そして俺が背後からブスリと持っている剣で突き刺せば終了のはずだった。
俺が剣を刺そうと近づいたとき、洞窟の中に観光バスほどの大きさドラゴンが大きな口を開けていることに気がついた……そしてレッドゴブリンはそのドラゴンの口から放った火で消滅する。
「逃げよ!」
マナさんが叫んだ。
言われなくても到底、勝てそうにもないので逃げようとする……
しかしドラゴンはその巨体にも関わらず軽々しく飛び上がって上空旋回しながら逃げる俺たちの前に立ち塞がる。今度は反対の方向に逃げるとまた飛び上がって俺たちの前にたち塞がる。
……逃げる事はできなさそう……
ということで覚悟を決め。ドラゴンを目の前にして一応剣をドラゴンに向け、マナさんに話しかける。
「これって二人死ねばデスペナルティ発生するんですよね……」
「うん……」
マナさんが頷きながら返事をする。
「じゃあマナさんだけでも……」
「あいつの速さ見たでしょ? 一人が逃げてもすぐに追いつかれるわ……」
せっかくレベル上げたのに死にたくねぇなぁぁ……そうだ……デバフだ!デバフであいつの動きを止めたら逃げられるんじゃね?
「マナさん。あいつにデバフとか使って逃げられませんかね?」
「無理よ。レベル差ありすぎて絶対に掛からない。それに掛かってたら使ってるわよ」
確かに……デバフが利くような相手なら既につかってるよな……
ドラゴンは勝利を確信しているのかゆっくりと寄ってくる。
いや待てよ……昨日のあの幼女。タケシは見間違えって言ってたけど……俺のスキル【感染】で毒が入ったととしたら……あのドラゴンにもデバフが入るんじゃね?
「マナさん。俺のスキル感染を使えばひょっとしたらあのドラゴンにデバフが入るかもしれません」
「え? それってどういう」
ドラゴンがスーッ息を吸い込む音が聞こえてくる。
「もう時間がありません。カーくんを使って俺にデバフを」
「何がなんだかわかんないけど、エイジくんに賭けけるしかなさそうね……」
マナさんは辞書の様な本を開いてカーくんに命令をする。そのカーくんがエクトプラズムのようものを吐き出し俺の身体の中に入っていく。
ドラゴンは口をゆっくり広げると真っ赤に燃えた炎をその口の中に貯めている。
スローという表示が目の前に現れ、視界の右上に赤い時計のアイコンが現れる。そして灰色だったSPスキルのアイコンが白く表示されている。
そのアイコンをタップするとエルダードラゴンに感染を使用しますか? という表示が現れ、俺はYESをタップした。
するとドラゴンは毒々しい色に変わり動きが遅くなる。
「は、入った!! デバフ入った!! マナさん逃げて下さい! あいつにデバフ入ったんでにげられます!!」
「え、エイジくんは?」
「このスキルって自分のデバフは消えないんです。だからスローが入ったまま……」
「な、なるほど。じゃあ私が逃げるわ」
うんと俺が頷くとマナさんは脱兎のごとく走って逃げていく。ドラゴンはスローになっているのが分かっているのか追おうとせずに俺の前でそのままゆっくりと口を開く。
スローに火を吐きそうになっているドラゴンに話し掛ける。
「仲良くしようや」
そしてドラゴンの炎が俺の身体を包んで目の前は真っ黒になった。