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英雄の倅〜今度は絶対に闇落ちしないと誓う、邪神を身に宿した聖剣使い〜  作者: 厨二病
プロローグ『ラスボスルート/ダイジェスト』
4/8

名もなき怪物と出会った

「くそッ」


 アレスは半ば自棄になるのを自覚しながら、まだ間に合うと自分に言い聞かせてフェイの元に駆け寄った。


 立ち塞がるのは、キキキッと不気味に嗤う黒い影の魔物。初めて見る個体でどんな生態かは謎めいているが、分かっていることもある。


 それは――魔物を相手に勝ちは望めないという後ろ向きな確信だ。


 曲がりなりにも大人顔負けの能力があったように思えるフェイが一瞬にして昏倒した事実がある。狼の魔獣から逃れる為に消耗している身では二の舞になりかねない。


「はぁああああ!!」


 故に、アレスが選択したのは、やはり「逃げる」という弱者の行動だ。錆びた剣のみに青いオーラを乗せながら大きく横に薙ぐ。

 それは余りにも遅すぎ、影の魔物はキキッと笑い、腕を模して伸びた影の手を払い、アレスを襲う。


 そこまでが、アレスに考えられる予測範囲だ。


「……転移ッ」


 超短距離の位相変更により、影の手を飛び越える。

遠くで根を張っていた木を容易く倒木させたことからもその膂力の強さが計り知れる。


 既に限界ギリギリの魔力をどうにか捻り出したことで一段と疲労の色が強くなったが、それでもアレスは懸命に耐えながら力強く剣を握る。


 転移した理由は偏に、体力的に並行な立ち位置では敵わないと思ったからだ。だから落下の力を利用するのが一番可能性が高いと判断した。


 影の魔物は、すぐにアレスの位置を察知する。頭上に振り向いた影の魔物が、触手のように影を伸ばしてアレスを迎え撃つ。



「うおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 対するアレスは剣一つで、大きく振りかぶった。剣が青いオーラを置き去りにアレスを包むようにして、影の魔物に迫る。


 鋭く伸びた影の穂先はアレスの体を突き破るかに思われたが、その手前、青いオーラに触れたことで、ジュッという音を残して消滅した。


――掛かった。


 魔物は、魔獣と比べて遥かに危険度が高い。それは元から魔によって生み出されたか否かによるが、一つ、魔獣が勝る点もある。


 魔獣はもとは知性を有した野生の獣である。魔を取り込みすぎることによって突然変異し狂気に冒されることで魔獣と呼ばれるが、知性のない魔物と違い僅かながらに理性をもつ。


 その根幹にあるのは生の渇望。要は死なない為の学習能力が備わっている。そこからくる経験による危険予測によって、魔獣は時に逃げるという選択をする。


 これは魔物には見られない特性であったし、アレスは愚直に攻撃の手を緩めないことを信じていた。


 だが、信じられないことが起きる。



「キキキキキッ」



 魔物は剣に触れる寸前には空気に解けるようにして消えて、遠く離れた場所に逃げ延びた。アレスの剣が当たらなかったことを愉快そうに笑っている。


――こいつ、今までの魔物と何か違う


 空振りに終わり、膝をつきそうになるのを堪えながら、一刻も早くこの場から立ち去らないといけないと考えて倒れているフェイの側に駆け寄った。


 アレスは気絶しているフェイを肩に背負い立ち上がるが、その頃には全方位を影の魔物に囲まれていた。


 数にして100は下らない。切り抜けるにはフェイは邪魔で、さらに今のアレスの状態では自分だけですら逃げ切る自身はあまり無かった。


 絶望的。斯くなる上はこのまま結界まで転移する必要があるが、おそらくその手前で力つきるだろう。加えて、結界には内外からの魔法を無効化する機能があるので、例え残り全ての力を使って転移することが出来たとしても、結界外に出ることが出来ない限り、魔物の脅威から逃れることはまず無理だ。


――だが、この状況で後の先なんて考えていられない


 影の魔物に囲まれている今、そこから逃れることが何よりも優先することだった。


 もうなりふり構ってなんかいられない。


 あとは自分の限界との戦いだ。


 影の魔物がじりじりと詰め寄る中、アレスは雪を降らせる夜の空に吠えた。



「転移ッ!!」



――全部全部、振り絞れ


 その意思は、強い。

 意図的に限界を解いたことで、急激に力が抜けるのを感じる。それは転移魔法の行使に必要な魔力量を遥かに超えて、光の奔流となって放出された。



 次の瞬間には、アレスとフェイはその場から消える。影の魔物はさしたことも無かったように思い思いにその場で跳ねたりして騒ぎ、月夜の下でキキキッと不気味な笑いを響かせた。



