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Claire  作者: 園田 楓
6/7

Catalina Rercaro 中編

★中編★

 あちこち屋敷の中を探し回り広い建物をあちこち歩き回った。今日までこの屋敷の中を歩き回ったのは初めてだった。召使に聞いてもMargaretの居場所がわからないといった。

「私も探しているんです」

と困った顔をしていた。Geoffに気を取られ、やはり昨日は1人で部屋にいるのではなく、一緒にいるべきだった。

「ん~」

微かにだが奥の方から声が聞こえた。

(Margaret…?)と声がするほうへ走りながらも周りに注意しながら向かった。

 長い階段を降り、ピチャ…と音が聞こえ、思わず立ち止まると足ものと濡れていた。慌てて濡れた靴を見ると水で、天井を見上げても雨漏りがしているわけでもなさそうだった。その奥はやけに寒く、近くの壁もなぜか濡れていた。まだ階段は続き、地上の光は届かない。その時になってNicolasを連れてくればよかったと後悔した。

「んん…」

再び声がし、女の声だと分かった。近くにいることもわかり、Edwardは大声でMargaretの名前を呼んだ。その声に反応するかのように女の声もし、手掛かりが少しつかめほっとした。

 部屋は鍵が開いていた。両手首を上にあげ、足は閉じた恰好で鎖で拘束されMargaretはEdwardの顔を見ると半泣きの顔でタオルで何も話せない口で何かを訴えていた。

「今助けてやる」

近くを見渡してもカギになるものはなかった。

「Margaret、どこに鍵があるのかわかるか?」

そうEdwardはタオルを外しながら聞いたがMargaretは首を横に振った。怖がるMargaretをそっと抱きしめ落ち着かせた時、Edwardの後方を見て目を見開き、口をパクパクさせた。

「ん?」

何を言っているのかと耳を傾けたとき、後頭部に衝撃が走った。


「お目覚めですか?」

Edwardが目を開けるとButlerが口が裂けるのではと思うほど横に伸ばして奇妙な笑いをしながら言い出した。

「貴方の勇敢ぶりには痛感させられました」

「…」

口を塞がれ見動きの取れないEdwardは声を発することなくButlerを睨みつけた。

「これじゃ何も話せないみたいですね。最期に何か言いたいことはありますか?」

(最期…?)

その言葉に自分の身が危ないことを気づかされジタバタと拘束が解けないかと暴れた。この不思議な男を早めのうちにどうにかするべきだった。先日からの話し合いで全く何も話さずいるのかいないのかわからないやつを放っておいた自分が情けなかった。Butlerという男の目をまじまじと見ると、誰かを殺すなど簡単だという目をしていた。狂気じみており、口は笑っているが目の奥では何を考えているのかわからないそういう顔をしていた。自然と涙があふれ、目だけでMargaretを探したが見当たらなかった。(もしかしたら)そんな最悪なことを考えてしまい、頭の中でそれを消した。

