Claire
Claire Ashbery (クレア アシュベリー)Rose Florence (ローズ フローレンス)
Veronica Haynes
Albert Wesley (アルバード ウェスリー)
Oliver William
Peter Ward (ピーター)
Robin Brown (ロビン)
二人の子どもたちが楽しそうに遊んでいる。
「Claire、こっち来てみ」
Claireと呼ばれた少女は声がする方へ走っていった。
奥ではテラスのテーブルにつきお茶を楽しんでいる婦人が二人子どもたちの様子を見て微笑んでいる。
5歳になったClaire Ashberyと8歳のAlbertWeslyの楽しそうな声が庭の中に響いた。
それから10年後…
「お父様、どうして?」
Ashbery家の食堂でClaireは作法を忘れて思わず大声をあげてしまった。一人の男性が申し訳なさそうにCaireに言った。
「すまんな、こんなことになってしまって。もうこのご時世だ。貴族も生きてはいけない…」
「そんなこと…。なら私たちはどう生きていったらいいのよ」
Claireは魂が抜き取られたかのようにストンと椅子に腰かけた。
この時代のこの国では市民の反乱が勃発し、目に余ると言われている貴族は片っ端から殺していくと言う風習があちこちで起きていた。Ashbery家の騎士もそれを止めようとしたが、市民の反乱は思った以上に大きかった。周りの地域の貴族もいくらか家を失い、残虐されたものもいたという話は耳にしていた。
(ありえない。ここを出ていかなければならないなんて)
Caireは涙を流した。
「Caire、お前は今夜でもそっとこの家を出ていきなさい。もうすぐ敵はやってくるはずだ」
「お父様や、お母様たちは?」
そうCaireが言った時だった。召使のHannaが血相を変えて食堂に飛び込んできた。
「反乱軍です!もう門の傍まで来ています」
Claire達は慌てて食堂から離れ、Mr,Ashberyは家来たちに命令した。Claireはこの家に残ると言ったが、両親に押されるようにある程度の荷物をまとめClaireは家を出て行った。
(いったい私が何をしたって言うのよ。元はと言えばお父様のやり方が間違えていたのよ。)
Ashbery家は◆◆の山の中の大きなお屋敷で、そこに住む市民を統括していた。いわば領主の家柄だった。Caireはピンク色の髪が特徴の娘で、キリっとした目元は時にはやさしくなり、街の一番の美人と言える。
「今更どうこうなんて言えないわ」
行く当てもなくそっと裏から逃げたClaireはただ一人ぼっちで山を降りていった。Claireにとっては山を下りるのさえ困難に思われた。それも市民たちに会わないように深く帽子を被り、スーツケースを握りしめて歩いて行った。
「Ashberyの家の娘はどこだ!」
そう遠くから声が聞こえる。恐る恐る後ろを振り返り、誰もいないのを確認すると走って坂を駆け下りた。
やがて街についた。この街はかつてAshbery家が統括していた場所だった。
(私を受け入れてくれる方はいるのかしら)
一つ小さな家を見つけた。以前Claireの靴を作ってくれた優しいお爺さんの店だった。「お爺さん」
小さくトントンとドアを鳴らした。しかし反応はなく中からも音が聞こえなかった。
次にドレスを作ってくれた優しいお婆さんの家へ向かった。そこも誰もいなく恐らくClaireの家へ向かったと思われた。
やっと唯一扉を開けてくれた者がいた。小さな金物店だった。
「Claire…」
「こんにちは、おば様」
小さく挨拶をすると金物店のお婆さんは
「ごめんね、Claire…。私はあんたを助けることはできないよ…。Claire、貴女は何も悪くないのに。…私が街にいられなくなっちゃうんだよ…」
「…」
「これを持ってお行き」
とそのお婆さんは紙袋にいくらかのパンなどを入れてくれた。
「…ありがとう、おばさま」
「これしかできなくて申し訳ないねぇ」
そう言うとパタンと扉を閉じてしまった。
Claireはまた一人になり、どうしようかとうろうろ歩いていると何かが帽子に当たった。
「きゃ…」
何かとClaireが後ろを振り向くと小さな男の子が石を投げてきたのだった。
「おねぇちゃん、大きな帽子をかぶってる~。かぁちゃんが言ってた。貴族だって!」
そう大声で言うとまた石を投げてくる。小さな男の子の声を聞き、大人たちもやってきた。
(まずい)
Claireは慌てて、その場から離れスーツケースを握りしめたまま走った。
外へ出かける時は常に馬車だった彼女にとって炎天下の中歩くのは辛い。それに無我夢中で走ったので何処だか全くわからなかった。
たどり着いた先は広い芝生で下は崖になっていた。
「いっそ死んでしまえたら…」
下を見れば木が生い茂り土など見えなかった。だけどClaireにはそんな勇気はなかった。怖くなり芝生にしゃがみこみ、Claireは泣いた。散々泣いた後Claireは帽子を取り、風に髪をなびかせた。太陽は赤くもう日は沈もうとしていた。
何日間ここにいたのだろう。Claireはボーっと何も考えずに傘をさしその場に座っていた。
「あの…」
後ろから声がした。
