猫の思惑
「来た!」
ドタドタと家の中から近づいてくる足音に三毛猫はそう思った。
「人ん家の庭で好き勝手する輩はだれじゃあああ!!」
家の中から現れた大男はそう叫びながら少女をにらむ。
公園で少女につけられているときそのまま逃げ切ってもよかったんだが、こういう変なヤツは意外としぶとかったりするから少し懲らしめて諦めさせた方がいい。
そして、その方法が......。
怖い大男に怒って貰うことだ。
「お前何やっとんや?」
大男は予想通りのテンションで少女に訊ねる。
「え、えっと猫を捕まえようと......」
「なんや? お前の猫かいな」
少女の言い訳に怪訝そうな表情をして聞き返す。
「いや違うけど」
「じゃあ、何で捕まえる必要があると?」
「ね、猫を食べてみたいなと思って......」
それを聞いて大男は何か事情を理解したように話し始める。
「ほぉー、変わった子供やな、......でもあかんで」
「えっ?! なんで?」
少女は疑問よりも否定された怒りの方を強くして聞いた。
「それはな、お前がやろうとしていることが法律っつても分からんか......、要は犯罪、悪いことなんよ」
「......でも、別の国では食べてる人がいるよ?」
「それでも! この国ではダメっていうルールになってる」
「そんな......じゃあ、どうしたら猫を食べられる?」
「どうしたらか......」
法律を破らせる? いやいや。もしくはそんな法律の無い国に行って食べるか、圧倒的にお金が足らない......。
大男は考えを巡らせるが今ここで少女を説得出来る道理は見つからなかった。
「......」
人間の言葉が分からない三毛猫は大男と少女の表情を見て、大方、大男の方が足を引っ張って、自分の捕まるリスクが低くなりそうだと思った。
「ニャー!」
そして、ここからが追い打ち。
三毛猫は開いた窓から家の中にいる大男にすり寄り愛嬌を振りまく。
大男は眉間のしわを緩め呟く。
「せやな、こんなに可愛いんやもん、食べるなんてもったいないやん」
大男は三毛猫を抱き上げ少女に言った。
「俺達日本人は普通、猫を食べたりしないんや。生きとる猫を捕まえて殺して食料にするなんてそのくらいの歳なら気持ち悪がるもんやろ? 君がオカシンや」
「私が、オカシイ......」
少女はうつむく。そしてポロポロと涙が落ちる。
大男は慰めることを我慢している。
「うっうっ......うぇーーん!」
辺りは公園ではしゃぐ小学生の声と少女のうめき声だけが聞こえる。大男が少女が泣き止むのを待っていると少女の方から切り出した。
「うっ、うっ......どうしたらいい? どうしたら普通になれるの? おじさん教えて?!」
大男は優しく笑って
「そんなら、この猫は家で飼うからいつでも家に遊びに来るといい。この子を可愛がればきっとみんなと同じようになれる」
っと言った。
「うん、わかった......」
少女は庭を出て、帰っていった。
大男は家の中に入り窓を閉めると、リビングに三毛猫を降ろしキッチンの奥へ消えていく。
「なんか不味くない?」
閉じ込められたんだけど?!
というか、さっきの少女の反応、何?
何かが解決した風だったんだけど。
監禁されたことと関係あるの?
この後、俺どうなっちゃうの?
三毛猫は野良猫から飼い猫(ニート猫)にジョブチェンジした。