Butlerはククと笑いながら、口枷を外した。

「っ…Margaretは?」

噛みつくような目で自分が今恐怖で仕方ないという顔を出さないようにEdwardは彼女の存在を聞いた。

「貴方の今の状況がわかっていますか?」

「俺は殺させるんだろう。…それは構わない。彼女が無事ならば」

「ほう」

「Margaretがまだここにいるなら今すぐ逃がしてくれ」

更にButlerの口が横に伸び

「面白いお方だ、そんな約束を俺がすると思うか?」

声は部屋に響き渡る。冷たく感情のこもっていない声だった。

「お前の目的はなんだ」

「さぁ」

「答えろ!」

「負け犬が何を偉そうに」

そう鼻で笑うと拳銃の口をEdwardの額に押し当てた。

「貴方に言って何になる」

喉の奥でククと笑い、引き金に指を置いた。

「やめて!」

Butlerの後ろから誰かの声が聞こえた。それと同時に銃静音が響き渡った。


 恐る恐る目を開けるとEdwardは自分が生きていたことに驚いた。Margaretが先ほどの状態のまま叫んでいた。

「Butler、貴方の目的は私よね?彼を開放しなさい」

「お嬢様」

「私はあなたの言うことに従うわ、あなたに何をされても構わない。その代わりEdwardを放してあげてちょうだい」

言葉を失うButlerの横でEdwardは声を上げた。

「やめろ!こいつは…」それを遮るようにMargaretは微笑んで

「いいのよ、Edward」と言い、Butlerの方を向き直って

「ねえ、お願いしますわ」と媚びるような目で言った。ゆっくりとButlerに近づきそっと口づけをした。驚いた様子を見せたButlerはMargaretの頭を押さえさらに激しく今までの気持ちを開放するようにそれに答えた。その隙にButlerのポケットの中を探り、手に引っかかったものをそっと投げた。Margaretから渡された鍵がEdwardの手元に転がり、Edwardは困惑した目でMargaretを眺めた。

(早く行きなさい)

死者を出さない唯一の方法だとMargaretは考えていた。目でEdwardにそれを伝え、彼は鎖を外すと外へ駆けだした。


 ロビーでEdwardの帰りを待っていたNicolasは彼の疲れ切った顔を見て

「どうしたのですか?」と訪ねた。

「ここでは話せない、どこか遠い所へ…」

「Margaret様は?」

「…」

黙って何も答えないEdwardを眺め、何か事情があると察したNicolasは口を噤んだ。

 森を抜け、町へたどり着いたNicolasは自分の知り合いの店の酒屋にEdwardを招いた。

「ここの二階に俺は住んでいるんです。部屋は大量にあるから、使ってください。狭くて悪いが…」

Nicolasはこんなところは身分の違う人が住むようなところではないと考えたが、Edwardが住むところはここよりも遥かに西のほうだった。

「いや、ありがとう」

そうNicolasの提案に答えたEdwardを見て微笑んだ彼は「早速本題に入りたいんだが」と酒場のカウンターの席に腰を掛けた。カウンターの反対側に立っていたNicolasの友人でこの店のオーナーのMichelは黙って話を聞いていた。

 Michelはその話を聞いて憤慨した。彼はMargaretを知っていたのだった。

「その話、本当ですか?」

Michelは身を乗り出してEdward達の話に加わった。

「あぁ」

「Cavendishのお嬢様はとてもいい方でした。その隣に執事の方がいましたがそれはたいそう偏屈で、この住民たちを怒鳴り散らしたんです」

「なんて?」

「Margaret様が頼まれていた靴の色が違ったらしいんです。Margaret様は間違えた色の方も好まれ、それでその時は丸く収まりましたが…それ以来Butlerさんの顔はとても恐ろしいものでした」

「俺もあの目の奥から狂気じみたあの表情が…」

とEdwardが頷いている横でNicolasがMichelに

「なぁ、Margaret様に兄っていたのか?」

「いいえ、噂によりますとGeoffという青年がその屋敷におり、そのものは突然そこにやってきたのだと聞きました」

「Geoffか…」

「恐らくあそこの主人が哀れに思って招き入れたのでしょう。今その方は?」

そう尋ねるMichelに二人は顔を見合わせ、先日起きたことを話して聞かせた。黙って聞いていたMichelは頷いた。

「あの方はとても優しい方でした。この村に満月の夜来ては誰かを襲うのではなく、処刑されるはずの罪人ばかりでした。罪のない人を殺したくはないと稀にここにきてはいつも言っておりました。妹に当たるMargaret様についてもいろいろ心配していらっしゃったようで…」

Edwardは胸が苦しくなるような感じがし、黙って聞いていた。

「あの2人は血がつながっていませんけど、まるで兄妹のようで…Geoff様もわかっていたんです。いつか「俺がもし死んだときは誰がMargaretを守ってくれるのだろうか…。俺はいつか誰かに狙われるだろう。…もしそうなったらMichel、頼めないか?」と話されたことがあったんです」

「おい、Michel。俺はそんな話聞いてないぞ。それに奴にもそこまであったこともない。いつもここで寝泊まりしているのに」

「…あぁ、そうだったな。Geoff様は夜いらっしゃっていたんだ。たまにはMargaret様もいらしていたよ」

「…あの場所にMargaretを残してきてしまった…」

「Butlerと名乗る男はGeoff様は恐れていました。何があるのか?と聞いても確信が持てないからというばかりでした」

あんなにMargaretを大事にしていたGeoffを殺してしまった。人狼だったという理由で。本当はCavendishの屋敷で死んだ者は全てGeoffの仕業ではなかったのではないか。もしかしたらButlerが建てた策略に乗せられたのではないか。そうEdwardは考え、Butlerの目の奥で笑うあの顔を思い出し身震いした。

