3・野菜を生産
「早速だが、アラベラはなにかスキルとか持っているのか?」
領主となった以上、領民のスキルを把握するのもの大切な仕事の一つだろう。
だが、アラベラは伏し目がちになって、
「ふえぇ。わたしは……【暗算】というスキルを持っていますぅ……」
と声を小さくして言った。
「【暗算】か……確か暗算がちょっと速くなるスキルだったか?」
「その通りです! わたし、昔から交渉事が苦手で、いつもお父さんの商店で経理の仕事をしていました。とはいっても暗算もちょっと速くなるくらいだったので、わたしよりもっと上手く出来る人もいるんですが……」
アラベラは申し訳なさそうに続けた。
【暗算】スキルもこの世界においては外れ扱いされているものだ。
アラベラが自信をなくすのも仕方がない。
しかし。
「素晴らしいじゃないか」
「え?」
「アラベラには是非領地の経理だったり、俺の手伝いをしてもらいたい。どうだろう?」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。あっ、でもやっぱり商人をしたいのか? だったらお店を一つ用意するが……」
俺が言うと、アラベラは「そ、そんなことありませんー!」と声を大きくした。
「わたし……自分が商人に向いていないことは分かっていました。だから出来ればこの領地では、他のことに挑戦したいな……って。ダメですか?」
「そんなことない。アラベラの好きなようにするべきだ」
そもそも役割を割り振るほど、サールロア領には領民がいないんだしな。
えり好みもしてられない。
アラベラはパッと花が咲いたような笑顔になって、
「は、はい! 頑張りますね! こんな優しい領主様に出会えて、わたしは幸せものですう!」
と嬉しそうであった。
◇ ◇
「アラベラ。俺の手伝いもしてもらおうと思っているし、一緒の館に住んでもらう方が都合が良いと思うんだが……」
「ハ、ハンスさんと同じところですか!?」
アラベラが目を見開いた。
おっと、いけない。
アラベラは可憐な女の子だ。
そんな子が、俺みたいな男と同じ屋根の下で暮らす?
こんなこと、バレたらアラベラのお父さんに殺されるだろうし、そもそも彼女もそれを望んでいないだろう。
「す、すまん。変なことを言ったな。じゃあアラベラには近くの家に住んでもらって……」
「そ、そんなことないです! テント暮らしも覚悟していましたので! まさか屋根があるところ……しかもハンスさんと同じところに住めるなんて、夢にも思っていませんでした!」
「はは、テント暮らしだなんて、そんなことさせるわけないだろ」
「そういう悪質な領主様も多いんですよ」
悪い領主も多いことは俺も知っていたが……まさかそれほどだったとは。
「もちろん、アラベラの個室は用意している。中から鍵もかけることが出来る。だから安心して暮らして欲しい」
「わ、分かりました! でも! わたしはハンスさんと同じ部屋でもいいんですが!」
意を決したようにアラベラが言った。
「面白い冗談だな。でもそう言ってもらえて嬉しいよ」
「むー、冗談じゃないのに……」
何故だかアラベラは頬を膨らませた。
「じゃあせっかくだから、このまま領内を案内するよ。寝るにはまだ早いしな」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「もっと肩の力、抜いていいから」
張り切るアラベラの姿を見て、俺は苦笑する。
俺は歩き出し、その後をアラベラが追いかけてきた。
◇ ◇
「畑がいっぱいありますね……」
領内の風景を眺めながらのんびり歩いていると、アラベラがそう口を開いた。
「畑だけはな。とはいえ、土地が痩せ細っているせいで、ろくな食物が収穫出来ない」
「そ、そうなんですか。大丈夫なんでしょうか?」
「まあしばらくは備蓄も残っているだろうから問題ないが……」
いつかは尽きてしまうだろう。
この食糧問題は、さしあたってのサールロア領の問題点とも言える。
ん……待てよ。
「俺の【生産】スキルで野菜を作ることが出来ないか?」
「ハンスさん?」
アラベラが首をかしげる。
「実はあのポーションも俺の【生産】スキルで作ったものなんだ。だから野菜も同じように作れないかなー、って」
「え、え? どういうことですか? ポーションを【生産】スキルで? 【生産】スキルって確か手先が器用になるくらいじゃ……」
混乱した様子のアラベラ。
まあこういう反応なのも仕方がない。
俺の【生産】スキルは、今までの常識を根底から覆すものだからな。
「まあ見てもらった方が早いか」
俺はすぐに近くの農家の家に入り、残っていた野菜の種をいくつか頂戴した。
領民達は逃げ出してここには二度と戻ってこないだろうし、これくらいなら罰は当たらないだろう。
『人参』レシピ
人参の種×1 土×1
ビンゴだ!
土ならいっぱいあるし、どうやら野菜を作れるみたいだぞ。
「まずは種をまいて……っと。アラベラ、手伝ってくれるか?」
「わ、分かりました! でもわたし、農業はあまり詳しくないんですが……」
「心配しなくていい。適当にまけばいいから」
アラベラと一緒に種をまいていく。
……これはなかなか腰にきくな。
しかし少しの我慢だ。
「よし……人参生産」
種をまき終わった後、俺は種をまいた土を見て、腕にぐっと力を込めた。
「わっ! 人参が生えてきます!」
すると、あっという間に芽が土から出てきてそのまま成長を続け、あっという間に収穫時となった。
・人参 Lv8
『美味しい人参。馬に食べさせると、他の人参を食べなくなる恐れがあるので注意』
人参にもLvがあるのか……。
とはいえ、無事に収穫出来たようだ。
「す、すごいですよ!」
「どうしてだ?」
「商売柄、食物も仕入れることが多かったのですが……この人参は今まで見た人参の中でも、最高の品質です! あっという間に人参が収穫出来て、目が回るかと思えば……まさかこんな人参を手に入れられるなんて!」
アラベラが驚いている。
どうやらこの人参もなかなか優れものらしいな。
「他の野菜も試してみるか」
「はい!」
その後、トマト、かぼちゃ、ピーマン、きゅうり、じゃがいも、たまねぎと色々な種をまいてみたが、どれも立派に育った。
しかも。
「どれもすっっっごい野菜です! 冒険都市に行ったら、一個銀貨一枚で売れるかも!」
どれもこれも高級品のようだ。
ちなみに銀貨一枚もなかなかの大金だ。
「後はちゃんと食べられるかだな。見た目だけだったら意味がない。アラベラ、早速食べみようか」
「楽しみです!」
野菜も生産することが出来た。
この【生産】スキル、俺が思っていたより万能なものかもしれないぞ。