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Claire  作者: 園田 楓
4/7

Judy And Tutor

1860年代のとある国が舞台のお話です。

Hooker家の娘の一人でもあるJudyと彼女の家庭教師のラブストーリー

一応その年代の時に書かれた書式を真似ていますが

勉強不足で辻褄が合わないところがあるかもしれません。

Judy Hooker   

Cassie Hooker Judyの姉 

Dean Brain  Judyの家庭教師 

Rocky    Hookerの家の犬


 「きっと帰ってくる」

そう言ってDeanが兵隊さんとして出て行ったのは1860年代だった。幼馴染のJudyは犬のRockyを抱いて泣かずに手を握った。


 Judy Hookerは市内より少し片田舎に住む少女だった。家には大きな絵が何枚も飾られ、彫刻や色々なものが入ったキャビネットやらあらゆる豪華なものが並んでいた。

その中でJudyは隣に立つ家庭教師の下で勉強をしていた。その家庭教師の名はDeanと言った。Judyより少し年上の青年だった。

「じゃ、今日はここまでにしましょうか」

Judyはペンを放り投げ伸びをした。やがてレディーのすることではないと思いサッと元の体制に戻るが疲れたものはどうしても取れなかった。お気に入りの自分専用のソファーに座り、自分の道具を片づけているDeanを眺めた。

「Dean」

小さな声で聞こえるか聞こえないかの声で彼の名前を呼んだ。彼の耳には届いたらしくこちらに顔を向けた。何を話せばいいのかわからず、ただ名前を呼んだだけだった彼女はちょっと口元を歪ませ照れ笑いをして見せた。優しいDeanをJudyは好きだった。Deanは昔は裕福な家の子供だった。だが数年前からの兄の浪費が重なり莫大な借金を抱え、それを親が肩代わりをしたためであった。彼の家はお金も無くなり今までの生活は一変した。友人も形ばかりの上っ面の関係だと思い知らされたのはその時だった。それからしばらくして近くに住むHooker家が家庭教師を頼んだのだった。彼女の家は昔からBrainとの知り合いだった。だが彼自身は娘の2人を見たことはなかった。初めて見たとき、Judyは白く透き通るような肌をしていて、バラ色の頬や小さな唇が可愛らしかった。目は大きく輝き、髪色はブラウンで肩にうねらせ垂らしていた。そんな彼女と話すうちに楽しいものとなり、かつての自分に戻れたような気がしていた。そのため少しは家の為になるといってそこへ通うようになった。

 ある日、DeanがいつものようにJudyの家へ向かっていった。その途中に小さな犬が足元へ寄ってきた。その犬は可愛らしくまだ子犬で近くを見れば捨てられたような跡があった。

(かわいそうに)

そう思って抱き上げると、可愛らしくなついてきた。

 玄関のチャイムを鳴らし、扉が開いた。中から彼女が顔を出し、目ざとくその子犬を見つけた。

「どうしたの?」

そう聞きながら撫でる様子をみて彼は今までの経緯を答えた。Judyは聞きながら膝の上に置き、頭をなでていた。

「始めるよ」

犬を抱き上げ、本を渡そうとするDeanにJudyは「嫌」と言った。

「教養って言うけどいつ使うのよ」

「社会に出て困らないためです。浅い人間は馬鹿にされますよ」

「…」

それは嫌と俯くJudyに笑って優しく頭を撫でた。何事も素直なこの娘をかわいいと彼は思った。それでもJudyは真面目に勉強したかといってもそうでもないだろう。時にはお腹すいたと階下へ行ったり、うたた寝してみたりとDeanを困らせた。彼も何か月も彼女を見てきているので「これが終わったらご褒美」と彼女のやる気を食べ物で釣ったりと楽しんでいた。

