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5・女勇者ヒロ

 あれから数日が経った。


 その間も俺は【生産】スキルを試し、これの使い方もだんだん慣れてきた。

 食べ物も心配がなくなった。


 となると……。


「次は防備……安全面だよな」

「安全面ですか?」


 俺の呟きに、アラベラが反応する。


「ああ。森林には凶悪な魔物も多いからな。両親が亡くなってから、領に魔物が入り込んでこなかったのは運が良かった。今のうちに冒険者を何人か雇いたいんだが……」


 とはいえ、そんな簡単に冒険者が何人もやって来てくれるとは思えない。


「確かにそうですね。ハンスさん、先見の明があります」

「当たり前のことだと思うが……」


 弱い魔物ならともかく、現段階で凶悪な魔物が一体でも領に来れば打つ手なしだ。


 逃げ回るしかない。

 最悪この領を放棄することになるかもしれない。


 両親からこの領地を受け継いだ以上、そんな真似なんてしたくない。


「そこで……武器を生産しようと思うんだ」


 そう言って、俺は館からサビれた金属を一枚取り出した。



『ダマスカスソード』レシピ

 ダマスカス鋼×1



 レシピも浮かんできた。


 これでどうやら武器が作れるらしい。


「それはダマスカス鋼じゃないですか!」

「知ってるのか?」

「もちろんです! とても貴重な金属です。こんなものもあったんですね!」


 アラベラが驚き目を見開いている。


「でも結構サビているようだが……これで剣は作れるだろうか」

「うーん、それはやってみないと分かりませんね。普通は無理ですが、ハンスさんならなんとかしてくれる!」


 アラベラが目を輝かせた。

 そんなに期待してくれても困るんだがな。


 まあ彼女の言った通り、やってみなければ分からないか。


「ダマスカスソード生産」

 


・ダマスカスソード Lv6

『木目状の編み目が特徴的な剣。誰でもこれを振るえば、どんな固い金属でも真っ二つ』



 Lvが品質が現しているとするなら、今までで一番低い。

 しかしまあ、元がサビてる金属だから仕方ないか。


「こんなのしか作れなかった……」

「こんなのって……ひえーっ! それってダマスカスソードじゃないですか!」


 なんとなく予想してたけど、やはりすごいものなのか。


「売りに出せば金貨50枚の値打ちはつきますよ!」

「ご、50枚!? 本当か? あまり品質は良くないみたいだが……」

「そんなことありません! 十分ですよ」


 良かった。

 どうやら武器生産にも成功したらしい。


「まあ『どんな固い金属でも真っ二つ』って言ってるし、護身用にはなるか」

「護身用にしてはオーバースペックだと思いますけどね……」


 しかし冒険者の雇用は必須だ。

 どんなにすごい武器でも使いこなす者がいなければ、ただのゴミだからだ。


 もうアラベラのお父さんも冒険都市に帰った頃だろう。

 あの求人票を見て、誰か来てくれればいいんだが……。


 しかしその心配はすぐに無用なものとなるのであった。



 ◇ ◇



「お邪魔するよ。この求人票は君が出したものかな」


 一枚の求人票を持って、一人の女の子が姿を現した。


 銀髪の可愛らしい女の子だ。


「ああ、そうだ……ってアラベラ?」

「ゆ、ゆゆゆゆゆ!」


 アラベラは現れた女の子を見て言葉を詰まらせている。


「どうした?」

「勇者様じゃないですか!」


 アラベラが女の子を指差して、そう叫んだ。


 勇者様……?


 あの魔王を倒す力を持ったと言われる存在だったか。

 あまり詳しく知らないが、目の前の少女がそうだと言うのか。


「ははは、バレちゃったね。うん。僕は近くの冒険都市で勇者と呼ばれているヒロと言う。よろしくね」

「よ、よろしく」


 勇者——ヒロと握手する。


「勇者様は冒険都市でヒーローなんですよ! 後でサインしてください……!」


 アラベラはさっきから興奮しっぱなしだ。


 しかしヒロは自嘲気味に、


「ヒーローか……アイドルの間違いじゃないかな」


 と笑った。


「どうして勇者がここに?」

「簡単なことさ。私もここの領民にしてもらおうと思ってね」

「ゆ、勇者が!?」


 つい俺も声を大きくしてしまう。


 誰か来てくれるといいと思っていたが、これまたとんでもない有名人が現れたな。


「そんなに勇者、勇者と言わなくてもいいよ。勇者なんて名ばかりなんだからね。冒険者とさほど変わらない」

「そうなのか?」

「うん。冒険者は依頼をこなしてギルドからお金を貰っているけど、勇者は国から給料が出ている。それだけの違いさ」


 公務員と個人事業主の違い……と言ったところか。それは大分大きい違いのように思えるが。

 まあ前世とでは事情が違ってくるのだろう。


「安定してそうだけどな。冒険者といったら不安定なイメージがある」

「その通りだよ。でも安定ばかりが人生の幸せとは限らない」


 前世で社畜をしていた俺に突き刺さる言葉だ。


「ヤツ等にとっては、安い固定給で【勇者の証】スキルを持った私を働かせることが出来るから都合が良いんだろうね。最初私も勇者と言われた時は嬉しかったさ。でも……毎日毎日夜遅くまで戦い戦い戦い。もう疲れちゃってね」


 ヒロが疲れ切った顔で言う。


 なんちゅうブラック企業……いや、この場合は企業じゃないからブラック都市か?

 どちらでもいいが。


「それでどうかな? 僕を雇ってくれるかな」

「もちろんだ」


 即答すると、ヒロは「ありがとう」と少し驚きながらも礼を言った。


「でも自分で言っておいてなんだけど、本当にいいのかな? 私がいなくなったことに気付いたら、もしかしたら冒険都市が連れ戻そうとするかもしれないけど……」

「ヒロはここにいたいんだろう?」


 首を縦に振るヒロ。


「ならそんなヤツ、追い返してやる。あっ、ヒロが帰りたいって言ったら別だからな。その時は遠慮せずに言ってくれ」


 領民は全力で守る。


 それが俺のモットーだ。


 ちょっと事情が複雑なヤツが来たとはいえ、それだけで拒否するつもりもない。


「君は素晴らしい領主のようだね。そこの女の子の顔を見ていれば分かる。とても幸せそうだ」

「わたしは幸せ者ですよ!」


 そこの女の子……アラベラのことだろう。

 彼女も満面の笑みで返した。


「さて……早速だがヒロに頼み事がある」

「なんだい? なんでも言ってくれ」

「良かったら、冒険者としてこの領内で働いて欲しい。防備面に不安があってな」

「それくらいならお安いご用さ。そう言われると思っていたしね。結局私は戦いしか出来ないから」


 苦笑するヒロ。


「助かる。あっ、『週休二日』『残業なし』というところは崩さない。しっかり休んでくれていいからな」

「私は嬉しいけど、本当にいいのかい? 依頼によってはどうしても定時を超えてくる可能性もあるけど……」

「うーん、なるべくやめて欲しいけど、仕事上仕方ないか。だが、残業したらすぐに申告して欲しい。割り増しで残業代も払うし、別の日に休みを取ってもらうことも考えているから」

「分かった。やはりこの領に来た私の判断は間違っていなかったようだね。改めて……よろしく」

「こちらこそ」


 もう一度ヒロと握手をする。


 しかしこの時、俺はまだ分かっていなかった。

 ヒロの加入によって、この領内がさらなる発展を遂げていくことを。

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