表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第八話 後


「……まあ、どのみち僕は戦後処理のために王国入りしなければいけなかったから、それが早まっただけと思えばね。父上にも早馬を飛ばしたし、問題は無いよ。クリスティーナ様を叱らないでやっておくれ」


 エドウィンはクリスティーナに甘い。そのいとけなくも神秘的な姿形が、エドウィンの愛玩欲を刺激するらしかった。


「私が何か言ったところで、聞くようなやつではありません」


 と、ジゼアの方は恨みがましくクリスティーナを見たが、彼女は鼻唄を歌いながらくるくると回っている。まだ妄想の中にいるようだ。

 エドウィンは苦笑して、それから王都の方を見やった。三日前は炎が上がっていたが、今は鎮火している。それでもまだあちこちから黒い煙が立ち上っているのを見て、エドウィンは言った。


「……さて、中々に痛ましい様子なわけだけど。祖国を滅ぼした気分はどうだい、ジゼア」

「完全に滅ぼしたわけではありません。まだ王女が生き残っております」

「あれ、そうなの? 君にしてはらしくない失敗だね」

「申し訳ございません。混乱に乗じてうまく逃げられました。ですが、行方はある程度掴んでおります。もう間もなくその首を殿下に、そして皇帝陛下に献上できることでしょう」


 ジゼアは三日前、追っ手を妨害した伏兵を尋問し、王女の行方を吐かせることに成功していた。彼らによると王女はやはり北に向かっている。目的の場所を含めて、ジゼアはエドウィンに報告するつもりであった。

 部下の頼もしい言葉に、エドウィンはにこりと笑った。


「それなら良かった。父上もとても楽しみにしていたよ。まあ、そのあたりも含めて詳しく状況を聞こうかな」

「はい、では向こうへ」

「そうだね。あっクリスティーナ様も、まずは一休みしませんか――」


 と、エドウィンがクリスティーナを促した、その時だ。

 突然、近くの茂みから四人の男たちが飛び出してきた。


「帝国軍! よくも王都に火を放ったな!!」

「聖女様が愛した王都を、これ以上破壊させてなるものか!!」

「聖女様に代わって我らが天罰を下してやる!!」

「くたばれえぇッ!!」


 男たちは手に持った剣を振りかざし、口々に叫びながらエドウィンに切りかかった。

 しかしその動きは素人も同然だった。ジゼアは剣を抜いて二振りで二人を切り伏せ、一人は近衛の騎士が倒し、もう一人はクリスティーナに引っかかって転んだ。

 男たちはすぐさま取り押さえられた。引きずられながらも喚く男たちを、エドウィンは困ったように見つめながらジゼアに尋ねる。


「……王都の民かな?」

「そのようです。解体した王国軍の生き残りかと思いましたが、動きがあまりにも鈍すぎますので」


 ジゼアの答えに、エドウィンはすうっと目を細めた。


「王都に火を放ったのはやりすぎだったんじゃない?ジゼア。余計なものを炙り出した気がするよ」

「さて、私は部下に火攻めの指示は出してはいませんが」


 ジゼアは淡々と答えるが、これは本当だった。

 かつてジゼアがいた頃とは違い、王都は周囲を巡る城壁の間際まで、住居や施設があらゆる隙間を埋め尽くしていた。これに火を放つとなると、進軍する帝国軍にも被害が及ぶ。王国民が徹底抗戦の構えだったなら実行したかもしれないが、王国民は帝国軍の進軍を邪魔しなかった――その時は。

 ゆえに帝国軍は火を使わなかった。しかし実際はどこからともなく火の手があがった。いったんそうなると炎は瞬く間に広がった。幸い全焼には至らなかったものの、王都に大きな被害が出たのは事実だった。


 そのために民の抵抗が始まったというのならば、帝命(皇帝の命令)を果たすことに遅れが出ることを、ジゼアは軍団の長として反省せねばならなかった。

 しかし本心をいえば――聖女の恩恵をただ食い潰してきた奴らなど、王都ごとすべて燃やし尽くされてしまえばいいと思っていた。

 しかもこの期に及んで聖女の代わりに天罰などとのたまう者がいる。ジゼアには悪い冗談にしか聞こえなかった。


 エドウィンはそんな友人の心情を察したのか、彼を見て困ったように笑った。「仕方ないなあ」とそう言って。


「ああらいけないわ、あたしったら! こんなところで妄想してないで、早く陛下のもとへ行かなくちゃ! 陛下あぁぁ今参りますわあぁぁ!」


 と、そこでクリスティーナがようやく我に返った。今の襲撃など無かったかのように高らかに声を上げると、その小さな足をバタバタと動かし、見たことのない勢いで走り出した。


 慌てて世話役の兵士二人がクリスティーナを止めようと彼女の前に立ちはだかった。

 が、彼らに与えられている役割はクリスティーナが時々落とす水晶を拾うことであって、決して全力で走る重量級の石の塊を止めることではない。

 案の定、向こうずねをやられ、地面にもんどり打って倒れこんだ彼らの脇をクリスティーナが猛進していく。あのままだと目標への最短距離のために、城の壁をぶち破っていきかねない。

 彼女を止めるか誘導するならば、それはジゼアの役割であった。


「クリスティーナ、待て! ……殿下、申し訳ありませんが先にあれを止めてきます」

「……ああうん、そうだね、わかった」

「殿下は城内へ、そちらの方がまだ安全ですので」

「うん、案内してもらうよ。ジゼア、クリスティーナ様を頼んだよ」

「はい。ではまた後で」


 と、ジゼアは踵を返してクリスティーナの後を追った。そして、世話役の兵士二人もよろよろと立ち上がり、気合いでそれを追って行く。


「……特別給金、出すべきかなあ」


 エドウィンは彼らの背中を見送った後、そんなことを呑気に呟きながら、近衛の騎士とともに“軍営へ”案内してもらうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