「道に迷ったのですが、どこか教えていただけませんか?」
振り向くと一人の青年が馬に乗っていた。その横には一人のお付き人がいた。
「どちらへ行かれるのですか?」
「Ashbery家へ、以前来たことはあったんだが、ずいぶん昔のことでね」
「Ashbery…」
ぽそっと呟くClaireにその青年は「そう」と頷いた。
「…もうその家はありませんの」
「どういうことだ?」
Claireは他人事のように、涙をこらえながら訳を話して聞かせた。
「そうか…なら、そこのClaireはどこに?」
「ごめんなさい…私には…」
ふと青年の隣の人物がなにやら彼に耳打ちをしていた。内々での話だろうと「失礼します」と膝を軽くおりお辞儀をしてその場から離れようとした。
「君!」
もう一度呼び止められ、振り向くとその青年は馬から降りこっちに向かってきた。
「君、名前は?」
「…」
ここでこの人に話してもいいのだろうか。躊躇している彼女に
「Claire」
と彼女の名前を呼んだ。驚き顔をあげると
「やっぱりそうだ、この街でピンクの髪はClaireだけなんだよ。僕のこと覚えているかな」
そう優しい声で聞いてくる。よく見れば見覚えのある顔だった。
「Albert!」
彼は濃い青色の髪の青年で町一番の顔だちをしていおり、Wesly家の一人息子だった。
「君にここで会えるなんて」
彼の馬に一緒に乗り、「僕の屋敷に行こう」と彼は言った。Claireは涙を浮かべ首を振りながら
「私はもうあなたに釣り合う身分ではないのよ」と言うと
「そんなことはどうでもいい。ずっと君を愛しているから」
Albertはそう言うとClaireを抱きしめた。
「何年ぶりだろう、こうして会うのは」
「お互い忙しくて中々会えなかったですものね」
Claireは自分の居場所を認めてくれたことにうれしく感じた。
ClaireとAlbertの両親は友達だった。二人が生まれた時からもう結婚は決まっていた。それもあって、幼い頃はよく二人で遊んでいた。
「Claire、君の家のことはわかったよ。だけどそのことは僕には関係ないんだ。一緒にいたいんだよ」
それからWesley家つまりAlbertの屋敷にたどり着いた。
「父上!」
屋敷の前の階段で息子の帰りを待っていたMr.Weslyがその声を聞いて顔をあげた。
「おぉ、Albertやっと帰ってきたか」
そう言ってAlbertとClaireの元へ駆けてきた。
「その者は?」
私の姿を見ると目を丸くした。
「ご無沙汰しております。Claire Ashberyです」
「Claire…、大きくなって」
思い出したかのような顔つきになり、にっこり笑う。
「それで、君は何の用かね」
「父上、僕は…」
「あぁ、そうだ。Albertちょっと来なさい」
Mr.Weslyはそう言うとClaireを睨みつけ建物の中に入っていった。
Mr,Weslyの部屋でAlbertは彼に言った。
「…父上、僕は彼女と結婚したいのです。…昔からそう言うわけだったじゃありませんか。それに…彼女のことを愛していますので」
Mr.Weslyは黙って聞いていたが、やがて大声をあげた。
「お前はあの結婚の目的が何だったかわかっていないのか!Ashbery家が破綻した今、そんなことはもう関係ないのだ。あの女を見ると虫唾が走るわ!金目当ての財産目当てでこの家に上がり込もうったっていう魂胆だろうが!」
Albertは自分に父親でさえもClaireのことを嫌うのかと少し笑った。
「…いえ、彼女はそんな方ではございません。僕が…」
だが、Mr,WeslyはAlbertの言葉は聞きたくないとさらに大声をあげた。
「うるさい!お前の結婚相手はもう決まっているんだ!」
「…え?」
驚くAlbertを見て笑いながら
「話は両家でもう済んである」
今その家のお嬢さんが来ているんだよといい、彼の背中を押した。
「ちょっと待ってください!僕は…」
彼の言葉を無視し、Mr. Weslyは一人の騎士を呼んだ。何かを彼に命じ、騎士はお辞儀をしてClaireのいるところへ向かった。
屋敷の中ではMr,Weslyと彼の息子Albertの口論が続き、騎士は逃げるようにClaireを連れて出て行った。
「少し話しませんか?」
全く何を言っていいのかわからなかった騎士は思わずClaireにそう言った。Ashbery家の一人娘だと思うと緊張して何も話すことが出来なかった。
やがて日は暮れ、森の中も真っ暗になり薄気味悪くなってきた。
「一体どちらへ?」
不審に思ったClaireは騎士に尋ねた。
「えっと…」
やはり何と言ったらいいのかわからず黙ってしまう彼の横でClaireのお腹が鳴った。
「…失礼…」
顔を赤らめ恥ずかしがる彼女を見て騎士は
「どこかで休みましょう」
と提案した。
ついた先は誰も住んでいない小さな小屋だった。彼は野宿なぞしたことのない彼女に食べられそうな木の実で調理をした。
温かい食べ物で二人の心は落ち着いた。
「Ms,Claire…」
そう小さな声で呼びかけるが後の言葉が思いつかない。
「Mr,Robin、このようなものが作れるなんて素敵ね」
Claireも何を話せばいいのかわからず、目の前の料理のことを褒めた。Robinは顔を赤らめ、微笑んだ。
