Catalina Rercaro 前編
題名の名前わざと変えています。
人狼出てきますがほとんど考察とかはないです。
(全くないかも)
Margaret Cavendish
Butler(本名謎)
Edward Anderson
Nicholas
Geoff
James
Helena
Zara
Owen
昔、街からかなり離れた森の深くに大きなお屋敷があった。そこは夜な夜な不思議な噂が立つ為誰もが怖がり近寄ることはなかった。Cavendish家の主人がその場所を気に入り、夫人を連れてその場所を新居とした。2人は世界を転々としながら様々な面倒なことを処理したりと忙しく回っていた。
ある日、一人の男がその屋敷を訪れ雇って欲しいと言ってきた。その男の身なりは酷く、あちこち服が破れ泥だらけだった。夫人はその様子をかわいそうに思い、この家で暮らせば少しはましな暮らしができるだろうと主人に意向を尋ねた。主人もその奇妙な男を大層気に入り、その男はその屋敷で住み込みで働くようになった。それから特に主人のお気に入りとなり、2人がいない時の屋敷の管理をその男に任せてしまった。周りからは小さな反感があったがそれを無視した。数日後、Butlerと名づけられたその男は、ある人が仕掛けた罠にとらえられた狼の子供を見つけた。あたりを見渡しても仕掛けた人は見あたらずそっと罠を外してやった。
「ありがとうございます」
どこからか少年の声がし、あたりを見渡したが誰もいなかった。ふと見ると助けたはずの狼が人間の男の子に変わっていた。
「Geoff」
Butlerは優しくその子を抱きしめると屋敷に連れていくことにした。どこへ行くのかと不思議そうな顔を見せたGeoffは手をつなぐ男に尋ねた。
「あなたは?」
その顔を見ると奇妙で恐ろしい男はその時はなぜか優しい微笑みを見せた。誰かがそこを通ったならば誘拐か人身売買と思うだろう。ぐいぐいと少年の手を引き、何も言わず前を向いたまま歩きだした。
Butlerが戻ると中が騒がしいことに気づいた。他の女の召使たちがいそいそと屋敷の中をうろうろとし、お湯が入った盥やらタオルやら様々なものを子っていた。
「どうしたんだ?」
近くにいた男の召使に尋ねた。彼は一瞬びくっと震えたが、やがて笑顔で一人の娘が生まれたことを告げた。なぜこの男がここまで人から恐れられているのか気になるだろう。それはどうしても長い間残ってしまい隠し切れぬ痣や火傷の痕が顔じゅうにあったからだった。口は大きく笑うと耳まで裂けるほどではないかとまで伸び、目は他人を睨みつける癖があったのか吊り上がり、瞳は小さかった。その目を見れば多くの人間が化け物と思ってしまうほどの恐ろしさがあった。
さて、この屋敷の大騒ぎは長い間引くことはなかった。名前を早々とMargaretと名付けた夫人は赤ちゃんを抱きしめていた。Margaretは可愛らしい娘でButlerは彼女を見た途端に何かを思いついたのか、ぜひ自分が世話役になると名乗り出た。夫妻は驚いたが、Butlerの真面目そうな目を見て頷いた。周りの人はButlerを恐れていたが、この夫妻は違っていた。哀れな男を見るような目で彼に接し、なんでもさせるようにした。彼の昔の話を聞くことはなかったが何かを悲しいことが過去にあったのだろうと察していたのだった。
数年後がたった。Butlerは娘を可愛がった。反対にほっとかれたGeoffは嫉妬し、娘を噛み殺そうと考えた。
(僕がもし狼ならこのぐらい簡単さ)
自分自身が狼だとは思ってもいなかった。ましてや周りと違う人間だとも考えていなかった。自分はただの人間。だが、父に当たるButlerがそういうのならばそうなのかもしれない。ならばあの大きな犬が肉を咬みちぎるくらいたやすいことだろう。子供の嫉妬は怖いものなのかもしれない。親を取られた憎しみは悲しくひっそりと泣くものがあるか、仕返しをしてやろうという気持ちになるか、少なくともGeoffは後者だった。
その日の夜に、Margaretが寝ているのを確認し自分の手から長い爪が伸びたのを確認し、自分が何者であるかを確信した。父の言う通り、自分はそうなんだ。まじまじと見たことがなく気が付けば獣になっていたGeoffは自分の本当の姿を見て興奮した。
「何をしている」
慌てて後ろを振り返るとButlerが眉をひそめて立っていた。ギャッと驚きGeoffは飛び上がった。その拍子に眠っていたはずの少女が「きゃ…」と騒いだ。見れば首と肩の間から血が出ていた。驚いた拍子に手が彼女の首元に当たった為だった。爪から滴り落ちる血を眺め、震える手を見て怖がるGeoffにButlerはそっと抱きしめた。
