ラエリエトのシゴト
みんなさん、こんにちは。ザッドに住む事になった元アース人のラエリエトです。
今僕は獣人族の崩天氏族にお世話になっています。
「ラエリエト!今よ!」
はい!
働かざる者食うべからずはこの世界でも適用するから、僕は狩りの手伝いをしている。
「さすがだな。俺たちは力仕事が得意だけど、遠距離で獲物をトドメできる奴が少ない」
こうやって僕を讃えられたのは、崩天氏族族長の息子、チャルノウだ。
いいえ、それは前衛のみんなさんはうまく目標を指定場所まで誘導できたのお陰です。
さすがに褒められすぎるような気がするから、僕は謙虚な態度を取った。
「もう、ノウ兄の話を素直に受け入ればいいのに、余計な謙虚さはいらないよ」
そしてこうやって僕を責めたのは、チャルノウの妹のチャルナウだ。
筋肉そのものと言えるチャルノウさんとは違って、チャルナウは頭の上に可愛い虎の耳を持つ女の子だ。
正直、僕はこのザッドに住むことを決めたきっかけは、彼女を一目惚れしたからだ。
「獲物の運びを手伝います」
さっき僕が倒したのは最後として、今回の狩りが終わった。チャルノウさんたちは獲物を縄で締めて、持ち帰りの準備ができた。
さすがに手ぶらのは悪かったから、僕は獲物一部の運びを手伝う事を申し込んだ。
「お前のお陰でほとんど大型の奴ばっかりだからな」
チャルノウさんはちっと僕を見て、手伝い事を断れられた。
これは仕方ない、ガーディアンスの軍士訓練学校で卒業できたとは言え、狙撃兵科はあまり筋肉鍛錬をしなかったから、獣人族のみんなから見れば、僕は貧弱すぎるだろ。
「気にしないてね、旦那様は悪気がありませんから」
カノン帝国のファランシスナ=サンタルシア遊撃候爵の命令でチャルノウさんに嫁いたキンスナさんは僕を慰めてくれた。
最初は嫌そうだったけど、今のキンスナさんはこの婚事を受け入れたそうだ。
ちなみに、キンスナさんは帝国西部に住む少数民族、通称野蛮人の大剣部族の族長の娘だそうだから、この獣人と野蛮人の異種族婚姻は意味があるのかって聞いてみた。その時僕は初めて知った、どっちも汎人種族の内だから問題ないって事だ。なんと精霊と矮人も汎人種族だから、正常に人類と子ができるって。
エルフはともかく、矮人は時々ここを通って寒氷境の深処に稀有鉱石を探す事があったから、間話を交わした事もあった。アースの伝承とは違って、ザッドの矮人族は人類の平均身長よりやや低いだけらしい。
「低く足りないと、礦坑に入らないぞ!」
どうやら矮人にとっては低いほど尊いのようだ。なんとアースの人類と全く違う考えだ。初めて聞いた時、僕は少々驚いた。だって、165以下には人権がないとか、アースでよく言われているじゃない?
ちなみに僕が矮人たちに165の高さと人権の概念を説明した時、矮人たちも驚いた。
「そんな高さ以上こそその人権とあらを持てないはずだ!」
……はい。
「これだけあれば、今年の冬はなんとかなるだろ」
僕がほっとした時、チャルノウたちは獲物を台車に乗せた。どうやらこれは冬の予備食料だそうだ。これは僕がここでの初めての冬だから、少し心配している。
何故なら、それは崩天氏族がいるこの場所は、この大陸では一番寒い場所、寒氷境であるからだ。
「そう言えば、ノウ兄、隊商はそろそろ到着するのよね」
「ああ、奴らはいつも冬の前に来るから、そろそろだろ」
隊商?
