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デゥカラガンの思惑


 醜い。


 実に醜い。


 聖潔の神アイシュヤの分身として、これは看過できない失態だ。


 なんて私はあいつを嫉妬しているのか?


 あいつがもうすぐ帰ると聞いた、欣喜雀躍になっているお嬢様を見たら、私は嫉妬と言う気持ちが生まれた。生まれてしまった。


 あいつとお嬢様の仲は私が比べられるわけがない事がわかっていても、私は嫉妬している。


 お嬢様は神様が選んでくれた、私、重月龍デゥカラガンの聖女だ。


 人類は弱い、弱すぎる。だからバロンの奴はお嬢様を守り切れない、志半ばで死んだ。そしてお嬢様の初恋も同じお嬢様を残して逝ったと聞いた。


 私はお嬢様の切なさを共感できるから、誰よりもお嬢様の気持ちを理解している。それは強がりをしているからの笑顔だ。心の中に何千回でも泣いた、それは私が一番理解している。


 だからお嬢様を裏切って、使用人の女を選んだあいつを許せない。あいつもお嬢様の気持ちを理解しているのはずだ!


 「デゥカラガンよ、神の使者とは言え、そんなに考える事を顔に出すのは良くないぞ」


 こうやって私に声を掛けてくれたのはお嬢様のお祖父様、つまりこの綾崎家の現当主だ。


 「これは失礼しました」


 私は神の分身、彼に謝る必要がないのだが、一応お嬢様のお祖父様だから、私は頭を下げた。


 「まあ、確かにお主の考えも理解できないわけもないのう」


 「さすが当主様」


 「そんな話はよせ、お主も立場があるから」


 「はっ」


 これは年が重ねた智慧というものか?しかしそれでも私が遥か上のはず……


 「和歌奈は人気ですが、我が家のせいで、ほとんど接近しようとした奴はいなかった。これも彼女に孤独感を立てさせてしまったんである」


 「この家の権勢から見ると、そうなるのは必至かと」


 「確かにお主の言う通りじゃのう、シンもその万が一のために雇った護衛だ。そしてそいつはわしの期待を遥かに超えた、さすがだのう」


 「それは……」


 心はあいつを認めたくないけど、頭は本能的に頷いた。


 「わしはわしの父から真世界の事を教えられたから、ガーディアンスについてはそれなりの理解をしている。が、まさか和歌奈は異世界のザッドで聖女に選ばれたとは、さすがに考えすらしなかったわ」


 それもそうだろ。ガーディアンスは守護聖剣(エクスカリバー)貫雷魔剣(グラム)を保有するから、世界間の通行ができた、そしておそらく現状では唯一それをできる世界だ。


 しかし我がザッドはそれ以前に聖女の召喚が成功したとは、奇跡しか言えん。


 「それは……」


私は説明しようとする時、当主様に止められた。


 「理由はともあれ、和歌奈は成長したのは事実だ。これもわしが安心して彼女にこの綾崎家を任せられる故だ」


 なるほど、さすが当主様だ。今のお嬢様なら、しっかりやれるだろ。


 そう言えば、お嬢様の相手はどうする?今までの縁談は殆ど断ったのは何故?


 「お主の見る限り、適任な奴はいるか?」


 いませんよね。


 「和歌奈の相手、つまり和歌奈と一緒にこの綾崎家を背負うって事だ」


 それはそうだけど。


 「だからちゃんとした奴でないと和歌奈は渡せない、それにできれば婿養子になってくれてほしいわ」


 でもお嬢様に相応しい相手ならそれは無理なのでは?


 「その通りだ。正直、今のところ、最も適任な人選と言ったら、あの二人が一番だな」


 あの二人?


 「ガーディアンスの時雨剣成と赤城カミトだ」


 ええええええええ⁉︎


 さすがの私でも当主様が言った名前に驚いた。何故あの二人の名を……いや、良く考えれば、確かにあの二人より優れる奴はいないな。


 時雨剣成、熾紅の瞳かつ超限反応能力を持つ、おそらくこのアースだけではなく、ザッドでも最強クラスの人間と言えるだろ。そしてザッドの戦いで見た戦術眼、お嬢様自身だけではなく、彼がいたら、綾崎家も安泰だろ。


 そして赤城カミト、彼は強大な空間認識能力を持つから、お嬢様と同じ世界を見てるだけで充分な価値がある。それに、最強の狙撃兵である彼が持つ一撃必殺レベルの戦術眼、お嬢様の敵は隠せなくなるだろ。


 しかしあの二人は……!