「もう二度とこのようなことはするな。この娘を殺して何になる。お前のせいで死んだとなればあちこちから人間が襲ってくるのだ」
「だけど人間は弱いものだって」
「そうだ、それは一つの単体ならばの話だ。まとまって来られてみろ。恐ろしいものに変わるのだからな」
その言葉を聞いて不満げな顔を見せたが、
「人間に復習したい気持ちはわかる」
「父さんもそうだったの?」
Butlerは黙ってうなずき、彼を話すと首元を手で押さえたMargaretを治療し始めた。か弱い少女を傷つけてしまった。なぜこのようなことをしたのか、今となっては思い付きの行動が恐ろしい。GeoffはそっとMargaretの髪を撫でた。
虚ろな目をしていたMargaretはパチリと目を開けた。その大きく可愛らしい目はGeoffの冷たい心を溶かした。両手を差し出すとギュッと抱きしめ、自分がしたことの償いをしようと考えた。
段々とMargaretの優しさに気づき、Geoffは彼女のことが好きになった。それはButlerも屋敷の主人も2人をまるで兄妹のように育てていたからだったGeoffもMargaretを本当の妹のように大切にするようになった。Margaretが何か怖いものを見たり、意地の悪いメイドに虐められたりして泣いているとすかさずGeoffがやって来るのだった。
「お坊ちゃんは容量がよくていいんですけど、お嬢様が何もできず何かすれば泣き虫で…嫌になってしまいますわ」
ある日、召使の一人の女が周りの人たちに愚痴を言っていた。
「世間知らずな女の子でしょう。住まいもここで森の中ですし、誰とも話し相手もいないんですし」
ともう一人の人は柔らかく言ったことに、Zaraというその女は
「そうですわ、世間知らずもいいところです。Geoff様がこの家の息子様でしたら少しは張り合いがありますのに」
近くを歩いていたGeoffはその言葉を耳にしていた。いくら自分が褒められていてもMargaretのことを悪く言われるのは我慢ならなかった。物音に気付きZara達はGeoffが近くにいることを察して、口を閉じた。Geoffの冷ややかな目は怒りに満ち溢れ、その場の人たちを震えあがらせた。
「お兄様」
その夜は満月の綺麗だった。そっと窓から外に出ようとしたGeoffにMargaretは声をかけた。
「お兄様、どこへ行かれるの?」
後ろを振り返るとMargaretがまだドレスの姿でお茶の乗ったお盆をもって立っていた。驚いた表情を見せたGeoffは平静を装いながら優しい口調で
「どうした?」と聞いた。Margaretはおどおどしながらも大好きな兄に喜んで貰おうとしたことを表したくて
「お兄様が勉強されてると思ってお茶を持ってきたの」と持っていたものを小さく前に出して見せた。Geoffは可愛らしい妹の気遣いに喜びながら手前にあったテーブルの書類たちをどかしスペースを開けた。
「どこへ行こうとしていたの?私もお兄様と一緒にどこか行きたいわ。家の中が静かでつまらないんですもの」
Geoffは目をキラキラさせる彼女を連れていきたくて仕方なかったが、危ないのは目に見えていた。ゆっくりとお茶をすする妹を眺めながら
「Meg、君はついてきてはいけないよ」
と優しくGeoffはそう言った。だがカタンとカップを置いたMargaretは
「お兄様と一緒がいいの。ねぇわたくしも連れて行って」と言い、甘えた声でお願いする妹には頭が上がらず「絶対俺の傍から離れるな」と渋々答えた。
「内緒だぞ」そう言うと妹の手を引き夜の森の中へと入っていた。
街の方へ軽やかに飛ぶ二人の影があった。一人が少女を抱え飛んでいた。
「お兄様凄いわ」
「下を見るな」
楽しそうにキャッキャと笑う妹を見て、兄は微笑んだ。そのうち下で誰かが通る音が聞こえ、トンと綺麗に着地した。木の中が空洞で人が一人入れるほどの場所にGeoffは連れて行きMargaretにささやいた。
「Meg、君はここにいろ。何があっても出てきちゃだめだよ」
その言葉にこくんと頷き、妹を置いて歩き出した。
だがいくら待っても兄は帰ってこなかった。上を見れば満天の星で光り輝いていた。月はいつもより大きくまるで手を伸ばせば掴めてしまいそうだった。
(どこ行ったのかしら)
そっと洞窟から外を見たが木々が生い茂り真っ暗で怖く感じた。でも兄に会えないほうが怖いと考え、勇気を出して穴から外に出てみた。
暗い森の中を兄の名前を呼んで歩く。
グルルル…
脇の草がカサカサと音が鳴り、獣のような声が聞こえてきた。
(お兄様?)
