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英雄の倅〜今度は絶対に闇落ちしないと誓う、邪神を身に宿した聖剣使い〜  作者: 厨二病
プロローグ『ラスボスルート/ダイジェスト』
3/8

血の流れる夜会中、

ブクマ感謝です!

長くなったので途中までを投下。


前話のあらすじ

凍えそうな孤児仲間たちの為に、アレスは単身で人外魔境とされる森に入り、火種となる《フレアの実》を探していると……

一方、衰弱した大罪人は膨大な魔力を求めて、同じく森を目指していた。


今回雑だけど勘弁してね。ダラダラ書いてた自覚あります。

 白い世界にある鮮血の赤は強く印象的だった。


 森の中にあって、血などそうそう見かけないものだ。盗賊などが潜んでいれば違ったが、アレスがいるこの場に限ってはそれはあり得ない。


 命が百あっても足りないだろうと呼ばれる狂気の森においては、人はみな弱者へとなり下がる。

 故に誰も近寄らず、臭いものに蓋をするよう隔離した。だから、きのみ採取で足を運び慣れているアレスは、赤い血の痕跡に警戒せずにはいられなかった。


 ――この森に、赤い血を流す化け物はいない。


 ならば、この血は恐らく。

 アレスは考える限り、最悪のイメージが浮かびあがる。化け物たちの餌となり、内側の肉を貪られた人間だったモノ。内臓を食い荒らされ、むき出しになった骨は粉々に砕かれている。

 アレスはそれを見たことがある。それがどんなに恐ろしく、また絶望したことか。


 逃げるという選択肢が思い浮かんだ。


 命あっての人生だ。一度人を組み伏せた化け物たちは味を占める。逃げるが勝ちともいうじゃないか。


 果たして――アレスはそんな弱音を押し殺した。


 きのみを採りに来たことも忘れて、血の跡を辿る。

 心にあるのはかつて奪われた者としての怒り、そして――


『父ちゃんはな、誰かを守るためなら最強なんだ』


 ――憧れた人の背中を追いかける、幼い勇気である。






 £






「……見つけた」


 アレスは真新しい血の跡を追ってすぐ、その先にいる人間が四足の魔獣たちに鉛の剣ひとつで立ち向かってる姿を捉えた。

 木陰に身を隠して覗けば、魔獣がよりによって一度狙いを定めた獲物を地の果てまで追いかけると言われている体長二メートルはある(エンフィ)だったこと。そして……


 ――嘘だろ


 驚くべきことに、魔獣に相対するのが自分とそう年の変わらない、街の子供であることが分かった。


 アレスは迅る鼓動を自覚しながら、努めて冷静であろうと思考を重ねる。


 ――なんで普通の人間がここにいる? それにあの見覚えのある赤い髪……確かギルドマスターの子供だったはず


 いや、理由は今はどうでもいい。相手の素性は理解した。『自分の感情』はこの際抜きにして、出来ることは何なのか? 考える時間も惜しい。破けた服の左肩から裂傷が覗いていたから、剣を持つのもすでに困難な筈だ。


「泣くな……おれは……いつか紅蓮の瞳の名前を継ぐ者だ! こんなところで死んでいられないんだ!」


 瞳に涙を溜めながら鼻をぐずらせ、自らに言い聞かせるように魔獣に吠える。

 少年のその在り方はアレスの黒い瞳にはとても弱く映った。強がりな発言で、知らなくても良かった筈の『この森に足を踏み入れた理由』を容易に推察することができる。


 手に持つ剣は真新しい。自分とは違って準備してから臨めるような立場にいながら、装備なしの至らなさ


 ――ああ、うぜぇ


 恐らく少年は、この世界を甘く見過ぎているのだ。この森は、到底人が敵わないだろう化け物たちで溢れている。偶に現れる自身の力を過信し挑もうとする者を、この辺りに住む人は自殺志願者と呼ぶが、事実、挑んだ者は全て帰らない人になっている。


 理由はどうであれ、絶対絶命の状況にあってまだ挑むことを諦めない意志が、アレスはひどく不快だった。

 