 Cassieはそっと二人の様子を見に来たこともしばしばあった。妹の幸せそうな顔を見れば先日の悩みなどどうでもいいことのように思えてきた。

「あれだけ言ったとしても結局あの方がいいんじゃないの」

そう微笑ましく笑った。時にはCassieも勉強が終わった後に、二人のためにお茶を用意したりするなど何かと妹とBrainが近くにいられるように努めた。暫くしてその子犬にはRockyという名がつけられた。あまりにもJudyがその子を気に入ったので彼はその子犬を渡した。

「今日からあなたは私の家の子よ」

そう言って何するときも近くにおいて置き、RockyもJudyに懐くようになった。


 「今日はなんだか楽しそうですね」

いつもと様子の違うJudyににこやかな表情で尋ねたのはそれから三年後だった。

待ってましたとばかりにソファーから飛び降り机から招待状を取り出した。

「私ね、舞踏会にご招待されたのよ」

その手紙を胸に当て、嬉しそうに微笑んだ。

「よかったですね、社交界の仲間入りですね」

そうDeanは笑っていった。彼女はぱっと顔を上げ、彼の首元に抱き着いて喜んだ。

 パーティーは面白いものだった。姉のCassieにあれこれマナーを教えてもらいながら楽しむことができた。会場に着くと大きな場所に来たような気持になり、あっと驚かされた。綺麗な大きいシャンデリアが真ん中に吊るされ、大勢の人たちが集まっていた。

「あら、Judyじゃないの」

そう声をかけたのは以前彼女の隣に住んでいた、Sarahだった。Sarahの家は実業家で主人が大役を果たし、高い位に上り詰め成功した人物だった。Sarahを溺愛し、彼女以外はかわいいものはいないと思い込んでいた。父親なら誰だってそうだと思うけれど、この人物はほかの少女を貶してさえもいたのだ。中には白い目で彼らを見る者もいたが、この家の主人に嫌われることで仕事がなくなり人も大勢いた為、見て見ぬふりをしていた。そんな父親の下で育ったSarahも高慢な態度をとるようになった。そんなSarahと仲のいいJudyはそのような様子は見せず周りの人たちからなぜあんなSarahと仲いいのかと不思議がる人も少なくなかった。だけれどJudyは自分と正反対な性格のSarahがお気に入りだった。何かと嫌みのようなことを言ってくるけれど彼女自身がそれを深く考えず流していた。他にも昔からの懐かしい女の子が数人おり懐かしい気持ちになり、こちらの会話にさりげなく入ってきた男の子達と一緒にお話をしたり、お菓子を食べたりと気分はもう貴婦人そのものだった。その様子を見ながらCassieは自分自身の知っている友人を見つけ話し始めた。

「いつも何をして過ごしていらっしゃるの?」

友達のSarahは片手にグラスを持ちながらJudyに尋ねた。Judyは日ごろの生活を話して聞かせると家庭教師の話でSarahは楽しそうに聞き入った。

「貴女に恋人がおありなんて知らなかったわ」

「違うのよ、家庭教師の先生なの。とっても優しい方なのよ」

「その方はおいくつ?」

違うといってもSarahの目はキラキラとしていて変わらなかった。それから何かを思いついたような表情になり

「私、前まであなたの家の近くに住んでいたでしょう?そこの住まいには誰かお住まいになったの?」といった。

「いいえ」

「そうよね、あのあたりって家が狭くて私には我慢できませんもの」

Judyの顔が引き攣りそうになるのを知らず、大きな声で自慢するような口調でSarahは更に言葉を続けた。

「貴女も私どもの街に越して来たらいいのに」

「でも、今のところが好きだもの」

「貴女にはあのような場所がお似合いなのかしら」

Sarahと話すたびに近くにいる男の人たちが下がっていくように見えた。その様子を見てだんだんと悲しくなった。笑顔を絶やさずにしてきたが意識をしないと涙が出てきそうだった。自分の計画がダメにされたような様な気分になった。