暗闇の中一人ぼっちでさらに怖くなり、泣きそうになった。それでも周りから鳴る草の音は消えることなくだんだんと近づいてきた。
「ひゃ…」
何かが目の前に飛び出してきた。足元を見れば獣が牙を剥き出してこちらを向いていた。他にも仲間がいるらしく周りを囲むようにゆっくりと近づいてきた。思わず後ずさりをするがその歩幅と同じように獣たちもゆっくりと近づいてきた。トンと背中に何か当たるような感触がし、自分が木に背中を当てたと気づくと逃げ場がもうないことに絶望した。一匹の獣がバッと飛び掛かりMargaretは思わずしゃがみ込んだ。
目の前に何かが立ちはだかった気配がし、恐る恐る目を開けると誰かが立っていた。
「お兄様?」
見れば後姿は確かにGeoffそのものだった。だが頭の先には先ほどのような獣の耳が付き、尻尾も生えていた。
「Meg、目を閉じてろ」
声もGeoffだとわかるとこくんと頷いて両手で顔を覆った。だけれど人間はするなと言われるとしたくなるような質で、Margaretもそういう子だった。指の隙間からそっと覗き、時にはぎゅっと指を閉じたりしていた。残虐な物音がしなくなり手を外すとGeoffが跪いて顔を覗き込んでいた。言いつけを守らなかった悪い子のMargaretを優しくポスっと叩いた。
「ったく、あそこにいろって言ったろ」
「でもお兄様が」
「帰ってくるから」
怖かったと泣き出した妹を優しく抱きしめた。
それからもMargaretは満月の夜になるとそっとGeoffと外へ出かけた。彼自身は彼女を連れて行くのは気が引けたが、Margaretの頼みには逆らえず、またある人物から守るためでもあった。彼女は全く気付いていないようだったが、その人物の目は奇妙なものだった。
そんなある日、1人の家族がCavendish家の屋敷を訪れた。
「ようこそいらっしゃいました」
そう迎えたのはCavendishの主人だった。
「お久しぶりです。こちらが息子のEdwardです」
そう紹介を始めた人物はこの屋敷の主人と昔からの友人だった。彼らはEdwardとMargaretを結婚させようと考えていたのだった。父親に呼ばれそっと横に立ち、Margaretは丁寧にお辞儀をした。暫くしてお互いの緊張もほぐれ、父親たちが話している間、屋敷の中庭のテラスで会話を楽しんでいた。
「Meg」
遠くから兄の声が聞こえ、振り返るとヒラヒラと手を振った。その笑顔は誰から見ても可愛らしかった。Margaretは「どうしたの?」とキョトンとした顔を見せ、Geoffのいるところまで走っていった。
読者の皆さんはお気づきかもしれないが、彼は可愛い妹のMargaretに婚約者がいるなど考えたくはなかった。いくらこのお屋敷のお嬢様だとしても自分が血のつながっていない人なら好きでいても、ましてや結婚しても構わないと思っていた。それくらい彼は彼女のことが好きだったし、MargaretがEdwardと楽しそうに話しているだけでも気にくわなかった。だけどMargaretを傷つけるようなことやEdwardを取って食おうとは考えていなかった。心の中にそっと自分の気持ちを押し込んだまま、Edwardが帰ればMargaretに優しく触れるだけだった。それに彼らの幸せを取ろうとも思っていなかった。お互いが幸せならばいいじゃないかとGeoffは自分に言い聞かせていた。
だがもう一人、二人の幸せをよく思わない人物がいた。
ある日、Margaretが屋敷の中のガーデンを歩き、花を摘んでいた。母親が病気だと知り、見舞いにと摘んでいたのだった。
「お嬢様」
声がし、ふと顔を上げるとButlerが立っていた。
「あら、どうしたの?」
籠いっぱいに入れた花束を整えながら立ち上がりMargaretは尋ねた。
「Meg」
もう一人の声がし、そのほうを向けばGeoffがこちらに向かってきていた。
「お嬢様がお見えにならなかったので探していただけですよ」