 「お兄様はそんなことをする人じゃないもの」

 「お兄様は誰かを襲ったりはしないの」

そう言ったMargaretはしっかりと兄という人物を知っていっていたのだ。彼女は何も知らない少女だと勝手に思い込んでいた。だが、あの夜Geoffは間違いなく自分の部屋にやってきた。Geoffの顔は殺意に満ちていた。なぜそのようなことを考え出したのか。「Megに手を出したお前を許さない」とGeoffは言っていた。お互いの両親が決めたことだ。手を出したわけでもないだろう。

 以前Margaretと馬車で出かけたことがあった。迎えに玄関で待っているとGeoffが出てきた。

「Margaretさんは?」

と聞いた時のGeoffの顔が曇り、何しに来たといったような顔をしていた。その後ろをMargaretがいそいそと現れ、その時は丸く収まった。あの時彼女が出てこなければ何か小言を言われたのではないか、思い出しただけでもそういった気持になる。


 それから何か月後に3人はMargaretを連れ戻すためそっとCavendishの屋敷へと向かった。

その頃ButlerはMargaretに

「行ってくる、いい子で待っているんだ」

と優しい口調で言い、額にキスをすると屋敷を出ようとしていた。Margaretの前ではこの偏屈な恐ろしい性格の人でもその少女を見ると口元が緩んでいた。彼はいつかMargaretと結婚してこの屋敷の主人になることを望んでいた。いつまでも下っ端で扱われているのは我慢ならなかった。

 Butlerの過去がそろそろ聞きたくなるころだろう。あの憎たらしい人間の森で起こった暴動で山火事が広範囲で起きた。

「母さん、父さん」

遠くから逃げそびれたGeoffが泣いていた。Butlerと彼の妻は探した。幼いGeoffは火に囲まれどこに逃げたらいいのかわからず佇み泣いていたのだった。

「Geoff!」

Butler達は彼を助けようと火の中を飛び込みGeoffの元へ走った。救出し逃げようとしたときGeoffの上から焼けた木が倒れてきたのだった。妻は彼を弾き飛ばし、彼女はそれの下敷きとなった。事の発端はCavendishの屋敷に以前住んでいた主人が木を燃やしButlerらのような生き物を皆殺しにしようと考えた為だった。街の住人には安全を提供するとモットーにその主人は考えたのだった。Butlerは、幼いGeoffを抱え森の隅で暮らした。だが、2人の悲劇はそれだけでは終わらずGeoffが4歳のころButlerは彼に社会経験にとお使いを頼んだのだった。

「大丈夫だよ、父さん。僕行ってくる」

そう言ってGeoffは覚えたての人間の姿になり洞穴を後にした。

それから夜になってもGeoffは帰ってくることがなかった。心配したButlerは森の中を探し回ったが見つかることはなかった。Butlerは夜も眠れず、食料を探す気にもなれず、何日も森の中を彷徨い、通りゆく人々にGeoffの居場所を尋ねては知らないと言われ、その顔は狂気染みていると多くの人を怖がらせた。幼いわが子がいなくなれば誰だって血眼になって探すのは人間も狼も関係がないはずだった。そんなある日、遠くから馬車の音が聞こえてきた。Cavendish家の住人が引っ越してきたためだった。そっと前の住人が帰ってきたのかとそうすれば復讐してやると粋がって草むらからそっと覗いた。もうこの時にはGeoffがいない悲しみと人間に対する復讐の念で心はいっぱいだったButlerは何か人間にしてやろうとその屋敷へと向かった。Cavendish家の主人は哀れなButlerの姿を見て招き入れ、熱いもてなしとともに、重要な仕事を言い渡した。その後ButlerがGeoffを発見した時は大層喜んだ。成長し大きくなっていたがGeoffには変わりなかった。そのうちMargaretが産まれ、屋敷の中は明るくなった。ButlerもMargaretの幼い顔を眺め、可愛らしい少女に心が引かれた。成長したMargaretとGeoffが日ごろよく遊んでいる姿を見て彼を屋敷の主人にさせ、その横でサポートをしようと考えていた。それが最大の復讐ではないかと考えた。MargaretがGeoffのことを知っていても何もせず、更に愛していることがButlerにはわかっていた。この屋敷の家族は優しかった。さらにButlerはMargaretのことを気に入り彼女を危ない思いをさせるのを避けようとした。