やがて夜が更け横になって眠る一人の少女を守るように一人の青年が焚火の傍で彼女を眺めながらなにやら考え事をしていた。
「あの娘を殺せ」
主人からの命令が耳から離れない。騎士は頭を抱えた。
「俺には出来ない…」
もう一度すやすやと眠るClaireを見た。自分の上着を掛け、美しく幸せそうに眠る彼女の心臓を突き刺すことなどできなかった。
「Ashbery…」
敵対視していた家でもないのになぜ殺さねばならないのか、この少女が何をしたっていうのか…。自分と同じくらいの年齢の罪のない人など殺すことが出来ない。それに彼はAlbertと同い年と言うこともあり、彼からClaireの話をよく聞いていた。Robinは刀を置いた。薪を入れ激しく燃えだした炎を眺めていた。
騎士の名前はRobin Brownといい、今年で18になる青年だった。元々はただの農家の息子であり、意気地がないからと無理やり父親に騎士団に入れられた。Robinは背は高く、騎士の割には線の細く、髪は眺めで優し気な目が前髪から覗いている。顔だちは整い、素敵な青年だった。
夜が明ける少し前にClaireは目を覚ました。上着がかけられており、小屋の暖炉の傍で昨日ずっと森の中を一緒に歩いていた騎士が座ったまま眠っていた。
深い森の中へ刀を持つ男と歩いていたとき、Claireは自分が殺させるかもしれないと思った。Mr,Weslyは少し打算的な男で短気な性格だった。自分の息子が破綻した家の娘と結婚などさせようとはしないことは目に見えていた。思い立ったことは後先を考えずにすぐに行動をする人物だった。
「あ…」
何か物音がしたのに気づき騎士は目を覚まし、Claireを見つめた。なにやら思いつめた表情をしていたが、
「逃げろ!」
とClaireに言った。
「…え?」
彼女の前に座り、ことの説明をし始めた。
「実は、ご主人様から君を殺せと命令されたんです。…だけど俺にはできない…。このまま君が逃げたら、それでも追手は来るかもしれません…」
「そう…」
「それで一つお願いがあるのですが…」
真剣な顔でRobinは彼女に行った。Claireはうなずき、Robinは小さな短剣で彼女のピンクの髪を切った。
「ごめんなさい…」
短くなったClaireの髪を眺め、彼は思わず彼女を抱きしめ涙を流した。
「いいのよ…。助けてくれてありがとう…Albertに宜しくお伝えくださいね」
と言い、Robinの背中を擦った。
Claireが外へ出て行くとき、小屋の中には彼女のスーツケースが残されていた。
屋敷に戻り、RobinはMr,WeslyにClaireの髪を渡した。
「おぉ、ご苦労!」
Mr,WeslyはRobinが持ってきた髪を見てClaireが死んだことをすっかり信用して大いに喜び、息子に見せに行った。
「これでお前も諦めがついたかい」
「父上…」
「お前の恋人は死んだよ。…私を恨むではないぞ。あの娘を殺したのはこの屋敷に連れ込んだお前なんだからな」
「…」
AlbertはMr,Weslyが持っている髪を奪った。
「嘘だ…。父上、どうして…」
「昨日の話がまだ終わっていないんだ。Ms,Hayensがお待ちだよ」
膝を折り曲げ泣き出したAlbertを横目で見ながら、Mr,Weslyはなにも言わず部屋から出て行った。一人残されたAlbertは自分の部屋の窓から空を見て呟いた。
「Claire、今すぐにでも君の所に行きたいよ…。昨日やっと再会できたばかりじゃないか…」
Mr.Weslyの催促からAlbertは正装に着替えた。気の進まない縁談のために自分は行かねばならないのかと思い、Robinに打ち明けた。
「Albert…」
「僕は行きたくないんだ…」
「…」
「僕がこのまま行ったらClaireは悲しむだろうか」
「…俺はそうは思いません」
「え?」
支度を手伝っていたRobinの冷たくはなった一言にAlbertが機嫌を悪くした。
「Claireが俺のことを何とも思ってなかったと言いたいのか?」
「…」
「彼女は会えて嬉しいと言っていたんだぞ」
「俺はそこまで言っておりません…。恐らくMs,Claireは貴方の幸せを願われていると思います」
「…」
「…」
「そう言えばClaireを殺したのはお前だったな」
「…」
Albertは涙を流し彼をまっすぐ見つめるRobinの胸倉を掴んだ。Robinはそっとその手を離しそのままの目でAlbertに言った。
「もう少し、この状況を理解してください」
Robinは項垂れるAlbertを残し部屋を出て行った。
その頃、Claireは全く身に覚えのない所で横になっていた。
「私…」
「あら、やっと気が付いたのね」
お婆さんが目を覚ました彼女にそう言った。そのお婆さんは暖炉の大きな鍋で何かを煮込んでいた。頭が痛いのを我慢しながらClaireは彼女の元へ歩いて行った。
「美味しそうなものを作っているのね、あなたは誰なの?」
お婆さんは笑って
「生きていてよかったよ、Claire」
まだもう少し寝ていなさいとClaireをベットまで連れていき、寝かせた。お婆さんはHannaと言った。懐かしい顔を思い出し、Claireは涙を流した。
「わからなかったわ、Hanna、ちょっと前と全然違うんですもの」