そう言うと胸に手を当てお辞儀をして出て行った。訳の分からないという顔でMegは首を傾げた。
「けがはなかったか?」
跪き妹の両手をつかみ、Geoffはそう言った。
「ないわ」
クスっと笑うMargaretを見るとほっとしたような顔つきになった。
計画が邪魔されたと感じたButlerは何かいい方法がないかと考えた。自分の息子を大切に育ててきたつもりで、自分の思い通りに動くかと思いきや自分の計画の邪魔をするばかりだった。それに息子の思い切りの行動が見られず、MargaretとEdwardとの縁談が進むたびに怒りを露わにしていた。その様子をGeoffが見るたびに怖がり、Margaretに何かをするのではないかと考えていた。
その頃、この屋敷の主人が消息不明になったとあちこちで噂が立つようになった。
「お嬢様」
考え事をしながら庭を歩いているとMargaretが花を摘んでいた。思わず声をかけてしまい、どうしたのかと尋ねられたが何と答えたらいいのかわからなかった。タイミングよく表れたGeoffにほっとしながらも二人の幸せそうな顔を見て笑いながらその場を後にした。そのばをあとに
その数日後にButlerは一人娘のMargaretに久しぶりに友人などを招いてホームパーティーをしたらどうかと尋ねた。
「でも、お母様の様態があまりよくないの」
そう俯き加減でいうMargaretに
「きっとお嬢様が楽しそうにしていらっしゃれば、奥様もよくなりますよ」
その言葉に明るくうなずいた娘にButlerはニヤリと笑った。
ホームパーティーはその数日後に開かれた。招待された客も、近くで狩りをしていた狩人のNicolasやその友人のJames、娘の友人でJamesの恋人でもあるHelenaなど多数訪れた。招かれた客は美味しい料理を食べたり、初対面の人と話したりと各自が大いに楽しんでいた。召使の人たちも久しぶりに大きなイベントがあると張り切り、主人がいなく暗かった屋敷はMargaretの笑顔とともに明るくなった。
「Edward様」
会場の隅にいた婚約者の男を見つけ、小さく手を振った。彼もすかさずMargaretの傍へ駆け寄り、Margaretは来てくれた人たちに紹介しようとした。誰もが幸せそうな二人をみて微笑んだ。
「久しぶりね、Margaret」
手にグラスを持ちながら、こちらへ向かってくる少女がいた。以前Margaretがまだ小さいときに母親の知り合いの家へ行ったことがあった。
「Helena」
2人は何年ふりの再会を喜んだ。Helenaは隣に立つ男性達を二人に紹介した。
「こちら私の恋人のJamesよ。そしてその隣がNicolas」
それからJamesはNicolasと、HelenaはMargaretと会話を楽しんでいた。
「Geoff」
ふとEdwardが会場内をチラッと見るとこちらをじっと睨みつける男がいた。目が合うと気まずそうに眼をそらしたのが見え、Margaretにちょっと行ってくると言ってGeoffが立つほうへ向かっていった。
Edwardがこちらへ向かってくることに驚いたが、彼は逃げるようなことはしなかった。だが目を合わせることはしなかった。
「Geoffという名だったな」
「…」
何も答えようとしないGeoffにEdwardは得意げになりなりながら
「先日はどうも」
と挨拶をはじめ、話し始めた。
「Margaretは知っているのか?もし知らないんだったら家族を騙してるってことにもなるが。…何れ襲うつもりなっだろうがな」
「なっ…」
その言葉にGeoffの瞼が動いた。
「ほお、どうする気だ?知られたらまずいんだろう」
「…」
挑発する口調でEdwardはさらに続けた。
「だが、Margaretに手出しでもしたらこちらもお前をどうするかわからないからな」
「…」
