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猫と少女の見えるもの  作者: 鳩ノ木まぐれ
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夢オチと敵の恐怖2

 眠い目を擦りながら乃倫子はお母さんに言われた通り、お風呂に入る。


 髪を洗い、身体を洗い。いつもお母さんがそうしてくれたように頭から下へ洗っていく。


 頭を洗うとき泡が目に入るのを防ぐため、目を瞑る。まだ眠いせいか、立花先生の『ダメ』という声が聴こえたような気がして怖くなった。


 乃倫子は急いで泡を洗い流す。


 湯船に浸かるかどうか迷ったが一刻も早くお風呂から上がりたかったがために遠慮した。


 乃倫子はスライドして開くお風呂の扉を開け、お風呂を上がり、身体と髪を乾かしてリビングへ戻る。


 リビングではお母さんがテレビを見ている。


「お母さん、眠いから、一緒に寝よ?」


 乃倫子は怖いことを隠してお母さんのもとへ行き、甘えるように袖を引っ張る。


「どうしたの? いつもは一人で寝るのに。いいよ、ベッドに行きましょうか」


 お母さんはテレビを消し、乃倫子の手を引いてベッドへ向かう。


 乃倫子がベッドに身体を挟み込むとお母さんは電気を消し、私の隣に横になる。


 お母さんの腕にそっと寄り添うと、お母さんは月明かりの中乃倫子に微笑んだ。


「おやすみ、乃倫子」


「おやすみ......」


 目を瞑れば暗闇だか、隣にあるお母さんの温もりが乃倫子を安心させる......。



 乃倫子の瞳にストーブの光りが映る。


「あれ?」


 ここは確か幼稚園の園長室。


「君、猫が食べたいんだってね」


 後ろで声がして振りかえると色白の肌をした男の子が疲れたような目で、こちらを見ている。


 男の子は自分が貧乏揺すりをしていることに気が付くと、ポケットから百円ライターを取り出していじりだす。


「だ、だれ?」


 あまりにも白く、むしろ真っ青な顔の男の子を見て、乃倫子はオバケに出会ってしまったのかと思った。


 でも、誰だろう。見たことあるような......。


「僕かい? 僕は君の救世主だよ」


 白い男の子は乃倫子の疑問に気が付き、明るく答える。


「キュウセイシュ?」


「そうだよ。ストーブの炎を見て」


 そう言って指差す方を見るとユラユラと揺れる炎に、吸い寄せられるように目が離せなくなる。


 男の子は乃倫子の後ろから優しく、慈しむように、私の心を代弁する。


「その炎は暖かくて、安心するよね。君が抱えている『普通』じゃない不安もきっと炎が包んでくれるから、君は大丈夫、大丈夫」


 後ろから聞こえてくる声に乃倫子はだんだんと怖くなってきた。


 振り返りたくても振り返られない乃倫子はこれが『悪夢』なんだと気が付くと、背中に熱があるのを感じる。


 その熱は徐々に大きくなり、ストーブの炎の光が淡く感じられるほどに豪々と立ち昇る。


 しかし乃倫子はそれを見ることが出来ない。


 振り返れない身体はまるで金縛りのように固まり、動けない。


「熱っ!」


 立ち昇る熱は乃倫子の髪を這い身体を包み、熱による痛みが身体全体に広がる。


 じぶんの両手を見ると実体の無い炎が皮膚を焼き溶かしながら身体を包んでいくのが分かった。


「あぁぁぁ! あぁーあぁぁ! あづいぃぃ!」


 全身のいたるところが炎に包まれると、ふと、涙を出せば目は燃えないのではと考えた。


 しかし、その瞬間、両目に清涼感のある焦燥が広がり、ビシビシと割れるような乾燥で目が痛む。


 乃倫子は目の痛みに耐えられず目を抑えてうずくまる。


「痛いよぉ。痛いよぉ......」


「大丈夫、炎に身を委ねて。暖かいでしょ? 心が優しくなる感じはある? きっとママのようになれる......」


 お母さんのように......?

 この子は何? 『悪夢』なら早くっ、早く終わって!



「はっ!! はぁーはぁーはぁー......っ、生きてた」


 乃倫子は気が付くといつものベッドで横になっていた。


 あまりにもリアルで怖い夢を見たせいで未だに生きている現実感が湧かない。


 外で鳴いているスズメやカラス達が乃倫子のことを馬鹿にしているように聴こえて、少し恥ずかしかった。


 隣にはお母さんが寝ていて、その向こうには仕事から帰ってきていたお父さんもいる。つまりは川の字である。


 身体の火照りはまだ消えない。心臓の音がうるさく、お母さん達の寝息は静かだ。


「......」


 今はとにかく叫びたい気持ちだが、隣で寝ている二人を起こさないようにと考えるとあのときの金縛りのように声が出ない。



 とりあえず今日は幼稚園休みたいなぁ。

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