 Sarahは自分ではなくJudyに近づこうとしているのが目に見える男の子を排除しようと企んでいた。自分には婚約者はすでにいたし、このパーティーで恋人を探そうだなんてはしたないことだと考えていた。他にも自分ではなくJudyにっていうのが気に入らなかった。自分のほうが優れており、周りからよく思われるような努力は他人よりもしてきたと思い込んでいた。Judyの近くに男がいればなおさらのことだった。どんなに家庭教師で身分が違うからと言っても、そのことを話題にしていれば恋人がいるように思わせることができる。彼女がどんなに違うと言おうがお構いなしだった。

 帰り道、馬車乗りJudyは揺れに任せながらぼーっとしていた。今までの元気でキラキラとした目つきは違っていた。

「どうしたのよ」

隣に座り、一点を見つめて黙っている妹を不思議そうな目でCassieは尋ねた。

「…」

姉の質問に答えずただずっと黙っていた。

「元気ないわね、向かうときはあんなに楽しみみたいな顔をしていたのに…。疲れちゃったの?」

「…うん」

「そう。初めてですものね」

姉はそう言ってニコッと笑った。Cassieも窓の外を眺め2人の沈黙の時間が流れた。

「…お姉さま」

体も目も動かさないままJudyは小さな声で姉に尋ねた。Cassieには一瞬独り言のように聞こえたが自分を呼んでいるのだと気づき「なあに?」と聞き返した。Judyは今日あったことを手短に話して聞かせた。姉はその話を聞いて悲しそうな顔をしながら「そういう人はいるものよ」といった。Judyは静かに涙を流した。世間を知らなかった自分が愚かだったと思い知らされた。早くDeanに会いたい。となぜかそのときに思った。Sarahは教養なんてものはいらない。面白おかしく暮らせるのがいいのよ。って言っていた。だけれどDeanは違うことを言っていた。

(お姉さんはどういう考えなのかしら)

Cassieはフランス語やスペイン語を習得し、話せるようになっていた。何事も幅広くやってのける姉がいつも羨ましかった。憧れだったし、尊敬しているに近かった。Deanからも少しずつ習ってはいるけれどなかなか習得することもできず、簡単な文章ならわかるけれどといった具合だった。

 その日の夜は暗い気持ちのままベットに入った。

 

「昨日はどうでした?」

次の日、Deanは本を広げながらソファーでうたた寝しているJudyに尋ねた。

「たのしかったわ」

「…そうですか」

Judyは立ったまますっと自分の持っている本を取り上げ、ページをめくっているDeanの顔をじっと見つめた。彼の顔は整っていた。黒く長い前髪から覗く切れ長の目は時に鋭くなり、時には優しくなる。鼻筋はスッと通っており口元はきりっとしていた。細く長い骨ばった手足を持っていて声は穏やかだった。Judyはそんな彼を見ながらもしこの人がお金持ちの紳士だったらと考えた。そんなことは口に出しても言えなかった。彼女は彼の過去を知らなかった。

「どうかしました?」

視線に気づきDeanは顔をこちらに向けた。

「あなたの顔みていたの」

「…それで?」

「素敵だなって」

Deanは顔を少しそむけた。いつも表情を中々変えないDeanが照れているのがわかり思わず笑ってしまった。

「元気が出たわ。ありがとう」

訳のわからないといった顔を見せたDeanに

「Dean、ずっとここにいてくれる?」

と尋ねた。自分でも驚きなことを言っているのは百も承知だが言わなきゃって思った。昨日のパーティーのようにあんなような人たちに会うのはごめんだった。Sarahではなく他にいた女の子たちもやけに着飾り、作り上げた顔で男に媚びるなどJudyはしたくないことだった。ありのままで、誰からも嫌みのようなものを言われることのない生活を送りたいがJudyの夢となった。