一か月前の満月の夜、Geoffがいつものように森の中いたらEdwardに見られたことがあったのだ。暗闇でよく見えなかったが彼に間違いがなかった。その時は自分自身も肉に食らいついていたのだった。お互いの長い沈黙が流れ、気まずそうにGeoffは顔を背けたまま、Edwardはずっと睨みつけていた。やがて「お前の正体を俺は知っている。ここでばらしてやったっていいんだぞ。覚悟しとけよ」
小さく彼の耳元でEdwardは言うとフッと笑ってその場から離れた。
Geoffは唇を噛みしめ、去っていく背中を睨みつけていた。
(誰がMargaretに手なんか出すものか。俺はお前が攫っていくと考えただけで胸が痛いのに)
噛みしめた唇は血に汚れてきた。
「お兄様?」
何事かとMargaretは聞いていたらしかった。服の裾をちょいちょいと摘ままれ、見るとキョトンとした顔がそこにあった。
「Edward様と喧嘩したの?」
「いいや、大丈夫だ」
微笑みながら答えると「血が出ているわ」とハンカチを差し出してきた。気の利く一番のお気に入りのこの娘を手放してしまうのは悲しい、いつかそうなるとは覚悟していたがあまりにも早すぎると考えた。
(ご主人様がいないからだろうか)
この屋敷には屋敷の主人が先日から行方不明になり、夫人は病を患っていた。跡継ぎは一人娘のMargaretしかいなく、自分は屋敷を任されるには値しないだろう。そうするとEdwardとMargaretが結婚したのならば、自分はどうなるのだろうか。屋敷を追い出されるのならまだしも、Edwardには正体を知られてしまっている。あの挑発的な態度では身の危険を感じた。もしそうなったら黙って受け入れるしかないのだろうか。
そんなことを考えていた夜、Geoffは父に呼ばれ、命令を告げられた。それを聞き驚いたGeoffは思わず
「この場でですか?」と聞いた。
断ろうとしたGeoffにButlerは黙ってうなずいた。父の部屋をでたGeoffは何やら思いつめた表情だった。
「Cavendish夫人を殺せ、お前ならできるはずだ」
父の言葉が大きく頭の中で何度も再生され、苦しい。自分の部屋に戻ると吐き気を催した。ドアを背に崩れ落ちるように腰を下ろしたGeoffは頭を壁に当て上を見上げた。fanが回り続けている。音を立てることなく、誰かが止めなければ止まることがない。急に露われGeoffを部屋に呼んだButlerのようだ。何を考えているのかわからず、実の息子でさえも恐ろしいと感じることが多々ある。
「殺るしかないか…」
いつも自分を気にかけ、本当の母親のようにいてくれたCavendish夫人をこの手で殺すなど父は何を企んでいるのか。だったら父がやればいいじゃないかと小さな自分が頭の中で騒いだ。その通りだ。なぜ自分に罪をなするつけるのか。父は「処理は俺がやる」といった。だが殺したことには変わりないじゃないか。神はどこかで必ず見ている。自分が過ちを犯したもの、罪のないものを殺せば、母に値する人を殺したら神は許してくれないだろう。一生この先もそれを背負って生きていくのはごめんだ。そう心の中で呟いているとドアの向こうからトントンとノックする音が聞こえた。
「Margaretか?」
思い込んだ表情を出さないようにドアを開けるとそこにはButlerが立っていた。
「父さん…」
「何をぐずぐずしている」
「…」
「…」
「嫌です」その言葉はButlerには聞こえず「早く行け」という大きな声にかき消された。それに押されるようにGeoffは走り出した。
夜中、誰もが寝静まった時、黒い大きな影が屋敷の中をうろうろした。やはりGeoffにはできないことだった。
「何をしている」
夫人の部屋の前で躊躇っている息子をButlerは睨みつけた。
「俺にはできません」
カタカタと震える声でそういう息子に舌打ちをしながら部屋に戻ってろと命令した。
その日の朝、屋敷の主人とその妻が死んでいるのが発見された。一人娘のMargaretは二人の遺体を眺め涙を流した。昨日のパーティーで残って部屋に泊まっていた人たちは哀れなMargaretをみて心を痛めた。