「見たの通り、ここの自然資源は豊かなけど、利用するには手間かかりすぎるから、俺らには無理だ。だから年に数回レカーライヴズやエアからの隊商と交易して、足りないものをもらおうとしているの」
なるほど、だからエアがカノンに攻められた時、エド様が怒ったわけか。隊商の道が断ったから、エド様が怒ったのも当然だな。
「導師様は親父の義父でもあるから、常に俺らの面倒を見てくれた、本当に感謝だ」
チャルノウの言葉にエド様に対して膨大な尊敬を感じられた。まあ、それもそうだよね。エド様は赤城総隊長と同じこのザッドの救世主だから、その尊敬さは容易い想像できる。
更にここの獣人たちの世話をするために、エド様はマンヴィナさんを派遣して来た。
「マンヴィナさんは連絡官だけではなく、あたしとノウ兄、そして氏族の子供たちの教師でもあるのよ」
マンヴィナさんの正式な職権はレカーライヴズ駐崩天氏族全権大使、それなりの発言権を持つ、崩天氏族の発展に大きな貢献があった。
ちなみに彼女はとある宿屋で働いたウエートレスだったけど、死の騎士になったばっかりのエド様に殺されて、そのまま使い魔として復活されたって、えりなさんが集まった情報はそうやって記録している。
更にえりなさんが集まった情報によると、そのヴィナさん今はエド様の伴侶の一人に扱い、そしてエド様はチャルソウ族長の義父だから、つまりマンヴィナさんはお二人のおばーー
「ラエリエトくん」
あ!
突然、僕の後ろから女性の声が僕を呼んでいる。振り返したら、そこに厚い服を着ているマンヴィナさんがそこに僕を睨んでいる。なるほど、それは禁句のようだ。
「マンヴィナ様、狩りは終了しました」
この気まずいの沈黙を破ったのは、チャルノウさんの報告であった。
「みんなが無事そうで何よりだ。それにしても、この量は昨年より多くない?どうやらいいお年になりそうね」
「ラエリエトくんのおかげだよ」
チャルナウさんもマンヴィナさんに僕を讃えてくれた。
「さすが元、光神信使の一人と言うべきか?」
マンヴィナさんは少し僕を見た後、納得したように頷いた。
「では戻ろうか」
全ての仕事が終わったから、チャルノウは帰還の指令を言い出した。
あの日の夜、僕たちは予想以上の成果を達成したから、崩天氏族の族長チャルソウはささやかな宴会を開いた。
獣人族は肉が好みのようだから、野菜はあまり食べていない。寒氷境は野菜類を植えにくいのも原因の一つだけど、食材の保存技術が進めていないから、隊商も滅多に仕込んで来ない。
「それについて俺もお義父様に頼んでみたが、難航しているようだ」
僕の心配を見破った族長様は僕の隣りで嘆いた。
もしレカーライヴズは無理なら、いっそエド様を通って、カノン帝国のロディヴァン様に頼んでみたら?
「確かにカノン帝国はレカーライヴズよりうちに近いのだが、隊商にとって、ドンキンロース山を越えるのは不可能だ。よくキンスドンの奴があんなところに住めるとはな」
いや、この寒氷境を住める獣人族もなかなかだよね。ちなみに、キンスドンはキンスナさんのお父さんにして、野蛮人大剣部族の族長である。なんとチャルソウ族長とは戦友の関係であった。
とりあえず現状では、レカーライヴズやエアからの方が現実味があるようだ。
「もしこっちの特産品を増えられたら、なんとかなりそうだが」
この話を続いたのは、長老のトクルス様だ。
えっと、狩りだ獲物の一部は交易品として隊商に回しているよね。ここの獲物は上質なものだから、それなりに儲けたのはずでは?
「足りるわけないわい」
トクルスも悩んでいるのようだ。
「いや、量は大丈夫だ。けどここの魔物の質が高すぎて、利用できる卸し相手もそうそういないから、いくらお義父さんが紹介してくれた隊商でも値切りさせられた」
いいものなのに……価値があるのに売れないとはこう言う事だろ。
「酒だ!」
他の獣人は宴会で盛り上がって酒を叫んでいる。
僕はギリギリ酒を飲められる年齢だから、ここの酒も気になっている。
……一口飲んだら、アシアの原住民が作った度数が低い米酒のようだ。え?って事は、ここ米があるの?