「…旦那様から契約を切られなければ…」

「…」

確かにそうかもしれないと俯いて何かを考えるしぐさを見せたかと思うと彼女は笑顔で

「私がさせないわ。だって好きなんですもの」

長い間自分の心に秘めていたものがはっきりとわかった気がした。意識しだすととたんに顔が赤くなった。Deanはニコッと笑って「ありがとう」と返事をした。Judyは昨日あったことを手短に話をした。彼はその話を面白そうに聞きいり、時には笑っていた。以前自分の家でパーティーが開かれた時を思い出していた。

「わかる?私が嫌なこと」

静かに頷く彼を見て味方がここにいると嬉しくなり彼に飛びついた。

 その次の日から、Judyは勉強を教えてもらうたびに前の日のことを思い出し、Deanの顔を見るたびに中々頭に入らなくなった。

(言わなきゃよたったのかしら)

意識するたびにそう思うようになった。そんな様子をCassieも知っていた。彼女の赤くなったり、青くなったりするのを見て可愛らしいと笑っていた。暫くして二人の主従関係は薄れ勉強が終わってもずっと話すようになった。Dean自身もこんな可愛らしい娘からの告白は喜ばしいもので決して今後あり得ないことだと思い込んでいた。

 Judyは彼の過去の話を聞かされ驚いた。

「あまり家のことは話すのはどうかと思いますが…」

と付け加えながらJudyの質問に丁寧に答えた。


 だが、二人の幸せは長く続かなかった。

 それから数か月後、Deanは家に帰ると彼の父親が彼に出征をと命令したからだった。Deanは泣くことも嫌がる風も見せず頷きそれを受け入れた。自分には受け入れざるを得ないものだと考えていた。この時には兄は戦死していた。足の悪い父さんが戦争に行けないため、誰がやると言ったら自分だけだった。

 出征前の日、可愛らしい少女になんて伝えようか考えながら彼女の家に向かった。チャイムを鳴らすといつもの笑顔が玄関から飛び出し、首元に抱き着いた。

「待っていたわ」

その笑顔にDeanは彼女を抱きしめながらもまた更に暗い気持ちになった。彼は自分の立場を忘れ優しく2、3回キスをした。驚いて顔を上げるJudyに笑いかけ、今日は勉強はしない代わりに、彼女をソファーに腰掛けさせ小さくことを話した。Judyは驚き、そっと涙を流した。