「私も、お嬢様がご無事で本当によかったわ」
Claireは事情を説明し、Hannaにこの先どうしたらいいのかを尋ねた。Hannaの助言もありClaireは髪を黒く染めた。Hannaの姓を名乗り、名前を「Rose Florence」と変えた。Roseは黒髪になってもその村の中では一番美しかった。
Hannaはあの屋敷からそう遠くない小さな村に住んでいた。
「帰る途中にお嬢様が倒れていらして、もう驚きましたのよ」
Hannaは出来上がったスープをRoseの手に渡しながらそう言った。あの日、Ashbery夫妻はあの屋敷で自害したという。
それからRoseはHannaと一緒にひっそりと暮らし始めた。村の住人は彼女をAshbery家の人間だとは全く気づいていないように見えた。ただ美しい少女が急にやってきただけのように映った。Roseは村の中で人気者になった。
そんなある日、村の人物が一枚の封筒を持ってやってきた。
「Rose、君に招待状だよ」
嬉しそうに差し出す村人とは反対にRoseは警戒しながら
「なんの?」
と答えた。
「結婚パーティーだよ、ここらに住む年頃の男女はパーティーに参加できるらしいんだ。領主様からだよ」
「領主様…」
小さく呟くRoseに村人は驚いた顔をして見せた。
「なんだ、Rose知らないのか…」
「Roseはまだ子どもだからねぇ、世間を知らないのさ」
Hannaがすかさずフォローに入った。
「Weslyだよ、そこのAlbertと隣の領主の娘との結婚だって」
「…そう」
RoseにとってはWeslyという名は聞きたくなかった。自分が行ってもしばれてしまったら今までの苦労が水の泡になり、この村にいられないどころか、自分を匿っていたとしてこの村人たちが散々な目にあうだろうと考えた。
「だがね、祝うのは形だけよ。Roseもいい年なんだから」
「でも…」
まごっているRoseの背中を二人が押していた。
「Mr.Weslyは亡くなってこれからMr,Albertがこの村を統括するのだろうね」
と村人が言い出した。
「私行かれないわ」
そう聞くと益々怖くなってしまった。
「どうしてだい?パーティーはほどんど婿探しなんだよ」
「でも…」
他の村人たちもこの話を聞き、Roseが行くように提案した。渋々頷いたRoseにHannaは張り切り、
「とびっきりのドレスを用意しなくっちゃ!」
と街へ出て行った。
(Albertに会っちゃダメ…なるべく隅っこにいるのよ)
目立たぬよう黒のドレスがいいと言ったが拒否され、Roseは薔薇の花ごとく真っ赤なドレスで身を包んだ。あれから綺麗に伸びた黒髪を丁寧に結い上げ、誰から見ても綺麗で若い貴婦人だった。
そっと会場に入り、中には人がたくさんいた。
なるべく壁際へと動くが、その美しさに注目されるのは変わらなかった。多くの男性が話しかけようかと迷っている。
「あの…」
横から声がし、Roseは顔をあげた。一人の青年が両手にグラスを持って立っていた。
片方をRoseに渡し、話しかけ始めた。
本当は久しぶりのパーティーに心が躍ってはいた。だけど場所が場所だった。
声をかけてきた青年はOliverといった。彼は長身で茶色い髪で真面目そうな青年を思わせた。
「この後一緒に踊ってもらえませんか?」
彼はそう言い、Roseも承諾した。彼と話していると楽しく感じられた。
「どちらに住んでおられますの?」
「ここの近くの金物屋さ」
二人は優雅に踊り周りのものを圧倒させた。中には踊りをやめ魅入っている人もいるくらいだった。
「僕の作品がもしうまくできたら君にプレゼントしたいな」
そう優しく言う彼にうっとりする彼女はやはり昔のClaireが抜け切れていないように思われた。
隣町の貴族令嬢のVeronica Haynesとの縁談が進み、今日はパーティーが開かれた。Veronicaは高慢な態度の多い女だった。どうしようもないこの話はAlbertには拒否権はなく、家の為に生活のために進められた。それにAlbertは未だにClaireを忘れられず夜になれば彼女を思い浮かべ涙を流した。彼女の髪は更に心を苦しくさせると引き出しに鍵をかけてしまった。
「お集まりいただきありがとうございます」
そう演説をするAlbertの声に2つの地域の住民がワッと喜んだ。昔から仲の良かったこの地域が一つになることをお互い喜んだ。あのAshbery家が統括していた地域はAshberyによってまたまとめられることを彼は約束した。彼にとって彼女への償いの気持ちだった。
彼らの来賓によるそれぞれの挨拶を終え、お祝いにと街の住人たちが躍り出す。Ashberyの目に一際綺麗な少女が視界に入った。黒髪の赤いドレスの少女だった。彼女は誰よりも踊りがうまく相手の男と楽しそうに踊っていた。
「Claire」
亡くした恋人を思い出した。赤いドレスの少女が似ていたからかもしれない。彼は目を見開き、その少女を凝視していた。
「Albert?」
隣に座るVeronicaがAlbertの様子が変なことに気づき、彼の名を呼んだ。そっと彼女は彼の目線の先を追っていた。
楽しそうに会場の隅で話し始める二人をVeronicaも見ていた。
(私たちにあんな日があったかしら?)