「そのコメとあらは知らんが、これはこのものから作った酒だ。酒の味はちゃんと出しているが、エド様が送ってくれた酒と比べたら全然足りないのう」
トクルス様は僕に説明をしながら、とある作物を僕に見せてくれた。なるほど、その形だと、アワか。でもアースのアワは暖かく地区だけ植えているはず……まさかここのアワはこんな寒い場所でも植えられるの?だとしたら、もし大麦もあったら、僕はなんとかなるかもしれん。
「オオムギ?それはどう言う……?」
「あたしも知りたい!」
「興味深い話だな」
「是非詳しく説明してもらいたい、ラエリエトくん」
トクルス様だけではなく、僕が言い出した話は族長、チャルナウさん、そしてマンヴィナさんの興味を引き出した。
えっとねーー
「それならあるよ」
僕の説明を聞いたトクルス様は倉庫からとある植物を持って来た。
え?本当にあるの⁉︎
僕はしっかりその植物を検査した。知ってる大麦とは少々差があるけど、トクルス様の説明によると、どうやら僕が知ってる大麦とはあまり差がないようだ。
少し試す時間は必要だけど、やってみる価値がありそうです。
「小僧は酒作りを知ってるのか?わしらの仕事を舐めてるのか⁉︎」
少し年がある獣人たちに睨まれた。
「ラエリエトくん、本当にできる?」
マンヴィナさんは興味あるけど、僕に送ってくれたのは心配している目線だ。
実績はないから肯定な話を言えないけど、僕の姓、シングルモルトとは、酒の種類です。そう、ガーディアンスに入る前に、僕は酒作り屋の三男として、家を手伝いしながら酒作りの知識を習いだ。
「へい〜そうなんだ」
チャルナウさんは僕に微笑みを見せてくれた。
「族長」
「ああ、彼にやってみよう。それはどんな酒のも興味があるからな」
はい、頑張ります!
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「うわ!これは強い!」
冬の真ん中、数ヶ月をかかって、ようやくそれっぽい試作品ができた。いろんな試行錯誤をやって、大量な大麦っぽいものを浪費してしまった。それは仕方ない。僕が知っている技術はあくまでアースの現代技術で作られたものだから。それにそのアワ酒を作った獣人たちは僕に敵意がありそうだから、族長命令で僕を手伝いしてくれたけど、合作な態度ではなかった。そんな彼らに認められたきっかけは、この試作一号だ。
「だがしっかりいい香りをしておる」
「大量なモギを浪費してしまったが、これのためなら仕方ない」
そのモギと言うのは、その大麦もどきの名らしい。
試し飲んだみんなは好評のようだが、僕としては足りない。
「まさかこれ以上のものができると言うのか⁉︎」
おっと、期待させてしまった。今は断言できないけど、とりあえず制作設備を一から検討しないと。
「頑張るぞ!」
「おおおおお!」
さすが獣人族か?その吼え声は驚いた。
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「トクルス、お前はどう思う?」
トクルスは自分の小杯にある酒を軽く揺らして見ながら、族長のチャルソウが言った問題に自分の考えを整理した。
「確かに今まで作った酒よりできがいいが、こんなに時間をかかったのに量が少なすぎる。試しに飲んだのを除いたら、なんとこの一本だけ、これは少なすぎる」
「しかし味は確かなものだな」
「それは同意ですが、この産量は特産品に回す事ができんぞ」
「今彼は器具の改良から始めたそうだ。お前から見ると、うちの特産品として薦められるには、どれくらいの産量が必要か?」
「それはそうだな。贈るの量も含めたら、せめて五樽の量が必要かと。あ、それなら瓶の生産も必要になりそうだ」
「それについては矮人たちと交易すれば良いだろ?連中がこの酒の味を知ったら、きっと協力してくれるだろ」
「わかりました。次にできたものは矮人たちとの商談のために確保したい」
「ああ、俺からラエリエトに通達しよう」
「ありがとうございます」
「では、いい酒ができるように」
チャルソウは最後の一口が残った杯を持ち上げた。
「はい、いい酒ができるように」