「父さん」

ある日、Geoffが父の部屋を尋ねてきた。

「なんだ?」

書類を置き、どうした?と尋ねたButlerにGeoffはきまり悪そうに首元に手をやりながら

「Margaretのことなんですが」

と話し始めた。聞けば自分がMargaretのことを好きになってしまったこと、でも彼女には婚約者がいること、おそらく自分の気持ちは気づかれていないだろうということだった。

「誰にも言えず、でも一人で考えれば考えるほど心が痛くなって…吐き出すだけ今言って満足しました。…わかっているんです。自分は釣り合わないんだって。いつかはこんな日が…」

そう言い終わらないうちにButlerは椅子から立ち上がった。びくっとそれに反応し、怯えた息子に

「何をつまらないことを考えている。あの娘がだれかと結婚すれば俺たちはここから追い出されるのかもしれないんだぞ。それか今のような生活はできないんだ」

「…そうですが、俺にどうしろと?MegのそれはMegが決めることですし…」

俯き陰で拳を握るGeoffをみてどうにかしてEdwardという男を排除できないかと考えた。この家の主人たちにも悪いが、死んでもらうに限る。だが、殺人犯になるのはごめんだった。誰かのせいにし、ひっそりと行う方法…自分自身の夢、息子の希望を消してはならないとButlerは考えた。だがいつの日かGeoffをは父を避けるようになった。年頃の男ならそうするのだろうが、Geoffの避け方はなぜそのようなことをし始めたのか誰にも分らなかった。時にはMargaretがButlerと話していると彼らを引き離すことさえし、経営学や政治学の勉強はそっちのけでずっとMargaretの傍から離れまいとしていた。その様子をButler自身も気に入らなかった。いつの日か気が付けば様々なもので脅し、命令に背けば命はないとまで言いつけた。Margaretの安全を第一に考えていたGeoffは彼女に影響がないことなら嫌々でもその指示に従った。そのうち父からの命令は時とともに恐怖へと変わっていった。

「Butler?」

Margaretの声が聞こえ我に返った。彼女は何かを心配する顔をしていた。

「あぁ、大丈夫だ」

そう笑顔を作り、唯一の息子の写真を鞄に入れた。


 Butlerが屋敷を出て行ったのが見えた。これは幸いとEdwardとNicolasとMichelはそっと屋敷に入っていった。屋敷のドアを叩くと使用人が出てきた。

「Margaretは?」

と尋ねた3人を召使は彼女の部屋へと通した。3人の姿を見て驚いたMargaretは心から喜んだ。彼女を救出することに成功した。4人は外に誰もいないことを確認すると森を抜け、Michelの酒場へと戻っていった。

 夜になってButlerが戻るとMargaretがいないことに気づき、Edwardの仕業だと決め憤慨した。自分の唯一の夢がズタズタに切り裂かれ、自分のデスクの書類の山を一気に床へたたきつけた。

 その様子を開いたドアから見ていたものがいた。先日雇われたZaraという女だった。なにかそとから物音がし、Butlerが顔を上げるとZaraという女が立っていた。

「旦那様、どうされました」

「あぁ…」

何でもないというButlerにZaraはそっと彼を抱きしめた。

「この日が来るのを待っていたのです。お嬢様が…Margaretがいなくなりました。ここはもう私たちの場所なのです」

「私たち?」

「えぇ私はあなたと同じ種族なのですよ。もうあの悪夢はもうおしまいなのです。人間は私達の下でひれ伏せばいい。そう思いませんか」

それはいい考えだと納得したButlerは今までの目となり、強い口調で

「Margaretを探し出せ、俺はほかにやるべきことがある」

と命令した。Zaraは笑顔でそれを引き受け、部屋を出て行った。


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