表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

3・野菜を生産

「早速だが、アラベラはなにかスキルとか持っているのか?」


 領主となった以上、領民のスキルを把握するのもの大切な仕事の一つだろう。


 だが、アラベラは伏し目がちになって、


「ふえぇ。わたしは……【暗算】というスキルを持っていますぅ……」


 と声を小さくして言った。


「【暗算】か……確か暗算がちょっと速くなるスキルだったか?」

「その通りです! わたし、昔から交渉事が苦手で、いつもお父さんの商店で経理の仕事をしていました。とはいっても暗算もちょっと速くなるくらいだったので、わたしよりもっと上手く出来る人もいるんですが……」


 アラベラは申し訳なさそうに続けた。


【暗算】スキルもこの世界においては外れ扱いされているものだ。

 アラベラが自信をなくすのも仕方がない。


 しかし。


「素晴らしいじゃないか」

「え?」

「アラベラには是非領地の経理だったり、俺の手伝いをしてもらいたい。どうだろう?」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。あっ、でもやっぱり商人をしたいのか? だったらお店を一つ用意するが……」


 俺が言うと、アラベラは「そ、そんなことありませんー!」と声を大きくした。


「わたし……自分が商人に向いていないことは分かっていました。だから出来ればこの領地では、他のことに挑戦したいな……って。ダメですか?」

「そんなことない。アラベラの好きなようにするべきだ」


 そもそも役割を割り振るほど、サールロア領には領民がいないんだしな。

 えり好みもしてられない。


 アラベラはパッと花が咲いたような笑顔になって、


「は、はい! 頑張りますね! こんな優しい領主様に出会えて、わたしは幸せものですう!」


 と嬉しそうであった。



 ◇ ◇



「アラベラ。俺の手伝いもしてもらおうと思っているし、一緒の館に住んでもらう方が都合が良いと思うんだが……」

「ハ、ハンスさんと同じところですか!?」


 アラベラが目を見開いた。


 おっと、いけない。


 アラベラは可憐な女の子だ。

 そんな子が、俺みたいな男と同じ屋根の下で暮らす?

 こんなこと、バレたらアラベラのお父さんに殺されるだろうし、そもそも彼女もそれを望んでいないだろう。


「す、すまん。変なことを言ったな。じゃあアラベラには近くの家に住んでもらって……」

「そ、そんなことないです! テント暮らしも覚悟していましたので! まさか屋根があるところ……しかもハンスさんと同じところに住めるなんて、夢にも思っていませんでした!」

「はは、テント暮らしだなんて、そんなことさせるわけないだろ」

「そういう悪質な領主様も多いんですよ」


 悪い領主も多いことは俺も知っていたが……まさかそれほどだったとは。


「もちろん、アラベラの個室は用意している。中から鍵もかけることが出来る。だから安心して暮らして欲しい」

「わ、分かりました! でも! わたしはハンスさんと同じ部屋でもいいんですが!」


 意を決したようにアラベラが言った。


「面白い冗談だな。でもそう言ってもらえて嬉しいよ」

「むー、冗談じゃないのに……」


 何故だかアラベラは頬を膨らませた。


「じゃあせっかくだから、このまま領内を案内するよ。寝るにはまだ早いしな」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「もっと肩の力、抜いていいから」


 張り切るアラベラの姿を見て、俺は苦笑する。


 俺は歩き出し、その後をアラベラが追いかけてきた。



 ◇ ◇



「畑がいっぱいありますね……」


 領内の風景を眺めながらのんびり歩いていると、アラベラがそう口を開いた。


「畑だけはな。とはいえ、土地が痩せ細っているせいで、ろくな食物が収穫出来ない」

「そ、そうなんですか。大丈夫なんでしょうか?」

「まあしばらくは備蓄も残っているだろうから問題ないが……」


 いつかは尽きてしまうだろう。


 この食糧問題は、さしあたってのサールロア領の問題点とも言える。


 ん……待てよ。


「俺の【生産】スキルで野菜を作ることが出来ないか?」

「ハンスさん?」


 アラベラが首をかしげる。


「実はあのポーションも俺の【生産】スキルで作ったものなんだ。だから野菜も同じように作れないかなー、って」

「え、え? どういうことですか? ポーションを【生産】スキルで? 【生産】スキルって確か手先が器用になるくらいじゃ……」


 混乱した様子のアラベラ。


 まあこういう反応なのも仕方がない。

 俺の【生産】スキルは、今までの常識を根底から覆すものだからな。


「まあ見てもらった方が早いか」


 俺はすぐに近くの農家の家に入り、残っていた野菜の種をいくつか頂戴した。

 領民達は逃げ出してここには二度と戻ってこないだろうし、これくらいなら罰は当たらないだろう。



人参にんじん』レシピ

 人参の種×1 土×1



 ビンゴだ!


 土ならいっぱいあるし、どうやら野菜を作れるみたいだぞ。


「まずは種をまいて……っと。アラベラ、手伝ってくれるか?」

「わ、分かりました! でもわたし、農業はあまり詳しくないんですが……」

「心配しなくていい。適当にまけばいいから」


 アラベラと一緒に種をまいていく。


 ……これはなかなか腰にきくな。

 しかし少しの我慢だ。


「よし……人参生産」


 種をまき終わった後、俺は種をまいた土を見て、腕にぐっと力を込めた。


「わっ! 人参が生えてきます!」


 すると、あっという間に芽が土から出てきてそのまま成長を続け、あっという間に収穫時となった。



・人参 Lv8

『美味しい人参。馬に食べさせると、他の人参を食べなくなる恐れがあるので注意』



 人参にもLvがあるのか……。

 とはいえ、無事に収穫出来たようだ。


「す、すごいですよ!」

「どうしてだ?」

「商売柄、食物も仕入れることが多かったのですが……この人参は今まで見た人参の中でも、最高の品質です! あっという間に人参が収穫出来て、目が回るかと思えば……まさかこんな人参を手に入れられるなんて!」


 アラベラが驚いている。


 どうやらこの人参もなかなか優れものらしいな。


「他の野菜も試してみるか」

「はい!」


 その後、トマト、かぼちゃ、ピーマン、きゅうり、じゃがいも、たまねぎと色々な種をまいてみたが、どれも立派に育った。


 しかも。


「どれもすっっっごい野菜です! 冒険都市に行ったら、一個銀貨一枚で売れるかも!」


 どれもこれも高級品のようだ。

 ちなみに銀貨一枚もなかなかの大金だ。


「後はちゃんと食べられるかだな。見た目だけだったら意味がない。アラベラ、早速食べみようか」

「楽しみです!」


 野菜も生産することが出来た。


 この【生産】スキル、俺が思っていたより万能なものかもしれないぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