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4・料理を生産

 野菜を収穫した後、俺達は館に戻った。


「広いです〜」

「今日からアラベラもここに住むんだぞ」

「はい! こんな広いところに住めるなんて夢のようです!」


 アラベラのテンションも最高潮だ。


 実際、サールロア領は土地が広いため、こうやって広い館を構えることが出来ている。

 土地はあるんだよな……。


「腹ごしらえだな。キッチンに案内するよ」

「楽しみです!」


 キッチンに移動して、まな板の上に先ほど収穫した野菜を一つずつ置いていく。


「これだけ材料があったら、かなりのものが出来そうだが……」


 腕を組んで考える。


「ハンスさん、コンソメありますか?」

「コンソメか? 確か残ってたと思うぞ」

「じゃあシチューを作りますね。わたしの得意料理なんですよ!」


 アラベラが腕まくりをして、気合十分だ。


 だが。


「おいおい、なにを言ってんだ」

「え?」

「アラベラは領民とはいえ、この館のお客さんなんだからな。俺が料理を作るよ」


 招待客に料理を作らせるなんて聞いたことないし……。


 俺がそう言うとアラベラは目を丸くする。


「ハ、ハンスさんこそ、なにを言ってるんですか! 料理はコックやお手伝いさんが作るものでしょう? 領主様に作らせるなんてとんでもないこと、出来ませんよ!」

「まあ、よく考えれば普通はそうかもしれないが……サールロア家は結構自分で作ることが多いぞ」

「本当ですか?」

「ああ。みんな料理が好きだからな。ここのキッチンが広いのも、料理好きだったからだ」


 そういうこともあって、両親はよく使用人達に料理を振る舞っていたものだ。


 俺も両親の血を継いだのか、昔から料理は好きだった。

 前世ではコンビニ弁当で済ませていたことが多かったのに……。

 人というのは変わるものだ。


「ん……待てよ」


 閃く。


「もしかしたら【生産】スキルで料理も作れないか?」

「料理ですか?」


 早速頭の中に内臓されているレシピを漁ってみる。



『シチュー』レシピ

  じゃがいも×1 たまねぎ×1 人参×1 コンソメ×1



 おお、あったあった。


 シチューを作るにはこれ以外にも材料が必要なはずだが、大丈夫なのだろうか?

 まあ今更だしな。


 ポーションと野菜だって、作ろうとしたら、あのレシピに書かれていたもの以外にも必要になる。

 しかし実際、スキルを使ってみたら生産することが出来た。

 シチューも生産出来る可能性は高い。


「普通に作ることも出来るが……【生産】スキルを使って料理を作ったら、どうなるんだろう?」


 純粋な好奇心だ。


 レシピに書かれている材料、そして二人分のお皿をまな板の上に置き、ぐっと力を込める。


「わあ、美味しそう!」


 アラベラが声を上げる。


 白煙が立ち、お皿二つに見事なシチューが入っていた。



・シチュー Lv10

『濃厚なシチュー。新鮮な野菜をふんだんに使い、一度ひとたび口に入れると体の芯から温まる』



「早速味見してみるか」


 スプーンですくって、シチューを口に入れてみる。


 ……旨い!


 シチューの温かさがじーんと体に染み渡った。


「アラベラ。どうやら成功みたいだ」

「ハンスさん、すごいです! こんなにすぐにシチューを作れるなんて!」

「まあ俺がすごいというより、スキルがすごいだけとも言えるが……」

「違いますよ。いくら優秀なスキルを持っていても、使いこなさなければ意味がありません。それにそのスキルを授かったハンスさん自身も、きっと日頃の行いが良くて神様が見ていたからです。前世では余程の善行を積まれていたのでしょう」


 前世か。

 ブラック企業ですり減らされていた覚えしかない。


 うっ、あの時のことを思い出すと頭が!