 £




「………」

「……どうかしたの?」


 王国最強と名を馳せる男が足を止めて窓の外を眺めていた。夜間でも常に煌びやかな城内にて護衛されている身分の少女は、小首を傾げて尋ねた。


「……いえ、気のせいでした」


 窓の向こうには光の消えた王都の街が広がっている。その遥か向こうにある森を一瞥して、男は高貴な身分の少女の後を追う。


――まさか、な


 彼が感じ取ったのは、全ての魔力を遮断するとされる結界で囲われた魔境の森付近の異変。それは微かに読み取れる魔力の奔流で、次の瞬間には消えたため勘違いだと思い直した。


 もしそれが森の中で目覚めた魔物のものであれば、消えるはずもない。そしてそれが存在するならば、自分の手で斃さねばならないとも。






 £






「……これは」


 夜の王都で駆け回っていた紅い髪の男は、白い息を吐きながら振り返った。奥の方で感じた魔力の奔流は微かだったが、違和感を覚えるものだった。


 まるで、それはチカラの本質の片鱗であるかのような、濃密な魔力。遠くであるからこれだけしか感じないと分かっていても、自分の勘はよく当たると理解していた。


 だから、願った。

 どうかあのチカラが、自分の大切な家族に向けられたものではないようにと。


 大罪人が既に何人も騎士を殺している報せから、息子が既に死んでしまっていることを恐れながら、チカラを感じた場所へと走る。


 その瞳は、赤く輝いていた。





 £





 大罪人は笑った。


「ははっ、ははは! 素晴らしい! これだけの力があればきっと……」


 目の前で同じ年の子供を背負い這いつくばる黒髪の少年――アレスを見て歓喜する。

 その声は森の中(・・・)で響いた。アレスはその声を聞いて瞼を開けて、笑い声の主に向かって剣呑な視線を向ける。


「……誰、だ……おまえ」

「おや……魔力を使い切ってカッスカスのはずなのに、まだ意識があるとは驚きだ」


 これには真面目に返す大罪人は、言葉どおり驚いていた。見たところ、彼と背負われた赤髪の少年――フェイは魔力が尽きている。どんな人間にしてもそうだが、現にフェイが気絶しているように、魔力が尽きれば気を失うものだ。それを加味しても、先ほどの魔力の奔流をアレスが生み出したとするならば、大罪人にとってこれほどまでに面白いことはない。


――さしずめこの子供は名もなき怪物か


 まだ無名の、いづれ英雄たちと肩を並べる規格外の存在。それもこの若さで魔境の森で生き延びるだけの力を持っている点では、いつの時代の英雄たちよりも頭一つ飛び抜けた資質も感じている。


 ここで死ぬには惜しい命。

 ここで殺しては旨味のないちっぽけな命だ。


 自分が悪を為すために、世界を絶望させるのにこれほどの駒は二度と巡り会えないだろう。


 大罪人は、手を差し伸べる。

 それは悪意しかない、破滅への誘い。


「僕はいつか世界を破壊し尽くす悪人だ」


 アレスは朦朧とし、やがて意識が落ちそうになる直前にこんな言葉を聞いた。


「その為にキミを救ってやる」


 悪人が『救う』なんて言葉使うな。

 そんな思いも届かないまま、アレスは重たい瞼を閉じる。


 大罪人はその場で屈んで微笑しながら、アレスの頭を撫でる。


「寝てもいいなんて許可してないんだけど?」


 その言葉の次の瞬間、頭を撫でる手から紫色に揺れる光がアレスの体内へ流れ込むように向かった。


         


前話補足


突然気を失ったフェイ

  ↑

影の魔物のドレインタッチ


ドレインタッチのバーゲンセールだけど突っ込んじゃいけない。そもそも稀なスキルなので早々使い手は居ない。凄い偶然ですね。



補足説明


大罪人さんは既に森の中にいた為アレスくんのえげつない魔力を感じ取ってます。

途中出てきた男二人は結界によって魔力がほぼ封殺されていたので、確信を持てずにいます。

もちろん他にも勘付いた人は居ますが、一々書ききれないです。



突然のキャラ増加は、作者が主要人物を出したかったが故の自己満足。

ただ、赤目の謎の男(笑)はプロローグ中にもう一度出ます。



2018/10/22 最後のあたり、アレスくんが気絶する展開が困難だったため大罪人には気絶を許さない鬼畜になって貰いました。

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