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英雄の倅〜今度は絶対に闇落ちしないと誓う、邪神を身に宿した聖剣使い〜  作者: 厨二病
プロローグ『ラスボスルート/ダイジェスト』
2/8

魔境の夜、

ブクマ感想ありがとう。

元気出ました。頑張ります。


主人公登場です。

 雪が降り積もる。

 月明かりで照らされ天から落ちてくる綿雲のような雪だ。普通の子供であれば綺麗だと喜ぶべきなのだろう。孤児である黒髪の少年――アレスは、雪を降らす空を仰ぎながら、今夜は冷えるだろうことを心配していた。


「……アレス?」


 寝床から出て立ち尽くしているアレスの背後から、少女の声が届く。振り向くと、同じボロ小屋で眠る仲間の少女が年下の子供たちを抱えながら、難しそうな顔のアレスに怪訝そうにしている。


 夜は冷える。殊更、今日は冷え込むだろう。

 寄り添いあって暖を取っているが、隙間をボロ布で覆っただけの小屋では凍えを隠せないだろう。


「……ノエル、寝てなかったのか」


 見れば子供たちも、眠たそうな薄目を開けてアレスを見ていた。


「どこか行くの?」


 青髪をした少女――ノエルは不安そうに尋ねる。

 アレスは捨てられていた時計の針を見て、首を縦に振った。


「まだあいつらが起きる時間じゃない」


 あいつら、その言葉を聞いてノエルはより不安げにアレスを見つめるが、再び背を向けたアレスに声はかけなかった。


「すぐに戻る」


 そう言って出ていったアレスの背中を、やがて見えなくなるまで見送る。


「ありがとうね、アレス」


 ノエルはそっと、子供たちを抱きしめた。




 £




 アレスは小屋を離れて、一直線に森へ向かった。

 森には魔力を吸収しすぎて突然変異した特殊なきのみがたくさん生っている。

 その中にアレスが求めるきのみがあった。


 フレアの実と呼ばれるそれは、潰した時に極小ながらにも火花を散らす特性を持っている。味は辛く、香辛料として使われることが多いが、大量のフレアの実を一斉に潰すと、互いに引火して火種になる。

 粒にして100は必要になるが薪材は寝床の付近に腐るほどあるため、収集だけに専念すれば、そう難しいことでもない。


 問題は、きのみが生る場所である。


 王都郊外にある森は、定期的に国から派遣された騎士が入って、魔獣と呼ばれる化け物を駆逐している。

 けれどもアレスが足を踏み入れた森は中でも特殊で、文字通り、獣ではない異形の怪物、魔物が自然発生するのだ。おおよそ人の身では太刀打ちできない故に、森への入り口は柵によって封鎖され、高位神器を使用した結界で魔の存在を封じ込めている。


 だが、人の存在が踏み入ることはそう難しくはなかった。結界は人を通すし、柵も飛びこせばなんていうこともない。アレスの優れた身体能力をもってすれば、森に踏み入るのは楽でもある。


 しかしその後はと言えば、森を彷徨うろつく魔物たちを相手に人の身で立ち向かわなければならないのだ。


 時間を気にしていたのもその為だ。魔の存在は多くが夜行性で、それも深夜を過ぎたあたりから姿を見せ始める。


 残された時間はそう多くない。加えて、全ての魔物がいないというわけでもないので危険行為であることに変わりはないのだ。


 それでもアレスは足を踏み入れることに躊躇いはない。二メートルはあるだろう柵を慣れた様子で悠々と超え、薄く光る透明の膜のような結界をすり抜け、腰につけていた錆びた剣を手に森を駆ける。


 早く終わらせて帰ろう。


 そんな思いでフレアの実を探しながら、いつもと違う雪被りの森を改めて見る。

 これじゃ探しにくい。いくらきのみが密集しているからといって、その大きさは小指の爪先ほどである。見分けるとしたら赤の色だが、そうそう雪景色の中にその色は見つからない。


 最悪、深夜を超えた後の撤退か。

 アレスは細心の注意を払いながら忙しなく視線を動かし、目を光らせた。


 ――それからしばらくのことである。


 アレスの目に赤の鮮血が映った。





 £





「くっそ……剣聖め……これじゃまるで足りない。賢者の石が無ければ助かりようがないじゃないか」


 月明かりに照らされた白銀の髪は、雪にも勝る輝きを誇っている。

 その長い髪を苛立たしげに掻き毟る手は、ここにたどり着くまでに犠牲にした命の数だけ紅く濁っていた。


 見る限り青年の彼――大罪人のレッテルを貼られている男は、痛みなど等に消えているはずの胸を押さえて虚構の痛みに苦しむ。


 途中、殺した神官から剥ぎ取った服を破いて、その容態を空気に晒す。

 位置にして、丁度心臓部。そこにはぽっかりと空洞ができ、背中まで貫通している。


 本来なら死んで当然。まるで生きていることが不思議だが、彼は実際に死んでいた。


 より詳しく言えば、彼が死んだのは遥か昔だ。それこそ、大罪人が憎む剣聖が胸に空洞を開けたときにはすでに死んでいたのだ。


 ならなぜ生きているのかと言えば、彼が怪物であるからに他ならない。生前、死を拒んだ彼は禁忌を犯した。人に備わる魔力回路を使い、億年は生きると言われる神龍の核――賢者の石を体に埋め込むことによって死後自身の身体を傀儡とし、半永久機関を実現したのだ。