 「ああ、わかっておる。あの二人は無理だ。和歌奈は一番上の正妻でないと意味がない。特に赤城は既に2人目の妻まで娶ったと知ってるから尚更だ。そして時雨も最近結婚して、妻はとても綺麗だと聞いたぞ」


 ああ、我がザッドのヴァルキュリアで、シヴァニ公国騎士団長の妹だ。


 「つまり特殊種族ってわけか。確かに時雨には彼を抑える人手が必要だな、おそらくそれも彼がそのヴァルキュリアを選んだ理由だろ」


 確かに当主様の言った通り、さすがです。


 今回私は本当に当主様に感服した。


 「お主と比べられるわけがないのだが、これでも長い人生を送ったからのう」


 そしてそれは既にこの国の平均年齢を遥か上を越えていると聞いてます。


 「できれば、わしが生きてるうちに和歌奈にこの家の全てを渡したいのだが……その来るべき時とあら実に未知すぎるのう」


 え?当主様はその情報まで⁉︎お嬢様と私は語ってないのはず……


 「さっき言ったの赤城と時雨が教えた事だ。彼らは他の名家も連絡したのようだから、おそらく世界は大きく変わって行くだろ」


 なるほど。正直、あいつはシンと似ているけど、やり方は全然違う、それもあの歳で一軍の長になったわけか?


 「わしから見ると、あれは単にその強大すぎる力を監視するための采配に過ぎぬ」


 確かにその意図もあるらしいが、結果的に、自由に動けるカミトは再びザッドを救えたのようだ。


 「それは凄いのだが、もう少しこのアースの事を考えてほしい」


 それも仕方あるまい。その強大な力を持つ、そして向こうのエドと深い絆ができたから、こうなるのは必至かと。まあ、ザッドの神龍としては嬉しいのだが……


 「エドか。そいつのせいで、この家のいろんな場所は木を植えなくなってしまったのう」


 はい、申し訳ない。


 我が世界の住人がやった事だから、私は思わず当主様にお詫びした。


 「だがこの前赤城たちに光子で浄化してくれたから、少しずつ良くなってきたそうだ」


 それはよかった。では微力ですが、私の力で役に立てれば教えてください。


 「その気持ちはありがたいのだが、お主の力は強力すぎるので、ここの土地に反効果になるだろ」


 あ、確かにそうなるかもしれん。それに土地に関しては重月龍であるの私ではなく、地の聖女に従う震地龍イニドランの管轄だ。もし私の力加減が間違ってしまったら、最悪の場合、ここが永久重力異常圏になってしまう。


 もしそうなったら、住む事はもちろん、生命が存在することすら許されない空間になってしまう。


 「だから言ったんだろ?お主の力が強すぎるから、こんな事に使うべきではないぞ」


 はい、わかりました。


 「そう言えば、お主がうちに入った時からずっとシンを敵視していたのは何故だ?」


 当主様からそれを質問されたのも当然だが、どう答えるべきか、私は迷った。


 この家にとって、私は間違いなく後来者だ。お嬢様が小さい頃から今までずっと護衛を担当してきたシンは間違いなく私よりみんなに信頼されているだろ。


 私はただ勝手に彼よりお嬢様の気持ちを理解していると考えるだろ。


 「つまりお主もシンが和歌奈に相応しいと?」


 いいえ、決してそんなことを……!


 「和歌奈の気持ちを尊重しようとするなら、シンのことも選択肢としてちゃんと考えないとな」


 え?当主様⁉︎


 「さっきお主も言っただろ?シンは和歌奈が小さい頃から今までずっと護衛を担当していたってな」


 おのれ使用人の風情が……!それにあいつも既に妻二人を娶ったぞ!


 これはいかん、我ながら、熱くなったら冷静を失ったとはな……


 「もしシンがまたこの家にいたら、相応の地位を与えるが、今彼は我らの手が届かない場所へ行ったのう」


 そしてあそこはこのアースを守るためにの組織、ガーディアンスだな。


 「赤城が言った、彼らは世界を何度も救ったとは言え、知る人はほとんどないってな」


 良くそれでも頑張って続いたとはな、さすがです。


 「だからあの二人は一番の相手だのう」


 うん、人知れずだとしても依然努力している覚悟、きっとこの綾崎家を支えられるだろ。


 だがさっき当主様も否決したよね?