 ――お前みたいなやつは救ったところで意味がない


 最新の注意を払って剣を抜く。頭にあるのは、逃げるという選択肢の一択のみ。

 深夜零時タイムリミットが迫る今、出来ることはもう、限られてる。


 狼が一斉に、少年へ飛びかかる。その光景をはっきりと目にしたアレスは一度目を伏せてから呟く。



「オレはお前みたいな(救ってもキリがない)人間が大っ嫌いだ」



 その意思に呼応するように、握られた錆だらけの剣が青く輝いた。





 £





 青く輝くオーラの光が少年と魔獣の間に割り込んだ。


「なっ――」


 赤い髪の少年――フェイは突然の事に呆気を取られて茫然とするが、それが自分と同じくらいの背丈の少年であることを知れば、空いた口がふさがりそうもなかった。


 飛び掛かってきていた魔獣は、目の前に現れた存在が天敵であることを察して、空を足場に蹴る。引いて、獲物を仕留め損ねた原因を相手に苛立ちを隠さず、「グルルゥ……」と唸った。


 一度とはいえ窮地を切り抜けた後ということもあり、まだ狙われているという魔獣の意思を感じて、フェイは助からなかっただろう『もしも』を想像し「ひっ……」と身を強張らせる。


「おい、赤いの」


 しかし、そんな様子も気にかかることなく、フェイの前に立つアレスは背中越しに呼び掛けた。

 赤いの――言われて自分のことだと思い至ったフェイへ、アレスは返事を待たずに問いかけた。


「お前は死にたいか」


 その問いがどんな意味を持つのかフェイには理解できなかった。だが、答えは決まりきっている。考えるより先に口が動いた。


「いっ……生きたい!」


 生きて、まだまだしたいことがたくさんある。

 しなければならないことが自分にはある。


 その言葉を聞いたアレスは冷めた口調で言い放つ。


「そうか。なら頑張れ」


 ……は?


 まるで見捨てるようにも聞こえるその言葉にフェイは一瞬、戸惑いを見せる。

 それは魔獣たちが再び襲いかかってくるタイミングとほぼ同じだった。


「肩を怪我してても足は動くだろ」


 アレスがその言葉を告げた後、青いオーラが一層輝きを増し、範囲を広げて場を呑み込んだ。


「逃げるんだよ」


 眩い光が収束した時には、フェイが流していた血の痕跡しか残っていなかった。

 残された魔獣たちは獲物を逃した事実にプライドを傷つけられ、まるで宛のない恨みをぶつけるように遠吠えした。次は逃さないぞ。狂気に侵されながら僅かに残っていた理性で、そんな意思を持って。





 £





 フェイは夢を見ているような気分だった。


 雪に足を取られないよう走りながら、今は青いオーラを消した黒髪の少年の背中を追いかける。


 死んだと思った。あの時、自分は確かに立ち尽くすばかりで、次の瞬間には狼たちに押し潰されていたはずだった(・・・・・)


 だが、現実は違った。まるで狐に頬を摘まれたように、一面白の世界が、悪夢から目覚めたと錯覚するのに拍車をかける。


 青いオーラが膨張し、消えた後、フェイたちの前から狼が消えていたのだ。


 ――いや、違う


 自分は一歩も足を動かしていない。正確にその時の状況を説明するとすれば、自分たちが狼の前から消えたのだろう。


 そんな人間業でもない事をやってのけたのは、今自分の前を走る少年だ。

 あれが噂に聞く魔法というやつなのだろう。その原理は一切わからないが、いつか自分もあんな事が出来たらと強く憧れる。


 これは夢なんかじゃない。それは肩の傷で痛いほどよく理解していた。


 だから躊躇わずに、前に走る少年へ声をかけた。


「なぁ、お前って凄いやつなのか!」


 返事はない。


「名前はなんていうんだよ!」


 挫けず声を張るフェイ。まるで新しい友達ができたと喜ぶように声が弾んでいたが、振りむいてきた顔を見て青褪めた。


「黙ってろ、そんなに死にたいなら置いてくぞ」


 子供らしさのない理知的な目は、鋭く棘を持ってフェイを射抜く。言葉の端々からできる苛立ちを肌で感じて縮こまるフェイだったが、その顔がどこか病的な白さで疲れ果てているように見えた事に違和感を覚えた。


 ――コイツってこんなにしんどそうにしてたっけ?