「泣くんでないよ。この戦争が終われば帰ってこれるから」

「どうしても行ってしまうの?」

涙を流す彼女の頬に触れ優しくうなずいた。

「お国のためなんだ…」

「…」

「きっと帰ってくる」

隣に座るRockyも寂しそうにクゥンと鳴いた。


 Deanが去ってからJudyの心は暗いままだった。Cassieは街に出てお買い物でもして気分を紛らしてくればいい。と提案してきたがその気持ちにもなれなかった。

「貴女が明るいほうがBrainさんも元気でいてくれるんじゃないかしら」

ある日、針仕事に手もつかずぼーっとしているJudyにCassieは言った。

「お姉さま、どうしてそれを?」

何も知らないと思っていた姉からすべて見透かされているような目で見られたことにちょっと顔を赤くしながらJudyはそう聞いた。

「貴女の考えていることぐらいわかるわよ」

「…」

「心の中で応援しているんでしょう。あの方立派な紳士だったものね」

「…身分差さえなかったら」

「あら、そんなことは関係ないと思うけれど」

Judyのお気に入りのソファーに腰掛け、クッションを抱きながらCassieは答えた。Judyは姉が淹れてくれた紅茶を飲みながら、小さく

「…お父様は何ておっしゃるかしら」とつぶやいた。

「さぁ、それはあなたのお話次第よ」

いたずらっ子のように笑いながら言う姉に

「…お姉さま、助けてくれないの?」と聞き、

「自分のことよ?お父様を説得できなかったらそれまでってことよ」

と真剣な目でJudyに言った。

「いじわる…」

半泣きな顔で言う妹にさらに追い打ちをかけるように

「いじわるで結構。貴女がそれくらいしかあの方を見てなかったってことなのよ」と言った。

「…」

Cassieは妹の頭を優しく撫でた。自分よりも年下でまだ子供だって思っていたけれどもう大人なのねと考えていた。

 姉はいつも家庭教師が帰る時になると妹が寂しそうな顔をするのを何年も前から見ていた。この間のパーティーで悩みを聞かされ、本人が自分の気持ちに気づいていないのかと不思議に思ったが最近になって二人の距離がさらに縮まっているのを見て自然と笑みがこぼれるのだった。それはCassieだけではなかった。彼女たちの両親もそれを秘かに知っていた。もし、Deanが貧乏人で教養もなく乱暴な人だったら両親も反対していただろう。だけれど二人の様子からそれは見えずむしろ大事にしているようにも見えた。そして秘かにJudyは部屋に女の人とその赤ん坊の小さな絵を飾り、毎日Brainの帰りと無事をお祈りしていた。

 ある日、Judyは久しぶりにSarahからお茶会に誘われた。断る理由がなく、彼女は行くことにした。

「久しぶりね、あのパーティーからかしら?」

玄関先でSarahは派手な服装で迎い入れた。

「…そうね」

中々Judyの心は晴れず暗く返事をしてしまった。そんなJudyにSarahの何かあると気づき、

「美味しいものを食べれば心も晴れるわよ。今日ね、イギリスの方から頂いたものがあるのよ」

何か気を使わせているのかもと慌ててJudyはにっこりと笑った。

「あなたの好きなビスケットよ。ほら前に食べたじゃない」

それを聞いてぱっと顔が明るくなった。Judyは美味しいものに弱く、どんなに辛いことがあると食べればその時は忘れてしまうたちだったのだ。それを見て微笑みながらSarahは部屋を案内しながらJudyとの会話を楽しんだ。お茶もお菓子もとてもおいしく感じた。Sarahはあれから家庭教師の人は?としきりに聞いてきた。Judyはそのことには触れず、違う話題に変えようっといった。Sarahにも彼女が何かを隠していることはすぐに分かった。触れるのも嫌そうなので珍しくSarahも触れず聞きたいことは心の奥にしまい込んだ。

「毎日、奇麗なものを着て面白おかしく暮らしてるこの毎日がほんとに楽しいのよ」話題を変え、Sarahは今の生活に満足している風に言った。

「そうね」

「1日あってもやりたいことは終わらないのよね」

「馬車に乗って、町散策して?」

手に持っていたカップを置きながらJudyは尋ねた。

「そうよ、今度の舞踏会に何を着ていこうか悩んでみたり」

キラキラした目でSarahはそう言い、その様子見て微笑みながら笑いながら隣に座る少女は言った。

「本を読んで、編み物をするのも好きよ」

「貴女、おばあさんみたいね」

「あら?そういったことはお嫌?」

「えぇ」

二人はクスクス笑ってこの先やりたいことを話し合った。少し話が途切れ、Sarahはポツリと言った。

「私って、早く結婚したいわね」

「あら、どうして?」

「家庭を作るって素敵なことじゃないの」

「そうね」

Judyはまた暗い気持ちになった。いつになったら終わるのだろうか。Brainが頑張っている中、こんな贅沢みたいなことをしていいのか。何かバチが当たるんじゃないかと不安になった。そんなJudyの様子を察し、Sarahは背中をさすった。

「どうしたの?」

「なんでもないのよ」

無理に笑顔を作って見せた彼女に

「何か悲しことがあるなら言ったらいいのに。私誰にも言いませんもの」

「本当かしら?」

「えぇ」

半信半疑でSarahの顔を見るJudyに「お互い何か秘密を話せばいいじゃないの。そうすればお相子よ」と提案した。その提案が気に入り、Judyが

「先に貴女から話してちょうだい。私、どこから話したらいいのかまだ頭のセイルがつかないのよ」

「わかったわ」

Sarahは自分に婚約者がいることや、家庭の事情など本当に誰にでも言えるはずのないことを話し始めた。

「私実際に見て驚きましたの」

「それはそうでしょう。見て見ぬふりするしか仕方ないわよ」

高慢な態度を見せていて、何もかも完璧そうで全てのことに満足いっているように見えたけれど実際には違うのだと考えさせられた。段々と俯き、声が小さくなっていくSarahの背中を擦った。