まさかAlbertがあの娘に恋をしたのではないかと睨んだ。Albertよりも歳が上だが誰よりも自分の方が美しいと思い込んでいる彼女は新郎の様子を見て嫉妬した。
「ようこそいらっしゃいました」
とRoseの横に騎士が来た。
「貴方は…」
「Robinです」
騎士は自分の名と隣にいる騎士の名(Peter)を呼んだ。
「あの日は、ありがとうございました。Roseです。この方はOliverよ」
(あの日?)と眉を寄せるOliverにRoseは
「以前、道案内をしてくれたのよ」
と笑って言った。
「もしよければ、夜景の見えるいいところがあるのですが、ご案内しましょうか?」
とRobinはRose達に提案した。Albertの視線を感じ、素早くRoseがClaireだと気づいた彼はAlbertから引き離そうとした。Rose自身も先ほどからAlbertと視線が合う度に小さくOliverの背中に隠れようとしていた。OliverはRoseのその様子をただの人見知りだと解釈し守ってあげなければという風に人々の目から引き離そうとした。
Robin達によって連れてこられたその場所は会場から少し離れた所だった。3階のバルコニーからは夜景が綺麗だった。
「素敵なとこね、ありがとう」
Roseは無邪気に喜んだ。
「ここならあなたたちの人見知りが関係なく楽しんで話せるでしょう」
そう冗談を言い二人を笑わせた。OliverはRoseの肩に手を置き引き寄せた。
Robinは二人を案内するとお辞儀をして出て行った。
残されたRoseとOliverはその場所で会話を大いに楽しんだ。OliverはRoseの見せる明るい性格が気に入り、Roseも彼の知的さが好きになった。
Albertは来賓との長い会話対応からふと赤いドレスの少女を見失った。あちこち見渡してみてもあの少女は見つからなかった。Albertにとってどう見てもClaireに似ており、確認したくて仕方がなかった。
(帰ってしまったのだろうか)
そう思いながら、Veronicaに「ちょっと出てくる」と言い、席を外した。
暗闇の中、屋敷をウロウロしていると楽し気な話が聞こえてきた。
「…そうなのですね」
Albertはその声を聞いて益々Claireの高く綺麗な声を思い出し、近くに寄ってみた。
暗闇のなか、バルコニーで二人の男女がこちらに背中を向け話をしている。髪の色は全く違うが、背丈も声もたまに見せる横顔もClaireそっくりだった。隣に立つ男がAlbertに気づき振り返った。その少女を守るように片手で隠していた。
「ごめん、悪気はないんだよ」
月明かりに照らされ、誰だかわかるとOliverとRoseは丁寧にお辞儀をした。
「どうされたんです?」
「いや…たまたま通りかかっただけだよ。君ら、名はなんていう?」
「Oliverです、こちらはRoseです」
と自己紹介をした。Roseと紹介された少女は軽く後ろ脚を折り曲げた。Claireではなかった…)
Albertは諦めきれない自分に腹が立った。下唇を噛み、下を向いた。
「Rose、ちょっと話がしたいんだがいいかな」
意を決してAlbertは彼女を誘った。
「え…」
驚いて(どうすればいい?)と
Oliverの様子を伺ったが彼は片手を差し出しただけだった。彼は領主様の指示には従うしかないという考えだった。
Albertに連れられ、Roseはおどおどしながら後についていった。やがて中庭に連れてこられ、Albertは急に立ち止まった。
「君、もう一度聞くが名前は?」
「…Roseよ」
この際、この娘にどう思われようがどうでもいいという風にAlbertは彼女に尋ねた。
「Claire Ashberyのことを知っているか?」
「…いいえ」
(やっぱりそのことなのね)とRoseは緊張しながら答えた。小さく言う彼女にAlbertは食って掛かった。
「何も知らないか?」
「…はい、お役に立てなくてごめんなさい」
急いでこの場から立ち去ろうとRoseはお辞儀をした。後ろを向こうとするRoseの手をAlbertは握った。
「君の踊っている姿が綺麗だったんだ。先日亡くした恋人に似ていたもので…ごめんな。…失礼な態度をとってしまった」
「…いいえ」
Roseの心はキュッと痛んだ。
(あの日、暴動何かが起きなければ私は彼の隣にいた。)
彼女は幼い時から彼のことが好きだった。三つ歳が違い、Albertはお兄さんのように頼りになり、いつも一緒にいた。Roseの目から涙が流れた。彼女はそれを気づかれまいと顔を背け、無理やり笑顔を作ってAlbertの方を向き直った。
「ご結婚おめでとうございます」
その二人の様子を四人の人物が様々なところで見ていた。一人はRoseの帰りがまだかと心配になったOliverだった。そして一人はAlbertが席を立ったまま帰ってこなかったのを心配したVeronicaであり、残りの二人は偶々取り掛かった騎士だった。
「まずいな…」
とRobinは呟いた。
「なにが?」
と隣にいたPeterは彼に聞いた。
「Roseって女の子いるだろ」
「…うん」
「領主様に会わせちゃならなかったんだ…。バレてしまったか…」
「ごめん、Robin話が分からないよ」
何も知らないPeterはRobinに尋ねた。Robinは彼に手短にRoseのことを話した。
「だが、このことは誰にも知られちゃならないんだ」
「Ashbery家か…」
「今は無き家柄だよ…まずいことになったなぁ」