「と、とにかく。シチューだけじゃ寂しいし……そうだ、後何品か料理を作ってみようか」

「はい!」

「アラベラも手伝ってくれるか?」

「もちろんです!」


 その後、俺達はシチューを一旦隅に置いて、料理をはじめた。


 アラベラの手際がよく、あっという間に食卓に色取り取りの料理を並べることが出来たのだ。


「いただきます」

「へえ?」


 食卓に座り掌を合わせると、アラベラがきょとんとした顔になった。


「なんですか。その『いただきます』というのは」

「食べる前の挨拶みたいなものだ。食材と作ってくれた人に感謝するための言葉でもある」

「わあ、素敵な挨拶ですね。じゃあわたしも……」


 アラベラも手を合わせ。


「いただきます!」


 と言った。


 俺達は早速料理を口に運んでいく。


 どれも旨い。

 今日は色々あったけど、疲れが全部吹っ飛んでしまいそうだ。


「アラベラは料理も上手いな」

「あ、ありがとうございます!」


 褒めてあげると、アラベラは嬉しそうだった。


「特にこのポテトサラダが旨い」

「自信作です!」


 どうやらアラベラは料理の腕も確かのようだぞ。


 俺も領主としての仕事が本格的にはじまったら、毎日料理を作れるか微妙だ。

 そんな時、アラベラにも手伝ってもらえれば、どんなに楽なことか。


 本当にアラベラが領民になってくれて良かった。


「そういえばハンスさん」

「なんだ?」


 シチューをすくいながら、俺はアラベラの言葉に耳を傾ける。


「お父さんに求人票を渡してましたよね」

「そうだな」

「どういう条件で求人を出しているんですか? 気になるので教えてくれませんか?」

「いいぞ。余ってた求人票が確か……」


 俺は紙一枚の求人票を手渡す。


 すると「こ、これは……!」とアラベラは目を大きくした。


「『週休二日』に『残業なし』……!? しかも給料は最低限保証!」

「良いだろ」

「確かに素晴らしい環境だと思いますが、とんでもないですよ! 普通は領民といったら、朝から晩まで働きっぱなしで重い税金を負担しないといけないのに……」


 前世ではそういう生活をしていたな。

 あの会社は社会保険も完備されていなかったので、人より多くお金を払っていたことを思い出していた。


「俺はのんびり出来る領地を目指すんだ。それに普通の条件じゃ、ここに誰も来てくれないだろ?」


 肩をすくめる。


「た、確かにそうかもしれませんが……!」

「もちろんアラベラにも『週休二日』『残業なし』が適用される」

「良いんですか!? それに、本当にこれで領地が回るんですか?」

「それについては追々考える。だけどその二つの条件は絶対だ」


 これは断固として譲らん。

 前世で社畜として働いていた俺みたいな目に、みんな遭って欲しくないのだ……。


「ハンスさんは素晴らしいお方ですね。領民から搾取することしか考えない領主様も多いのに……」


 うっとりした瞳になるアラベラ。


「ま、まあそれだけの条件を出しても、誰も来てくれなかったら笑い話だけどな」

「そんなことは絶対ないですよ! すぐに領民達が殺到してきます!」


 アラベラはそう言うが、本当に来てくれるだろうか……。



 ◇ ◇



「全く……あのサールロア領はとんでもないことになりそうですね」


 冒険都市。

 アラベラの父親……商人は店に帰って、求人票を見ながらそう呟いた。


 すぐに各種のギルドに求人票は配っておいた。


『週休二日』『残業なし』とあまりにも馬鹿げた求人。

 普通ならすぐに人が集まってくると思うが……まずは、それが本当か嘘かを見極めなければならないので、なかなか尻込みしてしまう人も多いだろう。


「娘のアラベラをあそこにとつがせたのも正解でしたね」


 確かにサールロア領は弱小領地で、領民もゼロだ。


 しかし絶対にあの領地は発展していく。

 そう確信したからこそ、アラベラにあそこの領民になることを勧めたのだ。



 カラン、カラン。



「店主。この求人を貼ったのはあなたか?」


 店内に一人の女性が求人票を持って、入ってくる。


 商人はそれを見て、自然と背筋がぴんと伸びた。


「ああ、勇者様! その通りです。近くのサールロア領でそういった求人があるようで……」

「書いてあることは本当なのかな? 破格の条件だと思うけど……」


 商人は首を縦に動かす。


「そうか……」

「どうしたんですか、勇者様。まさか勇者様がその領地に興味があるのですか?」


 疑問の形で聞いているが、勇者の顔を見ていると考えが透けて見えるようだった。


「そ、そんなことはないよ。勇者とは名ばかりで、毎日領主やギルドから仕事を押しつけられて、毎日働きっぱなし。もっとのんびり暮らしたいと思っているなんて……」

「勇者様?」

「な、なんでもないよ!」


 再び女勇者が求人票に視線を落とす。


「こんな素晴らしい領地があるなんて。とにかく一度行ってみようか……」

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