トクルスは祈ってながら族長と乾杯した。
「おい、ずるいぞ。まさかそんな酒ができたのに、俺に教えてくれねぇのかよ⁉︎」
乾杯した二人の隣りに、一人が現れて来た。
「相変わらず耳が早いな、ロディヴァン」
来者はカノン帝国の選帝侯爵、ロディヴァン=ブレイドであった。チャルソウは残った少ない酒を新しい杯に注いで、ロディヴァンに渡した。
「うひゅう!」
ロディヴァンは少し酒を嗅いだら、少しずつ飲んでみた。
「なにその鑑賞家みたいな飲み方かよ」
ロディヴァンはチャルソウの話を無視して、しっかり酒を味わっている。
「作ったのはラエリエトか?チャルソウよ、そいつを紹介してくれねぇのか?」
酒が喉に入った後、ロディヴァンはチャルソウに問いかけた。
「お前は長時間アカギたちの母艦にいたから、既に知り合いのはずだが?」
「今彼はお前の傘下だから、お前を通う方が礼儀だろ」
「つまりこの酒について、お前まで高評価を出したってわけか。これはますます期待する甲斐がありそうだ」
「クーフーリンで飲んだものと比べたら未だ程遠いが、未来性がある」
ロディヴァンの話を聞いたら、チャルソウは少し羨ましくなった。まさか本物のアースの酒を飲めだなんて……
「ところで、ロディヴァン様はどうやってこの酒の事を?」
またできたばっかり、族内しか知らないのはずなのに。
「俺の血族は人類だけではないぞ」
トクルスは目の前のこの人物がかつて邪神を仕えた血痕騎士であった事を思い出した。
「さすが絆を司る血痕騎士と言うのか?」
この能力だからこそ、カノン帝国が最強の国になれるだろ。チャルソウはそう思った。
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「えええええ⁉︎ロディヴァン様ですか⁉︎」
「ああ、ロディヴァンのおじさんは眷属から君が作った酒の事を知ってしまったそうだよ」
「でもロディヴァン様はクーフーリンでこれ以上何倍もいいものを飲んだから、気に入らないだろ……」
「とりあえず会ってみてね」
チャルナウからカノン帝国の選帝侯爵が自分と会いたいと聞いたラエリエトは少しパニックになったようだ。
「確かに君たちの母艦で飲んだものには遥か及ばないが、こんな粗末な設備だけでこの程度の酒を造られた事は十分上出来だ」
チャルソウが立会いを条件として、ロディヴァンとラエリエトの面会を許可した。
「ありがとうございます」
相手はエドと同じ危険な存在だけではなく、カノン帝国選帝侯爵の身分だけで誰が見ても敬意を払わなければならない。
「確かにこれは『ウイスキー』と言う酒だな」
「はい」
「そこまで知ってるとは、お前はどれだけ酒の事を好きのかよ」
チャルソウのツッコミを無視して、ロディヴァンはラエリエトの前で小杯の酒をしっかり観察した。
「足りないものは何だ、言ってみろ」
「突然そんな事を聞かれても……今は先輩たちと原理から器具を設計し直しているところです」
「ロディヴァン様、ラエリエトくんはアカギ様とフジハラさんから我々崩天氏族に託されたのですから、彼を勧誘するような真似はご遠慮をいただきたいです」
こうやってロディヴァンに声をかけたのは、レカーライヴズ駐崩天氏族全権大使であるマンヴィナであった。
「マンヴィナか。お前が出る事は、レカーライヴズの権利を主張することか?」
「もちろんでございます。この件も既にエド様に報告しました」
「さすがエドの眷属か、本当にできる奴になったな」
「あ、あの……?」
双方に挟まれたラエリエトが怯えた。
「お二人様、お暑くなりすぎません?もしよければ、これをどうぞ」
頭の上に狐の耳がある女性が会話を介入して、ロディヴァンとマンヴィナに皿が盛るものを差し上げた。
「なにこれ?」
「これは確か……」
「はい、ラエリエト様がマルトースと呼んでいる飴です」
「硬い!」
ロディヴァンはその飴を噛んだら、すぐ悲鳴を上がった。
「バカね。これはゆっくり味わう飴だ」
マンヴィナも一口をしたが、ロディヴァンとは違う、彼女はゆっくり飴の甘さを楽しんだ。
「この飴の原料とあの酒は同じ、あのモギから作ったものです」
いいタイミングと判断したラエリエトは説明を開始した。
