オオカミの力
「さすが英雄と呼ばれる騎士、私の完敗です」
「えっと、確かにチャルスさんは槍の使い手って言ったよね」
「カニンガンを圧倒するほどの剣技を持つとは……」
カニンガンはチャルスが剣もできると知ったから、チャルスに練習試合を申し込んだ。チャルスも早くこの世界で武の感覚を取り戻したいから、カニンガンとの練習試合を了承した。
当然な事で、その練習試合は麻奈実たちが観客として試合を見た。
この前凛たちの訊問によって、チャルスは槍、正確的には馬上槍試合用のランスの名手である事を知ったが、まさかチャルスは単手直剣でもカニンガンを圧倒できた。
カニンガンは白の聖女軍団長、それなりの剣技を持つ強者ってのは、麻奈実たちの共通認識だ。しかし今その認識はチャルスによって簡単に翻ってしまった。
「それはラヴェンダー様のせいですよ」
麻奈実たちはチャルスの実力についてリエラに聞いてみたから、同じ試合を見に来たリエラは説明した。
「ラヴェンダー?」
当然のように、麻奈実たちには知らない名前のようだ。
「エーカーさんですらほぼ勝てない、真の意味で皇国最強と称えている首席英雄騎士、『浄白』アサルト=ラヴェンダーだよ」
「この程度はあいつとは程遠いな」
リエラの説明により、チャルスは呟いて嘆いた。
「しかしラヴェンダー、か……」
麻奈実の肩に止まっているヘイセイブライは何かを言いたいそうだ。
「ヘイセイブライ?どうしたの?」
「主たちもご存知のはずだ。今はエドだけ存在しているが、死の騎士は彼だけではなかったの事」
「そしてその中に、ラヴェンダーと言う名があった」
依然泊まっている黒の神龍、ソムプトがヘイセイブライの話を続いた。
「え?」
今回はリエラが驚いた。
「どうやらこれは運命のようだな」
突然、チャルスは何かを理解したような顔になった。
「だがそれは俺の運命か、或いはエーカーの運命かのはまだ知らないけどな」
チャルスは夕暮れ色に染まった空を見て溜息をした。
「そう言えば、お前たちの返答語は面白そうだよね」
ソムプトがいるから、知愛はチャルスに聞いてみた。
「返答語……?」
チャルスはなんの事って顔をみんなに見せた。
「はい。この前、リエラ嬢がチャルス殿を返答した時、そのイエスなんとかってのは初めて聞いた言葉だから」
カニンガンがチャルスの疑問を答えた。
「ああ、あれか」
カニンガンの言葉でようやく思いついたチャルスは理解したように頷いた。
「ブラウン様、私たちは使い慣れすぎるから気づいてなかったなのでは?」
リエラも理解したから、チャルスに声をかけた。
「多分お前の言う通りだ、リエラ」
そしてチャルスは麻奈実たちを一通り見回った。誰も興味があるの顔だから、チャルスはゆっくり説明を始めた。
「それは目の上の方に対する時使う言葉だ。相手の身分によって言葉も変わる。お前たちがリエラから聞かれた『あなた様の栄誉を持って(for your honor)』ってのは騎士爵位を持つ者に対しての言葉だ」
「でもチャルスさんは世襲爵位も持っているのよね?」
麻奈実は手を上げて質問した。
「それはあの時、リエラは俺の騎士公爵の身分に返答したからだ。もし俺の候爵爵位に返答する時はーー」
チャルスは一旦止まって、リエラを見ている。
「はい、その場合は『あなた様の優雅さのために(For your grace)』ですよね」
「それは直属関係がない時に使う言葉だ」
「あ、あれは、エーカーさんはあまり気にしてないから……」
チャルスが直属関係と言ったから、麻奈実たちはもっと知りたいの目でリエラを見た。
「言ってみろ」
チャルスは命令句を使った。
「……Yes,my lord(はい、我が主)」
何故かリエラは嫌な顔になった。
