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居心地がいいなぁ。

一緒にいるとなんか癒される。

楽しいなぁ。


焼肉屋でも飲んで、風呂あがりにも飲んで。

酒に弱い方ではないと自分では思っていたけど、満腹だし、風呂あがりでさっぱりしてるし、部屋は涼しいし。

ここの所の寝不足と併さって、俺はテーブルに肘をついてウトウトとしていたらしい。


「米澤君?布団敷いたから。もう寝な?」

キミ、歯ブラシ持って来てないでしょ、明日の朝下で買ってくるから。

ういー、だか、ふいー、だかと返事をして、ここね、と指定された場所に寝転ぶと、すぐに意識が薄れていく。

うわ、シーツが少しひんやりしてる。布団気持ちいい……。

俺が覚えているのはここまでだ。



何かが眩しい。

瞑った目の端に、何度も何度もキラッとした光を感じる。

瞼越しですら気になるのだから、かなり光っているのだろう。

じわりじわりと意識が覚醒してくると、ぶつぶつと呟きも聞こえて来た。

「……一人分なのに、かなりの生体エネルギーが確保出来た。

米澤君は逸材だったわー」

「今までエアコン使ってないからかな」

「全体でみると、今年はかなりの数値が期待出来そう。昇進できるかなー」

ムフフ、とちょっと不気味な笑い声が聞こえて、目が覚めた。

この声は……、


「……千田しゃん……?」


ぼんやりと隣に見える人影が、ビクンと跳ねた。

キラキラと光る何かがたくさん浮かんでいて、焦った顔で固まっている千田さん。


「なんでひゅか、このキラキラ……」


目が、上手く開かない、まだ眠い。


「米澤君、夢。これは夢」


……夢?

夢かぁー。

何処からが夢なんだろうなぁ。

やっぱり千田さんちにお泊まりの辺りからかな。

もしかしたら、定食屋の前でばったり会った所から?

それはそれでさみしいなぁ~。

楽しかったんだけどなぁ~。


「……いい、夢です、ね」


枕に頭を預けて目を閉じると、また抗えない眠りに落ちて行く。

今日は暑くなくていいなぁ。気持ちいい。



「……あっぶなかったー」


再び眠りに落ちた俺の横で、千田さんが小声で呟き、またぶつぶつと言い出していたのだが、もう聞こえなかった。



目が覚めた瞬間、自分が何処にいるのかわからなかった。


見知らぬ部屋に、見知らぬ布団。

そして、なんだか美味そうな匂いがする。

味噌汁だろうか。


ボーッとする頭で、いつものように携帯で時間を確認しようとするが何処に置いたのか記憶にない。

布団に入る時はソシャゲをする為に必ず持ち込んでいるのだが……。

目覚まし……、いや今日は休みだ。アラームは鳴らない。


あれ?全部夢なんじゃなかったっけ?

どこからどこまでが夢なんだ?

夢じゃない?


「……夢じゃない?」


「起きた?おはよーさん」


「あ、おはようございます」


こりゃ夢じゃないわ。

ここ千田さんちだ。朝からエアコン効いてるもん。

めちゃめちゃ快適。


「大丈夫だった?エアコンつけて寝ると怠くなる人もいるけど」


言われて首を回しながら自分の体調を気にしてみるが、


「いえ、むしろぐっすり眠れたのでかなり身体が楽です。

家だと寝起きから暑いし、寝汗が凄かったのでそれだけで不快で」


「うひぃ、まぁ夏ってそんな感じかも知れないけど、ちょっと今年は凄そうだね。眠れたんなら良かった」


昨日のキミ、顔色あんまり良くなかったから。目の下にクマも出来てたし。


顔洗ってきたら?

もうすぐ朝ご飯出来るし。

と勧められる。


「タオルは洗面台の下開けると入ってるから、どれでも使って。

歯ブラシ、そこに置いたからー」


な、なんだこのいたせり尽せりの空間は。

感動すら覚える。

……はっ。駄目だ!

散々昨日から世話になっているのに、俺何もしてないぞ。

急いで身支度を整え、


「千田さん、何か手伝える事ないですか」


と声をかけた時には、既にテーブルの上にはまさに日本の朝食、と言いたくなるような朝飯が並んでいた。

白いご飯と味噌汁。きゅうりの香の物に味海苔。

目玉焼きは卵2つで、これぞホントに目玉焼きって感じだ。


「旅館みたいです」


「大袈裟だなぁ」


真空パックに入った鮭の切り身を皿に移して電子レンジへ。


「朝から焼くの面倒で、下で焼き魚買ってきちゃった。卵も玉子焼き面倒で目玉焼きにしちゃったし」


笑顔で、お客さん来てるから、品数多めにみせてるだけで手抜き手抜き。

コンビニ便利だよね、と準備している千田さんの姿が眩しく見える。

俺、昨日の朝は、夕飯で余った素麺を冷蔵庫から出して、ブチブチちぎれる素麺食ってた。


「一人暮らしはじめてから、こんなに立派な朝食食べた事ないです……」


「あはは、まあ普段はあたしもパンとコーヒーとかだよ。

一人だと作る気にならないよね」


鮭の皿をテーブルに乗せたり、テキパキと動く千田さん。


「あ、ちょっと待ってて」


窓を開けた先にベランダが見えた。

ベランダに出て行った千田さんが、顔だけでこちらを覗きこんで俺を呼ぶ。


「米澤くーん、ちょっと来て来て!」


「はい、なんですかー」


窓から外を見ると、トマトが伸びていた。

結構立派で驚いた。


「昨日言ってたトマトですか」


「そうそう!ほら!今日は2つ赤くなってるよ、米澤君はどっちがいい?」


笑顔で聞いてくる千田さんが眩しい。

うう、さっきからいちいち千田さんが眩しいぞ。

なんだこれは。

……本当は、なんでかなんてわかってるけど。

急すぎて、まだ色々と気持ちが追いついてないけど。


「千田さんが育てたんだから、千田さんが選んで下さいよ」


「え~、迷うから言ったのに。

こっちの苗とそっちの苗、種類違うトマトなんだ」


「そうなんですか?」


「結構味も違うんだよ。そうだ。ちょうど左右に1つづつなってるから、半分こして食べ比べしてみよう。

そっちの右上になってる赤いの、そう、それ。それ取って」


千田さんより俺の方が背が高いので、自然と高い位置のトマトを俺がもぎ取り、千田さんは別な実をもいだ。


ほら、ご飯冷めちゃうから早く食べよ食べよ、とトマトを両手に嬉しそうにキッチンに戻って行く後ろ姿がどうしようもなく可愛く見える。

そう、可愛く見える。

は~。だから、急なんだって本当に色々と!


朝食はホッとする味だった。

味噌汁が実家の母さんのより美味かった。


「トマト、冷えてないけど美味しくない?」


「めっちゃ美味いです。取ってすぐに食べたのはじめてなんですけど、新鮮だとこんな味するんですね。トマトの匂いも強い」


「そうそう。これハマるでしょー。スーパーのとはちょっと違うよね」


昨日食べた冷えたトマトも美味かったが、取りたてはまた違う美味さだった。ちょっと感動した。

食べ比べも、こっちは甘い、こっちはトマトと言ったらこの味を想像する、皮にハリがあっていい、などと言いながら食べた。どちらも美味しかった。


そういえば、なんだか変な夢を見たような気がしたのだが、千田さんの朝食に感動している間にそれもすっかり忘れてしまった。

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