Roseはなぜ彼の前に姿を表したのかそうRobinは思った。だが、二人の様子を見ていたPeterは言った。
「…俺には領主様が引き留めてるようにしか見えないけど」
「静かに…」
誰かの足音が遠くから聞こえ、二人は小声で話すことをやめた。
「赤いドレスの女」
VeronicaはAlbertとRoseの姿を遠くで見ていた。
「俺には…見えないけど」
耳のいいVeronicaには今の声が聞こえた。
(誰が話しているのかしら)
声がした方へ向かうと二人の騎士が立っていた。
「Mrs,Wesly」
RobinとPeterは驚いた顔をみせた。
「あら、こんなとこでどうしたの?」
なんて答えたらいいのか迷っているRobinを庇い、
「…僕たち、パーティーに慣れていなくて散歩していたんだ」
Peterはとっさに嘘をつきその場をやりくるめた。
「そう…」
Veronicaは彼らに
「見て!」
と言い、中庭を指さした。そこにはAlbertがRoseを抱きしめていた。RobinはVeronicaに見えないように顔を背け、唇を噛んだ。
「今日に限って何をしているのでしょうね。村人を招待したいって言ったのはAlbertよ。この人が来るのを知っていたのかしら」
「…」
「私、まだあの人から何も言われていないのに…」
Veronicaは涙を流す。
「…」
二人とも何と言ったらいいのかわからず黙っていた。
「私、行かなくちゃ…」
そう言ってするりとAlbertの腕から離れ、Roseは別れようとした。
「あぁ、待って。君、どこに住んでいるの?」
「え…?」
「えっと…」
Roseは黙ってお辞儀をしてその場を立ち去った。
「領主様」
Roseの後姿を見送ったAlbertは棒のように突っ立っていた。騎士のRobinがすかさず駆け寄り、Albertに声をかけた。
「なんてことをしてしまったんだ」
「領主様…」
「Robin、二人きりの時はその呼び方をやめろ…」
「Albert、もうClaire Ashberyはこの世にいないんです。Ms,Roseも困っていたじゃありませんか」
「そうだな…。申し訳ないことをしてしまったよ」
パーティーを終え、AlbertはVeronicaから今までどこに行っていたのかを聞かれた。
「ちょっと外の空気を吸いに」
そう答え、自分の部屋に入ってしまった。鍵のかかった引き出しからピンクの髪を出した。
「Rose…」
抱きしめたときやはり似ていると感じた。彼女の匂いがClaireを更に思い出させた。
「Claireが来てくれたのか」
まさか、天から俺たちのパーティーに来てくれたのか。そう彼は直感で感じた。
「ご結婚おめでとうございます」
そう言って笑っていた。Albertの胸が痛く感じた。自分はもう結婚してしまい、もしあのRoseがClaireなら自分はどうすることもできない。あの娘はどこに住んでいるのか。更に知りたいと思った。
RoseはOliverに自宅まで送ってもらった。
「おやすみ」
と会話をし、Oliverは次いつ会えるかを尋ねた。やがて短い会話を終え、二人の若者はそれぞれの家へと向かった。
Albertが街の様子を見に二人の騎士を連れて歩いていた。
「Rose…」
遠くにはRoseの姿があった。隣には以前パーティーで彼女の隣にいたOliverの姿があった。Albertは歩みをとめ、彼らの様子を見ていた。
「Albert様」
Robinは何かを察し、Albertに注意をした。
「あぁ、わかってる」
Rose達に背を向けようとするが、中々そうすることが出来なかった。
「…」
RobinはじれったくなってAlbertに手を引いた。
「Robin?」
「Albert様、大事な話があります」
そう言うとRoseがClaire Ashberyだということを話した。
「Albert様のお父様からClaire様を殺してこいと命令されたのです。だけど当時の私にはできなかった…。Albert様がよく話してくれた彼女を殺すなど私にはできなかったのです。それで、彼女に説明をしました。Claire様は悲しげな顔でも頷いてくれた。生きていてもAlbert様と一緒になれないことをわかったんです。Claire様は身分を変え、名前まで変えて、当時この村で唯一のピンクのあの髪まで変えました。あの髪を切ったのは私です。…でもMs,RoseがClaire Ashbery様だったとしても、この世にはCaire様はいないのは同じことなのです。Ms,Roseは新しい一歩をMr,Oliverと歩もうとしておられます」
「…」
Albertにとってこの事実は衝撃的だった。
もう一度Roseを見ればあの頃のClaireの姿だった。Claireは生きていた。Albertはそっと涙を流した。
「私も早めにこのことを伝えなかったことは申し訳ありません。Albert様とMrs,Weslyが幸せでいればこのことは伝えないままがいいと思っておりました」
「…Robin…」
「Albert様がつらい気持ちはわかります。だけど…」
Robinは俯いて言った。
「分かった…」
AlbertはRoseの笑っている姿を見て心が痛んだ。彼女がかつて愛していたClaireだと思うとなおさらだった。
(Oliver…)
不思議と彼に嫉妬をしてしまう。RoseがOliverに何かを渡したのを見た。
(あれは…)
遠くからでもあのものが何か分かった。いつもClaireが指にはめていたものだった。