 しかし、不老不死の研究は当時から禁忌に値し、唯一の成功例となった彼は【大罪人】の名を馳せる。


 いつしか名前を無くして、悪を重ね続けていた。

 そして、新たな悪行を重ねるために大罪人はある地へ向かった。


 そこは、最も新しき伝説とされている一人の英雄が生まれた場所。


 二振りの聖剣に選ばれた規格外の人間が、世界を恐怖と混乱の渦に巻き込んだ魔王を討った。それだけでも偉業であったが、ただの魔族を王の座にまで押し上げた元凶である邪神をも命懸けで封印し、世界を救った。その功績により亡き後も語られ、そして祀り上げられている。


 ほんの3年前の出来事だが、その報せを耳にした時の震えは数千年を生きた大罪人も忘れることができなかった。


 ――封印を解けばより世界を絶望させることが出来る!


 

 聖剣を真の意味で扱えるのは選ばれた人間だけだ。だが、やりようはある。触れることは叶わずとも、ほんの少しの綻びさえ作れば封印は解けるはずだった。


 けれど、そこで待ち受けていたのが次代の英雄と名高い男、剣聖だ。


 予想はしていた。一度得た平和をみすみす逃すはずもない。多国籍の混成部隊が警備のため配置され、その一人一人が世界でも上から数えた方が断然早い実力者たち。封印の地に向かう抜け道はなく、不死の躰であることを武器に、正面から突破を試みた。


 大罪人は、予想よりも早く目的地に辿り着く。警備たちは実力者であるが、世界で五指に入る強者であると自覚している大罪人にとって、そんなことわけなかった。しかし、その前に立つ最後の砦――剣聖は、予想をはるかに超えて精強だった。


『罪人はとっとと捕まって牢屋に入ってろ、この野郎』


 手に握られるのは、確認されている五本の聖剣のうちの一つ。担い手に『破る』チカラを齎す、大凡片手剣とは思えない大剣デストロイヤー


 その剣は、大罪人が纏う防御壁を悠々と斬り破り、心臓部をめがけて突き出された。


 これにより、心臓の代わりに埋め込まれていた賢者の石が消滅して、劣勢を認めた大罪人は今すぐにでも酷い死を与えたい憎悪の感情を抑えて、撤退した。


 転移石と呼ばれるもので、特殊な魔石に彫刻をした魔道具を使い、他国の王都に逃げ落ちた。


 賢者の石を無くしたことは、大罪人にとって不覚だった。入手は困難でほぼ無理に等しい。長年にわたり馴染んだ動力源によって拡張された魔力回路からも、聖剣によってつけられた傷からチカラが抜けていくのを感じる。


 ――このままではいずれ消滅する。


 自身を操るチカラすら持てなくなってしまえば、それは即ち、死体に戻ることを意味している。

 動力源は既になくなり、身体を操るチカラは漏れ出ていく。


 なんとかチカラを維持しようと最低でも資質を持つだろう騎士たちの体内、魔力回路に触れて奪い尽くしているが、余りにも足りない。


 流石に10は殺して回ると騒ぎとなったので、無駄にチカラを消費することも躊躇って王都を出たが、アテもなしに彷徨えるだけだった。


 ――必要となるのはチカラだ。


 そのチカラは、魔の化け物が核とするエネルギーで、人には極小しか備わっていない。大罪人が求める基準を満たすのは、もはや自分を窮地に追いやった剣聖のような規格外の人間の類いしかいないだろう。


 両の手に血を滴らせながら雪道を歩く。


 そうこうして王都を出た大罪人は、遠くに僅かな輝きを見て賭けに出た。


「僕はまだ悪を為せてない」


 彼が目指すのは結界の張られてある魔境の地。

 人が敵わないと恐れ、閉じ込めた、弱肉強食の森であった。





前話補足


大罪人のハートキャッチ(物理)

  ↓

ドレインタッチ(魔力吸収)


HP設定は現実だからないけどMP概念はある。



裏設定


○人によってレベル限界が違う


メタるとレア度の差みたいな?

大罪人さんはSSR。レベルマックスなので、経験値は意味がないです。本人も薄々自覚してます。




プロローグが思った以上に長くなりそう……まぁ書きたいことをばーっと書くスタイルなんで許してください。


因みにアレスくん9才、ノエルちゃん10才、子供たち4〜6才です。過酷な世界を生きているので大人びています。許してやってください。

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