「まさか酒ではなく、飴も作れるとは……」
ロディヴァンはラエリエトに讃えるの目を送った。おそらくモギの価値を意識したロディヴァンはこの事をファランディナに教えて、モギの植えを広めるだろ。
「正確的には、モギの芽ですね」
狐耳の女性がラエリエトの話を補足した。
「あ、はい、モギの芽です」
「失礼、君は?」
その狐耳の女性はラエリエトと親近しているように見えるから、ロディヴァンは質問した。
「これは失礼しました。私はチャルソウ族長様にラエリエト様の世話役を任命していただいたキリネ=レインハートと申し上げます。ブレイド卿の威名、私の耳まで届いてきましたのよ」
「レインハート……雨心氏族か」
「はい」
キリネの答えを聞いたら、ロディヴァンは信じられない目でチャルソウを見た。
「チャルソウ、まさかトクルスだけではなく、他の氏族の獣人も受け入れたのか?これは知らなかったぞ」
ロディヴァンは誰が見てもわかる驚いた表情になった。
「どうしてブレイド卿がああなったの?」
ロディヴァンの質問に、ラエリエトはチャルナウにこっそり聞いてみた。
「それは獣人族の氏族は血縁が繋がっている者たちから結成したものだから、他の氏族を受け入れるなんてありえなかったよ」
「なるほど」
「でも導師様がお父さんを育てたから、お父さんも変わった。ほら、トクルス様は血震氏族の獣人なのに、今はこの崩天氏族にとっては不可欠の人材じゃない」
トクルスは武力だけではなく、獣人族の中でも数少ない内政処理を上手くできる人だから、チャルソウは相当トクルスを依頼している。
「それは僕を受け入れられた原因でもあるよね」
「そうよ。みんなと一緒に未来へって、それはお父さんが見つけた歩くべき道だよ」
「さすがチャルソウ族長様だ」
ラエリエトは心からチャルソウを感服した。
「わかった。今日のところは一旦引くが、未だ来る」
ロディヴァンとチャルソウ、そしてトクルスやマンヴィナとの商談が終わった後に、ロディヴァンが帰った。
「ラエリエトくん、あんな野郎の話は気にしなくていいよ」
なんかマンヴィナはロディヴァンにあまり好意がないから、ラエリエトは「はい」しか返事出来なかった。
「だがロディヴァンの奴は酒に対しての品味は本物だから、つまりお前の酒はみんなが期待しておるぞ」
「が、頑張ります……」
「族長様、ラエリエト様に過大な圧力をかけないてください」
キリネはラエリエトを抱っこして、チャルソウに建言を言い出した。
「あ、あの、キリネさん⁉︎」
「もー、キリネたら」
チャルナウは少しやきもちをしているようだ。
「ラエリエトくん、必要な物があったらいつでもわしに言ってくれ」
トクルスは軽くラエリエトの肩を叩いた。
「はい、頑張ります!」
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カノン帝国と寒氷境がドンキンローズ山のにある境界で、ロディヴァンが誰かを待っているようだ。
そしてロディヴァンがただ待っているだけではない、常に誰かと通信しているようだ。
日が出るくらいの時、ようやく誰かがロディヴァンのところにやって来た。
「随分遅かったな」
「申し訳ありません、ラエリエト様は深夜まで研究に没頭していたので、なかなか抜けませんでした。お久しぶりです、お頭」
「ルーネ、あるいはキリネと呼ぶべきか」
「この場合では、ルーネでお願いしますよ、お頭」
来者はなんとラエリエトの世話役であるキリネであった。
「とりあえず、ラエリエトを奪おうって言わないから、こちらに有利な形式に誘導できるか?あの酒ができたら、世界は変わる。どうしても確保したい」
「さすがにラエリエト様を奪ったら、アカギ様の敵になると思いますが」
「だから誘導だけって言っただろ」
「失礼ですが、お頭、それはやめた方が良いかと」
「なぜだ?」
「マンヴィナ様が控えているので、エド様は既に介入しました。エド様もアースの酒を飲んだことがありますので、どうやらお頭と同じ考えかと」
「そうか」
ロディヴァンは少し失望したような顔になったが、すぐいつもの表情に戻った。
「それより、お前は前より元気出しているようだな」