Robinの言う通り、もう今のRoseはClaireじゃないことはわかっている。
屋敷に帰って自分の部屋に戻り、Albertは書類の山に目を落とした。
(今日は仕事が出来そうにないな)
目を閉じるたびにRoseの笑顔を想いうかべていた。もう一度その書類の山に手を触れると勢いよく床に巻き散らかした。
「Rose…君はなぜ…」
そう言うと泣き出した。その様子を温かいお茶を持ってきたVeronicaは見ていた。
「あの赤いドレスの女ね」
Roseという名だということを知った。確かに赤いバラのように綺麗な人だとは思ったが、自分たちの生活をめちゃくちゃにする人物はただじゃおかないと怒りだした。
過去にAlbertと何かあった人物なのだろうとVeronicaは確信した。彼女は自分の付き人に命令した。
「Ms,Roseについて調べ上げなさい!」
Veronicaは何かを隠しているだろうと訓練をしていたRobinを呼び止め尋ねたが大して情報が得られなかった。頭にきたVeronicaは拷問までしようかと悩んだが、自分の付き人が情報収集をしたことでRobinは解放された。
Veronicaの付き人はRoseの住んでいる街しか報告できなかった。だが一つだけ彼女にとって興味深いものがあった。
「Roseはここ最近になってあの村で暮らし始めたそうよ」
ならば今までどこにいたのか、Albertとの関係が分かるのかもしれないとVeronicaは思い立った。
「Roseをここに連れてきなさい。私たちの幸せの邪魔をする者は許せないわ!」
そう命令が下され、Veronicaの付き人たちはRoseの住む村へ向かった。
何も知らないRoseはHannaを手伝って家の前の畑を耕していた。慣れない手伝いにもようやく慣れ、手際が良くなりHannaを喜ばせた。
その彼女の後ろへ数人の男女がやってきた。
「Rose Florenceですか?」
「えぇ」
「Mrs,Weslyからの命令です。今すぐ屋敷に来ていただけますか?」
Roseは目を見開いた。村人たちも何事かと出てきた。
「Rose、どうしたんだい」
「…わからないわ」
「こんないい子なのに…」
下を向くRoseは村人たちを見上げ、笑顔で
「行ってまいります」
と言い、口々に心配する村人たちに背を向けWesly家の付き人の元へ行った。
Roseは地下の暗い牢屋へ連れていかれた。
「一体私が何をしたって言うの?」
鎖につながれたRoseは檻の向こうに立つVeronicaに聞いた。
「貴女のその顔が気に入らないわ。私の旦那をたぶらかして」
「そんな…」
Veronicaは牢屋のカギを開けて中に入った。
「貴女がここにいることはAlbertは知らないわ。これでやっと私たちの幸せが来るのかしら」
「…」
キリっと睨みつけたRoseにVeronicaは頬を張った。高い音が地下の中に響き渡った。
「下級市民がよくもまぁ私たちのとこに踏み込もうとしたわね」
「…」
「あなたにはわからないわ。私のこの辛さは」
そう言うと檻に鍵を閉めて出て行った。
残されたRoseは涙を流した。
「お父様、お母様お助けください」
そう小さく言った。あの日から私はAshbery家も姓も棄て、ひっそりと暮らしてきたつもりだった。誰にもばれないように注意をしてきた。村人らしい生活はHannaから教えてもらい、やっと慣れてきた。それでも貴族の娘だったこともあり、なぜ自分がこんなことをしなければならないのかと思う時もあった。誰にも言えず夜は一人でひっそりと泣いている毎日だった。その生活も楽しいものにしてくれたのはOliverだった。彼は優しくRoseを守ってくれた。
「まだ彼に行っていない秘密があるんだわ…」
話そうかいつも迷い、黙ってしまうRoseをOliverは心配していた。
「Oliver…」
彼に会いたい、今すぐここから出して抱きしめてもらいたい。そう思うようになった。
Roseのいる牢屋には誰一人として訪れなかった。この屋敷は広く、いつも使われている牢屋とは全く違うところで、Veronicaがひっそりと建てたものだった。
Roseの両手には手枷が付けられ、じっと横になった。
ある日、OliverがRoseの村を訪れた。
「Roseは?」
どこにも見当たらないため、村人にRoseの行方を尋ねれば、あの屋敷へ連れていかれたといった。連れ戻したいと考えたが、彼にはどうすることもできなかった。
「おばさん、一緒に彼女の帰りを待ちましょう」
Roseの帰りを一緒に待とうとHannaの家に泊まることにした。
数か月後、AlbertはRobinと狩りへ出かけるため、山へ向かったが途中豪雨にあいある村へと向かった。
手前の小屋にたどり着くとHannaが声をあげた。
「領主様!どうされました?」
「途中酷い嵐に遭ったもので、ここに少しいさせてもらえますか?」
「あぁ…どうぞどうぞ。こんな狭いところで申し訳ございません」
とHannaは言い、招き入れた。
「君は…」
Hannaにもてなされ、テーブルに着くとそこにはOliverが座っていた。彼もAlbertの気配を感じ顔をあげた。
「Oliverか…」
「領主様…」
ボーっとAlbertの顔を見ていた彼が弾丸に撃たれたかのように飛びついた。
「助けてください!Roseが…」
Roseという言葉に反応をしたが、何が起きているのか全く分からないと言った顔を見せたAlbertにOliverは簡単に事情を説明した。