「お願い、絶対に誰にも話さないで頂戴ね」

「言わないわ」

「次はあなたの番よ」

Sarahのような深刻の話題ではなさそうだなぁと思いながら彼女なりの不安な話を友人に伝えた。Sarahも真剣になって聞き入ってくれ、話し終わると神妙な顔つきになった。

「私が何かをしてどうのってないと思うのよ。神様にお祈りするしかないの」

「そうね、きっと貴女の恋人なんですもの、神様が守ってくださるわよ」

「そうね、ありがとう」

しんみりとしたお話も終わり、お茶会はそれでお開きとなった。Judyは家につきいつものように一つの部屋に向かった。そこには立派な絵が飾られ、絵の中には母親と小さな赤ん坊が描かれている。そっと両手を合わせ遠い場所にいる人のために、その人の安全を願ってお祈りをした。

「あの方をお守りください」


 ばちがあたったと彼女は思った。それから数日後腕の一部分に小さなできものができているのが見えた。熱も高く頭痛がするのでJudyは部屋から出なかった。

「Judy?」

と姉がドアの前で戸を叩くが「来ちゃダメ」というばかりだった。

Cassieは心配になり母親を呼んだ。その年、Judyの街に天然痘が流行した。

 彼女はまだ軽いほうだった。できものも腕だけに集中していた。Cassieは涙を流した。先日お茶会を開いたSarahも掛かっていたのだった。Cassieは近くに寄ってはいけないと言われ、Judyは隔離された。中に入っていったのはお医者様だけだった。その病気は感染力が高いものだった。そしてJudyの熱は一向に下がる気配がなかった。40度を超えることもしばしばあり、Rockyは大好きなご主人のお嬢様のもとに来たがっていたが、病気がうつるかもしれないと彼女が頑なに部屋を通さず、一人部屋でお人形を抱きながらうなされていた。

Cassieは耐えられなくなり、ある日Brain宛に手紙を送った。届いても届かなくても妹のためなら書かざるを得ないと考えたためだった。高熱で魘される妹の声が聞こえ、どうしたらいいのかわからず、針仕事にも集中することができなかった。姉は以前妹が作った小さなチャペルに足を運び二人の無事をお祈りした。

「主よ、お二人をお守りください」

そっと涙を流し、両手を合わせてお祈りする一人の少女の影が小さく見えた。外は雨が音を立てて降っていた。


 1865年戦争は終わった。片手を負傷し包帯を巻いたDeanは届いた手紙を握りしめ、急いで帰りたいという気持ちに駆られた。手紙がその日に渡され、封筒にはあちこち回ったような跡があった。急いで封を切り中を開くとJudyの姉からだった。

『ご無沙汰しております。そちらの様子はいかがでしょうか。』と前置きがかかれ最後の方にJudyの様子が書かれていた。

『お忙しいのもわかっております。ただ伝えなければと思い手紙を書かせていただきました』

手紙を読み、Deanは帰れると分かった時走った。今までよりも速く走った。

(無事なんだろうか)

電車に乗りながら、行く前に彼女に渡された二人の写真を膝の上に置いた。ずっと持っていた為写真は少しボロボロになり。色も日に当たり褪せていた。そのうち遠くを見つめ可愛らしい笑顔を思い出していた。

 Judyの家にたどり着くとCassieは優しく出迎えてくれた。

「Brainさん…」

「Judyは?」

「二階に…」

そう聞くが早いかDeanはJudyの部屋へ走っていった。Cassieの声を背中から聞こえたが耳には入らなかった。早く彼女の安否を知りたい。そう気持ちが焦っていた。