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「まるでシルベリアさんの女武神状態と似てるよね」
凛は遠くて血狼の力を発動したエーカーを見て感想を言った。
「でも私たちザッドは女神だけですから、男性がこの力を持てるはずが有りません」
「……それは血狼ウイルスが身体能力を強化したの副作用だそうだ」
説明したのはエーカーではなく、剣成だった。
今カミトと剣成たちは外へ来て、エーカーの実力を実際に見たいから。万が一のため、シルベリアと神龍たちも待機している。
全てを見たいって凛が言ったから、エーカーは血狼ウイルスの力を発動した。この前チャルスの説明によって、血狼ウイルスは凶暴性を持つだと知ったから、エーカーはみんなと少し距離を取った。
「剣成、君はあの状態のエーカーを対処できる?」
少し考えたら、凛は剣成を聞いてみた。
「抑えるのは難しそうだが、時間稼ぎのは可能かと」
剣成は少しエーカーを観察したら、凛を答えた。
「まさか剣成さんでも……⁉︎」
多惠子たちにとって、剣成は既に頂点の人物だから、そんな剣成から把握がない言葉を吐いたなんて、驚いたのも無理ではない。
「いいえ、もしそのウイルスの力は我々と同等、或いは我々以上の力を持つで有れば、剣成さんはそれだけでも凄すぎると言えますよ」
多惠子の信じられない言葉に、シルベリアは自分の夫にフォローして讃えた。
「……」
エーカーは何か言いたいのようだが、我慢で自分を抑えた。おそらく女武神の力との最大の違いのはこの凶暴性だろ。幸いエーカーはこの自覚があるから、試験が始まる前に刀を多惠子に預けた。
「って、どうする?」
剣成はエーカーを見て、凛に確認しに声をかけた。
「剣成、頼んでいい?そしてカミト、万が一のため、射撃準備を」
「コピー」
二人は同時に凛の命令を応答して、各自の位置についた。そしてシルベリアは見た、二人の目はさっきとは全く違う、今のは紛れもなく歴戦の戦士の目になっている。
「本当によろしいのですか?」
今のエーカーは依然ほんの少し理性を保っているのようだが、口調はこの前の執事とは全く変わっていた。今の声はとても冷徹に聞こえる。
「ああ、遠慮は無用だ」
「わかりました。では」
「⁉︎」
エーカーの声が落とした瞬間、拳は既に剣成の目の前に来た。二人の間があった10メートル以上の距離が一瞬なくなった。
さすがの剣成でも驚いた。でもランクレッドの訓練のお陰で、剣成は頭を横に傾いてエーカーの攻撃を避けた。
「⁉︎」
でもエーカーの攻勢は一撃で終わるなわけがない。それを意識した瞬間、剣成は体を横方向に回避動作にした。
剣成が避けたから、みんなはようやく何かあったを意識した。それはエーカーの拳がさっき剣成の腹の位置にあった。
「利き手だけではなく、どちらも必殺級の攻撃を出せるとは……」
カミトは緊急状況を備えているから、評価を言い出したのは、同じ強力な戦闘能力を持つシルベリアだ。
エーカーの剣術は凄い、それは剣成が既に知った事実だ。だから少しエーカーの強さを見誤ってしまった。
「……得物はあくまで手の延長に過ぎん、これくらいのは当然」
そんな話を言いながら、エーカーは剣成を急接近して、空手のチョップを放った。その斬撃の勢い、剣成に防げることができないほど感じさせられた。
(守勢のままでは……!)
剣成は踏み出した。エーカーのチョップに続いたの刺撃が頬を掠ったが、剣成はエーカーの胸に肘打ちを命中した。
「……!」
剣成の攻撃で撃退されたエーカーは呼吸を少し調整したから、目が変わった。今剣成はようやく気づいた、それは血狼状態のエーカーの目は、自分やシルベリアと同じ熾紅の瞳であった。
「そこまで!」
凛がこの機で、停止の指令を出した。
「止めるのかよ!」
狂気に纏まれだエーカーは凛の指令を無視して、続いて剣成に攻撃を掛かってきた。
パン!