「Meg、とても残念なことだわ」
Helenaは跪いて泣くMargaretを抱きしめた。Edwardはある人物を睨みつけていた。その目を見て顔を背けそうになったが、それは自分が行ったと濡れ衣を着せられそうになると考え、片方の眉毛を上げ片目でEdwardを睨み返した。
「お嬢様、お伝えしたいことがあるのです」
ずっと黙って成り行きを見守っていたButlerはMargaretに告げた。
「この屋敷に殺人犯がいると思いますよ」
「へ?」
驚いた顔を見せたMargaretにEdwardはそっと彼女の肩に手を置き、Geoffを睨みつけたまま
「だったらそこにいるGeoffだと俺は考えるな」Butlerに同情するように彼はGeoffはの名前を挙げた。信頼の厚いEdwardの発言に周りもGeoffを見る目は不審なものへと変わった。
「…は?」
「お前はこの屋敷の子ではないだろ。この二人を殺せば…」
「やめろ!」
Edwardが話せば話すだけ周りの人の疑惑の目がGeoffに向いた。
「違うわ!」
その場に響き渡る声でMargaretは言った。
「お兄様はそんなことをする人じゃないもの」
「だが、Meg。その優しさには裏があるって考えたことはないのですか?」
「それならもっと早くにもっとうまくやるでしょう?」
「…俺たちに擦り付けるために今日を選んだと考えないのですか?」
「いいえ、考えないわ。逆に誰かがお兄様を陥れようと考えているのだと思うわ」
その場にいた人たちが互いに顔を見合わせた。
「なら他に誰がいるって言うんですか?」
「それは…」
Margaretは口を噤んだ。Margaretの横にいたHelenaは考える仕種をしながら
「私、犯人ってもう外へ逃げてしまったと思うわ。わざわざここにいるなんて思わないわよ」
「…そうよ」
Helenaの助け舟にMargaretはコクコクと頷きながらそう言った。その様子を誰からも見えないようにクスクスと笑っているものがいた。その日の犯人捜しは幕を閉じた。外を見ればさっきまで快晴だったはずが、その屋敷から誰も出さないという様に、天気が荒れ吹雪いていた。
「Jamesを狙え」
昨晩何も食べていなく、酷い吐き気と頭痛に悩まされていたGeoffにButlerは彼の部屋に入りそう言った。
「え?」
しつこく脅され、渋々部屋を出て行った。自分が疑われている中、このようなことをするのは気が引けた。そっとJamesの部屋を覗くとベッドの上で大きないびきをかきながら寝ていた。
(これなら何とかバレずに行けるかな…。明日の話間どうなるか不安だが…)
そう思いながらそっと首元に歯を当てると今まで感じたことのない血の味がし、慌てて体を上げるとその人の周りに紫色の煙が立ち、人狼へと変わった。
「え?」
焦っていると、Jamesが目を開けた。Jamesは口を開けてパクパクと言葉が出ないでいるGeoffを不思議な目で眺めた。自分の顔に何かついているのか、どうしてこの者がここにいるのかと聞きたいことは山ほどあったが、起き上がって目の前の鏡に映った自分の姿に驚いた。戸惑いの隠せない両者を隅の方で見ていた執事は高笑いした。次の日になり、誰も犠牲者が出なかったことに誰もが喜んだ。嵐はまだ続き、Margaretは止むまでここにいたらどうかしら?と提案し、全員がそれに賛成した。その中で、Jamesは集まった人たちを見て悲しそうな顔をした。小さく手を上げ
「実は僕が狼なんだ。昨日の夜、自分の姿を見て驚いた…」
その言葉を聞いて彼の恋人は驚きつつも、支えになろうと彼に近づいた。来るなという風に手を前に差し出した。だが何も躊躇いもなく彼に近づき抱きしめた。
「関係ないわよ、それに一昨日の夜は一緒にいたじゃない」
「そうだけど…。こんな姿じゃ…Helenaが…」