たどり着き、ドアを開けるとベットの上に眠る少女がいた。少し布団からはみ出した腕は細く、包帯で巻かれていたがちらりと見える部分は白かった。彼女の辛そうな表情は消え、穏やかな顔で眠っていた。Deanは優しく手を握り涙を流した。握っている手の中で何かが動いたような感じがした。

「Dean」

Judyはゆっくりと目を覚ましにっこり笑った。

Deanはほっとした顔になり優しく彼女を抱きしめた。


 それからJudyの症状も安定し、数週間後にはゆっくりだが歩けるようになった。腕の後もあまり目立たなくなり、彼女自身の不安の種が消えつつあった。

そんなある日、一人の紳士がJudy達の下に訪ねてきた。その人はJudyの叔父さんだった。

「Judy、大きくなったな」

JudyとBrainが話している元へつかつかと歩み寄りおでこにキスをしながらそういった。

横にいる人物に気づき、叔父さんは掛けていた眼鏡を少し下げじろりと睨んだ。

「お父様をお呼びしましょうか?」

気を聞かせてJudyはそういったが「いい」と断り、ひたすらBrainを眺めていた。

「…どこかで会いましたかな?」

長い沈黙の後叔父さんはそう聞いてきた。

「こちら、私の叔父様のMr,Hokierよ。そして私の家庭教師のMr,Deanよ」

Judyが慌てて二人を紹介すると、叔父さんは何かに気づいた様子で頷き、Brainは慌てた様子で丁寧なお辞儀をした。

「Deanか…」

「ご無沙汰しております」

2人の様子に首を少し捻った。


 叔父さんに呼ばれ、Judyは叔父さんと廊下へ出て行った。

「あの者を家庭教師にか…」

「どうなさいましたの?」

叔父さんは長々と彼の家柄を悪くJudyに伝えた。

「知っているわ、だけれどそれが何だっていうの?」

「いいかい、Judy。悪いことは言わない。今日はね…」

と彼女に叔父さんの今日やってきた目的を話し始めた。

「嫌よ…それにDeanを悪く言うなんて…私は好きな人と結婚いたしますわ」

「君のためを思って言っているんだ。もう少し大人におなり。…あの男がここに近づいたのも君が金持ちの家柄だからだよ」

「叔父様、変なことを言うのはやめてください。Deanはそのようなお方じゃありませんわ」

Judyは感情的になり足がふらつくのを必死にこらえ、弱みを見せまいを強く言った。

「それに…私は、今一緒にいられるだけで幸せなんです」

「それを言っていられるのも今のうちだよ」

そう思い直して貰おうと説得を試みたが、Judyの心は変わらなかった。それを叔父さんも気づき「やれやれ」という風に頭を抱え

「君には何を言っても無駄のようだね。…まぁやってみるがいいさ。泣き寝入りしたって知らないよ。…うちの息子をやろうという気にもならなくなった」

と怒りを露わにその場を立ち去ろうとした時、Judyの緊張感が解けフラっと倒れそうになった。近くで様子を見ていたDeanが駆け寄り彼女を支えた。

「Judy、愛してる。君が先ほどのようなことを言ってくれたことは感謝している」

「いいえ、私あなたのおそばを離れたくないんですもの」

「君が僕のことを考えてくれるまで待つつもりでした。この場限りの言葉ではございませんよ」

Brainの真剣な眼差しでJudyの頬は赤くなり彼の胸元に顔を埋めた。幸せな空気が二人を包み込み、Mr,Hokierも何も言えず立ち去った。

 入れ替わりでCassieが入って来た時は彼らの表情がさらに生き生きとし妹の幸せな顔をみて犬のRockyと顔を見合わせにっこりと笑いながら、心の中で祝福の言葉を述べた。


続きを書くかもしれません(*- -)(*_ _)ペコリ

(かもしれない)

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