カミトの射撃はエーカーの前髪を掠って、弾丸が地面に小さい穴を掘った。
「邪魔すんなよーーーーー!」
パン!パン!
今回の弾丸はエーカーの肩を掠った。
「は、は……」
さすがにこの射撃の威嚇力は凄すぎるから、エーカーの動きが止まって、そして髪色は白から元の灰色に戻ってきた。目も赤色から回復した。
「やっと冷静を取り戻したか」
エーカーの変化を確認した剣成はエーカーに声をかけてみた。
「はい、お見苦しい事をお見せしまい、申し訳ありませんでした」
エーカーは剣成に頭を下げて謝った同時に、剣成はある事を気づいた。
「おい、さっき肩のかすり傷は……?」
服は穴が開いているから、さっきの傷は見間違いではないはずだ。しかし服の穴を通って、剣成が見たエーカーの肌にはもう傷が消えていた。
「ああ、チャルスの奴も言ったはずです。血狼ウイルスは元々人体の自己治癒力を高くするためのもの、戦闘力と凶暴性まで高くなったのは予想外の結果です」
「しかしお前がそれを頼まなくても十分強いだろ、さすが英雄と言う存在だ」
「いいえ、むしろこんな俺でも対等に戦える時雨さんの方こそ」
「……自覚がある」
「お疲れ、カミト」
状況が解除を判断したから、凛はカミトに声をかけた。
「ああ、どうやらそっちはもう大丈夫だそうだ」
カミトは拳銃を納めて、警戒態勢を解除した。
「さすがだね、エーカーがあんな動きでもかすり傷に控えたなんてね」
奈美はそう言いながら、化け物を見た目でカミトを見ていた。
「剣成さんはもちろんだけど、やっぱりカミトさんも化け物の類だよね」
多惠子はこっそり優に自分の感想を伝えた。
「私も同感……」
剣成とエーカーの事をずっと精神を集中して警戒していたとは言え、拳銃で瞬時にエーカーの動きに対応し、かすり傷に控えたなんて、それはもはや一般人とは言えない。
これこそ最強と讃える狙撃兵って、多惠子と優は同時にそう思った。
「剣成さんから教えていただいた通り、カミトさんは素晴らしい狙撃兵です」
「だから無理に敬語を使うじゃねぇ」
剣成の屋敷に戻ったら、エーカーはカミトに声をかけて讃えた。しかしエーカーが使った言葉を聞いたカミトは全身気持ち悪くなったそうだ。
「カミト、お前は確実エーカーに傷跡を残したよね」
しばらく間話をした後、突然、剣成は訳がわからんの質問を言い出した。
「見間違いじゃなかったら、そうしたのはずだが……⁉︎」
何故剣成からそうやって問われたのはさっぱりだったけど、カミトだけではなく、みんなは自然にエーカーの服にある穴を見た。
そこは傷跡なんてが存在しない、全く何もなかったような綺麗な肌だ。
「これはチャルスが言った、血狼ウイルスによる高くなった自己治癒能力か……?」
自らの目で見たじゃなかったら、きっと信じられないほどの事だ。
「はい、そういう事です」
「にしても早すぎない?」
奈美はエーカーに質問をしたけど、視線は北上に向いた。
「エーカー、今君の体は、どれくらい血狼に浸透されたのか?」
北上は少し考えた後、エーカーを質問した。
「それに関して、俺自身はさっぱりのですが、チャルスが言った事によると、おそらく脳を除いてほぼ全身と言えるのようです」
「つまり今の君は血狼そのものと言えるって事か。その細胞の分裂速度から見ると、君の脳と思考能力が元のままに保持できるのは謎だ」
「俺自身もそう思いますが」
「失礼、私は熾炎天使の支援兵科長、北上修一だ」
エーカーの目に疑問を気づいたから、北上が自己紹介をした。
「北上さんは主に医療業務を担当するから、もし何かあったら、まずは北上さんと相談するように」
「わかった、礼を言う」
凛から北上は医者担当だと聞いたエーカーは少しほっとしたのようだ。




