神の代行者と古の記憶(後編)
「ヴァルキュリア普段はどんな事をしてるの?」
自然に会話を参加した杏が別の問題を提出した。
ちなみに杏と憐は視察の名義でまたこの月の聖殿に滞在している。
「特にないよ。ヴァルキュリアである前に、私はシヴァニ公国の候爵にして蒼海騎士団の騎士団長である、むしろこっちの方こそ私の本職だよ」
「確かにヴァン=ホッセン家がシヴァニ公国にとってはカノンのサンタルシアと同じですね」
クロエはシェルフィーの話に反応した。
「いや、我がヴァン=ホッセン家はただ一番長い現大公に仕えていた家族だけに過ぎないよ。ファランディナ様のご先祖、テレシア様のような功績がないし、国への影響力もファランディナ様と比べられないよ」
少し謙虚しすぎだと思うけど、しかし本人がそう言ったから、無闇に誉めても良くないのね。
「あの、失礼かもしれませんが、そのテレシア様ってのは、あの龍の主、アレックス=トレスの戦友、半精霊のテレシア様の事ですか?」
杏たちの護衛兼ガイドのイルスが興味深いの顔で手をあげて質問した。そう言えばリジルザックスさんや誰か言ったような気がする、あのアレックスの事。
「そうだ、あの『奇跡運行者』テレシアよ」
シェルフィーの答えに、今度はクロエが疑問の表情になった。
「テレシア様の家名はサンタルシアでしたの?この聖殿の本は全く書いてありませんよ」
「それは、奇跡運行者の古代精霊語は、奇跡運行者だから」
あ、それはロティマスが説明した事だよね。
「そうよ、ヴィクちゃん。まさかサンタルシア家はそれほど歴史がある名家とは……」
同じ護衛兼ガイドのチャルナウはこっそり僕に声を掛けてくれた。
うん、僕も驚いた。
「では私はそろそろ失礼する、リジルザックス様、赤城殿、改めておめでとうございます」
「ああ、帰る道は気をつけてな」
カミトが適度にシェルフィー様にさよならを言った後、リジルザックス様を連れて帰った。
「では、私たちは夕食をしようか」
クロエの指令によって、別の騎士団員が夕食の料理を持って来た。
うん、ザッドの料理はやっぱり慣れてないな。特に犬がないこの世界には、僕用の食べ物を用意できるわけがないから、シンは僕のためにペットフードの缶を開けてくれた。
わーい!
レカーライヴズへの帰り道で。
「これは奇遇だよね、赤城殿」
「俺もそう言いたいが、そんなわけあるか!シェルフィー!」
どうやらシェルフィーはカミトたちの帰り道でカミトを待っているのようだ。
「カミトさん、銃を納めても大丈夫だと思いますよ、だからシェルフィーさんも剣を納めてください、ね」
拳銃と剣で対峙しているカミトとシェルフィー、リジルザックスの話によって、お互い武器を納めた。
「リジルがそう言ったから、お前は敵意がない事は分かったが、何か用か?」
「赤城殿は私がどうやってかつての黒いエド様を倒した事に、興味がないの?」
まさか話はここから始まるとは、カミトは予想しなかった。
「そう言えば……確かに。そしてこうやってみんなが聞こえない場合でそれを俺に語られる事から見ると、聖殿と関わりたくない事だな」
「さすがアース最強の観察眼を持つ狙撃兵だね。はい、赤城殿の言う通り、聖剣の真実は聖殿の人、いいえ、シン殿に教えたくないから」
「聖剣の真実?」
変な言葉に、カミトは思わず疑問の顔になった。
「赤城殿、『星の聖剣』の事はご存知なのか?」
「普通の聖剣と違うのか?」
「はい、同じ聖剣と言ってるけど、全く違うものだ」
「それで?」
「星の聖剣と言うのは、その星の最終兵器と言える」
それほど危険そうな物だと思わなかったって、今カミトの表情がそうやって書いている。
「まさかと思うが、お前から詳しい説明をもらえられる事と言うのは、その星の聖剣とお前が関わってるだな」
そしてカミトは推測を言ってみた。
「はい、簡単に言うと、このザッドの聖剣は、ちょうど私の剣、ナティシュウス=光を探す者である」
「いろんなことを深く聞きたいんだが、それはつまり星の聖剣が適度に現存の剣を選ぶ事か?」
「おそらく」
「って?お前がその剣の力であの時のエドを倒したから、星の聖剣の力は魔剣より上ってことだな」
「さっきも言った通り、星の聖剣はその世の最終兵器そのものだから、はい、その通りだ」
「では何故それを俺を教えてくれたのに、シンたちに知らせたくないのか?」
「赤城殿も知っているはずだ。その黒い魔像はニンザスの力によって生成したものだ」
「そうか、邪神対策か」
「はい、その通りだ。今のシンはカノン帝国の男爵とは言え、蒼海騎士団の団長として、邪神と関わっているあの男を警戒しなければならない」
「それもそうですね」
シェルフィーの話を聞いたリジルザックスは軽く頷いて同意した。
「それなら大丈夫だ。お前も見たはずだ、アルフィス様はシンを治ったからな」
「確かにそうだけど……」
「そう言えばお前とリジルには言ってなかったな、俺の名前の意味」
「そうだけど……」
それは今の話と関係があるの?って疑問ばっかりのシェルフィーと違って、今のリジルザックスはワクワクしているようだ。
「カミト、それを書き換えれば、『神人』になる。これは俺のお袋が神に求められた名前だ。今俺の極光神剣を見たら、多分あの時から、俺は何かの務めが決められていた」
「へい〜」
全く理解してないシェルフィーは興味ないの顔になった。
「だから俺と同じ名前の由来を持つあの男、彼は大丈夫だ」
ようやくカミトが言いたい事を理解できたシェルフィーは、深く頷いた。
「赤城殿がそこまで言ったら、わかったよ。しかし万が一のために、私に最低限の警戒をさせてもらおう」
「そこは勝手にすればいい。しかしまず俺に言わせてもらおう、もしあいつはヴィクでも阻止できない狂戦士になってしまったら、俺はあいつにケジメをつけさせてもらおうぞ」
「赤城殿のその話が有れば、心強いだ。では私はこれで失礼する」
「ああ」
シェルフィーは馬を駆け出して、道の果てに姿が消えて行く。
「シンさんは大丈夫ですよ」
シェルフィーの姿が完全に見えなくなった時、リジルザックスはカミトに声をかけた。
「そうか」
「だってシンさんが魔力暴走の時でも、拳がヴィクちゃんの前に止められたよ」
「それ初耳だけど」
あの時カミトはエドと一緒にあの黒い月に突入した、そして凛の決断によって、シンの暴走記録を抹消した。
しかしそれを聞いたカミトはあまり意外な顔をしなかった。
テレシア:
初めて人間とエルフのハーフだから、彼女も両親も両方の種族が受け入れなかった。
しかしその絶代の才能は当時の龍の主であるアレックス=トレスに気づかれて、アレックスは彼女を弟子にして、その後の戦争でアレックスの大切な戦友まで至った。
ちなみにアレックスは終身未婚なので、彼女の伴侶は他人だった。しかしそれは歴史に書いてなかったから、現サンタルシア家も記録が残ってないと言う。