 「ああ。では考えを変えればよいのだ」


 と言うと?


 「あの二人が一番の原因は彼ら自身だけではなく、彼らの組織も原因である」


 つまり?


 「この視点では、シンは他人が持てない優勢を持てるのう」


 まさか……赤城との接点ってことですか?


 「その通りだ。もし万が一の時彼らの助力を得られたら、我が綾崎家も安泰だのう」


 確かにそうですが、私がいる限り、お嬢様だけではなく、この家もお守りします。


 「もちろんお主にも感謝するぞ。しかしお主はザッドの神龍、いつまでもここにいるわけが無かろう」


 いいえ、お嬢様が生きる限り、ずっとお供するつもりです。


 「それはダメですよ、デゥカラガン」


 私と当主様の会話に乱入したのは、私が一番知っている声だ。


 「和歌奈か、今日の仕事が終わったのか?」


 「こんばんは、お祖父様」


 お嬢様が当主様に挨拶した後の自信の顔、当主様の質問を答えた、さすがだな。


 「ほう、シンがもうすぐ帰ると言うのか?」


 「え?なんてお祖父様がそれを……?」


 あの、お嬢様、私が語ったではないから、私を睨まないてください。


 「相変わらずわかりやすい顔だな、和歌奈よ」


 「お祖父様?」


 「お主がそんな表情をする時はほとんどシンと関わっているからな」


 「え?私、そんなにわかりやすいのですか?」


 「商売の場合、それはお主の弱点になるぞ」


 「も、申し訳ありません」


 「だが今のお主はそれでいい。てっきりあいつが亡くなったからお主は男女の情を断念したと思ったが、そうじゃないらしいのう」


 「お、お祖父様!私をからかわないてください!」


 「ほうほうほう」


 当主様の笑い声と共に、お嬢様の顔は赤くなり、恥ずかしい表情になってきた。


 私は初めてお嬢様のその顔を見た、少し新鮮だ。


 「って、あなたはお祖父様と何かを話したの?」


夜、お嬢様の部屋で。


 お嬢様は浴び上がりの髪を乾かししながら私を質問している。


 「はい、お嬢様の相手についての話です」


 「私の相手?」


 「はい、今までのお見合いは断ったけど、お嬢様も大学から卒業して、正式にこの綾崎家の幹部の一人として働き始めましたから」


 「それはそうだけど、何故結婚相手の話になったの?」


 お嬢様の髪はとても長いから、乾かすや整理には時間をかかる。


 一度、切れば良いのではって提案したが、お嬢様に睨まれて却下された。


 確かに人間の女性にとって、髪は生命と等しいと聞いているが、まさかそこまでとはな。さすがに生活に支障が出るのは不必要だと考えたが、そうではないらしい。


 「シンについて、お嬢様はどのようなお考えのですか?」


 「え?なんてシン兄の事を……?」


 「当主様が言った、今のお嬢様に一番相応しい相手は時雨剣成と赤城カミトってな」


 「え?なんてあの二人が……あ!」


 さすがです。お嬢様はすぐ当主様の考えを理解したようだ。


 「はい、お察しの通りです。この綾崎家の為ならば、あの二人が一番最適な人選で申し上げます」


 「確かにそうだけど、私は嫌だよ」


 そこまで露骨に嫌悪な顔をするお嬢様、私も初めて見た。


 けど、私はその理由を聞きたい。


 「その理由を伺っても?」


 「確かに時雨さんと赤城さんはいい人なのだが、歳があまりにも離れているから、私の事は子供だと思われているだろ」


 「お言葉ですが、織姫様はお嬢様より年下のですが」


 「それはそうだけど、でもそれもエドの仕業だよね!ほら、カミトさんも最初が断ったでしょう!」


 ここまで強気をして弁解するお嬢様も新鮮だな。


 「つまりシンもお嬢様の対象外ってことですか?」


 「な、なんてそうなる」


 「さっきお嬢様が言った通り、シンは赤城たちと同年だと聞きましたから」


 「違う!シン兄は、違うから……」


 なるほど、お嬢様の気持ちを理解してないのはシンの奴ではない、この私だったのか。


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