 それは、普通なら気づかないぐらいの僅かな誤差だ。何故なら、先程からフェイの前を走るアレスは自分が弱っている事を知られる事を嫌う性質で、さも平気な顔で虚栄を張っている。


 気づいたのは単純にフェイがそういった機微に気づく才能があったからだが、アレスの疲れはいつもであれば気づかれなかっただろう許容範囲を超えていたのだ。


 先程の青いオーラは、剣を通してのモノだ。使ったのは、幻惑の魔法。まるで自分たちがそこにいるかのように見せ、気づかれるのを遅らせた。


 そしてそれだけでなく、狼から逃れる為に物理的に離れる必要があった為、幻惑の魔法を使用した直後、まるで青いオーラに紛れるようにして転移の魔法を使用した。


 距離によって使用される魔力が違ってくるが、ただでさえ発動する為に莫大な魔力を必要とする魔法だ。


 常人を遥かに超えて資質を持っていたアレスであっても、急激な魔力の使用に体が慣れず、消耗してるのが現状だった。


 だが、それは死ぬほどのことじゃない。


 むしろ、消耗を理由にここで立ち止まることこそが死に近づく。


 ――いまの時間はどれくらいだ?


 手持ちに時計はない。なら、手遅れにならない為に全力で走り抜ける他ない。


 アレスはより早く走り、フェイもその後を追って走る。意外にも付いてこれているのは良い意味で誤算だったが、全快だったら付いてこれるわけがないと内心で思うアレスは負けず嫌いだ。


 余裕がある、もう既に見えてきた結界の淡い光が近づくにつれて気が軽くなる。


 それを人は油断と呼ぶのだろう。


 外界へ向けて走っていたフェイが、当たり前のように雪に倒れる。


 あまりにも自然で、自然すぎる不自然さがアレスの思考を停止させた。


「は?」


 振り向いた先にいるのは、雪の上に倒れるフェイと、キキキッと不気味に嗤う大きな影。シルエットそのものが肉体であるかのような黒い体を持ち、弧を描いた真っ赤な口のようなものを大小させながら、フェイの周りを跳ねて回る。


 その正体に気付いた時には、もう遅かった。




 ――怪物の夜会ッ!


 そこら中から、影が生える。白い雪から頭を出す黒い悪魔は、やがて辺り一帯を埋め尽くすだろう数が見えた。


 深夜零時を過ぎてしまったのだ。

補足説明


○魔獣≠魔物


魔獣は野生の動物が魔力に狂い変身したもの。

魔物は魔石を核にした、殆どが深夜0時から3時までの間を活動する個体。



○怪物の夜会


深夜零時を超えて、魔物たちが目覚め始めること。



設定資料


○フェイ……赤髪の少年。アレスと同じ年(9)。《紅蓮の瞳》の肩書きを持つギルドマスターを父に持つ。主人公みたいなやつ。というかRPGの世界では主人公。なまじ大人と剣を交えることができる才能を持ったが故に貰ったばかりの剣一つ握って調子に乗って森へ入ったら死にかける。それでもアレスに助け出される辺り主人公クオリティだが、一瞬にして再度ピンチに陥る。救ってもキリがない人間()。


○エンフィ……狼型の魔獣。集団で獲物を弱らせ、確実に仕留める。一撃では殺さない心優しさを持ったゲスのような連中。体長は二メートルほどで300キロを超える巨体。今回、フェイを狙ったのはまだ幼い個体の勉強のためで、肩の傷はフェイを弱らせる為に成体がやった。しかしアレスによってざまぁを食らい、激おこ。次会ったら絶対コロス。


○???……キキキッ、と愉快そうに嗤う黒い影のような魔物。神経逆撫でする笑い声に聞こえるが、雑魚ならばともかく人の身では普通は敵わないので恐怖でしかない。ニョキニョキ生えるように出てくるのは言ってみれば演出。キノコのように大繁殖☆。作者的に好きなやつ。





プロローグを4話のダイジェストにするといつだったか書きましたが、無理っぽそうなので諦めました。しかしこれはあくまでプロローグ。4話という縛りは無くしますがダイジェスト展開には変わりありませんので悪しからず。

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