「…それは本当か?」
驚くAlbertにOliverは真剣な顔をして答えた。
「はい…。この村の住民全員が見ていましたから」
「そうか…」
「どうか、Roseをお助けください」
OliverのAlbertの服をつかむ手は凄まじかった。必死さが伝わったAlbertは考え込み、Oliverに「来い!」と言った。
嵐がやみ、屋敷に戻ったAlbertは一番初めにVeronicaの元に行った。
「おかえりなさいませ」
そう丁寧に迎えるVeronicaの言葉を無視し、Albertは尋ねた。
「村の娘を監禁したっていうのは本当か?」
Veronicaは驚いた顔をして見せたが、やがて
「え?私は知らないわ」
その様子を不審におもったAlbertは彼女にもう一度尋ねた。
「Roseという娘だそうだ。最近、その子の行方がわからないと」
「知らないわよ…」
頑なに知らないと通すVeronicaにAlbertはきつい口調で「答えろ!」と言った。
その怒鳴り声に怯え、Veronicaは「地下の牢屋よ…」とだけ答えた。
「その娘は重大な罪を犯したのよ!」
と必死に止めようとするVeronicaの腕を払い、廊下で待っていたOliverを連れてAlbertは牢屋へ向かった。
地下の奥の狭いところにRoseはいた。何も食糧も水も与えられず細く手に鎖をつけたまま横立っていた。
「Rose!」
二人の男が叫んだ。片方はカギを開け、もう片方は開かれた扉の中に入り今にも死にそうな彼女を抱きかかえた。
「ごめん、俺が近くにいなかったから…」
Roseを抱きかかえたOliverは涙を流した。
Albertは二人を自分の部屋へと通した。
「Rose、水だよ。飲めるか?」
OliverはAlbertが用意した水を飲ませようと彼女の口元へもっていったが、口から零れてしまうだけだった。それでも口の隙間にどうにか水を飲ませた。
「私はこの子を認めないわ」
いつの間にかやってきたVeronicaが涙を流して部屋にやってきた。
「Albertいつだってうわの空で私のことを見てくれなかった。私は寂しかったの。この女のせいだって気づいたのはあのパーティーからよ」
「…」
Albertは下を向き俯いた。
「Roseのせいじゃないんだ…」
そうAlbertが言った時、Roseは薄っすらと目を開けた。
「Rose!」
Oliverは目を覚ましたRoseを見て喜んで抱きしめた。
「O…Oliver?」
「そうだよ、俺だよ。…君を迎えに来たんだ」
そう優しく言うOliverにRoseは微笑んだ。力のない彼女の手はゆっくりと彼の頬に触れた。その手を優しく包みOliverは涙を流した。その様子をAlbertもVeronicaも見ていた。
(この娘に何も非はなかったのか)
そうVeronicaが思ったのはAlbertがRoseをじっと見ていたからだった。彼女の怒りが彼の方を向いたのはそう遅くなかった。
「貴方さえ私を見てくれなかったら私はもう生きていけないわ」
そうVeronicaは泣き出しAlbertに向けて拳銃を構えた。
「…」
Veronicaの方を向き直り、Albertはそっと彼女の方へ向かった。
「領主様!」
Oliverはその様子を見て叫んだ。だが、彼は何も言うなという風に片手で制した。
「俺を殺せ。この罪深い俺を」
そう言うとVeronicaは引き金を引いた。
その時、何かがAlbertをつき飛ばしその者が銃弾を受けた。Roseは大量に血を流し倒れていた。
「Rose!」
「Claire!」
思わず叫んでしまったことを忘れ、AlbertはClaireを抱き寄せた。
「なんで…?」
Veronicaは自分の持っていた拳銃をぽとりと落とした。
「Albert、Oliverごめんなさい」
彼女はそう涙を流して息絶えた。
(Roseが死んだ…)
Oliverは手ぶらで屋敷を後にした。
VeronicaがAlbertに向けて拳銃を構えたとき、最期の力でRoseはAlbertの元へ飛んでいった。それにAlbertは彼女のことを違う名前で呼んでいたことを思い出した。
ふと、ポケットに手を入れると以前街へ出かけたときにRoseがくれた指輪が触れた。
(これは…)
その時はよく見ていなかったが、何かの紋章がかかれていた。
Oliverは急いでHannaのところへ向かった。
Hannaは頷いてその指輪を見て話し始めた。話を聞き、Oliverは納得した。
「Ashbery家の…」
数年前に崩壊した家だとすぐにわかった。
「Roseが…」
「RoseはOliverに会ってから毎日が楽しそうだったわ。屋敷を追い出されて身分を失ってから笑顔なんて見せたことが無かったのに」
「…」
「短かっただろうけどRoseにとっては貴方に会えたのが一番の幸せな時だったのかもしれないわね」
「…」
Oliverは彼女が残した指輪を見て涙を流した。
Veronicaも去っていったあと、AlbertはClaireの死に顔を眺めていた。胴体は痩せこけ血だらけだが、顔はいつものあの頃のままだった。優しくその顔にキスをし、
「俺の時間はいつも止まったままだ…」
と強く抱きしめ、Albertは小さな短剣を握った。
その後、村人たちの暴動が起き、Wesly家は破綻した。
Oliverが二人の墓を一緒のところに埋めようとHannaや二人の騎士に提案した。
今は亡きWesly家とAshbery家の二人の若者が今でもそこで眠っている。