その二人の様子を楽しくないと思っている人物がいた。執事だった。他人の幸せはロクでもないと考えていたからだった。冷たい表情のまますかさずポケットから拳銃を取り出し、彼の額に命中させた。誰もが言葉を失い動けず、その中で彼の恋人は彼を抱きしめ、Margaretは可哀そうな彼女のそばに寄り添い共に泣いた。その日はそれで話し合いも終わり解散となった。Edwardが彼女を呼び止め「まだ人狼がいるらしいな。大丈夫か?一人で」とGeoffを睨みながら心配そうな顔をした。
「いいえ、いないわよ」
「君は何も知らないんだ。奴がどういう者なのか」
「知っているわ、でもお兄様は誰かを襲ったりはしないの。私の大好きなお兄様なんだから」
その言葉を聞き、納得のいかないという顔をしながらも優しくキスをして
「戸締りはしっかりしとけよ」と言った。その様子をGeoffは眺めていた。
そんな夜、Margaretがそろそろ寝ようと読んでいた本を閉じかけたとき小さくトントンと扉をノックするものがいた。
「誰?」娘が小さな声で尋ねると
「お嬢様、ちょっとお話が」と執事の声がした。切羽詰まったものの言い方で何事かとMargaretは扉を開けた。
そんな中、館には黒い影が別の扉の前でうろうろしていた。
「何か物音がする」
自分の部屋の前でウロウロする不審な音に耳を澄ませながら何か武器になるものはないか探していた。閉めていたはずの扉が一人手に開き、中にいた人を驚かせた。だがすぐに顔を変え、ニヤリと笑った。
「やっぱりお前だったか」
「…」
「わかってんだ、Geoff。フードを外したらどうだ」
その言葉に耳を貸さず、
「すまないが、俺はお前が嫌いだ。手出しはしたくなかったがな」
とフードの影から赤い目を睨ませた。
「Jamesはなぜおまえの仲間になったんだ?」
「さあな」
ゆっくりと近づいてくるGeoffから後ずさりしながらEdwardは尋ねた。
「俺を殺して何になる。Margaretが泣くんだぞ」
「黙れ!」
Edwardは押し倒され細いGeoffの力に恐怖を覚えながらもそれを顔で出すまいと努力した。もう主人も夫人も死んだ。明日になれば追い出されるか殺されるのだろう。ならばここで殺しておくしかない。自分の身のためにも。
「Megに手を出したお前を許さない」
「どの口が言うか、先ほども言ったがMargaretを泣かせることになるんだ」
「黙れと言ってんだ!」
ものすごい剣幕にEdwardは口を噤んだ。Geoffは腕を振り上げ、Edwardは顔を背け目を閉じた。
銃声音が聞こえ体の上にあった重みが消え倒れる音が聞こえた。目を開けるとGeoffが血を流して倒れていた。
「…」
「大丈夫か?」目の前には銃を持っていた男が立っていた。
「あぁ…」
ゆっくりと立ち上がり、服をはたきながらそう答えた。
「後をつけてたんだ。やっぱりこいつだったか」
Edwardは歩き出そうとしたが、何かがズボンのすそに触れた。Geoffが這いつくばったまま片手で傷口を抑え、最後の力で強く握りしめていた。Nicolasは再び銃を構えた。それをサッとEdwardは阻止し
「Geoff…君がしたことは許されない」
「…くっ…」
血を吐きながら歯を食いしばる彼は小さな声で「Megを…」と言い出した時Nicolasは構えた銃で弾を放った。それはGeoffに命中し、彼は息絶えた。
銃を持った男はGeoffのフードを外した。
それを一部始終見ていた男は唇を噛みしめながら
(使い物にならなかったか、だが少しはいいものを見せてくれたな)
と考えニヤリと笑った。
次の日の朝、ロビーで昨日死んだ男と重なるように幸せそうに眠りについたHelenaが発見された。この数日間で5人の人物が死んだ。これ以上は見たくない。そうEdwardが思った時ふと誰かがいないのに気付いた。
「Margaret」小さくそう言うと弾丸に弾き飛ばされたかのように駆けだした。「Edward、どこへ行く」後ろから自分の名前を聞きながら暗くなった廊下へ駆けだした。
続きます♪