初めてのタイジ
「公園、行ってくる」
「分かった、5時までには帰ってきてね」
「はーい」
幼稚園から帰った乃倫子は猫を捕まえるために『虫取網』を持って公園へ出かけた。
公園には母親を連れた幼稚園児や遊具ではしゃぐ小学生たちが遊んでいるが、私は彼ら彼女らのように遊びに来たのではない。
これは、夕食調達、つまりは仕事だ。
「猫を捕まえれば今日の夕食は猫肉料理だ! がんばって捕まえよっ」
乃倫子は鼻歌を歌いながら今朝のごみ捨て場まで行き、そしてあることに気がつく。
そこにあるのはキレイに畳まれたネットのみ。
「あっ!! 夕方だからごみ無いじゃん!」
ごみが無ければそれを求めてやってくる猫はいないわけで......。トホホ......。
あ、でも朝はその辺の茂みに猫みたいなのがいたんだっけ。
乃倫子はごみ捨て場から見える茂みを探してみるが猫はおろか動物っぽいものすら見つからなかった。
「もう少し公園から離れた所も探してみようかな」
そう思って公園から出ようとした時、遠くの方で今、公園に入ってきた一匹の猫を見つける。
あの猫、もしかして!!
その猫を見失わないように後をつけ、気付かれないように確認すると、たしかに朝の話に出てきて三毛猫だった。
三毛猫は芝生に座りリラックスしようとしている。
乃倫子は手に持つ虫取網をいつでも振れるように構え、猫に近づく。
気づかれるなー気づかれるなー。
そう一歩一歩念じながら近づくと、乃倫子の芝生を分ける音に驚いて三毛猫は逃げてしまう。
乃倫子も「しまった!」と思いつつも虫取網を振り下ろす。が、当然、網に猫はかからない。
乃倫子は三毛猫が逃げた方に走って追いかける。
三毛猫は公園を出て、道路の向こう側にある住宅へ入っていった。
乃倫子もそれを追いかけ柵を乗り越えて勝手に住宅へ入る。
するとそこにはキレイな色とりどりの花が咲く花壇と芝の高さを切り揃えてある芝生があった。
そしてその芝生に座る三毛猫はまるで乃倫子を待っているかのようでとても不思議だった。
乃倫子はもういちど虫取網を構え、今度は勢いよく飛びかかって捕まえようとした。
三毛猫はそれを横に飛んでかわし、倒れ込む乃倫子を踏んづけて飛び越える。そして乃倫子の方に向き直り、座る。
乃倫子は立ち上がり、虫取網が届く所までジリジリと近づこうとする。
すると、三毛猫は距離をとろうと乃倫子の後ろにまわり込む。
乃倫子は三毛猫に向き直り考える。
このままだと、らちが明かない.......。どうやったら猫を捕まえられるんだ?
その時、家の窓を勢いよく開け放った中年のおじさんがイライラしながら怒鳴った。
「人ん家の庭で好き勝手する輩はたれじゃあああ!!」