「私はお頭に感謝しています。お頭でなければ、今の私は既に何処かの路地裏で死んでしまいました」
「俺は下心がないと言ったら嘘になるから、ここではっきり言わせてもらおう。俺は最初からお前を密偵にさせたいから、他の血族を通ってお前をチャルソウのところに連れて来た」
「はい、それは承知しています」
「だがもしお前がここで幸せを見つけられたら、その時は血族の契約を解除しても構わない」
「お頭、ご冗談を……」
「見ればわかる、お前はラエリエトに好感を持っているだろ?」
「いいえ、そのような事は……」
「ルーネ、お前は俺の血族、俺はお前以上お前の気持ちを理解しているぞ」
「はい……」
「今は未だ少し頼りないが、あいつはいい男だ」
「お頭……」
「そろそろ時間だな。限界まで送ってやろ。何か新しい情報が入ったら、いつでも俺に教えてくれ」
「はい」
ルーネはロディヴァンに敬礼した。
ロディヴァンが帰った後、ルーネは一人でいろんなことを考えている。
確かにこの命はロディヴァンのおかげで生きられたから、血族になって、手足のようにロディヴァンのために働いて恩返したいのに、今ルーネはほんの少しロディヴァンが言った未来を選びたい。
ロディヴァンの血族だから、もちろんルーネも来たるべき未来の事を知っている。だから今彼女の心は苦しんでいる。
確かにロディヴァンの言う通りラエリエトは未だ少し頼り甲斐が欠けている。けど、それでも頑張っているラエリエトの姿、世話役のルーネは誰よりも理解していると思う。
「だからロディヴァン様の言う通り、『キリネ』はラエリエト様を惚れているよね」
「それ、どう言う事?昨晩の会話にはそう言う話が出てなかったよね?」
「お嬢様……⁉︎」
キリネの独り言が聞こえられてしまったのようだ。
「手袋を抜けて、手甲を見せなさい」
チャルナウはキリネの手をじっと見ている。
「……はい」
これ以上瞞す事ができそうにないから、キリネはそっと手袋を抜いて、手甲をチャルナウに見せた。
「やっぱりロディヴァンのおじさんの血族だね」
「はい」
キリネが承認した同時に、覚悟ができたような顔になった。
「つまりラエリエトくんがやった事もキリネからロディヴァンのおじさんに報告したのよね」
「はい……」
「道理でロディヴァンのおじさんが来たのは早すぎるってわけか」
「やっぱり疑われたのですね」
「あたしはロティマスと一緒に旅行したのよ、あの親子三人の事はよく知っているよ」
「そう……でしたのよね」
キリネは溜息をした。氏族から去る事より、ラエリエトの世話ができなくなる事は更に悔しいと感じられた。
そうか、やっぱり私は……
「ラエリエトくんに害がない限り、あたしは何もしませんよ」
「え?」
「ロティマスのせいで、今手に手袋を着用している奴はみんながロディヴァンのおじさんの血族だと疑ってしまうから。キリネを連れて来た奴も手袋をしたのよね」
「あ、はい」
「だからこそずっと疑っていたのよ。まあ、確信になったのも今だけど」
こんな事をしたから、誰も許されないだろ。キリネはそう考えている時、チャルナウに手を掴まれた、とある場所に連れられて来た。
「こ、ここは……⁉︎」
一目で分かった、そこはキリネが最近よく来たところだ。
「ちゃ、チャルナウさんにキリネさん?どうしてこの時間がこんなところに?」
そう、ここはラエリエトたちが酒作りを研究している場所だ。
「もちろんお前と会いたいから来たのよ、小僧!」
「やるな」
「お嬢を泣かさせたら、ゆるさねぇぞ!」
「大事な話があるから、ラエリエトくんを貸して」
「小僧、お嬢を泣かせなよ」
「うわ」
酒作りの獣人たちは同時にラエリエトに殺気を放ったから、ラエリエトは一歩退けた。
「ちょっとこっちに来て」
========================
え?え?え⁉︎
キリネさんはロディヴァン様のスパイ⁉︎
突然教えられた事実はあまりにも驚きすぎたから、僕の口はしばらく閉められなかった。
「そのすぱいとはばにものとは知らないのだが、君の情報をロディヴァンのおじさんに流れたのはキリネだよ」
えっと、つまりキリネさんをどうするつもり?
「君に害がない限り、あたしは何もしないよ。でもキリネも気づいてね、マンヴィナ様はあたしより感覚が鋭いからね」
それはよかった。でもマンヴィナ様はちょっと危険そうな雰囲気をしているから、注意しないと。
あの、本当にいいの?私はこの氏族を裏切ったような事をしてしまいましたのに……」
「えっと……」
僕はチャルナウさんに助けての目線を送ったけど、頑張ってねってウインクを返してくれた。
なるほど、これは決断の時か。狙撃兵科としては、常にトリガーを引くかどうかを決めないといけない。
どうやら今はその時のようだ。
「ロディヴァン様が聞いているよね」
キリネさんが頷いた。
「ロディヴァン様、酒の量について、僕はなんとかします。だからもしロディヴァン様は客として買い上げて頂ければ」
「……こちらから出資して、利権の一部を頂こうと提案したら?」
キリネさんの綺麗な声だけど、口調は完全にロディヴァン様になっている。こんな事もできるなんて、血族ってのは凄いな。
「その時は導師様にも出資してもらうよ」
チャルナウは話を介入した。
「道理でそうなるな。では貿易の形にするのはどうだい?」
貿易……⁉︎つまりこちらがほしい物資をもらえるって事⁉︎僕はチャルナウさんに目で確認したら、彼女は全てを僕に委任された。
「僕から確約できません。詳細な事項はトクルス様や族長様に」
「わかった。改めて伺っていくと伝えてくれ」
「わかった」
「ではルーネ、いや、そっちではキリネか。とりあえずこの子の事、よろしく頼むぞ、ラエリエトくん」
会話が終わった瞬間、キリネさんは力が消えてしまったように床に倒れた。
「キリネさん!」
あっという間に床に転んだ時、僕が彼女を抱きしめて、ゆっくり座った。
「大丈夫?」
「はい、キリネは大丈夫です……」
「ねぇ、さっきのルーネって、あなたの本名?」
うん、それは僕も気になっている。
「はい……私の本名はルーネ=レインハートです。実は、キリネ=レインハートは私の姉の名前でした」
まさか過去式だと⁉︎
「はい、おそらくラエリエト様の考え通り、姉は既に亡くなりました」
「ご両親は?」
「すみません、私が記憶を持つ以来、既に姉だけでした」
思わず、僕はキリネさん、いや、ルーネさんを抱きしめた。
「ラエリエト様……」
「ラエリエト、キリネ。お父さんのところへ行こう」
はい⁉︎
「さっきロディヴァンのおじさんと話したことはちゃんと報告しないと」
確かにそうだよね!
「もちろんキリネの事も報告するが、できる限り庇うから」
「お嬢様……ありがとうございます……」
「でもさっき言った条件を忘れるなよ」
「はい、わかっています」
条件?
「これからもラエリエト様の側に居させてください。世話役の務めをさせていただきます」
え?え?え⁉︎




